騎士物語 第十一話 ~神の国~ 第十章 混乱のたいどうごと

第十一話の十章です。
戦いが終わった後の各陣営の様子、そしてロイドくんたちの冬休みの裏で始まろうとしている戦いの発端です。

第十章 混乱のたいどうごと

 アタエルカでの騒ぎの次の日の朝。ベッドに転がると同時に寝ちゃったらしいあたしは変な体勢のせいでついた変な寝ぐせを直してるとパッと風景が変わってカーミラがアタエルカの事を説明した部屋に移動してた。
「む? これは一体……」
 同じようにいきなり移動させられたらしい他の面々――ローゼル、リリー、ティアナ、アンジュもついさっき起きたばっかりって顔と服装できょとんとしてる。
「皆さん、おはようございます。」
 学校の教室に似たその部屋の教卓みたいなところに立ってそう言ったのはカーミラ。まぁ、こんな位置魔法のルールを全部無視するようなマネができるのはこの女王だけでしょうけど……珍しくロイドがいな――
「先にお伝えしますが、昨晩ワタクシはロイド様に熱く、愛していただきました。」
 ――ってはぁああ!?
「なにっ!? 何という事だ、戦闘で疲労していた隙に――おのれカーミラくん!」
 真っ先に怒るのはあたしであるべきなのにローゼルが――いえ、それよりもまずはこいつが……この変態女王がロイドとド、ドドド、ドコマデしし、しちゃったかってことを……!!
「進展としてはここにいる皆さんと同じです。ロイド様は押しに弱いところがありますが最後の一線に対する意思はまさに鋼――残念に思いつつもさすがロイド様とワタクシは嬉しく思いました。」
 ……なんか変だわ……こ、こいつの言った通りにロイドが……この女王をオ、オソった――として、そそ、その場合この女王ならろれつが回らないレベルで溶けそうなのに、ソウイウコト――をした次の日とは思えないくらいに真面目な雰囲気でそれを説明してる……
「あー、ついにロイドも六人目ってことかー。やらしーことこの上ないけど、女王様はなんだか嬉しそーに見えない感じだねー?」
 あたしが感じた事は全員思ったみたいで、ムカツクのろけ話を聞く態勢だったあたしたちはカーミラと同じようにちょっと真面目な顔になる。
「皆さんのご理解が早くて助かります。昨晩の一部始終については後ほどロイド様も交えてたっぷりとお話するつもりですが、先に一つの事実を共通認識とする事が優先であると判断しました。」
「ほう? ロイドくんとのあれこれは当然聞かせてもらうとして、ロイドくんに夢中なわたしたちを渦中であるロイドくん抜きで集めたというのは気になるところだな。」
「ロイド様ご自身に自覚させてしまうのは少しマズイのです。皆さんは……ロイド様が初めての相手という事で良いのですよね? 恋慕も接触も。」
 いきなりトンデモナイ事を聞いてきたカーミラだったけどその表情にふざけたところは一切なくて……あたしたちはそれぞれに小さく頷いた。
「きっとロイド様との幸せな時間を過ごされた時に驚かれたことでしょう。愛し合うという行為はこんなにも素晴らしいモノなのかと。」
 スバラ――ほ、ほんとにこいつは恥ずかしげもなく……!
「そりゃもーロイくんとだもん! ロイくん以外は知らないし知るつもりないけど、ロイくんてばすごく上手だったし――やん!」
「あー、あたしにはちょっと刺激が強すぎたけどねー……でもまー、悪い気分にはなんなかったし……でもロイドのあれって確か女王様の仕業なんでしょー?」
 ロイドがあ、ああいうのがジョウズ――な、なのはこの変態女王のせい……吸血鬼が人間の血を吸う為……いえ、美味しく飲む為に磨いてきた色んな技術っていうのがあって、それはサキュバスみたいな淫魔と同等の技で、カーミラはそのや、やらしー技術をロイドから自分にしてもらいたいって思って、小さい頃にロイドの身体にその技術の全てを覚えさせたのよね……
「そうです。故に事実としてロイド様の愛する技術は達人の域、赤の他人を篭絡する事もできると以前お話しましたが……ワタクシの認識が甘いモノだったと昨晩知ったのです。」
「え、えっとそれは……ロ、ロイドくんのえ、えっちな技が……予想以上にす、すごい……ってこと……?」
 割とストレートに聞いたティアナに対し、カーミラは大真面目な顔でこう言った。

「正直言って、尋常ではありません。」

 何について話してるのかって事を考えるとギャグみたいな答えなんだけど、カーミラはわなわなと震えだす。
「元々が吸血鬼の技術ですのでその本領が発揮されるのは愛しい相手にのみですが、こちらの反応や声色の変化から触れて欲しい箇所、今触れられたらいけない場所、その全てを瞬時に判断し、感情に合わせて最適な行為へと進んでいき、長い歴史で培われた先祖たちの技にロイド様のお優しくも少しだけ意地悪なお心が重なって繰り出される御業……赤の他人相手では全力に至らずともあれの十分の一でも受けてしまったらロイド様の虜になるのは必至……愛が無い分性的欲求のみを求めてロイド様に近づく、言うなれば麻薬のような中毒を与えてしまう事でしょう。」
「中毒とはこれまた恐ろしい単語が出てきたが……うむ、納得できてしまうのも確かだな。ロイドくんのあれは……す、すごいからな……!」
 バカみたいな会話してる気がするけど、そういうや、やらしー技術……に関しては種族的にプロ――みたいな感じになってる吸血鬼のカーミラが言うんだから相当なモノなんでしょうね……あれが……そんなに……
「ですから注意しなくてはなりません。ここにはロイド様を愛する者しかいませんが、この先ロイド様が立派な騎士としてその名をはせて行けば面白半分の女も出てくることでしょう。そしてうっかりロイド様の御業を受けてしまったなら、その者は一生ロイド様から離れなくなってしまいます。基本的にロイド様は愛情を抱いていない者が相手の場合は鼻血をふいて倒れますが、今後どういう状況に陥るかわかりません。ワタクシも警戒しますが皆さんもそういう輩の接近にはどうかお気をつけて。」
「ふん、これ以上ロイくんに他の女なんて近づけさせないもんね。というかそのロイくんは!? まだ寝てるならボクが起こしに行って昨日の夜の事を上書きしなきゃ!」
「上書き――って何する気よあんた……!」
「塗り潰される程度のモノでおさまっていないので問題ありませんが、ロイド様は今寝ているというよりは気絶なされています。」
「き、気絶? そ、それはなんだ、気絶するほどの……ハ、ハレンチをしたというのか……!?」
「むしろロイド様からワタクシへとても――ああいえ、これは後でゆっくり話すとしまして、ロイド様が気絶されたのはついさっきです。その……少々お見苦しいところを見せてしまいまして……」
 そう言って真面目な顔でバカみたいな話をしてたカーミラの顔が今更恥ずかしそうなモノになる……
「ロイド様との夜、ワタクシも抑えが効かなくなりましてね……ロイド様にお願いして血を飲ませていただいたのですが少々吸い過ぎてしまった上に口から溢れ出てしまう不作法……軽い貧血状態で目を覚まされたロイド様は血まみれのワタクシを見て気を失ってしまったのです。」
 この変態女王が「お見苦しい」とか言うからどんな……アレコレなのかと思ったら予想外の理由でちょっと拍子抜け――い、いえ、それでいいのよ……!


 カーミラから変な忠告……いえ、かなり重要な話を聞かされた後、部屋に戻してもらって着替えたあたしたちは朝飯の席に集まった。アレキサンダーに担がれて連れてこられたカラードはいつもの事として、ちょっとふらふらしてるロイドはカーミラの顔を見るや否や青くなったり赤くなったりして……とりあえずあたし――と他の面々が一回ボコボコにした。ちなみに妹のパムはそれを止めるかと思ったけど、一緒になってボコってたわね……

「ロイド様との夜を事細かに自慢したいところですが、先に残っている事を終わらせてしまいましょう。」

 そして朝飯を食べた後、カーミラがそう言って空間に「闇」の穴をあけた。
 残ってる事っていうのはつまり、あの大きな聖騎士にロイドの故郷――パタタ村について聞くっていう事。ロイドとパムが生き別れになった事件……賊に襲われて村は壊滅したって事になってるんだけど、その時の記憶がロイドとパムとで結構違う。カーミラでさえ何が起きたのかを調べ切れなかったっていう、ちょっと変な状況の中に登場したのが何かを知ってるらしいあの大きな聖騎士。
 ベルナークの最後の代が暮らした場所だし、ロイドたちの村が何か特殊な場所だったとしても不思議じゃない……当時何が起きたのか、ロイド――の為にも、何かわかるといいわね……


「毎度毎度、急に現れるのだな、お前たちは。タイミングとしては丁度良いが。」
 カーミラの「闇」を通った先には目当ての大きな聖騎士がいて、いきなり現れたあたしたちだけどそいつは特に驚きもしないでそう言った。
 ちょっと大きめの部屋……応接室って感じのその部屋の一番奥に置いてあるテーブルで何故か甲冑姿のまんまで書類を整理してたらしい大きな聖騎士は、あたしたちに部屋の真ん中にあるソファを勧めた。
「教皇様は他の地区の統率者たちと今後についての話し合いをしており、他の聖騎士たちは《オウガスト》が《ディセンバ》を連れてくるのを待ちながら復興作業をしている。一人残った自分は副隊長として事務的な処理をしていたわけだが、そろそろ休憩を挟もうかと思っていた頃合いだ。少し待て、紅茶を淹れよう。」
「結構です。昨夜の余韻を楽しみたいので聞きたい事を聞いたら帰ります。」
 カーミラの言葉にボンッて顔を赤くするロイド……
「余韻? まぁそちらがそう言うのであれば早々に話をしてしまおう。一日もらったおかげで頭の整理もできているからな。」
「頭の整理……どうにも言い方からして精神的に落ち着くという意味合いではなさそうですね。パタタ村に関係が?」
「ああ……先に言っておくが自分が話す内容は百パーセント「事実」とは限らず、かといって全てが「嘘」でもない。そういう前提で聞いて欲しい。」
「? どういう意味ですか。」
「そのままの意味だ。」
 わけのわからない事を前置きした大きな聖騎士は、やっぱり甲冑を着たまま話し始めた。



 パタタ村……あれは特殊な村だ。観光できるようなモノはなく、旅人が通るような場所にもない、自給自足でまわっている小さな村なのだが、そこには権力を欲する者、強さを求める者、魔法を極めたい者など、「一般人」からは少し逸れた場所に立っている者たちがこぞって欲しがるようなモノがあった。
 それは一体何なのか……重要な点は忘れてしまったが、パタタ村の住人には特殊な力が宿っていた……そう、それは覚えている。その力ゆえにその時までは平和だったのだろうが……どういう運命の巡り合わせか、その日パタタ村にある何かを手に入れようと同じタイミングで三つ……いや四つか五つ……とにかく複数の勢力が同時にやってきた。

「ちょっと待ってください。何ですかさっきから、忘れただの何だの曖昧な表現ばかり。頭を整理したのでしょう?」
「まぁ、待ってくれ。その理由はここからだ。」

 その複数の勢力というのは、そこらの盗賊やケチな犯罪グループではない。どこかの国の軍、名のある騎士団、魔法の研究者チーム、大規模な裏組織……具体的な顔ぶれは忘れたが、そんな風に誰もが一目置くような勢力が揃い、それぞれがパタタ村の何かを欲しがり……結果、戦いが始まった。
 その勢力らは協力関係にない敵同士であるし、当然パタタ村の者たちも抵抗する。結果、その存在を知る者がほとんどいないような田舎の村に混乱極まる戦場が出来上がった。
 誰が誰を倒して誰がいつやられたのか、そんな事もまともに把握できないような戦闘が数時間……もしくは数日続き、その内にそれぞれの勢力の時間魔法の使い手に声がかかった。
 第十二系統の時間の魔法というのは強力な力だがそれ単体では攻撃手段とならないサポート向けの魔法。善にせよ悪にせよ、ある程度の勢力であれば後方支援としてその使い手を数人は抱えているモノ……パタタ村にいたかどうかはわからないが、その場に集まった全ての勢力に使い手がいたと思う。
 戦っている者を強くする為に時を進め、傷を治す為に時を戻し、相手の攻撃を防ぐ為に止める……戦場のあちこちで時間が進んでは戻るを繰り返した。
 そういう状況は別に珍しい事ではない。多くの国が争っていたその昔にはよくある光景だった。だがあの時は……そう、場所が良くなかったのだろう。パタタ村にある何かが反応……いや、暴走と言うべきなのか。ある瞬間にその場の誰もが予想していなかった事が起きた。
 それは村全体を対象とした時間の歪み。ある者が突然年老いたかと思えばその隣では赤ん坊へと戻され、家屋が風化したと思ったら新築になり、昼のはずが一歩進めば夜になる。最早空間すら正常ではない異常事態が起き、遂には魔法を使った者や受けた者の頭……記憶にも影響を及ぼし始めた。
 普通の時間魔法でも使い手によっては相手の記憶や思考の時間に干渉して混乱させる事ができる者はいるが、あの村で起きた歪みはそれの比ではない。敵の攻撃によって致命傷を負ったはずがその記憶と共に開戦前のピンピンした状態に戻され、ホッとした瞬間に四肢が壊死する先の記憶だけを頭に刻まれる。味方を援護しようと思ったら少年時代の思考に戻され、何故自分がそこにいるのか、どうして大人の身体なのかという恐怖に襲われると同時に初めて誰かの命を奪った時の記憶を思い出す。端的に言って滅茶苦茶だった。
 自我の喪失、精神の崩壊……多くの者たちが生きていても死んでいるような状態になる中、余程の魔法耐性かただの幸運か、その混沌を切り抜ける事ができた者がほんの一握りだけおり……自分はその内の一人になれた。
 とは言えそんな豪運の持ち主たちもただでは済まず、大体の者は記憶に何らかの障害が生じ……自分の場合は何故自分がパタタ村にいるのかを忘れていた。
 自分が誰なのかは理解していたし、これまでの人生も覚えていた。だが一点、その場所にいる理由……何かの目的があった事は覚えているがその内容――自分がどの勢力に属していて何の為に他の勢力と戦っていたのか……それらの記憶を自分はぽっかりと失っていた。
 その時点では自分がパタタ村の住人である可能性すらあったが、それはすぐに違うとわかった。ぶつかり合う勢力の中で見るからに戦闘向けではない普段着の者たちがいるのに対して自分が甲冑をまとっていたからというのもあったが、彼らと自分には決定的に異なる点があった。
 雰囲気……いや、性質と言うべきか。パタタ村にある何かの影響なのか、もしくはそれこそが「何か」そのものなのか……パタタ村の者たちは独特な気配を発し、互いの距離が近ければ近いほど驚くべきパワーを発揮し、完全武装した騎士を素手で殴り飛ばしていた。そんな力は自分には無いから、自分がパタタ村の住人ではない事を確信した。
 ではどこの所属なのか……それこそ格好や掲げる旗印などで判断できないかと考えたが、その混沌たる戦場で所属がわかるような綺麗な姿でいる者は一人もいなかった。服は血まみれ、武器も鎧も半分以上が砕けて……かく言う自分もボロボロであり、所属を示すような何かは見当たらなかった。
 半端な可能性でうっかり敵対勢力に声をかけてしまったなら最悪殺されてしまう故に、パタタ村の住人ではないという確証と同等の根拠が必要なのだが判断材料は皆無……今思うと我ながら冷静だと思うが、自分はその場から逃げ出した。
 どれがそうかはわからなかったが間違いなくいた敵対勢力から逃れ、時間の歪みにも襲われず、奇跡的にその地獄から脱出できた自分はハタリと途方に暮れる。あの戦場より前で一番新しい記憶と言えばどこかもわからない街の宿屋を後にした場面。感覚的にその瞬間から今まで一年も経っていないようではあったが、それでも数ヶ月分の記憶が無くなるというのはかなり恐ろしい状態だった。
 もしかすると所属していた勢力の中に友や恋人と呼べる者がいたのかもしれないが、その時点での自分には天涯孤独な身の上という記憶しかなく、どうしようもない恐怖に襲われた。それ故に自分は大きな存在へ安心を求めた。即ち、神に――

「ストップ。そこから先はただの思い出では? そんなモノに興味はありません。」
 予想外にとんでもない事が起きてたらしいロイドの故郷の話からこの大きな聖騎士のその後の人生の話になりかけたところでカーミラが止める。神って単語が出てきたからそこからこいつはアタエルカに来てあの女教皇のところに行くんだろうけど……まぁ確かにその話はどうでもいいわね……
「すまない、自分語りになるところだったな。逃げ出した故にその場にいた数える程度の豪運の持ち主たちがどうなったのかは知らないが、後になってパタタ村が壊滅したという話を聞いた。賊の手によって住人が皆殺しにされた悲惨な事件という事だったが、どこかの誰か……あの時あの場にいた勢力のいずれかが情報を操作したのだろう。住人には一人だけ生き残りがいてフェルブランドの国王軍の騎士が引き取ったという事だが、それも正確かどうか怪しいモノだ。事実、この場にパタタ村の者が二人いるのだからな。」
 ロイドとパムに顔を向ける大きな聖騎士……なんだけど、たぶんこの場の誰もが思ってる事をカーミラが質問する。
「一つ解せませんね。パタタ村の者とそうでない者を見分けるその独特な気配とやらですが、ワタクシには何の事を言っているのかさっぱりわかりません。皆さんはどうですか?」
 カーミラの問いかけに全員が首を振る。そう、こいつの言う独特な気配なんてロイドとパムからは感じないのよね……
「む、村の人が集まると力が増すとかいうのもオレには記憶にないぞ……」
「自分もです。あそこは本当に、戦いとは無縁の場所でした。」
 本人たちもしっくりこない反応をするのを見て大きな聖騎士はガシャリとあごに手をあてる。
「ふむ……これだけハッキリとわかるモノを感じ取れないとなると……逆に自分が特殊なのか。感知能力が高いと思った事はないが、あの混乱を経験したからこそ感じ取れるようになったのかもしれない。そして当の本人たちが知らないという事はあれは無意識の現象だったのか、それとも子供には教えていなかったのか……」
「無意識も何も、自分は兄さんの横にいても力が増したとは感じません。本当にそんな現象があったのですか?」
「初めに言ったように、全てが「事実」とは限らない。今話した事は、少なくとも自分がそうであると確信を持っている記憶だが、混乱の影響で改変された内容が含まれている可能性はそこそこある。何とも言えないな。」
「重要なポイントすら嘘であるかもしれないと……まったく、扱いに困りますね。」
「すまないな。その前提でも良ければ、自分の頭の中にある記憶を映像なりなんなりで見てもらっても構わない。そういう魔法の使い手くらいいるだろう?」
 記憶を覗く魔法……選挙戦でロイドの記憶を引っ張り出した魔法があったから、魔人族の中にも同じ感じの魔法を使える奴はいると思う――っていうかこの変態女王があっさりできてもおかしくないわ……
「前提は最悪ですが、まぁ「何かがあった」という事は確定でしょう。調査する際の目安の一つとしては使える情報ですし、記憶も見させてもらいます。」
 そう言うとカーミラが何も無い空間に「闇」の穴を開けて、そこから……人間サイズのタコみたいなイカみたいなウネウネした奴がにゅるりと出て来て、さすがの大きな聖騎士もギョッとしたけどそんなのお構いなしにそいつは甲冑の頭にぐるり触手を巻き付けて変な歌を歌い始めた……



 犯罪者をその刑期の間捕らえておく刑務所の中で、特に凶悪だったり単純に強かったりする厄介な者たちを収容する場所は正式名称通称問わず大体が「監獄」と呼ばれている。国によって多少の差はあれどA級犯罪者辺りからそこに入る事になり、各国が独自に建てたモノと世界連合が仕切っている場所を合わせ、それなりの数が世界中に存在している。
 ただし、犯罪者の中で最上位――S級犯罪者が収容される監獄は世界連合が管理するただ一か所のみ。魔法的にも科学的にも世界最高のセキュリティ、名立たる騎士たちと肩を並べる強さを持った看守、そして過去一度たりとも脱走は勿論、暴動も侵入も許していない実績。全ての犯罪者が恐れおののくその場所に――
「だっはっは! それはちゃんと読めてるのか!?」
 ――筋骨隆々とした男の笑い声が響いていた。
 まるで自分が縮んでしまったかのように錯覚してしまう、扉や椅子などがどれもこれも人間用のサイズを超えている不思議な部屋の中、「所長」と書かれたプレートの乗った巨大な机でおそらくこれだけは一般的な人間用のサイズである新聞を大きな手でつまむようにして読んでいる者を見て笑った筋骨隆々とした男に対し、その者は見るからに嫌そうな顔を返した。
「挨拶も無しに失礼な男だ……今度は誰を捕まえてきた。」
 筋骨隆々とした男の体躯を優に超える、部屋のサイズにピッタリの巨体を軍の将校のような服で覆ったその者はそれだけでも異常な巨人だが、最も奇異な点はその頭部。人間の頭があるはずのその場所におさまっているのは鋭い眼光と長く伸びた牙が威圧的なイノシシのそれだった。
「お前が連れて来る者は専用の房を作らなければならないような問題児ばかり……お前が来るイコール面倒事の印象しかないんだぞ、フィリウス。」
 被り物にも見えるがそのセリフは動くイノシシの口から発せられ、その者の頭部はこうなのだと認識せざるを得ない。魔人族だとしても大きすぎる巨大なイノシシ人間のため息交じりの言葉に、筋骨隆々とした男――フィリウスは再度笑い声を返す。
「だっはっは! 凶悪犯を捕まえてきた騎士に向かって冷たいな! ま、今回は俺様が捕まえたわけじゃないからその文句は無効だぞ、アスバゴ!」
 そう言いながら、フィリウスは宝石のような石のついた金属の箱を取り出してイノシシ人間――アスバゴに見せる。
「将来有望な騎士たちが捕まえたS級犯罪者『フランケン』! 魔法は勿論だが特に科学的に厳重な牢屋を頼むぞ!」
「なにっ!?」
 フィリウスの言葉につまんでいた新聞を真っ二つに千切りながら、アスバゴはその巨体が乗り出す。
「聞いた話ではついこの間『奴隷公』を商売不能にしたのだろう!? その上闇武器の最大手『フランケン』――お前は裏の世界を機能停止にする気か!?」
「だっはっは、これを回収しに来た『右腕』にも同じ事を言われたな!」
「『右腕』――いや、当然の反応だ! 騎士が悪党を捕まえる事を止めろとは言わんが上級貴族、場合によっては一国とも繋がっているのが裏の世界というモノ、根回しやタイミングを気にする必要があるのだぞ!」
「だっはっは、そういうのはそういうのが得意な奴に任せる! いつもせーののよーいドンで出会える連中じゃないし勝てるかどうかはもっとわからん! 悪党ふん縛るのをためらうような条件は困るな!」
 巨体の迫力にも気圧されずに笑うフィリウスだが、その裏には決して譲らない信念がある事を知っているが故に、アスバゴは大きく息をして乗り出した上体を戻す。
「……まったく、私もお前に説教するのはそれが仕事の奴に任せよう……」
 やれやれと机の引き出しから書類を取り出した――いや、つまみ上げたアスバゴは、先ほどの新聞同様に自身からすれば相当小さいはずなのだが、小さなペンでサラサラと何かを書いていく。
「毎度の事だがそいつを捕まえた騎士の名前を記録する。脱獄を許す予定は無いしここに死刑と終身刑以外の刑は存在しないが、外に出た囚人が自分を捕らえた騎士に報復するというのはままある話――万が一の際に危険を知らせる為に必要だ。『フランケン』を捕まえたお前みたいな考えなしはどこのどいつだ。」
「個人じゃなくチームだな! 一人の現役騎士とたくさんの見習い騎士だ!」
「……? その一人が十二騎士の誰かなのか?」
「いや、フェルブランド国王軍の上級騎士――セラームの一人だ! しかも最年少!」
「ふざけているのか? そんな奴がひよっこと一緒にS級犯罪者を捕まえたと?」
「そんな奴とは言ってくれる! ひよっこの中には俺様の弟子がいて、そいつの妹だぞ!」
「?? 待て待て、意味が分からん。」
「だっはっは! とりあえずその書類にはパム・サードニクス――かっこ書きでパム・ウィステリアって書いて、その隣に『ビックリ箱騎士団』って加えとけばオッケーだ!」
「は――はぁ? ビックリ――なに??」
 言われる内容全てに理解が追い付かないアスバゴと笑いながらテキトーな説明をするフィリウスの会話が続く事数分、イノシシの頭ではあるが信じられないという表情が見てわかる顔をしながらハンコを押すアスバゴは、コントのような会話から一転、真剣な顔をフィリウスに向ける。
「……知っているだろうが、裏の世界は今大荒れだ。『世界の悪』が何を考えたか他のS級犯罪者を狩り始め、それにビビった一部のS級、A級がチームを組んだ。お前から来た情報だが『ベクター』やら『魔王』やら『マダム』、そして『奴隷公』などなど、他にもいくつか報告が来ている。これをキッカケに勢力を拡大しちまった迷惑連中もわらわら……アフューカス相手にだけ頑張っていればいいものを力を増して本来の目的をよそに暴れる始末だ。」
「だっはっは、隠れてる連中を引っ張り出すいい機会だ!」
「倒せる強さがあるならな。さっき話に出てきた『右腕』……裏の世界がこうなる前からあったS級犯罪者の集団と言えばアフューカスの『紅い蛇』と『右腕』が所属する……あー……くそ、意味の分からん名前のせいで思い出せないがアレだ。今まで動きはなかったが今回の『フランケン』の件で腰を上げるだろう。混沌の時代が来るぞ。」
「だっはっは、実のところ俺様はそこまで心配していないし、これ以上の好機はないと思っている! 世界最凶の悪党がS級を狩ってくれるんだからな! 一般人に被害が行かないようにしながらそれを見守り、こっちに漏れてきたのを倒す! ちょっとの労力でビッグな成果だろう!」
「お気楽な奴め……」
「前向きと言え! 将来を背負う騎士たちが強くなれるチャンスでもあるんだぞ!」
 頭の中に自身の弟子を思い浮かべながら笑う十二騎士に、アスバゴは更なるため息をついた。



 世界一の監獄に豪快な笑いが響いている頃、誰もが認める世界最凶の悪党、『世界の悪』の根城ではそれに負けないくらいの爆笑をしている者がいた。
「ひ、ひひひ、お前はあたいを笑い殺――ぶははは!」
『バーナードに私と続いてか。入れ替わりで誰かがやられてくる流れが出来てしまったようだな。』
 薄暗いホールの真ん中に置かれたソファの上で笑い転げるドレスの女と、ひどい散らかりようだったそのホールの掃除をしていたフードの人物は、外出から戻って来た老人を見てそれぞれの反応をする。
 クリーニングしたてかと思うほどにパリッとした白衣にピンと伸びた背筋でいつもビシッと決まっている印象のある老人だが、今は巨大な虫のような生き物の背中に乗っている椅子にグッタリと座りこみ、疲労困憊という感じの表情で苦笑いを浮かべていた。
「途中までは問題なかったのだがな……『魔王』様の登場でこの有様だ。」
『『魔王』? 確か『フランケン』をどうこうしに行ったと聞いていたが、目的は果たせたのか?』
「『バーサーカー』の乱入でそれどころではなくなったがアレの生体反応……いや、ああなってはただの電気信号と言うべきか、それがかの大監獄へ移動するのを感知している。『聖剣』を手にした教皇にでもやられて騎士に捕まったのだろう。棚ぼただが一応目的達成だ。」
「だっせぇなぁ、おい! しかもそんなオシャレな刺青までつけられて――だっははは!」
『刺青?』
 フードの人物が首を傾げると、老人は上着をまくり上げて腹部を見せる。そこには子供が描いたような真っ黒なドクロのマークが描かれており、まるで発信機か何かのように時折ぼんやりと黒く光っていた。
「『魔王』曰く『魔王印』――ワレの居場所がわかるらしい。」
『? その内『魔王』が乗り込んでくるという事か?』
「もしかしたら来るかもしれないが、メインは『バーサーカー』だろう。ザビクを見殺しにした事を大層怒っていたぞ。」
「あぁ? 見殺しも何も、悪党としての死に花満開だったろうが。つーかお前、自分はその様って事はお客の相手をあたいにしろって言ってんのか? 殺すぞ。」
「まさか。ヒメサマたちは見学していてくれ。ちょっとした退屈しのぎとでも思ってくれればいい。」
『アフューカスの言葉を繰り返すが、その状態で戦えるのか?』
「心外だな、アルハグーエ。ワレは戦闘員ではなく研究者だ。」
 ガチョガチョと、独特な足音でくるりと方向転換した虫のような生き物に揺られてホールを後にする老人は、ひらひらと手を振って暗がりに消えながら言い残す。
「ワレが一番強くなる場所があるとすれば、それはワレの研究室だろう?」



「れがりあ? 何だそれは。」
「知らん! 『バーサーカー』が駄賃としてもらったらしい!」
 アフューカスの根城同様に悪党の拠点である、桜の国特有のデザインの城の中、長い黒髪と幾重にも重なる色の異なる着物を床に広げて十数センチの高さのある下駄をはいている女が扇子で口元を隠しながらテーブルに置かれたモノを訝し気に見つめ、それを持ってきた――正確には手に入れた者を運んできた、装飾過多の服を着てドクロのヘルメットをかぶっている大男がその部屋の壁にもたれかかっている女を指差した。
「件の『魔境』の代物、あれの解析の息抜きに出かけたのではなかったか? どうしてそんなボロボロになって帰って来る。仕事に支障はないのだろうな。」
「問題、ない……むしろそれは収穫だ……」
 疲れ切った表情と声色で答えた女――普段身につけている襟付きのシャツやジーパンではなく、ラフなジャージ姿の『バーサーカー』は、扇子の向こうから鋭い視線を向けてくる『マダム』と腕組みをして偉そうに立っているが何も理解していない『魔王』に説明する。
「それは神の光を取り込み……その性質、をより応用しやすい状態で使用……できるようにする、言わば変換装置……当然神の光が無ければ能力は使えないが、装置としての構造は利用、可能だ……」
「『魔境』の植物……何にでも変身可能なあの黒い立方体の力を引き出すのに使える、という理解でいいか?」
「その……通りだ。今までよく見えなかったアレの内部を覗ける顕微鏡になる……とでも理解しておいてくれ。」
「ふふ、嬉しい報告を持って帰って来るのは今のところお前だけだな。」
「聞き捨てならん! ワガハイの魔王軍は更に強化されたのだぞ!」
「お前の力は今後必要になるが、現状としては敗軍だろう? それにもう一人のバカに比べればパワーアップした分マシだ。『魔境』の封印の破壊は成してくれたが、今のアレはどうしようもない。」
「『ベクター』……か……そういえば、どこに行ったんだ……? 『魔境』の封印のような一切隙の無い完璧な理論構築で組み立てられた魔法が相手では……自分の『ゼノ・スプリーム』は効果が薄い……枠組みを根本的に軋ませるあいつの方向の魔法にはあれでしかできない使い道が、あると思うのだが……」
「女子校を覗きに行ってそれきりだ。今後の策にアレを組み込んでいいのかとっくに死んでいるのか……おい。」
「む、なんだ。」
「お前を呼んでない。そっちだ。」
 視線的に勘違いは仕方がなく、『魔王』の後ろにいつの間にか膝をついている男がいた。
「『ベクター』ですが、『豪槍』と交戦した後カペラ女学園に捕らえられたようです。監獄へ移送される前に現れた目的などを聞き出すべく、専門家が呼ばれています。」
「……予想以上にバカな事になっているな……」
「専門家とはつまり拷問屋か!? いずれは魔王軍にも迎えたいと思っている役職の一つ、興味深いな!」
「いくなよ、ヴィラン。お前じゃあ騒ぎが大きくなる……命令だ、『ベクター』を拾って来るか、無理なら殺してしまえ。」
「御意に。ドロン。」
 不意に現れたかと思ったらパッと消えてしまった男がいた場所――ではなく、明後日の方を指差しながら『魔王』が『マダム』に尋ねる。
「あの男は『ベクター』より強いのか?」
「……お前、よくあれの位置を追えるな。強いかどうかは知らないが、人間一人殺すのに強さはいらん。」
 口元を隠していた扇子を閉じ、『魔王』と『バーサーカー』に目をやった『マダム』は疲れたような顔になる。
「アフューカスを殺す為に必要な「力」と「頭脳」、そこにジョーカーのような者を加えておきたいと思った故のあれだったんだが……新しくスカウトするか……」



「『絶剣』だぁ!?」
「きゃああああ!?」
 ちょうど『マダム』らの会話の中にカペラ女学園の名前が登場した頃、学園内にある練習用の武器などをしまっておく倉庫に驚きの声と悲鳴が響き渡った。

 かつて神の国アタエルカにてS級犯罪者『大泥棒』の手によって盗み出されたマジックアイテム、レガリア。『大泥棒』は盗む過程にしか興味が無いため盗んだ物を適当なところに捨てていくのだが、とある遺跡に捨てられていたそれをたまたま回収した事から始まった一件。結果を見れば終始第五地区の統率者である女教皇、フラール・ヴァンフヴィートの手の平の上で彼女の思惑通りに動かされたわけだが、唯一の収穫――『絶剣』との出会いを、ラクスたちは得ることができた。
 世界最強の剣士と言われる人物、『絶剣』。かなり昔からその名は知られているが、この呼び名は称号ではなく一個人を指す言葉。興味を抱いた剣術があればそれに最も適した身体へ魂を移し、極める――そんなことを繰り返してきたが故に実年齢や本来の性別は本人のみぞ知るところという異常な生き方をしているが、数多の剣術が蓄積されたその魂はまさに剣聖。そんな、多くの猛者が手合わせを願うような人物が今、ある取引の為にカペラ女学園にやってきたのだ。

「うおおいおい、まじか!? すげぇじゃねぇか!」
 ジャケットと普段頭にのせているギザギザ模様の入った中折れ帽子を部屋の隅のテーブルの上に置き、ネクタイを緩めてシャツの袖をまくってところどころに血の付いた格好で嬉しそうな顔をしたのはカペラ女学園の校長、グロリオーサ・テーパーバゲッド。そんな彼女の弟であり、男子だというのに無理やり転入させられ、その後様々な経験をしてきて今回もまた稀有な体験をしてきたラクスは、稀に見る姉の興奮気味の表情に驚くよりも先に、部屋の奥の様子に目を丸くしていた。
 恐らく適当な場所がなかったのだろう、倉庫の中の荷物を端に寄せ、天井に打ち込んだ鎖に両腕をつるされているのは一人の男。身体中のあちこちにケガがあり、口から唾液混じりの血を垂らしている。そしてそれを見てラクスと一緒にこの場にやってきた面々――プリムラ、ヒメユリ、リテリア、ユズ、アリアの内のアリア以外が悲鳴をあげた理由でもあるのだが……その男は全裸だった。
「ね、姉ちゃん? これは一体……校長室にいないからどこにいるのかって他の先生に聞いたらここだって……な、なにしてんだ……?」
「見てわかるだろ、ごうも――尋問だ。それよりなにしてんだはこっちのセリフだぞ! 神の国に届け物したらそのまま休みに入っていいって言ったのに戻って来たかと思ったら世界最強の剣士を連れて来やがった! 何がどうなってんだ!?」
「それもこっちのセリフというか……今拷問って言いかけたよな――何のために……そもそもそいつ誰……」
「ん? お前らは戦っただろ。『ベクター』だよ。」
「!?」
 姉の言葉に表情が変わるラクス。
「お前らが神の国に行く準備してたあたりで急に学園に現れてな。折角の休みだし変な心配させんのもアレだなと思って黙ってた。正直言うとS級犯罪者なんて十二騎士にでも引き渡すのが筋なんだが、どうにもこいつ、お前が目的みたいだったからな……上の連中にややこしくされる前に聞くべき事を聞いておこうと思ってな。レモンバームの後継になる専門家を呼んでそいつを待ってるところだ。ちなみに全裸にむいたのは念の為、あの鎖で魔法は封じてるがこいつは『ベクター』……お前らも知ってるだろうが、こいつに「飛ばせるモノ」を与えるのは危険だからな。」
 後ろの女性陣はともかく、ラクスはつるされている全裸の男をジロリと睨む。圧倒的な速度と物量で無数の投擲を行う魔法――あの一戦でプリムラが死ぬ一歩手前まで行ったのは事実であり、それがここ最近のラクスの焦りの原因。よくもと恨むべきか、未熟に気づかせてくれた点をある意味感謝するべきなのか、処理のつかない感情を湧き上がらせるラクスだったが、そんなことは一切気にすることなく、目を背ける女性陣の後ろからひょこひょこと進み出た少女がグロリオーサを見上げる。
「『豪槍』だな? 噂はかねがね。ボクは『絶剣』。ここでボクの望みを叶えられる可能性があるという事でやって来た。色々と取引もあるのだが、剣士ではないにせよ武術の高みにいる者に出会えたことは喜ばしい。」
 小さな少女からの握手を求める手に、グロリオーサは――これまた弟のラクスからするとかなり珍しいのだが、緊張したような顔でその手を握った。
「グロリオーサ・テーパーバゲッドだ。こっちこそ色々聞いているが「今」はその身体なんだな……いや、それでもこうして手を握ればわかる――尋常じゃない強さだな。」
「それはそちらもだろう。犯罪者の格付けはキチンと把握できていないが、S級犯罪者というのは一番強い連中なのだろう?」
「ああ……それにはあたしも疑問なんだ。」
 そう言ったグロリオーサは、ふらりと壁に立てかけてあった槍を手にして穂先を『ベクター』に向けた。
「ね、姉ちゃん……?」
 今の今まで『絶剣』との出会いを喜んでいた姉が急に臨戦態勢の気配を出した事に驚きながらも、ラクスや後ろの女性陣も武器に手を伸ばす。
「S級犯罪者っていうのは頭のイカレ具合と迷惑さで決まるモンだから必ずしも十二騎士クラスの化け物ってわけじゃない。だがこいつは強さも含めてS級のはずで、ぶっちゃけあたし一人で倒せる相手じゃないはずなんだよ。どういうわけかラクスを狙ってて、でもって――ここにそのラクスが現れた瞬間から気配が変わった。この時の為に捕まったってわけだ。」
 ピリッとその場の空気が重くなり、一瞬の静寂の後、小さな笑い声が『ベクター』から漏れ出る。
「いやいや……ふふ、それは謙遜だぜ、『豪槍』。途中まではちゃんと殺す方向で戦ってたんだ。だが結構面倒って事に気づいてこうした。他はそっちの予想した方向で間違ってない。」
 ボロボロの顔をゆっくりとあげる『ベクター』は、その見た目に反して余裕の笑みを浮かべていた。
「……お前バカだろ。学園は冬休み、ラクスがここに戻るのは数週間先の予定だったんだぞ? まさか『絶剣』に会って早々に戻って来る事を予知でもしてたのか?」
「あー……ふふふ、一つ聞くが『豪槍』、お前は自分の弟がここを出発してすぐに戻って来たと思ってるだろ?」
「は?」
 一瞬言葉の意味がわからなかったグロリオーサだが、ハッとして後ろで武器を構えている弟の顔を見た。
「……ラクス、お前らは……アタエルカに行く前に『絶剣』と会ってそれをあたしに教えに来た……んだよな……?」
「え――い、いや姉ちゃん、俺らはアタエルカに行って……ちょっと騒ぎに巻き込まれて、そこで『絶剣』に会って……戻って来たんだ……」
「んなバカな――こっからアタエルカまで半日以上……あっちに行ってすぐに戻っても一日以上かかるはず……」
「そうだけど……俺らがここを出発してからもう五日くらいは経ってるだろ……?」
 弟のその言葉に、グロリオーサは目を丸くした。
「あっはっは! 噛み合ってないなぁ、『豪槍』? どっちも間違ってない、正解の方向だ。単純に、昨日から始まったオレへの拷問は、実のところ五日間の出来事だったって――はへは。」
 バッと『ベクター』の方を見たグロリオーサは、『ベクター』がベロッと舌を出し、その上に歯を乗せているのを見た瞬間、超速の突きを『ベクター』へと繰り出した。同時に『ベクター』の舌の上から弾丸のような速度で放たれた歯は腕を拘束している手枷を破壊する。ほんの数センチ、『ベクター』の手枷の破壊に間に合わなかったグロリオーサの槍は直後異常な軌道を描き、ボーッと立っていた『絶剣』の方へ向いた。
「おっと。」
 常人であれば気づいた時には槍が突き刺さっていただろう、予想もできない一瞬の出来事に、しかし『絶剣』の剣はグロリオーサの穂先を見事に受け流していた。
「――!?」
 突然グロリオーサが『絶剣』に攻撃を仕掛けた――あまりに速い攻防にそういう風に見えていたラクスたちから武器を向けられるよりも先にその横を通り過ぎて部屋の外へ出た『ベクター』は、急上昇して空中でピタリと停止する。
「武器は一流でも中身はまだまだ未熟な方向、隙を突いたとは言えこんなにあっさり盗れるとはな。」
「『ベクター』あぁぁああぁっ!!」
 一拍遅れて倉庫の外に飛び出たグロリオーサは反応できていないラクスたちの間をすり抜けて地面へと槍を突き立てた。
「――っ!?」
 そして驚きと悔しさの混ざった表情を浮かべたグロリオーサは宙に浮かぶ『ベクター』を見上げ、その顔を更に険しくした。
「残念ながら学園を覆う結界的な魔法は発動しない方向だ、『豪槍』。」
 全裸の男が空中に出現すれば悲鳴が飛び交うだろうが学園は休暇期間、普段ではあり得ない静寂の中、どこからか飛来してきた服を器用に身にまとい、乱れていた長い青髪をオールバックにして後ろでいくつかに結んでパンパンに膨らんだウエストバッグとゴーグルのようなモノを装着した『ベクター』は空中でググッと伸びをする。
 その手に、ベルナークシリーズにおいて三つ存在している「剣」の内の一つである刀を持ったまま。
「俺の刀――!?」
 武器を奪われた事にようやく気がついたラクスはいつの間にか空になっている自分の手の中に驚愕する。
「はっ、武器の管理がなってないなぁ? 得物が無いと何もできないタイプの騎士のくせにこの体たらくは落第の方向じゃないのか? なぁ、校長先生?」
「お前――一体どうやって……!!」
 ゴポンと大量の水を周囲にまとい、穂先を空中の『ベクター』に向けるグロリオーサ。
「どうやって? そりゃどっち方向の疑問だ? 時間経過のズレについてなら、過去から未来へ真っすぐに進む時間の方向をあっちへこっちへ蛇行させただけだ。結果あの部屋の中じゃあ一日経過するのに五日もかかったのさ。部屋の外から見たらカタツムリみたいにノロノロ動いておしゃべりしてるオレらが見えただろーが学園は冬休みで気づく奴はいない……ああいや、他の教師はいたんだったか? は、随分と放っておかれてるんだな。」
「時間の方向を――デタラメがっ!」
「でもってたった今の動きについてなら、さっきも言ったがオレが捕まったのはわざとなんだから魔法を封じる枷はボコボコにされて気絶した状態ではめられたんじゃなく、やられたフリをしてる方向でつけられたモン。捕まる前に学園内に仕込みをして枷に付与されてる魔法封じを軋ませた。綺麗に組み上がってるモノを複数方向から押したり引いたりして歪ませるのは得意でな、その枷は外面的には魔法を封じられるが内面が対象外となった。要するに、オレの体内に対しては魔法が影響しない。外見上は完璧に封じてるからお前も油断し、今のような大失態に繋がった方向だ。」
「それもこれもベルナークの剣を手に入れる為ってことか……剣士でもないお前が何故!」
「おいおい、この剣の力とオレの魔法の相性は抜群だろ? 空間を斬って距離の概念を省くなんざ最高方向の能力だ! 楽しみ方に一工夫入れられるんだ、ゲットの方向で動くなんざ当然だ。」
「――! お前にベルナークの真の力が――」
「言っただろ? 何かを軋ませる方向は得意なんだよ。」
「てめ――」
 槍を握る手に力を入れて跳びあがろうとしたグロリオーサだったが、跳躍する前に自分の身体が進もうとしている方向が上空ではなく後ろに立っているラクスたちの方だと気づき、脚から力を抜いた。
「ひひひ、しばらくは一メートル先にもまともに進めない方向だ。じゃあな。」
 グロリオーサから怒りのこもった視線を受けながら、『ベクター』はニヤリとした笑みを浮かべた後その姿を消した。



 神の国での騒動を終えたというのに最後の最後でラクスたちが厄介な状況に陥った頃、大昔にその土地に存在したのであろう文明の遺跡があちこちに残るその場所で、数名の者たちがそれぞれに適当な台座だの柱だのに腰かけて顔を合わせていた。

『オレの記憶が正しければまだそのタイミングじゃないはずなんだが、まさか仲良くお話しましょうって言うんじゃないだろうな?』

 高圧的な口調でそう言ったのは数本だけ残っている折れていない柱の上――即ち他の者たちよりも高い場所から偉そうな座り方で偉そうに見下ろしている人物。
『もしかしてアフューカスの動きにビビったのか? 天下の『右腕』が恥ずかしいなぁ、おい。』
 違和感を覚えるほどに長い手足、モノクロを基調としたピエロの格好、先端に鈴のついた二股のジェスターハット、そして顔には満面の笑みを浮かべた白い仮面。どこかのサーカスから抜け出してきた道化師そのままの人物の言葉に、『右腕』と呼ばれた男が苛立った顔を向ける。
「あらゆるモノにビビっているお前に言われたくないぞ、引きこもり。そもそも『世界の悪』に関してはアレでどうとでもなるという結論を出したはず、もう少しマシな推測をして欲しいところだぞ。」
 腕を組み、指をトントンと鳴らしながらイライラした声色でそう言うも、たくましい身体を覆う茶色いスーツや高級そうな靴、整えられた金色の髪や髭から紳士的な風格を漂わせる男に下から睨まれたピエロは気圧されたようにわずかに上体をそらす。

「でもヒキコモリンの疑問は全員思ってる事だよね。何かヤバイ事があったから呼んだんでしょ? それもかなりマズめの。」

 スケッチブックを広げて何かを描きながらそう言ったのは金色の長いポニーテールの少女。年代的には田舎者の青年らと同じくらいでどこかの学校の制服を着ており、色を塗るつもりなのか、腰かけている瓦礫の周りに筆や絵の具が転がっている。
『そ、そのヒキコモリン――変なあだ名はやめろ!』
「そう? 可愛いじゃん。騎士がつけた『パペッティア』なんていうそのまんまな名前よりよっぽどいいよ。ダンディも『右腕』とか嫌でしょ?」
 ピエロ――『パペッティア』同様に妙なあだ名をつけられているらしいダンディこと『右腕』がため息をつくと、「ハッハッハ!」と豪快な笑い声が聞こえてきた。

「私も騎士のネーミングセンスはいかがなものかと思っている。『シュナイデン』のようにカッコよい時もあるが、私たちが『好色狂』とは心外だ。オマエもそう思うだろう?」
「全くね、人を性犯罪者のように。アナタとわたしの一途な夫婦愛の何を見てそう思うのやら。」

 そんな会話をしたのは、話の内容を考慮するなら一組の老夫婦。顔のしわなどの具合から察するにかなりの高齢なのだが、夫の方はかなり仕上がった身体をしており、妻の方も年齢を感じさせないボディラインを見せている。健康的な生活を送っている老夫婦――ここまでならそういう表現になるだろうが、問題は彼らの格好としている行為。
 夫婦それぞれに適当な瓦礫に座っているのだが、二人の服装は布切れを腰や胸に巻いただけというモノ。加えてその周りには彼らより一回りも二回りも若い数名の異性が半裸、もしくは全裸でとろけたような表情を浮かべて彼らにくっついており、二人はその若い身体を堪能していた。
「あはは、その光景の理由を知らないと誰でもそう思うよ。ところでミスター、その長い髪の女の子、終わったらくれない?」
「んん? 別に構わんがこれは『奴隷公』のモノと比べるとあまり質が良くない。中身も相応と言わざるを得んが。」
「見ればわかるよ。でもそこがいいの。きっといい具合になってるからさー。あ、ミセスもその背の高い男の子、いいかな。」
「あら、どうしようかしら。この子、結構上手いの。」
「む? 聞き捨てならんな、私よりもか?」
「あっはは、アナタったら嫌ね。若いなりにってだけよ。」

「猥談もその辺にしてはいかがでござろうか。『右腕』殿が立腹にござるで候。」

 田舎者の青年であれば鼻血をふいて倒れるだろう光景を前に、むしろ進んで話題を広げる少女と半裸の老夫婦らの会話を止めに入ったのは、一人瓦礫ではなく地面に正座している男。袴姿で腰の左右と背中に二振りずつ、計六本の刀を携えて両目を閉じている様は隙の無い侍という感じなのだが、唯一惜しい点として頭部が坊主を通り越したスキンヘッドになっており、眉毛もない故に生じている妙な迫力が侍としての雰囲気とチグハグになっている。
「拙者も『無刃』という二つ名には不満でござるが……『右腕』殿、ここは一つ強引に話題に入らぬといつまで経っても奇天烈な会話が続いてしまうで候よ。」
「そうだな……ここでお前の喋り方にまでツッコミを入れ始めたらいよいよどうにもならなくなりそうだぞ。」
 言っている意味が分からないという風に首を傾げる侍――『無刃』に再度ため息をついた『右腕』は、奇妙な面子にジロリと視線を送りながら話を始めた。
「我輩たちはチームでもなければ当然仲間でもない。それぞれの利益の為にそろっただけの連中、それをこうして集めた理由なんてモノは当然アレについての事に決まっているぞ。」
『は、変人共の猥談が始まる前に言って欲しかったモンだ。で、一体どうした? とうとうアレにも限界が来たか?』
「……先も話したが、我輩たちは今起きているアフューカスの暴走もアレで対処できると考えていた。アレの力を……ある意味信頼しているからな。だがそれを脅かす存在にこの前遭遇してしまった、というのが話のメインだぞ。」
「それってどういう意味? アレの力は万能でしょ? 燃料が足りないだけでさ。」
「ああ、万能だ。それは我輩たちが経験から理解しているが……それでも結局はアレも魔法の一種、無効化できないわけではないぞ。」
「ほう、まさかアレを打ち消すほどの力を見たのか? この世に絶対的な魔法など存在せんが、アレを消すとなると尋常ではあるまい。」
「そうねぇ、一体どんな大魔法を見てきたのかしら?」
「大魔法か……そうであったならここまで焦っていないぞ。我輩が心底驚いたのは、それが片手を振る程度の動作であっさり行われたという点だ。魔法陣も呪文も無しに、何でもない事のように……!」
「それは面妖――いや、そもそもの話でござるが、アレを打ち消す力を見たという事は……よもやこっそりアレを使ったという事でござる候か?」
「アレはまだクールタイム、実際に打ち消されたのは我輩の魔法……この右腕だ。」
『は? お前の魔法が消されたからって大騒ぎかよ、馬鹿なのか?』
「馬鹿はお前だ、理解の足りない奴め。我輩の右腕の魔法とアレの原理は同じ――事象や概念を数値化して望みの地点へ収束させる魔法なんだぞ。半分物と化している点と要求する代数が異なる故にアレの方が万能というだけだ。」
「難しい話はわかんないなー。とにかくアレをどうにかできちゃう奴に会っちゃったってことはわかったけど、それが急いでわたしたちを集めた理由なの?」
「ああ……その力の持ち主が騎士側――十二騎士についていたからな。」
 呼ばれた理由がわからず軽いノリで話を聞いていた『右腕』以外の面々が、その一言で雰囲気をピリッとさせる。
「なるほどなるほど、話が見えてきた。その気は無いがどういうわけか犯罪者となっている私たちが自由に動けているのはアレの力で定期的に対処しているからだが、それを打ち消されると面倒な事になる。」
「でも騎士にそういう力があるからと言ってあなたがここまで焦るというのは不思議ね? もしかしてその十二騎士……《オウガスト》なのかしら?」
「そう……十二騎士の中で一番政治的な考慮をしない奴。お前たちに直接的な影響は無かっただろうが、『奴隷公』に続いて『フランケン』に手を出した……これで裏の世界は決壊寸前だぞ。そんな男がアレの攻略方法を手に入れた――我輩たちに辿り着くのも時間の問題というわけだ。」
『は! 因縁があるからってお前は《オウガスト》に過剰反応なんだよ。お前やオレたちを追いかけまわしてるわけでもないのに心配が過ぎるだろう、どう考えても。』
「以前ならそうだが今のあいつは完全に裏の世界を潰す動きをしているんだぞ? 心配のし時と思うがな。」
「『右腕』殿が石橋を叩き過ぎというのは頷ける点ではある。だが『世界の悪』の横暴にアレで対抗せんとしている今、最悪が重なればあの悪逆を前に無防備となりかねないでござる候。不安の芽を摘むというのは大事ではなかろうござるか。」
 状況があまり良くない――表情は分からないが身振りからして不満そうなピエロを除いて全員がその認識をしたところで半裸の老夫婦の夫が若い女を撫でていた手を組んで身を乗り出す。
「それで、具体的にどうする? アレを打ち消す規格外の力と《オウガスト》という組み合わせからは魔人族という結論しか出ないのだが、化け物とやり合うというのか?」
「いや、その必要はないぞ。確かにあいつと魔人族らには繋がりがあるが、仮にフィリウスが死んだところでその仇討ちをするような関係ではない。」
「それじゃあ《オウガスト》だけを狙えばいいって事だね。ドライな関係だっていうなら他の十二騎士にその力が渡る事もないんでしょう?」
「そう考えて問題ないぞ。」
「《オウガスト》……よく熟したいい男よね……一度味見してみたいわ。」
「おお、オマエもそう思うか。あれは男から見てもいい身体だ。」
『気持ちの悪い会話だな、おい。ま、なんやかんや一番面倒な騎士ってああいう規則やらをガン無視するタイプだし、この際始末しちまおうってのはいーんだが……どうせなら絶賛大暴れ中のアフューカス様にヤッてもらうってのはできねーのか?』
「ふん、珍しく頭を使った事を言ったな。手は無くはないし、それは第一候補だぞ。」
『……お前から先にヤッてもいいんだぞ?』
 ゆらりと立ち上がった『パペッティア』に対し、ギロリと鋭い視線を返す『右腕』。
「部屋から出て来てから言った方がいいぞ、引きこもり。我輩の右腕はお前の首に届くのだぞ?」
『届かねぇよ、その前に切り落とされるんだからな。』
 ぞわりと双方から魔法の気配が漏れ出たところで――
「ついにこの『満開の芸術と愛を右腕に宿した人形が振るう刀』が力を合わせる時が来たというわけでござるな? 用心棒として拙者も全力を尽くすで候ござる。」
 ――その気配に気づいていないのか気にしていないのか、『無刃』の場を無視した決意表明によって張りつめた空気が一気に緩む。
「あはは、相変わらず意味わかんない名前だよね。ネーミングセンス無さ過ぎだよ。」
「くくく、共通の利益の為とはいえこうして妙な連中が集まっているのだ、折角なら月並みではない集団名が良いであろうし、その点ピッタリだと私は思うがな。」
「わたしとしてはもう少し品が欲しいけれどねぇ。」
『ちっ! 馬鹿が馬鹿を言いやがる……オレはんなだっせぇ名前認めてねぇぞ。』
「どうでもいいぞ、全く……」
 呆れ顔になった『右腕』は力を込めていた右腕に視線を落とす。
「……妙なキッカケだが、とうとうこの時が来たようだな、フィリウス……」



 大きな聖騎士から話を聞いてスピエルドルフに戻って来ると、ミラちゃんは謁見の間にレギオンマスターの三人を含めたたくさんの人を集め、聞いてきた話を……正直オレの中ではまだごちゃっとしていた情報を上手に整理した上で説明した。

「――以上がロイド様の故郷であるパタタ村に関する手がかりです。最初に言ったように全てが真実とは限らず嘘とも言えない情報ですが、ワタクシたちの力をもってしても真実に到達できないという異常性の重さ、そして何よりロイド様の為にも、ワタクシたちは謎を解き明かさなければなりません。最優先項目の一つとして取り掛かってください。」

 スピエルドルフの偉い人というと女王様のミラちゃん、フェルブランドで言うところの国王軍にあたるレギオンのリーダーをしているヨルムさん、フルトさん、ヒュブリスさんたちが思い浮かぶけれど当然それだけなわけはなくて、たぶんこう……が、外交? とか予算? とかそういう政治的に大事なポジションの人たちが全員集められたらしく、ミラちゃんの話の後、部屋の隅っこに立っていたオレに一人一人覚えきれない役職と名前を自己紹介して「必ずや真実に辿り着いてみせましょう!」と言ってくれたのだが……
「ミ、ミラちゃん、嬉しいけどあんな……え、偉い人総出でしてくれなくても……」
「いえロイド様、これは重要な事なのです。魔人族は身体能力的にも魔法的にも人間の上を行きますが、フィリウスさんのように匹敵、あるいは上回る者がいる事も事実。個体数では圧倒的に負けていますから、何をキッカケに状況がひっくり返るかわかりません。故にワタクシたちは人間の中に時折現れる規格外に常に警戒しなければならないのです。」
「パタタ村が……そういうモノってこと……?」
「村そのものもそうですが、その場に集ったとされる複数の勢力も問題です。各国にレギオンのメンバーを派遣しているワタクシたちですが、それに該当するモノの心当たりが全くない……これは由々しき事です。勿論ピンからキリまで大小様々な組織を全て網羅しているわけではありませんが、特異な場所であったらしいパタタ村――ロイド様の故郷に関わりのある者たちであるならば把握は必須なのです。」
「そ、そうなんだ……えぇっと――そ、そうだ、すごいたくさんの人が挨拶してくれたんだけど……ご、ごめん、一度に全員は覚えられなくて……」
「お気になさらないで下さい。護衛の都合上、レギオンの面々はロイド様とお会いする機会が多いのですが、所謂事務的な事を行っている者たちにはそれがなく、前々からロイド様にご挨拶をと言われていたのです。本人たちはロイド様と会えただけで満足ですし、この休暇の間にもまた顔を合わせる事があるでしょう。」
「会えただけで……い、いや、頑張って覚えるよ……」
「ふふふ。ともあれこれで素敵な休暇に入って来た横槍が片付きました。帽子屋のおばあさんはあの騒ぎの中でものんびりお茶をしていましたし、こちらの依頼は粛々と進めてくれるでしょう。心置きなくロイド様との時間を過ごせます。」
「う、うん……」
 既にアレ――とかソレとかをしてしまったというのにまだまだこれからという感じにニコニコしているミラちゃん……
「むう……すんなり休暇を迎えるよりも邪魔が入ってようやくという今の状況はカーミラくんを一層……このタイミングで家に戻らなければならないとは不安しかない。ドスケベロイド君はあまりハジケてはいけないのだぞ。」
「ボク、やっぱり残っていいかな。」
「あははー、商人ちゃんの気持ちはわかるけど最初に決めた事だからねー。ちなみに妹ちゃんはどーするのー?」
「どうするも何も自分は兄さんの妹――家族ですから、兄さんがここで年越しというのなら自分もここに滞在します。」
「じゃ、じゃあ妹さんに……い、色々……止めてもらわないと、だね……」
「……ロイド……?」
「はひ、またそんな怖い顔を……」
 オレと一緒に部屋の隅っこに立っていた『ビックリ箱騎士団』の面々プラス妹――相変わらず『ブレイブアップ』の反動で車いす状態のカラードと、同等の負荷を受けているのだけど『ヴァラージ』という不思議な体質のおかげでピンピンしているアレクがオレに挨拶をしてくれた人たちの魔人族らしい見た目について色々と話している横で、エリルたちはニコニコ顔のミラちゃんを警戒している……
 二週間をスピエルドルフで過ごして忘れている事を思い出すキッカケにし……そ、そしてミミ、ミラちゃんとのおおお、お泊りデートを兼ねるこの冬休み。二週間二人だけというのはダメ――という事で年末を含む真ん中の一週間以外はエリルたちもいるという約束だったのだが、前半の部分はアタエルカでの騒動であっさり過ぎ去り、ついにオレはミラちゃんとの一週間に突入しようとしている……パ、パムがいるからどうにか……こうにか……
「ああ、そういえば皆さん、帰る前に手続きとお土産を。」
 オレがここから先の展開に戦慄していると不意にミラちゃんがそう言った。
「……何よ、手続きって。前来た時はそんなのなかったじゃない……」
「いえ、出国の手続きとかそういう事ではありません。契約という表現の方が近いかもしれませんね。」
 ミラちゃんの言葉に全員が首を傾げていると、謁見の間の扉が開いて頭がヤギの人が入って来た。着ている服は《オクトウバ》さんのような祭司さんみたいなモノなのだが、腰に巻かれたベルトにはドライバーやペンチがぶら下がっている。
「女王様、準備が整いました。皆様とこちらへ。」


 ヤギの人に連れられて城の中をぞろぞろと移動して到着したのは科学的な実験室と魔法的な研究室をごちゃ混ぜにしたような部屋。色々な機材が並ぶ中で部屋の真ん中だけスペースが開けていて、数学の式……いや、化学式? が混ざった魔法陣が描かれていた。
「これの解析が済みましたので、この先もロイド様と一緒に戦われるであろう皆様にその力をお渡ししておこうかと。」
 そう言ったミラちゃんの視線の先にあったのは巨大な水槽……というかケースというか、よくマッドサイエンティストの研究所とかで変な生き物が浮かんでいるイメージのある入れ物の中に収まった金属の塊。前に見つけた時よりも形がスッキリしている気がするけどもしかして……
「あれって、ベルナークの武器の材料の……?」
「そうです、ロイド様がマグマの中より持ち帰った素晴らしい金属です。」
 ご先祖様であるマトリアさんの導きによって手に入れる事が出来たベルナークシリーズの双剣……それを見つけた場所に一緒にあったのがこの金属の塊。ベルナークシリーズに使われている希少な金属で、単純な話これがあれば新たなベルナークシリーズを作る事が出来る。マトリアさんが言うには完全な新作なら三、四本で既存の武器を強化するのならもっと多くできるだろうっていう話だった。
「これを……いえ、詳しい話は彼から。」
 ミラちゃんがそう言うとヤギの人が一歩前に出て――オレに深々とお辞儀をした……
「お初にお目にかかります。私はエリファス・アルフォス。海のレギオンに所属する魔法技術の研究者です。この度ロイド様からお預かりしたこちらの金属の解析を担当させていただきました。」
「あ、いえ、ご丁寧に……ロイド・サードニクスです……何と言いますか、いきなりこんなモノを押し付けるような形になってしまって……ありがとうございました……」
 さっきもそうだったけれど、毎度どういう風に返したらいいのか困る挨拶にオドオドと答えるとヤギの人――アルフォスさんは更に腰を曲げた。
「勿体ないお言葉……! これほどのモノを与えていただいただけでも感謝し切れません! 魔人族の未来に関わる研究を出来た事、心より嬉しく、誇りに思っております……!」
「み、未来……?」
「はい! この金属の特性に女王様の――あ、いえ失礼しました! こうしてご友人の方々にもご足労いただいているのです、先に本題を進めましょう!」
 曲げていた腰をシュバッと戻したアルフォスさんは近くの机の上に置いてあった厳重そうなケースをガショガショと開き、中から直径五センチくらいの鉄球を取り出した。
「こちらの金属――古い資料によりますと人間たちの間ではオリハルコンやミスリルという名前で呼ばれていたそうですが、元々数が少なかった事に加えて人間が採取可能な場所にあったモノは取りつくしてしまったようで、以降人間の世界には出回る事なく存在が忘れられていった代物です。」
「オリハルコンにミスリル……まさに伝説の武器の材料!」
 グッとガッツポーズになってテンションを上げるカラード。
「硬くてしなやかという、武器に使用する金属として最高級の性質を持っている点も驚きですが、最大の特徴は第七種の特殊積層による魔術回路の……いえ、簡単に言いますと常時周囲のマナを取り込み、変換してエネルギーとして蓄えるという点です。まるで生きる為に進化した生物の能力のようですがこれは正真正銘ただの金属、自然界の偶然が生んだ奇跡の性質でしょう。またそれゆえに魔法との親和性が非常に高いのも特徴です。」
 ベルナークシリーズは見た目がその辺の武器と変わらないのだけどその性能は抜群で、たぶんこれはこの金属の金属としての性質の高さから来るのだろう。一番の特徴である高出力形態がエネルギーを蓄える性質から生み出されたモノとして……魔法との親和性というのはどこに繋がるのだろうか。
「人間たちがこの金属から造り上げた武器には特定の条件を満たさなければ内部のエネルギーを解放できないようにし、また使用者を選ぶという仕組みが施されているそうですが、それらを実現させている術式が何十年、何百年と効果を発揮しているのも親和性ゆえでしょう。術式維持に消費される魔力を内部のエネルギーを代用する事で補給しているのです。」
 そうか……勝手にそういうモノだと思っていたけれど、武器に特殊な魔法をかけたとしてもそれは永遠に発動し続けるわけじゃない。ベルナークの血筋を判別したり使用者に合う合わないを判断するのも誰かがそういう魔法をかけたからそうなっているだけで、長い時間が経てば自然となくなるはずのモノ。それをずっとキープしている理由が親和性なのか。
「単純にこの金属を身につけた状態で魔法を使用すると泥水がろ過されるように術が洗練されるという効果もありますから、この金属から造られた武器を人間たちが最強の武器と呼ぶのも納得です。」
「洗練……? えぇっと、魔法の威力が増したりするんですか……?」
「結果的にはそうなります。正しくは普段使っている魔法を発現させるのに必要な魔力や工程が最適化された結果、いつもより少ない消費で魔法を使えるのです。更に言えば使用者の魔法技術のレベル的に使えなかった魔法もこの金属による洗練化というサポートによって使用可能になるでしょう。」
 つまり……ベルナークシリーズというのは威力や頑丈さが抜群で魔法も強化してくれる上に変形する能力まで持っているというとんでもない武器なわけだ……
「そしてこれより、そういった特性を持つ金属で皆様の武器をコーティングさせていただきます。メッキを施すようなモノとお考え下さい。」
「メッキ……えぇっと、みんなの武器をベルナークシリーズみたいな武器に強化するっていう事ですか?」
「そうです。さすがに一からこの金属で造った場合と比較すると性能は劣りますが、使い慣れた武器の感触をそれほど変化させない形でバージョンアップできるかと。」
「うおおいおいマジか! 俺の武器がベルナークになんのか!」
 カラード同様に見るからにテンションを上げていたアレクが一歩前に出る。
「同等――より少し下の性能を付与する事となります。ただし、それでも強力な武器となる事に変わりはなく、良くない心根の者に渡る事は避けたいので、コーティングすると同時に特殊な術式を加えて皆様の武器に使用制限を加えさせていただきたいのです。」
「制限!? 一日三十分しか使えないとかは困るぜ!?」
「いえ、皆様に対して影響は出ません。その武器を皆様しか扱えないようにするだけです。」
「なるほど、かのベルナークと同等の力を持つ武器、当然の処置だな。ちなみに所有者以外――例えばおれのランスをアレクが持ったらどうなるのだ?」
「持ち上げる事が出来なくなります。重量が増すか、持とうとした者の筋力を低下させるか、はたまた触れた瞬間に激痛が走るか、対応されないように起きる現象にはランダム性を持たせますが、結果としてその武器を持てなくなります。」
「そんな事できんのか、すげーな。でもそうなるといざって時に困るかもしれねぇな。なんかこう、俺がカラードに武器を投げ渡す、みたいな時が来ちまったら……」
「ご心配なく。使用者が許可すればこの魔法は発動しないようにしますので。」
「おお、そりゃ安心だ! すげぇぞカラード、ベルナークだ!」
「ああ。武器に見合うよう更なる鍛錬が必要だな。」
 テンションが高い人がいると自分のテンションが普通になる現象というか、ウキウキが止まらない強化コンビに対してエリルたちはそれほど「やったー!」っていう感じにはなっていないのだが……少なくともエリルが期待――いや、可能性かな、そんな感じのモノを抱いてグッと拳を握りしめたのは見えた。
 そうしてオレたちは一人ずつ部屋の真ん中にあった魔法陣の中に武器を持って立ち、アルフォスさんが機械のスイッチを入れたり呪文を唱えたりすると鉄球となっていた例の金属がまるで水みたいにサラサラととろけて武器を覆っていき……最後に武器と胸の真ん中辺りを繋ぐ糸のようなモノが一瞬だけ見えて、契約とやらは完了した。
「ふぅむ、ほんの少し重たくなったような気はするがそれ以外はこれと言って変化を感じないないな。いつも通りわたしのトリアイナだ。」
「ボクの短剣もそのままな気がする。」
「あたしなんて指輪だから何にも変わってないよねー。」
「でも……なんだか前よりも手に、馴染む……気がする……」
「……ホントに何か変わったの、これ……」
 エリルたちは変化があるのかないのかという感じに微妙な反応をしていたが――
「おお……おお! すげぇ、強化魔法が――なんつーかスムーズに走るぜ!」
「ああ、甲冑への伝わり方がまるで違う……!」
 ――武器そのものに魔法を加える強化コンビは大喜びしていた。
「使用感に違いを覚えたままですと危ないですから、どうぞこの冬休みの間に慣れてみて下さい。」
「む! 武器の扱いに集中させてお泊りを忘れさせる作戦か! そうはいかないぞ、カーミラくん! 一週間後、必ず戻って来るからな!」
「おや、それは残念ですね。」
 そんな感じでお土産をもらったエリルたちは一週間後に再びスピエルドルフにやってくる為に綿密な打ち合わせをミラちゃんとして……ミラちゃんが開いた空間の穴からそれぞれの実家へと向かって行った。
 ちなみにパムの武器もベルナークのコーティングがされたからちょっと使ってみますと言ってパムは城の外に出て……ついさっきまでみんないた場所にオレとミラちゃんだけがポツンと残った。
「えぇっと……」
「そうですね、とりあえずデートをしましょうか。」
「でーと――デート!?」
「ロイド様がお望みでしたら今から床につくでも構いませんが。」
「びゃ!?」
 こうしてオレの史上最も危険な一週間が始まった。



「飲み込みが早ぇじゃねぇか。」
 セイリオス学院の冬休み。田舎者の青年を含めて多くの学生が家に戻ったりどこかへ出かけたりしている頃、床や壁のあちこちが砕けているだだっ広い部屋の中で一人の学生が全身ボロボロになりながらも何とか立ち、目の前の小さな少年に対して戦闘の構えをとっていた。
「強い目的がある奴は強くなる。立派になりたいとか誰かに認めてもらうだとか、そういうのはキレイだが弱い。一番は怒り、恨み、復讐心。目標を遂げた後にどうなるかなんて事を無視すれば、単位時間あたりの成長速度はこれが最高の目的だ。」
 髪を片側だけ編み込み、上下ともラフな格好で今にもヒップホップを踊り出しそうな姿の少年がその外見に合わない口調でそう言うと、満身創痍で構える学生は静かに息を吸った。
「――っ!」
 そして吸い終わると同時に目にも止まらない速度で少年に迫り、その目の前で強烈な閃光を発生させたかと思うと少年の死角に移動して超速の蹴りを打ち出した。
「その調子だ。」
 だがその蹴りは少年の指先で勢いをそらされ、意図しない方向へ変えられた学生はそのまま地面へと激突した。
「……? なんだ、ギブアップか。二時間くらい前ならそうなった後でも次の一手を出してきてたはずだが、体力が限界を迎えたようだな。」
 気絶したかのように見えるが実際は眠りに落ちた学生――長い銀髪と色白の肌を土埃で汚し、真っ白な制服もあちこち破けてボロボロになっているが、それすらも絵になるような美形の顔を地面に転がしている、元セイリオス学院生徒会会長、デルフ・ソグディアナイトを見下ろす少年は残念そうな顔でため息をつく。
「六大騎士団ってのはあの特殊な魔法を使う関係でメンバーの得意な系統を特定のモンにそろえる必要がある。お前が炎使いだったら間違いなくうちの団に入れてたろうに。」
 少年がパチンと指を鳴らすとあちこち砕けていた床や壁が一瞬で修復され、部屋は全面コンクリート張りの殺風景な部屋となった。
「だが同志が増えるのは悪くない。お前みたいな見込みのある奴は特にな。回復の使える奴をあとでよこすから、ちっと休んだら再開だ。」
 恐らく聞こえていないだろう学生――デルフにそう言い残した少年は部屋の外に出てそこに立っていた一人の男を見上げた。
「……いい情報だろうな?」
「張っていた根の一つが『魔王』を捕らえました。言動から察するに、あれは『ディザスター』の居場所を把握しています。」
「『紅い蛇』……なるほど、朗報だな。」
 くるりと振り返り、死んだように寝ているデルフを見て少年――『灰燼帝』は呟いた。
「悪いな、先に終わらせちまうかもしれん。」

騎士物語 第十一話 ~神の国~ 第十章 混乱のたいどうごと

これにて第十一話は終わりですが……時間にすれば数日のお話だというのに長くなってしまいました。
ロイドくんたちからしますとうっかり巻き込まれてしまった今回の騒動でしたが、謎の多いロイドくんの故郷について少し明らかになりました。一体どういう村だったのでしょうか……名前の「パタタ」はそのまま「ポテト」から来ていますが……

最後に新しい人や昔にちょこっと顔を見せた人たちがわらわらと出てきましたが、彼らがあっちこっちで暴れるのをフィリウスさんが眺めるのをメインに、合間にロイドくんたちのお話が入る――そんな感じの物語を予定しています。

個人的にはS級犯罪者だというのに小物感のあふれる『ベクター』の今後に期待ですね。

騎士物語 第十一話 ~神の国~ 第十章 混乱のたいどうごと

全ての騒動が終わり、大きな聖騎士にパタタ村について話を聞くロイドたち。 そこで語られたモノはただの田舎の村とはかけはなれて出来事で―― 一方、それぞれの目的で動く準備を始めた裏の勢力。 その内の一つの矛先が一人の騎士へと向き――

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-05-02

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