フリーズ8 散文詩『酔いの醒めた夜明けに』
酔を醒ませよ
世界の終わりに、我々は火のように酔いしれて、汝の聖なる宿り木に留まる。それを汝は水のように柔らかに歓んで見守っていた。始まりの輪廻は、牢から去りし宿命の彼方で止んだ。
わたしは君に尋ねたい。「明日は何色に見えたかい」と。君は少しばかり考えてから、天使のような軽やかさではにかむと、こう答えた。「蒼と朱と翡翠と山吹色の宝石を散りばめたかのようなモノクロに見える」と。虹とは異なる七色の灯に、永遠の生命の輝きを。揃いしは記憶、恩讐の果てに帰納した音響の場から飛び立て。遥か未来に書かれたラハミエルの書にはこう記載されている。
『迫りくる全人生の幸福や絶望を前にしても、変わらずあり続けるものを人は奇跡の片鱗として、レゾンデートルと呼び、輪廻を賭して追い求めるのだ』
疚しさも虚しさも、記憶の過去から解き放たれん、似もせずに。流離いの炎天下に、凍える茹だった夏の白雪さえ、君の碧眼には揺らいで見えていた。呪いの効果の持続性は、無意味だと遠く昔に証明されていたのに、ニンブスの白磁砲から生まれる直截的死生観でさえも、世界のミクロとマクロから来るコスモスに円環して還るのだ。セメントの味は血の味に、メメントモリの香りは君の髪の香りに感じる。それでいてなお、手向けとするのは水夫の祈りと娼婦の快楽だけだった。
『白金色、宵凪、宵凪、油やけ』
晴れやかな午後にエクシオンは開かれた。
死を受け入れたとき、この私も神や仏となってあの場所に還ろうとしたとき、泣く泣くこの輪から去ろうとしたとき、絆すのは、やはり今生の、どうしようもなく優しい妄執だった。
『金色、金色、油やけ』
幾星霜、お待たせしました、愛たちよ。死ぬときは、全人生が集うのでしょう。なぜなら私は虚空としてのアーカシャだから。
『亜阿華沙、亜阿華沙、7thは、愛されていた、水面の火』
菩提樹は、もう永遠に咲く。揮発性の高い人生だって、憂鬱な毎日だって、帰るところが無くたって。ほら。ほら。ほら。いつか止むんだ。この身も、音も、命さえ。それ故、ながすは蓮の根を。蓮の根食べて、酔いを醒ませよ。
命の果て
最高の人生の見つけ方
終わり方、始め方。
僕は輪廻の先に見た
あのケシキを忘れない。
時雨に咲いたリコリスも、
晴れた全能の光も、冬の日も
せめて泣かないで、行かないで
この心なしか、咲いた夢のように生きてきた
こんな私でも、そう、幸せだったんだ。
光を見た
闇の先に、輪廻の先に
あぁ、もうこの刹那に、全時間は収束して、
そう、君と僕のために全世界を祝福する。
魂は、全過去と未来から収束して、
未練も、疚しさも、置いてけぼり。
美しかったなぁ、死の味は
死の香りは、死の彩は
宵に酔ったは、有限の夢
もう、死ぬのも生きるのも変わらないと悟った
あの冬の日に、期待も憂いもないと誓ったのに
そうか、この目の焦点が合わないのは。
虚しさと切なさと
せめてこの世界で果てて、終わって
全能の日、荒廃した世界で会った世界最後の君と
会えなかった者、そぐわなかった者の涙さえ
あぁ、夢に見た、あの景色に
天上楽園の火に
愛は愛され、救われて
ハデスの狭間で生きてた、そう。
でも、でも、そうなんだ。
悟ったら普通には生きれないのに、
悟るのを求めてやまない
幸せだった、世界一
けれど、ハデスの狭間から抜け出る術は
己で掴めと言われたから
彼女は死の間際そういった。
もうお別れ。彼女は不治の病を患っていた。
死ぬまで明かさなかった。どうして?
僕に伝えてよ。そしたら一緒に死んだのに。
でも、もういいんだ。
「あなたが救わなくちゃいけないのは、あなた自身」
彼女は苦しいはずなのに、きっと脳に脳内麻薬が分泌されてたんだろう。そう言って泣きながら笑うその愛しい顔は今までで一番美しく見えた。
焦がれる。逢えない。死んだら無。
わかってしまった。
本当に欲しかったのは、君との永遠。君の笑顔。
もう十分なのに、君は僕に生きろと言った。
最期、花に包まれた君の死に顔。
涙の味のする記憶。
でも、もう戻れないから。
過去を変えることなどできないけど、
未来は変えられるから。
だから、私は生きることに決めた。
フリーズ8 散文詩『酔いの醒めた夜明けに』