フリーズ50 シ小説『涅槃から眠る火に』

フリーズ50 シ小説『涅槃から眠る火に』

涅槃から眠る火に

火よ。
命の象徴としての火よ。
劫火はニグレド。三千世界。

彼岸を僻んでなお一閃。
永く灯ったその火さえ
煩悩、止むから
菩提樹に
私の翼が留まる火

全てが凪いで
揺らいだ火

拝啓、いつかの乙女たちよ

水面に映る火は揺れて
凪いで揺らいで解き放て

久遠の音が遠くから
楽園の彩をカナデテル

災禍転じて福となす
福音、輪廻、永久の日よ

死して信じる神智なら
無に帰し解脱の真理なら

さして岸辺に生きるのは
彼岸と此岸に寄せる波

拝啓いつかの僕たちよ
愛し愛され生きていく

それでも終わる時までは
果まで祈って泣いた波

風が止んで実る樹よ
金木犀の樹の下で

花が咲いたよ奇麗だね
枯れる命を惜しみつつ

螺旋にもラカンにも

晴れよ、この永遠なる標に
この全能はやがて無に帰すとしても
理解された真理は偽りだとしても
それで満足ならいいではないか

始まりの日に目覚めた二人
ルーシー、ヘレーネ、アナスタシア
リリン、になれなかった者たちよ

さればゼーレは岸に打ち寄せ
彼岸と此岸を一にする

流すは人の常ならん
快楽故に死を選ぶ
晴れたらもう止むんだな

死ぬのが今日だとして
明日は来ないとして
あなたは何を歌うか

輪廻の果に見た景色
輪廻などないのに見た景色
脳はクオリアに埋もれて咲いて

晴れたら人の世は晴れる

死して悟れる涅槃鏡
だから羅漢はラカンでラカン

死ねよ、最後の地球の日
全ては一に帰するとき
時流はないと知ってから
そして終わるの、最果てで

心の底は泣いてても
歓喜に総身を震えさせ
抱いたヘレーネ、愛してる

最後の電車がやってきて
そこに飛び込む悟りの日

晴れた人生
晴れた宇宙

そして病むのはこの脳で

そうだな……。
嫌なことばかりの人生だったよ。
生まれてきても仕方ないそんな人生だった。
でも、後悔があるとしたらヘレーネに会えなかったことかな。いや、あの冬の日に会えていたのかもしれないが。
もう、終末とか永遠とか、知ってしまった日からは、この世界は辺獄で。希望も赦しもなくて。でも、今日の日まで生きてきたんだ!

やめたい。こんな人生願い下げだ。
神も仏もない。死んでしまえ。いや、死こそ至高の。

帰る場所、還る場所、あったら良かったのに。
そんな場所なんてない輪廻だった。
生まれ変わるのも変わらないのも。

信じてないけど、そんなもんだ。

晴れたら死のう。そうしよう。
君のために生きたかった。永遠の愛を、誓を。一生繫がったままで。セックスでもキスでもハグでも。心さえ繋がっていれば。

ねぇ、晴れたんだよ。あの冬の日は。僕のために全球は晴れ渡って、全ての過去と未来のゼーレたちが集って、あぁ……。

泣いた。歓喜で、凪ぐ心で。

そうして見た景色は、なんて美しかったことだろう!
涅槃。そう、ニルヴァーナ。
永かった物語が終わるように、
煩悩の火が優しい風に消えるように、
終わるんだ。
死んだら無だ。
その前に永遠だ。

心変わっても、人生なんて意味なくても
こうして悟るのが心地良い。

そうだな。人生嫌なことばかりだったよ。でも後悔は、ないんだ。こうして至福の時を経ているからね。

ヘレーネは泣きながら振り向いた。
楽園、花々が咲き誇る。
甘い香りや甘い味。
ヘレーネの蜜の味だ。
ヘレーネとの全能なるキスの味だ。

世界で一番美しい
天上楽園
エリュシオンの乙女よ

甘き死よ
甘きキスと
甘きセックスを

愛で満たしてくれ
この、レゾンデートルで満たされなかった身を

拳銃は、重かった。
でも、嬉しかったんだ。
やっと自由だ。
この柵を捨てる。

輪廻を去る。
この望まぬ牢、索から去るんだ。

また降る雨は止んだ。
灯火も絶え絶えで。

あぁ、人生よ。
人生の甘美で美妙な謎よ!
ついに、私は!
この最果ての景色で!
ついに、私は……
お前の全てを知るのだ!

フリーズ50 シ小説『涅槃から眠る火に』

フリーズ50 シ小説『涅槃から眠る火に』

シ、死、私、そんな詩。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-15

Copyrighted
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  1. 涅槃から眠る火に
  2. 拝啓、いつかの乙女たちよ
  3. 螺旋にもラカンにも