騎士物語 第十一話 ~神の国~ 第七章 研究者のいらだちごと

第十一話の七章です。
恐らく過去最高に踏んだり蹴ったりな研究者。
いくつかの戦闘が起きている神の国にて、今回は主人公チームと別の学校の主人公(?)チームのお話です。

第七章 研究者のいらだちごと

「こんなにいい施設があるとはなかなかの好待遇だな、白の騎士団!」
 神の国アタエルカの第六地区の地下にある施設。多くのトレーニング機器が並ぶ部屋に筋骨隆々とした男――十二騎士の一角である《オウガスト》ことフィリウスの大きな声が響き渡る。
「呼び名の影響で誤解されがちだが、『ダイアスディアスポラ』は雇われの騎士団ではないこの国の公的機関。当然だ。」
 周りをキョロキョロしながら歩くフィリウスに対し、スタスタと進んでいく祭司の格好をした男――同じく十二騎士である《オクトウバ》は通路に沿ってあちこちのドアを開いて中を確認していく。
「しかしどういう事だ? まずは白の騎士団と合流をと思ったら街のどこにも騎士がおらず、どうみても自分の意思を失った者たちがあちこちで暴れている。魔法による移動ができないだけで動けないわけではないはず、この状況を白の騎士団が放っておくわけがない。」
「しかも白の騎士団の本拠地は見ての通りにもぬけの殻、もしかしてお前はたまたま外に出て免れただけで、教皇はレガリア以外の力でお前や白の騎士団を拘束するつもりだったのかもしれないな!」
「それがこの場所であれば良いが……人数は少ないがなまじ腕のある者たちの暴動、人数が必要――」
 話ながら歩いていた二人は施設の一番奥、両開きの大きなドアが見えてきた辺りでピタリと足を止めた。
「……あそこか。」
「結構な人数だな! 白の騎士団勢揃いか!?」
 ドアを開けてもいないのに中の様子を把握したらしい二人は視線を交わし、しかし特に身構える事もなく中に入った。
「最悪――の一歩手前というところか。」
 そこは室内運動場とでも言うべき広大な空間で床にはスポーツ用のコートが描かれていたりするのだが、そこにいたのは武装した多くの騎士たちであり、全員が床に倒れていた。
「気絶してるな! あっちもこっちもいい場所にいい一撃でバタリって感じだ!」
「一人だけ様子が違うようだが。」
 そう言いながら《オクトウバ》が指差した先、部屋の真ん中には光で出来た檻のようなモノがあり、中にはあぐらをかいて寝ている人物がいた。
「ほう! 仕上がったいい身体してやがる!」
 これが自身と同様に筋骨隆々としている人物に向けられた言葉であれば問題はなかったのだが、光の檻の中で眠っているのは初等に通うような年齢の少女であり、《オクトウバ》は何とも言えない顔をフィリウスに向けた。
「《ディセンバ》でもギリギリだと思うのだがこの歳はさすがに……」
「何の話をしてるのかはわかるがそっちじゃないぞ! こいつは相当な手練れだと言っているんだ!」
「凄腕の魔法使いだと? そんな風には見えないし感じないが。」
「だっはっは! お前みたいな魔法特化の祭司様にはわからないだろうがそっちじゃない! 大体そこに得物が転がってるだろう!」
 光の檻の中、少女の傍らにある武器屋で安売りされていそうな質素な剣を見て《オクトウバ》は目を丸くする。
「待て……では何か? この少女が剣技で白の騎士団を全員戦闘不能にしたと?」
「恐らくな! というか何だこの檻! とんでもない密度と精度だな!」
「これは白の騎士団総員で発動させる拘束魔法で眠っているのもこれの影響――いや待て、信じられん。外見と実力がかけ離れている者はそれなりにいるがいくら何でもあり得ないだろう。」
「だっはっは! 普通なら俺様もそう思っただろうが、これと似た状態になってる知り合いが身近にいるからな! まぁ俺様たちで推測しても意味がない! 何がどうなってこうなったのかも含めて本人に聞くぞ! この檻はどうやって解除するんだ!?」
「……少し待て……」
 納得できないという表情のまま、《オクトウバ》は光の檻のあちこちをコンコンと叩き、ある場所をグッと掴んでブツブツと呟くと、光の檻は砂のように崩れて消滅した。

「んん……」

 同時に中で眠っていた少女が目を覚まし、自分を見下ろす二人をぼーっと眺める。
「あー……《オウガスト》と《オクトウバ》……二人の十二騎士が起こしてくれるとは、贅沢な目覚ましもあったものだ。」
 声は少女のそれだが口調はかなり大人びており、ゆっくりと立ち上がってググッと伸びをした少女は剣を拾って部屋の出口へスタスタと歩き出した。
「ちょいちょい! 贅沢な目覚ましにお礼の一つ、状況説明の一つくらいあってもいいだろう!」
「んー……ああ、もしやキミらが出してくれなかったらかなり長い間拘束される事になっていたのか? だとすれば……いや、そもそもあれから何日経っているんだ? おい、ボクはどれくらい寝ていたんだ?」
「だっはっは! そりゃ俺様たちが聞きたい事だぞ! ここの騎士を倒したのはお前なんだろう? 喋ってみて確信したがお前、外と中のズレがとんでもないな! 魂の魔法を使ってるのか!? 一体全体どこの誰なんだ!?」
「その魔法を知っているとは博識だな、《オウガスト》。ボクは……うん、恐らく本名よりはキミらからの呼び名の方が通りがいいだろう。」
 二人の方に身体を向け、手にした剣で肩をトントンと叩く少女は自己紹介をする。

「初めまして。ボクは『絶剣』だ。」

 そしてその名乗りに対し、《オクトウバ》は「聞いた事のある名前だな」という風な顔になり、フィリウスはぶほっと吹き出した。
「おいおい本物か!? まさかこんなところで会うとはな!」
「ボクもこんなところで十二騎士に囲まれるとは思っていなかった。」
 嬉しそうに少女に近づいて腕を引きちぎらんばかりの握手をするフィリウスを横目に《オクトウバ》は記憶を辿る。
「ぜっけん……『絶剣』……そうだ、確か世界最強の剣士――だったか……こんな少女が……?」
「今は少女ってだけだ! 俺様が聞いた話じゃ超絶イケメンだった事も中年太りのオッサンだった事もシワシワのばあさんだった事もあるはずだぞ!」
「……? 何を言っている?」
 全く理解できないという顔の《オクトウバ》をそのままに、フィリウスは『絶剣』の手を握ったまま質問する。
「んで、何が目的でここにいてどんな理由でこうなってるんだ!?」
 自分の手を握るフィリウスの手をジトッと睨み、それを振りほどけないと諦めたのか、『絶剣』はため息交じりに説明をする。
「次の剣術に必要な身体を作れる者がこの国にいると聞いてやってきた。『フランケン』と言うらしいが、その名を出したら入国の際にボクを怪しんでいた連中……白の騎士団だったか? こいつらが目の色を変えてボクをここに連行した。『フランケン』とやらは連中にマークされていた重要人物か何かだったらしく、諸々面倒になったから全員倒して出て行こうとしたら強力な魔法で封じられたというわけだ。」
「だっはっは! まぁ、見る奴が見ればお前のチグハグっぷりはすごいからな! そんな変なのが『フランケン』っつーS級犯罪者の名前を出したとあっちゃ騎士団は黙ってないだろうぜ!」
「S級犯罪者? 『フランケン』が? どうりで悪人のように扱われたわけだ。」
「しかしそいつが国内にいて白の騎士団がマークしてるってのはそれはそれでどういう状況なんだ!?」
 フィリウスの問いに、《オウガスト》は少しためらいながら答える。
「……かなり以前から『フランケン』というS級犯罪者は第二地区に潜んで……いや、居住している。本人は潜伏していたつもりだったようだが、その高度な技術力を見た第二地区の技術者たちはそれがS級犯罪者『フランケン』の犠牲となった者たちに施された改造と同じである事に気がついた。だがその異常とも呼べる技術力を欲した第二地区は『フランケン』に相応の地位を与え、適当な屁理屈で白の騎士団が手を出しにくい状態にして知らぬ存ぜぬを決め込んだのだ。だから白の騎士団は『フランケン』が『フランケン』である確たる証拠を掴もうとマークしていたというわけだ。」
「だっはっは! 流石の白の騎士団も根本的に変わらないこの国の面倒臭さには手を焼いていたってわけか! しかしそうなると大将たちの話にあった裏で動くどこぞの誰かってのは『フランケン』の可能性が割と高いな!」
「? 技術者がマジックアイテムを欲しがると?」
「S級になるような連中の考える事は大体予想の斜め上に行くぞ! しかしまいったな、単純な強さで言やぁカーミラちゃんたちが負けるわけはないが、そういうのもひっくり返す狂いっぷりがS級! うっかりぶつかってなきゃいいが――おい『絶剣』、お前が白の騎士団倒したせいで国中大混乱だ! 責任取って働いてもらうぞ!」
「何故だ。もとはと言えばこの連中の勘違いのせい、ボクは関係ない。身体を得られないのは残念だがそれを作れる者が犯罪者で目の前に十二騎士がいる以上、もはやどうにもなるまい。ボクは帰る。」
 自分の手を握るフィリウスにすぅっと剣を向ける『絶剣』。たったそれだけの動作だというのに、少女の身体から発せられた剣気に二人の十二騎士は息を飲んだ。
「だっはっは、さすがだな『絶剣』! 剣術バカのお前を動かすにはそれなりの条件がいるってんなら――よし! 責任を取る――もとい手伝いをしてくれるなら曲芸剣術の使い手に会わせてやるぞ!」
 それが何の事だかわからない《オクトウバ》は眉をひそめたが、目覚めてから今までつまらなそうな顔をしていた『絶剣』の顔が目に見えて変化した。
「……あれは生み出した者が異常だっただけで自然発生はしない。つまり……育てたのか? 一からお前が……」
「おうよ! 歴代最強の《オウガスト》と言われる騎士の剣術を俺様の弟子にな!」
「弟子……《オウガスト》の……いや、常にあちこちを放浪しているこいつなら可能性は……一対一で別の要素を加えさせずに鍛える事も……」
 ぶつぶつと呟いた『絶剣』は、ため息と共に剣をおろした。
「……ここに来た事が無駄骨になったのだ、せめて他の収穫は欲しいところ……いいだろう、嘘か本当か、お前の話にのってやる。」



「ああ、あともう少しでしたね。ロイド様との夜を重ねている今のワタクシが破壊できないとは脅威ですが……ほんの一滴、ロイド様の血をいただいていれば粉砕できたでしょう。ああ、そうです、これを教訓としてロイド様から毎日血をいただくというのは……あぁ……毎日だなんて……」
 あちこちで煙があがる街の中、強力な爆弾でも爆発したのかというくらいの巨大なクレーターが出来上がっているその場所で、瓦礫に腰かける黒と赤のドレスを着た人物がうっとりしながらよだれを垂らす。
「ああ、ワタクシとしたことがはしたない……しかし困りましね。この拘束もワタクシが離れると突破されてしまうでしょうし、ここでロイド様の勝利をお待ちするしかありませんか……」
 クレーターの中心、紅い糸のようなモノで縛られて地面に括りつけられているずんぐりむっくりしたスタイルの巨大なロボットがググッと力を入れて紅い糸をちぎろうとするもできずに震えているのを見てその人物――カーミラは遠くの方を見つめる。
「これを作った者……まぁ、あの身体であればユーリがいる時点で勝ちは確定でしょうが……」
 見つめる先、遠く離れた場所で突然閃いた雷光にカーミラは不思議そうな顔をする。
「ユーリ、珍しく気合が入っていますね。」



「さっきの女と同じ、お前も化け物か!」
 銀色のアーマーを着てる……いえ、それがあいつの身体なのかもしれないけど、『フランケン』っていうS級犯罪者を名乗ったロボットみたいなそいつが右腕を前に出すと、腕のあちこちがガションって開いて中からビームが発射された。それはティアナの銃弾みたいにジグザグに動いて迫るんだけど、それ以上の速さとジグザグっぷりでビーム攻撃を抜けて『フランケン』の顔面にパンチを叩きこむ。
 殴り飛ばされた『フランケン』は身体のあちこちから空気……でも噴射したのか、器用に体勢を整えて着地しようとしたんだけど、直前に鋭い雷がその身体を貫いて『フランケン』はゴロゴロと転がった。
「が……な、くそ、この電流は……!」
 不自然に身体を震わせながら立ち上がろうとする『フランケン』に静かに近づいてくのは……『フランケン』を殴って雷を当てたのは……ユーリ・フランケンシュタイン。この前の戦いであたしたちをサポートして、今回も同じようにしようって本人も言ったんだけど……今、ユーリは一人で『フランケン』と戦ってる。

 フランケンシュタインは有名な……半分実話で半分おとぎ話。その昔、ヴィクター・フランケンシュタインっていう魔法使いがいて、人工的に命を生み出す研究をしてた。特別な魔法と人間の死体をツギハギした身体で生み出された人造人間はその後人間の女性に恋をした……とか、怪物として殺されたとか、そういう人造人間がいた事は事実らしいんだけど、その後どうなったかっていうのは色んな人が想像の物語を書いてて結末は色々――っていうのがあたしの認識だった。
 でもユーリが……ヴィクター・フランケンシュタインが生み出した人造人間の子孫が最初に会った時に本当の話を教えてくれた。
 ヴィクターの命の研究を助手として手伝った人造人間はヴィクターが病気でこの世を去る時に「フランケンシュタイン」の名をもらい、その後ツギハギな彼を愛する人間の女性と結ばれた。二人の間に生まれた子供は普通の人間とは違う性質を持っていたから人間として生きるのは少し難しいかもしれないって事で、フランケンシュタインは魔人族としてスピエルドルフにやってきたという。
 フランケンシュタインっていう種族があるわけじゃないからユーリの両親やその前の代が何の種族とフランケンシュタインの夫婦になってたのかわかんないけど、ユーリが言うには自分は初代から始まったそういう……あ、愛に壁がないっていう事の証明だって言ってた。
 そんな、正真正銘本物のフランケンシュタインと戦ってるのは騎士たちから『フランケン』っていう二つ名をつけられたS級犯罪者。最強の人間を作るとかなんとかで他人を機械の身体に改造するっていう実験を繰り返すマッドサイエンティスト。人間を作るっていう点から『フランケン』っていう名前がついたんでしょうけど……まさか名付けた騎士たちもそんな事が本物の耳に入るだなんて夢にも思わなかったでしょうね。
 愛の証明、それを誇りにしているようだったユーリの前にS級犯罪者として一族の名を名乗る者が現れた。そりゃあ……怒るわよね。

「二つ名はその者をわかりやすく示す称号のようなモノだとフィリウスに教わった。これが騎士の名乗りだというのであればまだいいが犯罪者の呼び名だと? 侮辱にもほどがある……!」
 さっき『フランケン』を貫いた鋭い雷は正確に言うと巨大な杭の形をした雷で、ユーリはそれを四つ出現させてその内の一本を『フランケン』にぶつけた。そして追加の一本を打ち込もうと近づいたんだけど、ガクガク震えてた『フランケン』の両手が爆発――いえ、手の平からエネルギーみたいなモノを発射させて、その勢いで『フランケン』はユーリから離れた。
「侮辱? どうしてそれがお前を侮辱する事になるのかわからないが化け物のクセに頭は猿か。自分にその名前をつけたのは騎士連中だぞ。」
「お前みたいな者が嬉々として名乗る事が不快だと言っているんだ鉄人形!」
 ユーリが手を振ると三本の雷の杭が一斉に放たれる。そのスピードは目で追えるような域を遥かに超えているわけだけど、『フランケン』は位置魔法の『テレポート』みたい……っていうか『テレポート』なのかしら、そんな動きで雷をかわす。
「――っ、どいつもこいつもこの身体をあまく見やがって、理解できない猿どもがっ!」
 空中でピタリと止まり、ググッと胸を張った『フランケン』の胸部がバコンって開いて、内側にあった丸い窓……? みたいなのが紫色に光る。
「――!」
 同時にユーリがガクンと膝をついて地面がクレーター状にへこんだ。こういう現象は十二騎士トーナメントの第六系統の部でよく見る光景――重力の魔法だわ。
「どういう理屈で生きてるのかさっぱりだが――」
 そう叫びながら祈るみたいに手を組んだ『フランケン』は、そのまま左腕を肩口から引っこ抜いた。ユーリみたいに生々しくはない機械的な感じで外れた左腕はそのまま右腕を包むみたいにガショガショ変形して、大砲の砲身みたいな形になる。
「お前の身体は相当もろそうだなぁっ!」
 そうして砲口がユーリに向けられたのを見てあたしたちは反射的に動い――たんだけど、初めの一歩を踏み終わるよりも早くその大砲から見えない何か――というよりは衝撃波みたいなのが発射されて、ユーリの身体の腕やら脚やらがバラバラに千切れとんだ。
「どっちが人形だよ猿ぐああっ!?」
 ユーリの身体について知らなかったらショックで気絶しそうな光景だったけど、知っていたからその状態にそれほど心配はせずにすんで、逆に知らなかった『フランケン』はバラバラになったユーリを見て隙だらけになったところに雷の杭を二本打ち込まれた。
「!? な、んだ、どうなって――ずあああああっ!?」
 空中でぐらりとバランスを崩した『フランケン』はそのまま地面に落下し、ユーリは……ふわりと浮かんだ胴体を中心にして千切れた手足がくっついて何事もなく元に戻った……
「もろいと見極められたクセに、詰めが甘かったな。」
 再度けいれんするみたいに身体を震わせる『フランケン』に、ユーリは最後の雷の杭を向ける。
「……ロイド。」
 そして構えたまま、不意にロイドを呼んだ。
「お、おう、なんだ……」
「すまない、感情に任せて……暴れ過ぎた……」
 力なく振り下ろされた手の動きに合わせて雷の杭がとび、『フランケン』を貫く。
「そろ、そろ……限界らしい……」
 さっきのバラバラ死体になったのを除くと一度も攻撃を受けてなかったユーリが急に顔色――は元から悪いわね、いきなりぐったりとして、ハッとして駆け寄ったロイドにもたれかかった。
「ローブがあっても戦闘となる、とな……神の光も、だいぶ良くない……」
 そう言われてあたしもハッとする。魔人族にとって太陽の光は身体を衰弱させるモノ――普通に昼間の今の時間はかなりキツイはずで、その上神の光も魔人族には悪影響って事だからユーリはかなり無理をしてた事になるわ。
「わ、悪いユーリ、いきなり戦いが始まってすっかり頭から抜けてた……だいぶまずいんじゃないのか……?」
「まぁ……ローブにくるんで転がして、おいてくれれば……これ以上は悪く、ならないだろう……それよりもあの人形だ……」
 ユーリが力なく指差した先、不自然に震える『フランケン』の身体のあちこちから漏電するみたいにバチバチと電気が光り出す。
「四本――打ち込んだ雷は、私の魔法を組み込んだ……あいつからすれば制御できない、不整脈みたいなものだ……あの機械の身体は、出力八割減といったところだろう……プラス、最後の一発で更に削るから……あとは、頼むぞ……」
「さ、最後の一発? おい、もう無理は――」
 ロイドが言い終わる前に、ユーリは伸ばした手をバッと開いた。

「『アインシュニット』。」

 その一言と同時に、『フランケン』の身体から漏れ出てた電流が一瞬で右腕――左腕と合体して大砲になってた腕に集まったと思ったら、雷鳴と共に大砲の腕は内側から破裂した。
「な――」
 爆散した腕の部品があちこちに転がるのを見て、登場してからずっと怒り散らしてた『フランケン』が……表情は見えないけど絶句って感じに驚く。
「あ、あり得ない……こ、この身体を……破壊するだと……?」
 茫然とする『フランケン』を前に、気を失ったユーリを地面に寝かせたロイドはポケットから小瓶を取り出し、中身をゴクリと飲み干した。その姿が黒い風に包まれたかと思うと、服が真っ黒に染まり、マントみたいに黒い霧をなびかせながらかき上げた髪の下から、黄色の右眼がその輝きを見せた。

 ロイドの中にある吸血鬼性を全開にした状態――交流祭の司会者命名、ノクターンモード。未だに理由はわからないけどカーミラからもらった……ていうか交換したらしい魔眼ユリオプスの力で魔力を未来の自分から前借りできる上、どんな魔法でも弾く「闇」を操れるようになった状態。
 この状態になると前は……なった後に恋愛マスターのせいで「ラッキースケベモード」になっちゃってたけど、ア、アレコレの理由で発動しなくなった。べ、別に発動しなくていいけど……

「S級犯罪者……たぶん、今この国で起きている騒動にも関係があって、もしかしたらサーベラスさんやヨナさんにも何か起きているかもしれなくて……本来、オレたちじゃ勝負にならない相手だと思うけど、ユーリが全力で力を削ってくれて……だから……えぇっと……ど、どうでしょうか、『ビックリ箱騎士団』……」
 ビシッと戦おうって言えばいいのに尻すぼみにあたしたちを見るロイド……まぁ、らしいけど。
「無論だ、ロイド。確かに、悪を前にしたなら正義は挑むべきと信じるおれも相手がS級となると無謀の二文字が浮かんでしまうが、この状況はそんな者を捕らえられるかつてない好機だろう。こんな場面で引っ込むような槍は持ちわせていないさ。」
 ロイドよりもよっぽど団長っぽい事を言うカラード……
「肩書きで言えば学生八人にセラーム一人、正直逃げる事を勧めたいのですが……その前にそれなんですか、兄さん……?」
 真っ黒になったロイドを微妙な顔……いえ、なんか……とにかく変な顔で見るパム。そういえばパムがこれを見るのって初めてだったかしら。
「えぇっと……吸血鬼全開モード……だよ。」
 バカみたいな説明をしたロイド……
「……まぁ、兄さんが物凄く強くなった事はわかりますし、ユーリさんが『フランケン』の中身を滅茶苦茶にしたのも感じ取れます。チャンスというのは認めますがそれでも相手はS級犯罪者ですから、これを皆さんに渡しておきますね。」
 そう言うと全員の足元から土で出来た腕が伸びて来て、その手の中に指輪があった。
「おお! もしやこれはディアーブか!」
 カラードが嬉しそうにそう言う。ディアーブって確か騎士が持ってる緊急離脱用のマジックアイテムよね……
「そうです。オズマンドやら『奴隷公』やら、何かと兄さん……たちは巻き込まれるので持ち歩くようにしていました。危険だと感じたらこれで全員を退避させますからね。」
「あ、ありがとうパム。ちなみに今、ユーリが中身を滅茶苦茶にしたって言ったけど……」
「本人も言っていましたが、『フランケン』のあの機械の身体にユーリさんの電撃が混ざっています。あの身体が魔法的に動いているのか科学的に成り立っているのか、はたまた両方か……詳細はわかりませんが、生身の人間であってもあれは普段通りに身体を動かせる状態ではありません。相性が良いと言っていましたから、生身の場合以上にあの電撃は効くのでしょう。出力八割減というのは過言ではないと思います。」
 S級犯罪者の一人をそこまで弱体化させたっていうのにそれでもユーリは本調子じゃなかった……相変わらず魔人族はとんでもないわね。
「よ、よし、それじゃあ……そ、そうだ、前みたいにみんなにもこれを……」
 ロイドがバッと手を振ると火の国でやったやつ……魔法を弾く力を持つ「闇」があたしたちの身体が覆って、まるでお葬式……いえ、カラードに言わせれば『コンダクター』のロイドが率いるオーケストラだったかしら……そんな状態になった。
「な、何ですかこれ……兄さんの趣味ですか?」
「趣味じゃありません! こ、これで魔法攻撃の威力をかなり落とせるはずだから……」
 オーケストラの一員になったパムが真っ黒になった自分の服にビックリしてると、ふと表情を険しくした。
「……皆さん、どうやら放心状態から戻ったみたいですよ。」
 腕の大砲が粉々になってからずっと茫然としてた『フランケン』がぶつぶつ言いながら立ち上がる。おかげでロイドのノクターンモードの準備はできたけど、ぼーっとしてる内に殴った方が良かったような気もする……けど、それはさすがにS級犯罪者を舐めすぎかしらね……

「これが……この身体が破壊された……世界最強は目前だと思っていたが……そうか、足りていなかったわけか……そして更なる一歩のキッカケが目の前に……」

 両腕がないからバランスを取るのが難しそうなんだけど、なんかモデルみたいな姿勢でスラリと立った『フランケン』はその顔をローブにくるまって横になってるユーリに向ける。

「その化け物だ……それの力を調べれば一段階上に……真なる最強に……自分は……!」

 ゆっくりと片脚を上に向けて……体操とかバレエの選手みたいな見事な……Ⅰ字開脚? の体勢になった『フランケン』はそのまま身体を傾けたと思うと腰を捻って両脚を車輪みたいに回しながらあたしたちの方に向かって来た。
「曲芸はロイドくんだけで間に合っているぞ!」
 そこそこの速さにローゼルがあたしたちの前に素早く出て氷の壁を展開、『フランケン』はそのまま激突――

 バキィッ!!

 ――した瞬間、無理矢理例えるなら薪を斧で切った時みたいなよく通る音が響いた。それがそこにあるって気づかないくらいに透明度の高いローゼルの氷の壁――今まで色んな戦いであたしたちを守ってくれた……本人曰くロイドとの……あ、愛の結晶とか何とか言ってるそれはとんでもない硬さで突破された事なんてほとんどないんだけど、その透明さのせいでまるで空間にひびが入ったみたいに、『フランケン』の脚が触れた場所から一筋の亀裂が走ってた。
「な――」
 この氷の壁の凄さを知ってるあたしたちはその光景に言葉を失って、ローゼルも稀に見る「衝撃的」って感じの顔になって――
「ビックリしている場合じゃありませんよ!」
 氷の壁の向こう側で次の一撃を放とうと姿勢を変えていた『フランケン』を左右から砂――いえ、岩の壁が挟み込む。その音にハッとしたあたしたちは『フランケン』が岩の壁を避けて真上に跳躍してるのを視認し、同時にその背後に出現した巨大な金属のハンマーに叩きとばされるのを見た。
 やっぱり両腕が無いからいざって時にバランスが崩れるのか、『フランケン』は受け身もできずに地面を何度かバウンドして瓦礫の山に突っ込んだ。
「S級犯罪者というのはそのほとんどが「強い」からではなく「厄介」だからそのランクに振り分けられています。凶悪な性格かイカレた趣味か、常軌を逸した何かをもとにして生まれた頭のおかしい魔法や技術を身につけた連中です。ローゼルさんの氷の強度は知っていますし、あんなふざけた動きで亀裂が入るようなモノではないですが、そういう常識が通じないのがS級犯罪者です!」
 この中で一番年下だけど一番実戦経験の多い現役騎士のパムがあたしたちに活を入れるように手を叩きながらそう説明する。
 相手はS級犯罪者、普通だったら十二騎士クラスが相手にするような敵。両腕がなくなってパワーが八割減だったとしてもそれでようやく勝負になるか、まだ全然足りないか……それくらいの心持ちで行くべきよね……!
「クソッ! センサーがほとんど動かない――目だけで見るのは久しぶりだぞ、クソが!」
 意味の分からない事を言いながら糸でつられてるみたいに気持ちの悪い立ち上がり方をした『フランケン』がその顔――目とか鼻とかがないのっぺりとしたデザインのそれをあたしたちの方に向けると、その顔がガションって左右に開いて中から赤いガラス玉みたいなのが――

 ズアァッ!!

 直感的に何かが来るって思ったあたし――いえ、あたしたちは顔の向いた直線状からそれぞれに跳んで離れて、直後走った光線が地面をえぐるのを見た。
「クソがあああああ! 発射にラグがありやがる!!」
 アンジュの『ヒートレーザー』とか第三系統の光の魔法で出来たビームとかと違って熱が感じられない変な光線……確か『ケダモノ』との戦いで先生が相手をした奴がこんなのを使ってたわね。
「どうやら本人の予想以上に身体の機能が低下しているようです。それを把握される前に叩きますよ!」
 パムが手にした杖をグルグル回して地面に突き刺すと、地団駄踏んでる『フランケン』の周りに無数の人――ゴーレムが出現した。岩の塊みたいな巨体で暴れるイメージが強い第五系統の土の魔法の代名詞でもあるゴーレムだけど、パムが作るそれは体術を再現できるくらいに精密に動く一人の戦士。それぞれに武器を持って迫る無数の戦士たち――だったんだけど、『フランケン』の直前まで近づいた数体が腰の部分で切断された。
「土くれで攻撃とはなめてんじゃねぇぞ!!」
 片脚を軸にした鋭い蹴りや、さっきの曲芸で回転しながらの連続攻撃。一人で対処しようと思ったら規模の大きな技で一掃するしかないようなパムのゴーレム軍団の総攻撃を足技だけで迎えうつ『フランケン』。その動きは武術の達人――なんてモノを遥かに超えた異常なモノで、普通の人間ならそういう風には動かないって感じの動きでゴーレムたちを切り刻んでいく。
 あの蹴りは打撃じゃなくて斬撃なのね……
「みんな、パムさんに続くぞ!」
 先陣を切ったパムに負けるなと全員に号令を出したのは団長のロイドじゃなくてカラードで、むしろロイドは「おーっ!」って返事してて……まぁいいわ……
「輝け! ブレイブアーップッ!」
 全身甲冑を金色に輝かせたカラードは跳躍し、パムのゴーレム軍団を飛び越えて真っすぐに『フランケン』に迫った。
「猿がぁっ!」
 ゴーレム軍団の相手をしながらもカラードの動きをきっちり捉えてた『フランケン』が変な体勢で蹴りを放つけど、カラードは相変わらずのデタラメ体術でそれを回避、『フランケン』の真横に着地すると同時に――
「刻め! ブレイブラーッシュッ!」
 超速で繰り出される連続突き。ゴーレムの攻撃もある中でそれを放たれ、流石に対応できないと思ったのか、膝を曲げた状態でグイッと上げた片脚が……その膝の辺りで回転を始め、ロイドの回転剣みたいに回る膝から下の部分を盾みたいにしてカラードのランスを防御する。

 ガガギンッ!

 一瞬の間にランスの先端と『フランケン』の脚が何度も衝突し、『フランケン』の身体が一瞬宙に浮く。その隙を見逃さなかったパムがバッと杖を振ると『フランケン』の近くまで来てた何体かのゴーレムがグニャリと変形して、異常な動きをしてた両脚とさっきビームを発射してた頭の部分を縛り上げた。
「アレク!」
「おうよ!」
 そうして無防備になった『フランケン』の正面に立ってランスを構えたカラードの呼び声に、カラードが跳躍したと同時に走り出してたアレキサンダーが『フランケン』の背後でバトルアックスを構えた。
「「はあああああっ!」」
 息の合った同時攻撃。カラードのランスが胸の辺りを、アレキサンダーのバトルアックスが首を、それぞれ狙って渾身の一撃を打ち込む。これで『フランケン』は両腕が無いのに加えて胸に穴が開いて首がとぶ――

 ガキィンッ!!

 ――と思ったら予想とは違った音が響く。両脚と頭を縛られた完全無防備の相手に叩き込まれた強化コンビの一撃は、それぞれあっけなく――弾かれた。
「な――」
「――んだこの硬さ!」
 二人が息の合った驚き方をした瞬間、唯一砂に縛られてなかった胸の部分がガションって開いて、それを見たカラードは位置的にその状況が見えてないだろうアレキサンダーの方に跳躍、ラリアットの勢いでぶつかった。

 ――ゥゥウウンッ!

 二人が『フランケン』から数メートル離れたところで聞いた事のない変な音が唸り、『フランケン』を縛ってた砂が弾け飛んだと思ったら周囲の地面に無数の亀裂が走った。
「――っおお、危なかったぜ! 悪い、カラード!」
「いや……それよりも困った事になったぞ。ロイド!」
 強化コンビのあっという間の攻防に若干ポカンとしてたロイドは呼ばれてカラード――が指差してる甲冑の脚の辺りを見た。ロイドの「闇」に覆われてブラックナイトになってたブレイブナイトだったんだけど、その部分は綺麗にえぐれてて中身――カラードの脚が見えて……え、ちょっと待ちなさいよ……
「甲冑が――いや、というかその脚は大丈夫なのか!?」
「問題ない、ギリギリ表面を削られただけで済んだが、少し遅かったら片脚を奪われていただろう。問題なのは――」
「……オレの出した吸血鬼の「闇」が効いてないって事だよな……」
 本来はありとあらゆるモノを弾いたり飲み込んだりできるらしい吸血鬼の「闇」。ロイドの吸血鬼性は少しだけだからそこまでには至ってないけど、魔法であれば何でも弾けてしまう。それが突破されたって事は……
「S級犯罪者の力は吸血鬼の力も超えるのか……!」
「いえ、恐らくそうではありませんよ、兄さん。」
 驚きながらも険しい顔になったロイドに対して、パムが真っ黒になってる自分の服をつっつきながら首を横に振る。
「正直言ってこの……「闇」という代物は規格外です。これを突破する魔法というのは想像もつかない――と言いますか存在する気がしません。なので結論は、さっきの攻撃が魔法ではなかったという事です。」
「え……えぇ? あ、あのパムの砂を吹っ飛ばしたり地面にひびを入れた……あれが!?」
「『フランケン』がS級犯罪者なのは凶悪な迷惑さと常軌を逸した科学技術故です。理解を越えた科学は魔法にしか見えないという事ですよ。」

「クソ……クソッ! この出力でフリーズだと!?」

 砂の拘束から解放されたのに縛られた時の体勢のままで固まったまま文句を叫ぶ『フランケン』。隙だらけもいいところだけど強化コンビの一撃が入らないとなると……
「そーだ、こーゆー時こそ商人ちゃんの技じゃないのー?」
 アンジュが言ってるのはリリーの『スプリット』。ラコフとの戦いの時にロイドの……バカのせいで覚醒したっていうか、たぶん元々リリーの中にあった可能性が引っ張り出された結果生まれた魔法。空間を位置ごとずらして目の前の者を切断――いえ、引きちぎる技。ラコフにやった時は後ろの風景まで巻き込んじゃってたけど、それを改良して写真を撮る時みたいに両手でフレームを作ってその枠内に収めたモノをずらすっていう技になった。
「うむ、あの技なら相手の硬さはあまり関係……ん? リリーくん?」
 リリーの方を向こうと思ったらそのリリーがいなくて、いきなり「びゃああ!?」っていうロイドのまぬけな声が聞こえたからそっちを見たら、リリーはロイドの背中に抱きついて――って何してんのよ!
「リリーひゃん!?」
「ボクもぅダメ、ロイくんギュッてして?」
「どどど、どうしたのいきなり!?」
 わたわたする真っ赤なロイドの腕の下から手を伸ばして『フランケン』を指差すリリー。
「あいつ、すっごく気持ち悪いの。身体の表面をそこに何もないのに何かの位置情報がずーっと這い回ってるの。あいつが視界に入ると位置魔法が狂っちゃう……ロイくんにチューしてもらわないとボク頑張れない。」
 よく見たら本当に気持ち悪そうな顔になってるリリー……そういえば……
「……あいつがさっき撃ってきたビーム、この前の『ケダモノ』との戦いで先生が戦ってた方が使ってたのと似てたわ。先生に聞いたら位置エネルギー砲とか呼んでたらしいわよ。」
「ふむ……呼び名からして位置の魔法と関係がありそうだが、それが身体を覆っているという事はわたしの愛の氷に亀裂を入れたのもブレイブナイトたちの攻撃が効いていないのもその力によるものなのか……? しかもそれは魔法ではなくただの科学技術だと……」
「仕組みはわかんないけどさー、結局あたしたちにできる事で効きそうなのを探すしかないよねー。可能性ありそうなのはお姫様の馬鹿力パンチとロイドのベルナークの剣の本気モードかなー。」
「誰が馬鹿力よ……」
 でもアンジュの言う通り――べ、別にあたしは馬鹿力じゃないけど、効きそうなのを探すしかないっていうのはそうだわ。魔法にしか見えない科学なんてどうしようもないし……

「こっちの兵装軒並みカスにしやがって! こうなったら新しく作るしかねぇじゃねぇか、クソ!」

 あたしたちが話してる間に動けるようになったのか、イライラマックスで地面を踏んだ『フランケン』は、位置的に口にあたる場所がガチャンって開い――たと思ったらそれは頬から喉まで裂けて行って……どう表現すればいいのか、上半身が気持ち悪く開いて丸ごと口みたいになった……
「があああっ!」
 そして叫びながら瓦礫の方に走っていったかと思ったら、たまたま突き出る形でそこにあった鉄筋にかぶりつく。口を動かして食べるっていうよりは、口の奥にミキサーでもあるのか、削るみたいな金属音を鳴らしながらその鉄筋を口の中に押し込んでいく。
「なんだあいつ、鉄を喰ってるのか!? あれがエネルギー補給って事か!?」
「いやアレク……あいつはさっき兵装を新しく作ると言った……恐らく、その為の材料集めだ!」
 そう言いながら踏み込もうとしたカラードを砂で出来た手が制し、同時に『フランケン』の周りに巨大な金属のハンマーが出現して鉄筋を食べてる『フランケン』に振り下ろされる。物凄い轟音が響いたけどその一瞬前に跳躍してた『フランケン』はくるくると身体を回転させながら綺麗に着地した。
「邪魔するんじゃねぇよ、猿が!」
 両腕がないからちょいちょいバランスを崩してた『フランケン』だったけど、突然の攻撃にもすんなり対応した今は――その身体に新しく、金属で出来た尻尾がついてた。
「こんな原始的な武器で相手してやるんだ、感謝しろ!」
 その尻尾が縦に裂けたかと思ったらあっちこっちに伸びて、瓦礫の中からさっき食べたみたいな鉄筋とか……とにかく金属でできたモノを『フランケン』の方に運び、大きく開いた口の中に放り込んでいく。耳を塞ぎたくなる金属音と共に大量の「材料」があっという間に『フランケン』の体内に消えていき、今度はその背中から巨大な腕が二本出現する。
「腕の接続がイカレてるせいでこんな無様……そこの化け物はバラバラに解剖して百二十パーセント利用し尽してやる……!」
 絶対に飲み込んだ量と出来上がった追加の部分の大きさが合ってないんだけど、『フランケン』は両腕無しのマネキンみたいな状態から、金属の尻尾と金属の両腕を生やした怪物になった。
「やはり長引くほどにあちらが本領を発揮しそうだな。『ブレイブアップ』を使うタイミングは間違っていなかったようだ。」
 金ぴかの甲冑で眩しいカラードが一歩前に出る。
「先ほどの感覚、どうにもおれやアレクのようなパワー一辺倒では有効打を入れるのは難しいらしい。残りの時間、アレの手の内を引っ張り出し、あわよくばいくつかダメにする事に全力を注ごう。アレク、付き合ってくれるか。」
「おうよ!」
「ちょ、ちょっと待てよ! 二人のパワーはどっかで必要になるし、『ブレイブアップ』も途中で解除できるようになったんだろ? 今からでも……」
「そうじゃねーんだ、ロイド。さっきの一発で……なんつーか直感したんだ。たぶんアレには俺らみたいなパワーだけの攻撃は効かない。風とか炎とか、別の何かが要る。」
「特別な、と言った方がいいかもしれない。なに、別に今から特攻しようという話ではない。ロイドたちは今からのわずかな時間をこの後の戦いの参考にして欲しいのだ。」
 そう言ったカラードはランスを天に掲げて叫ぶ。
「ブレイブアップ・プロパゲイトッ!!」
 甲冑の足元からその金色の光が伸びてアレキサンダーの身体を覆う。カラードの滅茶苦茶な強化魔法、『ブレイブアップ』を他人にかける……っていうか伝播させる技。『ブレイブアップ』同様、発動時間はほんの数分で使い終わったら反動で身体を動かせなくなる。
 つまりここから少しの間、強化コンビはフルパワーで暴れて……その後は戦闘不能になる。
「「おおおおっ!!」」
 一歩踏み込むと同時に、金色に輝く二人が『テレポート』と見間違えるくらいの一瞬で『フランケン』に迫り、左右からそれぞれの武器を同時に叩き込む。だけどそれらは左右に伸ばした『フランケン』の新しい腕に止められた。
「――っ、バカ力が!」
 新しい腕には本体ほどの強度がないのか、それとも位置エネルギーとかいうのが巡ってないのか、止めはしたけど遠目にもわかるくらいに軋んだ腕で、それでも二人の武器を掴んで振り回し、二人を互いにぶつけようと腕を振る。だけどぶつかる直前、二人は互いの両足を合わせて衝撃を殺し、そのまま互いの足を足場にして左右に跳躍した。
「んがっ!?」
 まるでくっつけようとした磁石が同じ極同士で反発したみたいに『フランケン』の腕は左右に引っ張られ、さっきの軋みが効いてたのか、根本からあっさりと千切れた。
「は! 新しいおてては随分と脆いんだなぁ!」
 自分の武器を掴んでた『フランケン』の腕を振りほどき、アレキサンダーは着地と同時にその場で思いっきりバトルアックスを振った。アレキサンダーが得意とするのは強化魔法で全身を硬くする事や動体視力を引き上げる事、そして強化魔法を短い時間に凝縮する事で放たれる瞬間的で爆発的なパワー。そのインパクトは爆風を巻き起こして再び腕のなくなった『フランケン』を吹き飛ばす。
 勿論、カラードの方に。
「貫け! ブレイブチャージッ!!」
 飛んできた『フランケン』目掛けて突撃するカラード。一本の黄金の槍と化したカラードの接近に、『フランケン』は尻尾で器用に体勢を整えて顔をガションと開いた。またビームが――
「ブレイブ――ストライクッ!」
 空中で、しかも『フランケン』に向かって絶賛突進中だっていうのに、腰を捻って身体をぐるんと一回転させたカラードはそこからランスを投擲した。
「なんだそばっ!?」
 顔を開いたままカラードのバカみたいな体術に驚くのも束の間、『フランケン』の顔面――ビームの発射口なんだろうガラス玉みたいな場所にランスがヒットして首がもげたんじゃないかってくらいの勢いでのけぞり、ひっくり返って倒れる『フランケン』。
「流石だぜカラード!」
 ランスを投げても突進の勢いはそのままに『フランケン』の方に飛んでってたカラードをキャッチして着地するアレキサンダー。まるでユーリの思考を伝える魔法が合った時みたいなコンビネーションだわ……
「曲芸さらしていい気になるなよ猿がっ!」
 カラードのランスを乱暴に放り投げながら起き上がった『フランケン』はそう叫びながら再度周りの金属を飲み込み始める。顔のガラス玉には傷一つないっぽいわね……あの威力をまともに受けてノーダメージなんて……
「猿のお遊戯に付き合ってやる!」
 ギリギリと嫌な音の後に再び背中から生える腕。今度はさっきのよりも頑丈そうなゴツゴツした腕で火の国にいたゴリラみたいに噴出口みたいのがついてて……案の定そこから爆炎を噴き出し、それに引っ張られる形で宙に舞った『フランケン』はその拳を強化コンビに定める。
「カラードの渾身のランスも無傷かよ! だがまぁ、パワー勝負してくれるってんならありがたいこった!」
 対するはカラードが上に乗ったバトルアックスを構えるアレキサンダー……って何してんのこいつら……?
「らああああっ!!」
 飛び上がった時とは比べ物にならない爆音と共に超加速でふっ飛んでくる『フランケン』に――
「いけええええっ!」
 野球のバットみたいにバトルアックスをフルスイングするアレキサンダー。その勢いで発射されたカラードはランスが無いから片腕を真っすぐと伸ばしたマンガのヒーローみたいな姿勢で、だけどどういう理屈なのか――空気でも蹴ったのか――途中で更に加速した金色の弾丸は真っすぐに『フランケン』の剛腕に突撃した。

 ――ゴォオンッ!!

 そこそこの高度でぶつかったはずなのに地面の瓦礫がふっ飛ぶくらいの衝撃が轟音と共に広がる。アレキサンダーがカラードをバトルアックスに乗せた辺りからローゼルが展開してた氷のドームの中からそれを眺めるあたしたちにはそよ風一つ来なかったけど、周りは一瞬で更地みたいになった。そして数秒後、ぶつかった二人が空から落ちてきて……カラードはアレキサンダーがキャッチし、『フランケン』は常人がやったら両脚の骨がグシャグシャになりそうな直立の姿勢で着地する。
「今のに全部込めた。おれはここまでだ。」
「んお、俺のブレイブアップも切れるって事か。動けなくなる前に退避だな。」
 ぴょんと跳んであたしたちの方に戻った強化コンビは、着地と同時に地面に転がった。
「ひー、相変わらずブレイブアップの反動はやばいな! 後は任せたぜ!」
「多少だが手応えがあった。ユーリ殿ほどではなくとも、何かの機能を低下させられていたらいいのだが。」
「金属を取り込むあれの周りから瓦礫を一掃しただけでも充分な働きですよ。現役騎士も顔負けのパワーですね、お二人は。」
 転がった二人に小さく拍手を送ったパムは、『フランケン』の方に視線を戻してニヤリと笑った。
「なるほど、手応えの通りだったようですね。」

「な……が……」

 カラードとぶつかった腕……が生えてる背中辺りからバチバチと電気が漏れる『フランケン』。腕そのものは何とも無さそうなんだけど本体の方にダメージが行った感じかしら。
「ク、ソが……機構が正常に動いていればこんなバカな事は……」

 最初に登場した時にあたしたちに向かって撃ったビームに加えてユーリとの戦いの中でも色んな攻撃を発射してた腕が無くなり、本人の反応からすると顔から発射されるビームもラグがあるらしく、胸の部分から発生してるっぽい攻撃も使ったら身体が動かなくなって、パワーでねじ伏せようと思ったら身体の中にはその衝撃に耐えられないような不具合があって……全快の状態だったらどうしようもないくらいの強さだったんだろうけどあっちこっちをここまで使えなくされて……なんだかかわいそうになってきたわ……

「クソ……クソックソッ、最悪だ! 世界最強になる自分が……あいつらをたよ――頼るなんざ――クソがああああぁっ!!」

 今更ながらどこから声が出てるのかよくわかんないけど、空を仰いでそう叫ぶと同時に顔がガションって開いて今まで一番眩しいビームを真上に放った『フランケン』。攻撃というよりは何かの合図みたいな……あいつらって、まさか他に仲間が――!?

「ああ、愛しい人!」

 あたしと同じ考えに至ったらしい他のみんなも誰かが来るんじゃないかって身構えた瞬間、『フランケン』が上に向かって発射したビームに応えるみたいに天から数本の光の柱が降ってきて、その内の一つから教会のシスターみたいな服を着た女が登場した。
「こうして直接お目にかかるのはいつ以来――感激だわぁ……」
 そしてそんな格好をしておきながら『フランケン』に近づくと身体をくねくねさせながら密着する……何なのよこいつ……

「おお、我が主!」

 変なシスターの登場に微妙な反応のあたしたちをよそに、別の光の柱から今度は全身黒ずくめの忍者みたいな奴が出て来て、『フランケン』のすぐ傍まで来て跪く。
「主からの招集をどれほど待ち望んだ事か――ついにその時なのですね!」

「主君!」
「ご主人様!」
「友よ!」
「同胞よ!」

 別々の光の柱から続々と登場する変な連中。それぞれに違う呼び方をしながら『フランケン』によくわからないジェスチャーを見せたり肩に手をかけたり敬礼したりしながら集まっていったそいつらから……種類は違うけど好意的な視線を向けられるもそれを全部無視する『フランケン』は消えていく光の柱を見上げていた。
「メインバフだけ……しかも半数……! あの女がシステムを壊したせいで……!」
 そしてやろうとしてた事と実際の状況に違いがあるらしく、苛立ちを見せながら自分のすぐ横まで来てた奴のお腹に蹴りを入れる。「ゴフッ」っと痛そうな声を出したそいつは……だけど口から垂れ落ちるよだれをそのままに再び崇めるような表情で『フランケン』に近づいて行った……
「い、一体何なのよあいつら……」
「どう考えてもまともではありませんね。」
 思わず口に出た感想にパムが同意し、手にした杖を『フランケン』に向ける。
「てっきり応援を呼んだのかと思いましたが、大した強さも感じないほとんど一般人のようですね。それとも、その身体と同じで彼らもロボット人形なので?」
「……ロボット人形……知識のない奴が言いそうな頭の悪い造語を言いやがって……」
 身体からまだバチバチと電流を漏らしながら、だけどスラリとモデルみたいな立ち方になった『フランケン』は尻尾を分裂させ、それぞれの先端から細い……ワイヤーみたいのを伸ばして自分の周りに集まった連中の腰とか腕に巻きつけていく。
「これは全ての地区から情報を集める為にばら撒いたただのデータロガー、その中で地区ごとの情報をまとめる役割だったメインバフ……ロガーは合計で百近くいたというのにあの女のせいで制御を失って暴れる始末……! その上これをロボット人形とか呼ぶバカ猿共に苦戦……ああ、クソ! ことごとく邪魔しやがってどいつもこいつも……!!」
「ひゃ、百近い……ロガー……」
 正直あたしには単語の意味がわかんないんだけど、何かに気づいたらしいティアナがハッとした顔になる。
「ロ、ロガーっていうのは……ざ、ざっくり言うとデータを……記録する、モノで……あ、あの人たちをそう呼ぶっていう、事は……」
「なるほど、つまり彼らがあの教皇の言っていた「自分たち以外に裏で動いていたスパイ」、そしてそのリーダーが『フランケン』……つまりはこの騒ぎの元凶は……」
「元凶言うなら自分じゃなくてあの女だろうが! 騎士の端くれ名乗るならあっちのS級を捕まえてこい!」
 あっちのS級――結構無視できない一言が出たんだけど、あたしたちはそれ以上のモノに頭を持って行かれる。
 光の柱から現れた連中――『フランケン』が各地区に潜ませたスパイだったらしい連中の腕とか腰に巻き付いてたワイヤーが同時に巻き取られてそれぞれの部位が――切断された。
「! 何を――!?」
 いきなりの光景にあたしは目を背ける。ついこの間も見た似たような光景――『ケダモノ』のチェレーザが犯罪者たちの身体をワイヤーでぐちゃぐちゃと操ってたそれを思い出して吐き気を覚えるあたしに対し、パムは……現役の騎士だから見慣れてるとかは思いたくないけど、視線はそのままに警戒を強めた。
「そこの化け物のせいで自分の身体――最も完成に近かったこれが使い物にならない……はなはだ不本意だがこいつらを再利用する。」
 敵から目を背けるなんて戦闘中にあり得ない……頑張って『フランケン』に視線を戻したあたしは……身体のどこかが切断されて血も大量に出てるっていうのに未だに『フランケン』に心酔したような顔で寄り添ってる連中にゾッとし、そして『フランケン』がフリスビーみたいな円盤を宙に放り投げるのを見た。それはある高さまで行くと空中で停止し、まるで鳥かごみたいにガチャガチャと……どう考えてもその円盤の中には収まらない量の機械が伸びて『フランケン』たちを囲って行く。
「まさかあれは――!」
 何かを察したパムが巨大な拳を作って『フランケン』に攻撃を仕掛けたけど、機械の鳥かごから生き物みたいに伸びたよくわからない形をした部品がバリアみたいな何かを展開してそれを防ぐ。
 そして鳥かごの中では……身体がバラバラになった連中のそれぞれの部位を機械の腕が掴んで……何かの工場みたいに火花を出しながらつなぎ合わせてく。理解の追い付かない光景に思考が止まってると、『フランケン』が糸の切れた人形みたいにバタリと倒れ、機械の鳥かごは元の円盤状にガチャガチャと戻った。
 残ったのは……この場に集まった『フランケン』のスパイ――性別も年齢も違う合計六人の身体がツギハギでくっついて出来上がった身体。上半身の半分くらいがシスターの服を着てた女で、それに違う男の腕とか他の奴の脚とかがつなげられてる。つなぎ目を含んだ身体のあちこちに機械がくっついて……元の持ち主だった連中は気持ち悪いくらいに幸せそうな顔で足元に転がってる。
 ……まるで……人間の死体を使って新しい人間を作ったっていうフランケンシュタインのおとぎ話そのまま……
「……先の機械は『フランケン』が一般人を無理矢理改造する際に使うと報告されていたモノ……まともに動かなくなった身体の代わりに、スパイたちの身体を……仲間を犠牲にしてもう一つ新しい身体を作ったわけですか……!」
「仲間? 自分にそんなモノはない。」
 さっきまで聞いてた『フランケン』の声とは違う声――『フランケン』を愛しい人って言ってたシスターの声でツギハギの身体がしゃべり出す。
「学習しろ猿、さっきロガーだと言っただろうが。各地区から適当な奴を選んで改造し、情報収集に必要な機能を与えたのがこいつらだ。分類するならただの駒、改造に使った部品を再利用する事の何が悪い。」
 今まで機械の身体だったから表情が見えなかったけど、シスターの顔でそう言った『フランケン』は、「どうしてそんな事もわからないのか」、「常識だろう」とでも言うような表情でそう言った。
「それに頭をいじくって自分に最高レベルの感情を抱いていた。身体を切断されても笑顔だったろ? 本人たちは幸せの内に機能停止、ウィンウィンだ。」
 狂った事を当然の事みたいに言いながら両の手の平から光の刃を出し、それを見て『フランケン』は顔をしかめる。
「クソが、この程度の出力……急場しのぎにしても使えない身体――」

「もう喋るな。」

 その一言と同時に真っ黒な剣が『フランケン』の足元に突き刺さる。そして剣から黒い霧が広がり、『フランケン』がバラバラにしたスパイたちの身体を覆った。
「……何のマネだ?」
 ふわりと浮いた黒い霧はスパイたちの身体を包んだままあたしたちの方に移動し、後ろで休んでる強化コンビの隣にふんわりと着地する。黒い霧――「闇」は消えず、まるで大切なモノを大事にしまうみたいな、そんな雰囲気でそこにあり続けて……あたしたちはそれをやったロイドの方を見た。
 そして……息を飲んだ。
「それらに組み込んだ機械部品は既にこの身体の中だ。残りモノを回収したところで何も得られな――」

 ゾンッ!

 あまり聞いた事のない音がして『フランケン』が土埃に包まれる。いえ、正確には『フランケン』が立ってた場所……一瞬速く動いてそれを回避した『フランケン』は少し離れた所にいて、だけど自分に向かって飛んできた攻撃が何だったのかを見て目を丸くした。
 それは無数の黒い剣。十や二十じゃ足りない、百は軽く超えてるだろう大量の黒い剣が地面に突き刺さってる。さっきの音は、これが同時に――全く同じタイミングで地面を貫いた事を意味してる。
「自分の耳でも音は一回だったぞ……なんだ、化け物はもう一人いたのか。」
 シスターの顔が向いた先――あたしたちの真ん中辺りに立ってるロイドは……怒ってた。

「駒だの部品だの、お前は人を何だと思ってる。一体何様だ。」

 それは前の選挙戦で見せた、フィリウスさんが言うところの「ブチ切れた」ロイド。大体の人は怒ると感情を爆発させて暴れる感じだけど、ロイドはたまにいるその逆のパターン。怒るほどに淡々と、冷静――冷徹に自分を怒らせたそれをどうしてやろうって考えるタイプ。
 選挙戦でのスオウとの戦いでは回転剣を完封する超速の抜刀術に対抗するため、怒ったロイドは普段剣を回転させるのに使ってる「風」を攻撃手段として一段階進化させた。
 そして今のロイドはカーミラの血で吸血鬼としての力を引き出した状態……これであの怖いロイドになったら何が起こるか想像もつかない……
「何様か。別に神を名乗っているわけじゃないが、バカは猿として――っ!!」
 喋ってる途中で真横に大きくジャンプする『フランケン』。直後、さっきまでいた場所に深々とした斬撃が刻まれる。
「お前への問いかけと思ったのか? ただの独り言だ、馬鹿。さっき喋るなと言っただろう、「猿」が。」
「クソガキ――が……」
 イライラとした顔をロイドに向けた『フランケン』だったけど、その表情がみるみるうちに驚愕に変わっていく。

「少し前のオレだったら、犠牲になった人たちの身体で作られている今のお前を攻撃する事をためらったかもしれない。でも、今のオレにその人たちを助ける手段はなくて、そのためらいが足を引っ張って大切な人に害を及ぼす可能性を考えれば……加減の必要は一切ない。」

 真っ黒な服を飾ってた真っ黒なマント――ロイドが吸血鬼をイメージした結果そういうデザインになったんだろうそれが本物の翼みたい大きく広がって、さっき降り注いだ数を遥かに超える数の真っ黒な剣が空中に浮かび、その二つの影響で空が黒く染まる。

「本来はもっと強いお前がそこまで弱体化している現状は、これ以上犠牲者を増やさない絶好の――千載一遇のチャンスなんだろう。未来にいたかもしれない犠牲者が、今オレの手の届く範囲にいる。だから騎士として、守る為に戦う。」

 薄暗くなったこの場所に煌々と輝く光は二つ。吸血鬼にだけ発現する魔眼ユリオプスが放つ黄色。そしてロイドの両手で回転するベルナークの双剣が描く綺麗な円――世界中の騎士が探し求めるベルナークシリーズに秘められた真の力、高出力形態が発動した時に見せる青色。

「何より、お前みたいな奴の言葉をもう聞きたくない。」

 怒りを含んだ一言と共に黒い風と青い光が走り、空を覆う暗黒が暴雨のように降り注ぎ始めた。



「どうですか、素晴らしいでしょう。ほら、また一つ。」
 真っ黒な怒りが空を覆っている頃、田舎者の青年らと別行動となっていたカペラ女学園の生徒たち、その内の一人であるラクス・テーパーバゲッドはアタエルカ第五地区の統率者である教皇、フラール・ヴァンフヴィートと交戦していた。
「――!!」
 フラールが人差し指をラクスに向けると、その指先から真っ白な光線が放たれる。それは人間を丸のみできる大きさの一撃だったのだが、ラクスが両手を前に出すと鏡のような金属光沢を持つ板が出現してその光線を明後日の方向へと反射した。
「良いですね、これで今のような攻撃にも対応できるようになりました。さぁ、まだ勝負は続いていますよ。」
「あああああああっ!!」
 ラクスに身体的なダメージはほとんどない。だが何か苦しそうな、心の中で葛藤が続いているような叫び。本当にそれでいいのかという疑問を抱きながらも何かの誘惑を振り切れずにいる――そんな表情のラクスを、クラスメイトであるプリムラたちは不安な顔で見つめていた。

 この戦いが始まる前、田舎者の青年らと別れた後、フラールは再度ラクスを勧誘していた。


「わたくしは強さを求める者が集う第五地区の教皇、貴方がそれを求めている事は見ればわかります。騎士を目指しているのですから当然だろうと周りの方は思うかもしれませんが貴方の想いは少し違う――そうですね?」
「さっきから何を言っているのかわかりません! ラクスさん、一体どういう事なのですか!? 新たな力――片鱗とは何の事ですか!?」
 プリムラの問いかけに応える事はなく、様々な感情が混ざったような顔でフラールを見ているラクスに代わり、そのフラールがニコニコと解説を始める。
「『聖剣』を手に入れる際の邪魔となり得る各地区の精鋭を遠ざける為、「レガリアを持って国を出ようとしている」という事にした皆さんを囮にした事はお気づきですね。ついでにアタエルカから締め出した《オクトウバ》の注意もあわよくばあなた方へと思っていましたが……まぁそれはいいでしょう。貴方方は各地区の精鋭と交戦し、苦戦し、そしてラクスさんの進化を目にしたのでは?」
「進化……?」
「あんたはあの踊り子と戦ってたから見れてないだろうけど、ラクスがいきなり数の魔法を使いだしたのよ。」
 プリムラの横、赤い髪を揺らすリテリアがそう言うとプリムラは目を丸くした。
「数の魔法……? ラクスさんの得意な系統は第十二系統ですよ……? 第一系統の強化を使えるのは『イクシード』故の特別な事で――まさか使える系統が増えて……?」
「それだけではありません。」
 驚愕するプリムラに淡々とした声でアリアが付け加える。
「マスターの動きが突然洗練化され、何十年も修行を積んだ達人のようなモノに変化しました。単純に新しい力を得たという言葉では説明が及ばない現象デス。」
「そんな事が……それが進化――ですか……?」
「正しくは共有の結果です。」
 ニコリと笑うフラールはその視線をもう一人のクラスメイト、水色の髪をポニーテールにしているヒメユリに向ける。
「確か貴女はアイドルの「サマーちゃん」ですよね。」
「え!? あ、はい……」
「貴女は業界でもトップクラス……アイドルに求められる歌唱や踊りの技術も相応のモノでしょうね。」
「は、はぁ……」
「いきなり何を言っているのですか……ヒメユリさんが今の話に関係あると?」
「例えばの話です。別の分野を持ってきた方がわかりやすいでしょうからね。要するにわたくし――いえ、聖騎士隊はその気になればトップアイドルが持つアイドルとしての技術をほんの数秒で手に入れる事ができるのですよ。」
 突拍子もない言葉に困惑するプリムラたちだったが、暗い顔をしていたラクスはハッとした表情になる。
「ああ……そうか、今ので完全に理解した……」
「ラクスさん!? 一体何の事を――」
「つまりあの白い奴とのバトル中に俺が出来るようになったモノってのは、聖騎士の誰かのモノなんだな……」
 ラクスの言葉に、フラールは満足そうな笑みを浮かべた。
「強さを求める者が積む事の出来る強さには限度があり、いつかどこかで自分に足りない何かに気づきます。仮に剣術を極めるとしても、その才能は天下無双に至るには及ばないかもしれませんし、肉体はもしかしたら弓術向きかもしれません。奇跡的に求める道と必要なモノが全て揃っていたとしても、頂点に到達する前に格上と相対してしまい、取り返しのつかない負傷をするかもしれませんね。才能や時間といったどうしようもない不足物の影響で、強さを求める者は道半ばで膝をつくわけです。」
「それを……足りていない何かを補うのが聖騎士隊の力ってわけか……」
「そうです。才能が足りないのなら持っている人から、時間が足りないのなら既に完成しているモノをそれぞれもらえばいい。これだけですと悪党の思考ですが、自分も何かをあげるようにすれば立派な取引。この考えに基づいてわたくしが作り上げたのが、強さを共有する魔法なのです。」
「強さの……共有……」
「聖騎士隊に入った者はそれまでの人生で培った戦闘技術、戦闘経験を他の聖騎士と共有し、得意な系統や体格の違いを無視して共有されたそれらを自分のモノとして扱う事ができるのです。」
「そんな馬鹿な……!」
 フラールの言葉に信じられないという顔でそう言ったプリムラを横目に、だがラクスもまた未だに信じ切れていないような表情で問いかける。
「……経験しておいて何だが、そんなこと可能なのか……? さっきあんたが言った足りないモノのせいで受け止めきれない技術だってあるだろう……」
「そうですね。才能はともかく身体の差は一番のハードルです。全身を鍛えぬいた人物の岩をも砕くパンチを小さな子供が再現できるかという話ですが、そこは魔法ですからね。不足している体格を魔法で作られた筋肉で補うイメージです。当然ただの強化とはわけが違いますから魔法の負荷は相当なモノでしたが、この場合生じた負荷は共有されている聖騎士へ均等に分配されます。人数が増えるほどに一人当たりの負荷は減り、今となっては負荷とは思えないレベルになっています。実際、数の魔法を使っても特別な負荷はかからなかったでしょう?」
「……確かにな……それでその共有とやらに俺が入ると、あんたらもベルナークを使えるようになるって事なのか? それで……俺を聖騎士に入れたいと。」
「貴方がベルナークシリーズの真の力を引き出す時、様々な工程を経てようやくそれを成している事は知っていますが、現在の聖騎士隊の規模であれば共有の魔法で全員が再現できるようになるでしょう。それに今となってはこの手に『聖剣』もありますから、最早共有できない技は……余程特殊なモノでない限りは存在しません。今後聖騎士隊の手にベルナークシリーズが入ってきたらその真の力を貴方の方法で引き出せるようになる――素晴らしい事です。」
「代わりに俺は聖騎士隊全員の技を使えるようになる……か。」
「そうです。ようやく話のスタートラインに立ちましたね。改めてどうです? 正直断る理由は無いと思うのですが。」
「……俺はここに残って死後の戦いの為に準備するなんてごめんだ。」
「構いませんよ。第五地区にもそれを信じていない者がいますし、戦士――信者の全員がこのアタエルカにいるわけではありません。今までですと一定の距離で共有も切れていましたが、これもまた『聖剣』によって有効距離はほぼ無制限になりますからね。どうぞ今まで通り学校に通って下さい。」
「ダ、ダメですよ、そんな事!」
 ほほ笑むフラールに背を向けながら、ラクスの前に立ったプリムラはラクスの肩を掴む。
「ベルナークの力をそんな簡単に共有するだなんて……そもそも何の努力もせずに強さを得るなんてそれは……そ、そんな事で得た力は――」
「ふふふ、わかりますよ、その気持ち。」
 完全に否定したいのにそうもできない何かのせいで歯切れの悪いプリムラの後ろでフラールが笑う。
「入隊したての聖騎士の中にもいましたよ、そういう事を言った者が。過程が大事なのだとか、その時の気持ちが強さの源なのだとかね。しかしさっきも言ったように経験も共有するので過程も気持ちも記憶としてそこにあるのです。努力した結果手に入るとは限らず、努力が実るまで待ってくれる世界でもありません。すぐに得られるのであれば得るべき――そうは思いませんか?」
「それは――そうかもしれませんが、し、しかし!」
「ふふふ、では色々な事を考えてしまう頭よりも身体で理解してもらった方が良いでしょう。忘れているかもしれませんが、皆さんのお友達はわたくしの手の中です。」
 その言葉を受けてラクスから鋭い視線を向けられたフラールは、微笑みを絶やさずに手の平を上にしてくいくいと手招きをする。
「勝負をしましょう、ラクスさん。彼女を返して欲しければ、わたくしに一撃入れてみてください。わたくしは強いですが、貴方は聖騎士の力で可能性を見出すでしょう。」


 戦いが始まってすぐにラクスはベルナークの力を解放した。第六地区の執行人との戦いで既に一度使っている為、身体への負荷から長時間の使用はかなり厳しくここぞという時に使うべき切り札のはずなのだが、焦りのようなモノを覚えていたラクスは初めから全力全開でフラールへと攻撃を仕掛けていった。
 だが本人の言う通りであれば聖騎士隊に施されている共有の魔法はフラールが作ったモノであり、当然彼女自身もその中に加わっている。つまり今のフラールは聖騎士全員の戦闘技術を持つ上に『聖剣』という桁外れのパワーを持つ武器を使う相手――ベルナークの力はかすり傷一つつけられずに解除されてしまった。
 無視できないレベルの魔法負荷で普段以下の動きしかできないはずのラクスは、しかしそうなってからの方が、少なくとも傍から見れば良い勝負をしていた。

「はあああっ!」
 時間魔法を使った動きの加速に強化魔法によるパワーアップを加えた剣技。そこに雷の力をまとった上でフラールに対して重力の魔法をかけて動きを鈍くし、確実な一撃を決めに行く。
「良いですね。できる事が増えると攻め手の選択肢も幅が広がりますでしょう。」
 振り下ろされる刃を、しかし高重力の中で鈍い身体をほんの少し傾けるだけで回避してしまうフラール。完全に見切られていた一撃を振り終わったラクスの目の前で光が破裂し、ラクスの身体はぐるぐると回転しながらふっ飛ばされた。
「ラクス!」
「マスター!」
「ラクスくん!」
 ゴロゴロと転がったラクスのもとへリテリアたちが駆け寄る中、一人プリムラだけはフラールを見て息を飲んでいた。
「共有の魔法……あなたが言った事が事実だとしたら、それは最早地脈のエネルギーを利用して都市単位で発動するような大魔法です。それを、今は負荷が分配されていようとも最初に発動させたのはあなた個人――異常なほどの魔法耐性と尋常ではない魔法技術が無ければ不可能です。」
「ふふふ、仲間がふっ飛ばされたというのにわたくしの強さに興味が向いている――貴女も求めていますね、強さを。」
「常軌を逸している点に戸惑っているのです……聖騎士達の技術を共有して他の者に適応させるというのは、共有を受ける者に何が足りていなく、どこを魔法で補えばいいのか理解しているという事……その演算を担当しているのがあなたならその頭脳もやはり規格外ですし、そこにはあなた自身が共有されたそれを実行できるという前提があるはず……てっきり聖騎士隊の隊長はあの身体の大きな騎士だと思っていましたが……あなた、なんですね……聖騎士――いえ、第五地区に集った戦士の中で最も強いのは……!」
「? 教義の内容からして、一番強い者が教皇になるのは当然でしょう?」
 ウェディングドレスと見紛う服を着て、光り輝く剣を持ってはいるがどう見ても戦闘ができる人物には見えないというのに、そんな一言でプリムラは圧倒され、一歩後退してしまう。
「……あなたの強さも共有されているとなると恐ろしい限りですね……」
「ああ、残念ながらそれはまだできていないのですよ。貴女の言った通り、わたくしは演算の方に力を持って行かれていましてね。そこもこの『聖剣』で改善できないかと考えているところです。」
「それは恐ろしいですね……しかし……全員が同じ戦闘技術を持っているとなると聖騎士たちの戦い方は全く同じモノになっていってしまう気がしますね……模擬戦の時は全員共有を切っていたという事でしょうか……」
「共有を切っていたのは正解です。使うまでもないですからね。」
 あっさりと言われてぐっと奥歯を噛みしめるプリムラ。
「そして同じ動きになるのではという懸念ですが、確かに共有される力は効果的な使い方や戦法もセットで頭の中に入ってきます。しかしそれに従う必要はありません。戦い方にはそれぞれに好みのリズムがありますからね。与えられた力だけでとどまる事はなく、無数の選択肢を得て更なる強さを目指す――全てを共有している聖騎士たちが全員同じ動きにならないのはその為であり、故に共有される力は日々強化されていきます。新しいメンバーは進化の刺激――ラクスさんが加わる事で誰も予想しなかった力が生まれるかもしれませんね。」
「いいことづくめってか……」
 プリムラとフラールの会話に、リテリアたちに支えられながら立ち上がったラクスが加わる。
「そいつはもう、充分に理解できたよ……数の魔法、雷に重力、意味の分からない体術に的確に相手の急所を狙うコツ……俺には使えないはずの魔法、習得に何年かかるかわからない技術、そんなモノがこの一瞬で俺のモノになっていく……魅力でいっぱいだよ、ちくしょうめ……!」
 荒い息を整えるラクスは悔しそうな苦しそうな、そんな顔でフラールを睨みつける。
「ふふふ、理解できてもそのような顔になってしまうのは「それでもこれはダメだ」という考えがあるからなのでしょうね。しかしわたくしには貴方が力を欲する理由も見えています。経験したのでしょう? 自らの不足を。何とかなっていた今までとは違ってどうにもならなかった瞬間に遭遇したのでしょう? 貴方のようなタイプですとそう、例えばそちらの皆さんが死にかけた、とかね。」
「――!!」
「ベルナークシリーズを持っているのですから、一般的な騎士学校の学生のような学園生活にはなっていないでしょう。格上との戦いも幾度となくあったのでは?」
 ラクスたちのこれまでを完全に見透かしたフラールの言葉にラクスは絶句し、プリムラたちはハッとする。
「まさかラクスさん、この前の『ベクター』との一戦を……? 確かにあれは危機的状況でしたがラクスさんのせいでは――いえ、ラクスさんが一人でどうにかしないといけない事ではありません!」
「ふふふ、それはあまり理解できていない言葉ですね。ベルナークシリーズに限らず、魔眼などの素晴らしい力を持つ自分が何とかしなければというのは驕りでも無駄な責任でもなく、純粋な想いの上にある本人の決意ですよ。これを否定する事は誰にもできません。」
 ゆらりと『聖剣』の先をラクスに向けたフラールは、終始変わらない微笑みだが最早笑っているようには見えない圧を伴った顔で決断を迫る。
「これは万人に与えられるチャンスではありません。機を逃して仲間の死に様を見てからでは遅いのです。わたくしは貴方の力を欲し、貴方はわたくしたちの力を利用する。デメリットは一切なく、得られるモノしかない。足を引っ張る道徳を、最悪へ導くだけの固定観念を、一体いつまで持ち歩くつもりです? 強くなりなさい、ラクス・テーパーバゲッド。貴方には資格があるのだから。」
 悪い点は一切ない。必要な強さがすぐに手に入るのは、それに見合うと判断されたモノを自分が持っているから。一方的ではなく交換という点が、更にラクスの心を――何故かこのチャンスに手を伸ばし切れない何かを揺さぶる。どうする事が正解なのか、ラクスの頭の中がぐちゃぐちゃとしてきたその時――

「生憎と、それで強くなれるかというのは人による。」

 ――不意に、そんな事を幼い声で言いながら近くの瓦礫の上に――剣を持った少女が現れた。

騎士物語 第十一話 ~神の国~ 第七章 研究者のいらだちごと

行き当たりばったりとは言えある程度の流れはそこそこに決まっているのですが、今回ほどズレたのは初めてかもしれません。全ては『フランケン』のせいですね。

実は『フランケン』のスパイの中で各地区のリーダーとなっていた面々には登場していない者も含めて全員に名前があったりします。作中登場したのは「フランボゥ」、「ヴァランタン」、「ブラウン」だけですが……たぶん説明があるだろう「瞳の中の青い十字架」から由来した十二人分の名前があるのです。

全ての地区についてもそれぞれの信仰を決めていましたが……紹介する機会を逃しましたね……

騎士物語 第十一話 ~神の国~ 第七章 研究者のいらだちごと

ロイドたちからすれば唐突に、本人からすれば長い計画の末に登場したS級犯罪者『フランケン』 ユーリが激怒しか事で思いがけない好機となった戦況の中、『フランケン』はあるモノを呼び寄せ―― 一方、教皇と対峙していらラクスたちだったが、彼女が与えられるモノに心を揺さぶられ――

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-14

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