精神的に向上心のないものは…

太秦知胡

こころ

「馬鹿どもが…」
僕はそう思ったのが口から出た。
それは呟きよりももっと弱いものだった。
気持ちが強すぎて頭の中から溢れたのだと思った。

それから脳内でその"馬鹿ども"を殺す想像をした。
残忍で一番惨い殺し方をした。
爪を剥ぎ歯を抜いて焼けた鉄を押し当てながら殺した。今を楽しむ刹那的な姿勢。破滅的な姿勢。
その瞬間にしか価値はない。残る価値はない。

勉強は嫌いだった。本を読むのは好きだった。
創作は趣味だ。お世辞かもしれないがいつの夏だったか褒められた経験がある。
人と話すのは好きだった。
何かをコツコツとやるというよりも本を読み、
得た知識で人と話し弁証法のエクスタシーを得る。
その瞬間が好きだった。その止揚は永遠の高揚だ。
その瞬間の後にそれは永遠の範囲へ敷衍した。
それが差だった。

授業が全て終わって帰路に着く。
内藤、彼とは小学生の頃から友人。
帰り道、今日の不快な体験について。
「高尚さというものがあると思うか?」
実際は文字に起こすほど格好の着いた話し方ではない。抑揚、言葉に詰まるところ、吃る所、そして
口語と文語の超越できない壁…。
要するに、大体こんなことを言ったということだ。
それに、内藤。
「相対主義には勝てない。価値を見出さないから」
さすがは俺の教育した男だ、と思った。
教育というよりかは本を渡しただけなのだか。しかし彼の知的好奇心というものが無ければここまでのものはなかった。素直に尊敬だ。尊いものだ。
知的好奇心というものは持つものと持たぬものがいる。それを持っているということは希少価値なのだ。いかなるモノに対しても負けない知的好奇心は収斂から人々を解き放つ。
「しかし高尚さというものを感じる。感じるのだが…」
「それは自己補完なのかもしれない。そう信じたいだけかもしれない。僕もそうだからこれは言ってはいけない事かもしれないな」
実在と非実在。高尚さというものが実在するのか。
少なくとも俺のこころには…。俺の物差しにはその単位は実在している。

帰ったらスマホを見つつ寝転ぶ。
怠惰を実感する。その怠惰から目を背けるように
スマホに没頭する。他の"雑念"が込み上げてくることの無いように…。
時間を浪費する、とはよく言うがこれは浪費というような贅沢な使い方ではない。何かから目を背けるように消費しているだけだ。
自傷行為、という他にない。
何を自傷行為しているか。こころだよ。
眠りに落ちる。不眠気味なのでかなりかかる。

深夜。1時半だ。ご飯も食べていない。
ちょうど空腹時の気持ち悪さを感じている。
あと偏頭痛もしてきた気がする。気持ち悪い。
この世界から逃れられない。どこまで行くにも内包されていく。収斂されていく。僕という存在になることは難しい。僕という全体集合を客観的に主観視するのは難しい。客観は全体を見ない。部分しかみない。見れない。
次第に怒りがわいてきた。
「高尚さを証明する……」
シャープペンを勢いよく取り出し普段の何倍もの速さでノックする。

…。

シャープペンが紙に転がる。

…。書けない、書けない。描けない、描けない!…。
クソクソクソ……!死ね死ね死ね死ね……!
全員死んでしまえ、全員死んでしまえ……!
苦しんで死ね。悶えて死ね。最高の聳懼を味わいながら死んでしまえ!…………。

「君はばかだ」
内藤が言う。

精神的に向上心のないものは…

精神的に向上心のないものは…

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-27

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