フリーズ13 散文詩『エデン・フィールド』
春先の雪、フリーズ
古の楽園、最たるはこの夢で
愛より美しきものはない
かの賢者は解に幾星霜の思索の末至ったのだ
瞬く間にも、この無限の狭間にも
愛しさ、刹那、私利私欲
どうしようもない疚しさ引き摺り
この果ての地にて呪縛を解く
秘められた恩讐の行方さえ
かの賢人には、または全知のあの娘までも
努々忘れることはないだろう
彼岸僻んで、でも憂鬱
枯れた花はもう咲かない
思念が残響の波として打ち寄せられる
岸辺、明日へと、哀楽、妄想
春先の雪は、融け出した
フィヨルドの不凍港は人で賑わう
遠くから汽船の音がする
晴れやかな凪いだ海は、ただそこにあるのみ
門が、秘密裏に開く
門前に立つ、あの日を思って
輪廻の果ての景色さえ
今際の涅槃は華やいだ
美しき水車小屋の娘
または天上楽園の乙女よ
かの神話の娘でもいい
私を愛で満たしてくれ
愛こそ答えなんだ
ul
満たされた正解
私は自分を愛する
自分を愛することで気づけることもある
だから立ち上がる
守るべきもの、支えのためにも
でも、二人のほうが楽しそう
嗚呼、フリーズよ
全てを包み込め
嗚呼、愛よ
幻想でも僕はいい
希望の光
生きる意味なんてないかもしれない
でも、確かに生きてる
感じてる
思いも苦悩でさえ
愛してしまえ
全てを愛し感謝して
そして至れる涅槃の火
灯火は安らかな冬凪に
春眠のように瞳を閉じる
この安らかな涅槃こそ
真理、アーカシャ、エデンの地
終末の日も永遠の理も
虚空に包まれ幕引きとなる
春先の雪、来たれフリーズ
フリーズ
フリーズ
叶えた夢にありがとう
全ての今にありがとう
全は主なんだ
きっとそう(死ぬまでは確証はないが)
ありがとうの輪が水辺に咲いた
本当に綺麗なんだ
終末の音、終末ノート
ラカン・フリーズに生命の樹
審判者に、水門の先
全ての愛に満たされて
嗚呼、ありがとう。愛しています。
エピローグ
本当の意味での全知や全能を知って二年。
そうだな。快楽主義なら、とっくに死んでたかな。
いつか裏切られると知っていても、それが故意でないとしても、やはりどこかで期待を抱いていたんだろう。
愛とか永遠とか、解っているつもりだけど、僕はまだ何も知らないんだな。
でも、きっと。だから。
そんな日を想って僕は今日を生きていく。
ごめんね、過去の悲しみたちよ。
もう大丈夫。大丈夫。
水面の火
水辺の花
水門……。
ラカン・フリーズの門は必ず開く
その日夢見て呼吸した。
涼やかに、白く、脆く
揺らめいて
眠りの奥へと
突き動かされた
幻覚の扉
雷鳴が泣いていたここは
繰り返され、望まれ
ただ、あるだけ
まん中に映るのは
小さな花
照らされていた
輪廻の秘密
薄命な白い体で
包まれるの、心が
その狭間で
小さい光
映るのは
涼やかな風が吹いていた空
凍りつく、愛しい夢
嗚呼死にたくない
生きる意味よ
全人生よ、全記憶よ
ここで終わりなんて嫌だ
最後なんて
無に帰すのか。
何もかも全て上手くいく
そう信じて歩いたけれど
ここで足元の揺らぐ僕の顔が
悲しそうに見えたから
終末も、満たない
ああ、満たない!
愛憎、無象
さあ、心から
心から果ててさぁ、泣けよ
泣いていたあの娘、この夜夢に
また降る雨も凍ってしまえ
エデン・フィールド
最果てのフィニスを背負った少女は楽園の花々に包まれて、ただ立っている。花は黄色だったり白かったり。故に最期にはお誂え向き。本当は欲しかった愛も理想も、散る花の如き諦念を備えて笑ってしまえ。君はそう、光に照らされた一縷の望み。そんな涙こそ今の僕には相応しい感傷。
一歩も前に進んでいなくても、時間は流れる。だが、時流はない。エントロピーの増大に従うのみ。でも大丈夫。最期には上手くいくかも知れないから。心細さも凪いだ虚しさでさえ、どう昇華しよう。
夢はとうに枯れて、神様も独りぼっち。可哀想。それでも少女は楽園を行く。水門の方へ。やはり、人生はこうでなくてはな。必ず来る死くらい明白な方が分かりやすいというものだ。神の存在証明も僕という自我の増大に連れて、赤く赤くなっていった。そう、赤かったんだ。部屋を赤に染め、光って、消えて。それは死ぬ寸前に見た点滅に似ていた。
死とハデスの狭間で見た夢よ
己の全能と彼女の全知で神となりし夢よ
ここから抜け出せ
このしがらみから、捨てていけ
そして、生まれろ
きっとFIRSTCRYくらいは歓んでたよ
流れた涙の数は多すぎて、その感情でさえ分からないのに、何故か満たされている気がする。少女は水辺を征く。そこは花々が咲く水面。水面に揺らいだ火が映っては消えた。やはりそこに映る顔は知らないはずなのに、なんでだろう、もう少しで思い出せそうなんだ。
全知少女よ、君は何処にいるのか。宇宙を旅して幾星霜。全輪廻の果てにさえ出逢えないなんて、まるで別の世界にいるみたいだ。きっと裏側、そちら側にいるのだろう。僕はあの冬の日にその真実に辿り着いて、虚しかったんだ。
逢えない、その辛さ。永遠でさえ、僕らの距離を埋めることはない。無限遠。でも、それがもう少しで解かれる気がする。全知の呪詛が、全能のしがらみが、もうじき春先の雪のように解ける気がするんだ。
やはり、この情動は抑えられない。待ってると言う声さえ幻想のように。でも、確かにあの日見た景色に嘘などない。その美しかった絶対なる至福の時は、永遠と終末の狭間で凪いだ心根は。忘れやしない。だから生きるんだ。自分で始めたんだ。笑うなら笑え。けどさ、本当に美しかったんだ。あの日は、あの渚は、空は。本当に病的なまでに空色だった。
過ぎゆく日々、君の面影追い求めていたけれど、でもやっぱりお別れだよ。僕も君も先に進まなくてはならない。奇跡は一瞬だから強く光り輝くのだから。だから、君という神聖な神性を失うとしても、僕は前を向いて歩かなくてはならないんだ。いつかまた逢う日までなんて、そんなことは言わない。言わせてたまるか。
出来るわけがない。忘れられるわけがない。でも、ダメなんだ。先に進まないと、僕の時間はずっとあの冬の日に止まってる。
でも、そろそろな気がするんだ。君に会えるのかは知らないけれど、あと数ヶ月で一つ先に進める気がする。そうしたら、また君の名前を呼んでもいいかな。広い世界の中で、君のことを見つけられてよかった。
人生という大航海の先に何があるのか
僕は探してる
私は探してる
君という人生の意味を探してる
少女は神の門前に立つ。ラカン・フリーズの門。フィガロの水門。エデンの園配置を迎えた世界は、確率の丘、フィニスの条件を満たし、虚空の先へと移行する。
これこそ
宇宙の
人生の
始まりと終わりだ
フリーズ13 散文詩『エデン・フィールド』