十回クイズ
「私の名前は京野咲良、趣味はアニメと野球で歌うことがだーいすき。そして私の横にいる女の子が真崎善子ちゃん。私のトモダチで同じ部屋をシェアして暮らしているんだぁ、今日は休日で二人とも暇なんだよねぇ」
ガラケーを片手に古いコントの入りみたいな説明をする咲良。
「どうしたの?咲良」
善子は急な咲良の自己紹介に唖然としている。
「いや、何にもないよ」
ごまかすように咲良は笑顔を見せる。
「そう」
クールにそう切り返して、スマホをいじりだす。
「私もスマホに変えようかなぁ、みんながよくやってるソシャゲができないしなぁ。まぁ、録音はできるけど」
咲良はまるで宣伝のように自分のガラケーを善子にみせつける。
「でもさぁ、もうこのガラケーちゃんとは10年ぐらいの付き合いだし、なんか愛着湧いちゃって、それにデータも思い出もパンパンにつまってるしさぁ」
ガラケーを自分の顔をこすりつける。
「そう、じゃあ変えなくていいんじゃない?」
善子は興味なさそうにスマホをスワイプする。
「よしっ、ソフトバンクショップに今度行ってみよう」
咲良はガラケーをしまう。
「それも何回目よ、ソフトバンクショップ来店宣言」
善子はスマホの画面を連打する。
「666回目」
咲良は即答する。
「そんなに言ってたの、っていうかよく数えてたわね。しかもよりよって不吉な数字だし」
善子は少しバツの悪そうな顔をする。
「ごめん、盛ってた。実際は660回目でした」
舌を出しながら咲良は謝罪する。
「そんな変わんないわ、どっちにしろ多い」
呆れたような声をだす善子。
「暇だねぇ」
咲良は善子にまとわりつく。
「そうね」
善子は冷静に咲良を払い、距離をとる。
「じゃあ、十回クイズしよう」
咲良は提案する。
「いきなり、なんで?」
善子は急な咲良の提案に驚く。
「じゃあ第一問」
咲良はそんな善子の疑問をスルーし開始する。
「ちょっと、勝手に始めないでよ」
善子は少し感情的にそう言った。
「いいじゃん、どうせ暇だし」
咲良は頬を膨らませる。
「まぁ……そうね」
善子は少し仕方なさを含んだ返事をして、スマホをポッケにしまう。
「やったー、よし改めて第一問」
咲良は小学生のような無邪気な喜びを見せる。
「ピザって十回言って」
「また、ピザって一番ベタなやつじゃん」
善子は呆れたような感じで言う。
「ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ」
「じゃあ、2013年ドラフト一位で福岡ソフトバンクホークスに入団した、2018年シーズン72試合も登板したピッチャーの名前は?」
「はぁ?知らないわよ、そんなの」
善子は反射的に答える。
「正解は加治屋投手でした」
してやったりの顔を浮かべる咲良。
「ピザの意味は?」
善子は少し語気を強めて言う。
「ん?ピザってあれだよ、円形の生地にチーズとかのっけて焼く料理、この前一緒に食べなかったっけ?」
咲良は両手を使いピザの説明をする。
「そういう意味じゃないわ」
高速でツッコむ善子。
「えっ?」
咲良は驚いたような表情を浮かべる。
「だから、その問題だけでクイズになってるから、なんか野球マニアクイズみたいな。十回クイズってこう、なんかその十回言わせたワードに近い単語で引っ掛けるみたいな、そういうやつだから」
なぜか必死に説明する善子。
「ん?」
しかし咲良の脳はその説明を理解することができていないらしい。
「だから、じゃあ、咲良。ダンスって十回言って」
善子は頭に手を当てながら呆れた感じで問題を出す。
「ダンス、ダンス、ダンス、ダンス、ダンス、ダンス、ダンス、ダンス、ダンス、ダンス」
「布団をしまうのは?」
素早く問題を出す善子。
「箪笥、あれっ?」
テンプレのような間違いを犯す咲良。
「不正解、正解は押し入れよ。」
「あ!本当だ!」
咲良は呆気にとられたような表情を浮かべている。
「だからこういう感じで引っ掛けるの、十回クイズってそれが醍醐味だから」
善子は生徒に指導するような感じで説明する。
「うん、わかった」
本当にわかったのか疑わしい笑顔を見せる咲良。
「なんで私が説明しなきゃいけないわけ」
ため息交じりに善子はそう言った。
「よし、じゃあ気温って十回言って」
「うん、気温、気温、気温、気温、気温、気温、気温、気温、気温、気温」
少し早口で気温を十連発した善子。
「アニメ『プリパラ』に出てくるチームの一つ神アイドルでおなじみ、そらみスマイルのチームメンバーといえばみれぃちゃんとそふぃちゃんとあと一人は?」
少し間をおいて問題を出す咲良。
「だから知らないわよ」
さっきと同じような回答をする善子。
「正解はらぁらちゃんでした。」
常識問題といわんばかりのトーンで答えを披露する咲良。
「まず知らないから、そのプリパラもそのそらみスマイルとか。だから引っかかるの段階に入ってないの、あんたの趣味が入りすぎてるわよ、問題に」
善子はため息をつきながらツッコむ。
「えっ?ついつい、気温というワードに引っ張られて「シオンちゃん」って言いたくなっちゃう的なやつじゃないの?」
咲良は納得いってないような顔でそう言った。
「だからそのシオンっていう概念がないから私の頭の中には。それに問題が長いわよ。こういうのは相手に考えさせる間を与えないように素早く、そして短い問題で引っ掛けるのよ」
出し方の粗も指摘する善子。
「えぇ?我ながら良い問題だと思ったんだけど」
咲良は心外とでも言いたいような顔をしている。
「あんた自己評価が高すぎない」
善子はあきれてものも言えないトーンで言う。
「うーん、次は…糸こんって十回言って」
少し考え込んでいたのか間を取って咲良はそう言った。
「今度は本当に大丈夫?」
善子は疑っているような眼差しを咲良に向ける。
「うん、今度はいけると思う」
咲良から漂う根拠なき自信のようなもの。
「まぁわかった、糸こん、糸こん、糸こん、糸こん、糸こん、糸こん、糸こん、糸こん、糸こん、糸こん」
期待感0のトーンで善子はやっつけ仕事のように糸こんと言い続けた。
「母方の兄は?」
咲良は今までと違い一切の間を与えず問題を出す。
「えっ?いとこ」
虚を突かれたのか善子は豆鉄砲を喰らったような表情のまま答える。
「正解は伯父だよ」
待ってましたと言わんばかりの顔を浮かべる咲良。
「何、この急成長」
さっきまでの酷い問題からの緩急に思わず空振り三振を取られたバッターのような反応を見せる善子。
「この感じでいいんでしょ」
してやったりな顔で悪そうな笑顔で咲良は言った。
「まぁ、そうだけど、なんか悔しいわね」
善子はさっきの呆れ顔と打って変わり屈辱に満ちた顔になる。
「よし、じゃあ次は…モハメドって十回言って」
さっきの問題で調子づいたのか咲良はすかさず問いを出す。
「モハメド、モハメド、モハメド、モハメド、モハメド、モハメド、モハメド、モハメド、モハメド、モハメド」
さっきと違い警戒感のようなものを出しながら善子は言う。
「足を使う球技は?」
咲良はさっきと同じぐらい速いテンポで問題を提示する。
「アメフト…しまった。サッカーだった」
善子は完全に振り遅れたような形で訂正する、正解だとしてもアウトである。
「正解は蹴鞠でした」
咲良は意気揚々と答えを発表する。
「なんでよ、蹴鞠って。何時代のお話よ。ってよく考えたら足を使う球技なんて数多にあるじゃない、というより広く考えればほとんどの球技が足使うじゃないの。」
審判に抗議するみたいにすごくムキになって善子は問題に対して文句を言う。
「いくら外したからって、そんなに文句言わなくてもいいじゃん」
咲良は少し頬を膨らます。
「いや、文句って、正当な抗議なんだけど」
善子は納得のいっていないような表情を浮かべる。
「じゃあ次はドロシーって十回言って」
善子の不満げな顔をそっちのけで咲良は問題を出す。
「ドロシー、ドロシー、ドロシー、ドロシー、ドロシー、ドロシー、ドロシー、ドロシー、ドロシー、ドロシー」
善子は騙されまいという強い意志を感じる言い方をする。
「東は英語で?」
「えっ?イースト?」
善子は少し驚きながらも答える。
「正解、これは簡単だったかな」
咲良は疑問に感じているような顔をしている。
「いや、簡単って言うか、なにを引っ掛けようとしたのかが分からないんだけど」
この問題の意図を理解できてないのか善子も困惑したような表情を見せる。
「えっ?これってドロシーをたくさん言わせることでウエストに考えをもっていって外すっていう戦法だったんだけど、うーん?レオナの方がよかったのかな」
勝手に反省しだす咲良。
「レオナとかドロシーって関係ないと思うんだけど。まずドロシーとウエストが私の中で全く結びつかないわ」
善子はまだきょとんとしている。
「ドロシー・ウェストって知らない?プリパラのキャラの一人なんだけど、あっレオナはその弟ね」
打たれた球を解説するように咲良は善子に言う。
「だから、しらないわよ、あんたの趣味が入ってるって、悪いところが出てる」
善子は鋭く指摘する。
「あっそうか、ごめんごめん」
それ以前の問題に気付いた咲良。
「問題のクオリティにムラがありすぎない?」
善子は問題の質に疑問を呈する。
「えーっと。次は性癖って十回言って」
咲良は満面の笑みで言った。
「えぇ?何かいやなんだけど…まぁいいか。性癖、性癖、性癖、性癖、性癖、性癖、性癖、性癖、性癖、性癖」
気が乗っていないのか少しずつ元気がなくなっていく善子。
「せいこうした時につい出ちゃうものは?」
咲良はにやついた顔で問題を出す。
「えっ?ちょっと、そんなの言えるわけないじゃない……」
少し躊躇している善子、頬が少し赤い。
「……精液?」
善子は恥ずかしがっているのかとても小さい声で答える。
「正解は声でした、成功した時ってついついでちゃうよね、声って」
咲良は笑顔で答えを発表する。
「……」
善子は顔が絵の具の赤をベタ塗したような色になった。
「どうしたの?」
まさに咲良は思い描いたヴィジョン通りといわんばかりの表情で善子に尋ねる。
「……」
益々、顔の赤味は増していき、まるで真っ赤な着色料のプールで水泳を満喫したのかと思えるほどに赤く染まっている。
「まさか、善子ちゃん、普段からそういうことばっかり考えてたりして」
善子のぱっくりと開いた傷口に酸を塗っていくかのように追い詰めていく咲良。
「……」
善子はサヨナラ負けを喰らったピッチャーの様に動かなくなった。
「ごめんって、こんなことになるなんて思わなかったから、ごめん」
流石にやりすぎに気づいたのか咲良は少し申し訳無さそうな笑顔を浮かべ謝る。
「いや……別に……なんかすごく恥ずかしくて堪らないというか、情けないというか」
少しずつ顔をあげる善子。
「でも、いいわ。どんどん来なさい」
急に赤味が引き笑顔が戻る善子、何かが吹っ切れているような感じだ。
「じゃあ次で最後」
ラストの宣言をする咲良投手。
「えっ?最後?」
すごく残念そうな顔をする善子、そこに嫌々十回クイズに臨んでいたクール気取りの女の表情はなくなっていた。
「しょうがないよ、ネタ切れ」
咲良は苦しそうに言い訳をする。
「もっと考えなさいよ」
善子は咲良にプレッシャーのようなものを駆け乍ら迫る。
「いやぁこんな善子ちゃんがノリノリになるなんて考えてなかったから」
咲良にとって想定外の事態であったらしい。
「まぁいいわ、出しなさい」
もはや誰よりもノリノリな善子。
「有銘って十回言って」
「よしっ、有銘、有銘、有銘、有銘、有銘、有銘、有銘、有銘、有銘、有銘」
今までになくノリノリで有銘を連呼した善子。
「私が大好きな事は?」
咲良は冷静に問題を出す。
「アニメ」
善子は力強くそう言った。
「ブッブー」
咲良はさっきまで鳴らしてなかった不正解音を高らかにならす。
「正解は歌うことでした」
咲良はきまったといわんばかりの顔を浮かべる。
「はぁ?確かにあんたは気づけばカラオケボックスに入り浸る歌大好き人間だけどさ。そんな漠然とした問題じゃあ答えようがいくらでもあるじゃない、アニメだって好きでしょあんた」
善子はむきになっているのか今までにない程畳みかけるように抗議をする。
「うーん確かにアニメも好きだけど、好きな事だからね、「To do」を聞いてるわけだし。しかも、最初に言ってるからね」
咲良はガラケーをいじりだし、そしてガラケーを机に置く。
「私の名前は京野咲良、趣味はアニメと野球で歌うことがだーいすき、そして私の横にいる女の子が真崎善子ちゃん、私のトモダチで同じ部屋をシェアして暮らしているんだぁ」
咲良のガラケーから流れる音声。
「あんたその為だけにあの自己紹介したの」
善子は叫ぶ。
「うんそうだよ」
笑顔で咲良は言う。
「はぁーなんて言うか、あんたってホントに……」
善子は軽く頭を抑える。
「ねぇねぇ、善子ちゃん、気づかない?このクイズの答えの秘密」
咲良は笑顔で善子に言う。
「はぁ?どういうこと?」
全く理解のできていないようなキョトン顔の善子。
「だから、答えを振り返ってみてよ、一問目が加治屋投手、二問目がらぁらちゃん、三問目が伯父、四問目が蹴鞠、五問目がイースト、六問目が声、最後が歌うこと」
咲良はそう言って乱雑に答えを書いた紙を渡す。
「えーっと、一問目が加治屋、二問目がらぁら、三問目が伯父、四問目が蹴鞠、五問目がイースト、六問目が声、最後が歌うこと…はぁ?やっぱりわかんないんだけど」
頭をかく、善子。
「じゃあそれらの頭文字を並べて読んでみて」
「えーっと、か、ら、お、け、い、こ、う?カラオケ行こう?」
善子は咲良に尋ねる。
「正解、だから今からカラオケ行こうよ」
待ってましたと言わんばかりに立ち上がる咲良。
「最初からそう言いなさいよ」
それに追随する形で立ち上がる善子。
「それじゃあつまんないじゃん、驕るからさ行こうよ」
咲良はそう言って、財布の中身を確認する。
「別におごらなくていいわよ、時間はどうする気?」
「今日はフリータイムで歌いまくって、95点だしちゃうぞぉ、あっ!まずはその前にソフトバンクショップだ、レッツゴー」
咲良は飛び出すように家を出た。
「ちょっと、ガラケー忘れてるわよ」
善子は大急ぎで咲良を追いかけた。
十回クイズ