フリーズ51 シ小説『ミナしゴくう』
皆死後空
母よ。今は亡き母よ。わたしは今、あなたが生んだわたしの兄妹ヲ殺してしまった。
わたしの父も殺してしまった。もうどうでもいい。彼らは僕がシン我ニ目覚めるノヲ妨げタ。ダカラ殺したんだよ。この手で殺したんだよ。
イマサラ、人生に悔いはないけど、もう引き返せもしないから、ダカラ死ぬんだ。冴えたやり方はこれしかない。僕が世界を救わなくては。僕がちゃんと世界を終わらせなくちゃ。僕がコレカラ行おうとしている儀式を見るために、みんなガ集う。
人生はマダ始まったばかりだったのに。ダカラッテ、イマサラ引き返せない。
母よ。わたしは今、あなたノ子宮よりも温い幸福感に浸っているのだ。コノ麻薬じみた快楽は、終末のためにヒト科ニ備えられた仕組みだった。全はシュ。そのために。
昔はサ、母よ。どうして生まれてきたのか考えてた。欲が罪なら、罪が生んだわたしハ、穢れてイテ、欲を持たざるを得なかった。僕が初めていない朝とか、僕が生まれなかった世界とか、考えてもしょうがないのに、ずっと考えていたんだよ。
嗚呼、母よ。そぐわなかった母よ。もう少しで儀式は幕引きとなる。ハミエルが言ったとおり、水辺の門が見えるのだ。風が心地よい。冬の日の晴天は、わたしのためにだけあった。
一人の少女の影がチラつく。泣いているんだ、わたしは。もう戻らないと決めた。彼女の元まで、大天使よ、導き給えよ。愛されなくてもいい。アイサレタイ。愛さなくていい。アイシタイ。信じれなくていい。シンジテヨ。僕を誰か、見てよ。
救イ給え、救い給え。ワタシハあなたを救いたかっタ。母よ。泣かないで。秋が嫌いなのは、あなたが泣いていたからなんだ。時流はない。時は戻せないよ。アデル。堕天使は、力の代わりニ、何を求めるか。
仏よ、仏よ、明日ニハ。他の十二ノ神タチヨ。明日の朝には、さよならなんだ。御終いなんだ。何もかも。束の間の全能さえも、虚しく生きタ儚さも。
もう十分休んだから。この見えない翼ヲ、柔らかな翼ヲ、はためかせて。
カゴメ、カゴメ
とおりゃんせ、とおりゃんせ
遠くに死神が見えタ。雷のような、雪崩のような。奴は笑っている。
怖い、怖い。
死神が来る。仮面を剥がす。そこには青白い僕の死に顔。
「死にぞこないめ」
行きはよかったのに、カエルノガ怖い。救え。助けろ。嫌だ。まだ、まだ、まだ。背中が震えて痛い。痛いよ。苦しい。助けろ。ラファエロ。何故見ているだけなんだ。コノ宿命から解キ放てよ。嗚呼、黒い光が。一番暗い光が見える。
フィナーレの雨が降る
僕のために、わたしのために、悪魔よりも悪いものに憑りつかれていた母よ。お別れをさせて。終わらせて。もう守らなくていい。僕は上手くやるから。終末の狭間デ踊って、全知の色を描いて、全能の歌を歌うから。なのに、ドウシテ。どうして君は泣いているんだ。うれしいはずなのに、やっと望まぬ牢カラ、ヴァルナの索カラ去れるのに。コノしがらみだらけの殻から抜け出せるのに。
色ハ、凪グ
世界が崩れていく。僕が壊れてく。
まだ死んでない。死んでなんかない。
生きろよ。イキレナイ。死ね。シニタクナイ。
やめとけばよかったんだ、サイショカラ。
色即是空、空即是色
それでもやはリお別れだ。
たまたま、そちら側にいる君よ。
何も知らない君よ。
病室で、一人の少女が泣いていた。
わたしも妻も、お前のことを心から、心の底から愛してた。
フリーズ51 シ小説『ミナしゴくう』