明治の維新よ、我らの沖縄令和維新 :we are not occupied

戦後から居坐る米軍に鉄槌を、彼らが引き起こした殺人事件、治外法権の数々。祖国はアメリカのポチ。

  令和維新:We are not occupied
          作・三雲倫之助

 かつて米軍の犯罪は斬捨て御免の治外法権、テロであった、テロにはテロを。
 いつまでも居座る米軍には反吐が出る。
 島の民草よ、立ち上がれ、この島をアメリカの支配から解き放て、もう誰の手も借りない、国家も、政府も、県庁も。

 サバイバルゲーム、火器オタク、右翼寄りのサイトはマーチの乗りで運営され、戦争、武運長久、国民皆兵、殲滅作戦、日本精神、大和魂、突撃玉砕、大東亜共栄圏、スパイウォッチャー、公安警察、言論統制、あらゆる戦争に関する単語が次から次へと書き込まれる。そこには興奮しかない、酔っ払いの宴会のようである。
 自衛隊演習場のある富士の裾野にも見学に行く。戦車の標的の爆裂にエクスタシーのようなものを感じる。火器は扇情的である。
 閲兵式にも参加する。ライフル銃を持って一糸乱れぬ兵士の行進、戦車、装甲車、飛行する戦闘機、輸送機、快楽の渦に飲み込まれ、固唾を飲みながら凝視する、心は戦場を駆け巡り敵地を爆破し、敵兵を射殺する、生と死の緊張の連続、どこでこのようなスリルが味わえるだろうか。
 お金をむしゃむしゃ食う資本家の豚どもと平和の惰眠を貪る臆病な平民の羊たち。
「今だけ、金だけ、自分だけ」
「労使一体、産業報国」
「世の中を変えなければならない。魂は富士の裾野の演習を駆け巡る。これこそ生きている証だ」
「まほろばの大和・日本は万世一系の神の国なり」
「尊王攘夷」
「などて天皇(すめろぎ)は人となりたまいし」
「七生報国、鼓動が激しくなり胸が熱くなり、涙が零れてくる。億兆一心、君民一体、敵に立ち向かう総力戦、たとえ敵がどんなに強くとも決死敢闘の気魄の昂揚、死中に活を求め、民族の悠久の大義に生きよ、民族の悠久の大義のために死ね、特別攻撃である。益荒男の誉れである。美しく散れ、雄々しく誉れの中で死ね」
「竹槍で戦車に向かい、飛行機で人間魚雷で戦艦に体当たり、機関銃を前に突撃する兵士達。これこそ兵士とは死ぬことと見つけたり、いかに生きるかではない、いかに死ぬかなのだ、殉国殉死、散華の美学、靖国で会おう。勇者に歴史はあるが豚に歴史はない」
「《生きて虜(りよ)囚(しゆう)の辱めを受けず》、戦陣訓の東条英機に敬礼、自決・玉砕は軍人・民間人の勧めである」
「海行ゆかば 水漬(みづ)く屍(かばね)
山行ゆかば 草生(くさむ)す屍
大(おお)君(きみ)の 辺(へ)に死なめ
かへりみはせじ」

「可哀想な奴らだ、味方も敵の火器で死ぬことを知らない、死んでも勝敗が付けばリセットされ生き返ると信じている、現実感覚の欠けたロマンチスト、格好いいものを見ようと思ったら現実に目を瞑る浅はかな者たち、救いようがない」
「味方も敵も爆弾で飛び散る兵士を想像できない。なぜか太平に切羽詰まった若者達、実際に中東の紛争地域にでも行くがいい。戦争は格好いいものではない。市民が泣き喚くただの殺し合いなのだ、悲惨なのだ」
「大東亜戦争を見よ、軍人軍属の死者数は二三〇万人の内六〇パーセントの一四〇万人は餓死者であった。市民の死者は八十万。
 中将以上は皆終身刑にすべきであった。大方の奴は無実でのうのうと生き延びた。日本人が戦争犯罪人を裁くべきであった」
「《一死を以て国に殉(じゆん)ぜんのみ》
 敗戦の大将は一死だが、兵士は何万、何十万と死ぬ、無責任極まりない決意」
「このような指揮官は自分も死ぬから部下も全員玉砕しろ言っている。負け戦なので《美しく死ぬ》との独り善がりのロマンを夢見つつ大将は死ぬのである。大将一人の命が万人に兵士の命に匹敵すると思い込んだ指揮官の恐ろしさを裁くべきであった」
「《どうせ大将の私も死ぬんだから、部下の御前達も道連れだ、上意下達だ》と聞こえる」
「北一輝がとある将軍に聞いた。
《将軍、英米と戦って勝てるのですか》《吾が海軍は国に殉じて死んでいくのみだ》
 要するに死ねば全てが許され英霊になると思い込む無責任な指導者たち、その付けが日本人戦死者三百十万人だ」
「問答無用、自らだけに道理があると思い込む、始末に負えぬ。
「問答無用、自らだけに道理があると思い込む、始末に負えぬ将軍達、その暴走が十五年戦争の負け戦だ」

 一九五五年(昭和三〇年)九月四日。
 石川市に住む永山由美子ちゃん(6歳)が嘉手納海岸で遺体となって発見されました。 発見当時、由美子ちゃんは下着一枚で仰向けに捨てられ、降り続く激しい雨でずぶ濡れでした。遺体は強姦され、下腹部から肛門にかけて刃物で切り裂かれていた。
 暴行・殺害として米軍と沖縄県警が協力して捜査し、事件発生の二日後、嘉手納基地第二二高射砲大隊第二中隊所属のアイザック・J・ハート軍曹(当時三十一歳)が逮捕された。 事件に対して激しい抗議運動が起こり、各地で抗議集会が開かれた。米兵は軍法裁判で死刑の判決を受けたが、実際は米国に帰還し、責任の所在はうやむやになっている。

一九五九年六月三十日午、アメリカ空軍のF-100D 五五-三六三三号機が操縦不能となり、パイロットは空中で無事脱出した。その機体は民家を破壊し、石川市にある宮森小学校の校舎に衝突、炎上した。死者十七人、小学生十一人、一般住民六人、重軽傷者二一〇人

 一九六三年二月、軍用道路一号線(現在:国道五十八号線)で米軍の大型トラックが、横断歩道を渡っていた国場秀夫君(上山中学校一年生)を轢き殺した。
 目撃者の証言によると、中学生十四、五人が青信号を横断中、大型トラックが信号を無視して横断歩道に突っ込んだと言う。
 当初、米軍は事故の加害性を認めていたが、米軍基地内で行われた裁判では無罪の判決が出された。理由は、運転手が
「夕日がまぶしくて信号が見えなかった」
 と証言したためであった。

 一九四五年、「一億層懺悔」と宣わり、戦争責任の所在は国民全員にと言うことになる。どこまでも責任を取らない直接戦争を遂行した者達の面の皮である。
 沖縄戦で約十八万八千人が死に、そのうち日本兵の戦死者は六万六千人、沖縄県民の犠牲者は一般住民が約9万四千人、沖縄出身の軍人・軍属が約2万八千人で。ある。軍人・軍属よりも一般住民の犠牲者が多かった。
 一九四六年、日本国憲法施行、そしてGHQのマッカーサーは戦争の放棄と沖縄の米国による軍事支配すれば日本を外敵より防衛できると言った。
 一九四七年九月、米国による沖縄の軍事占領に関して、宮内庁御用掛の寺崎英成を通じてシーボルト連合国最高司令官政治顧問に伝えた。「日本に主権を残しアメリカが沖縄を租借する。
 沖縄を軍事支配することはアメリカと日本の利益になる」
 一九五一(昭和二十六)年、サンフランシスコ講和条約と日米安全保障条約が締結され、日本は独立した、だが沖縄は引き続き米国の支配下におかれることになった。日本は西側の一員となり、沖縄は防共の最前線となった。
 一九七二年、沖縄返還。米軍基地は縮小もされず、現状維持、沖縄のシュプレヒコールは届かない。
 現在、辺野古基地建設。
 災いは遠くで起これば、対岸の火事である。
 戦場も遠くであればいい。
「それができるのはこの島だけだ、不可抗力でしょう、島がそのような場所にあるんだから」との内地の大多数の意見。

 怒りが込み上げて熱くなる。
 あいつらの横暴を止めるには、あいつらを生れ故郷に追い返すには、力が、暴力が必要だ。銃を持った奴らを基地内で襲うことはできない。基地の島で平和を満喫した軍人とその家族を襲う。私たちは大人しすぎた、それを彼らは腰抜け、平和を愛する人たちと蔑んでいるのだ。
「草莽崛起」、それが最初の合図だった、ネットのチャットに食らい付いた、それから七日後、「高杉晉作」、七日後、「狂いたまえ」七日後、「山崎闇斎」、七日後、「水戸藩」、七日後「赤報隊」一四日後、「テロリスト」、五人が残り、ゲームサイトのチャットルームで合議が始まった。
 五つの最もポピュラーな姓を付けた。
 佐藤・鈴木・高橋・田中・渡辺のを名乗っている。日本で転がっている姓の多い順だ。それだけに個性が死ぬ、その他の存在としてパソコンで連絡を取り合っている。
 無論、同士が直接自宅のパソコンからダイレクトに参加はしてないだろう、幾つもの中継基地で迂回するのは常識だ。
 彼らは面識がなく、ネットで知り合い、意気投合した。オフ会なども全くない、お互いに知らないことが強みなになる、詰まり、逮捕されても同士のことは知らないから自白はできない。だが戦争オタクではない。
 このサイトは隠れ蓑のであり、五人のメンバーで構成している。群れるのは嫌いな面々だ。携帯は禁止である。芋づる式に身元を特定され易いからだ。
 互いの詮索をしない、赤の他人であること。有言実行、不言実行、なんでも構わない、行動すること。そうでなければ傍観者だ、死ぬまで傍観者だ。
 我々は革命家ではない、人を殺さない、粛清しない、スターリンや毛沢東とは違うからだ。我々が望むのは空に浮かぶお月様のユートピアではない、今立っている古里だ。
 大御心を安んじ奉りなどと唱えながら、国に忠と親に孝とを同じものと吹き込み、往古からの醇風美俗と主張する国家主義者どもに洗脳された国民がいた。
 その皇民化教育が徹底されたこの島で、四人に一人が亡くなった沖縄戦の生き残りが発したのは
「命どぅ宝(命こそ宝)」。
 美辞麗句の欠片もない、呆気ない言葉だが、この島の地上戦でこの世の地獄の阿鼻叫喚を潜り抜けた住民の後悔と無念が血反吐となって出た言葉だ。
 それを超える真理はない。命を超える大義はフェティシズムだ、倒錯者の戯言だ。頭のおかしい奴らの思い込みだ、命を超える大義名分などない。
 人を殺したら自首しろ、罪を償え、だがけして自殺をするな、死ねば済むと考えるのはただの非道なテロリストだ。
 ただ死刑と求刑されたなら、喜ばず悲しまず、それを受け入れよ。それが法治国家だ。
「命もいらず、名もいらず、地位も、金もいらぬ人は、仕末に困る。この仕末に困る人ならでは、艱(かん)難(なん)を共にして国家の大業は成し得られない」明治維新の英雄の一人が語った言葉だ。その頃はテロの嵐が吹き荒れていた。今の時代とは全く違うのだ、それを考慮すべきだ。
 無様だろうが、与えられた命を生き抜く強さを考えてみろ、死んでハイそれまでよと人生とさよならする奴の弱さと比べて見ろ、死しか考えられないから、散華、玉砕、殉死、恐れ多くもと畏敬と美しさを持ちだして死んでゆく、熱に浮かされているのだ、自己暗示に陥っているのだ。
 だがそれを鼓舞し礼讃した首領は生き残りのうのうと何もなかったかのように日々を満喫する。そして社会貢献までし、勲章まで平気な面で貰う。
 彼らは天下国家を語るが、間違いという最も大事な感覚がない、恥がない、人間性の欠(かけ)片(ら)もないどうしようもない人間だ。
 それを偉人だと、大物だと讃美する困った輩(やから)が出てくるから始末に負えない。
 罪を悔いる代わりに、癌に冒されて七転八倒して死ねと願うだけだ。殺しはしない。やればテロリストだ。
 殺人、それはどんなことがあっても超えてはならない一線である。それさえ守れば我々は会うことのない終生の同士である。

「七日以内に必ず決行する」と佐藤は鈴木・高橋・田中・渡辺にすぐ破棄できるウェブメールのアドレスにメールを送った。

 極東最大の米軍嘉手納基地のあるショッピングモールに日よけキャップとマスク、バックパックを背負い、佐藤は二階から人の流れに見入っていた。
 軍属のカップルと子供たちが安全にのうのうとこの島を満喫している、この諸悪の根源のアメリカ軍が……。
 これも屈辱的な「思い遣り予算」の成果か、どれだけアメリカ軍に予算を突っ込むんだ、日本は独立国家であるならば、アメリカに隷属するな。
 佐藤は幼児の男の子と小学一年生ぐらいの女の子の連れたアーミーカットの男を標的にした。一時間ほど尾行すると、彼らはゲームセンターに入った。シューティングゲームに夢中になっている男の子に男が気を取られている隙に、手持ち無沙汰の女の子にキティちゃんぬいぐるみで呼び寄せた。そして笑顔で話しかけて、フロア角まで来ると女の子を抱き上げて、駐車場に向かい車の中に入れた、女の子は泣いたが、そのまま車を走らせた。人気のない海岸にクルマを停めた。
 佐藤もバカではない、日常英会話ぐらいできる、何年いても日本語を覚えないバカな驕ったアメリカ人とは違う。二時間ほど女の子を人形であやし、オレンジのビブスを女の子に付けた。
「you are not welcomed」ビブスの前と後ろに書かれている。
「パパのところに連れてくよ」と言うと、女の子は笑った。
 ショッピングモールの駐車場でぬいぐるみを抱いた女の子、「あの中にパパは居るよ」と解放し、私は車でその場を離れた。
 佐藤はアパートの部屋に戻ると、鼓動が激しくなり体が震え、疲れがどっと来た。冷蔵庫を開けて缶ビールを取り一気に飲み干して、大きく息を吐きその場にしゃがみ込んだ。 
 パソコンを起動させ、嘉手納ショッピングモール、女児連れ回し、米国人と検索したが、情報はまだアップされてなかった。
 もう一度同じ事を実行しなければならない。ただの愉快犯と思われては困る。アメリカとは違い安心して歩ける島だと思われては困る、海外派遣で悠々自適な生活を満喫して貰ってはこちらが治まらない。危険があること知らしめて、米国にいるように外に出るときは常に緊張を強いることだ。米軍人とその家族が骨身に沁みるまで何度でも繰り返す。その緊張が解け始めた頃にヒットエンドラン戦法を取る。
 六歳で陵辱され殺され放られた永山由美子ちゃんはどんなに無念だったろうか。その魂は成仏できないと嗚咽している。誰かがその魂の無念を晴らさなければならない。由美子ちゃんが啜り泣いている、どうしようもなさで胸が詰まる。その事件は自由・民主主義を標榜するアメリカのダブルスタンダードを示している、自由と民主主義はアメリカの国民だけに適用されるのだ。

 佐藤は朝刊をデジタル版を読んだ。昨夜の件が小さく載っていた。米国軍属の女児不審者に連れ回される。女児に付けられたビブスには「あなたは歓迎されてない」と英語で書かれていた。確信犯の可能性ありと付け加えていた。
 女児の父親にはメッセージは伝わった、そして島の米国人の間で噂になっているはずだ。
 基地から出たら子供から目を離すな、この不安を一時も忘れるな。とにかくアメリカ人に米軍は歓迎されてないことを植え付けることだ。
 SNSにはアップされてはなかったことは佐藤を落胆させた。どこまでも拡散させることが狙いでもあるのだ、アメリカ本国まで届かせたいのだ。

「渡辺だ、近日、米兵にビブスを付ける、これ以上、奴らの安心・安全は許さない」

 渡辺は部屋でカスタムスチールの三段式警棒を手拭いで拭いている、隣町のコンビニ受け取りでネットで買ったものだ。まさかの時の防御用である。それを振り回すために、半年近く鉄アレイで右腕を鍛えてきた。
 土曜の午前一時半、渡辺はコザのバー街にいる。薄暗い通りを回り、獲物を見つけた。アーミーカットの白人が電信柱の横で酔い潰れていた。

 週末でこの米兵は浮かれてこの様だ。
「アメリカなら身包(みぐる)み剥がされるか、殺されているぞ。
 この島はそんなに住みやすいか、いい気なもんだ。ぐっすりおねんねだ」
 渡辺は警棒で脛に打撃を加えようかと思ったが、この男は眠っているのですでに兵士であることを放棄していた、警棒で胸を突いて反応を見たが夢の中だ。打撃は加えなかった」
 ショルダーバッグからビブスを取り出し、米兵に付けた。
 前に「you are not welcomed」、後ろに「Okinawa is not occupied」と書かれている。
 このメッセージこそが大切だ。米兵であることを思い知れ。
「お前等は狙われている。Watch out your back」
 そして結束バンドで後ろ手で両腕を縛り、両足を縛った。路地の真ん中にうつ伏せの米兵を放置し、飛ばし携帯で一一〇番にかけた。
「アメリカ人が血を流して倒れている」渡辺は告げ自販機の番地を教え、込み上げる歓喜とともに雄叫びを上げ走った。

 マンションの部屋の中で、ビールを飲みながらパソコンの画面に見入る。ネットフリックスのシリアルキラーのドラマを見る。
「殺しを否定する私がなぜ連続殺人鬼のドラマを好むのだろうか。
 深淵を覗くと深淵もこちらを覗いているとニーチェが言っていた、鳥肌が立つ。
なんでも自分に関係づけるのは要注意の精神状態だ。そんなはずはない。
《選ばれてあることの恍惚と不安二つ我にあり》、
悪魔主義のボードレールを太宰が引用していた。だが太宰ほど私は鬱でも自意識過剰でもない。恍惚など生まれて以来、感じたことはない。
 今日の決起で動揺しているのか、もう後悔しているのか、否、興奮しているだけだ。
 迷いはない。考え抜いての行動だ」
 渡辺は今日の結果を検索した。
 警察官が縛られたまま暴れる米兵を制圧し結束バンド切る動画がアップされていた。
「you are not welcomed(御前達は歓迎されてはない)」
「We are occupied(我々は占領されてはいない)」
 とのオレンジのビブスの前後が映され、米兵は何が起こったのか分からず喚き散らしている。興奮した米兵は警察官に食ってかかる。映像を映している者の笑い声が聞こえる。
『そうだ、笑われろ、何万もの人が見ているぞ。米兵よ、お前は占領されたのだ、《You are occupied》。
 この動画を世界に拡散しろ。
 アメリカが世界の正義ではないことを思い知れ。アメリカまで届け、世界に届け、アメリカよ、お前は嫌われている、お前は正義ではない、それを知れ」
 渡辺はほっとした、作戦は成功した。
『私がしていることは犯罪だ、いつかは捕まるだろう、だが誰かが決起しなければならない、耐えるだけでは駄目なのだ、そこには絶望しかない。
《そうすればこうなるものと分っても、やらねばならぬ島人(しまんちゆ)の魂(まぶい)》。これは明治維新の英雄と称されるテロと死に急いだ者の改竄の和歌だ。
 日米安保、日米地位協定をすべてに優先する属国の国是。我々の個人の権利・自由をこれに従属させる。これが独立国家か。
 戦争反対、戦争忌避的思想の保持者を排除する、監視国家。
 一民族・一言語・一宗教と信じ込む国家主義者ども。
 尊王攘夷、鬼畜米英と叫んでいた勇ましい国は敗戦するや、その鬼畜に《初めまして、よろしくお願いします》と日本国の豹変振り。
 これを日本語では過去のことは水に流すと言う、言い得て妙である』

「同士のアクションに鼓舞されて、近日行動する、米兵を狩る、屈辱を与えてやる」

 高橋は女性であり剛柔流三段の黒帯である。「空手に先手なし」と言われるが、現実は先手を取ることで相手を制圧し、ある物は何でも使えである。
スタンガンをネットで手に入れた。十分程度行動不能にする、その間にビブスを付けさせる。体力だけの米兵であるからスタンガンを長めに当てる、両手両足を結束バンドで縛り、放置する。
 無論後ろから気配を消して近づき、スタンガンを五秒ほど撃ち続ける。暴れられたらこちらが怪我をする。
 頭からかぶる両面のゼッケンを付けさせる。ターゲットは大きなアメリカ兵、アーミーカットが目印で間違えるはずはない。
 何度も襲撃のシミュレーションをする、驚いた米兵の予測不能の動きにはくれぐれも注意する。何かあれば、とにかくスタンガンを突きつける。

 午後十時、高橋は那覇の繁華街にいる。暫く徘徊し、アーミーカットの大きい男を見つけた。駐車場に入ると後ろから付け、首筋にスタンガンを当てた。すぐに倒れて戦(おのの)いた目で高橋を見ている。車と車の間に引きずり込み、ゼッケンを付けた。それの前後には
「return to your home country」」
「we are not occupied」
 と書かれている。
 すぐに結束バンドで両手と両足を縛って放置した。離れる前にスタンガンを米兵の胸に当てた。痙攣する姿を見ると、制圧した実感が湧いた。
一一〇番をした。
 通りに出ると酔客が疎らに思い思いに佇んでいた。見た目は平和なのだ。だが米軍専用施設が国土面積の約0.六%しかない沖縄県に、七十.六%が 集中している。内地の人はこれを不公平だと思わない、理由は自分の県に米軍が来て貰っては困るからだ。
 とくに海兵隊は評判が悪い。アメリカは合理的な国であるから、真っ先に戦場に行く部隊に優秀な人材を揃えるはずがない。
 そのような彼らが日本に来たからと言っていい子になるはずはない。
 戦後七十年過ぎても、米軍基地を押し付けてなんとも思わない内地の人々、アメリカのポチの日本政府。そうでなければこの島の基地は少なくなっていたはずだ。
 我々はネットを駆使しながら行動するしかない、絶叫するしかないのだ。
 興奮した米兵の姿がアップされ、警察官二人に取り押さえられている。
 米兵はゼッケンを外され、書かれた文字を見て、元気を取り戻し汚い四文字言葉を叫び続けた。
「お前等の先輩が行った犯罪行為に比べれば、願ったり叶ったりのソフトなアタックだ。
 思い知れ、お前等は歓迎されていない。即刻、アメリカに帰れ」
 
 昼間は日本を肯定し、楽しみ、夜は書斎で沖縄への不平等を憂い呻吟するのだが、朝になればそのことを忘れている。恐ろしいことにその矛盾にこの文化人は気付かないのだ。頭だけで考えて理屈を捏ねるだけで何も行動しなくなる恐ろしい種族である。
 あなたがいる内地でただこう叫べばよい、非常に簡単なことだ。
「沖縄の米軍基地を撤去せよ、米軍基地を引き受けろ」
 だがこの島に来て活動しようと思わないことだ。
 この島の運動は島民でやる。その声の届かないあなたのいるその場所で、
「米軍基地撤去」
の声を上げ、内地の人にこの島の現状を伝えて欲しい。それこそが島の基地撤去が日本全体の大きなうねりと変わるのだ。それが島民の願いだ。
 多くの文化人がこの島に住み着いた。島人より多くのこの島の文化を学んだ。だがそれは明治の前の琉球の文化だった。この島の地上戦以降のことは三猿である。そのまま島を去り内地に帰った。
 帰る所がある人はいい、泣いても喚いてもここに住むしかない島人なのだ。そう言えば、「大和人(ヤマトゥンチユ)になりたくてもなれない沖縄人(ウチナーンチユ)」と嘆いた政権寄り政治家がいたが、今の政権寄りの政治家どもは沖縄人を飛び越えて日本人であり、そのような昔の葛藤はない。寄らば大樹の蔭である、だが選挙区はこの島だ。色々な人間がいるのは当然だが腹が立つ。基地撤去よりも本予算と補正予算の増額を当て込んだ経済優先、企業べったりの政治家だ。
 大和人にはなりたくもない、順序は一番目が沖縄人、次に日本人だ、パスポートの国籍だ、それが本音だ。
 我々は米兵、軍属に、
「ここはお前等の土地ではない、お前等は嫌われている、アメリカに帰れ」
との行動を粛々と何度でもやり続けるだけだ。

 田中はアップされた同士の起こした事件の動画を見ながら、歓喜で身が震えた。私も早く参加しなければ乗り遅れる。
 ドブ川の水が澄むのを待っていては駄目なのだ、そんなことは臆病者のすることだ。だが焦って失敗しては元も子もない。
 大胆に慎重に、夏の大会の甲子園の試合と同じ事だ。襲撃のゾーンに入るのを待て。
「サバイバルナイフ一本あれば方が付く」
 なぜ誰も傷害事件を起こさない。痛い目に遭わせなければ何とも思わない奴らだ。それにマスコミに取り上げては貰えない。SNSを大騒ぎにさせなければならない、それでこそ米兵を、軍属を震撼させるのだ。
 その一撃が今必要なのだ。
 血だ、生け贄の血が必要とされている。
 米兵を狙うが、殺しはしない、太腿を刺す。捕まれば、日本の法律に従って罪を償うだけだ。それまでは逃げる、ほとぼりが冷めた頃に又やる。
「復讐するは我にあり」、リバイバルで見た映画のタイトルだ。今の私にぴったりだ。
 米兵に殺された由美子ちゃん、国場君に思いを寄せろ、そこには無念しかない、泣き寝入り、これほどの民族的屈辱があるだろうか。
 手も足も出ず地団駄を踏むだけの島民、これが過去として水に流せるか、断腸の思いとはこのことだ。米軍統治下では私たちに人権を認めなかった。アメリカ人ではないからだ。
 誰も鉄槌を下さなかった.それが今でもアメリカに甘く見られる主たる理由だ。積もり積もった鬱憤のコザ騒動の時にさえ、黄色ナンバーのアメリカ人の車両をひっくり返して燃やしただけだ。余りに人道的だ、それでは野蛮なアメリカ人には通用しない。
 社会の正義、詰まり私の正義を第一とし、国の正義は第二である。外部からの何のサポ
ートも必要としない、必要とするのは自分に対する自信だ、ひたすらに自分の道を行く、これこそ私の正解だ。何一つ恥じることも悔いることもない、それこそ望むべき人生だ。
 ただ仕事を熟すだけの毎日、正直飽きていたが、ネットで同士に出会って激変した。毎日が充実したものとなり、淀んでいた風景までもが輝きだした。目的がある人生とない人生とではこうも違うものかと思い知った。今では毎日に生き甲斐を感じている。

 週末の米兵相手のバー街に田中はいた。午後十一時、人気は少ないが米兵の大きな話し声が聞こえる。路地にアーミーカットの巨漢が現れた。サバイバルナイフを出し太腿を狙ったが、一瞬躊躇った。米兵に反撃されて田中は吹っ飛んだ。その瞬間、殺されると思うと全てが吹っ切れた。ナイフを振り回し米兵に向かって突進し太腿を刺した。米兵は蹲った。血がジーンズから滲み出た。異風な気持ちになった、気がつくと相手が気を失うまで蹴りまくっていた。ベストからビブスを出し米兵の首に掛けた。
 前と後ろに「you are not welcomed」「Eye for an eye」と書き付けてある。
 田中は電話をして、救急車を呼んだ。そして自販機の番地を告げた。十分ほど駆けて足を止めると、かっと熱くなり四肢が震えだし止まらなかった。ナイフには生々しい血がべっとりと付着していた。歩道に止めてあるママチャリを見つけ、それに乗って家に向かった。
「きっと左目の周りに青あざができているだろうから、眼帯を買わなければ。打たれたときは痛みも感じなかった、ただ体中が熱くなった、後は無我夢中で覚えてない。打たれたところが痛くなってきた。帰ったら、氷で冷やそう」

 翌朝の新聞に「米兵刺される」と大見出しで出ていた。命に別状なし。そして今までの事件の関連性と英語のメッセージも載っていた。米兵に恨みを持つ者の犯行かとある。
 五人はこの新聞記事を読み、田中以外は戸惑った。傷害事件だ。だがそれこそが軍人・軍属のコミュニティを震え上がらせるのだ。
「次は殺す」との宣言のようにも取れ、アメリカ軍人・軍属にこの島にいる違和感を醸成するからだ。
「お前等は歓迎されてない」
 その痛烈なメッセージを告げている。彼らにとって居心地の悪い島になることがこちらの目的だ。

「どんなことがあっても殺しは行けない、これを超えれば、《命こそが宝》の金科玉条を否定することになる」
「そうだ、そうなればテロだ、戦争だ」
「動悸がよければ結果はどうでもいい、三百十万もの国民を殺した太平洋戦争の訳の分からぬ大義名分に堕してしまう」
「殺すこと、死ぬことを美学にすれば、戦争になる」
「望ましいのは、体を傷つけずにビブスを付けさせることだ」
「スタンガンの使用が一番いい、アメリカの警察もでも使っている」
「そうだ、相手に制圧されていたと思い知らせるのだ」
「そうだ、犯人がお前を殺すこともできたと実感させることだ」
「カモネギは泥酔した米兵だ、一杯転がっている。安全で拘束もしやすい、結束バンドで任務終了」
「みんな、甘い。肉体的に損傷を与えないと激しい動揺を引き起こすことができない。我々の強い意志とメッセージをアメリカ軍人・軍属に伝えなければならない、それが目的ではないか」
「それは危険だ、一歩間違えれば殺人へと続く。それは忌避しなければならない」
「憎むべきテロリストに成り下がってしまう」
「だが変革するには狂うほどの情熱を持たなければならない、常識から逸脱しなければならない、お利口さんでは目標を達成できない」
「ここのルールが守れないのなら、退会することだ。独り善がりのテロリスト、そうなれば我々がしてきたことが逆効果になる、共感を呼ぶことはできない」
「甘い、私・田中は脱退する。こんな腰抜けチームでやるつもりはない、単独犯になる」
「続けるのも辞めるのも、この会では自由だ」

 鈴木は焦った。行動を起こしていないのは自分一人だけ。即断即決、インパクトが問題だ。目的達成のためには人と違っていることを気にしてはならない、世間の常識に囚われてはならない。酒を飲みながら考え込んでいると想定からいつの間にか酩酊の妄想へと突入した。いつも繰り返さされるものだ。
 昭和三十年、永山由美子ちゃん・六歳が米兵に強姦され、殺され、遺体を海岸に捨てられた。唾棄すべき小児性愛者だ。
 報復しなければならない。どんな。同じ事をやり返す。六歳の幼児を誘拐し、殺して、嘉手納基地のフェンスの外に捨てる。
 鬼になれ。強姦して、殺し、捨てる。怒りの鉄槌で米兵・軍属の頭を心を打ち砕き、震え上がらせるのだ。
 アメリカ人よ、その無念さで怒り狂え、泣き喚け。お前等が島民、ネイティブにしてきたことだ。償いの時は来た。因果応報だ。
 アイザック・J・ハート軍曹(当時三十一歳)よ、お前が蒔いた種だ。私はけしてお前を忘れない、お前を許さない。地獄で会おう、八つ裂きにしてやる。
 いつもの夢だ。清々しい気分から急転直下して鬱になる。
 アイザック・J・ハート軍曹にはなれない、たとえ報復でも、余りに残酷だ。小児性愛者の異常殺人鬼にはなれない、人間を捨てることはできない。
 一線を越えることなど私には到底無理だ。目的は手段を正当化しない。私はアイザック・J・ハート軍曹にはとてもなれない。ここが私の限界だ。
 一人一殺、一殺多生、標的を殺し自らも死ぬテロリストのスローガン。
 テロでなければアメリカ軍人軍属を恐怖のどん底に突き落とすことはできない、だが私はテロリストではない。
「命どぅ(命こそ宝)」絶対的な拠り所だ、それを破ってはならない。

 鈴木はネットの掲示板に「草莽崛起」と打ち込み招集を掛けた。五時間後に四人が会議室の席に着いた。暫くして、思わぬ田中が現れた。
鈴木「強烈な衝撃を与えるために由美子ちゃんのように米国軍人軍属の同じ年頃の娘を殺せるか」
高橋「殺せない。命を奪うのも、捨てるのも絶対に禁止だ。
 殺しの責任を取り、私も死にますでは、十五年戦争の玉砕を命じた上官達の責任論と同じだ。これほど美名に隠れた卑劣な蛮行はない」
佐藤「命を作戦の道具にしてはならない、それを超えればただの殺し合い、戦争だ、そこにいかなる弁明の余地はない」
渡辺「殺すことは駄目だ、一人一殺は哀れなる隷従だ、転倒した価値だ」
田中「幼女を殺し、軍人軍属に恐怖を与える。それは最高の効果を生む。だが幼女を殺してそのまま遺棄できるか。普通の神経ではできない。アメリカ軍が行ってきた不条理の殺人を寝る間もなく思い歯軋りをし、屈辱の歴史を我身のものとし、終には発狂し、我身を燃え尽くして幼女の胸を刺す、そこには何もない、充足も罪の意識も。ただビブスを付けた幼女の死体が眼前に横たわる。そして二回目の発狂に至る。それこそが世の中を動かすのだ。
 我々の侃々諤々の議論はたった一つの刃(やいば)でけりが付く。我々の問題は考え込んだり想像することではない、成就することだ」
佐藤「急ぐな。今まで通りで行こう、殺しは駄目だ。戦争はしない、それが鉄則だ」
「田中の意見は無期限保留」と高橋が言い、渡辺が同調した。鈴木だけは佐藤の檄に魅せられる自分に戦いた。
 一同沈黙のまま席を外した。

明治の維新よ、我らの沖縄令和維新 :we are not occupied

明治の維新よ、我らの沖縄令和維新 :we are not occupied

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-12-11

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND