天の国の天の庭
「ご報告いたします!」
天の国の天の庭で
天使たちが申しました
「自分は、いじわるな親の肩にカラスのふんを落っことしてやったのであります!」
「うむ、よくやった」
「自分は、ようち園児たちのぼうしに桜の花びらを散らしてやったのであります!」
「うむ、よくやった」
「自分は、悪い教師めがけて花粉をめいっぱいぶっかけてやったのであります!」
「うむ、よくやった」
「自分は……」
さいごのひとりが申しました
「自分は、昔の母に会いました」
母は、子を産んでいたのであります。
私にしたことも忘れて
新しい子と
幸せに
暮らしていたのであります。
天使がぽろぽろ泣くので
王さまはそっと抱きしめてくださいました
自分なんて最初から
いらなかったのであります
じゃまだから
いなくなって、よかったのであります。
お前は何をしたんだい?
何も……
天使はしゃくりあげて
鼻をぐしぐしさせました
何も、できませんでした。
私だけが勝手に
弟だと思っている子の幸せを
ただ、祈ったのであります……
そうか
王さまは微笑んで
天使の涙をぬぐってくださいました
「うん、よくやった」
黙っていた天使たちは
とうとう大声で泣きはじめました
「私も、母にもっと甘えたかったのであります!」
「もっと、愛されたかったのであります!」
ちちうえ
父上……
うん
王さまがあまり抱きしめてくださるので
さいしょの天使が申しました
「父上が悪いのです。父上が、ヒトを不完全におつくりになるから」
「そうです!」
「父上がお忙しすぎるからいけないのです。父上は今すぐ王さまをおやめになって、ぼくたちだけの父上になってください」
「なってください」
泣いていた子も泣きやんで頼むので
王さまは微笑まれました
そこへ
「こらっ、失礼なことを申して!」
お守りの者が大急ぎで
かけてくるのが見えました
天使たちがわあっと
羽ばたいてにげます
「父上、おさんぽの途中でした」
「こっそりぬけだしてきたのです」
「父上、またきます」
「ああ、またおいで」
王さまは手をふって
天使たちをお見送りになりました
天の国の天の庭には
きょうも
春の花が咲いています。
天の国の天の庭