ヒトとして生まれて・第7巻
第7巻・俳句入門してからの徒然なる日々
【プロローグ】
インターネット俳句の老舗的な存在であった「趣味?俳句でしょ!」は超ロングラン
を続けてきたホームページで、貴公子的な風貌の藤田ま~さん(バンドルネーム)が
主宰されてきたが、俳句投稿歴23年間という超ロングランな経営上の記録を残して、
最近、幕が閉じられることになった。
しかしながら、過去の詠み手に向けては、ログ(記録簿)が残され、これからは読者
となる読み手にとっては、感謝の気持ちでいっぱいである。
ホームページ「趣味?俳句でしょ?」は、1998年から続いてきた人気コーナーで、
サイバースペース的には、俳句仲間にとって、不可欠な存在として日々の生活を支え
てきたといっても過言ではないと考える。
このコーナーでは、最長老のシェフさん(俳号)も、最近、満年齢で98歳を迎えて、
いずれ百寿を超えて修了を迎えることは想像していたが今回「まだ・まだ・先がある」
という見通しの中において理想的な形での終演を迎えた。
この超人気のホームページが、かつて、ゴールデンウイーク中に入口の看板は見える
が入場できない状態に陥り、はじめての出来事ゆえにインターネット句会の同人衆も
毎日、ホームページの入口まで来ては、肩を落として引き返す日々が続いた。
もちろん、私もそのような思いをした仲間の一人であったが、原因は記憶容量の超過
であった。オーナーの藤田ま~さんが気が付いて、ホームページはすぐに復旧・・・
同人衆は、揃ってひとこと 「日頃から、日々、何気なく俳句を投稿・鑑賞できる」
環境に恵まれてきたことに感謝、オーナーのま~さんには・改めて・感謝・多謝!
という次第であった。
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私がホームページ「趣味?俳句でしょ!」に初めて俳句を投稿したのが、1998年、
あらためて当時「俳句入門」講座で教わったことを書き留めたノートを開いてみると
早稲田大学の高橋悦男先生(当時は英文科の教授)から1回目の俳句の授業を受けた
のが、1998年5月10日(日曜日)、場所は、早稲田エクステンションセンター
と記録されている。
そしてその年の7月にホームページ「趣味?俳句でしょ!」に初めて俳句を投稿して、
オーナーのま~さんと俳句談義やご挨拶を交わした。その時の投稿句が・・・
「小さくも胡瓜の形花付けて」 万田竜人
当時、まったく・素直に・小さな胡瓜の形に感動したことを俳句にして投稿してみた。
そして、その後も投稿を続け、大みそかには・・・
「キッチンに蒸気が走る大晦日」 万田竜人
として、家内が正月料理を仕上げて行く光景を銀河鉄道999に重ねて詠んでみた。
この俳句は、句友の怪盗えびすさん(俳号)から「メチャメチャいいですね」と応援
の言葉をかけていただき、すっかり、気を良くした覚えがある。
自分なりに、前作二つを比べたときに、二つの句には有意差が感じられ、高橋先生の
講座を受けて、自分なりに、好循環を生むことが出来たと判断した次第である。
そのような、振り返りから、かつての 「俳句入門」講座のノートを読み返すことは、
自分にとっても大いにプラスになると考えて 「俳句入門講座を振り返る」と題して
テキスト風に、まとめ、受講当時の感動を振り返ってみることにした。
第1部 自然の中で楽しく学ぶ
001 俳句入門講座を振り返る
前述の通り、第1部のタイトルは 「自然の中で楽しく学ぶ」 とした。
~自然の中で楽しく学ぶ~
1.俳句とは何か
石田波郷は 「俳句は私小説である」 といっている。
これは云いかえれば 「俳句は自分を主人公にした小説である」と、いうことなる。
「いつも来る 綿虫のころ 深大寺」 石田波郷
石田波郷は、深大寺周辺を好んだこともあり、自分を主人公に据えて、このような
俳句を詠んで、自然の中に居る自分を楽しんでいる。
横光利一(私小説家)が波郷を師と仰いだこと話は有名であり、一方で俳句の道に
おいて、波郷は、水原秋桜子(しゅうおうし)に師事した。
この横光氏は 「俳句は哲学である」と、いっている。
哲学の根幹は 「人間はいかに生きるべきかにある」と、している。
(われわれ、一般人には、ちょっと難しい言い回しではあるが)
一方で、俳句は 「平易・平明」を、特徴としている。
☆ 俳句の面白さは 「季語」と「短さ」に、あると云われている。
☆ 虚子は 「俳句は花鳥諷詠の文学である」と、云っている。
☆ 花鳥諷詠の 「花鳥」は、文字通り 「自然(人間)の世界」
「諷詠」は、五七五のリズムを指している。
☆ 花鳥は、芭蕉が、最初に唱えた言葉と云われている。
☆ そして、虚子は 「諷詠のリズムの大切さ」を、強調している。
☆ 俳句入門講座の高橋先生は、ご自分の作句経験からの言葉として・・・
俳句は「心に感じたことを五七五で季語を使って表現する文学」と表現されている。
高橋先生の言葉は、云いかえれば 「俳句は、作句における自分自身の感動」 を、
「最重要ポイントにおいている」と、いうことが想像される。
高橋先生の 「俳句作りにおけるポイント」を、もう一度、整理してみると・・・
◆1◆ 俳句は十七文字でまとめる
◆2◆ 俳句には季語を入れる
◆3◆ 俳句には自分自身の感動を反映させる
共通課題は・・・
「自分らしさを・どこに・どのようにみつけるか!」に、あるといえる。
2.俳句上達の十か条
俳句上達の十か条は、1999年の2年目の授業で学んだものであるが、自然の中で
楽しく俳句を学ぶには、俳句入門の細かい説明は後にして、大括りに、上達の十か条
から入ったほうが作句のプロセスを好循環にもって行けると判断して、先に紹介する
ことにする。
(これと併せて後述の芭蕉十訓を併読すると効果は倍増と考えるが?)
☆★☆ 俳句上達の十か条 ☆★☆
◆1◆ 歳時記や古典を読む
歳時記は 「俳句月別歳時記」高橋悦男編がお勧めである。
私の師系だからということではなく、読んでいて、俳句が自然に浮かんでくるという
不思議な面白さがあると感じた。
古典では 「徒然草」兼好・島内裕子校訂・訳がお勧めである。
この本は、最近になって、私の愛読書になったものである。
徒然なるままに・・・
徒然草を243段まで容易に読み通せるところが魅力の本である。
(ちなみに私は島内先生の講義も受講している)
古事記や万葉集・古今集・新古今和歌集もお勧めである。
新古今和歌集の西行法師は芭蕉が尊敬する師であり、歌人であり、和歌でありながら
俳句を思わせる歌も多数集められており、見どころ満載である。
◆2◆ 俳句をたくさん作ること
一度にたくさんつくることが練習には効果的である。
集中して、十句、二十句と作れば、一句ごとに前進が感じられ、日々十句もよしです。
週に1回十句もよしです。一句創れば一句前進と教わった。
◆3◆ ひとりよがりにならないために人に習う
この点においても趣味俳句の俳句道場的な環境は最善の場であると考える。とにかく、
恥ずかしがらずに、躊躇なく趣味俳句に投稿すれば趣味俳句の同人衆の方々が温かく
見守ってくれると確信している。
なにせ「酷評がない」のが、なによりも、参加しやすい環境と云える。
◆4◆ 句会に出る
人数は10名以上の句会がお勧め。15~20名の句会ならベストと考える。
◆5◆ 自分の俳句を投稿する
俳句の結社に参加して投稿するのも良し(ただし有料のことが多い)趣味俳句なら
オーナーのま~さんのご厚意で参加無料である。
◆6◆ 句友を持つ
地元の句会なら句友もすぐに出来ること間違いなし。
(もちろん、趣味俳句は、すぐに句友になれる雰囲気がある)
◆7◆ 目標を持つ
句会や結社に入った場合には、先輩を身近な目標にすることが出来る。
句会では、だいたい三句くらいを持って行き、句友から1点、先生から1点という
具合に、良い俳句には評点をいただくことができて、作句の励みになる。
初心者なら 「年間10点くらいが目標」と、して適切といえる。
結社の場合には、年間で50点くらいになってくると、目安ではあるが80人在籍
の結社において「ベスト20」くらいに入ってくる可能性が出て来る。
「句会の益は独善を正すにあり」と云われているので、相互研鑽・切磋琢磨の効果
は絶大という見方も出来る。
◆8◆ やめない・続けることがたいせつ
五七五の五七だけでも出来たら書きとめる。後ろ七五だけでも出来たら書きとめる。
本田宗一郎さんが云われた「継続は力なり」は俳句にも共通していると云える。
◆9◆ 自然に親しむ
自然に親しむことで、感受性が刺激され磨かれて行くので、吟行は感受性が詠み手
の相互に研鑽されるという面からも、俳句の上達には、即、役立つと云える。
(自然界のなかでの切磋琢磨がたいせつ)
◆10◆ 好きになる、本気になる
良い俳句をたくさん読むことで、俳句が好きになって行きます。
(この面からは「定本現代俳句」山本健吉著がお勧めである)
飯田蛇笏が・・・
「子規は俳句の顔を」
「虚子は俳句の自由な手足を」
「山本健吉は俳諧・俳句の骨格そのものを瞭らかにした(一目瞭然にした)人である」
と云っているほどであることからも、山本健吉さんの愛情に満ちた記述を読むことで、
俳句を評する目も養われると云える。
句会に出ると、句友の俳句を評する場面も、用意されているので・・・
「温かい眼差しで評するにはどうしたらよいか?」という面からも貴重なアドバイス
が得られると云える。
3.芭蕉十訓
ここでは、私が、自分の俳句作りに納得と手応えを感じた「芭蕉十訓」を紹介する
ことにする。
(もちろん、この内容は、早稲田大学の高橋先生から学んだものである)
◆1◆ 感動を持ち続け、そこに光を当てなさい
どんなに小さな出来事でも、それがどんなに小さな物事でも、どんなに小さな変化
でも、それに感動する心を持ち続けなさい、そして、そこに光を当てなさい。
◆2◆ 自然の変化に目を当てなさい
自然界は常に変化しています。そこに目を当てなさい。そこに光を感じなさい。
◆3◆ 眼前を基本に置きなさい
当時は、客観写生という表現はなかったので、眼前と、いう表現を使っているが
眼の前の出来事や物事や、その変化を先ずは、客観的にとらえなさいという意味
である。
◆4◆ 俳句が出来たら声に出しなさい
その心は、作りっぱなしは、駄目。推敲や手直しで俳句は磨かれて行く。
◆5◆ 言い尽くさないことがたいせつ
十の内の七か八を表現して、後は読み手の想像にまかせることがたいせつである。
俳句には、説明は不要である。
◆6◆ 自然に従いなさい
自然に親しむ。自然を大切にする。松のことは松に聞けという教えは有名である。
◆7◆ 理想は高く、しかし、やさしい言葉を使いなさい
理想は高くもっても、お高くとまるなという云い方をしている。
◆8◆ 三歳の子供にも分かる俳句が良い
初心の頃は、とても素直な良い俳句が出来ていたのに上手く作句しようなどと邪心
が働くと、分かり難い俳句になって行く。
◆9◆ 人まねをしない
自分で求めているものは、自分の言葉で表現しなさい。
◆10◆ 新しいものを求めなさい
新しいものを花という表現で教えていますが、常に自分の花を求めて自分にとって
新しいものを探し求めて、自分の俳句を作るようにしなさい。
☆芭蕉十訓では、◆1◆および◆10◆が最重要と教えている。
~さあ吟行に出て、自然の中で、楽しく学ぶことにしよう~
などなど、俳句入門で教わったことを並べてみたが、今、振り返ってみて自分自身で
「およそ1%も出来ていない」のには、自分自身、驚くばかりである。
第2部 俳句は自分を主人公にした私小説である
第1部において、石田波郷の言葉として「俳句は私小説である」と紹介した。
言い換えれば「俳句は自分を主人公にした小説である」と、いうことなる。
「本当にそのように云えるのだろうか?」と考えて、自分の俳句を並べて
みることにした。
「句歴23年間となるが、その際に、俳句としての優劣は別な話であり」
「問題は、私小説として成り立つか・否か・にある」
そして、それを判定するのは自分自身の問題(課題)となって返って来る。
【1998年の作品より(当時:56歳)】
001 小さくも胡瓜の形花付けて
002 武蔵野路小鳥紫陽花夏野菜
003 万緑の木漏れ日近し梅雨の朝
004 満天星に蜘蛛の巣張りて梅雨の玉
005 父親とバージンロード百合の花
006 主の言葉うなずくうなじ夏化粧
007 母親に物腰の似ておじぎ草
008 デザートのメロンが知らす夏の宵
009 炎昼やハンバーガー店に若き列
010 隣家よりメロン戴き香りたつ
011 打水の音に飼い犬逃げ回る
012 朴咲くやつがいの鳩の雨宿り
013 梅雨空にひよどりの声澄み渡り
014 飼い犬の裾を刈り上げ衣替
015 婚礼の行列に風夏木立
016 飼い犬や生き活きとして薔薇を嗅ぐ
017 嫁ぐ娘の笑顔眩しく風薫る
018 テーブルに紫陽花飾り披露宴
019 シャンパンを注ぐ花婿五月晴
020 奥入瀬散策の道風涼し
021 中尊寺能楽堂に蝉の声
022 食卓に枇杷を飾りて郷の家
023 紫陽花や一輪残し人を待つ
024 紫陽花や紐で括られ盛り過ぐ
025 刈り込みの終りし庭に蝉の来る
026 夏の朝いろとりどりにポーチュラカ
027 稲妻や水道止まる夏の夜
028 馬車で行く湖畔の木陰涼新た
029 露天風呂秋めく森に山の風
030 夏の朝インターネットで道探し
031 炎昼や駅前の地図確かめて
032 大通り都会の風に秋近し
033 大学の門閉ざされて夏休み
034 目印の本屋のクーラーよく冷えて
035 辿り着きアイスコーヒー飲み干して
036 カレーライス中辛にして夏料理
037 夏の日の珈琲味に抹茶感
038 日の盛りビル風に沿い歩を進め
039 イギリスの二階建バス炎天下
040 緑陰や営業マンの涼求め
041 日除けした喫茶店からコーヒー香
042 銀行で汗拭いて待つカード手に
043 茶碗蒸冷やして食す夏座敷
044 愛用のカバン抱えて夏の夜
045 扇持ち外で待つ客入れ替わり
046 俳人や五百人もの夕涼み
047 福耳を赤く染め上げ夏の宵
048 外国人汗かいて描く三行詩
049 白ワイン飲み干してメロン食む
050 大句会主催の汗もデジカメに
051 新人賞眩しさの中夏終わる
052 俳句やる百歳までも夏よ来い
053 竹の春隣家に伸ばし根から刈る
054 葛花や歳時記で知る秋の花
055 二階から見下ろす芙蓉朝は白
056 栗飯に小豆を入れて我が女房
057 Eメールながら族して梨食らふ
058 曼殊沙華百万本花白一輪
059 秋茄子や頬に広がる旬の味
060 待宵は月の明かりと夕焼けと
061 十五夜は雲間の月となりにけり
062 酔芙蓉台風の朝紅と白
063 運動会スピーカーの声天高く
064 時の鐘に明かりが灯り秋惜しむ
065 行く秋の小江戸の街に人の波
066 薩摩芋大きさ揃え店先に
067 にごり酒ろれつ回らぬ二三人
068 新米や魚沼産を買ふて炊く
069 新米や二合半炊きまだ余る
070 秋霖や行ったり来たりアンブレラ
071 銀杏や枝にたわわに黄色帯び
072 あけびの実スプーンでしゃくる白果肉
073 酔芙蓉紅を帯びしが恋模様
074 紅鱒や宙に踊りて竿しなる
075 カヌー削る木の香りする秋の山
076 十月のはじめの月はおとこ顔
077 栃の木や先ず一番に初黄葉
078 十並び体育の日に登山会
079 松茸を丸かじりして新米も
080 兼題の時雨より先に木枯らしが
081 木枯らしや飼い犬部屋にうずくまり
082 山あいに月出でて山眠る
083 仕事場は宇宙の色紙秋深む
084 カンナ枯れ諸鳥騒ぐ朝時雨
085 宙に舞うテニスボールや冬うらら
086 今朝の冬髭剃り後に風染みる
087 行く秋や信号待ちに月仰ぐ
088 蜜柑剥く手に飼い犬の眼釘付け
089 葡萄畑棚一面に紅葉の海
090 吊り橋の向こうの山に紅葉茶屋
091 山越えて紅葉の色さらに濃く
092 紅葉路星狩りのひと大渋滞
093 庭前の満天星紅葉赤く燃え
094 酔芙蓉朝方少し紅を付け
095 秋の陽にベコニアの葉の照り返り
096 文化の日葉牡丹三つ植えにけり
097 連山の紅葉燃ゆる奥秩父
098 黄葉の山ふところに滝の糸
099 堰の音近づくほどに肌寒し
100 初時雨飼い犬の待つ帰路急ぐ
101 暖房のスイッチ入れし今朝の冬
102 雨上がり陽光眩し冬の朝
103 花豆を買ふて信州の秋を知る
104 冬林檎乳房歯む児の泣き止みぬ
105 サンタさん冬ざれのなか缶コーヒー
106 冬の蜂パソコンに降り逃げもせず
107 鮭雑炊熱さ冷ましに洋梨酒
108 行く秋やチェックマークが旅はじめ
109 車窓走る木々紅葉且つ散れり
110 岩肌にすぐ手の届く冬近し
111 冬日和お茶吞み過ぎてバスを停め
112 はらみ犬日向ぼこして耳を掻く
113 線香の煙を浴びて冬うらら
114 手でさする仏すりへる神無月
115 境内でシャッター頼まれ照紅葉
116 饅頭手に冬菜つまみてお茶を飲む
117 冬菜漬け買ふて定刻にバスに乗る
118 牛に引かれの民話聞き冬走る
119 人の列冬の闇に向けて牛歩
120 我が家にはいつも南瓜のある風景
121 スマッシュのボール見上げる冬の空
122 打ち下ろすボール飛び込む冬木立
123 柚子の砂糖漬け食んで絶好調
124 年よりも若いと云われ万年青の実
125 風もなく勝気も捨てて冬うらら
126 飛び交いしボールの他に冬の鳥
127 長トレも短パンも居る冬ぬくし
128 ロッカーで木の葉髪拭く支配人
129 がん陣形一息入れて冬構
130 参拝の頭上をかすめ冬の鳩
131 栗御強料理対決妻鉄人
132 差向い山菜蕎麦にとろろ蕎麦
133 紅葉背にタイマーかけて走り寄り
134 千曲川流るるままに冬ざるる
135 林檎狩り知らぬ人とも笑み交わし
136 冬の鳥啄む林檎いと甘く
137 林檎の尻をひょいと持ち上げて採る
138 露天風呂初雪の降る旅の宿
139 あんず酒と缶ビール抱えて雪見
140 旅の宿山懐に抱かれ寝る
141 冬の朝露天の風呂の熱きこと
142 今朝の味噌汁玉ねぎの美味きこと
143 雪の朝定刻よりも早く出る
144 諸鳥や林の中を枯葉の舞い
145 朝焼けの東の空に冬の雲
146 南窓の銀杏黄葉や陽の透けて
147 パソコンで宛名印刷賀状書く
148 脱サラの友を囲みて忘年会
149 ちゃんちゃんこパソコン操作肩凝らず
150 クリスマスツリーの下で音楽隊
151 冬の鳥もつれるやうに二羽で飛ぶ
152 生牡蠣をコンロで焙り白ワイン
153 冬木立飼い犬と行く散歩道
154 船盛は新潟産の紅葉添え
155 正座して脛を隠して鍋煮たつ
156 売店で初雪と聞き土産受く
157 ホテル前の記念フォトで息白く
158 馬刺し食む天高く味かげん良か
159 馬肥ゆる時さくらソーセージ食す
160 秋の小布施に銀色のビートルズ
161 栗ソフトに巨峰を載せて秋寒
162 信州のおやきは割って熱冬菜
163 安曇野やアルプス連峰雪越しに
164 姥捨は覗けども雪の中なり
165 飽食の信濃の車中うそ寒く
166 川越のインター下りて夜寒晴れ
167 旅土産広げて夕餉秋暮れる
168 カーペンターズ冬林檎とアロマ香で
169 飼い犬もホットカーペットで横になり
170 冬ごもりタイタニックでビデオ試写
171 たらの木やイチョウの後に黄葉せり
172 冬ざれもテニス日和に変わる午後
173 冬の月郵便局の遅くまで
174 冬の星聖なる人はこの世にも
175 火の番の拍子木の音懐かしく
176 冬の夜いまどきは不夜城の増え
177 冬至には南瓜を食し柚子風呂に
178 柚子湯にも温泉の素混ぜ合わせ
179 天皇誕生日に救われる暮
180 ラジオでポインセチアのツリー話
181 クリスマスイブもイブイブも二人で
182 いま年賀状書き終え友に電話する
183 年用意の段取りにかかる家内
184 住所録整理気になる十二月
185 霜月やプランターの上に早くも
186 寒波南下してポケットに手を入れる
187 短日やソフト部の灯のこうこうと
188 冬の日やひなたをみつけ犬移動
189 冬日陰テニスの汗のひんやりと
190 冬の朝カラスの濡れ羽パープルに
191 冬の暮気持ち駆け出す駅の道
192 寒がすみあれ湖と妻の聞く
193 冬の霧ライトを点けてブレーキ踏む
194 冬雷や背筋に電気走るごと
195 冬夕焼けをデジカメに納め観る
196 寒天の下南天の実は赤く
197 冬の鳥カラスに追われ姿なく
198 梟の剝製で知る耳羽なく
199 鴨の群岸辺に沿いて冬の朝
200 鯛一尾買ふて息子の帰省待つ
201 スーパーの特設コーナー凧が占め
202 四十路越えヒットアルバム帰り花
203 五十路越え優しさ増して春支度
204 消防車市内巡回年の暮
205 年内のフライト終えて格納庫
206 神戸牛頬張りながら年惜しむ
207 街中が大渋滞して年用意
208 大柚子に指先触れて固きこと
209 紅白の梅を三輪春支度
210 キッチンに蒸気が走る大晦日
【1999年の作品より(当時:57歳)】
この年、俳句に本格的に取り組んで「二年目」前年の順調な滑り出しに比べて
突然の乱調期に突入、航空路においてエアポケットに入り込んだ印象だ。
(投句は多いが、今回、選句の対象となる俳句は激減)
「ヒトとして生まれて・第5巻」で、既に詳述してきたが、我が人生にとって、
突然、オフイスにおいて「針の筵に座らされた」印象の時期である。
しかしながら俳句の投稿を始めていたお陰で、次の投稿句によって、救助隊が
駆けつけてくれて、以後の人生が拓けていったことを考えると・・・
「俳句によって人生の危機を乗り越えることが出来た」と、云える。
ドキュメンタリー的に具体的な事例としてその俳句を紹介することにしよう。
無常観としての「浅学」からの一句として・・・
224 「はらわたのにえる思いに寒の水」と詠んだ
ヒトとして生まれて・第5巻で、その経緯を詳しく紹介しているので、ここでは
詳しい紹介は省くが・・・
◯ 我が人生において 「秀句」と、いえるものは皆無であるが
◯ この俳句に限っては、私自身が、救われている事実から、私にとっては唯一
渾身の一句と云えるのかも知れない
私にとって、当時「ユング博士の心理学」に学び、我が家の菩提寺でもある曹洞宗の
教えの根幹に触れることで、鬱(うつ)に陥ることもなく苦悶の3年間をやり過ごす
ことが出来たが、俳句の投稿を続けることで救われた面は計り知れない。
次に、この年の俳句を羅列するが、選句した俳句とは云え、乱調気味の気配は容易に
想像できるものと考えている。
そして、この苦境を乗り越えることが出来たのは飼い犬も含めて家族による何気ない
支えが大きかったのかも知れない。
(当時、この苦境は、家族にはいっさい伝えていなかったが)
・・・・・・・・・・・・・
211 去年今年握手を交わす零時過ぎ
212 賑わいて帝釈天の初詣
213 破魔矢買ふ人の列延々と
214 紫煙浴び健康祈る年初め
215 一月や閑な居間で計建てる
216 正月も仲良きことを心掛け
217 新年を祝い吟醸生酒呑む
218 元日や地元の神社で御札受け
219 初明かり雨戸の隙間から射せり
220 初夕日燦燦と照り家内呼ぶ
221 新年や神秘の地球青々と
222 破魔矢買ふ参道にては懐に
223 淑気あり境内に満ちて清々
・・・・・・・・・・・・・
無常観「浅学」三題
224 はらわたのにえる思いに寒の水
225 暖かき天の恵みに春近し
226 冬に翁の即興の句を見付けたり
・・・・・・・・・・
227 冬の吉日赤ちゃん筆に触れり
228 白ワインコルク抜く音景気良く
229 ビフテキを焼く冬ニンニク臭飛ぶ
230 蕗のとう竹の子と煮て冬の旬
231 牡蠣鍋にうどんを敷いて餅も入れ
232 春隣チョコの売り場が用意され
233 己知る五十路を超える寒の数
234 今の世に何を吠えても息白く
235 葛飾で柚子をもらひて年を越す
236 冬の雲鉛色して幾重にも
237 雲を押し開け冬の朝日眩しく
238 冬ざれて飛行場の芝褐色
239 妻からの誕生祝寒の入り
240 娘からセーター届く一月尽
241 冬の月飼い犬抱え脚洗ふ
242 冬雲の縁に茜の朝日かな
243 西方の冬の客来て懐かしく
244 冬に曹洞宗の深さを学び
245 食即禅で超えた厳寒思ふ
246 手の平に柔らかな春光差す
247 野辺に白梅の咲いて風や和み
248 紅梅はやや遅れとり一分咲き
249 君の背伸びは気持ちいいね春先
250 虎落笛津々浦々の世紀末
251 真昼に手で掬うほどの白梅花
252 春が立つそれだけで心上向く
253 水入れ前の田で虫も春を待つ
(続 く)
ヒトとして生まれて・第7巻