フリーズ14 散文詩『世界を創りしあなた達へ贈る詩』
酔生夢死
酔に酔ったは何千年。此岸の彼岸でなお一閃。
ハルジオンの庭園に、夢現、抜かすな、或る女が一人、水面に揺らぐ月を眺めていました。それは一つのある種、幻影的な美創のような夜、涅槃にもかの煩悩のようにも映っていました。
ある時です。女のもとに足音が訪れました。震える声は、そう、「あなたは、何故? ここにいるのですか?」と、さも当然であるかのような醜態を晒しながら答えたのです。
心ここにあらずんば如し。故にメメント・モリはエリュシオンの園を抜けて、遠く、遠雷の先に広がる花々の、美しく咲き誇る、田園風景にも似た、郷愁に帰るのですか?
女は答えます。
「赦す、マギカ。あなたはラッカの導きに縁りてここへ来たのですね」
永遠のような終末を飾るには、乙女の純血も、世界樹の翡翠も、守護天使の白磁率でさえ叶わない。ならば、この夢こそ、流離いの流転とするのが、せめてもの償いなのではなかろうか。故に、その声の主は「嗚呼、ガイアを司りしソフィアよ。なんと美しくも愚かなのか。君は君として、己が蝕まれていくのを微笑んで受け入れるのですか」と執拗に妄執を重ねて、その思念は幾億の輪廻転生の導火となった。
遥か、高い空の上にいては、少し下を神と呼ばれる者が通りかかった。我は彼の者に、ヴァルナに己の主な罪を尋ねた水夫のような謙遜で問う。
「私の人生に意味はあるのですか?」
すると、神はこう答えた。
「人と神とは異なる道を歩く。それ故に……」
この先をいつも思い出せない。神はあの後、なんて言ったのか? きっと、それを思い出すことは赦されないことなのだろう。だから私は無知蒙昧の牢に囚われながら、生きる歓びを噛みしめるのかもしれない。
女は泣いた。
「凪いだ渚はね、本当に穏やかなのさ」
声の主は、女の凛とする声が、風にかき消えるのを、ただ呆然と堪能した。
世界を創りしあなた達へ贈る詩
あなたは今生まれました。遠い園から、虚空の先から、終末と永遠の狭間から、あなたはやっと生まれました。それは宇宙の始まりと同値でした。世界はあなたのためにだけ光り輝き、熱を発しました。ですがあなたは同時に罪を背負い、欲を抱き、罰を受けました。世界に闇が生まれたのです。
あなたは悲しくはありません。あなたはただ、歓んでいました。生まれてきた歓びに、人生の始まりに、明るい未来に、歓呼したのです。そう。魂が震えるほど、歓喜に満たされて、あなたは産声を高らかに歌ったのです。
――ユギト。樹華のミを借りて
あなたは呼吸をし、自然の乳房から歓喜と幸福を飲みます。そして、あなたは人生という道を歩くのです。
――増殖する神、夜槃路から解き放て
ああ、なんてあなたは悟っているのでしょう。きっとすべてを忘れ、また覚えているからなのですね。
あなたは涙を流します。緩やかに、揺蕩うように。火が揺らいでる。顔が揺らいでる。遠くから聞こえてる。夢の、園のソフィア!
全球凍結を経て、あなたは永い眠りに就くのです!
ああ、その眠りこそ、全能からの目覚めへと繋がる夢の揺り籠! 悪の揺り籠! 花の目覚めへと!
あなたの脳は冴え渡り、ここ、フィニス(最果ての地、終末)に一人立つあなたは、全能感に打ち拉がれ、泣く泣く空を仰ぐのです。
風が涼やかで、空は晴天で。ああ、あなたはまた知るのです。この日のために生を受けたのだと。
ああ、人生よ、全ての謎よ。いつの日か知るときが来て、この愛から去るとしても、願った夢、叶った欲、識辺や燐死などが始まるとき、業魔の裁きから甦れ、涅槃寂静の終わりが来るから。
夜の終わりが、明日の終わりと、昨日の終わりと、世界の終わりと、私の終わりにつれて、咲いていく。その様は圧巻で、震える歓喜に酔い痴れて、総身を震えさせるのです。
フリーズ14 散文詩『世界を創りしあなた達へ贈る詩』