フリーズ29 散文詩『終末の音、終末ノート』
薔薇の門
囀る鳥の発つ水辺は、ゆらゆらと揺らいでいる水面には、白水晶を反射させたプリズム光のような、隅田川の夏夜を彩る花火のような、輪廻の永久で輝く魂の奔流のような、そんな死の色が見えた。
修羅の国へ行けるのか
虚しさだけで、行けるのか
わからないから、叫ぶんだ。雄叫びを上げる。劈くような。せめてもの償いだ。水が満ちる。盃に満ちる。月が翳って、照る陽は廻る。
君が住む魔、逢魔時
それさえやめて、時雨時
婆羅門、波羅門、バラの門
薔薇門開けて、始めてください
ザインの刻限
鳳凰の火を纏う金色夜叉は、冴えない。いつか見た空のような瞳も、冴えない。朱雀を彷彿とさせる長髪も、狐のような瞳さえ。だけど、彼女の唇は甘かった。世界中の時が止まるくらいには。
さぁ、次の時空へと
さらば、今生よ
寝返りをうち、目覚める頃には、夜明けだった。賢しいな。やはり、刻限は今も止まないのか、と。それさえ危うさを内包するというのなら、死して留める、ザインの意味を。
晴れた晴れた、全能の晴れ
雨だ雨だ、全知の雨だ
雪だ雪だ、無能の雪だ
だから、どうした。季節は廻る……
睡蓮の夢
眠る蓮の葉は夢を見る
この世界が蓮の見た夢だったのか
それともこちら側が本当?
片方が嘘で、片方が本当?
片方が実体で、片方が幻体?
霊的な世界、物質的な世界
嗚呼、いい夢見たなといつか言えたら
言えたらどんなに幸せか
時間凍結も、空場圧縮法だって。無限や永遠の前にはひれ伏すしかない。いつだってそうだっただろう?なぁ、応えてくれ。
ハレルヤ、ハレルヤ、死にたくない
死にたくないけど生きたくない
生きたくないけど死にたくない
だれか救って、僕を殺して
睡蓮は目覚める。曙光を受けて、咲いていた
終末の音、終末ノート
春が来たら、また忘れてしまうんだね。
永遠とお別れして。
君と再会して。
お互いにまた恋をして。
そんな輪廻のような鎖を破壊するのだ。
今際のベッドのその楽園、快楽の園。
知らなければと、彼岸でも
預からなければと、繰り返す。
冥冥、薄命、自我自明
悲しくないよ、嬉しいんだ
冬の日は晴れ
世界は終わる
ラカン・フリーズはわからない
わからないから絵を描くんだね
リーゼル立てて、雪の中
わからないから作曲するの
暗い部屋にて一人きり
わからないから詩を書いたんだ
全能の詩を、今ここで
わからないから小説を
全てを知るため、求め続けて
魂の色を
本当の声を
終末の音を刻むんだ
終末の音、終末ノート
終末ノートに刻むんだ
エピローグ
愚問にしては、さも当然であるかのような醜態に、慌て始めた終焉の色たちは、歓喜の雨にも茹だる花々の如く散っていった。
何を言うのか。
この最たるは、天空の夢。
青天の霹靂
霹靂にも賄う贖罪よ。
フリーズ29 散文詩『終末の音、終末ノート』