今日も明かりを消して
「ある夜の話」の「彼女」視点。まずは前作の「ある夜の話」からお読みください。
前作→https://slib.net/112216
今日もまた明かりを消して…そして泣く。
なんてことは無い。これという理由はない。
ただ泣く。それだけ。
幸せな家庭。優しい人たち。幸せな人生。
何一つとして、不満などない。
きっと、私は怒られてしまう。
「それなのになぜ、悲しいのか、涙を流すのか」と
きっと怖いのだと思う。今の幸せを失うことが。
ずっと笑っていたい。けれど、そんなことお構いなしに、現実は悲しませようとしてくる。
友達の不幸、家族の不幸、自分の嫌なこと、などなど。
絶対に、嬉しいことが起これば、悲しいことが次に起こる。
それは当たり前のことなのだけれど、きっとそれをすべて含めて「幸せ」というのだろう。
それでも、私は嬉しいことだけを、それだけを願ってしまう。
そんな自分に嫌気が差して、涙が出る。
きっと、これが感傷の理由。
そうして、涙を流しても、世界は容赦ない。淡々と明日が迫る。
それでいいのだと。こんなくだらない理由で泣く私を、世界はほっといてくれる。
酷く優しい世界。
「感謝」と「恐怖」が入り混じって、外に笑いかける。「なんて馬鹿らしい」
ふと、風が吹いて、ベランダに人が見えた。向かいのアパートに住んでる人。
目があった…?
そんな気がした。「やばっ」とっさに隠れる。
「どうしよう…」見られちゃった。
どんな顔して明日挨拶すればいい?
どうしよう、あの人に泣いているところ見られてた。
悪いことしちゃったな。
どうか、あの人も世界と同じように、ほっといてくれますように。
今日も明かりを消して