フリーズ41 詩小説『雪月花』
雪
ああ、しんしんと、雪が降っていた。
バルコニーには雪が降り積もって。
外は鈍い銀世界。
君が問題だな。
温かいココアを淹れてくれた。
揺蕩うようにその水面は濁っていて、何も映さない。この世界と同じだ。何も映さない。何も映さない。
「現し世ってことば、あるよね?」
君は言った。一体何を言いたいのか。
「この世界は現し世の世界なの。映された、投映された、現された世界」
雪は、しんしんと。
君の頬は紅く染まる。
違う。私はそう否定したが、君はもういなかった。
私は手持ち無沙汰で、だからココアを飲もうとした。すると、私はたちまちココアの水面に引き込まれた。
降り注ぐ雪の結晶も、一つ一つが世界だ。
その時何故かそう思った。
月
寒いのは変わらず、加えて息ができない。
月にも雪が降るんだな。
君を追うようにして灰色の地を彷徨うと、岩石でできたゲートが散らかっていた。
ストーン・ヘンジ。
あるいは、エッジの効いた旧人類の文化的景観。
クリスタルに触れると、宙に映像が投映された。
箱庭、箱庭、エデンの日
悲劇は集いて、東へと
朱い仏がチに降りて
天に坐すあのかたを
破壊の音とともに、ある文明の崩壊が記録されていた。
この月、この月、明日の日
歴史は廻って、未来へと
蒼い女神がチに立って
あのかたを今、覚醒めさす
水辺の門が開いた。
踏み出す一歩は軽かった。
花
ソドムの園もゴモラの庭も
蝶の羽ばたく光とて
君のためにはならないが
これは二人の物語
門の先には楽園もなければ、天界もなかった。
あるのは一つの部屋だった。
これはむしろ、箱だった。
箱庭だった。箱庭だった。
気づくと箱は広がって、世界を眩しいほどに朱く照らした。
山吹色の花々に華やかに包まれて、
僕は振り返る。
君は蘇る。
フリーズ41 詩小説『雪月花』