ヒトとして生まれて・1105

005 奈良からは特急「ひのとり(朱色の列車)」に乗車

 紅葉ツアー最終日(4日目)は、バスで奈良の「薬師寺」まで一気
に向かった。世界遺産となっている薬師寺の東塔・西塔では特別公開
を行なっていて「釈迦八相像」を展示、お釈迦様の入胎・受生・受楽・
苦行・成道・転法輪・涅槃・分舎利として、八つの場面が八つのお姿
を介して明快に描かれていて圧巻であった。

 分かりやすく説明すれば、東塔にはお釈迦様が釈迦国の王子として
生れながらも、出家して悟りに至る前半生(因相)が、西塔には悟り
の後半生(果相)が表現されているのだが、お釈迦様の大いなる苦悩
をも知ることになり、その後の悟りの宇宙観に引き込まれて行く過程
を説得力に充ちた誰もが眼を見開くことになる展開で紹介している

 その後、バスは春日大社に向かったが、春日大社の駐車場でツアー
客は二つのチームに分かれて行動した。全体的に約8割のツアー客は
春日大社の本殿に向かって歩を進めたが、せっかく、奈良に来たので
奈良の大仏を拝観したいと云う勇者が、早足で大仏殿に向かった。

 バスが春日大社の駐車場に近づいた頃に、奈良の大仏殿を拝観した
い人たちは、先ずは、大仏殿を拝観して、春日大社本殿に引き返せば
時間的には目一杯だが充分に間に合うと云うガイダンスをいただいて
いたので、少人数であったがチームワーク良く、速歩に近い歩き方で
奈良の大仏殿に行き着いた。途中で鹿たちにも「よし・よし」と声を
かけながら一気に歩を進めた。

 仰ぎ見る奈良の大仏を拝観しながら、来観して良かったという思い
を強くしながら、大仏様の周囲を一周して、家内は大仏殿の御朱印を
いただき、その足で、春日大社に向かった。

 春日大社に向かう道のりで、春日大社本殿の参拝を済ませこれから
奈良の大仏殿に向かうというツアー客に出会った。

 我々は春日大社本殿を参拝した後で脇道にそれて坂を下って行くと、
うどん店に辿り着き、店内に入ると間もなくしてツアー仲間がうどん
を食したいといって入店してきた。我々は先に名物と云われるうどん
を食べてバスに戻ると集合の定刻10分前であった。
(添乗員の遠藤さんの案内通りムダのないスケジュールであった)

 その後は、昔、女人高野と云われた「室生寺」を参拝、内陣の厨子
に安置された重要文化財「本尊 如意輪観音菩薩像」は榧の一木造り
で穏やかな作風、日本三如意輪の一つと称されているという。

 国宝の「釈迦如来立像」は平安時代初期を代表する一木造りで均整
のとれた堂々たるお姿であり、光背は華やかな彩色が用いられており、
真言宗の修行をする重要な道場の中心的な存在感となっている。

 本尊から感じ取れる穏やかな印象は、室生寺を包むような紅葉の姿
にも通じるものがあり、室生寺の紅葉を観賞して穏やかな気持ちにな
るのは、本尊の存在感から来るものなのかもしれない。

 本堂から一歩外に出ると国宝となっている五重塔の姿に圧倒される。
それでも屋外に建つ五重塔では国内最少の規模なのだという。近づい
てもっと仔細に見て観たいという気持ちになるが石段の傾斜はきつく
手摺もないので「最後の最期に石段から落ちても」と危惧して、石段
の下から総高16メートルの国宝を観賞した。

 こうして紅葉観賞ツアーは無事に全日程をこなして、特急ひのとり
の乗車に向けて津駅に向かった。特急ひのとりは漫画家手塚治虫から
名前をもらった列車で車両は朱色に塗られた印象的なものであった。

 津駅に到着すると、近鉄から新幹線に乗り換えて、もてあますほど
の待ち時間をいただいて東京駅に向かった。夕飯は好物の「鰻弁当」
を家内が用意してくれて帰宅まで疲労感もなく帰ることが出来た。
(ちなみに家内は好物の海鮮弁当であった)

 夏旅の青森の時にも、帰路の弁当は、鰻弁当だったので、どうやら
帰りの新幹線は鰻弁当で定着しそうだが、飛行機の便だと弁当の種類
も限られていて、最近は新幹線の旅のほうが気に入ってきている。

 かつては飛行便が大好きの印象があって、これも長年(40年近く)
航空マンとして航空機用のジェットエンジンに携わり航空マンとして
の誇りの様なものもあって「飛行機の離陸・着陸の快感がたまらない」
などといって意気がっていた感があるが、最近、八十路の旅を重ねる
に当たっては、新幹線のゆったり感が気に入ってきている。

 新幹線の旅は、朝の出発が早いケースが多く、家を出発する時間も
当然、早いので抵抗感があったが、西武鉄道においては始発も5時台
から在り、一時、4時半や5時起すれば済むことと云う気持ちに変わ
りつつあり、八十路の旅は「朝は手早く・昼はゆっくリズム」にすれ
ば、新幹線こそ一番という気持ちに変わってきている。

(続 く)

ヒトとして生まれて・1105

ヒトとして生まれて・1105

奈良からは特急「ひのとり(朱色の列車)」に乗車

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-12-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted