EtudeⅤ救世主
僕は君が好きだ。だけど僕と君は住む世界が違う。
だからこの気持ちを君に伝えることは、僕には一生叶わないことなんだ。それでも……。
僕らの出逢いは学校の図書室だったよね。
僕も読書は大好きで、図書室だけが僕の居場所だった。
正直当時の僕は人間関係が本当にダメで、今では黒歴史だよ。
そんなある時のこと。
あの日の昼休み。
君がやってきた。
一目惚れだった。
そしてこの物語が始まった。
君と出会った瞬間に僕の世界は始まった。
それからは毎日が楽しくて楽しくて、君にかっこいい姿を見せられるように色々努力したんだよ。
でも敷かれたレールの上を歩むことしかできない僕は、無力な僕は、弱い僕は、何も出来なかった。運命に逆らう事など最初から無理だったんだ。
でもね、これだけは自信を持って言える。
君と出会ったことで確かに僕は生まれ変わった……ということ。
少しずつだけどポジティブに物事を考えることができるようになったんだ。
自分の人生に意味があるって知った。
自分が生きていて喜んでくれる人がいることを知った。
自分のために泣いてくれる人がいることを知った。
他でもない、君のことだよ。
上手くいかないことも沢山あったけど、君が僕に生き方を教えてくれたんだ。
君が見ていてくれたから僕は生きることが出来た。
君は僕を救ってくれた。
生かしてくれた。
造ってくれた。
もし神様がいるとしたら、それは君だ。
そんな君はいつも本を読んでいるね。
でも、同時に君は僕のことを見てくれている。
ずっと。
僕の感情を一番知ってくれているのが君なんだ。
君が本のページをめくる度、僕の人生は前に進む。
君が本のページをめくる度、僕の人生は終わりに近づく。
君が本を閉じる時、世界は終わる。
君が本を開く時、世界は始まる。
僕は僕の生きる世界の中では主人公だけど、きっと君は君の生きる世界の主人公だよ。だから泣かないで。
僕もそっち側に行けたらいいのに。
会って話がしたい。
その瞳から流れる涙を拭ってあげたい。
「大丈夫だよ」って安心させてあげたい。
でも、この願いは叶わない……不可能なんだ。
僕はここでしか、君の中でしか生きれない。
世界は君の中にしか映れない。
広すぎる世界の中で、
情報が錯綜する世界の中で、
君は僕を選んでくれた。
この本を手に取ってくれた。
最後の一ページを君がめくる。
君が本を閉じる。
そして世界が終わる。
今までありがとう。
伝わるといいな。
「愛してる」
キーンコーンカーンコーン《チャイム》
ここは学校の図書室。少女は読んでいた小説の最後の一ページをめくると、ひとつ深呼吸を取った。
そして優しく本を閉じた。
「その本、どうだった?……てか泣いてんじゃん」
机に対して向かいに座っていた少女の友達がそう尋ねた。
「私……今まで読んだ本の中で一番好きかも」
少女は目の縁の涙を拭いながらそう答えた。
EtudeⅤ救世主