ヒトとして生まれて・610

第6巻の続き

010   欧州(オランダ)からの帰国時の難問

 GE社リン事業所におけるツービーンオジサンの熱弁を思い出して
話題が人生百年時代の半分のところまで飛んでしまったが・・・

 心理学におけるユング博士は、人間の一生を、日の出から昼までを、
人生における午前中と位置付けて、昼から夜までの午後の時間を人生
の後半に例えている。

◯ 人生百年時代においては太陽が南中する昼の時間は人生50歳頃
 と云うことか?

◯ それだけに50歳の頃を終日で見て行けば、昼時の多様な物事が
 起死回生する時間帯だけに波乱万丈も起こり得るということか?

 さて、話題が30歳代から50歳代まで、一気に、飛んでしまった
ので話の展開を元に戻すことにしよう。

 欧米における管理工学(IE)の実情調査のための海外出張も終盤
となりドイツにおける実情調査を終わって、帰国ルートはオランダ発、
日本行きとなった。

 オランダ航空のカウンターで航空チケットを提示すると、たいへん
な事態が判明した。チケットがダブル・ブッキング(予約)と成って
いて、先客が搭乗手続きを済ませていた。
(帰国後の日程は過密であり、この便での帰国は必須であった)

 造修計画課長O氏の「なんとしても、この便に搭乗する必要がある」
という訴えにカウンター譲の対応は、最初、冷ややかであったがO氏
の強い口調に対してカウンターの主任が駆けつけて、なかば喧嘩腰で
迫るO氏の真剣な眼差しに対してカウンター内で調整が始まった。

「機体の後部座席となるが、搭乗員の席があるので2名分の席として
空けるが、そこでも良いか?」と聞いてきた。

「この飛行機に搭乗できるなら、どこでも良い」ということで搭乗の
手続きが行なわれて、帰国の手筈が整った。

 かつて、吉祥寺の英会話スクールの校長が「喧嘩出来るレベル」に
なったら英会話も卒業レベルと云っていたが「このことか」と、納得
座席に着いた時には、安堵で、思わず目を閉じた。

 離陸後にやがて何故か? 機内食と共に数の子が大量に提供された。
食事後はO氏は文献に目を通していた。私は少し疲れたこともあって、
軽く眼を閉じ、今回の欧米における旅程での食事のあれこれを思い出
していた。

 今回の旅程は過密で、前述した様に、2~3日で次の訪問先に移動
する日程であったために、その日の訪問記録を、その晩の内に書き留
める必要があり、睡眠時間を削って、その時間に当てた。

 また旅程が長丁場であったため、その睡眠不足を補うためには食事
をしっかりと摂って、エネルギー補給をしておく必要があり、これを
短時間で済ませるために、アメリカではビーフ・ステーキを主体的に
選択して摂る様にした。

 当時は、まだ若く休日にはテニスに精出していた時代でもあったの
で、体力維持のために、ビーフ・ステーキを好んで食べていた時代で
あり、アメリカにおける肉類摂取にも違和感はなかった。

 ただ、アメリカ各地で食したビーフ・ステーキも、その様は多様で
その「ビッグサイズに驚いたり」サイズは小さいものの「網模様」の
焼き方が美味であったり、お店ごとに特徴があった。

 朝食は、スクランブル・エッグにチーズを解け込ませたものやパン
(いわゆるブレッド)にアメリカンコーヒーや、オレンジジュース、
アメリカンコーヒは日本で呑む紅茶に近く薄口で呑み易かった。

 なんといっても西海岸では、カルフォニアのオレンジジュースは、
目が覚める様な美味しさで、今日も元気で頑張るぞと思えるような
印象だった。

 対して東海岸では、ワシントンのレストランで食した牡蠣が美味
であった。そしてワシントンから飛び立ったイギリスの食事は総じ
て美味しくなかった印象があったが、時間をかけて探せば美味しい
ところもあるとは考えるが旅程から云って、その余裕はなかった。

 フランスには、航空管制官のストライキで行くことが出来なくて、
代替案としてスイスに行ったが、日程的に寛ぐまでの時間はなくて
登山電車に乗るまでの時間は取れないために、地下街に、大き目な
レストランを開店しているところを地図で見付けて、地下に向けた
階段を降りて行くと、階段の途中で「日本からのお客様」が見えま
したというアナウンスがあって少し驚いた。

 地下への入り口で、レストランの係員が会釈をしていたので彼か
らの伝言が場内の係に伝わるシステムになっていたようだ。

 テーブルに着くとアコーデオン奏者が「さくらさくら・・・」の
曲を引き始めて、注文係がお薦めのメニューを提示してきた。

 珍しいエスカルゴ(蝸牛)の料理が美味なのだと云う、お薦めに
合わせていくつかの料理を注文、エスカルゴは美味で初めての試食
であったが想い出話には善きお薦めであった。

 ドイツでは航空エンジンメーカーの視察後は欧州一帯の現地業務
をこなしている駐在員の方と合流して夕食はビヤホールを体験した。
生ビールのジョッキは呑めない下戸の私でも美味しいと思った。

 若い女性がビールのお代わりの注文に来るのだが、他のメンバー
は美味しいビールなので、追加注文、私はこの後のレポート書きに
支障が出ると困るので ”No thank-you" と答えると、親切に
テーブル周りを片付けてくれたので思わず”thank-you”と言葉を
返してしまったため、お代わりのビールが運ばれてきた。
(ドイツ語圏内における拙い英会話の失敗例だ)

 そして、レストランを出たところで、O氏と私の前に、地図を
広げた二人の女性が立ち塞がり、地図上に指を差しながら、なに
やら話かけてきた。

 後ろから駐在員の方が二人の背中を叩くので振り向くと・・・

 二人の女性は、いわゆる、高級コールガールなので、相手に
しない様にと云われて、難を逃れた。
 
 そして、翌日の昼食は、ドイツには珍しい、本場インドの
極上カレーという看板を見つけて、極めて辛口でこれも有料
の水を飲み干して、あまりの辛さにO氏と大笑いした。

 オランダから日本に向かう機内の座席は、狭苦しかったが
そんな思い出を脳内で反芻している内に眠りについた。

 その後、家内と出掛けたニュージランドの旅程では、北半球
に住んでいる私が南半球に出掛けて体内の血流がリフレッシュ
されたような印象を持つに到ったが、この欧米の旅ではその様
な印象はなかった。

 ただし欧州での管理工学(IE)の実情調査の旅を経験した
後は、社内の生産性向上運動においても、渋谷の異業種交流会
においても、自分でも驚くほどよく喋るようになった。
(吉祥寺の英会話スクールにおける副次効果か?)

(続 く)

ヒトとして生まれて・610

ヒトとして生まれて・610

第6巻の続き

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-09-09

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted