浴後の詩
やさしいゆげが、立ちこんで、バスタブでは、春のちょうたちが、戯れている。朝焼けに、にている。淡いかおりがする。棺を模して、清潔に、腐敗した、かおりがする。いかなる祈りも、死人とならべば、手をあわせたとき、熱をおびる。故人が、生命の循環を知らせる、その平坦さに、わたしたちは安堵する。(かなしいこえが、きこえる、きこえる、はんきょうしている、わたしかもしれない、あなたかもしれない、だれかもしれない……、)そうしてわたしたちは、心体、そのかたちを、傍らの花々に、変形させては、紡いできた。だから、ただないてしまうなんて、もったいない、いま、千年先、あなたの足先すら、生きて、形を変えていく。潮騒の血が、果ててしまっても、めぐっていた、事実で、めぐりあったのだ、いま、千年前、ひととひとは、手をとって、手をふって、絶って、産まれた。そのあかしに、あなたは、あたたかくなっていく、あたたかく、成っていくだろう。
浴後の詩