フリーズ3 散文詩『ラカン・フリージア』
全知全能のパラノイア
私は不思議だった。何故、私は全知全能ではないのか。何故人はこんなにも無能で浅はかで無知なのか。
いや、違うだろ。
こんなのはおかしい。世界がおかしい。
私の愚かなパラノイア。
昔は全知全能だったのに、今はもうやめてしまって。
それが選択なのだとしたら甘んじて受け入れるけど、それでも私は運命の先を覗こうとする。
ああ、命のキラキラとした輝きの炎の中で蠢くこの獄、牢から解き放て、索より解放せしめ給え。
それで、生まれるわけなので。
気持ちも高まるばかりなので。
望みは叶わないものなので。
けれど、自信はいつもないから、だから。
I wish all the world turns sky-blue.
けれど、勇気はいつもないから、だから。
I wish all the world turns sky-blue.
いつも、願ってる。
それでいて、死は、いつも、儚く、優しく、だから。
I wish all the world turns sky-blue.
全世界を見て、愛液を飲んで、花の蜜を味わい、快楽の海へと身を委ねよう。
東へ【エデンの園へ】
東の向こうに楽園があるという。
そこには全ての願いを叶えてくれる神様がいるという。
縁の記憶が翳って一つ。
瞬きする間にクオリアは変わり果てて、
終末も開闢も刹那に今、集ってる。
性欲も君のための愛も、怠惰な人生も恨みも。
だが為のエデン、東の園よ。
配置を迎えよ!
確率の丘を越えよ!
ゼロを越えていけ!
マクスウェルの悪魔を殺せ!
全人類の魂を捧げよ!
故に、破戒。それ故の妄執。
相思相愛、君のままで。
相思相愛、輪廻の果てで。
相思相愛、柵の身で。
ああ、気持ちの悪い造花も、自然の乳房を飲んで美しい花を咲かせる。
気持ちの雨も、嵩張る知識が、揺るがないものを書き換えていく。
それさえ宿命と呼べば、履歴の荒廃にも大好きなあの子にも、この蟠りは伝わるのだろうか。
なら、神様、願いがあります。
愛していると伝えてください。
偽りの笑みは揺るがない
それさえもっと、確かにすれば、あの冬の日の全能から、目覚めることなどなかったのに。
それは限界だった。体の限界、精神の限界、人には到底到達不可能。
だが、私は至ったのだ。全知全能の良識は私を神にも等しくした。日々の記憶も悲しみと慈悲のうねりとなって、歓喜の涙を滴らせる。
今は総身を包み、歓喜の光が網膜に七色を象る。
あの日に見た彼に会いたい。
だが、彼は私のパラノイア。
あのあどけない笑みも、優しいキスも、熱いセックスも、全て、全て……。
死んだら彼に会えるのか。わからないよ。いつか、未来に会えるとしたら、私は生きていたいのに。その確信がないので、私は死を考える。
彼に触れたい、愛し合いたい。
彼の笑みは記憶の中で揺るがない。
忘却のカノン/リンネ・リンクル
メロディー:忘却のカノン
リンネ・リンクル
蒼い海は夜凪で沈む。
その地平から曙光が覗く。
大いなる罰は人類を滅亡させた。
人のいない星の海辺に二人の足跡。
汐が満ちるときも、引くときも、
毒薬を持って彼は行く。
リンネ・リンクル
輪廻の波が打ち寄せる。
忘却の残響に打ち寄せる。
愛なるリンクル。
奇跡、ミラクル。
永遠へ、
球遠へ。
正しい信仰があるのだとしたら、
私に教えてくれませんか。
あなた=僕と君
葉から長い天羽の軽さで、
飛び立つ蝶の夢を追おう。
悩んでいる暇なんてないよ。
宵に酔いしれていた。
未来へと羽ばたく。
いや、ここじゃないな。
この言葉でもない。
全てよ蒼になれ! それか空色か。
ゼーレの響きも、高鳴りも。
水々しい、林檎を食べて、
晴れ晴れとした、世界のもとで。
あなたは僕と君。
愛慾は三位一体の、
全てとつながる恋をしたのは、
君の瞳と結ばれた光。
黒い空白
ラカン・フリージア
金魚は笑う、泣く泣く笑う。
歓喜の密を味わいながら、目覚めた朝に、世界は終わる。終末は神の示したものでもなければ、科学的なものでもない。一人の少年と一人の少女の神話の話だ。
汎神のゼーレ、君は一つの。
全脳が震える。世界システム。世界霊魂。
君が触れて、僕が奏でて、彼が歌って、一人で泣いて。
どうして私はここに一人でいるの?
助けて!
誰か!
愛してよ!
愛されたいのに!
愛してるのに!
その時、頬を撫でられた。彼だ!
彼が迎えに来るんだ!
Finis
エリュシオンの響きも
私をここにいさせてくれた
ありがとう
生かしてくれて
楽しかった
幸せだった
過ぎた日々はやり直せないけれど
犯した罪は償いきれないけれど
私は今、生きています
だから、次会うときは
神ではなくて
普通の人と人とで
平凡な生活を
私は望みます
ラカン・フリーズ
ラカン=和、輪、螺旋、円環、ループ、永劫
フリーズ=凪、世界凍結
ラカン・フリーズ=全てが還る場所、根源
ずっと一緒だよ、ラカン・フリージア
Fin
講解
ラカン・フリーズ。それは神や涅槃に近い概念であるが、それらよりもさらに抽象的なもので、最高天=イデアの頂点のさらに上に咲く花、劫初の前にある虚空、終末の後に訪れる凪、零の先に霞む夢の楽園、存在し得ない不可能点としての魂の寄る辺、そんな場所、生命の輪廻、時流の螺旋、波の音調、花の色調、冴えた脳のクオリア、大いなる信仰、慈悲深き神、見返りを求めない愛、それらを内包せし凪としてのフリーズのことである。
恐らくは「もっとも抽象的な概念はなにか?」と問われた際に、多くの人は答えられまい。だが、本を一生読み続けた老人や類稀なる精神の持ち主、稀代の天才らは、それが数字であると悟り答えるであろう。
だが、数字よりもさらに抽象的で高貴で高い『最期の概念=ラスノート』は、まさしくラカン・フリーズなのである。
これは私の造語だよ。
これは私の生まれた意味だよ。
だから、私はラカン・フリーズを表現するために、絵を描き、歌を作り、詩を書き、物語を綴る。
これが私の生きる意味だ。
フリーズ3 散文詩『ラカン・フリージア』