フリーズ28 散文詩『天より再び』

フリーズ28 散文詩『天より再び』

天より再び abermals vom Himmel

 天より再び陽が差して、四季雷風雨は遠退きて、雲間が満ちる空の色、あなたが見たのはここですか?

 さて、天界に住まう天上楽園の乙女は、地上に生まれし賢帝の性に帰すべく、その身を海底に投げ売ったのです。愚かなことです。そして、その行いはとても人間的でした。天女の羽衣も、散り行く花の如くニヒリズムの逆光を総身に受けながら燃え尽き、せめて悟りの安らぎを求めたソフィアは、連綿たる輪廻の為せる秘技、人の愛たる証でした。許すこと叶うならば、揺らがないその証明を以って、約束の地を焼き払わん。

 天より再び雨が降る。雨は憂鬱か、また降る雨が咲かす花。夢と知っての戯言も、愛憎の中で降り積もる。永遠に続くと願った愛も、与えた愛も、求めた愛も。全ては今とここにあり、それを時空で規定したのは、我らが背きし者たちだった。
「許せ、さもなくば、ここより先は」
 似もせずに、流離う厭離の求道者らは、それでも真理を求めてやまない。そんなに欲しいか、この刹那、そんなに欲しいか、この真理。

 天より再び火が落ちる。流星流転の標識は、千年の時の揺り返し。失われた楽園も、潰えた人類、今際の日、私はここで立っている。愛し愛され生きていく。それでも、あなたはいつもそう。いつもそちらで笑ってる。

 天より再び飛び降りた。摩天楼の海底へ。死にたかったか、生きたかったか。もう分からないが、涅槃の死。何もかもを失って、全ての今は消え去って、残ったものは無くたって。これが私の未来だよ。

 人生は終末の狭間で存在し、きっと最後の時には一緒に高らかに歌っていたはずさ。

 天より再び地に降りて、人間世界で生きていく。それでも世界は美しい。優しい光が痛くても、いずれ和らぐ火の季節。疚しさ引き摺る祈りの先で、僕らの愛が明日を彩り、願った色、叶った愛、全てを映す水面を見つめて、天より再び帰る時。

 天より再び目が覚めて、神が泣いたよ、終わりの日。

 Shöner als Juweln
 Blumen im Elysion
 Heilen mich
 Schöne Natur
 abermals vom Himmel

(それは宝石より美しい、天上楽園の花。美しき自然は、天より再び咲いて、私を癒やしてくれる)

迷信曰はく Aberglaube sagt

 ファウストは、いない。
 ドンジョバンニも、いない。

 迷信それって勘違い。
 だが、ここで或る革新的な迷信を一つ紹介しよう。

 死者が、または臨死体験者が訪れるとされる町には大きな図書館がある。その名はバベルの図書館。エデンの園を前庭とするその図書館には過去・未来全ての本が蔵書されている。ここで、世界最後に書かれたという散文詩をご紹介しよう。


『フィニスの刻に命は還る』
 〇.全能から眠る火
 日に日に世界が終わりゆく夜。その様は圧巻で、夢の街で君を想うように瞬く間に世界は変わり果てる。この孤独も蒙昧も、全てはこの今際に意味を持つのだ。ふたつの因果律が交差するに合わせて、鈍る皮膚感覚も、消えゆく灯でさえ、我らの心が確かめた。思い違いのように、咲く薔薇を言うのだ。
 錯綜する心根、意味はなくとも、明日の足音に現実を書き換えてしまう日も、今をかき消せ、そして始まるのだ、羽ばたくのだ。炎天下にニブルヘイムへ遊泳する乙女のように、水に流れゆくシ=死のように、ただ、生まれた意味も、私の弱さも、日々の中で薄れ淀み、そう、何度も消えては強く光った。
 開く世界、解ける夢、終わりと始まり。柔いこの痛みさえ、私は抱いて眠ります。
 ゜〇
 レーラインは永劫瑠璃色万廻音、諸行無常の古の、神門を見据えて嗚呼眠る。
 眠りませ、悟りませ。
 .◎゜。


 Alles gut, alles ungeeignet
 In der Zeit, die aus der Antike fließt
 die Straße der Rosen
 den Weg des Lebens gehen
(全ての優れた者、全てのそぐわなかった者でさえ、太古より流れる時の中で、薔薇の道を、人生の道を歩くのだ)



 遠い記憶に寄りては、神と呼ばれる者が私達の頭上を通りかかった。私達はヴァルナに己の主な罪を尋ねた年老いた水夫のような謙遜で彼の者に尋ねた。

「私達の人生はどこに向かっているのですか?」

 死だと思っていた。だが、神はこう答えた。

「人と神とは歩く道が違う。だがな――」

 その答えは、生まれる時、目覚める頃にはすっかり忘れてしまった。きっと、生きていけなくなるからか。まだ知る時ではないのかもしれない。

 Suchen Sie, auch wenn es keine Bedeutung gibt
 Ich möchte sie für immer finden
(意味はなくとも、彼女を探す。私はずっと彼女を探していたいんだ)



『Aberglaube sagt』(迷信曰く)

 Das Leben hat keinen Sinn
(人生に意味はない)
 nichts, wenn man tot ist
(死んだら無に帰す)
 Aber in den Tiefen des Todes leuchtet das Leben
(だが、死の底でこそ命は光り輝く)


 今は光が痛くても
 いつかは慣れて、愛せたら。
 過去も未来も愛せたら。
 全ての今を愛せたら。
 きっと世界は美しい。

 迷信曰く、その先に、光で満ちた園がある。
 人生の先、死の向こう
 僕は私は信じたい
 生きる理由を信じたい
 愛する気持ちを信じたい
 生まれた意味を信じたい

 迷信曰く、
『人の最も偉大な秘儀は信ずる力』
 と遠く賢者が語ったそうな。

イデアの境界線 Abgrenzung der Idee

 命の波が打ち寄せられた
 世界を別かつ事象の河に相対し
 一人の少年と少女が立っていた

 dieses Ufer und das andere Ufer
 Die Silberwelt, die angeschwemmt wurde
 Die Wellen des Lebens hörten auf
(此岸と彼岸、打ち寄せられた銀世界。命の波が和らいだ)

 嗚呼、愛なるEを迎えに行こうか。僕らが出逢った日にこの裁きを受けようぞ。だが、言葉を秘する想いもいつかは、揺蕩うように水に流れて、流れ流れて死にゆくのだろう。

 全知全能の標識として、七色を象る花柄のクリスタルは、時流を対峙させ、映す。その光は、人生の美妙な謎そのものであった。

 少年は少女のもとへと橋を架ける。渡し船は年老いた水夫。夢叶う時、審判の時。宿命を転遷させよ、似もせずに。だからと悟るのも、眠るのも、愚かであろうな、この言葉。

 ジ・エンド。ロストキャンバスには描かれなかった唯一の民らは、この世の果てに居を構え、楽園輪廻に一人の男が、自らを水と空の縁理に触れる愛を為す。

 小さき者よ、愛を為せ。
 さもなくば意味ない人生だ。

 理由などない人生だ。
 だから生きるのだ。

 晴れたのはある春の昼下り。
 緩やかな生命の営みの中で、わたしたちは君たちの夢に溶け込むのを心より喜んでいる。
 この光景だ、この世界だ。
 私は今、生まれてきたことを心より喜んでいる。

終末世界フリージア Abend der Welt

 日暮れ時に、支配された因果らが集いで、冥土の地を踏み鳴らす造花らは、世界の行く末の中で流転の灯火かはまだわからないけど、それでも強く咲き誇る。僕らはどうせ、いつかは死ぬ命だけど、それでも前を向いて生きるのを止められず、求めてやまない性なのだ。

 咲いたよ、咲いた。昨日に咲いたし、明日はなくても、僕は皆の未来や過去を背負って今を生きる。定めと罪はもうなくても。原罪は遠くで独りよがりに、だからと悟るのも病めるのも、もうやめようよ。

 この宵は、晩餐会に、せめて終末と知って。
 妄想に近いのかもしれない自分で自分を愛せたら。

 病めるときも健やかなるときも、全知のときも全能のときも、終末で泣く日も神が目覚める日も、この全ての意味を抱いて凪いだ渚のように眠る君も。愛しい世界を凍らせた。

 die Welt einfrieren
 Zeitstopp
 Bis eines Tages,
 das Feuer des Lebens schmilzt

(世界よ、凍れ。時よ、止まれ。命の火が解かすその日まで)

 生きろ、病んでも、痛くても。
 どうせ拾った命、捨てた命。ニヒリズムに墜ちても、地獄にいても、踏み出す一歩を笑うなよ。いつかまた、必ず歩き出す心なのだから。本当の声は、求めてる愛も、探してる真理も、欲する意味でさえ、高らかに歌うように、君を、君さえも、愛せたらいいのにな。

 Bis zu dem Tag,
 an dem Gott den Tod trennt
(神が死を別かつその日まで)

 だから僕らは今日を行く。

人生という冒険 das Abenteuer des Lebens

覚醒は全能への目覚めとなり、
眠らずに越えた幾夜を想っては
嗚呼、この世界よ凍ってしまえ

知らないのだな、悟りの火
悟って抱いた真理の意

悟って歩んだ涅槃路は
天上楽園、夢の園
門に繋がる薔薇の道

生まれた日々は遠くても
終末の色に眩んでも
凪の音が導いてくれる

穏やかな渚、晴れ渡る空
緩やかな時の流れの中で
時流はなくても
僕はここにいて
神は僕で
世界は僕の中にあり
全ては神と解脱の日

門前に立つ。
その門此岸と彼岸のシ
ラカン・フリーズの水門は
死者を誘う虚空の先へ

死して解脱の真理なら
生まれ消え行く定めなら
リタに花が咲き散って
枯れゆく想いも夢なのか

涅槃寂静の夢を見た
絢爛シ天の花々が
咲き誇る地に泣いていた
天上楽園の乙女らは
優れた言葉を教えてくれた

「ありがとう。愛しています」

全ては僕と知って
世界は完全なる一だと知って
独りぼっちの神様は
それでも、他を求めた世界は
二人目を探す旅に出た
そうして世界が生まれたんだ

人生は冒険
真理はあるけど
生まれた意味はまだわからないから

大航海の先に何もなくても
僕は探し続けたい
だから僕は今日を行く
だから僕は歩くんだ

einen Ausflug machen
was jenseits des Abenteuers liegt
kann nichts sein
Nichtsdestotrotz
Ich möchte weiter suchen

(旅に出る。冒険の先に何があるか、何もないかもしれない。それでも、僕は探し続けたい)

フリーズ28 散文詩『天より再び』

  1. 天より再び abermals vom Himmel
  2. 迷信曰はく Aberglaube sagt
  3. イデアの境界線 Abgrenzung der Idee
  4. 終末世界フリージア Abend der Welt
  5. 人生という冒険 das Abenteuer des Lebens