僕は 彼女の彼氏だったはずなんだ

僕は 彼女の彼氏だったはずなんだ

すんのはじめ

 僕達4人は、同じ小学校から中学に進んで、仲好しグループだった。そして、地域では有名な進学高校に揃って進もうと約束していた。僕は、三倉蒼《みつくら そう》、サラリーマンの家庭で、高校2年生の兄がいる次男坊だ。

第一章

1-⑴ 
 三年生の夏休み、図書館に集まって、高校受験の為、勉強していた。僕の隣は、
中道美鈴(なかみちみすず)。向かいには、 岩上昇二(いわがみしょうじ)吉井光瑠(よしいみつる)が居る。中でも、中道とは、小学校に入った時、最初に席が隣で、6年の時にも隣同士だつた。僕が、体育で手首を捻挫した時、彼女は授業中のノートを僕の分も書き記してくれた。それ以来、筆記具も貸し借りして、特に、仲良くなっていた。だから、図書館なんかで座る時も必ず隣にいる。

「ねぇ 来年は、みんなで花火見に行こうね 高校受かって」と、中道が言うと

「そうか 昨日、終わったんだよね 今年でも、良かったんだけどな ふたりの浴衣姿観たかったなぁ」

「でも、さんざん私等のテニスの見てきたじゃぁない」と、吉井が言ってきたけど、確かにふたりはテニス部で、練習とか試合に僕達も応援に行っていた。ふたりとも、脚がスラッとしていて魅力的だった。

「あぁ 応援に行くたんびに、負けていたけどな でも、別の意味では、楽しみだったよ 他の学校の奴もな」と、昇二も言っていた。

「純粋に応援だったんじゃあないの? 他の学校の女の子も目当てだったんだ」

「そんなこと無いよ もちろん、ふたりの応援さ なぁ 蒼」

「そうだよ 頑張れって思ってたもの」と、僕もあわてて答えた。

「別に・・ 弱かったんだもの、仕方ないよ それに、このふたりなら、私はそんな風に見られていても良いよ」と、中道は意味深なことを言っていた。

「そーだよね 仲間だから、まぁ良いっか でも、わたし、高校は文化部にするわ 体育系は素質ないし、しんどいし」

「それがいいかもな 俺も、筋肉隆々の姿見たくないよ 吉井はスラッとしてなきゃ、もったいないよ」

「あのさー それ けなしてんの ほめてんの」

「まぁまぁ ほめてるに決まってんじゃん だけど、ふたりともしっかり食べないと倒れるぞ 体力勝負でもあるからな、受験は」と、僕は、中道に聞かせるように言った。彼女は、普段から、あんまり食べないのを知っていたから。

 彼女は、僕の眼をじっと見つめていたが、直ぐに、微笑んだように思えた。

1-⑵
 11月も終わる頃、日曜日に中道から「一緒に、付いてって欲しい所がある」と誘われた。何か事情があるみたいで、詳しく聞かないでOKした。

「勉強のさまたげになるようで、ごめんね 何か、一人じゃぁ心細いから」

 当日の朝、駅で待ち合わせして、電車で向かった。途中乗り換えもして

「どこに行くんや」と聞いたが

「私も、よく、わからんね 初めてやから」と、訳のわからないことを言って返してきた。

 中道は、チャコールのダッフルコートにジーンのミニだったがスキニーを穿いているのに、向かい合って座っていると、細い脚を、僕はドキドキしながら時々、見ていた。テニスのスコートから伸びた素足を見慣れているはずなのに・・。電車の中では、中道が持ってきていた問題集をふたりで解きながら、目的地を目指していた。

 途中、右手に琵琶湖を望みながら、福井の敦賀に着いた。ここから、まだ、ローカル線に乗り換えるという。待ち合わせの間、ようやく、中道は訳を話し始めた

「先月な、お父さんが脳梗塞で救急入院したんよ。まだ、入院してるんやけど、それでな、お母さんが会社のことを見ることになってな。それまで、経理をやっていた女の人を、お父さんとの仲を疑って、追い出したのよ。それで、総務をやっている男の人とふたりでやっているみたいやけど。でもね、私、その女の人も、知っているけど、お父さんとはそんなことないと思うのよ。私なんかも可愛がってくれてたし・・。お父さん、まだ、頭がはっきりしないし、本当のこと聞けないし、私、その人に確かめたいと思って・・。実家に戻っているって聞いたから・・」

「そんなことになっているのに、なんで、もっと早く言わないんだよ 僕達は・・仲間だろう」

 中道のお父さんは、少し、大きめのステーキレストランを2店経営をしていて、サイドメニューとかスィーツも評判が良くて、新興住宅地にも3店目の開店を進めていると聞いていた。

 敦賀から何個目かの駅に降り立った。駅前は閑散としていて、タクシー乗り場にも1台も停まっていなかった。夏ならもう少し賑やかなんかも知れない。

「目的地はわかってんだろう どっち行くんだよ」

「あのね 高井って家で 民宿やっていたんだって」

「それだけか 住所調べてないんか」

「うん 田舎だったらわかるかと思ったんだもの 電話もお父さんしか知らないし・・」

「なんか 無鉄砲やのー いき当たりばったりかー」

「だから、三倉に一緒に来てって頼んだのっ 迷惑だった?」

「そんなことは無いよ 少し、あきれているだけ 仕方ないから、民宿がある方に、歩いて行くか― そこで、とりあえず聞いてみよう」

 バスもあるみたいだが、本数が無いみたいで、歩くことにした。多分、1Kmちょっとだろう。

「ほんまに、変なこと頼んでごめんね」

「大丈夫だよ 中道の頼みだっだら、平気 平気」と、言いながら、手をつないでいった。

「なぁ 中道じゃぁなくって なんか、遠い人みたいで・・美鈴って呼んでよぅ」と、言って、つないだ手を自分のほうにたぐり寄せてきた。

 結局、30分近く歩いて、最初にみつけた民宿で聞いてみたど、心当たりが無いとのことで、もう少し先の民宿は古くからやっているから、そこで聞いてみればと勧められた。

 又、30分近く歩いて、その民宿に行って聞いたけど、民宿組合の名簿を探してくれたが高井という名前は無かった。すると、おばあさんが出てきて、駅の方の海辺で以前に民宿をやっていた人が、確か高井と言ったと思うと教えてくれた。だけど、10年くらい前に、主人が亡くなって、もう、民宿はやっていないという話だった。

「海辺に行って、ご飯たべよ おにぎり作ってきたんよ」と、美鈴がそっちへ引っ張っていった。

 海辺に出ると砂浜が広がっていたが、波打ち際は木クズとかゴミが打ち寄せられて、寂しい風景に思えた。陽はさしているが、風が少し冷たい。それでも、砂浜に座るとほんのり暖かい。

 美鈴がリュックから水筒と包みを取り出して、広げると白い容器に海苔の巻いたおにぎりで、別の容器には、玉子焼きとかハム、レタスなんかが入っていた。

「美鈴 これ作ってきたんか おいしそうだよ」

「うん 蒼君に食べてもらおうってね」

「これをずーと背負っていたのか 言えば、代わったのに・・」

「そうだね 忘れてた 手をつないでくれたから」

 水筒の中は、何にも入ってない紅茶だった。いい香りがして高級なものだと僕にもわかった。食べたあと、波打ち際を少し歩いて、美鈴は貝殻を拾っていた。そして、気持ちよさそうに、髪の毛をひろげて、風になびかせていた。

 僕達は、駅のほうに戻って行き、教えられた高井さんの家を探した。付近まで行って、畑をしている人に尋ねて、家を教えてくれたが、多分、もう誰も住んで居ないよと言われた。

 それでも、その家に行ってみたが、確かに人が住んでいる気配がなかった。

「しょうがないよ もう、あきらめよ」と、僕は、美鈴の背中をさすりながら言った。

「そうだね だめかなー」と言いながら、美鈴は隣の家を訪ねて行った。

「去年だったかねー 娘さんが訪れてね、母が心臓が悪いので、入院させるとかで、連れて行ったよ 一人っ子だったからね」と、隣の人から聞き出した。

 帰りの電車の中で「本当に ごめんね 面倒かけて」と美鈴は謝ったきり、黙り込んでしまった。普段は、留めている長い髪の毛を、今日はひろげたままだったのだが、胸元に持ってきて、指に巻き付けるようにして、何かを考えている様子だった。だけど、反対側の手で僕の手を握り締めていた。 

1-⑶ 
 その年は、僕達には、正月も無かったが、昇二が合格祈願ぐらいは行こうぜと提案があった。みんなも賛成し、大阪天満宮に決めた。

 駅で待ち合わせしていたが、美鈴が現れた時、僕はびっくりした。学期末に別れた時よりも、やつれて顔に艶も無いように思えたのだ。

「美鈴 大丈夫なんか?」

「何が 元気だよ ちょっと、勉強し過ぎて、寝不足なだけ」

「美鈴 お肌も荒れているよ いつもツヤツヤなのに」と、光瑠も心配していた。

 僕達は、天満橋まで出て、そこから歩いて向かっていて、前に昇二と光瑠が歩いて、後ろから、僕と美鈴は並んで歩いていた。美鈴は、前を伺いながら、時々、そーっと手をつないできていた。まだ、初詣客で混んでいた。

 お詣りを済ませて、みんなで絵馬に願い事を書いた。その時、美鈴は隅っこに「みんなで一緒に」と書いていたのが見えた。僕はあわてて「美鈴と」と書いて結んだ。そして、僕は、内緒でミサンガ風のお守りを買っていたのだ。

「美鈴 お父さんの具合どうなの?」と、光瑠が切り出した。帰りの電車に乗る前にみんなでカフェに入っていたのだ。

「うん もうすぐ退院すると思うよ でも、しばらくは、仕事出来ないとだろうって」

「そう お母さんが会社の方見てるんでしょ だから、美鈴が病院のほう面倒見てるのか 大変なんだ」

「そうなんだけどね・・」と、美鈴は歯切れが悪かった。

「中道 無理すんなよ 俺等仲間なんだから、手伝えることあったら、言ってくれよな 身体だけは、大事にしろよ」と、昇二も心配していた。

「有難う でも、大丈夫 私のことなんか心配しないで、受験に集中してよね」と、美鈴は返していたのだが・・

 みんなと別れた後、僕は、美鈴を追いかけた。あのお守りを渡すためだ。

「美鈴 これ! もう一つは、僕の 一緒に高校行こうぜ」と、ピンクと赤のほうを差し出した。

「ありがとう うれしいー そっちは、ピンクと青なんだ 絆だね」

「美鈴 本当に、大丈夫なんか?」

「うん なんとか乗り切るよ 今だけ、少し大変なだけ」

「何かあれば、言えよ 俺は、お前の・・」

「わかってるって 君は、私の蒼君 美鈴も蒼君のものってことで、いいんだよね!」と、お守りを美鈴の利き手の左に着けて見せた。

1-⑷ 
 私は、二つのレストランの総料理長に会いに来ていた。お昼が落ち着いた頃をみて、裏から訪ねて行ったんだけど、客席に案内され待っているように言われた。

「待たせてすみませんね ちょっと、片づけてきたもんで・・ 珍しいね、今日はどうかされましたか」と、もう60に近い松永さんが来てくれた。松永さんは、私が小さい頃、よく、遊んでもらっていた。

「お久しぶりです すみませんね、お忙しいのに 私、松永さんにしか聞けなくて・・ 高井さんのこと」」

「やはり そうですか 実は、お嬢さんはどうしているのかなと気にはなっていたんです。高井のことは、色々と複雑でね、ここでは、あまり話が出来ないので、僕は、明後日休みなので、お嬢さんの学校の終わった後にでも、別の場所で会えませんか」

「良いですけど 飲食店は、学校の帰りには、ちょっと 市民会館のロビーで良いですか」

「もちろん 先週、病院にお見舞いに行ったんですけど、社長は、あまり仕事のことはねぇーという感じでしたね」

「えぇ まだ でも、回復すると思いますよ 頑張ってもらわないと・・」

 - - - ☆ ☆ ☆ - - -

 その日、ロビーのベンチに座って、松永さんは待っていてくれた。

「ごめんなさい お休みで、ゆっくりしたいのに 出てきてもらっちゃって」

「いいんだよ 僕も、お嬢さんには、一度、会って話をしなきゃって思っていたから 今から話すことは、お嬢さんには、少し酷なことかも知れないし、僕だけが感じていることだからね」

「わかりました 私、松永さん信じていますから、何でも話してください。お父さんと高井さんのことも」

「君のお父さんは、学生の頃から福井の美浜の民宿によく行っていたんだ。30歳になって、この店を開いた後もな。その時、あの子が小学生で、懐いてくれて、可愛がっていたそうだ。だけど、10年ぐらい前かな、突然、主人が亡くなってな、でも、しばらく母と娘で民宿は続けていたそうだ。だけど、続かなくなって、娘を自分の店に来ないかと社長は誘ったんだ。それから、彼女は経理の勉強してな、うちの店でも一生懸命仕事していた。でも、社長は、気にはしていたけど、奥さんが言うような男と女の関係では決してなかったよ。彼女も社長のことは信頼していたみたいだけど」

「本当ですか 私、お父さんを信じていて良かった 高井さんと連絡とれます?」

「それがな 知らないんだよ 辞めたのも突然だったしな」

「そーなんですか 私、あの人にも可愛がってもらったから・・」

「うん 仕事も真面目だったしな 僕は、お嬢さんに余計な苦労かけたくないから、今から話すこと、辛いだろうけど、しっかり受け止めて欲しい」

「わかった 乗り越えるつもりで来たから」

「実は、奥さんが来てから、ホールの人間が次々と辞めているんだ。給料を下げられたらしい。総務の上野の提案らしい。それに、あいつは、近くに新しく出来るチェーン店に引き抜きの話があって、うちの調理の連中も連れて行くという話が出来ているらしい。実際、調理の2番手との間では話が出来ている」

「それで、松永さんは?」

「僕は、社長との恩と義理があるのわかっているからね 多分、僕には、内緒にしているよ」

「ありがとう 松永さん お父さんを何とか支えてね」

「もちろんだよ 社長は、従業員にいつも感謝していて、儲かると特別手当を出して、自分の分は減らしていた。立派だよ。僕も、さんざん世話になってきた。僕には、子供も居ないから、お嬢さんのことも自分の子供というか孫というか、可愛いと思っているし、何とか守りたいと思っている」

「それを聞くとお父さん喜ぶと思うわ 色々と思いだすかも」

「お嬢さん まだ 言っておきたいこと、あるんだよ 言いにくいことだけど 上野と奥さんの仲があやしいんだ だから、今じゃぁ、上野の言いなりで・・ふたりで会社の金を貯め込んでいるってウワサだし」

「松永さん そんなことって あるわけないじゃぁ無い お父さん、あんな状態だし、私も妹の
清音
きよね
も居るのよ」

「お嬢さん 奥さんは、社長が従業員に給料を出し過ぎだって、やり方に前から不満を持っていたんだ。それに、高井のことが重なって・・奥さんはまだ若いし」

「お母さんって、そんなこと思っていたんだ。だから、お父さんのことも、あんまり面倒見ていない。最近は、家のこともほったらかしで・・私、会社のことが忙しいんだと思ってた」

「僕の勘違いだったら、良いんだけど お嬢さんには、この際、知らせておいた方が良いと思って 覚悟しておいてください お店も、多分、閉められていくと思います」

「えぇー そんな状態なのー」

「今まで、社長がやりくりして伸びてきたんですけど、今はー すみません 僕には、どうにも出来なくて・・料理のことしかわからないんです」

「松永さんのお気持ちはわかりました。有難うございます。私、そのこと頭に入れて行動します。でも、松永さん、私達のことは、気にしないで置いてくださいね 今からでも、条件の良い所あったら、移ってくださいね 私、これから病院のお父さん看に行かなきゃ またね」

「お嬢さん これ プリンです 社長に食べてもらってください 僕が作りました」

 私は、病院に向かう途中、涙が出てきていた。何の涙かわからない。色んなことを聞いたので、頭ん中も混乱していた。だけど、お父さんと高井さんが変な関係じゃぁなかったことだけは、安心していた。

1-⑸ 
 3月に入ると美鈴は学校に来なくなった。ラインしても「大丈夫 元気 お父さんの側にいたいの 試験にはいくから」とだけ返事が返って来る。心にひっかかるものがあったが、試験の日が迫ってきていた。

 当日の朝、美鈴が現れた。僕達の前では「頑張るぞー」とか声を出して明るく振舞っているみたいだった。僕は、昇二と「様子が変だな」と顔を見合わせてながら、試験会場に入った。

 科目が終わった後も、美鈴は自分の席から離れず、僕達とは、話せずじまいだった。全て終わった後も「ごめん お父さんの側に居なきゃ」と言ってさっさと帰って行った。皆が、夜にラインしたみたいだったが、返事がないままだった。そのまま、学校にも出てこなくなった。

「中道の店 出口店を閉めたらしいぜ 割と急だったらしい」と、昇二が言ってきた。

「そうなんか お父さんが入院しているのって、影響しているのかな 美鈴、何にも話さないから あいつ」

「蒼 お前 中道と特別に付き合っているのか?」

「うん 僕は、彼女が好きなんだ 意識している」

「だろうな うすうす感じていた 最近、名前、呼び捨てだから 二人ともミサンガ着けていたものな でも、お前等、小学校から仲良かったもんな 中道は可愛いし」

「すまん 高校に入ったら、話そうと思ってた でも、最近だよ」

「謝ることじゃぁないよ お似合いだと思うよ やったなー」

 合格発表の日。僕達は、みんな揃って受かっていたが、その日、美鈴の姿は無かった。ラインしてみたが「おめでとう 卒業式は出る」と短い返事が返ってきたきりだった。

 卒業式の朝も美鈴の姿は無かった。僕達は心配しながらも、式を終えて、それぞれの教室に戻ろうととしていた時、僕の前にテニスボールが転がってきた。

 振り向くと、体育館の陰から・・美鈴だ。おいでおいでをしている。僕は、側に駆け寄っていった。

「どうしたんだよ なんで、来なかったん 大変なのか」

「ごめんね 急な用事で・・ 蒼君には、会っておきたかったから・・」

「何でも、抱え込まないで、話してくれよ 約束だろう」

「うん 落ち着いたら話す これ 渡したかったんだ 私が、大事にしている子猫チャンの人形 持ってて あのね 次に会えれば 多分、高校の入学式までも・・」

「どういう意味だよ 僕は、何か力になれないのか」

「うぅん そういうんじゃぁないけど でも、待ってー 蒼 私は、あなたが好き ちょっとかがんで」と、言ってきたかと思うと、いきなり、背伸びして、僕のほっぺにキスをしてきた。そして「元気でね」と、言い残して去って行った。

 僕は、いきなりで、情けないことに、しばらく動けなかった、そして、追いかけることも・・。この時は、もう会えなくなるなんて、思ってもみなかった。昇二と光瑠にそのことを話した。

「そうなのよ 美鈴から 意味不明なメール入っていたのよ もう、会えないみたいな」と、光瑠が言っていたが

「俺にも、来ているよ 今まで、有難うっていうような意味かな」と、昇二も言っていた。

「美鈴のうちにみんなで行ってみようぜ あいつの店、本店も15日に閉めたらしい 大丈夫かな、あいつ」

 先生に住所を聞いて美鈴の家に3人で行ってみた。社長と言うには、ごく普通の家だったが、門には「売り家」の看板が下がっていた。美鈴に電話してみても(電源が切られているか・・)で連絡付かなかった。

 そのまま、何回も電話してもラインしても返事がなく、数日後には(現在使われていません)に変わっていた。

 そして、高校の入学式を迎えたが、美鈴は僕達の前から姿が消えてしまったのだ。

第二章

2-⑴
 僕達3人は、同じ高校に通うことになった。僕は、特定の女の子と付き合うことも無く、昇二と光瑠とは仲良くグループ付き合いをしていたが、美鈴のことは忘れたことが無かった。最後に、美鈴から渡された子猫の人形は、学校に行くときも鞄の中に入れて、いつも離さないようにしていた。

 高校3年の冬休み、図書館で昇二と会っていると

「中学の時の北川紘一を覚えているか?蒼は同じクラスだったろう」

「うん 覚えているよ 割と、仲が良かったから」

「この前、あいつと道で会ってな 美鈴によく似た女の子を見たって言ってたんだよ」

「それって どこでだよ」と、僕は焦っていた。

「落ち着けって 四条畷の弁当屋らしい 友達の家に泊りに行った時、そこに弁当を買いに行ったら、似た子が奥で働いていたんだって マスクして髪の毛も短かめだったから、よくわからないけど、あの眼元はたしかに美鈴だと思ったらしいんだが、確かめること出来ないままに、弁当買って帰ったらしい。でも、気になったんで、次の週も、行ったらしいんだが、もう、店を辞めていたそうな お店の人に聞いたら、その子を目当てにストーカーまがいの男がいて、毎日買いに来るのは良いんだけど、彼女が仕事を終わるのを外で待ち伏せして、付き合ってくれと付きまとったりするようになってきたんで、店に迷惑が掛かるからと、辞めたらしい とてもよく働いていたらしい それに、もう18になったんで、知り合いの料理人に呼ばれて、大阪のホテルのナイトラウンジで働くと言って居たそうだ。借金の返済のため、お金が必要らしかったと、だけど、彼女は しずかちゃんと言って居たそうな それで、人違いかなって思ったそうな それでも、連絡先を教えて欲しいと頼んだんだが、駄目だったみたいで、それ以上は聞かなかったということなんだよ どう思う?」

「なんとも言えないな しずかって言うんなら、違うし 名前変えてるかも知れないし 髪の毛も切ったんかなぁー」

「でも もう一つ気になったんが、左手にリストバンドしているのが見えたらしい 北川も美鈴と蒼がミサンガ着けているの知っていたから」

「うーん まだ、着けているかなぁー 昇二には、言うけど、僕のは切れかかって、ちょこちょこ補修しているんだ ほれっ これ 切れてしまうと、美鈴との絆も途切れてしまうような気がして・・」

「リストバンドで覆っているのか 確かに気になるなぁ だけどな 蒼 わかっているだろうけど、俺たちは、今、受験を控えているんだ 今は、探しようも無いよ そんなつもりで、このこと話したんじゃぁないんだぞ」

「あぁ わかっているけどなー すまんな お前にまで、心配かけて」

「なんの 美鈴は、俺たちにとっても仲間だからな」

 昇二と僕は、京都の同じ大学の農学部を目指していて、新しい食品となるものを勉強しょうと約束している。光瑠は同じ大学の法学部を目指していた。 

2-⑵
 明けて正月の2日、3人で大阪の天満宮に合格祈願にいこうとなった。高校受験の時も、4人で来ていた。あの時、美鈴はもう家庭環境の変化に悩んでいたのだろう。僕達には、何にも言わずに独りで抱え込んでいたのだろう。僕も、もっと、軽く考えていたのだ。でも、相談されても、僕にはどうしようなかったかも知れない。

 神社の境内はやっぱり混んでいて、何とかお願いを済まして、絵馬を奉納することにした。それぞれの願い事を書いて、吊るしていると、光瑠が大きな声で

「これを見てー」と、僕の腕を引っ張ってきた。その指を指す先には

  {蒼が 希望の大学に受かりますように}と書いた絵馬があった。

「きっと 美鈴よ 私達より先に来たのよ それで・・ 私達がきっとお願いに来るって、考えたのよ だから・・あの時と同じように」

「でも 名前が書いてないぜ 偶然かも」と、昇二が言ったが

「それはね 気を使ったのよ 蒼に、もしかして彼女がいたら気まずいでしょ あのね、絵馬が裏向いていたでしょ 普通なら、書いた方を隠すじゃぁない それも、真ん中に吊るして 気づいて欲しかったんだよ 美鈴は」と、二人が話している間に、僕は辺りを見回していたが、彼女の姿は無かった。でも、間違いなく美鈴の字だ。僕は、それを撫でながら、愛おしく思った。

 {とにかく 連絡してくれ 蒼}と、記した。

「何で 何でだろう きっと見つけ出すよ」と、僕は思わずつぶやくと

「しっかりしてよ 蒼 あの子の気持ちを考えて 何か、事情があって、私達の前から消えたのよ 多分、私達に心配かけまいと思っているのよ でも、今でも、蒼のことは想っているよ きっと 美鈴も会いたいに決まっているじゃぁない だから、こうやって・・ きっと、自分を探し出すことより、美鈴が望んでいるのは、今は、蒼がしっかり自分の道を進んで欲しいと思っているのよ 美鈴のことを信じてあげて・・私、女だからわかるのよ」

「そうだよな 光瑠の言っていることは、正しいよ 蒼 今は、大学に入ることに集中しよう」

「そうだな 確かに 会えるんなら、向こうから来るよな 光瑠ありがとう わかったよ」

「うん、大学に入ったら俺達も協力するからさ 美鈴のこと探そう 何か、助けられることあるかも知れない」と、昇二も言ってくれた。

「そうよ あの時は、私達も中学生だったし、今度は何かできることあるかもしれないよ 蒼、とにかく頑張って大学に受かろー 蒼と美鈴の絆 今日、改めてわかったわ きっと、又、会えるよ」

「よし わかったよ 必死になってな 美鈴の分までやるよ」と、僕は誓った。

2-⑶ 
 4月になって、僕達は揃って希望の大学の入学式を迎えた。

「光瑠 化粧してんのか いつもより、少し可愛いよ」と、昇二がからかっていた。

「バカ 少しだけじゃぁ無いでしょ 大学入ったら、恰好良い男の子見つけるんだ」

「光瑠もようやく色気づいてきたんだ いままで、男には、興味なかったのに・・ でも、光瑠がその気になったら、もてるよな スタイル良いもん さっきから、チラチラ見ている男連中居るものな」と、僕も言った。 

「やだー 蒼 そんな風に言ってくれたのって、初めてよね」

「おい 光瑠 俺達を見捨てないでくれよな」と、昇二が言うと

「何言ってんの 君達が居たから、私、頑張って来れたのよ 感謝してる 仲間にしてくれて」

「履修科目決まったら、どこかバイト探さなきゃな」と、昇二が言うと

「私 決まっているんだ 今度、近くにフレンチのレストランが開店するから、そこでバイトする」と、光瑠が言っていた。

「そうか 僕は、しばらく様子みるよ」と、僕が言うと

「もしかして、美鈴のこと 探すの?」と、光瑠が聞いてきた。

「いや 宛も無いからな どうしたら、いいのか」

「あのね うちのお母さんが、この前ね お友達と食事に行った時にね 昔あったレストラン「ナカミチ」は安くておいしかったって話になって その人が、たまたま、美鈴の家の近くなのよ その人が言うには、お店を閉める前に、離婚したんじゃないかなって お母さんと妹の清音ちゃんが荷物まとめて、車で出て行くのを見たんだって それ以来、姿見なくなったんだって それで、美鈴は学校にいっている様子が無かったって 多分、お父さんの面倒見ていたんじゃぁ無いかなって そうしたら、しばらくして、あの家が売りに出されていたんだって」と、光瑠が言い出した。

「それ 確かなんか」と、僕は聞き返したが

「人の話だから わかんない 私も、このこと、蒼に伝えていいのか、迷っていたんだけど でも、それ聞いて、美鈴が私達の前から居なくなったのが、何となくわかる」

「そんなことになっていたんなら、なんで僕等に言わないんだよ そんな仲だったんだろうか」

「あの子 高校受験の直前だったから よけいな心配させまいと思っていたんじゃぁ無い」

「うん 聞かされても、あの当時じゃぁ 俺達には、どうしょうも出来なかっただろうな」と、昇二も言った切り黙り込んでしまった。

「でもな なにも 黙って・・居なくなるなんて・・」僕も、頭ン中が色んなことで交錯していた。

2-⑷ 
 僕は、3回生になり、就活を考えていた。そんな時、光瑠が話があると、連絡してきた。

「私のバイト先のオーナーがね 元「ナカミチ」に勤めていたんだって まだ、入って、数年だったから、よくわからないまま、上の人に連れられて、新しい店に移ったって言っていたわ」

「その人って、「ナカミチ」がつぶれた時も居たのか?」

「ええ 美鈴のお父さんが倒れてから、給料を突然下げられて、それで、料理の2番手の人が新しく出来る店にみんなを引っ張りこんだんだって それから、直ぐに「ナカミチ」がつぶれたって言っていたわ 後悔したらしいけど、やり方もひどかったって言っていたわ 店はそんなに売り上げ悪くなってなかったのに、総務の上野っていう人と奥さんが貯め込んでいたというウワサらしいわ それで、みんなが怒ってしまって」

「そうか そうだったんか いきなり、閉店だもんな」

「でもね、その新しいお店も、最初の話と違って、扱いがひどかったって話よ だから、直ぐに辞めて、京都の店に修行をやり直して、自分のお店を開いたんだって この前、お店の飲み会があって、話してくれたの」

「そうか でも、美鈴の行方は知らないんだろうな」

「うん それはね でも、「ナカミチ」の総料理長 松永さんって人は、最後まで残って、美鈴のお父さんを助けるって言っていたそうよ 大阪の新しいホテルの料理長に雇われたけど、後輩に譲って、2年前ぐらいに自分の店をやっているそうよ」

「その場所とか、店の名前とかわからないのか」

「そこまでは、わからないんだって 不義理してしまったから、連絡は取ってないみたい ただね、その人の奥さんが生駒のふもとが実家なんだって 「ナカミチ」がつぶれた後、そっちに越したみたいだって言っていたから、そのお店もそっちのほうじゃぁないかって」

「そうか もしかして、あの弁当屋の・・しずかちゃん 方角的には その人の近くに住んでいるって話は合うかも 無理やり、結び付けすぎかなー」

「あのね それとね 美鈴のお母さん 離婚したあと、上野さんって人と一緒に住んでいたってらしいって言っていたわ 美鈴の妹さん連れて・・ 美鈴のお母さんって若かったからね ひどい話よね 美鈴が可哀そう」

「それ 本当かよ メチャメチャやんか だから、あの時、独りでお父さんの面倒みて、学校にも来られなかったんか あいつ 独りで頑張っていたのか―」

「ねぇ 蒼 まだ、美鈴のこと諦めていないんだよね 好き?」

「もちろん あんなに、優しい娘っていないよ お父さんにだってつくしているんだよ 自分を犠牲にして 小学校から見てきているんだ あいつの気持が真っ直ぐで、優しいの」

「そうだね 小学校からかー」

「光瑠 すまんな 迷惑かけて」

「なに言ってんの 私 蒼のこと好きだよ 変な意味じゃぁなくて 蒼と美鈴 うまく、結ばれるといいなって思っている」 

2-⑸ 
 5月になって、僕は、以前の美鈴の家の前に居た。もう、外装もリフォームして手を加えられていた。僕は、思い切ってチャイムを押した。

 直ぐに、若い奥さんらしき人が玄関から顔を出した。門からは、少し離れていたが、僕ははっきりとした声で

「突然ですみません 僕は、三倉蒼と言います。実は、お尋ねしたいことがあって」

「はい なんでしようか」

「いきなり、なんですが、この家を買われた業者さんを教えていただきたくて」

「どういうことでしょうか」 

「実は、この前の持ち主の行方を捜してまして、業者さんに聞けばわかるんじゃぁないかと思ったんです」

「そうですか そんなことは、主人に聞かないと もうすぐ帰ってきますから 家にあげるわけにもいかないですから よろしければ、後1時間したら、もう一度来てもらえます?」

「わかりました 変なこと聞いてすみません 後で、もう一度お伺いします」

 確かに、怪しいことをやっているなと思ったが、何か行動しないでは、居られなかった。時間をつぶして、もう一度行ってみた。チャイムを押すと、さっきの奥さんが顔を出して

「あぁ 帰っているわよ」と、後ろから、旦那らしき人が出てきた

「嫁から聞いたけど そんないきなり来て、理由もわからないで、話すわけいかないよな」と、言われた。

「すみません 以前ここに住まわれていた中道さんのことを探してるんです そこのお嬢さんと、僕は、中学の同級生で、一緒の高校にいこうと約束して居たんですが、受験は受かったのに、中学の卒業式から突然、居なくなってしまって・・何とか、消息がわからないかなと思って」

「そうなんか 中道さんを知っているのか 詳しく事情聞くよ まぁ あがんなさい」と言って、ダイニングに通された。

「君が信用できると思うので、話すんだが、ここを売ったのが中道さんだってことは、不動産屋から聞いていて知ってるんだ。登記簿を見れば、中道さんから直接買った業者がわかると思うから、後で見て教えるよ」

「有難うございます そこで聞けば何か手がかりがあるかも」 

「君は、学生なのか」

「はい 今年から〇〇大学です」

「あら 勉強できるのね あなた あのこともお話してあげれば この人、真剣に、彼女のこと思っているのよ」と、奥さんが口添えしてくれた。

「そうだな 僕は、市役所に勤めているんだが、中道さんとは何回か面識あるんだ。あの時は商工課に居てね こんなこと言っちゃぁだめなんだろうけど・・お見舞いにも行ったことあったが、僕のことも認識が無かった状態だったよ あの時、付き添いしていた娘さんが、君のいう彼女だったんだろう しっかりした女の子だったよ」

「ええ 多分、病院に付きっきりで、最後のほうは学校にも来てなかったですから」

「商工会の人から聞いたんだが、お店をたたむ頃、中道さんとその娘さんが相談にきたらしい。店を閉めるにあたって借入金などの返済をしなければならないし、引き続きの融資の相談だった。店の総料理長と言う人も同席していたんだが、肝心の中道さんの状態をみて、決済に戸惑っている間に、この家を売りに出したということだった。僕も、何にも出来なくて、心が少し、痛いんだ」

「そんなことになっていたんですか 有難うございます 話してくださって」

「私達 結婚前に、よく「ナカミチ」に行ったのよねぇー おいしくて、安かったから」と、奥さんが話してくれた。

「そうだったね でも 彼女が君に何にも言わないで、いってしまったということは なぁー」

「あら そういう女の人だって居るわ この人のことが本当に好きだったから なんにも 言わないで、身を引いたのよ 多分」と、奥さんが言ってくれた。  

「そうなのかもな いや 話過ぎたかもな 君が真剣みたいだったから つい でも、うまくいくといいね」

「もし、又、会えたら、絶対、彼女を離したらだめよ」と、言って送り出してくれた。 

2-⑹
 僕は、あの家を買ったという不動産の会社に行ってみた。事務所に入って、女性の方に要件を話すと、それを聞いていた年配の人が出てきて、応対してくれた。

「すまんが、お客様の情報は漏らすわけにはいかないんだよ。それに、あの物件は、大阪の業者から引き継いだものだから、名義も変わっているし、詳しいこともわからないんだよ」と、言いながらも、大阪の業者を教えてくれた。

 その足で、僕はその業者に行ってみた。受付で事情を話すと、しばらくして、奥から男の人が出てきて、

「ご用件を伺いましたけどね、お客様の情報ですので、お教え出来ないんですよ。あの時の、担当者も外に出掛けていますしね。すみません、決まりですので。それに、移転先を知りたいということであれば、我々が調べても、あそこの住所までしか、わからないと思いますよ」

 僕は、丁寧にお礼を言って、出ようとした時

「ただね、売却を急いでおられたみたいでね、買取の決済を急いだと記憶しております」と、言ってくれたのだ。

 やっぱり、そうだったのか、返済金で急にお金も必要だったんだ。美鈴は、病気のお父さんを抱えながら、ひとりで、そんなに苦労していたんだと思うと、胸が苦しかった。

 でも、やっぱり、行方はわからなかったのだ。僕は、美鈴の彼氏のはずだったけど、見かけだけで、何にもしてやれなかったのだ。

2-⑺
 学食に、久しぶりに3人で集まっていた。光瑠は授業が忙しくて、バイトを日曜だけに絞っていると言っていた。そのまま、大学院をめざすつもりらしい。

 光瑠の前には、野菜サラダしか無かったので

「光瑠 お昼ご飯それだけなんか」と僕が聞いたら

「うん 最近、ずーとこんな調子 大学に入ってから、だんだん太ってきてね 勉強していると、お腹がすくのよ つい、食べすぎちゃって セーブしなきゃと思っているんだ。太っていると、昇二が嫌がるんだ」

「光瑠 お前 そんなに、俺のことを」と、昇二が言うと

「勘違いしないでよね 男にもてる為よ でも、私、蒼だって、昇二も好きだよ」

「なんだよー 一瞬 その気になったのに」と、光瑠に向かって、自分の口元でチュッとしていた。

「アホかー 君は 早く、相手見つけなさい」と、言われていた。

「蒼 光瑠から、あそこの料理長の話を聞いたよ あのな、俺の叔父さんが米屋をやっているんだけどな この前、言っていたのはな 昔からのお得意の息子さんが買いに来てくれて、たまたま、近くに越してきたそうだ。その人が言うにはな、小さい頃からここの米で育ったから、他のは、もう一つ口に合わないからって言っていたそうだ」と、急に真面目な顔をした。

「そんなものなのかーなぁー」

「俺が、言いたいのはそこじゃぁないんだ」

「あっ そうか 新しい店をオープンしても、前からの米屋と取引があるかも知れないってことかー」と、僕は、声が少し大きかった。

「そうだよ 米屋だけじゃあなくて 酒屋、肉とか食品の卸とか 色々とつながることがあるかもな それに、昔の馴染みで、支払いに融通をきかせてくれるから、資金繰りも助かるはずだ」

「そうだ ありがとう 昇二 さすがだよー」

「わかった 君達は、私に、「ナカミチ」の時の仕入先を、今のお店に聞きだして来いって言っているんだな」と、光瑠はさすがに回転が早かった。

2-⑻
 それから、しばらくして、光瑠が聞き出してくれた肉の卸の営業所を訪ねた。事務所に入って、事情を説明したら、営業所の所長と言う人が出てきてくれて

「事情は、聴かせてもらいましたが、私等の商売は信用で成り立っているんでね、得意先の情報を漏らすわけにはいかないんだよ おたくの事情もわかるんだが・・」

「そこを なんとか 中道さんとか松永さんの消息を知りたいんです 僕達は、高校の時からずーと探しているんです お願いします 教えてください」と頭を下げた。

「気持ちはわかるが うちも、散々松永さんにお世話になった。恩返ししようと思っている。だけど、会社の決まりだ。許してくれ」

 仕方ないので、出ようとすると「おたくの名前と連絡先を書いといてくれ」と、言われた。どう意味があったのかはわからない。

 僕は、希望の就職先の会社説明会が迫っていた。説明会とはいえ、夏のインターシップに向けた面接もある。昇二とは同じ会社に行こうなと約束していた。僕は、正直、迷っていた。希望の会社は全国に支店、工場がある関西勤務とは限らないだろう。そうすると、ますます美鈴から遠くなるからだ。それに、肉の卸の開始やに行った時のことがあったので、少し、落ち込んだまま、説明会に向かった。

「とりあえず 第一関門突破だな 多分、又、呼ばれるよ 大学と学科専攻が効いているからな」と、昇二は明るかった。

「どうした 蒼 気になっているのか 美鈴のこと 社会ってそんなものだろう 甘く無いって そんなにベラベラ得意先のことは、話さないさ」

「うん それもあるけどな 昇二 実は、僕は、このまま今、希望しているとこに行ってもいいのか 迷ってる」

「それは、勤務先がどこになるかわからないからだろう でもな 蒼 美鈴を迎えに行くために、大企業に入って、生活を安定させるってのも手なんじゃぁないか そーしたら、彼女を連れていけるじゃぁないか それに、あそこに入って、お前の望む仕事をするんだろう?」

「そーなんだけと゛ とにかく、彼女を探さなきゃ―」

「蒼 確かにな 彼女は中学の時から頭も良い、美人だし、気立ても良くて親孝行だ。それに、芯もしっかりしている。申し分ないよ いい女だ。だけど、お前は、自分の将来を女のためにささげるのか 先ずは、自分のことを考えろよ」

「違う 僕は、彼女と未来を創っていきたいんだ 自分独りよりも、彼女と一緒なら、もっと、素晴らしいものを築きあげられる。だから、彼女が必要なんだ」

「わかったよ どうしようもない奴だな これが、昨日今日の話なら別だが、お前等、小学校からずーとだもんな だから、協力するんだ その想い 美鈴に聞かせてやりたいよね」

2-⑼
 光瑠の情報のもう一つの方。京阪酒販に行ってみた。やはり、なかなか話を聞いてくれる人が居なかったが、最後に応対してくれた人が

「僕も、松永さんには、お世話になってね あの人は、義理がたい人だ 今でも、元気だよ 中道社長もね 君の気持はわかるが、勝手に教える訳にもいかない 直接はね 3時間位、時間あるかね」と、聞かれた。

「えぇ 大丈夫ですけど・・」と、応えると、その人はどこかに電話していた。

「今、配達の車が来るから、それに乗っていけ 君は、アルバイトだ ただし、今日は、得意先とは話はするなよ」と、ジャンパーを渡してくれた。車に乗り込むと

「あんたは、大学生か?」

「ええ 今、3回生です」

「そうか 俺は、高校出て直ぐに、今の会社に入ってな もう20年近くなるんだ。入った頃、中道社長はまだ、小さなレストランやっててな、店に行くと、降ろすのを手伝ってくれたり、たまに、なんか弁当をくれたり、可愛がってくれたんだ。だけど、あんなことになってしまってな、悲しいよ」

「そうなんですか 面倒見の良い人なんですね」

「でも、今、松永さんとこで、調理場を手伝えるまでになったみたいで、良かったと思っているんだ」

「着いたよ」と見ると、「ビストロ ナカミチ」の看板が・・。こじんまりしたレストランだった。店の横の路地を通って裏口まで運んだ。中から男の人が出てきて

「おお 暑いのにご苦労さん ちょっと、待ってろ」と、言って、コップにジュースを入れて持ってきてくれた。

「今日は、助手付きか」と聞いていた。

「ええ まぁ 中道さん 身体変わりないですか」

「おお 元気だよ まだまだ動けるさ」と、元気いっぱいだった。この人が美鈴のお父さんなんだと・・初めて会った。

 怖くて、店の中をのぞけなかった。美鈴がいるかも知れないのに・・。でも、おそらく休憩中なんだろう、客室のほうは暗くて、人が居る様子は無かった。

  何にも、話すなと言われていたから、僕は、黙ったままだった。ジュースのお礼は言ったけど。外のプレートを見ると、やはり、休憩中と書いてあった。なぜか、幾分、ほっとした気持ちもあった。

「あんな調子でな 前の店のことなんて、記憶にないんだ。でも、うすうす俺のことは覚えてくれていてな それが、嬉しくってな 松永さんも義理堅い人で、店の名前を「ナカミチ」にしちゃって だから、今の店をオープンするってなった時、うちの会社も出来る限りの協力をしたと思うぜ」

 その後、2件ほど配達して、戻った。事務所に戻って、さっきの人にお礼を言うと

「バイト代は出せないよ 君も、少しでも、あの店を助けることが出来るように、頑張ってくれ」

 僕は、丁寧にお礼を言って、そこを出た。改めて、「ナカミチ」に行くつもりだった。美鈴が僕に渡した子猫の人形に向かって「会ったら 今度はどこにも行くなよ」とつぶやいた。

2-⑽
 昇二と光瑠に話した。新しい「ナカミチ」が見つかったこと、美鈴のお父さんを見たこと。

「行くんだろう 店に」と、昇二が聞いてきた。

「ああ 行くよ 当然」と、二人を前にして、答えたが・・。

「でも 本当は、怖いんだ あんなに、美鈴のことを探していたのに、いざ、会うとなるとな あの時、姿を消したのは、相当な覚悟があったのだろう そして、今でも、連絡してこないのは その覚悟を僕が、無視してもいいのかなってな」と、言うと、光瑠は僕の手を取ってきて

「蒼 美鈴だって、会えれば、嬉しいに決まっているじゃぁ無い あの時と違って、もう時間がたっているわ 今でも、思ってくれているんだと 蒼の想いだけでも伝えるべきよ」

「しかし、もう 僕のことなんか忘れて居るかも」

「何言ってんの 自信持ってよ あの絵馬を見たでしょ まだ あの娘は蒼のことを想っているわ 私達、応援しているから、ぶつかっていけー 今の君には、それしか武器が無い」

 - - - - - ☆ ☆ ☆ - - - - -

 その日、電話が鳴った。知らない番号だったが、肉の卸会社のこともあったので、出ると、松永さんだった。話をしたいので、店の方に来れないかという内容だった。

 次の日、3時過ぎに「ナカミチ」に行ったのだ。玄関は開いていて、店には、おそらく松永さんであろう人だけのようだった。

「三倉さんですか 初めまして、松永です 暑いのに、遠くまですまない ゆっくり、話を出来る所が思いつかなかったもんで」

「いいんです 僕も、お伺いしたかったから」

「だと思うよ そうなる前に、一度、会っておきたかったんだ」

「君の目的は、美鈴お嬢さんを探していたのか?」

「そうです 僕は、ずーと想っていた 突然、居なくなってからも、美鈴を忘れたことはありませんでした だから、会いたい」

「そうか 仕入先から若者が探しているようだと聞いて、この前も店まで来たようだったしな ピンときた お嬢さんから聞いたことがある若者だって だけど、今日は、僕から、お願いがあって、来てもらったんだ」

「じゃぁ 美鈴は近くに居るんですか」

「居る 元気だよ だけど、聞いてください 出来れば、今は、会って欲しくないのです」

「どうしてですか? 僕は、ずーと美鈴を想ってきた はっきり、愛しているんだと」

「わかる 君の手のミサンガを見た時に お嬢さんも、同じものを大切にして、離さない だから、この人もお嬢さんのことをずーと想ってくれているんだと」

「美鈴もまだ、持っていてくれてるんですか」

「ああ あの人は、もう、私のことなんか忘れてしまって居るかも知れないけど、私は蒼君のものと約束した絆だと言っていた 唯一、繋ぎ留めるものだからとな」

「だったら 余計に会いたい」

「待ってください 君には、話しておくべきだと思うから 成り行きを話す ゆっくり、聞いておいてくれ」

「お願いします 聞いておきたいです」

「社長が倒れてから、店は大変だったんだ 殆ど、独りで突っ走ってきたからな そして、奥さんが店にかかわってきてから、経理の高井を追い出して、ますます、資金繰りもめちゃめちゃになって、そのうち、総務の上野が策略で、ホールとか厨房の人間を引き抜きにかかって、おまけに、社長の奥さんを抱き込んで、店の資金を持ち逃げしたんだ。それで、奥さんは、離婚を進めていたんだけど、美鈴お嬢さんは、まだ、入院している社長のことを残していけないと、世話をし続けた。だけど、社長は、もう、店のことなんか記憶から消えていたんだ。退院した後も、左手がマヒしていて、お嬢さんが面倒見ていた。そして、会社が倒産して、店を閉めるにあたって、従業員の給料補償とか、店の跡地の保証とか、仕入先への債務もあった。まだ、中学卒業するかという年で、お嬢さんはあちこちに頭を下げてまわったんだ。僕も、社長には恩義があったから、手伝ったんだけども、所詮、雇い人だったから・・。結局、返済金だけが残った。やむを得ず、社長の持ち家を売りに出したんだ。僕も、子供居なかったし、お嬢さんを自分の子供のように思っていたから、小さいマンションを売りに出した。それで、こっちに越してきたんだ」

「あのー なんと言って良いのか 美鈴、大変だったんだ」

「うん 自分を捨てて お父さんのことも、会社の後始末も なりふりかまわずにな 偉いと思う それでも、自分達を捨てて出て行ったお母さんのことも、恨みごとも言わないで、逆に心配しているんだ だから、僕は、出来るだけ、お嬢さんの手助け出来ればなと思って、ここまで、やっと来た 小さいけど、店を出せるまでになった それまでの、社長の人徳もあって、仕入先にも協力してもらってたんだ」

「それで、今、美鈴はどこで働いているんでしょうか」

「あれから、色々な仕事をしててな それも、掛け持ちで、返済と生活を支えるために でも、18になった時には、お昼の時間はこの店の手伝いをして、それから、夜は、僕が勤めていたホテルのナイトラウンジで働いている。と言っても、健全な所だよ 接客と言っても、飲み物を運ぶだけだし、客層も上品な人ばかりだよ。それに、僕の後輩のコックとフロアーマネジャーにしっかりと頼んである。可愛いし愛想もいい、スタイルも良いから彼女のファンは多いんだ 日常会話程度はお相手するからね でね。ホテル側も人気があるから、彼女を大切にしていてくれているんだ 心配は要らないよ 帰りも、社長が駅まで迎えに行っている それにね、通信教育で、もうすぐ高校も卒業する」

「そんなに働いているんだ」と、僕には、衝撃だった。

「返済金を早く終わらせなきゃな でも、あと2年で全て終わる 社長も、回復して、今じゃぁ店の手伝いを出来るまでになったし、そうしたら、新しい店を出す予定だ」と、時計を気にしながら、松永さんは続けた

「お願いというのは、これからなんだ 今、順調になっているんだ お嬢さんは、あの時、自分の生活を全て切り離さなきゃって覚悟したんだと思う 少し、混乱していただろうが だから、突然、君達から離れたんだ 君達に余計な迷惑を掛けたくなかったんだよ 悩んだと思うよ 後で、後悔もしていたみたいだ でも自分で何とかしようと決心したんだ 今でも、君達のことは、それとなく気にしているよ でもな 僕の考えでは、おそらくだろうけど、返済金終わったら、お嬢さんから連絡すると思う だから、お嬢さんのその時の決意を尊重して、今は、そっとしておいてくれないだろうか 君なら、わかるだろう?」

「お話は、わかりました」

「それにな 言っちゃぁ悪いが、君は、まだ学生だ お嬢さんの面倒を見られないだろう 生活の基盤ができたら、迎えにきてもらえれば・・ その時まで、僕が、責任もって、お嬢さんを守る」

「おっしゃるとおりです 確かに、まだ、学生です 今は、我慢します でも、彼女への想いは変わりません」

「そのことは、それとなく、お嬢さんに伝わるようにするよ それと、姿だけでも見たいんだったら、4時05分の電車に乗るはずだ 急げば、間に合う ただし、遠くからな きれいになっているよ」

「有難うございます 感謝いたします これからも、よろしく 美鈴のこと」と、言って、僕は、駅に急いだ。

 走ったので、汗だくだった。遠くからって、隠れるとこも無いので、コンビニに入って、駅の方を見ていた。来た、美鈴だ。赤いTシャツにサスペンダーのストレートパンツ、黒くてツヤツヤした長い髪の毛の一部を編んで耳の前に持ってきている。あのころに比べるとずーと、大人びて見えた。目元もくっきりして、濃いめの化粧だが、きれいだ。輝いているように思えて、初めて見る美鈴だ。でも、確かに美鈴だった。編み上げのバックから、定期のようなものを出して、改札に消えて行った。でも、左手には、リストバンドをしているのが確かに見えて、僕も、手首のミサンガを握っていた。

2-⑾
 もちろん、昇二し光瑠には報告した。光瑠は聞いていて、泣きだした。

「蒼 必ず、迎えに行ってね 絶対に、幸せにしてあげてよ 君しか出来ないんだから」

「蒼 俺は、この前、自分のことだけを考えろって言ってしまって、すまなかつた。多少の犠牲を払ってでも、彼女を手に入れるのも有りだな お前にとっては宝物だものな」と、昇二も言っていた。

 僕は、その後、授業のこと、就職のことに集中していった。夏には、インターシップに出て、就職も順調に進んでいたが、心の中では、このままでいいのかという風に、自分にも問いかけていたのだ。

 秋になって、僕は、我慢できなくなっていた。美鈴をもう一度見たいと思っていた。昇二に頼んで、夜、連れて行ってくれと頼んだ。彼は、高校卒業した時に、運転免許を取っていたのだ。

「構わないが、会って、話をするのか?」

「いや 遠くから見るだけだ 様子をもう一度見たい ホテルは10時に上がらせてもらうって話だから11時頃、駅に着くと思うんだ」」

「わかった 蒼の頼みだからな この貸しは返せよな」

 僕達は、改札が見える道路に車を停めて、待っていた。30分程待っていると、美鈴のお父さんらしき人が確認出来た。それから、間もなく、電車が着いたみたいで、何人かが出てきた。

 見えた。美鈴だ。ストレートのパンツにジャケットを羽織っている。小走りに出てきて、お父さんに寄っていった。

「おい すげぇ美人になったのぉー あれは、美鈴かぁー」と、昇二が驚いていた。

 美鈴は、お父さんの腕をうしろから組むようにして、横道にそれて行った。幸せそうな父娘に見えた。

「仲が良さそうだったな 安心したよ ありがとう 昇二」

「なんの 俺も、美鈴の元気そうなの見れて、安心したよ」

「昇二 僕は、決めたよ 父さんから彼女を引き離すことはできない。仮に、美鈴を連れて、どこかに行くなんてしたら、彼女は悩むに決まっている。 昇二、一緒の会社を目指すと言って居たけど、すまない」

「わかるよ まぁ 競争相手が減ってホッとしたよ 俺は、そのまま進む 別の会社に居ても、競い合うことは出来るもんな」

「うん 中小の方が、思い切ったこと出来るかもわからないしな 美鈴、待っていてくれ」

第三章

3-⑴
 年が明けて、僕達3人は光瑠の家に集まっていた。お父さんとお母さんは気を利かせたのか、日帰りだけど、越前の方にカニを食べに行くと言って留守らしい。

 光瑠と妹の 明璃(あかり)ちゃんが迎えてくれた。二人とも、着物姿だった。光瑠より少し、背が高くて、やっぱり、ほっそりしていて、日焼けもしているように見えた。すぐに、後から、昇二が顔を出した。

「あれっ あれっ こんな美人がふたり、揃っちゃて、いいのかなぁー」と、第一声だった。

「昇二君は、口がうまいね どうぞ、あがって 会えるの楽しみにしてた」と、明璃ちゃんが嬉しそうに招き入れた。

「あんまり、ごちそう無いけど、今日は、楽しくやろうね お父さん達居ないから」

「うん 充分だよ こんだけあれば」と、僕は、答えていたが、食卓には、箱ずし、鯖ずしにサラダがいっぱい乗っていた。

「ねぇ ねぇ ビール飲むでしょ 私、持ってくるから」と、

「明璃 あんたは、ダメよ 未成年なのに・・」と、光瑠が釘をさしていた。

「明璃ちゃんは、芸大だよね 現役で受かったんだから、たいしたもんだよ」と、僕が、言うと

「うん 昔から、少し、飛んでいたよね 天才的なとこあった」と、昇二も言っていた。

「普段から、ちょっとズレてるとこあるけどね」と、光瑠も言っていた。

 明璃ちゃんが、戻ってきて、ビールを持ってきたけど、ワインクーラーに氷をいっぱい入れて、その中に缶ビールを突っ込んでいた。

「明璃 何よ それ 何で、そんなのに入れてくるのー」と、光瑠が声を大きくして・・

「何でって 冷え冷えの方がいいでしょ」

「そうだけど・・ なにー どうして、この中、赤いのー」

「うん トマトジュース 色ついていた方が、楽しいじゃん」と、サラっと、明璃ちゃんは言っていた。

「あのさー 変なことしないでよー」と、光瑠はイライラしていたけど

「いいじゃん 光瑠 きれいだよ」と、昇二はフォローしていた。

 3人でビールを継いで、乾杯したが、明璃ちゃんだけは、ジンジャーエールを持ってきていた。

「美鈴が居ないのは、残念だよね 来年は揃うかな」と、光瑠はしみじみ言ってきたが

「うん なんとか 頑張るよ」と、僕は、返した。

「蒼 決まったのか?」

「うん ほぼな あそこの社長さんとうちの教授は知り合いらしくってな、直ぐに決めたって言っていたけど、建前上、2月まで正式には、待ってくれって」

「そうか、俺のほうは、3月になりそうだよ 俺、あそこしか受けてないんだけどな」

「お姉チヤン みんなで、写真撮ろうよ デジカメの方が、セルフ便利だよ」と、明璃ちゃんが言い出した。「そう」と言って、光瑠が取りに席をはずしたら、明璃ちゃんは、自分のコップにビールを継いで飲み干したていた。

「ねぇ 昇二君 私と、デートしてよー」と、突然言い出した。

「えぇー 突然、何を言い出すんだよー 何で、俺と」

「だって かっこ良いんだよね 昔から知っているし 蒼君も良いんだけど、先約があるし、昇二君は男らしくて、友達思いだし、私の好み 今度、連絡するね」

「あのなー 電話番号も知らんやろー」

「知ってるよ お姉ちゃんの見たものー」

 その時、光瑠が戻ってきた。4人で揃って撮った後、明璃ちゃんが3人を撮ってくれた。

「今度は、私と昇二君、撮って」と、言ってきた。

「いいけど 明璃 さっきから、昇二に寄りすぎじゃぁない?」と、光瑠が不満げに言うと、

「いいじゃん お願いします お姉さま」と、ふざけていたが、その後も、昇二の隣りに座って、明るく振舞ってた。

「あのさー 昇二 妬いているんじゃぁないのよ ただね この子の相手していると、振り回される君が可哀そうだからね 忠告しておく」

「あ姉様 こんなに可愛い妹をそんな風に、言うのってひどくないですか」と、泣いている振りをしていた。

 確かに、無邪気で可愛いけどなぁーと、僕も思ったけど、昇二はどうなんだろう・・

3-⑵
 4月になって、僕達は、4回生になっていた。昇二と会っていた時

「蒼 俺は、ようやく内定出たよ お前ももう、貰っているんだろう」

「うん 向こうの社長が教授に、間違いなく来てくれますよねと念押しがあったみたい」

「そうか 期待されてるんだろうな お互い、頑張ろうぜ」

「それはそうとさー 明璃ちゃんとデートしたんだろどうだつた?」

「うーん 大変たら大変だった 少し、変わっているね 面白かったけどな」

「そうか 振り回されるって光瑠が言ってたもんな」

「どんなかなって思っていたけど、待ち合わせした時から、少し、驚いた サロペットの短パンで来たのは良いんだけどな あの子髪の毛長いだろう その後ろを大きな白いリボンで結んでな 可愛いんだけど、それだけで目立つやん? 歩いていると、みんな二度見やもんな」

「そういうのって 恥ずかしいのか?」

「恥ずかしかったよー でもな、電車降りて歩いているとな 少し、誇らしくなってきた。動物園に行ったんだけどな それからが、又、大変でな」

「動物園かぁー なるほどなぁ」

「そうだろう? でも、俺も、初めてだったんだよ 中に入るとな、彼女、はしゃいでしまって、小さい子供のようだった。天真爛漫ってああいうのだろうな」

「昇二も、少し、飛んでいるとこあるって言っていたやん 覚悟していたのだろー」

「だなぁー それから、鴨川のデルタに行って、明璃ちゃんが作ってきたお弁当を食べたんだけど、又、びっくりだよ 家庭的な娘だよ あの娘は」

「そうか やっぱり 意外性の女なんだな」

「だと思う 食べ終わったらな 靴を脱ぎだして、川ん中に浸かって行って、何をし始めたと思う?」

「泳ぎだしたのか」

「そこまですると狂っているだろう リボンを取り出して、色んな色のな 川にたれ流して、 きれいでしょ 友禅みたい と見せてた 俺は、笑うしかなかったよ」

「昇二 1日で彼女に魅かれてしまったな」

「そんなはずは、ないだろう 光瑠の妹だから・・と思って・・」

「本当に そうかな」

「うん 確かに 手をつないで、川岸を歩いているとき、不思議な感じだった でも、光瑠の顔がチラチラ浮かんでな」

「心配するなよ 光瑠はそんな女じゃないよ 可愛い妹のことを見守ってくれる男が現れたら、安心するよ」

「そうかな あいつは、鉄の女になっていくのかなー」

「その言い方はどうかなー 彼女の優しさは、ありがたいよ」

3-⑶
 7月に入って、思いかけず松永氏から連絡があった。

「突然 電話して申し訳ない お元気ですか」

「元気です 僕も、気になっていて、連絡しようか迷っていたんですよ 美鈴は変わりなく元気ですか」

「ええ 元気ですよ 失礼ながら、三倉君はもう就職決まりましたか」

「大阪の食品会社で働くことになりました」

「そうか それは良かった 実は、連絡したのは、この秋には、新しい店に移ろうと進めているんだ。返済を早い目に終わらせて、新たな融資が受けられることになった」

「そうなんですか それは、おめでとうございます すごいですね」

「それで、君達に頼みがあるんだ 美鈴お嬢さんのことなんだ もう、縛っているものから、解放されても良いんじゃぁ無いかと思ってな 君も知っている通り、今まで、10代の楽しい時を全て犠牲にしてきているんだよ だから、これからは、君達で作っていって欲しいんだが、お願い出来るかな」

「もちろんですよ 松永さん 僕達は、美鈴が帰って来るのを待っているんです」

「そう言ってもらえるとありがたいよ 君には、前に会った時、無理を言ってすまなかった」

「いいえ 美鈴のことを本当に考えてくださってるんだと、それに守ってくださってありがとうございます そうだ、美鈴は、勉強していた時、みんなで花火見に行こうね言っていたんですよ 今年、それが出来たら・・」

「そうか 考えるよ 手伝ってくれ」

3-⑷
 昇二と光瑠には、いきさつを話してある。当日、近くの駅で待ち合わせすると、光瑠は浴衣姿だった。

「光瑠ってこんなに可愛いかったっけ あっちから、来た時、どこの女優さんかって思ったよ」と、昇二が言うと

「昇二! 今日は、特別だから、素直に喜んでおくわよ」

「いや 本当に 可愛いよ 光瑠 今日の泊りは大丈夫だったか?」と、僕は、心配したが

「うん 事情話してね 美鈴も一緒だからって許可もらった でも、みんなが一緒の部屋だなんて、言って無いよ 反対されるもの― だから、君達、変なことしたらダメよー」

「わかったよー 今日は、純粋に楽しむよー」と、昇二が応えていたが、僕は、美鈴を前にして、冷静に居られるだろうかと、思っていた。

 天満橋から目的地の橋のたもとを目指して歩いた。花火は大川沿いで上げられる。そこに、松永さんは、美鈴を連れ出すと連絡をもらっていた。その時に、声を掛けてくれって。そのまま、4人で一緒に居て、知り合いのホテルに部屋を取っておくから、時間を気にしないで、今までの分の時間をお嬢さんにを取り戻してやってくれと頼まれていた。それを聞いて、みんな賛成したのだ。

 目的地に着くと、多くの人がもう集まっていた。僕達は、美鈴に見られないように、少し、離れた所で、来るのを待っていたのだ。

 見えた。美鈴だ。紺地に白いスズランの花。松永さんが、人の間を前に進んでいて、その後ろから、離れないようについてきている。暗くなってきていたが、ひと際目立つ、そんなに化粧をしている様子がないが、綺麗なんだ。

 松永さんは、止まって場所を決めたようだった。僕達は近寄って行った。間もなく、打ち上げが始まり、しばらくすると、松永さんは、僕達が後ろに居るのを確かめて、目くばせして、ぼくの側に来て「あとは、頼む」と短く言って、群衆の中に消えて行った。

 僕は、美鈴の後ろに立つようにしていた。長い髪の毛からシャンプーの香りがしていた。

「わぁー すごい きれい」と、美鈴が感嘆の声を上げた時、僕は

「美鈴もきれいだよ」と、言った。その瞬間、美鈴の動きが止まったように思えた。

 そして、ゆっくりと振り返ったかと思うと、逃げるようにした。僕は、思わず美鈴の左手を掴んで

「なんで、逃げるんだよー」と、言うと

「だって 私 何にも 言わないで・・ 約束破ったんだもの・・」と、下を向いて、泣きそうな声だったんだ。

 僕は、手首のミサンガをみせて、美鈴の手首のリストバンドをずらしたら、下から何度も補修したようなミサンガが現れた。

「この約束は、そんな簡単なものじゃぁないだろう つないで、つないできたじゃぁ無いか 僕は、美鈴の彼氏のはずなんだよ」と、言って、僕は、美鈴を抱きしめていた。

「美鈴 会いたかったんだよ ずーと」

「蒼 私も ずーと」と、美鈴は小さい声で・・

 花火もあがっていたが、さすがに、周りの人達も少し引いて、僕達を見ていたんだ。

「蒼 美鈴 恥ずかしいから、あっちに行こうよ」と、光瑠が言ってきた。

「光瑠 昇二も 来てくれたんだ」

「そうよ 美鈴 みんなで花火見に行こうって言ってたじゃぁない」と、光瑠が言うと、美鈴は、本当に泣き出してしまった。光瑠は

「だからぁー 恥ずかしいんだってー」と、ハンカチを渡して、美鈴の手を引いて、その場を逃れるように歩きだしていた。

 落ち着いた場所に移動すると、美鈴が

「あっ 松永さんは」

「大丈夫だよ 美鈴 今夜のことは、松永さんも承知しているんだ」と、僕が言うと

「あー そうか それで、変だなって思っていた 妙に、誘うし、浴衣も用意してくれて・・」

「うん 今夜は、みんなで楽しめって 泊るところも用意してくれたんだ」

「えー そんな 私、そんなつもりで来ていないよー 着替えもないし」

「大丈夫だと思うよ ホテルに行くと・・」

「そうだよ 美鈴 久し振りに会ったんだよ」と、光瑠も言っていた。

「あっ 花火 見れなかったね ごめんね」

「あそこに 何とか 見えてるぞ 花火なんて、いつでも、見れるさ 俺達、仲間だから、この時間の方が大事だよ それに、若い男と女が抱き合って、後ろに花火があがっているとこ見られたんだから、最高だよ」と、昇二が言うと

「恥ずかしいよ 昇二 そんな風に言わないでー さっきは・・」と、美鈴は恥ずかしがっていたが

「光瑠 さっきから、ずーと 美鈴と手をつないだままだよ おかしくないかー」と、昇二が言ったが

「なんでー 懐かしいんだものー うれしくって・・」と、光瑠が言うと、美鈴は、又、泣きだした。それにつられて、光瑠も泣いていた。

3-⑸
 僕達は、居酒屋に居た。昇二が串カツ屋に行こうぜって、言い出した。例のごとく、美鈴は僕のとなりに座った、いつの日以来だろうか。

「美鈴 ナカミチ 復活するんだってな」と、僕は、切り出した。

「うん 進んでいる 松永さんは、元、店があった場所の近くにしたいって」

「うん ナカミチのファンは多かったからな 懐かしがる人も居るだろうな」と、昇二は言ったが

「でも それだけじゃぁないみたい 松永さんは」と、美鈴は、少し、言い方が暗かった。

「それより、本当にあの時は みんな ごめんなさい」と、美鈴は謝っていたが

「どうして 美鈴が謝るのよ 事情があったんだから、仕方ないよ」と、光瑠がかばった。

「ある程度は、予想ついているから、もう、あの時の話はしないでも良いよ 美鈴 でも、本当に頑張ったと、みんな思ってるから」と、僕が言うと

「あの時なあ お母さんに、出て行くって言われて、お父さんを守るのって私しか居てへんと思って、もう、そればっかりしか頭に無かって みんなに迷惑かけたわ ごめんな」

「もう いいって 美鈴 あの時は、俺等も何にも出来なかったかもしれんけど、今は、少しは、手助けできると思うから、言ってくれよな なぁ 蒼」と、昇二が言ってくれた。

 ホテルに着くと、美鈴は

「やっぱり ここなんだ」

「うん 具合わるいのか?」と、僕が聞くと

「うー 私 隅っこで待っているね」と、言っていた。美鈴が勤めているホテルなのだろう。

 チェツクインを済ませて、美鈴のもとに行くと、男の人が寄ってきて

「松永さんの奥様から預かっております」と、バッグを美鈴に渡してきた。

「それと、お部屋にサンドイッチを用意しておきました。皆からの、しずかさんへの心づくしでございます」と、言っていた。

 美鈴はお礼を言って、早く行こうと促してきた。エレベーターの中で

「副支配人なの 私 来月いっぱいで、ここ、辞めるの」と、言っていた。

 部屋に入ると、美鈴は

「4人一緒なんだ」

「美鈴 蒼と2人だけだと、期待してたんでしょ」と、光瑠がからかったっていた。

「そんなぁー 期待だなんて 光瑠 意地悪 ただ、以外だったから」

「先に、お風呂入るね 浴衣疲れるし 美鈴 一緒に入ろー 君達、覗いてもいいよー 鍵かけとくけどね」と、光瑠が言うと

「バカヤロウ ちゃんと、女を磨いて来いよ」と、昇二が返していた。

 部屋は、4人用といっても、奥にツインが繋がっているファミリー用だった。僕と、昇二は又、飲み始めていると、いきなり、光瑠がバスローブ姿で

「ごめんね 浴衣、置く場所ないから」と、言ってベッドに投げ出して置いて行った。

「良かったな 蒼 ようやく会えたな 結婚の約束もしちゃえよ」

「まだだよ 自分で、稼げるようになってからな」

「そうか でも 誰かに取られちゃったらどうすんだよ そうだ 明日 天神さんに、お願いに行こうぜ 付き合うよ」と、言っていたが、僕も「そうだ 新しいミサンガを」と思っていた。

 美鈴等が出てきたとき、申し合わせたようにタオル地のルームウェアで、ふたりとも足が細く、白くて、中学の時以来、久々に見て眩しかった。

「ねぇ ねぇ 美鈴 ミサンガ 切れちゃったんだって 願いがかなったのよね」と、光瑠が言ってきた。

「丁度 今 明日 天神さんに次のお願いに行こうぜって話してたとこだよ」と、昇二が言うと

「次のお願いって?」と、光瑠が聞き返すと

「そんなの 秘密に決まってるじゃん わかるだろう 光瑠なら」

「そうかぁー だよね あっ そのサンドイッチおいしそう 又 お腹すいてきちゃった」

「そんなに食べると 太るぞー」

「昇二 うるさい 私を飢え死にさせる気か」と、光瑠も、はしゃぎ始めていた。


「光瑠は昇二が太った女は嫌だって、言われたから、気をつけているんだって だけど、スタイル良いんだよー」と、長い髪の毛を乾かしていた美鈴も加わってきた。さっきよりも、明るくなったみたいで、僕もうれしかった。

「思いだした しずかって美鈴のことなのか?」と、僕は聞いてみた

「そうだよ あの時 それまでの美鈴は捨てなきゃって思ったんだ だけど、今日から、又、美鈴に戻るよ みんなに会えたしね」

「そうだよ これから新しい生活が始まるんだよ 僕達と一緒にな」

「ねぇ 明日 天神さんの後、海遊館行こうよ 4人で遊びに行ったことないじゃぁ無い? 想い出づくりだよ」と、光瑠が提案してきた。

 みんなが、賛成して、時間が遅いので寝ようかってなった時、光瑠が

「蒼と美鈴は奥の部屋で寝なよ」と、言ってきたが、美鈴は

「そんなぁー 私達は、まだ・・」

「馬鹿ね 美鈴 そんなんじゃぁ無くて、二人だけで話もあるだろうし、手ぐらいは繋いで寝なさいよ」と、僕と美鈴は奥に追いやられてしまった。

 僕達は、しばらく、ふたりで黙ったまま、ベッドに腰かけていたが、美鈴が

「今日は、ありがとう 蒼 うれしかった」と、言って、僕のホッペにチュッとして、ベッドにもぐりこんでしまった。だけど、手だけを伸ばしてきたので、本当に手を繋いだだけで、寝てしまったのだ。がぼそくて、きゃしゃな手だったんだ。

3-⑹
 次の日の朝、僕達は天満宮に向かった。昇二は寝不足みたいに

「あんまり、よく寝れなかったよ 隣のベッド美人が寝ているかと思うとな 地獄だよ」

「あら 昇二とそんなことになったら、明璃に叱られるからね それに、夜中、起き出して、飲んでいたじゃぁないの」

「あのなぁー 言っておくけど、俺と明璃ちゃんはそんなんじゃぁないよ それにな、光瑠の寝顔をつまみに、ゆっくりと飲んでいたんだけど、幸せだったよ」

「やだー なんか それって 怖いわね 美鈴はちゃんと眠れた?」

「ええ 私、酔っていたのよね、でも、すごく、安心して寝ちゃった」

 美鈴はそうだったかも知れないが、実は、僕は、衝動を押さえながら、複雑な思いで寝たのは明方だったんだよ。

 天満宮でお参りした後、美鈴は絵馬に 新しいお店が繁盛しますように と、書いていたが、僕は 美鈴を幸せにするぞ と、はっきり書いた。美鈴をそれを見て、黙っていたが・・。新しいミサンガのお守りを買って、美鈴に渡すと、手首に着けていた。

「この前、着けた時、美鈴が言っていたこと 覚えているかい?」

「うん 君は私の蒼君 私は蒼君のもの」と、言って、下を向いたきりだった。僕は、美鈴の手を握り締めていた。

 海遊館について、まわる時も、美鈴とは手をつないでた。それを見てか、昇二と光瑠も時々手をつないでいた。

「特別な意味ないからね 美鈴を見ていると、うらやましいって思うだけだからね」と、昇二に釘を刺していた。

「あいつ等、付き合えばいいのにね 気が合ってるみたいだし」

「だめよ 光瑠は 中学の時 テニスの先生にベタボレだったんだから 光瑠の初恋 その後、どうしたかのか知らないんだけど 年上が好きみたい あっ これ、光瑠に内緒ね 秘密なんだから」

「そうなんか だから、高校でも、男から告られても、適当にかわしていたんだ」

「蒼 こうやっているのって、初めてだよね うれしいー」

「これからも、ずーとだよ こうやって、会えるんだ」

「うん でもね、私、新しいお店ができるから、かかりっきりになるかも 今、経理の勉強もしてるんだ それに、しばらくは、又、お店の借入金もあるしね」

「わかっている だけど、今度は、僕も手伝えることがあるだろうから、協力するよ 美鈴、独りじゃぁないよ」

「ありがとう 頼っても、大丈夫かな」

「バカ 僕だって 少しは成長しているよ 美鈴の彼氏だし」

「いろいろ、相談するね いつまでも、松永さんにお世話になってばかりじゃぁね」

「うん あの人は立派な人だよ 恩返しもしてゆかなきゃなぁー」 

 そうしているうちに、夕方近くになり

「私、仕事あるから、そろそろ行かなきゃ」と、美鈴がすまなそうに言ってきた。

「あそこのホテルか」

「うん 8月いっぱいだし お世話になったから もう、お休みしないんだ でもね、みんな親切だし、お客様も良い人ばっかりで、楽しいんだよ」

「そうか 良かったな 美鈴は、可愛いから人受け良いんだろうなぁー」

「そんなぁー 私 お客商売に向いているかもね お父さんに、いつでも、笑顔でいなさいって言われていたから」

「美鈴 後ろから見ていると、だんだん二人でベタベタしちゃって・・ 楽しそうね」と、光瑠が言ってきた。

「あっ 光瑠 ありがとうね 友達で居てくれて 私、仕事、行かなきゃ 又、会おうね 昇二もありがとう」

「おう いつまでも、俺達は仲間だよ」

「9月になると、そっちの近くに引っ越すから、度々会えると思う」と、美鈴は言って、駅で別れた。今度は離れないと、僕は、心に誓っていた。

第四章

4-⑴
 8月になって、僕は、前にお世話になった肉の卸会社を訪ねていた。

「所長さんはおられますか」と、尋ねたら、奥からあの時の人が顔を出して

「君は、あの時の 確か、三倉君だったかな」

「そうです お世話になりまして、ありがとうございました」

「いや 何のことかな 僕は、なんにも・・」

「そうなんですけど、松永さんからも、連絡をもらつて 彼女とも会うことが出来たんです。新しい店を開店するとおっしゃて居ました」

「そうなんだよ ナカミチが復活するんだよ 今度も、いい肉を納めるよ 君は、就職決まったのか」

 僕は、就職先の食品会社の名前を出すと

「そうなんか あそこは、うちの得意先だよ 厳しいこと言ってくるけどな 何かの縁なんだろうな 向こうにいったら、よろしく頼むよ」

「ええ もちろん 何が出来るか、まだ、わかりませんが」と、お礼を言って出た。続いて、酒の卸、京阪酒販に行った。

 だけど、僕は、あの時対応してくれた人の名前を聞いていなかったんだ。事務所で聞いたが、要領を得なかったので、そのまま出てきてしまった。あの時の配達の人と思い、配送者の人に聞いたら、多分、ジローさんだろうと言うことで、後、1時間もすれば戻って来るだろうと言うことで、待つことにした。

 入ってきたワゴン車を見ると、あのジローさんのはずだ。降りて来るドァーの側に行って、声をかけたら、しばらく、僕の顔を見ていたが

「あぁ あん時の学生さんか どうかしたか」

「えぇ 実は あの時に、お世話になった人、名前もわからなくて お礼にきたんですが」

「ああ 確か、木下さんだったと思うけどな 先月、辞めた 徳島で、農業を継ぐとか言ってな」

「そうなんですか あの時のお礼を言わなければと思ったんですが」

 僕は、買っておいた冷たい缶コーヒーを差し出して

「あれから、松永さんからも連絡が来て、あの時はありがとうございました 親切にしていただいて」

「なんの あんた 義理堅いな そういうのって、出世するぜ」

「だと良いですけどね 松永さんが、新しい店を出すんでしょ?」

「うん というより、中道さんかな 松永さんも、しばらくは面倒みるらしいけど、あの人は今の店もお客さんが付いているから、閉められないって言っていた。多分、あの人は今の店を残すみたいだぜ」

「そうですか あの人らしいですね」

 僕は、お礼を言って別れようとしたら

「がんばれよ」と、何だかわからない言葉をかけられて、送り出された。

4-⑵
 僕は、8月に入って、スーパーの品出しのバイトをやっていた。9月中頃までの予定だ。美鈴とは、あれ以来、会うことが出来なかったが、毎日連絡は取っていた。

 9月の初めに越してきて、店のオープンも中頃の予定だと言っていた。駅からは、歩いて10分ほどで少し、離れているが、車だと便利な所なので駐車場も確保してあるらしい。店の中は、テーブル席が5客でカウンターに8席の小じんまりした店だ。だけど、客席同士の間は、余裕を持たせたということだつた。

 9月になって、美鈴が越してきた時、引っ越し祝いをやろうとなったが、「それどころじゃぁ無い」と美鈴は、大変そうだった。店の内装も遅れ気味だし、什器類との納品のタイミングが合わないし、やることがいっぱいあって、少し、イライラしていた。

 僕達は、出来ることを手分けして、手伝うことにした。僕と昇二で開店時の原料、調味料の必要な物の計算と発注書の作成、光瑠は客席サービスをする人の採用面接、そして、光瑠の妹の明璃ちゃんには、メニュー表とか開店チラシの作成を専門とは違うが、友達に協力してもらうからと言って任せていた。美鈴は、工務店との打ち合わせとか、店内のレイアウトにかかりっきりだった。

 開店日の前日、木曜日。僕と昇二、明璃ちゃんとで駅前でチラシを配った。開店から3日間はチラシ持参の人ドリンク各一杯無料という内容だ。文句は「懐かしのナカミチが復活します」というものだったが、もう、知っている人も少なかった。だけど、無料券が付いているので、受け取ってくれる人も多かった。

 その日の夜、プレオープンとかで、僕達に好きな物をオーダーしてくれと言って、招待された。僕達より先に、工務店の4人カウンターに座っていた。僕と昇二は当然のごとく、ステーキを光瑠はクリームコロッケと鯛のハーブ焼き、明璃ちやんはハンバーグと海老フライのセットを頼んだ。新しく入った女の子がオーダーを聞いてきた。短大を卒業して勤めたが、合わなくて辞めたらしい。この娘をどうして、光瑠が薦めたのかは、わからなかったが、少し、ポッチャりめの愛想のいい娘だった。


舞依
まい
さん 2番テーブルのお客様 オーダーを復唱するの忘れていたわよ 落ち着いてね」と、美鈴が厳しく言っていた。カウンターの中では、美鈴のお父さんと若い男の人が二人で調理していた。男の人は、松永さんの所で働いていたということだった。

 料理はおいしかった。僕は、懐かしい感じもした。みんなにも、評判は良かった。タイミング的にも、4人のものが、ほぼ同時に運ばれてきて、美鈴が気配りしているのがわかった。

「明日は、僕と昇二で、各家にチラシ入れて来るヨ」と、美鈴に伝えると

「ありがとう でもね、新聞の折り込みもしてるから、大丈夫だと思うけど」と、美鈴が言っていたけど

「最近は、新聞取っていない人多いし、マンションなんかも独身多いから さーっと配って来るヨ」

「うん 助かるわー 私、これから、お店内で打ち合わせするから みんな 今日は、ありがとう」

 翌日、10時オープンだ。僕達は、1時過ぎに、一度戻ってみた。洗い場に光瑠が控えていたので、様子を聞いてみたが

「午前中は4組7人だけなのよ 大丈夫かなぁー 私、後でお母さんにみんなで来るように電話するわ」

「そうかぁー 俺も、電話しておくわー」と、昇二も心配していた。

「さあ もう少し、マンション中心に配るぞー 大学の前でも、配ってみるかー 女の子なら好きそうかもな」と、僕が言うと、昇二も反応して賛成した。

「3時から、休憩時間で賄い出るから戻ってきなさいよ」と、光瑠に送り出された。

 店に戻る前に大学の前に行って配っていると、昇二が女の子の2人連れに話しかけていた。

「この店 私 知っているわ 小さい頃、よく連れて行ってもらった おいしかったのよー 色んなお料理あってね」と、言っている。

「そうなんだよ 今日だったら、君達、可愛いし、サラダおかわりサービスするよ 友達さそってきてよー」と、昇二は調子のいいこと言っていた。

「昇二 知らないよ あんな勝手なこと言って」

「いいやん 反応良かったよ きっと、来てくれるよ」と、その後も、女の子中心に配っていた。3時を過ぎる頃、店に戻った。松永さんも、今日は、店を閉めて、応援に来たとのことだった。みんなで、賄いを食べていたが、雰囲気が暗い。

「まぁ 開店間際なんて、こんなもんだよ 味は良いし、値段も安いし、徐々に評判になるから、心配しないで大丈夫だよ」と、松永さんは、元気づけていた。

「そうだよ いっぱい チラシも配ったし なぁ 蒼」

「うん 反応は良かったから 来るよ みんな」と、僕も、少し、不安だったが

 5時のオープンの時間になって、直ぐに、昇二が誘っていた女子大生が4人でやってきた。昇二はそれを見て、あわてて、美鈴にしきりに謝っていた。

「蒼も一緒だったんでしょ あの人等 可愛いもんね 仕方ないよね」と、美鈴は冷たい言い方だった。案の定、4人はサラダもおかわりしていたが、帰りには、

「とっても おいしかったです みんなにも、宣伝しておきますね」と、言って帰って行った。昇二は、また、美鈴に頭を下げていたが、チャッカリ連絡先を交換していたみたいだった。

 その後は、光瑠のお母さんが友達2人と来て、「昔、良く、来たのよねぇー」とお互い言っていた。後は、ポツポツと2組の家族と独り者が2人来店したきりだった。僕と昇二も洗い場に居たが、暇なので、もう、引き上げようかと言って居た8時頃、あの肉の卸会社の所長さんが家族で駆けつけてくれたみたいだった。

4-⑶
 次の日は、開店の10時に間に合うように行くと、光瑠と明璃ちゃんが居た。明璃ちやんは、料理のサービスを手伝うとかで、白いポロシャツ、下も白のパンツに黒の深めのキャスケット、エプロン姿だった。帽子とエプロンにはナカミチの赤の刺繍がしてあった。美鈴の見立てらしい。洗い場の僕達にも、せめて、上だけでも揃えてと、こっちは、黒のポロシャツを渡された。胸には、やはり、ナカミチの赤い刺繍があった。昇二が少し、遅れて来た時、明璃ちゃんが昇二に

「ねぇ ねぇ ズボン長いから、テープで上げたのよ どう、可愛い?」と、駆け寄っていって、まわって見せていた。

 10時、オープンすると同時に、バイクの3人組が入ってきた。明璃ちやんが、手を振っていた。皆が戸惑っていると、明璃ちゃんが接客して

「オーダー入りまーす ステーキ定食3ッツ ご飯大盛りで」と、元気良く声を出していた。

「なんだ、あれは 明璃ちゃんの知り合いか 柄悪るそー」と、昇二光瑠に聞いていた。

「知らないわよ あんなの」と、光瑠も見ない振りしていたみたい。

 連中が帰る時、「うまかったです 仲間にも宣伝しときます 明璃先輩 失礼いたします」と、明璃チヤンに礼をしながら、大きな声で言って去って行った。

「ちょっと 明璃 今の何なのよ ヤバイ連中じゃぁないのー?」と、光瑠が駆け寄って、聞いていた。

「ううん 後輩だよ 1年生 ちょっと、はじけていたけどね、私が、奴らのヘルメットにイラスト書いてやったら、慣れ慣れしくしてきてね 明璃軍団に入れてやったの 男の子いなかったから、丁度良かったんだよね 可愛い奴らだよ」と、普通に答えていた。

「明璃 なに それっ あなたと言う人は・・明璃軍団って何?」と、光瑠が声を失っていたが、美鈴が

「ありがとう 明璃ちゃん お店の為に、宣伝してくれて・・」と、お礼を言っていた。

 だが、その後から、次々とお客が来始めたのだ。お昼頃には、外で、並んで待っている組も居た。僕は、後何分ぐらいですからと言って、謝っていた。結局、3時の休みを30分ほどオーバーして、休憩に入ったのだ。

「中道さん さすがです 手際が良くて」

「晋さんこそ 適格に指示を出してくれて 助かりました」と、美鈴が応えていた。晋さんと言うのは、30前で独身の料理人で、松永さんの下で働いていた。

「いゃ 松永さんに仕込まれましたからね それに、ヘタ打ったら、叱られますよー お嬢さんこそ、てきぱきとお客様をさばいて、さすがですね」と、言っていた。

「晋さん もう その、お嬢さんはやめてよー」

「じゃあ 何と言えば 店長かな」

「あのね それも、しっくりこないわよ 美鈴の方が良いわ」と、美鈴が言うと

「店長 5時からも、もっと並ぶぞー 頑張らなきゃあな」と、昇二も言っていたが、昨日とは、違って、みんな明るかった。

 その時、酒の配達で、ジローさんが来た。

「おお 学生さん 手伝いか 俺も、追加注文を受けてな 順調みたいだな あんたも、真面目だなぁー 中道さんの娘さんの為か?」

「そんなんじゃぁないですよ」

「わかっているって 男は、ほれた女には、弱いからな 頑張れよ 俺も、今度の休みにはガキ連れて、寄せてもらうよ」と、言って帰って行った。

 5時のオープンには、直ぐに満席になって、6時頃には、表に、数組が並び始めた。そして、美鈴は20分以上待たせるようだったら、スープを紙コップで配ってと、僕達に指示をしていた。

 結局、最後の客が帰ったのは、10時閉店のはずが、11時近かった。ひっきりなしに来客があって、遅い時間には、女性の独り者とかカップルが多かった。

「みんな 今日はありがとうございました。舞依ちゃんも良かったわよ 子供さんにも、ちゃんと接してくれて」

「店長 いろいろ失敗したけど 明日から、もっと、頑張ります」

「うん 頑張ってね お父さん 今日ね 何人かのお客様が やっぱり、ナカミチは美味しいわって このお店が出来てうれしいって 言ってくれたの お父さんのお店、まだ、覚えてくれていたのよ 私 涙出てきちゃった」と、美鈴はお父さんの手を握っていた。

「そうか そんなことがあったのか」と、短く答えていたが、僕には、真意は解らなかった。

「松永さんがね この場所にこだわったのが、わかった」と、美鈴が続けていた。

 次の日の日曜日、昇二が朝、来た時、第一声が

「あそこのシャルダン 折り込みチラシ入ってて ステーキセットだけ飲み物付きで3割引きだってよ 今日と明日の2日間だけの緊急スペシャルだってよ 完全に嫌がらせだよ」

「そんなの関係ないわ ナカミチを愛していただけるお客様に来て下さるんなら」と、美鈴は涼しい顔をしていた。僕は、本当に強くなったなと、そして、別人の美鈴のように感じていたのだ。

 10時オープンの後は、さっぱりだったが、1時間ほどすると、徐々に席が埋まってきた。そして、昼過ぎる頃、外で待つ人達もあって、僕と昇二はやっぱりスープを運んでいた。その日、お昼の営業が終わったのは、3時の予定が1時間すぎていた。そして、5時の夜のオープン前からも、2組のお客が来ていて、急遽、早い目に店を開けたのだ。

 この2日間は順調だったが、美鈴は来週からが、本当の勝負よねと言っていた。それに、僕達も月曜からは、そんなに手伝えない。

4-⑷
 その日の夜、美鈴から連絡があった。相談したいことがある、近くまで来ていると言うことだった。僕の家の近くの児童公園で待ち合わせした。

「どうした 夜に、女の子独りで危険だろう」

「うん あのさー お弁当をしようと思っているの 予約制でさー 冷めても、おいしいのローストビーフとかつけ焼きとか なんぼ位がいいかなぁ」

「そうだな 魅力あるのは、500円が限界 肉なら、もう少し出せるのかなぁー 対象が学生じゃぁないだろうから」

「そうだね 近所の会社勤めの人とか、晩御飯代わりに買う人とか・・」

「あのさー 美鈴 話って、そんなことじゃぁないだろう 話せよ」

「あのね 私 すごく、不安なんや 今日まで、蒼等が居てくれたやんか 心強かった でも、明日から、どうなるんやろってな チラシの効果も今日までやしなー」

「美鈴 しばらくは、やってみないとわからないやん 美鈴も言っていたやんか 明日からが本当の勝負やって 心配したって、何にも変わらないよ しばらくやってみたら、良い所 悪い所が見えてくるから、それから、考えようぜ 明日は行けないけど、どうなろうと、僕は、美鈴の味方だよ」

「ありがとう 頼りにしているわ」

「明日からは平日なので、客足は落ちるだろうけど、お父さんと晋さんの味を信じるんだよ 年配の方が今度お友達を連れてきますよって、言ってくれた人も居たじゃぁないか 徐々に、お店のことが知れ渡ると、増えて行くよ」

「うん 蒼と話していると安心するわ」

「それと あんまり、ピリピリするなよ 舞依ちゃんは、明るくて良い娘だと思う。萎縮しちゃうからな」

「そうだね 気張っていたから」

「美鈴 弱気になって、あまり、考え込むなよ 店長なんだから みんなを引っ張って行くんだろう」

「いやだぁー 蒼まで、その言い方」と、胸を叩いてきた。

 僕は、たまらず、美鈴を抱き寄せて、唇を合わせていった。「あっ」っと言ったきり、美鈴は拒む様子もなかつた。

「リラックス するよう おまじないだよ」と、言うと、しばらくして

「もう、一度 おまじないじゃぁ無いの して」と、身体をあずけてきた。

 僕は、今度はしっかりと美鈴を抱きしめて、それからは長い間、抱き合っていた。 

4-⑸
 月曜日の夜9時頃、美鈴に連絡を取ってみた。

「今日は、28人。お昼が16人で、夜が12人なのよ。難しいわね。これじゃぁ」

「そうか でも、最悪の状況ではないと思えよ 徐々にだよ」

「うん これから、晋さんが相談に乗ってくれるっていうから、いろいろ、考えてみるね」と、美鈴は、元気だった。

「店長 差し出がましいんですがね お昼の定食 もう少し、安いもの出したら、どうかと」と、晋さんが切り出した。

「値段下げるの?」

「うーん どういうのかな この店って、サラリーマンが、気楽には入りづらいんですよね それに、定食って言っても、1000円こえてくるんですよ。一番、安いものでも800円。お子様用もありますけどね。普段の定食なら600円ぐらいが食べやすいかなって。例えば、平日は日替わり定食で、もっと、安いものをメニューに加えたら、どうかなと思いますが」

「晋さん ありがとう 考えてくれて うちは、席数が多くないし、客数が増えても、不便かけるし、客単価がさがると、粗利的にどうなのかしら 忙しくなるばっかりではね しっかり、見極めたいの」

「でも、今は、新しい店だから、行ってみようかという客もいますが、段々と減ってきますよ」

「うん かもね 夜はもう少し、増やしたいわね 子供さん向けに、もう少し、デザート考える あと、晋さんの言うように 平日の日替わり、来週からやるわ ただし、700円にする そのかわり。味とボリュームで勝負したい 晋さん、お願い」

「了解だ 任せとけって」

「あとね もう一つ ローストビーフとか網焼きを使って、600円のお弁当 予約制で売りたい 開始やの会議とかの後にだすやつ だから、毎日、売れなくていいの うちの宣伝になるから」

「そうかそれも良いかもな わかったよ」

「晋さん 頼りにしている でも、お休み無くて、ごめんね 来月からは、週1日休みにするから」

「いいんだよ 僕は、独り者だから、休みでもすることないし それにな、店長が一生懸命だから、きっと、店もうまくいくよ それを見ているのって楽しみなんだ」

「そういうのって あんまり、いい感じしないわ」

「あぁ すみません ただ、店長があまりにも重たそうなんで 協力しますから、何でも言ってください」 

4-⑹
 土曜日になって、僕達は、「ナカミチ」に集まっていた。平日は、客の入りが、やっぱり、30人前後だったと言って居た。

 その日も、10時オープンして、しばらくは、来なかった。今日は、明璃ちゃんも来ていて、11時前に出勤してきた舞依ちゃんと二人して、明るく笑い声が聞こえる。11時過ぎる頃から、入り始めた。結局、昼前には、満席になり、数組が表で待ってもらっている状態だった。僕と昇二は洗い場に居たんだけど、光瑠が

「君達 どっちかと言うとじゃまなんだけど」

「そうだよね 光瑠が全部洗ってくれるから 手持無沙汰」確かに、光瑠は手際も良くなって、ひとりで充分だった。

「二人で、どっか行ってくれば でも、明日は駄目よ 私、あっち行くから」日曜なので、前からのバイト先に行くみたい。

「しょうがないね 駅前のカフェでも、行って帰るか あそこは、女の子の客も多いからな」と、昇二が言うと、光瑠から、コップの水が飛んできた。

 次の日、10時に合わせて店に行くと、10人位のバイク軍団が駐車場に居た。美鈴が看板を出し始めると、

「お姉さん コーヒーだけでもいいのか」と、その中のひとりが聞いてきた。

「いいですよ どうぞ すみません お待ちいただいていたのですか」と、美鈴は笑顔で迎え入れた。

 ぞろぞろと入って来たのをよく見ると、みんな、割と、年配の人ばかりだった。僕が、明璃ちゃんの方を見ると

「私 知らないわよ」と、手を横に振って、言い訳していた。

 中に、カレーライスを2人が注文して、「うまいぞー これは」と、言ったので、又、3人が注文していた。終えて、店を出て行く時に、会計をしている時

「バイク仲間の若い奴が ここの店はうまくて 可愛い店員さんがそろっているというんでな これから、ツーリングなんだけど寄ってみたんだ」

「そうですか お気を付けて」と、美鈴は、さっき、急いで、おにぎりを作っていたのだ。

「これを皆さんで 少しは、お腹の足しになるかなって思って 何にも、なかったので、ごま塩だけですけど」と、それを差し出していた。

「おぉ これは なんと ありがたい 帰りに、食事に寄りますわ」と、言って去って行った。

「店長 サービスし過ぎでは」と、舞依ちゃんが心配していたが

「いいのよ 明璃ちやん ありがとう いろいろ声を掛けてくれて」と、美鈴は明璃ちゃんに礼を言っていた。

「私 何にも してないですよー 多分、あいつ等が・・」

 その後からは、客が絶えなかった。洗い場も忙しかったが、美鈴は、表の持っている人にスープ持って行ってと、容赦がなかった。

 その人は、6時を過ぎたころ、又、4人でやってきた。タイミングよく、席が空いたところだった。

「おにぎり おいしかったよ みんな、有難がって食べていた 可愛い女の子の作ってくれたものだしな」と、美鈴に言っていた。

 僕は、洗い場から見ていたのだが、ステーキをみんなで、注文していたのだが「うまいな このソースが最高だよ これだけで、飯がくえるね」と、言っていた。そして、美鈴が水を継ぎに行って

「又、来ていただいて、ありがとうございます」と、礼を言いに行ったみたいだ。

「実はな この店 俺が若い時、親方によく連れてきてもらったんだ。金も無かったから、こんなの食べれて、すごく、うまかったのを覚えている。それから、小さいけど、自分で工務店を出来るようになったんだ。あの時の「ナカミチ」の味のままんまだよ。これから、ちょくちょく寄せてもらうよ。あんたも、親切だしな」

「ありがとうございます とっても、うれしい 明日から、お弁当も始めますので、よろしく」と、言ってチャッカリ、チラシを渡していた。

4-⑺
 次の週から、お昼時間だけの\700の日替わり定食を始めた。勿論、のぼりも立てた。晋さんが工夫してくれて、ワンプレートにして、ボリュームもあって、客数も増え始めたけど、客の回転も何とかうまくいっていた。

 だけど、混む時間に何人かが表で待っていてくれて、雨の日にはやっぱり、苦労していた。予約の持ち帰り弁当も、あのバイクの工務店をやってると言って居た堤さんが最初の注文をくれてから、週に4,5件が10ケ程度ずつ出るようになっていた。お肉が主体だったので、内容の割に\600で安いと好評だった。

 そいて、私は、思い立って、待合スペースを、堤さんに相談してみたら、二つ返事で「おお 任せとけ」って言ってくれたのだ。次の日、下見に来られて、3日後に工事に入った。私と、打ち合わせして、10mの駅のプラットフォームのようなものだったが、普段の風向きも考えて、壁と窓を着けて、その日のうちに仕上げてくれた。おまけに、駐車スペースが狭くなったので、ジャリを敷いていたのだが、ロープで区切りをして効率良く停められるようにもしてくれた。

 工事の請求書を持って、堤さんがやってきて、渡しながら

「支払いは、1年以内なら、待つから、いつでも良いよ 開店間際で、資金繰りも大変なんだろう 俺も、この店続いてくれなきゃあ困るんだ うまいもの食べれなくなるからな」

「堤さん 何と言っていいか ありがとうございます 正直、助かります 私 雨の日でも、表で待っていただいている方、申し訳なくて、気になって」と、私は、涙出そうだった。

「いいんだよ 俺は、あんたのそういうところが好きだよ シャルダンなんかに負けるなよ」と、言ってバイクで帰って行った。

「店長 あの人カッコいいー あのおにぎり効いたんですね」と、舞依ちゃんが

「そんな 単純にうまくいく訳ないじゃぁ無い お料理がおいしいからよ」と、私は晋さんに向かってVサインを送った。

 その夜、アパートに帰って、私がお風呂から上がって、お父さんとビールを飲んでいると

「美鈴 友達にまで、手伝ってもらって、すまないな そういえば 小さい頃、よく遊んでいた清音ちやんはどうしている?」と、突然のことだった。

「清音って お父さん 何か思いだしたの?」と、私、驚いていた。

「うん 最近 ふっと 清音ちゃんって、美鈴と仲良しだったなって、浮かんできてな」

「あー そうなの もう、長いこと会ってないの」と、返事したが、複雑だった。もう、お父さんに、あの時のことを知られるのも怖かったし、清音はあなたのもうひとりの娘よとも言いたかった。

 私は、お父さんが、昔のことをどこまで、思いだしているのかを、確かめるのが怖かったのだ。今の生活も、何とかやっていける見通しも立ったし、このままで、良いと思っていた。お母さんと清音のことは、気にはなっていたが・・。清音だって、お父さんと会いたいって思うこともあるのかも知れない。どうしているんだろう・・

4-⑻
 11月の初め、美鈴も店が休みだと言うので、遊びに行こうと誘いだした。駅で待ち合わせをした時、美鈴は、コーデュロイのベルト付きのミニスカートにショートブーツで現れた。短めのコートを羽織ってはいるが、細めの足が真っ直ぐで、つい、目がいってしまう。

「うふっ こんな格好 蒼に見せたかったんだ 嫌かなぁ?」

「そんなことないよ 可愛いよ でも、正直言って、短いのって、あんまり他の人には・・」

「たまにはね 蒼と歩くんだから、いいでしょ」と、美鈴は、すましていたが、今日は、長い髪の毛も留めて居なくて、一握りだけリボンで結んで、前に持ってきている。僕は、それだけでも、魅せられていたんだ。

 美鈴は、行きたい所も無いと言って居たが、少し、紅葉には遅いかも知れないが、嵐山に行くことにした。京都駅まで出て、バスで向かった。駅前は、平日なのに何でこんなに人が居るんだろうと思いながら。嵐山に着いて、僕達は、散策ルートのチラシを頼りに歩いた。着いたのは、もう、お昼を過ぎていて、食べるところを物色していたが、美鈴が「なんか どこも、高くて もったいないよ」と言いながら、歩いた。

 結局、竹籠に数個の小さな枡の容器におそうざいを入れて、お弁当のようなものを食べた。美鈴はどれもおいしいと言って、食べながら

「この炊き込みご飯もおいしいわぁー うちでも、たまに出そうかな 日替わりに入っていたら、うれしいよね」と、同意を求めるように聞いてきた。

「そうだね うれしいかな」としか、言いようが無かったのだ。

「そうだよ そう あのね こういう風に少しずつ、お料理を詰めてね、おせち風オードブルを、お正月用に売ろう 予約だけなら、ロス少ないし 良いと思うでしょ」と、

「そんなこと、いきなり決めても・・ メニューとか入れ物とか、準備大変だよ」

「そんなの、何とかなるわよ どうやって、売って行くかよね」

「わかったよ 美鈴は、なんでも決めたら、前に進んでいくだけだもんな 僕も、教えられること多いよ」

「違うわよ 私 蒼に教えられたのよ」

 僕達は、その後、ボートに乗りに行った。受付でチラシを見せると割引になるらしい。暖かい日だったのだが、さすがに漕ぎ出すと、風も冷たかった。平日のせいか、僕達の他には、1組が居るだけのようだった。

「蒼と、こうやっているのって すごいね 私、幸せ感じる」

「僕は、もっと もっと 美鈴を幸せにしなきゃ 光瑠にも、言われているんだ」

「そう 明璃ちやんが言っていたんだけど、光瑠 すごく、私のこと心配していてくれて、何かある度に美鈴はどうしているんだろうって、つぶやいていたって、嬉しいわね」

「あいつって すごいよね 頭もいいし、美人だし」

「蒼 あんまり 光瑠に魅かれないでよー ねえ それ 私も漕いでみたい」

「えぇー できるかなぁー」と、言いながら、片方のオールを渡してみた。

「美鈴のほうからだと、押すようにするんだよ」

「そうだよね」と、言いながらも、懸命にやっていたが、ボートは流されるし、僕が漕ぐと同じ所を周るだけで進んでいない。

「あのさー 全然進んでいないよー 岸からも、変なのって、見てるしさー 恥ずかしいよ 美鈴のパンツも見えちゃってるしな」

「わー 蒼 見えてたー?」

「ああ 足開いて、丸見えだもんな」

「そうかぁー 君は見たのか― 紅いの」

「えぇ― 紅だったの― 白かったみたいだけどなぁー」

「蒼 紅いのが良いんだ ふぅーん」 

「なんも そんなこと言って無いよ ちょっと 刺激的だったけど」

「嘘だよ 白 刺繍あるやつだけどね うん」

 僕達は、ボートから降りて、野宮神社から大河内山荘まで歩いた。その間、ずーと、僕に腕を組んできていた。その後、夕方近くなって、河原町まで戻ってきた。美鈴がお寿司を食べようと言ってきた。

「今度は、私が出すよ 全部、蒼が出してきたから」

「いいよ そんなのー」

「いいの まだ、学生なんだから、無理しないで」と、言って三条通のアーケードの中を歩いた所のお寿司屋さんに入った。

「普段 海鮮には縁がないから、おいしいよね」と、美鈴は言っていた。僕も、そういえば、久々だったかも。お腹すいていたので、いっぱい食べてしまった。

「すまんな 散財させてしまって お店も物入りなのに」

「なに言ってんのよ 生活費と、お店のお金は分けているわよ 心配しないで」と、美鈴はやっぱり、しっかりしていたのだ。

 外はもう暗かった。鴨川を歩こうよと美鈴が言い出したので、降りて行くと、うすら寒いのに川辺に座っているカップルも居た。僕達も、座っていたけど冷えてきていて

「今日は、キスをする場所もなかったね」と、美鈴は言いながら、僕のホッペにチュっとして

「もう、帰ろ―」と、言って立っていた。

4-⑼
 お店の方は、新しい人を雇うことにしていた。白川さんと言って、9時から午後の2時まで、もうすぐ40才になると言う主婦の人で、お弁当のほうもあるし、洗い物なんかもやってもらっていた。子供さんは、2人いて、もう中学生なので、土曜、日曜も出勤しても良いと言うので、助かっていた。

 だから、僕達も、もう手伝った貰わなくても良いよと言われていた。だから、気が抜けたみたいになっていた。やることも無く、新しく出来た待合所の窓を清掃したり、草むしりなんかをしていた。明璃ちゃんだけは、お料理のサービスで必要だからと、相変わらず、手伝っていた。

「店長 あの待合所の空いている壁 殺風景ですよね 私 つまんないと思います」と、明璃ちやんが美鈴に言っていた。

「そうねえ 明璃ちゃん 絵でも描いてくれる?」

「私 専門じゃぁ無いので でも、提案なんですけど、どこかのポスターを貼るようにしたらどうでしよう 京都の観光地とか、幾らかでも、お金取れるかも 後ね、絵本をポスターにするんですよ そうしたら、待っているお子さんなんか退屈しないんじゃぁないかなって、思ったりもするんですよ」

「明璃ちやんの言う通りね 素晴らしいわ 絵本のほうは、作るの難しいわね」

 その後、美鈴は堤さんに相談したが、難しいと断られたらしい。片側しか壁もないし、風雨で貼ったものが飛ばされるし、カバーをするにしても、ガラスは割れたら危ないし、アクリル板では高いものになってしまうという理由だった。もともとが、海外の安い木とか古材を使っていて簡単なものだし、窓もフィルムを貼って飛散防止してあるけど、強風の時は、逆に窓を開けといたほうが良いと言われていたのだ。

 それでも、美鈴は2枠だけお願いして作ってもらった。白川さんの提案で、自作の俳句とか川柳、そして、もう一つは子供の絵とかを自由に貼りだしてもらうスペースだ。気楽に、発表することによって、店への愛着も湧くんじゃぁ無いでしょうかと、いうものだったらしい。

 そして、翌日がお店の定休日だというので、火曜日の夜。営業が終わった後に、集まっていた。僕に、昇二、明璃、そして、光瑠、晋さんと舞依ちゃんも残っていた。美鈴が言い出したおせち料理のメニュー決めをする為だった。

「今日は、おせちの品数、外装、宣伝方法を全て決めてしまうわよ 30日はお昼の営業まで、31日はお弁当のみにして、おせちのお渡しだけ 元旦と2日はお休みして、3日はお弁当だけ、4日から通常営業にするわ」と、美鈴は言い切っていた。

 その日は、美鈴の思っていることを、とりあえず決めて、クリスマス用の持ち帰りの特別メニューも決めたのだ。

4-⑽
 12月のある日、僕はお母さんに、突然

「美鈴ちゃんとはうまくいっているの?」

「順調だよ なにか」

「あの子 おそらく、成人式も行って無いのとちがうかなぁ だから、着物も着たこと無いと思うのよ 私の若い頃のがあるんだけど、どうかなってね うちは男の子ばっかでしょ だから、着てもらいたいのよ あなた達、結婚するんでしょ だったら、美鈴ちゃんはうちの娘になるんだからね お正月にうちに来てもらったら、私が着付けするわよ」

「あのさー 僕等 まだ そんな約束してないよ」

「でも つもりなんでしょ あの娘は、優しそうだし、良く働くし、賢いし、それに可愛いし、私は賛成ヨ 着物着ると、きっと、きれいわよ 聞いてみてよ」

 僕は、美鈴が休みの日に、駅前のカフェに呼びだしていた。

「どうだい おせちの予約のほうは」

「うーん まだ チラホラね クリスマスの方は10セットぐらい」

 チラシも出来上がって、まだ、間がないのでそんなものなのだろう。結局、2人前\6000のセットだけに絞っていたのだが、美鈴の希望は60セットは売りたいと言っていた。

「あのな お母さんがな 美鈴に自分が若い時にきていたもんだけど着物を着て欲しいって言っているんだよ 正月に、うちに来て・・着付けもするからって」

「えぇー 着物かぁー 私 着たことない 夏だって、浴衣初めてだったの でもなぁー」

「美鈴が着たところ 見たいんだって きれいだろうから」

「どうしようかなぁー 蒼はー 見たい?」

「そりゃー もちろん、見たいよ 美鈴のきれいの」

「着替えてるところも?」

「バカ 見せる気もないくせに・・」

「えへぇー でも、お休みって、元旦だけだよ 2日は準備あるから」

「いいよ 元旦の昼前に来れば それで、二人で、伏見稲荷に行こうよ」

「わかった お母さまに、よろしくお願いしますって言っておいてね」

4-⑾
 クリスマスは、予約のオードブルのセットは12しか出なかったが、店の方は満席が続いたと言っていた。おせちは70セットで予約を打ち切ったと言うことで、僕達は31日、朝の6時から来てくれと言われていた。

 自転車で向かって、寒い日だったけど、初めての経験なので、少しわくわくしていた。着くと、もうみんな来ていた。昇二は、車で光瑠と明璃ちゃんを乗せてきたみたいだった。カウンターには、もう、食材が並べてあって、端のテーブルでは、舞依ちゃんが和え物なんかをカップに入れ始めていた。テーブルを寄せて、12ケのおせち用の箱が並べてある。重箱は注文が間に合わなかったので、急遽、美鈴が考えて、紙箱に化粧紙を張り付けたものだ。

「この12ケを1時間で盛り付ければ良いんだから、6回ね、みんな慌てないで、入れ忘れのないようにしてちょうだいね 寒いけど、暖房は付けれないからね」と、美鈴の掛け声で始めた。カウンターの中では、晋さんと美鈴のお父さんが、まだ調理を続けていたが、光瑠はそっちを手伝いに入っていた。

「君達、もう少し上手に詰めてよね ぜんぜん、おいしそうじゃぁない」と、明璃ちゃんが僕達を叱ってきた。昇二と僕と、明璃ちゃんが詰め役だったが、明璃ちゃんは、確かに、手際も良かった。

「あのね そうやって、押さえつけるんじゃぁなくて、ふんわりと ねぇ 美鈴さん?」

「そうねぇ 明璃ちゃんみたいに、もっと、やさしく入れてちょうだい」

「ほらっ やさしくね 女の子にだって、優しく扱わなければ、嫌われちゃうよ」と、明璃ちゃんは僕等に、上から目線だ。

「余計なお世話だよ 明璃ちゃんの方が、デリカシーないような気がするが・・」と、昇二は言い返していた。といいながらも、その後は明璃ちゃんのまねをして、詰めていった。

 9時頃になって、美鈴が「休憩しましょうよ」と、言ってきた、そして、ピザ風のトーストとスープを奥の洗い場に用意していた。もう、半分が詰め終わったところだった。

「予定どおりだわ この調子なら、1時頃には、終わるから みんな、助かるわ ありがとう」と、美鈴がみんなに頭を下げていた。

「調理のほうは、少し、追われぎみだよ 少し、ペース落としてくれ」と、晋さんが言っていたが

「すまん わしが ゆっくりなもんで 遅れているんだ」と、お父さんが謝るように言うと

「とんでもない そんなつもりじゃぁ 大将 いゃ 予定より早いもんで・・」と、晋さんは焦っていた。

「ごめんなさい 私が、段取り悪いから、遅れちゃって」と、光瑠も謝っていた。

「いゃ そんなことないですよ 助かってますよ 僕は、もっと、慌てないで慎重にやりましょうというつもりで・・」

「明璃先生 その後 盛り付け具合はいかがでしょうか」と、昇二がふざけ気味に聞いていた。

「うん 合格あげる」

「明璃ちゃん ありがとうね」と、美鈴は礼を言っていた。

 お昼頃になって、あと、最後の列で終わると言う頃、工務店の堤さんという人が来て

「店長 もう一つ、追加できないかな 親方の所にも、持っていこうと思ってな 無理しなくてもいいんだけど うちのを廻すから」

「大丈夫ですよ 余分につくっていますから」と、美鈴は応えていた。合計4セットを抱えて

「ありがとうな じゃぁ 来年もよろしくな」と、言って帰って行った。

「美鈴 数 大丈夫なんか?」と、僕が聞くと

「うん 大丈夫 余分あるから なんとかなるよ さあ、あと、少しね」と、言っていた。

 最後は、16並んでいたが、最後の3つ分が食材が足らなくなるものが出てきて、晋さんが、それを見ながら、ありあわせのものを詰めていった。

「店長 僕の分は、要らないですから」と、1つを取り除いた。

 そうか、美鈴は、みんなの分も用意するつもりだったんだと、思った。全て、終わった時、晋さんは、ピラフをみんなに用意していてくれた。

「お疲れさん なんとか、終わったよ 特製ピラフだから、食べてよ」と、晋さんは、みんなに勧めていた。その間にも、次々と受け取りにくる人が続いて、最後は3時になるらしかったが

「みんな、ありがとうね 1つずつ、用意したから、持って帰って 最後、私、待っているから、みんなは、もう、帰って頂戴 お疲れさまでした 助かりました」と、美鈴が頭を下げていた。

「店長 私 本当に3日まで、お休みでいいんですか 3日も出ますけど」と、舞依ちゃんが、美鈴に聞いていたが

「いいの 休んでちょうだい 晋さんと私だけで、大丈夫よ 予約のお弁当だけだし お父さんもいるし 4日からお願いね」と、美鈴が言っていた。

 昇二も帰るので、乗せて行こうと、光瑠に声を掛けていたが、光瑠は、晋さんと洗い場に居た。

「待って もう 少し 洗い物済ますから」と、しきりに晋さんに話しかけていたようだ。

 明璃ちゃんは、昇二に「遊びにいこうよー」と、誘っていたが、僕は、美鈴を迎えに行くので明日の待ち合わせ場所を決めながら

「なぁ 光瑠 晋さんのこと興味あるんかなぁー 今日も、べったりたぜ」と、美鈴に聞いてみた

「かもね 私も あれーって思っているんだ この前から」

 と、話しているうちに、光瑠も出てきて、昇二も帰って行った。僕も、美鈴に別れを告げて、帰る時、待合所の貼りだしスペースを見たら、隙間なく、作品が貼りだされていた。その中の1枚の絵に眼を留めた。小学校1年の子が書いたもの。テーブルの上のステーキかハンバーグかわからないが、お皿を書いて、お父さん、お母さんと2人の子供が笑顔で座っている。そして、端っこには、制服の女の人が描かれ、「おいしい ありがとう」と書かれていた。

 僕は、それを見て、眼が熱くなった。美鈴はこれを見て、何を感じたのだろうか
 

第五章

5-⑴
 年が明けて、元旦の朝。お父さんと二人っきりになって以来、食卓には、ずーと、お雑煮だけだった。藤沢さんが、お店を始めてからは、黒豆と数の子を持ってきてくれていた。今年は、私が、海老を焼いて、黒豆と数の子を用意した。お父さんは、私と二人っきりになってからは、あんまり食べなくなっていた。

 私も、元旦にお休みっていうのは、久しくなかったのだ。いつも、仕事していたと思う。私は、出掛けるので、軽くお酒でお祝いをして、済ませた。

「あんまり、飲みすぎないでね」と、言って出ようとした時

「あぁ スーパー銭湯にでも行くだけで、家でTV見ているから心配するな。それより、美鈴こそ、気をつけてな。むこうの家でも、ちゃんと挨拶するんだぞ」

「わかってるよ 子供じゃぁないんだから」

 駅前で待ち合わせをして、美鈴を家に連れて行った。直ぐにお母さんは、美鈴を座敷に連れて行って着替えを始めたのだ。

 お父さんと僕はリビングでぐだぐたしながら飲みながら待っていたのだが、30分ほどして、美鈴が現れた。

「おぉ これは、いっぺんに華やかになったな 眼がさめるような美人さんだ」と、お父さんが、第一声だった。確かに、僕も見とれていた。

 美鈴は恥ずかしそうに立っていたが、髪の毛の横には、髪飾りもお母さんは用意していたんだ。

「美鈴ちやん、蒼の横に座ってちょうだいな 腰があんまり細いからタオル巻いたのよね だから、手間取っちゃてね でも、本当に綺麗でびっくりだわ うちは、女の子居なかったから、美鈴ちゃんは小さい頃から見ているし、本当の娘みたいで、着せてて、嬉しかったの こんなの、着てくれて、ありがとうね」

「おばさま そんな 私こそ、綺麗なの着れて嬉しいです」

「さぁ 遠慮しないで食べてね 蒼 美鈴ちゃんの分 取ってあげて 飲み物は? ビール ワインとかがいいかしら」

「あのー あんまり、飲むと・・」

「お母さん この後、伏見稲荷に行こうと思っているんだ 商売繁盛」と、僕もあんまり飲ませるわけにはいかないと思っていた。

「あら そうだったわね でも 気をつけてね 混んでいるから」

 しばらくして、僕達は「そろそろ 出ようか」としたら、お母さんはバタバタと美鈴の草履とか巾着を用意していた。ショールも出してきて

「ごめんなさいね 年寄りぽくて この子、もっと前に出掛けるって言ってくれてたら、ちゃんと用意したのにね」

「おばさま いいんです 素敵ですよ 気になさらないで」と、美鈴もすまなそうにしていた。

「あのね その おばさまって言い方 何とかなんない 他人行儀で・・ 美鈴ちゃん ちょっと、こっち」お母さんは、美鈴を呼び寄せていた。

「蒼 ゆっくり、歩くんだよ 着物なんだから ちゃんと、守ってあげなきゃだめよ 美鈴ちゃんも、困ったことあったら、恥ずかしがらないで、ちゃんと蒼に言ってね しっかり、蒼の腕を掴んでいてよ」と、家を出る時も、お母さんはうるさいぐらい心配していた。

「さっき、呼ばれていたのは、何だったん 変なこと言われたのか?」

「うぅん あのね おトイレ済ませておきなさいって 外では、大変だからって そんなことまで、心配してくれた」

「そうか 美鈴のこと気に入っているみたいだね」

 電車の中から混んでいた。美鈴もしっかりと参道を歩いている時も僕の腕に掴まっていた。

「昔、お父さんに連れられてきたんだけど、まだキツネのおせんべい売っているのね なつかしい」と、言っていたが、別に買うでもなく、境内に進んだ。

「お賽銭 奮発しちゃった」と、参拝終わって美鈴が言っていた。今の気持なんだろうなと僕は思っていた。

 そして、家に戻ると、お母さんが待っていたかのように、美鈴を招き入れて、僕の小さい頃の話とか、男の子はつまらないとかグチを言っていた。美鈴もその度に相槌をうって大変だったと思う。

 美鈴がそろそろ帰ると言って、着替えたが、帰り際にお母さんが

「私が、作ったんだけど、お父さんと食べて」と、ちらしずしを美鈴に持たせていた。

「いろいろとありがとうございます お父さん、きっと、よろこぶと思います いただきます」

「蒼 ちゃんと家まで送って行くのよ 美鈴ちゃん 又 遊びにきてね」と、お母さんに言われた。

 送って行く道すがら、美鈴は僕と手をつなぎながら、児童公園の暗い所に引っ張って行って

「今日は嬉しかったわ 幸せ ねえ 抱きしめてほしいの」とせがんできた。僕は、しっかりと・・

 家の前まで送って行ったが、2階建てでマンションというよりアパートみたいなもんだった。

「寄って行く?」と、聞かれたが、僕は「遅くなるし、いいよ」と、断った。別れ際にも、チュっとされて、家に戻ってきた。早速、お母さんが

「蒼 美鈴ちゃんて 本当に良い娘よね 苦労したんだろうけど、いじけた素振りもないしね 着替える時、気が付いたんだけど、あなた達、同じミサンガ着けているのね 仲良いんだー 着替え終わった時ね 小さな声で 私に お母さん、有難う って言ったのよ 思わず、抱きしめてしまったわ 蒼 あの娘を大事にしなきゃだめよ」

 わかっているって、そのつもりだよ 

5-⑵
 年が明けてからも、お店のほうは順調だった。お弁当も定期的に注文をして下さる所も増えてきていた。

 今日はお店の定休日なので、私は、堤さんへの待ってくれていた工事代金を、支払いに行った。

「まだ、良かったのに、本当にもう大丈夫なの?」

「えぇ 年末も思っていたより、好評でしたし、売り上げも順調ですし、早く、お返ししないと落ち着かなくて」

「えらいな君は 若いのに あぁ そうだ 年末の 親方が喜んでくれたよ うまかったって 今度、お店に食べにいくって言っていたよ ありがとうね」

「いいえ こちらこそ いつも 気に掛けてくださって、ありがとうございます」と、お礼を言って事務所を出た。

 私は、バーガーショップのテラス席でお昼を食べていたんだけど、その時、道端から

「キヨ 早く 早く みんな行ってしまったよ」と、大きな声で叫んでいるのが聞こえた。道路のほうを見ると、髪の毛を赤茶に染めて、真っ赤なミニスカートの女の子が走って、そのバイクの男のほうに走って行くのが見えた。「ゴメン 店の女がトロいからさー」と言って、バイクに跨ったと思ったら、直ぐに走り去っていった。

 「キヨ」って、あの子、清音じゃぁ。髪の毛、赤茶だったけど、似ていた。私に。昔の面影もあったわ。でも、あの子、まさか、あんな恰好しないわよ。真面目で、おとなしい性格だったから。

 バイクが走り去ったほうを見たが、もう、信号を曲がって姿も見えなかった。お母さんと清音はどうしているんだろうかと、心が痛みながら、家に帰った。戻るとお父さんが

「美鈴 牡蠣が食べたいな」と言って来た。お父さんがそんなこと言うのは、珍しかった。

「えぇー どうやって、食べたいの?」

「そうだなぁ グラタンが良いな」

「うーん そうか じゃぁ お買い物に行こうよ 一緒に」と、言って、私は、着替えた。なぜか、ジーンのミニスカートを穿いた。寒いけど・・。

 表に出て、私はお父さんと腕を組んで歩いていると、前から大きな犬を連れた女の人がやってきた。

「ダイゴ 元気かい」と、お父さんはが手を広げると、その犬は喜んで尻尾を振りながら、お父さんに寄ってきた。お父さんも、その犬の頭を撫でていた。

「中道さん 今日は、若い女の人と仲良くデートですか?」と、その女の人が話しかけてきた。

「そうだよ 娘でね これから、買い物に行くんだよ」

「あら そうなの こんなきれいな娘さんがいらっしゃったんですか 初めまして、田中です お父さんは、ちょくちょくダイゴに骨を持ってきてくださるんですよ」と、挨拶された。

「前から お知り合いなの?」って別れた後、お父さんに聞くと

「うん 散歩の途中でな ダイゴが懐いてくれてな あの角の家だよ この辺の区長さんだよ」

「そうなの あのワンちゃんも可愛いもんね」

 家に帰ると、早速、お父さんは、ベシャメルソースを作り始めた。私は、側でいろいろ教えてもらいながら、お手伝いしていた。

「このソースをベースに、グラタンのソースも作るんだよ。これをベースにしてクリームコロッケも作っているんだ。」

 出来上がったグラタンはさすがにおいしかった。ふたりで食べていると

「そういえば、光瑠ちやんが晋さんにクリームコロッケの作り方を教えて欲しいって言って、晋さんのところに行くような約束をしていたな」と、お父さんが

「えぇー 何でそんなことになっているのー そんなこと聞いてないわよー なんか、しきりに光瑠 晋さんの側に居るなって思っていたけど」

5-⑶
 3月に入って、昇二も研修が始まるとかで、その前に4人で集まろうと美鈴が言い出した。食べ物は、美鈴が用意するからって、「ナカミチ」でやることになって、お昼に集まることになった。光瑠も手伝うと言って居たので、早い目に行っていると思う。

 昼をめざして、僕は行ったのだけども、もう、料理が並んでいた。店に入る前、例の掲示スペースを見ると、子供の絵とか、隣には、俳句などが所狭しと、掲示されていた。そして、空いている壁には、落書きされた後もあったが、美鈴の字で(このスペースは皆様の作品を掲示する予定の場所です。皆様が共有できるように、大切にお願い致します)と貼ってあった。

「あの、落書きはひどいよな 美鈴の想いを無視しやがって」と、美鈴の顔を見るなり、僕が言うと

「仕方ないよ 空いている所があれば、何か書きたくなるよね でも、独り占めはずるいな」と、優しかった。

「でも、明璃から聞いたんだけど、最近、あの掲示スペースを増やす為に、寄付が集まっているんだってね」と、光瑠が言っていた。

「そうなのよ でも、少し、困っているの」と、美鈴が

「なんでー いい話じゃんか」と、昇二が言っていたが

「そんな、単純じゃぁないのよ 例え、寄付でもね、一部の人だけの寄付だったら、それで作ってしまったら、どうなると思う? その寄付した人達の発言力が高くなって、他の人達が敬遠するってこともあるじゃない? みんな、どう思う?」

「それぐらいじゃぁ無いと、盛り上がらないのじゃぁないか 美鈴も、店の料理の絵を描いてもらって、宣伝になるんじゃぁないのか」と、僕が言うと、光瑠が直ぐに

「美鈴は そんな気持ち持ってないわよ みんなが喜んでくれればって想いだけよ 蒼 美鈴に謝んなさい」と、厳しいことを言ってきた。

「明璃ちゃんが、言っていたんだけど、小学校の6年ぐらいになって、初めて自分の描いた絵が褒められて貼りだされたんだけど、それまでは、自分でもうまく描けたと思っても、訳が解んないとか見向きもされなかったんだって でも、明璃ちやんは、みんなに見て欲しいって思って居たそうよ だから、下手でも、みんなに見てもらいたいって思っている人の発表の場になればと思っている」

「美鈴は、なんていうか 純粋なのかな いいねぇー さすが、蒼が惚れた女だよ」と、昇二が言っていたが

「そんなことないわよ 私は、色んな人に助けてもらっているから 今、私が出来る恩返しのつもりなだけ」

「やっぱり 美鈴の想いを説明していくしか、ないんじゃぁないのか」と、僕の意見だった。

 その後、食べたり、飲んだりしていたが、美鈴が

「みんなに、もらってほしいものがあるの」と、言って、きれいな包装紙のものを、みんなに渡してきた。

 開けてみると、皮の名刺入れだった。僕と昇二のは茶色、光瑠と美鈴のはレッドピンクで、それぞれの名前がはいっていたのだ。

「あのさー 私のこと、忘れないでいてくれたし、お店のオープンのときも、みんなで助けてくれたし、何かでお礼しなきゃって思っていたの 4月からみんな新しい生活になるから、私からの感謝の気持とお礼なの」

「美鈴 これって 栃木レザーのじゃぁない 良いもんだって うちの教授も持っていて、自慢したいたわよ」

「うん 丁寧につくってあるから、長持ちするんだって 前から、頼んであったんだ みんなで、同じもの持つって良いじゃぁ無い? これから、みんな使う事増えるし」

「美鈴 そんなことに気を遣うなよ 店のことでいっぱいなのに・・ だけど、これは大切に使うよ」と、昇二も有難がっていた。

「あとさー 光瑠 晋さんとは、なんかあるのー? 正直に言ってよ」と、美鈴が思い切ったように聞いていた。

「なんでー 気づいていたのー でも、残念ながら、報告するようなこと何にもないんだよね 正直に言うと、私は、あの人を好きになっちゃった すごく、仕事熱心で、真面目だし でもね、私からモーションかけても、適当にあしらわれて、相手してもらえないんだ」

「えー 光瑠 お前の好みって ああいう人なのー おどろきだよー」と、昇二が言っていたけど、僕も、びっくりしていた。

「美鈴はわかっていたんかー」

「うん なんとなくね 光瑠らしいなって思っていた でも、晋さんはそんな風なんだ」

「まぁ この話は ここまで 私が勝手に想っているだけだから 気にしないで」

 僕は、この後、美鈴が、会う人に対して、どういう性格でどういう風に考えているのかを正確に察する能力を持っているのだと思うようになっていった。
 

5-⑷
 昇二が研修に行くという、前の夜。僕は、ふたりで居酒屋で会っていた。1か月程、滋賀の工場で研修をして、その後は、多分東京だろうと言って居たので、ゆっくり会えるのは、最後だろうということで、急に会うことになった。

「やっぱり そうなるんだ」

「やっぱり そうなるんだよ 宮使いだからな この串カツなんかも、どうだろう 向こうでもうまいかなぁー」と、昇二はビールを飲み干した。ペースが速い。

「明璃ちゃんには、言ってあるのか」

「うん 滋賀に行くことだけな 東京は、まだ、確定じゃぁないし あのさー 蒼 言っておくけど 俺と明璃ちゃんって、そんな関係じゃぁないぞ 唯、変なことしたら、光瑠に怒られるからさー」

「昇二 光瑠のこと好きなんか?」

「好きだったこともある あいつと居ると安心するからな 俺が変なことすると、いつも、怒っていた。でもな、なんか、疲れるんだよ だから、あいつは俺には合わないって気がついたんだ 明璃ちゃんと居る時のほうが、ずーと気楽だよ ハラハラする時あるけどな」

「妹みたいなもんだものなぁー」

「そうなんだよ どうしても、女として見られないんだよ じゃれ合っててさ、偶然、胸触ったこともあるけどな 色気感じないんだ」

「光瑠の顔が頭をかすめるしな」

「あいつは 魔女か 聖女か その妹は 妖精か」

「そうだな 所詮 男は、女の下僕なんだよな」

「蒼も 美鈴の下僕なんか? どうなんだ 進展あるのか?」

「進展って そのまんまだよ」

「そのまんまって 結婚の約束ぐらいはしたんだろう?」

「いいや そんなこと できないよ 僕は、社会人として、一人前の仕事が出来るようにならないと 美鈴だって、ちゃんと店を切り盛りしているんだ それと、見合うようにならないとな」

「なんとなく、わかるよ いい女を掴まえるのも大変だのう でも、美鈴は言ってくれるのを、待っているんだろう?」

「どうだかな いずれにしても、今は、店のことで頭いっぱいみたいだよ」
 

第六章

6-⑴
 4月になって、僕は新入社員として、会社に通い始めた。とりあえず、研修で1ㇳ月は製造研修の予定だ。これから、少し、忙しくなるので、顔を見て行こうと思ってナカミチに寄ってみた。

「あら 蒼 ご飯食べたの?」

「いいやぁ 美鈴 終わったら、どこかに一緒に食べに行かないか?」

「うん いいけど じゃぁ コーヒーでも飲んで、待っててくれる」

 僕が、カウンターの隅に座っていると、舞依ちゃんがコーヒーを出してくれて

「蒼さん お久しぶりですね 今日は、デートですか?」

「そんなんじゃぁないけど 美鈴とも久しぶりなんだ」

 お客が全て、帰った後、奥から、晋さんも出てきて、美鈴に

「洗い物は、全部終わっています。お邪魔すると、悪いし、お先に失礼します」と、言っていた。その後、舞依ちゃんを追い立てるように連れ出して、帰って行った。美鈴は、お父さんに

「お父さん ごめんね 蒼と帰るから 冷蔵庫におでんあるから、温めて、食べてもらえる?」

「あぁ いいよ 気にせずに、ゆっくり、しといで」と、先に帰って行った。

「美鈴 会社勤めが始まったとこだし、店の休みと僕の休みが合わないし、これから、しばらくは会えないと思うんだ。それでな」

「うん 蒼も慣れるまで、大変だもんね 覚悟していたよ 新しい会社で可愛い女の子見つけてもいいよ」

「あのさー 美鈴 そういう、意地悪な言い方すると、口がゆがむぞー」

「その、ゆがんだ唇を直してくれるかな?」と、美鈴は見つめてきた。

 僕は、美鈴を抱き寄せ、唇を合わせた。そして、美鈴のポロシャツの下に手をすべらせていった時

「あ 待って 蒼」と、その手を押さえた

「美鈴の全てを欲しい」

「あぁー でも 私 まだ」と、美鈴はうつむいていた。僕は、美鈴から思わず、離れてしまった。

「ごめん 蒼 私だって、蒼のものになりたいって思う事あるんよ でもね、私には、もう一つの目標があるんだ 蒼には、話しておくけど、私ね シャルダンを負かしたい 「ナカミチ」がつぶれたのは、直接は関係ないんだけど、弱みにつけ込んで、従業員を引き抜いたりして、許せない。私は、正面から、味とサービスで向かっていくつもり 相手になるかどうかわからないけどね だから、今、蒼とそういうことをすると、私 蒼にのめり込んでしまうから・・」

「やっぱり そこまで考えていたのか 美鈴は本当に強いな」

「うぅん そんなことないよ みんなが居てくれたし でも、私は蒼のもんだって、約束したし そのうちにね 別に、蒼が誰かと結婚してもいいよ それでも、私は、蒼のもんだってつもりだよ」

「美鈴 そこまで言わせてしまって、すまん ありがとう 僕には、お前以上の女性は居ないよ なんにも、出来ないかもしれないけれど、協力するよ」と、しっかり、抱きしめていった。

6-⑵
 4月の末の土曜の夜、昇二が連休明けに東京勤務で赴任することになったので、「ナカミチ」で送別会を開いた。美鈴は仕事中だけど、合間を見て参加するというので、比較的すいて来る8時からということにした。

 明璃ちゃんもバイトで入っていて、奥にいるが、不機嫌そうな顔をしていた。ところが、注文を取りに来て、光瑠は海老フライとクリームコロッケ、僕は、ステーキにしたのだが、昇二は「やっぱり ナカミチの味を覚えておこう」ということでハンバーグとクリームコロッケのセットと明璃ちゃんに言うと、明璃ちゃんは復唱して

「東京ハンバーグとクリームコロッケですね ライスか東京パンティがつきますが、どちらが良いですか」と聞いていた。昇二はしばらく、明璃ちゃんの顔を見ていたが

「花模様のパンティ」と、ボソッと答えていたが、明璃ちゃんはツンとして、戻って行った。

「なんか怒っている様子みたいだな 昇二 どうなん?」と、僕が聞くと

「うん 東京行くこと、伝える機会がなかったんだ 俺だって、3日前に聞いて、蒼に連絡したぐらいだったし」

 そして、ビールを頼んだ時、グラスを持ってきたんだが、昇二の前には、日本酒用の小さなグラスを置いた。

「明璃ちやん これは無いだろう」と、昇二が言うと

「あらっ ごめんなさいね 東京って、こういうんでビール飲むんかって思っていました」と、言って取り替えていたが

「ごめんね 昇二 あの子ったら 昨日から、ふてくされているのよ」と、光瑠が謝っていた。

「いいじゃぁないか 可愛いじゃぁないか なぁ 昇二」

「うん なんだか 恐いけどな 俺 なんか、言って無かったという負い目あるんだよなぁ」

 料理を持ってきたときには、昇二のパン皿には本当に花びらが散らしてあって、明璃ちゃんは

「東京のでーす あっちの女の子が、みんな、こういうのだと良いのにね」と、置いて行った。

「明璃 いい加減にしなさいよ いつまで、すねてんの」と、光瑠が叱っていた。

「だってさー 私 何にも、言ってもらって無いねんよ お姉チヤンから聞いて初めて・・」

「それでもね 明璃 好きなんだっら、気持ち良く送り出してあげなさいよ 昇二だって、気分悪いわよ」と、光瑠が言うと、明璃ちゃんは泣き始めていた。

「明璃ちゃん 奥で洗い物して居て お皿割らないでね」と、美鈴が明璃ちゃんを奥へ連れて行った。

「ごめんね 美鈴 みんなも あの子、昔から自分の思ったように好きにやってきたから・・でもね、ここで美鈴に仕込まれて、少しは、落ち着いたのよ でも、自分でも、昨日から感情が抑えられなくて、 昇二 ごめんね 気にしないで あの子の身勝手だから」と、言いながら、光瑠は最後は、晋さんの方を見ていたのだが

「いいや 僕も、悪かったんだよ 後で、謝っておく」と、昇二も言っていた。

「昇二 いよいよだな 今まで、ずーと一緒だったけど 1年後ぐらいには、別の会社だけど競い合っているんかな」

「そーだな だと良いけどな 俺なんかは、上から言われたこと、こなすだけかも知れないし 海外に飛ばされているかもな」

「ちょっと 昇二 今、そんなこと言ったら、明璃・・」と、光瑠は人差し指を口元に持っていっていた。

「光瑠も頼むぞ 弁護士か検事かわからないけど 将来、頼りにしているぞ」

「そんな 私も 平凡な女よ 今は、いい奥さんになれるよう、両方、勉強しているわよ」と、やっぱり、晋さんの方もチラチラ見ていたのだ。

「明璃ちやん いつもより、もう遅いし、上がって 昇二に送ってもらうといいわ ねぇ 昇二、お願い 向こうに行っても、身体に気を付けてね ちゃんと食べてよ」

「わかった 美鈴こそ、仕事し過ぎて、身体壊すなよ 夏には、又、来れると思う」

 二人が連れ添って、出て行ったあと、僕も、光瑠と舞依ちゃんと一緒に帰ることになった。

「明璃ちゃんて、真っ直ぐで、羨ましいわ」と、舞依ちゃんが言ったら、光瑠が

「我儘なだけよ」

「でも、人を好きになるって、我儘でいいんじゃぁないでしょうか」と、舞依ちやんが返すと

「そうね 我儘でいいのかもね」と、光瑠も納得していた。 

6-⑶
 その後、しばらく、美鈴とは会えなかった。僕も、会社に慣れるのが精一杯で、土曜日曜も新しいことを覚えることに追われていて、電話で話すのがやっとだった。

 そんなある日、家に帰って独りで晩御飯を食べていたら、お母さんが

「どう? 今日のは、おいしい?」って、聞いてきた。確かに、少し、味付けが違っていた。

「うん うまいよ おかずも、いつもと違うしなー」

「あっそー いつもより、おいしいの?」

「うーん いつもより、おいしいかな 何か、変えたの?」と、答えると、リビングのほうからお父さんが

「蒼 気のせいじゃぁないか 仕事、慣れなくて、疲れているんだよ」と、横槍を入れてきたが

「あら そう 今まで、私の味で育ててきたのにねー 今日のは、美鈴ちゃんが作ったのよ」

「ゲッ なんで、美鈴なのー いゃ いつものもおいしいよー でも、なんで美鈴が居たんだよ」

「今日ね 美鈴ちゃんを、八瀬に誘ったのよ 釜風呂に入って、きれいになろうと思ってね」

「何で 美鈴と一緒なんだよ」

「あなた達、この頃、デートもしてないでしょ だから、代わりに誘ったのよ 喜んでいたわよ おいしいもの食べて、帰りに美鈴ちゃんに、お洋服と下着も買ってあげたの 可愛いから、何着ても似合うんで、選びがいあるのよ 私、女の子居なかったでしょ だから、そういうの夢だったのよ 美鈴ちゃん お母さんって呼んでくれたのよ 楽しかったわ」

「わざわざ 誘ったの? 美鈴、そんなこと言って無かったけどなぁ」

「あなたに、言うと うるさいからじゃぁない」

「別に そんなこと言わないよ ただ あいつも忙しいから、ゆっくり休みたいだろうなって」

「まだ 若いんだし 色んなとこ行った方が、息抜きになっていいのよ でもね、夕食はうちで作ろうってなってね 蒼に食べて欲しいって、美鈴ちゃんが作ったの いつも、蒼のことを考えているみたいよ 嬉しいでしょ?」

「うん まあな」

「美鈴ちゃんってね お母さんと一緒に買い物行くことなんてなかったんだって だから、河原町を歩いている時もね、腕を組んできて、嬉しくって お母さん って言ってみたかったんだって 私も、あの子を本当の娘みたいに思っているから、嬉しかったわ でもね、あの子、少し痩せすぎなんじゃぁなかな もっと、栄養つけなきゃね お父さんの分と二人分、持って帰ったけどあんまり食べないんだって」

「余計なとこに脂肪が付いたら、それはそれで誰かみたいに心配しなきゃぁならんし、女は大変だよ 蒼 あの子は良いぞー ふたりの明るい、はしゃいでいる声が聞こえてくるしな わしがここで酒飲み始めていると、ちゃちゃってつまみ用意してくれてな お父さんに作っているから、慣れているんだって、言っていたけど、気が利くよ あんなかわいい娘相手に飲めるって、あのお父さん 幸せかもな」と、お父さんが、又、口をはさんできた。

「あらっ 気が利かない、おばさん相手で申し訳ございませんわね」

 僕は、美鈴がふたりに気に入られているんで安心していた。

6-⑷
 6月になって、僕は仕事の方も慣れてきて、少しは余裕が出てきていた。両親が旅行に行くと言って、留守になるので、夜、久し振りに「ナカミチ」に顔を出してた。

 美鈴は顔を見て、ニコッとしたが、別に話し掛けてくるでもなく、明璃ちゃんが注文を聞いてきた。

「久し振りですよね ねぇ 蒼君 あとで、聞いて欲しいことがあるんだけど・・」と言っていた。

 僕は、ステーキを注文していた。ここのは、すのこ状の鉄板で直火で焼いてあるので、香ばしくおいしいので、好きなのだ。土曜の夜なので、店内は、まだ、家族連れなんかで混みあっていた。僕も、食べ終わる頃、9時半近くになって、小学生位の子供を2人連れた1組の家族が入ってきて、「まだ、大丈夫でしようか?」と聞いていた。応対した、舞依ちゃんが、美鈴の顔を見ていたが、美鈴は、笑顔で

「どうぞ 大丈夫ですよ」と、招き入れていたのだ。確か、10時閉店のはずだが、と僕は思っていたのだが。注文を聞いて、厨房に伝えた時も、晋さんがいつもより、威勢のいい声で答えていた。美鈴の気持を理解しているのだろう。注文の料理を運んだ時も、美鈴は

「どうか、時間は気になさらないで、ゆっくり、お召し上がりくださいね」と、応対していたのだ。

「すみません もっと、早く来るつもりだったんですけど、主人の帰りが遅くなってしまったので」

「そうなんですか ご主人もお仕事お疲れさまでした。いいんですよ 遅くなっても、ご来店いただきまして、ありがとうございます。又、遅くなるようなことがございましたら、ご連絡いただければ、お待ち申しておりますので、どうぞ、ご遠慮なさらないでください」と、美鈴は一礼して下がってきた。それが、美鈴とこのお店のスタンスなんだろうなと僕は、知ったのだ。それに、食べ終える頃、「お飲み物をサービスいたしますから、どうぞ、ゆっくりしていってください」とまで言っていたのだ。

 美鈴は、舞依ちゃんと明璃ちゃんに、もう、あがってと言って居たのだが、二人ともまだ残っていた。最後になった、その家族連れが帰る時、奥さんが

「ありがとうございました ゆっくり、食べれて おいしかったし 遅いし、シャルダンにしようかと言ってたんだけど、ここに来て良かったわ 子供達も喜んでいたし、又、寄せてもらいますね」と、言って帰って行った。外まで、見送りに行った舞依ちゃんが、戻ってきて

「店長 みなさん とても、喜んでいましたよ」と言ってきた。

「そう 良かったわ 晋さんもありがとうね」と、美鈴はお礼を言っていたが、晋さんは、別に反応もしていなかった。

「さぁ お疲れ様 みんな、あがってちょうだい 明日も、お願いね」って、美鈴が言っていたが、明璃ちゃんは僕のそばに来て

「蒼君 聞いて あのね 私、昇二に会いたいから、東京に行くって、言ったの バイクで そーしたら、両親に反対されて・・ 独りで、そんな危険なって言うから、私の親衛隊3人も付いてきてくれるって言ったら、すごく怒られて、もう、バイク禁止だって・・。お姉ちゃんにも、バカとか言って相手にされないし・・ 昇二も、どっちかと言うと迷惑だって・・ 店長に話しても、笑っているだけだし・・ ねぇ 晋君、私、昇二に会いたいのよ どうすればいいと思う?」

「おいおい そんなこと、僕に相談するなよ 明璃ちゃんがバイクでつるんでいるって、うすうす知っていたけど・・125だろう 高速もダメじゃん」

「うん 下道をゆっくり行く 2日掛ければ、余裕だよ」

「あのさー そんなことじゃぁなくって、それに親衛隊って、例の3人だろう? 余計に、心配だよ」

「どうしてー あいつ等、良い奴だし、言う事聞いてくれるよ」

「うーん そういうことじゃぁなくて どうして、ご両親とか、光瑠が反対しているか 明璃ちゃん、冷静に考えてみてよ 自分の想いは捨てて 昇二だって、明璃ちゃんのことは好きだって、はっきり言っていたよ だから、大切にしたいんだと思う その気持ちも、考えてみてな そういうことも、わからないんじゃぁ、これから、過去の芸術家の作品にこもっている、作者の想いを理解することもできないぞ」

「うーん 蒼君、厳しいなぁー、グサッとくるわ やっぱり、反対なんだ」

「そうだな ハッキリ言うと賛成できない」

「そうかー 私って、おかしいんだね 反省するかー」

「いゃ おかしいとは思わないよ 真っ直ぐだからね だけど、周りの人の考え方も理解することも大事だよって言っているんだ その上で行動すればって思うんだ」

「そうだね 店長は、ちゃんと周りの人みているもんね 見習いまーす」と、帰って行った。

 もう、店には美鈴とお父さんしか残っていなかった。

「ごめんね あの娘 蒼から言ってもらったほうが、効き目あるみたいだから」と、美鈴が言っていた。

「うん でも、ああいう気持も大事だよね それとね、美鈴 今晩、親達旅行で居ないんだ 来ないか?」

「バカ 急に言われても・・ 変な雰囲気になるから、行かない ごめんね ひとり、寂しく寝てちょうだい 私だって、つもりあるんだから 本当にバカ」

 やっぱり、誘い方がデリケートさに掛けていたかな、難しいなと思いながら帰ったのだ。

6-⑸
 その翌週、土曜日の夕方、昇二から「今、新幹線の中だ 夜、ナカミチに一緒に行ってくれ」と、急に言ってきた。

 待ち合わせて、ナカミチに入って行くと、明璃ちゃんが「いらっしゃ・・・」と、固まってしまった。美鈴が

「あらっ 昇二 どうしたのー 突然 びっくりしたわ」

「うん 急に ここのハンバーグが恋しくなってな 遅いけど、まだ、出来るかなー」と、昇二が答えながら、カウンターに座った。

 美鈴は、奥に聞きに行ったみたいだった。明璃ちゃんはお水を運んできたが、昇二のは底に少ししか入っていなかったのだ。その時、昇二は明璃ちゃんの方を見て、チュツとしていた。
 カウンターの中から、美鈴が

「ご飯もパンも無くなったのよ ハンバーグとクリームコロッケは大丈夫だって 蒼もそれでいい?」

 僕達は、それでOKと返事したが、その間、明璃ちゃんは、下を向いたまま黙ったきりだった。舞依ちゃんは、もう、あがったみたいだった。奥から出てきた美鈴に

「店長 明璃はかわいそうな女の子なんです 彼氏と思っている人に突然、いなくなったり、現れたりするんです」と、泣く振りをしていたが

「その子に会いたくて、会いたくて仕方なくて、急にでも帰って来るような彼氏がいる幸せな女の子もここに居る」と、昇二がポツンと言った。その途端、明璃ちやんは

「このバカ昇二 いつも、突然で・・ 本当は、嬉しくって、飛びつきたかったんだからぁー」と、昇二の背中を叩いてきていた。

「ほったらかしにしておくと、突拍子もないことやるからな このバカ明璃は」と、昇二もやり返していた。

「明璃ちゃん 普段なら、もうあがっているのにね 何かが知らせたのかな 食べ終わったら、二人で帰りなさい それと、明日は、夜に入ってもらえば、良いからね 楽しんでね」と、明璃ちゃんの背中をさすりながら、美鈴が言っていた。

「蒼 すまんな 連絡もらって・・いろいろ話たいこともあったけど」

「かまわん 今度な 明璃ちゃんが、飛び出さんように掴まえといてくれ 可愛いじゃぁ無いか」

 明璃ちゃんは、昇二にくっつく様に出て行った。

「明璃ちやん見ていると、羨ましいわね 若くて 私、年とっていくばっかりで・・」

「なに言い出すんだよ 美鈴は、まだ、若いよ 色気もでて来たし 魅力的だよ」

「有難う 蒼 そんな風に言ってくれるの、蒼だけかもよ」

 何言ってるんだよ、美鈴目当てに来る人、多いじゃぁないか、疲れてきているのかなぁー

6-⑹
 美鈴が相談したいことがあるというので、金曜の夜、店が終わった後に行った。もう、みんな帰っていた。お父さんも独りで先に帰ったみたいだった。

「ごめんね 仕事で疲れているのに」

「いいよ 美鈴だって、疲れているんだろう」

「私は、慣れっこになっているから あのね 相談ってね 従業員を増やそうと思うの 料理の人が1人とサービスは5時以降バイトで2人 営業時間を伸ばしたいの」

「えー 美鈴 倒れちゃうよ 朝早くから遅くまでなんて」

「それっくらい 頑張るよ それにね 朝は基本的に舞依ちゃんに任せようと思うの」

「うーん それは良いけどさ 売上と人件費 釣り合うのか?」

「あのね 私なりに、シミュレーションしてみたの どれだけ、利益上がるか 蒼に検討してほしいのよ 営業時間は、朝8時で終了はオーダーストップ10時の11時閉店」

 美鈴は、プリントアウトした紙を3枚僕に差し出した。仕事を終えてから、考えたのだろう。表とかグラフに朝の時間帯のメニューと原価計算など記されていた。

「もちろん 美鈴的には、大丈夫という試算なんだろう? じっくり、見させてもらっても、いいかなぁ 直ぐには、結論だせないよ」

「うん 見て 晋さんには、今でも、時間的にも負担掛けているし 晋さんに倒れられたら、大変だし、若手を育てておきたいの 舞依ちゃんにも負担掛けているし」

「確かに 拘束時間が長いよなぁー 晋さんも舞依ちゃんも良い人だから、よくやってくれてるけどな」

「そうなのよ いつまでも、甘えていられないわ 蒼 後ね 今のお店 狭くて、客数が限られてくるから、もっと、大きい所に移ろうと思っているのよ」

「美鈴 それは、まだ・・だろう? ここも、まだ1年経たないよ 今、調子良いのに、なんで、そんなに・・突っ走るんだよ」

「うん あの店のことがあるからかな 焦っているかもわからないね でもね、あの店に勝てたら、清音が見つかるかも知れないと思って」

「美鈴 まだ 会いたいのか? 忘れられないよな おとなしい子だったね素直で」

「あのね 前に、一度、バーガーショップで見たような気がするの でも、見た目が全然違ってて でも、キヨって呼ばれていたし、声が清音だったわ 何か、男の子の後ろに跨ってバイクで行っちゃったの それっきり 清音じゃぁないかも知れないし でも、元気なんかなって気になっているのよ お母さんだって・・」

「お母さんって 美鈴とお父さんを見放して・・」

「そうだよね でも、私を産んで育ててくれたお母さんなの」

「美鈴 お前の優しいのは昔から変わらないな だから、僕を虜にするんだよ」

 僕は、美鈴を抱きしめていった。彼女の口元からは甘い果物の香りがしていた。  

6-⑺
 7月の中頃、美鈴の言っていたように、店は時間も変更して、一部メニューも変えて営業し始めた。松永さんとも晋さんにも充分説明したと言って居た。二人とも、美鈴が言うんだったら、協力すると言って居たそうだ。ただ、僕は、朝8時から10時までの時間はメニューを絞って、飲み物と簡単なモーニングセット、カレーライスのみにした方が良いという意見だったので、メニューの内容は舞依ちゃんに任せたみたいだ。基本的に、朝の時間帯は彼女に任せる方向らしい。出勤時間も朝7時30分からにしてもらって夜の開店時間少しして、上がってもらうようにしたら、彼女も快く承諾したとのことだった。友達と遊べるので、その方が良いらしい。

 夜は5時以降に、大学生のバイトがひとり入り、調理の方も調理学校を卒業したという若い男の子が入った。舞依ちゃんは、予定どおり、時間がくると帰って行くそうだが、晋さんは、いつまでも居るので、美鈴は見かねて、帰れ帰れというのだが、ずるずると居るそうだ。

 7月も終わる頃、土曜の夜の遅い時間に、僕は店に行ってみた。10時前だったが、店の中はテーブル席が1組ぶんしか空いてなくて、カウンターにも、カップルの他、数人が座っていた。

「美鈴 順調だね」

「うん でもね、平日はこの時間になると1組か2組なのよ でも、朝は以外と多いのよ 舞依ちゃんも本当によくやってくれているわ」

「そうか あの子も愛嬌があって、一生懸命だからね ファンが多いよね」

「そうなのよ 完全に常連さんを掴んじゃってね でも、休日でも意外と朝も皆様来て下さるのよ 若い人も多くって、朝食がわりだって それにね、バイクのグループもたまに来るの」

「柄の悪い連中か?」

「うん でも、礼儀正しいわよ」

「美鈴 身体のほう大丈夫か? 美鈴のことだから、朝から閉店までいるんだろう?」

「うん しばらくはね あーそー言えばね この前、光瑠がひょっこり来たのよ」

「めずらしいな 忙しいんだろう あいつも だいぶ会って無いなぁー」

「うん でもね 帰る前に、嫌味言われちゃった」

「へぇー あいつ そんなこと言うやつじゃぁ無いのにな」

「あのね 晋さんのことなのよ 完全に労働時間オーバーでしょって 身体壊したら、あんたが雇用主なんだから、甘えてないで、もっとちゃんとしなさいよって」

「なるほどー 厳しいな あいつらしいかも」

「うーん でも、晋さんのことだから余計なのよ」

「あっ そうか まだ、あきらめていないのか」

「そうよ それどころか ちょくちょく、休みの日に晋さんのとこに行っているみたいなのよ 割と、真剣に好きになったみたいよ」

「そうかー からかうつもりじゃぁないけど あの姉妹も大変だね 熱くなるんだよな」

「光瑠が前に気にしないでって、言っていたから、あれから聞けないんだけどね 晋さんにも」

「光瑠の性格からするとな あー そういえば、うちのお母さんが、又、温泉誘って良いかなって聞いて来いって言われていた 息抜きにだって」

「ええ うれしいですって言っておいてちょーだい でも、この前も色々買ってもらったきりで、お返しもしていないしなぁー」

「そんなのいいよ 向こうが好きでやっているんだし、そうしたいんだろうし いいなぁ 僕も美鈴と一緒に入りたいよ」

「バカねぇ そのうちにね」

「美鈴のそのうちって、先が長いよなぁー」

6-⑻
 僕も、会社に慣れてきた頃、社長から、牛すじを使って、何か新しいものを考えてくれと言われていた。僕の職場には、入社10年の女性、友部さんと、やはり女性で短大の栄養学科をでた3年目の天野原さんと僕で、製品開発を行っている。

 他にも、東南アジア系のスープも開発中なので、僕が言われた牛すじの方は、なかなか進まなかった。なんか、僕は直接社長から言われたものだから、責任感じていたのだが・・。

 僕は、思うところがあって、松永さんの店を訪ねた。お昼の営業が終わる頃を目指していた。お店に顔を出すと、土曜日なので、席はかなり埋まっていた。

「おぉ 久し振りですね どうしたのかな、こんなところまで」

「何となく 松永さんの料理、改めて、食べたことなかったので・・」

「そうだったかなぁー まぁ 座ってくれ なんでも、お好きなものをどうぞ」

 僕は、ハンバーグのデミソースをと注文した。食べてみると、向こうのナカミチのものより、ソースがクリーミィぽいなと感じた。僕が牛すじに合わせようと思っているのは、こんな感じかなと感じていた。他の客が全て帰った後も、僕は粘っていた。

「なんか お話があるのかな 向こうの店はお嬢さんが頑張って、調子良いみたいだね」

 僕は、会社で今やっていることを話した。クリーミィなデミソースを求めていることも。松永さんは、いろいろと教えてくれて、違うソースの提案もだしてくれた。

 その後、美鈴の話になった。松永さんは、少し、心配だと言って話し始めていた

「あんまり、急に店の客数が伸びて行くと、マークされるからなぁー。特に、シャルダンなんかはもう注目というか、敵対してくると思う。これから、いろんな手を打って来るだろう。今までは、軽く構えていたんだろうが・・」

「そうなんですか オープンの時は、少し、嫌がらせみたいなのあったみたいですけどね」

「あんなのは、どこの店に対しても、あんなもんだろうけど 今では、少しばかり脅威を感じていると思う あそこは、チェーン店だから、あそこの店舗自体が売り上げ落ちても、全体でみれば、大したことではないんだが、「ナカミチ」という名前に対しての昔の負い目があるはずだからな こっちの考えすぎでなければいいんだけど」

「そうですよ 向こうは大手なんですし、相手になんかしてないと思いますけど」

「でも、それに立ち向かおうと思っている、お嬢さんが心配だよ へたをすると向こうもつぶしにかかってくるからな お嬢さんが、今よりも大きい店を考えていることを聞いているか?」

「ええ 聞いたことがあります まだ、今の店も1年も経たないのでどうかなって思いますけど」

「そうだよな すこし、焦っているんだよ こころの中では、あの時の悔しさがあるんだろうな ワシだって、それはあるが お嬢さんは、社長のことが、本当に好きなみたいで、あそこが許せないんだよ もしかしたら、それを目標に頑張ってきたのかなも」

「それは僕も感じことがありますけど、そうであっても、僕は美鈴に協力するって決めましたから」

「そうか 頼むよ お嬢さんも、いい理解者見つけたかもな」

6-⑼
 夜遅めに、美鈴の店が終わってから、駅前のカフェで会っていた。なんか、もやもやして美鈴に言っておかなければと思っていた。

「店は順調なのか?」

「うん 7月に入って、新しい子も頑張ってくれているし、舞依ちゃんの提案で夏向けにピリ辛メニューも増やしたしね 舞依ちゃんがいろいろやってくれるので、助かっている」

「そうか、良かったね 先日ね、会社の新製品のことで、相談があって、松永さんに会って来た」

「そう 変わりなく、元気?」

「元気そうだよ 少し、美鈴のこと心配していた 美鈴が働きづめだから」

「なんもー 私なら、大丈夫だよ あの人、親がわりみたいなもんだからなー いつも、心配してくれてー」

「そうなんだけどー もっと、心配なのは、シャルダンのことだよ 無理に対抗しようとしていること」

「なんにも 無理なことなんて無いわ 私の、目標なだけ」

「それは、わかるが 急ぎすぎているんじゃぁないんか」

「そんなことないわよ 私だって、高校も大学生活もあきらめて・・ 蒼達と楽しくやりたかったわ でも、その間、考えて・・ ゆっくり、していたら、おばぁちゃんになるわ」

「だけど、今でも、充分に対抗しているじゃぁないか あそこに行く客も大分、ナカミチが奪っていると思うよ」

「まだまだ 駄目よ ナカミチをガタガタにしたんだから うちの家庭だって あっ ごめんなさい   こんなこと蒼にしか言えないから・・」

「それは、理解しているつもりだよ でもね、今でも、借入金あるんだろう それに、上乗せするって」

「今のところは、順調に返せているから 蒼 こんな借金だらけの女は嫌だって言うのなら 私 覚悟できているよ ずーと 蒼の愛人のままでもね」

「バカ そんなこと考えてもいないよ ただね 昔のことは、忘れて、僕と新しい生活を作っていければ、それでいいじゃぁないか 昔の美鈴の悔しさは、僕と美鈴で取り返していこうよ」

「お父さんもきっと悔しいと思っているわ あんな風になってなかったら だから、私はその思いも背負っているのよ 蒼に負担かけたくないわ 私のことは、もう・・忘れてもらっても・・」

 と、言うなり、席を立って出て行ってしまった。僕は、、しばらく動けなかったのだ。「何かがくい違っている」と思っていた。

 僕が、やるせない気持ちで店を出ると、美鈴が立っていたのだ。

「蒼 私、蒼が好き 蒼が他の女の子好きになっても、それでも良いの」

「ちっとも他の子が好きになったなんて行って無いやんか」

 と、僕は、送って行くよと言って、手を取って歩き出した。美鈴は腕を組んできた。その間、ふたりは無言のままだった。美鈴のマンションの前まで来た時

「僕は、美鈴が好きだ 君がお父さんを思う優しさも好きだ 借金があろうと関係ない 美鈴を好きなんだ」

 と言って、抱き寄せて、唇を寄せて行った。美鈴も抱きしめてきていた。

第七章

7-⑴
 会社の連中にバーベキューに誘われていた。休みの土曜の3時からだという、中之島のテラスに向かった。参加メンバーは開発の女性2人と製造の僕と同年代の男性2人 荒井真一、中野誠と、僕と同期入社の高卒で入った女性 吉川華とで、みんなで6人だ。

 僕が着くと、もう、同じ開発の天野原愛((あまのはらあい))が来ていた。白いサブリナパンツに花柄のパーカーを着ていた。

「蒼君 天気が良いのはいいけど、少し、暑いかな」と元気良く挨拶してきた。

「うん でも、太陽の下って久々だから、気持ち良いよ」

「そうかな 日焼けした子と肌白い女の子 どっちが好み?」

「別に、どっちでもいいよ 明るい子ならね」

「そう 私 日焼けは避けようと思っているから シミになるからね」

 その間に他の3人も揃ったので、始めようとしたが、開発の友部さんが少し遅れると愛ちゃんに連絡があったみたい。

「まぁ すてき 私 こういうの初めてなんですよー」と、吉川華が感激して言ったら

「華ちゃん 初めて? テニスばっかりやってたもんね」

「そうなんですよ 練習ばっかりで、遊びに行けなかったんです」

 彼女は中学高校とテニスをやっていて、高校のときも関西では上位だったらしいが、3年の夏に肘を痛めて大学の推薦も駄目になって、就職したらしい。だから、学生のときは、練習ばっかりだったのだろう。そのせいか、ミニスカートから伸びた筋肉質の脚も褐色だ、ただ眼が青白く輝いて見えた。

 乾杯を終えて、肉類が焼けた頃、友部さんが子供連れでやってきた

「ごめんね 主人が帰って来なくって 待っていたんだけど 結局、この子連れてきちゃった」と、男の子を連れていた。

「何だぁー 別に良いですよー 僕 お名前は?」と、愛ちゃんが聞いていた

「友部健一郎 5才です」と、言って直ぐにお母さんのうしろに隠れていた。もう一度、乾杯しよっと愛ちゃんが言って、仕切り直した。

「製造の人って、あんまり、飲み会やんないよね」と、友部さんが言い出したが

「そうですね 課長はやりたがっているんだけど、僕達は、そういうの あんまり、好きじゃぁ無いんで 今日は、華ちゃん 行くって言うし、これぐらいの人数なら」

「それに、愛ちゃんに誘われたら、喜んできますよー」

「わぁ 嬉しいわね でも、製造のエース二人を連れ出したのわかると恨まれるかな 女の子に人気あるものね」

「そう 優しいんですよね 二人とも でも、この前、叱られてたんだよー」と、華ちゃんが言い出すと

「誠が馬鹿なんだよ ミクちゃん 知っているだろう? あの子がタマネキを運ぼうとした時、足を滑らせて転んだんだよ その時、誠が後ろから、抱きかかえて支えたんだだけどけどね この馬鹿 「重かったね」 と言ってしまって ミクが「失礼ね いつまで触ってんのよ」と怒られてんでやんの」支えた時、胸に手まわしてたんだよね」と、真一がその時のことを説明していた。

「いや 僕は ただ 転ぶのを守っただけだよ」

「だけど、その後が どんくさいよ 何の言い訳もなく 謝ってしまってさ 確かに、周りから見ると胸をしばらく触っていたよ」

「違うんだよ 抱えた時、僕も尻もちをついてしまって、しばらく動けなかったんだよ だけど、柔らかかったけどな 胸の感触」

「うそー やーらしい 誠さん」と、華ちゃんがはやし立てていた。

「男って、そーいうことってあるんだよなぁー そのつもりなくてもさ 僕も、この前、ボールペン落として拾らおうとしたら、偶然、頭が愛ちゃんのお尻に触れちゃってね、その時の愛ちゃんの顔が鬼のようになっていたよ」と、僕が言うと

「あらっ あの時はわざと落としたって思っていたよ」と、愛ちゃんがサラッと返していた。

 飲み食いしている間に、健一郎君もお腹いっぱいになってきたのか、ぐずりだして帰りたそうだったので、友部さんが先に帰るねと言いだして、みんなでお開きにしようとなった。

「荒井君と中野君は責任もって華ちゃんを送って行くんだよ」と、一方的に言っていた。が、こそっと僕に

「もう少し、付き合ってね」と、小声で言ってきた。そして「華ちゃん、ちゃんと送ってもらうんだよ」と、みんなを送り出していた。

 何で、僕がと思っていたら、「おトイレ行くから、待っててね」と、念を押されて、ずるずると・・

7-⑵
 お店を出て、僕達二人は、北へ向かって歩き出した。愛ちゃんは

「手ぐらいつないでよー」と、言いながら、直ぐに僕の手を取ってきた。

「ねぇ 海鮮の居酒屋行こうよ 私 もう少し飲みたいの ゆっくりと」

「まだ 飲み足りないの? お酒 強いんだね」

「うぅん 私 1杯しか飲んでないんだよ みんなに気使ってね 蒼君もあんまり飲んでなかったね」

「うん そうかな 初めての集まりだから 気 張っていたんだ」

「じゃあ 私となら 気 ゆるしてよー 飲もう」

 そのうち彼女は、僕の腕に絡めるように組んできいた。パーカーを脱いで腰に巻き付けるようにしていたもんだから、直接肌が触れて、じわっと汗ばんできているのがわかる。曽根崎商店街の居酒屋に入った。簡単な寿司もあって丁度いいと思った。

「蒼君 彼女居るの?」

「うーん とりあえずね 居る」

「あっ そうなの 残念だわ でも、多分 居ると思っていたけどね 仕方無いか 付き合い長いの?」

「うん 知り合ったのは長いなぁー」

「そんな長いんなら 喧嘩もしたでしょ」

「いいや 何だか、離れられない そんなことより、愛ちゃんは居ないの?」

「私 縁無くてね 女子高で短大も 周りに男いなくって・・ 付き合ったことも無いの」

「そうなんか もったいないね」

「そうでしょう?こんなにいい女なのにね」

 そのうち、愛ちゃんはだいぶ酔いがまわってきているみたいだった。

「愛ちやん 飲みすぎじゃぁ お水飲めば―」

「いいの! 蒼君が 介抱すてくれっから・・」と、言って聞かないで、又、チューハイを頼んでしまった。

 もう、帰ろうよと言った時には、真っ直ぐ歩けない状態だった。支えながら、店を出たが

「大丈夫かよ コーヒーでも飲んで酔いさますか? そんなんじゃ まともに帰れないだろう?」

「うーん 酔っぱらっ ちゃった でも、いい気分ですよーだ」

「送って行くよ 家どこだよ」 

「吹田 でも、いいすよー」

「そんなで 一人じゃ帰れないだろう?」

「あのね ホテルいこー 勘違いすないでね 私 まだ、経験無いんだちゃ でも、蒼君となら構わないんだ」

「バカ 何言い出すんだよ 愛ちゃんと、そんな関係になったら、やりにくいだろう」

「じゃぁ しなくても良いじゃん 私 一度行ってみたいっす どんなとこか興味ある いいでしょー?  ねえ、連れて行ってよー 行きたい―」と、言われたまま、僕は、しばらく、答えられないでいた。

「なんで 黙っているの― 聞こえたー? ねぇん 蒼タン!」と、胸を僕の腕に押し付けて、顔を覗き込んできた。

「あーあ もう、座り込みそう 誰が他の人居ないかなぁー」

「わかったよ 行きますよー 今夜だけな 秘密だよ」

 僕は、決心して、少し歩いて、目指すところに入った。幸い部屋が空いており、二人で入って行った。部屋に入ると

「わぁー ベッド大きい ライトも綺麗なんだ あー眠い」と、言いながらサブリナパンツとTシヤツを脱ぎ捨てて、ベツドに潜り込んでしまったのだ。

 僕は、シャワーを浴びて、バスローブでベツドに潜り込んだ。彼女はぐっすりと眠っている。背中を向けて寝ていたはずだか、彼女は後ろから抱き着いてきた。寝ているのか、何だかわからなかった。酒の臭いと甘い香りがしてきて、僕も、振り向いて、彼女を抱くようにして、柔らかいと感じたまま、眠ってしまったのだろう。

 朝、目が覚めると、彼女はシャワーを浴びたのだろうか、バスローブ姿で髪の毛を乾かしていたかと思ったら、ベッドに潜ってきて

「起きたの おはよう」と、言って軽くチュッとしてきた

「ねえ 私、下着つけてないよ 本当にしないの? こんな娘が横にいるのに・・」

「うん 出来ないよ 愛ちゃん 本当に好きな人としたほうが良いよ」

「じゃぁ せめて、抱きしめてよ」

 そのまま、僕達は、又、眠ってしまったのだ。

7-⑶
 水曜日、美鈴の店が定休日なので、僕の仕事帰りを待って、家の近くのカフェで待ち合わせをしていた。二人とも時間的に無理なく会えるので、このパターンが多いのだ。

 美鈴はハーフパンツでラフな服装で来ていた。僕は、割と汗だくで店に入って行った。

「お帰り 電車通勤も疲れるでしょ?」

「もう、慣れたよ だいぶ、暑くなったなぁ 店は順調?」

「うん 外が暑いせいかさ お弁当が前よりも出るようになったわ 朝が忙しいのよ」

「晋さんは、朝の仕込みとお弁当なんだろう 大変だよな」

「うん 多い時は、お父さんも早く出てる」

「美鈴も早くから終了まで出てるんだろう 身体もつか?」

「私 丈夫だし やりがいあるしね」

「ほんと よくやるよー 息抜きもしろよな」

「今 こうやってしているじゃん 蒼と会っている時が、安心できるし、気が抜けるの」

「美鈴にそう言ってもらえるのって心が痛いよ」

「うー なんで 何かやましいことあるのかな」

 僕は、美鈴が何かを感じ取っているのかと、負い目を感じていた。あの日から、会社で月曜日に愛ちゃんに会っても、何事も無かったかのようにお互い、接していたのだが・・

「なんもないよ 美鈴が可愛すぎてな」

「なんか、誤魔化されたー でも、蒼から言ってもらえるのが一番嬉しいー あのね、お店が狭くってね お弁当の用意も大変なのよ だから、更衣室をね、別にプレハブにでもして、お弁当用にしようかと思っているのよ 

「うーん やればやるほど、何かと物入りになるもんだなぁー」

「そうだね 仕方ないよ 売上伸ばそうとするとね 私、我慢できないみたい あっ そう 女の子の制服 変えたんだ えんじ色にした 白だとね 見た目清潔そうなんだけど 下着の色が移っちゃうのよ 冬のうちは下に何か着れば良かったけど、暑くなってくるとね バイトの子なんか、結構、カラフルでね 明璃ちゃんなんかも派手になってしまって」

「ふーん そういうもんかな うっすら、見えるのも男にとっては良いもんだけど」

「バカ 蒼 他の女の子の下着見て喜ばないでよー」

「あのさー 別に 喜んでるんじゃぁないから、そういう言い方すんなよー」

「はいはい 私が期待に応えられなくって、悪いのよね ごめんね」

 やっぱり、何か感じ取っているような気がしていた。でも、やましいことはしていないつもりだ。

「いや そんなつもりじゃぁー 美鈴は、何にも悪くないから・・」
 
「うーん でも、考えてることもあるからね それよりもさ、お父さんが、この前、昔よくいった海はどこだっけなぁー って、何か、思いだしてきたみたいでね へんな風になんなきゃいいけど」

「どうして? 快方に向かっているんじゃぁ無いの?」

「だけど あんときのことを想い出して欲しくないの 今のままで、幸せじゃぁないかなって」

「うん 複雑だよな」

「私も複雑なんよ お父さんの幸せってなんだろうなって」

「親だったら、娘の幸せが一番なんじゃぁないかな」

「そうかなぁー 今、結構、幸せ感じているんだけどな 本当の幸せって知らないのかもね」 

7-⑷
 7月の終わり頃、昇二から連絡が来て、お盆休みに帰るから、みんなでキャンプに行こうと言って来た。

「ようやく、予約取れたんだよ 8月の15の泊り 彦根の松原海岸 みんなに連絡してくれ」

「そんな勝手な 皆って誰だよ」

「だから、蒼と美鈴と光瑠の4人に決まっているじゃん やっと取れたんだらな よろしく」

「おいおい ちょっと待てよ そんなこと言ったって、みんなの都合聞かなきゃ―」

「だから、よろしくお願いします」

「昇二 明璃ちゃんは?」

「うーん なんとかするよ だった、あいつはメンバーじゃぁないじゃん?」

「なんとかするって 怒るに決まってんやんか」

「だってな テント 4人用なんだよね」

「あのさー それも問題なんちゃうかー 4人 一緒に寝るんかー」

「いいじゃん 別に変なことしないよ まぁ みんなの都合つけてよー 頼んだぞー」

 と、言って切られた。なんか調子良いよな 東京に行ってから余計だ。キャンプに行くのは、良いけど、僕がみんなにそれを言うのかよー。とりあえず、光瑠から連絡した。

「今ね、試験で忙しいのよ 何?」

 なんか、ピリピリしているみたいだった。昇二からのこと伝えると

「そう 明璃のことどうすんのかなぁーまぁ 久々だしね 考えとく 今 試験でいっぱいだから」

 と、つれなかったのだ。続いて、美鈴に連絡したが

「うーん わかった じゃぁ15.16と休むよ だけど、光瑠はどうかな あの人、晋さんと過ごしたいかも 明璃ちゃんのこともあるし」

「なんか 知っているのか? 光瑠のこと」

「ううん 何となくわかるのよ」

「それにさー テント一つだから、一緒に寝るんだよ」

「べつに 私は 構わないわよ 昇二なら、それに蒼も居るんだし 何か、変なこと考えている?」

「いいや 別に 美鈴が構わないんなら良いんだけど」

「でも、明璃ちゃんのことだから、おとなしくしていると思えないんだけど」

7-⑸
 お盆の休みが近づいた頃、光瑠から連絡があって、試験も終わって、一区切りついたのだろう。

「美鈴 お願いなの キャンプはね 私のかわりに明璃が行くから・・ね 私、他に行きたいとこあるんよ」と、言ってきた。

「ちゃんと説明してよ、みんな楽しみにしているんだから」と言うと

「実はね 美鈴だから言うけど、晋さんと白浜に行く約束しているんだ みんなには、内緒にしておいてね 研究室の仲間と行くってことにしておいて だから、明璃に変わってもらうの」と、言ってきた。

 やっぱりか、そこまでになっているんだと、思ったけど、複雑だった。第一、晋さんは光瑠のことどう考えているんだろうか。光瑠が真剣なのは、あの娘を見ているとわかるけど・・。ほっておけないなぁと、思った。親友なんだから・・。晋さんは、真面目な人なんだけど、私生活は私、何にも知らない。光瑠のことも真面目に思って居てくれているのかどうかも。男女のことだから、立ち入り過ぎるのもなぁとか悩んでいた。蒼にも相談できないし・・。

 お店の手が空いたのをみて、思い切って、晋さんがあがる前、追いかけて晋さんを呼び止めて聞いてみた。

「晋さん ちょっといいかしら 出しゃばることじゃぁ無いんだけど 私 気になって 光瑠のこと」

「そうですか 友達なんですものね 僕も、ずるずるとしてしまって 彼女にも悪いんですけど」

「あの 光瑠のことだから、真剣に晋さんのこと想っているんだと思うの それは、いいんだけど・・ ごめんなさい 良かったら、晋さんはどう思っているのか聞かせてくれないかしら」

 晋さんはしばらく言葉を探しているのか、考えていたが

「僕は、正直いって彼女が好きです。気遣いできるし、申し分ない女性です。だけど、将来を約束してしまって良いんかなって、考え込んでしまっています。あんな女性を僕が縛ってしまって良いんかなって。彼女はこれから、弁護士なり検事の道を歩んで行くでしょう。だけど、僕は料理のことしか出来ないでいる。高校だって中退で、なんとか松永さんに仕込んでもらって、恰好ついているけど。そんな僕が・・」

「私が知りたいのは 一人の女の娘として、光瑠を愛してくれるのか、どうかなの 晋さんらしくないわよ 先がどうのこうのじゃぁないわ 今よ 先のことなんて、どうでもなるわ」

「店長らしいね 僕は、光瑠ちゃんを好きです。愛していますよ。でも、休みの日なんかにウチに来てくれて、一緒に過ごしていますけど、僕は、彼女に手を出していませんよ まだ、決心が固まりませんからね」

「そうなの 遊びじゃぁ無いって聞いて安心した」

「今度、泊まりに行くって話だけど そんな関係になるつもりはありませんから 最初は、わずらわしかったけど、僕なんかと比べ物にならない人だと思っていたから ただ、今は、彼女と居ると楽しいし、ゆっくりした気持ちになれるから 彼女もそうなんじゃぁないかなー」

「ごめんなさい 私 余計なこと聞いてしまって お願い このこと 光瑠には内緒にしておいて・・ 私も、みんなには、黙っているから」

「わかっています 光瑠ちゃんは店長の大切な親友だから、変なことはしませんよ」

「ありがとう 晋さんは私にとっても大事な人なのよ 店が大きくなっても、ずーと、側で助けてほしい 晋さんって素敵よ 光瑠もやっぱり、しっかりしているわね ちゃんと見ている」

7-⑹
 日曜の朝、店のオープンと同時に、明璃軍団というバイクの3人組がやってきた。開店の時以来、ちよくちょく寄ってくれている。明璃ちゃんが店に入る時ばかりだけど。見た目はうるさそうだけど、店に入る時は明璃ちゃんに気使ってかおとなしくて、最近は、逆に舞依ちゃんと気軽に話しているのだ。



かける
 さっきのファミマで会った連中 知り合いなのか」

「うん 俺が、バイクを始めて買う時にな たまたま店に来ていた人がな、いろいろと教えてくれてな その店の常連らしい その人が居たんだ それで、少し、話していたんだよ」

「そうか なんか、あんまり、柄が良さそうじゃぁなかったな 俺等も言えたぎりじゃぁないけど」

「そうだよな でも、女の娘も3.4人いて後ろに乗っけてさー みんな、あんなに短いの穿いて、股広げてな 飾りもチャラチャラさせて・・ 男とベタベタしやがってな」

「うらやましいのかー 俺等、女っけないしなぁー」

 それを話しているのが、聞こえてしまった。私はあわてて聞いた

「ねぇー その女の娘達の中に キヨ って娘居なかった?」と、

「えー どうだっけな なんか、ガヤガヤみんなで騒いでいたようだし、名前なんか聞いていなかったもんな あんまり、かかわりたくない連中だったから 敦賀に泳ぎに行くって言っていたけど」

「あー でも、ひとり可愛いらしい娘が居てね そーいえば、何となく店長さんに似て居たなぁー 髪の毛、赤茶なんだけどね」

 あの時の娘だ 清音かしら あの時、私は一瞬しか見なかったけど、似てるって、もしかすると清音なんかも知れないと思っていたら、明璃ちゃんが連中に向かって

「ちょっと あんた達 さっきから 女っけ無いって よそに、か・わ・い・い・娘が居たってー 私 いつも、あんた達のツーリングに付き合っているじゃぁ無い! 立派なもんよ もてないあんた達は私じゃぁ不満だって言うのー?」

「いや 先輩 とんでもないです 俺等 この店は、女の娘がみんな可愛いから・・楽しみにして来ています」と、中の一人が大きな声で応えていた。

「声が大きいんだよー まぁ 褒めてくれたから、今日は私がおごっておく」と、明璃ちゃんは小さい声で言っていた。

 明璃ちゃんが、帰る時に

「ねぇ 美鈴さん キヨって、妹さんのこと? あっ いいんです 余計なことでした お盆の休み もう直ぐですね 私 楽しみなんです お姉ちゃんも気使ってくれて でも、その分、楽しんでこようと思ってるんですよ 私 向こうで、ピラフ作りますね 特製の」

「そう やっぱり、光瑠は・・ 明璃ちやん いっぱい 遊ぼうね 私も楽しみよ」

 でも、私は、あのバイクの娘が気になっていた。でも、どうすれば良いのか・・。その晩、蒼に連絡して、光瑠のことを伝えた。

「光瑠は研究室の仲間の予定が先に決まっていて、どうしても抜けられないんだって。だから、明璃ちゃんが行くってことに‥ 昇二にも伝えておいて」

「えー 光瑠 駄目なのー 久々の集まりなのに でも、明璃ちゃんも これで、治まり着くかー わかった 昇二に伝えておくよ 美鈴は大丈夫か 店の方」

「うん もう、休み 貼り出してある お父さんも松永さんのとこに行くって言っていた」

「そうか 楽しみだなぁー 美鈴の水着」

「バカヤロー 私ゃ、服のまんま泳ぐんだよー」

7-⑺
 キャンプの当日、ナカミチで僕と美鈴は待っていた。昇二が明璃ちゃんを乗せて車で来る段取りになっている。用意したバーベキューの材料を乗せてゆくつもりだった。

 昨日、昇二から連絡が来て、京都駅まで明璃ちゃんが迎えに来て、そのまま河原町で二人で泊るつもりだと言っていたのだ。明璃ちゃんは、光瑠にも頼んで、親にも口合わせするようにしたらしかった。キャンプは2泊することになっていたらしい。

「おう 蒼 久し振り 元気だったか 美鈴も」と、車の窓から乗り出して、挨拶をしてきたんだが、隣には、明璃ちゃんがチャッカリ乗っていた。枠が赤い炎になっているふざけたサングラスをかけて・・。ピッタリした短パンで脚が細いんだが、筋肉質で、この娘はいつ鍛えているんだろうか。

「名神通って行くぜ」と、走り出したが、明璃ちゃんが、何か取り出して

「お姉ちゃんからの差し入れ レモンケーキ おいしいんだって」と、言ってみんなに配っていたけど、昇二の口元にも小さくちぎって持っていっていて、完全に恋人気取りのようだった。

 目的地に着いたけど、まだ、前の客との入れ替えまで、時間があったので、泳ごうとなって、更衣室に向かった。美鈴と明璃ちゃんは、申し合わせたかのように、水着の上からのワンピース姿で出てきた。美鈴の脚は比較的見慣れているはずなんだが、やっぱりドキドキする。二人並ぶと、美鈴は脚が白くて細い方だと思うが、明璃ちゃんは背も高い分、脚も長くて、もっと細くて陽に焼けて、まるでバンビみたいに飛び跳ねそうだった。僕は、少し、眼を見張ったが、昇二は見慣れているのか、気にもかけていないようだった。

「おにぎり 悪くなるから、先に食べようか」と、美鈴がバッグの横の紙袋を取り出した。新聞紙に包んで保冷剤も一緒にしてあった。

「美鈴はいつも気がきくよな ありがたい」と、昇二が言うと

「昇二 私 気がきかなくてごめんね 見習うからね 頑張る」と、明璃ちやんが言っていた。

「明璃ちやん 昇二の前では健気だね 明璃ちゃんらしくないよ そのままの方が魅力的だよ」と、僕は、ちょと的の外れたフォローをしてしまって失敗したと思った。

「蒼 食べたら 浮き輪に空気入れてね 明璃ちゃん 後で 一緒に泳ぎに行こうよ」と、美鈴が余計なことは言うなという調子で言ってきた。

 二人は上に着ているワンピースを脱ぎ捨てて、浮き輪を抱えて、泳ぎに行った。二人とも、ビキニタイプのタンキニで色違いで、やっぱり揃えたみたいだった。後ろ姿の明璃ちゃんなんかは、幼く見えて中学生といっても通用するようだった。

「昇二 きのうの夜はどうだったんだ 一緒に泊ったんだろう」

「うん でもな、キスぐらいはしたけど、それ以上はな あいつ すごく緊張しててな ベッドに入った時も、ちぢこんでしまって・・それに、まだ、子供みたいだろう そのまま抱いて寝たよ」

「そうか 見た目と違って、純真だからな」

「そうなんだよ でも、天真爛漫なとこ好きになってしまったよ 大事にしようと思う」

「そうかー もう、伝えたのか 気持ち」

「うん 東京に行く前の日だったかな でも、転勤もあるだろうってこともな 卒業したら、何処へでも付いて行くって言ってくれた 嬉しかったよ」

「そうか 良かったやん あの娘 一生懸命だから、うまく行くよ」

 その間にテントの準備ができたからと連絡があった。

「俺達も泳ぎに行くか」と、修二が言ったけど

「荷物どうすんだよ」と、僕が心配すると

「べつに、大丈夫だろう たいしたもん無いし、見張りながら泳げばいいじゃん」と、昇二は気楽なもんだった。

 僕達がバーベキューの準備をしている間、女の娘達はシャワーを浴びて着替えに行ったのだが、戻ってきた明璃ちゃんは、カラフルなねじりハチマキを巻いていて、それも応援団のように端っこが長いやつで耳の横は花模様になっているのだった。

「明璃 止めてくれよな 何なんだい お祭りかー それはー」と、昇二が叫ぶと

「うん 気合入れてんだ 思いっきり食べるぞー」と、気にしてない振りだった。

「いいじゃない 楽しいよ その方が」と、美鈴はそれはそれで楽しんでいるようだった。

「それじゃあ 昇二との再会を祝って 乾杯しょうぜ 明璃ちゃん堂々と飲めるようになったし」

「堂々って もう去年二十歳になってますよーだ」

「まだまだ 子供だけどな 昨日なんかも、京都駅で、{昇二お帰り}と書いた紙掲げて待っていたんだぜ 恥ずかしかったよ」と、昇二が言うと

「うぅっ 昇二が大人にしてくれれば良いじゃぁない」と、明璃ちゃんは意味深だった。

 僕は、直ぐにわかったけど、美鈴のほうを見ると、美鈴も僕を見ていて、ウィンクしてきた。どういう意味なんだ。

「肉だ 肉だ 神様、私にこの聖なるお肉を与えてくれて感謝いたします」と、明璃ちゃんは食らいついた。

「バカ これは美鈴が用意してくれたんだよ」と、昇二は冷たく、ポツンと言って居た。

 食べ終わると、明璃ちゃんが「昇二 散歩に行こうよ」と、誘ってたら

「行くけど、そのハチマキだけは外してくれ それと虫よけスプレーしろよ」と、言いながら、手をつないで出て行った。明璃ちゃんは飛び跳ねるように喜んでいたのだ。

「僕達も、行こうか」と、誘うと、美鈴は

「ウン その前に、ちょっと」と、言って僕をテントに誘い込んだかと思うと、抱き着いてきて、「キッス」と言って顔を寄せてきた。

 砂浜を歩いている時、「ごめんね 私 蒼に大人にしてもらえなくて・・」

「バカ いいよ 美鈴がその気になるまで 気にするな」

「でもね 今の気持は、蒼と一つになりたい 私って身勝手だよね」と、腕をしっかりと組んできた。浜近くのあちこちで花火をやっているのが見えた。

 その夜、女の娘二人を真ん中にして寝たんだが

「わぁー 修学旅行みたいだね」と、言いながら、相変わらず明璃ちゃんははしゃいでいた。

「ねぇ 抱き着いて寝て良い?」珍しく、美鈴も言ってきた。

「良いけど 暑くなったら ごめん」と、僕も返しながら、抱き寄せていた。明璃ちゃんは、もう、昇二に抱き着いていた。

「なんか 変な気分だなぁ こういうシチュエーション」と、昇二がつぶやいた。

「そうだな 昔 こんな風になるなんて想像もしなかったな」と、僕もつぶやくように・・。

 しばらくすると、明璃ちゃんが「暑いね 汗ばんできた ごめんね」と、言ってTシャツを脱いで、又、昇二に抱き着いて行った。確かに、暑くて、僕も、涼もうと外に出た。後から、美鈴も付いてきて、結局、夜明け近くまで外で、なんだか、寄り添っていたのだ。

第八章

8-⑴
 8月も終わる頃、美鈴は、もうすぐ店の1周年を迎えるので、そのイベントを思案していたのだ。いつものように、水曜日の夜、駅前のカフェで美鈴は待っていた。

「1周年の記念 なんか記念品を配って、割引しようと思うんだけど・・」

「うーん 記念品といっても、じゃまなものが多いから、直ぐ、捨てちゃうしなぁー 有難みが薄いし・・ 割引もその場限りで、なんか、インパクト無いなぁー それより、記念のメニューの方が良いような気がする」

「うん 舞依ちやんも、特別メニューでいきたいって言っていた。小さい子も喜ぶようなのも揃えて」

「子供向けには、ハンバーグの中からクリームシチューみたいなのかカレーが出て来るようなもの、大人向けには、やっぱり、ステーキかなぁ でも、年配者には、シチューみたなのが良いのかなぁー」

「晋さんにも、相談しなきゃぁ ダメだけど・・ ねぇ 例えば、蒼 すじ肉のシチュー開発したって言っていたよね あれって、どんなものなの?」

「うん まぁ 業務用に評判悪くないよ あれ 使うか?」

「でもね オリジナルじゃぁないとね ナカミチのプライドあるやんかー」

「そー言うなよ 松永さんの指導のもとだよ」

「でも それも、一度晋さんに見てもらわないと 例えば、アレンジするとロツトはどれぐらいなの?」

「100kgかな 最低でも50Kg必要かなぁー」

「うーん さばけるかなぁー ちょっと厳しいかも それに、すじ肉よりスネでいきたいわ」

「検討しようよ 肉の卸にも協賛してもらえると安く提供できると思う」

「そうね お願いしてみるわ 記念品てっさー クリップにしようと思うの 縦型の」

「えー イメージ湧かないなぁ それってどんなのー 縦型?」

「縦のバーとかに挟むやつよ あると便利なの」

「それは 美鈴が良いと思うんなら、良いんじゃぁないか それは、いいけど 無理してないだろうな 資金的に余裕あるのか」

「余裕あるまで行かないけど、今ね おいしいと何度も通ってくださる方とか、応援してくださる方とか、おられるのよね 売り上げも伸びているし 勢いが大事だと思うの だから、お陰様で1周年って大事なの これからも、頑張りますって、感謝の気持を表すのが・・ それが、ナカミチは評判良いよって、宣伝にもなるし」

「美鈴 君は男みたいな考え方だよな 強いよ」

「そんなこと ないよ なんとか、伸ばしていかなきゃって思っているだけ あっ そうだ さっき 蒼が良いこと、言ってくれた 年配の方には、普通のメニューじゃぁ重いのよね うちのお父さんもあんまり食べないもん だから、シニァ向けのメニュー必要だよね お子様向けだけじゃぁ駄目なのよ これから、3世代でご来店すること多いんだものね」

8-⑵
 9月第2週にナカミチの1周年感謝セールが始まった。その前の週に、2回新聞の折り込みを入れたということだった。2回目のメインは、シニア向けのメニューで牛ヒレステーキ3切れにカニクリームコロッケで\800、それにお子様向けに小さなハンバーグとカニクリームコロッケにアイスクリームを付けていた。下の方には、大人向けなのか、期間限定のビーフシチューを、これも、\800で乗せていた。うちの会社に特注でオーダーしたもので、牛すね肉を使用したものだ。特別に肉の卸会社に頼み込んで安価な値段でうちの会社に卸していた。それも、松永さんのお店でも販売するということにして、何とか50Kgのロットで製造した。僕も、社長と工場長に頭を下げて頼み込んだものだった。

 案の定、シャルダンもチラシを入れて、ステーキセットの2割引きセールを始めた。僕が、驚いたのは、美鈴はそのことを予想していて、前の週から、来たお客にステーキセットの割引を始めるというチラシを手渡ししていたのだ。それも、シャルダンのセールが終わる翌日からのものだった。

 そして、シャルダンのセールが終わる前に、もう一度、感謝セール第二弾でステーキの割引セールをのチラシを入れていた。

「美鈴、仕掛けたのか」と、僕は、聞いてみた。

「そうよ まともに、シャルダンとやりあっても仕方ないじゃぁない。向こうは、意味のないセールで利益減らせばいいのよ。うちは、固定客プラス新規のお客様を獲得するわ。有難いことに、うちの固定客は向こうには、行かないって言ってくれたわ。それに、年配のお客様も増えたし、それに、時間的に余裕のある人達だから、平日でも並んで待ってくれている人もいるのよ。お子様連れのお客様も、うちに足を運んでくれているし。ビーフシチューも好評だし、普段ステーキのお客様もオーダーしてくれて それに、付けるパン一日2回仕入れて、比較的焼きたてを召し上がっていただいたからね」

 美鈴は、自分の思ったことが、うまくいっているので、調子よく話してくれていた。光瑠の情報によると、工務店の堤さんとか、掲示板を利用している俳句とか絵を掲げているグループとか若いお母さん達が、かなり宣伝して、誘ってくれたとのことだった。みんな、美鈴を応援しているらしい。

 10月になって、松永さんから連絡があった。

「あのビーフシチューはなかなかの出来だったな。好評だったよ。ナカミチの感謝セールも好評だったみたいだな」

「ええ あれは晋さんが色々と注文をつけてきてー 良いもんに仕上がりました」

「そうか あいつも、研究しているんだなー 立派な料理人だよ ところでな、シャルダンのセールはガタガタだったみたいで、あれ以降、逆に客足が落ちているみたいだよ 近隣の6店舗の中でも最低らしい 従業員の削減に走っているみたいだけど、余計にサービス低下でな 悪循環だよ」

「そうなんですか ナカミチの影響ですか?」

「それは、わからない でも、気にしているのは確かだろうな」

「じゃぁ ますます、対抗してくるんじゃあ」

「いや 向こうは、母体が大きいから、ナカミチなんか相手にしてないと思うけどなぁー わからん お嬢さんも、良くやってるからな 目障りな存在ではあるだろう 今回は完全に向こうの裏を突いたような形だったからな あんまり、刺激しないでやって行く方が良いと思うのだが」

「そうなんですよ ブレーキを掛けようとするんですけどね あの時の美鈴の悔しい思いを聞くと・・」

「昔ナカミチに居た上野が、まだ、シャルダンに居るんだったら、どんな気持ちになっているんだろうな」

「そうですね 気にならない訳がないですよね 美鈴も意識しているのかなあー」

 それから、しばらくして、美鈴にあった時

「感謝セールはうまくいったし、しばらくは、おとなしくしているね クリスマスまで」と、言っていたので、僕は、少し安心した。 

8-⑶
 お昼の営業が終わる頃、堤さんがやってきた。少し、耳に入れておきたいことが有ると言う。

「聞いた話だが、確かなことらしいんだが・・。ここの土地の持ち主が隣の倉庫の土地も併せて売りたいと言って居るらしい。倉庫の方は、今年一杯で、引き上げるらしいんだが、それを機会にな。持ち主は、年老いた婦人なんだが、子供も居ないので、土地を整理して、ホームに入るらしい。ここ以外にも土地があるという話なんだが」

「えぇー じゃあ このお店どうなるのかしら」

「うーん 契約上の話だろうけど、最終的には、移ることも考えていた方が良いかもな だから、伝えておこうと思ってな」

「ありがとうございます でも、堤さんだから言うけど もう少しお店大きくしたいと思っているの 良い機会かも」

「うーん それは、前から感じていたけどなぁー 資金的にきついと思っていたんだ まぁ、今の調子なら色々と借りられるとこあるだろうけど、返済でしめつけられるのも厳しいよ」

「堤さん お願い この付近で代わりになる物件があるかどうか 今のお店の3倍くらいのところ、それと 私、簡単な図面書くから、どれくらいで建てられるか大まかに教えてくださる?」

「いいよ でも、建てるのか?」

「例えばね、私が隣の土地も併せて、貸してもらえるとしたらね その人のホームの資金も併せて用立ててもいいんじゃぁないかなーって思ったの」

「それは どうかなぁー」

「とにかく、その人にお会いして、こちらの事情もお話してみるわ」

「相変わらず 美鈴ちやんは、行動的だなぁー なんでも、前に進めだもんな」

「そうよ 私の過去は1点の思いだけ だから、前を向いて走るの」

「そうか だから ついつい協力したくなるんだよ そーいえば、そこのシャルダンは調子悪いみたいだな 客足が相当落ちてきている様子だよ よくないウワサも立っている 店を閉めるんじゃぁないかと」

「そうなの でも、もう少し頑張ってもらわないとね」

「それは‥ 私が仕留めるまで、という訳? かな 俺は、親方から聞いて、昔の裏の事情知っているから」

「なんで そんなこと思ってないわよ 堤さん そんな、だいそれたこと言えないわよ」

「そうだな 協力するよ 君の思いなんだから でも、それだけを夢にしちゃあ駄目だよ 若いんだからな 他の夢も持ちなさいよ」

8-⑷ 
 私は、地主さんに会おうと思って、市街地から山手に向かってゆるやかな坂道を歩いていた。もう、夕方近くで、昨日も来たけど、お留守みたいで会えなかった。沢山の植木に囲まれた大きな古風なお宅だった。

 呼び鈴を探して、押してみると家の中から返事があって、年老いた人が出てきた。

「初めまして レストランに土地をお借りしている中道美鈴と申します。ご挨拶が遅れてしまって・・」

「あぁ もしかして、昨日も来てくれたのかしら」

「ええ お留守みたいでしたので」

「やっぱり、道ですれ違って、もしかしてと思ったんだけど、声を掛けなかったんだよね ごめんなさいね 何度も まぁ おあがりくださいな」

 通された部屋には、椅子のあるテーブルに炬燵布団が掛けられているもので、周りには、テレビと本棚、飾り棚があるが整頓されていて、きちっとした人だなって思わせるようだった。

「申し訳ございません。もっと、早くにご挨拶に来なければならなかったのに、私ったら、管理会社とばっかりお話していて・・」

「いいのよ そんなこと 私ね、お友達に一度あなたのお店に連れて行ってもらったの おいしかったわー その人、俳句の下手の横好きでね 今まで、発表するとこなかったんだけど、ナカミチさんに貼り出さしてもらってるって、喜んでいたわよ それにね、外で待っている人に、冷たいお絞りが置いてあって、麦茶も配っていたでしょ あんなこと、なかなか気が付かないわよ 暑い日だったから、みんな、喜んでいるし」

「そうだったんですか 皆様、喜んでいただいて、うれしいです せっかく、来ていただいていますから」

「あなた、えらいわね 昔、あったナカミチのお嬢さん?」

「そうです 娘なんです 昔のナカミチ ご存じです?」

「ええ あの頃は、もう少し若かったから、よく寄せていただいたわ 主人も居てね、お肉が好きでナカミチじゃあないとダメだと言ってね オーナーとも仲良くなっていたわ あの時の味のまんまね お気を悪くしないでね お父さんは、お元気なの?」

「ええ 元気で、今でも厨房に立っていますよ」

「そうなの この前、気がつかなかったわ お元気になったんだ あの時、お父さんが入院されたとかで、しばらくして、急にお店閉められたから」

「でも、あの時のことは、もう、覚えてないんですよ 料理のことしか・・ でも、私、ナカミチを復活させたくて」と、言いながら、あの時の悔しい思いを思い出してしまって、私は少し、涙ぐんでいた。

「ごめんなさいね 思いださせしてしまって でも、あの時、あなた、まだ学生さんだったんでしょ?」

「ええ ちょうど 高校受験の時で でも、私が、何とかしなきゃあって思って・・」

「そう いろいろとウワサで聞いたけど 頑張ったのね えらいわ」

「そんなことないですよ ただ、一生懸命やっています。 あっ これ ウチのお店で、この前から、出さしていただいている定食です 割と、食べやすくなっていますよ どうぞ、お召し上がりください 少し、温めたほうがいいかな」

「わぁ 有難う 夕ご飯に丁度いいわね 中見ていいかしら」と、言って、あけてみておられたが

「うん 気が利いているのね 私等にはこういうのが丁度いいのよ おいしそうね ありがとう やっぱり、今のナカミチも評判良いのわかるわ」

「はい 年配の方には、好評いただいています すみません 私、お店があるので、これで、失礼いたします」

「あら そう お忙しいからね 又、来てくださるかしら 話相手に 私、あなたのこと感じいい娘さんだと思ったのよ」

「ええ 私もお母さん居ないから、話相手になっていただけます? また、落ち着いて寄せていただきます」

「何言ってんのよ 私の孫みたいな年なのに・・ でも、私、子供居ないから、うれしいわ でも、本当は別の用事があって来たんでしょ?」

「いいんです お会いできただけで・・ 又、ぜひ、お店にもおいでくださいね」

「そう お友達誘って、寄せていただくわ」

 私は、おうちを出て しまった 言えなかった 目的の話を と、後悔したが、又、今度にしょー と、店に戻って行った。感じの良い人だから安心もしていたのだ。

8-⑸
 数日後、地主の田中さんが友達と連れ添って、2時過ぎに来店してくれた。

「田中様 いらっしゃいませ ありがとうございます」と、私は、直ぐに、迎え入れた。

「天気が良いからね この人が、新しい俳句見てくれってうるさいのよー」

「あらっ 行こう 行こう って言っていたの幸子ちゃんじゃぁないの でもね、私も、掲示板増やしてくれて嬉しかったけど お陰様で、私の下手なのも貼れるしね」

「いつも ご利用くださって、ありがとうございます」

「美鈴ちゃん お礼なんて、いいのよ 道代ちゃんは、それで喜んでいるんだから」

「あら いつの間に 美鈴ちゃんて 知らない間に、仲良くなっているねのね」

「この子 可愛いのよ 私の孫みたいなもんなのよ あっ 私 このまえと同じものお願いね おいしかったわ 道代ちゃんも同じでいいわよね おいしいから」

「なんなのよ それって 別に良いけど」

 私は、お料理と一緒に日本茶をお出ししていたのだか、食事が済んだ後も、

「どうぞ、ごゆっくりしていってください」と、新しく、お茶を持っていった。田中さんは、それを、一口飲んで、私の方を見ていた。そして

「こういうお店って、なくしちゃぁいけないよね」と、道代さんに話しかけていた。田中さんが帰る時に

「あなた 食後のお茶は、お茶の葉変えたのね おいしかったわよ そういう気づかいって、なかなか出来ないわよ 明日 お時間あるかしら ウチに来ていただける? お話もあるんでしょ」

「はい お伺いいたします 4時頃でいいですか」

「いいわよ 楽しみにしてます」と、言って、帰っていったのだ。

 翌日、私は、田中さん宅にお伺いしていた。お父さんに頼んで、オムレツとビーフシチューを持ってきていた。

「ごめんなさいね 忙しいのに 美鈴ちゃんと、もっと、仲好しになりたくってね」

「いいえ 私こそ、およびいただきまして嬉しいです」

「そう言ってもらえると、うれしいんだけど ちょと、他人行儀よね もっと、気やすくしてね」

「ありがとうございます なんか お言葉に甘えます」

「とうぞ 私は、孫が出来たみたいで、うれしいわ 今まで、ひとりぼっちだったから」

「あのー 田中さん 私 別の目的があって・・」

「わかっているわよ 私から、話すね もう、ひとりぼっちは、寂しいからね 老人ホームに入ろうと思ったの だから、今ある土地を整理して、そのお金でね だから、不動産屋さんに相談したの その話を あなた 多分 聞いたのよね 大切なお店だから だから、尋ねてきたのでしょ」

「ごめんなさい そのとおりです」

「で あなたは、どうしたいの?」

「私 となりの土地もお借りしたいんです 今のお店、もっと広げたくって だから、お願いします 全部、私に貸してください そのホームのお金は何とかします」

「そんなことしたら、あなた、ますます借金増えるわよ 返済で、苦しめられたら、今のお店もやっていけなくなるわよ」

「覚悟しています そうしなければ・・」

「そうしなければ、シャルダンを負かせられない」

「どうして、その話を・・」

「堤さんって人が来てね 工務店の あなたの話 聞いたわ 思ったとおり 良い娘ね、あなた 決めたのよ、あなたにお会いして もう、少し、売るのよすわ あなたに全部借りて欲しいの お店広げて、もっと、お客さん呼んで、喜ばしてちょうだい ただし、たまに、私の話相手にもなってね そうしたら、私も、もう少し、ここで頑張るわ ナカミチが伸びて行く見るの楽しみだもの いざとなったら、この家を売って、ホーム入るから心配しないで」

「えぇー 本当ですか うれしいです 本当に 私 何と言って、お礼言ったらいいか」

「いいのよ 私も、楽しみ増えたんだから そのかわり、頑張ってよ」  

8-⑹
 明璃ちゃんから、珍しく連絡があった。話したいことがあると言う。ごちそうしてよと言うので梅田の寿司のチェーン店に行った。相変わらず、フードに猫の耳が付いた三毛猫柄のポンチョみたいなのを着て、ミニスカートにロングブーツと目立つ格好で来た。

「向こうの方から歩いて来るバカが居ると思ったら、やっぱり明璃ちゃんだったか」

「バカって言い過ぎよ 蒼さん 可愛いって言ってよ こんなに可愛い子とデートなんだから 美鈴さんには、負けるけどね」

「あぁ 可愛いよ 昇二の気持がわかるよ」

 店に向かう時、手ぐらいはつないでよと言われて、仕方なくつないで歩いて行った。店に入ると、すぐにビール、ビールと言ってうるさかったのだ。

「ねぇ こういうのって 新鮮で面白くない? 初めてのデートでしょ 蒼さんと 美鈴さんに怒られちゃうかなぁー ドキドキするね 浮気みたい?」

「バカ 明璃ちゃんには、色気も何にも感じないよ 話って何なんだよ」

「うん あのね 美鈴が気にしていた妹さんのこと 私の親衛隊に調べさせたの そしたら、何となくわかったのよ 清音さんのこと」

「そうか それで、美鈴には知らせたのか」

「うぅん だから 蒼さんに相談なのよ あの娘、バイク仲間とつるんでいるのよね それも、あんまり、素行の良くないグループ そこのNo2の女になっているんだって 普段は、かつ丼のチェーンで働いているらしいんだけど、独りで、アパート暮しみたいだって だけど、高校も行かなかったみたいで、男のところを渡り歩いているウワサもあるんだって 中学のときから、かなり、乱れているみたい」

「うーん そんなんなのかー」

「うん だからね そんなこと 美鈴さんに伝えても良いのかなって 蒼さんに相談しようと思って ただね、その清音って言う人 美鈴さんの妹さんかどうかわかんないんだよ 苗字も確かめられなかった だけど、清音って名前 そう居ないじゃぁない?」

「その話 美鈴には、ショックだろうな 元気にやっているか心配はしていたが、そんなんだとはなぁー 僕には、あいつが会いたいと思っているのか、現況だけがわかればいいのか、どっちか聞いていないんだ」

「私ね、お姉ちゃんとソリが合わなくて、いつもお姉ちゃんからあきれられているけど、だけど、お姉ちゃんはいつも私のこと見守っていてくれているし、私、お姉ちゃんと離れ離れになったとしても、会いたいと思う。清音ちゃんも同じ気持ちなんじゃぁないかなぁー。だけど、清音ちゃんからしてみれば、お姉ちゃんは裏切者と思って居るかもね、それと、今の生活を知ってほしくないという気持ちが‥清音ちやん 今の美鈴さんのお店のこと、知っているのかはわからないけど、仮に、会いたいと思っていても、自分からは会いたいと言えないんじゃぁないかな」

「明璃ちゃん 君はやっぱり、バカしてても、よく考えているんだね」

「蒼さん そのバカよばわり止めてよー 君の親友の彼女ですよー 君の仲間の頭の良い人の妹なんですよー」

「ごめんね そのすねた感じが可愛いよ 明璃ちやんは僕等の妹みたいなもんだから 明璃ちゃんは、美鈴が会いたいんなら、自分から行かなきゃ、ずーと会えないよって思っているんだな」

「そのとおり 正解でーす じゃぁ ビールをもう一杯」

「そんなに飲ませて大丈夫かなー 乱れるなよー」

「だいじよーぶ 蒼さんとなら間違いあってもいいよ 昇二が包丁持ってくるかも知れないけど」

「やめてくれよー 修羅場だなー そーだな さっきの話 美鈴にそれとなく聞いてみるよ どうしても、会いたいのかどうか」

「うん 会いたいのなら バイク屋しゃんに 聞けばぁー居所 わかるずら」

「明璃ちゃん もう 飲むのよせばー」

「いいじゃん ぞうさんも もっとのもうぜー そーいえばさー わだす 東京の会社 内定もらったっす」

「そう それは、良かったね 追いかけて行くんだ 昇二を」

「んだ 好きだもの」

 帰る時、明璃ちゃんは僕に腕を組んできて、千鳥足に近かった。フードを被りながら、ニャンニャンと言っていたものだから、道行く人に時折、振り返って見られていたが・・電車の中でも、僕に寄りかかって寝ていたのだ。でも、この娘は、少し、型やぶりな所があるが、気持ちが優しく、人の気持を考える魅力的なとこもあると感じていた。それは、美鈴の下で働いている影響かなーと。毎日が新鮮で楽しいかも・・昇二も良い娘見つけたなと思っていた。

8-⑺
 今夜は、蒼と待ち合わせをしていて、いつものカフエで早い目に行って待っていた。お昼には、堤さんの所に会いに行って、お店の話をしていたのだ。

「さすがだね 店長は 行動が早いね それに、田中さんに頼み込んだんだから」

「それより、堤さんこそ、色々と根回ししてくださって、有難うございました」

「いいや 君の思っていたとおりになったんだね」

「はい 順調です あとは、資金を調達しなきゃ それと、新しいお店の設計 それで、堤さんに、まだまだ助けていただかないと いつも、甘えて、すみません」

「いいんだよ こっちも、やりがいがあるから それに、親方からも、出来るだけのことは、してやれって言われているから」

「その親方って言う人にも、一度、ご挨拶しなきゃぁね」

「なんで 何度かお店に行っているよ でも、マスターと顔を合わせても、覚えてないみたいだって言っていたけど 店長のことは、気に入っていてね いつも、明るく接してくれて、良い娘だなって言っていたよ でも、最近は朝の時間に行って、お茶を飲んでいるみたいでね 朝の女の子がお気に入りみたいなんだ」

「あっ 舞依ちゃんだ」

「そう、その舞依ちゃん あの子も可愛いよね 親切で」

「あー 有難うございます 私も、あの子が居てくれて、助かっています」

 その後も、いろいろと打ち合わせをしたが、堤さんも、実はこんなに大きいのは自分では施工したことがないので、仲間にも相談しながら進めると言って居た。私も、借入金のほうは、大丈夫だろうかと、それに、返済もあるし、不安も抱えていた。

 蒼が首を縮めて、寒そうに入ってきた。又、クリスマスと年末のことも考えて行かなきゃと、その時、思った。

「おすっ 待った ようだな」

「うん ぼーっとね いろいろ考えることあって」

「美鈴は、いつも、考えること多いからな」

「そんなことないけどね どう 会社のほう?」

「まぁまぁ 順調だよ 今は、ビーガン向けのものに取り組んでいる」

「そうか うちも そのうち、そういうの必要になるのかなー」

「この辺りの田舎じゃぁ まだまだじゃぁないの」

「あのさー 蒼に言っておかなきゃ と、思って お店のことだけど 隣の倉庫がある土地も借りることにしたの それで、お店、大きくしようと思ってるんだ」

「えぇー 又 それは、大変じゃぁないか でも、美鈴の考えていたことだものなぁー」

「反対じゃぁないの?」

「当たり前だよ 美鈴のやりたいことだろう 僕は、それにどうやって協力していくかだよ」

「蒼 ありがとね さっき、もらったティシュあげるね」

「おっ ありがと 宝物にするよ」

「やーだ 蒼 もっと いいもの もらってよー」

「美鈴 その土地って ずーと 借りられるのかなぁー」

「どうだろー 多分、大丈夫と思うけど 約束はしてない」

「そうかー 例えば だよ 例えば その店と一緒に、僕達が住む家を建てたら、どうなるのだろうか」

「うー えぇー それって 私達の? それ プロポーズ? なの?」

「うー まあぁ 例えばだよ」

「だよね でも 本当なら、もっと ロマンチックな時と場所がいいなぁー 一生の想い出やんかー」

「アホかー 注文多いよ でも、覚えておくよ」

「ねぇ 蒼 ミサンガどうした?」

「うー もう、着けていないよ だって 美鈴とこうやって会えているから、もう、いいかなって思って」

「そうなの 私 まだ・・ だつて 私は蒼のもの って 約束・・」

「あのね 僕は、美鈴のことは大切に思っている 美鈴がさー 妹のこと 気になつているのも 今でも、会いたいのか?」

「なによー 急に ひとが盛り上がっているのに― そりゃぁ 会いたいよ 肉親だもの 小さい頃の思い出もあるし でも、会ったから、どうなのよ って 思うの 複雑 向こうだって、会いたくないかもと考えるとね だとしたら、会うと可哀そうじゃぁない」

「だろうな 美鈴 って、相手の気持ちを大切にするもんな」

「何で そんなこと聞くの?」

「いや 美鈴の幸せってなんだろうなってな」

「それは・・ 蒼が・・ 考えて・・」 

8-⑻
 この前の話の結果を伝えるため、明璃ちやんと待ち合わせをしていた。僕の仕事終わりでも良いよと言うので、出てきてもらったのだ。今日は、赤いのと黒いのと長いマフラーを二つ重ねるようにして、頭からかぶって首に巻いてやってきた。相変わらず、周りにくらべると浮いていた。

「なんで、二つも巻いているんだよ」

「これはね、[ほしぞら]って話、知っている? その主人公の女の子が小児ガンで入院していて、寿命が長くないと言われた時にね、星空がみたいからって、彼氏に連れて行ってもらうの それでね、その時から、奇跡的にね、その女の子は・・ながーいこと生きて、彼氏と結婚までしたんだって これは、その時の恰好なんだぁー」

「その話 知らないけどなぁー SNSか何かか?」

「うん 私の作り話 エッヘー 本当は、黒いのは、昇二の こうやっていると、いつも一緒に居るみたいでしょ」

「あのさー それは、ごちそうさまです」

 みんなと一緒だと良いけど、この娘とふたりっきりだと、僕は、どうも気がやすまらないようだ。

「美鈴にな 妹に会いたいのかって、聞いてみたんだ。心の中では、会いたいと思っているんだろうけど、会っても良いのかと迷っているみたいだった。だから、もう少し時間置いた方が良いなと思うんだ」

「私もね お姉ちゃんに話してみたんだ。そしたらね あんまり、深入りするなって言われた。美鈴さんのプライドを傷つけるかも知れないからだって・・。後は、お姉ちゃんがそれとなく調べるから、私は、もう、手を出すなだって そんなもんかなぁー」

「うーん 光瑠なら親友みたいなもんだし、同じく妹が居るから 後で、美鈴に対しても 説明できると思ったんじゃぁないのかなぁー」

「だってさー お姉ちゃんは、向こうと会うと顔がわかると思うよ 私なら、そんなに面識ないしさー」

「でも、光瑠は慎重だから、そんなドジしないさ」

「ふぅーん お姉ちゃんみたいなの慎重っていうんだ 今は、恋に眼が眩んでいるのかな あー それとさー あんまり、蒼さんと二人っきりで会うなって、叱られた 変に勘繰られるからだって」

「そうか そんなことも言っていたのか でもな、僕は、昇二には、会ってること報告しているから大丈夫だよ」

「そう やっぱり、仲間なんだね 君達は」

8-⑼
 12月になって、土曜の夜、久々にナカミチを訪れた。遅い時間だったので、明璃ちゃんも舞依ちゃもう、もう、あがった後だったみたい。晋さんも居ない様子だつた。

「蒼 ご飯? まだ、なんでしょ なんにする?」と、なんだか、昔で言う世話女房みたいに聞いてきた。

「いや 早い目に家で食べてきた 美鈴の様子を見に来ただけだから コーヒーを」

「そう 寒いのに、無理しなくても・・」

「なんも無理じゃぁないよ 美鈴に会うんだから」

「ありがと じゃぁ 今日は そのまんま私の愛をお返しするね」と、他の人に聞こえないように小声で返してきた。

「あのね 今年は、おせち100セット目標にしようと思うんだ。又、手伝ってもらえるかな」

「いいですよ 美鈴のためなら 又、昇二も光瑠にも声掛けとくよ」

「ありがとね でも、クリスマスのオードブルはやめる あんまり、出ないし、利益ないのよ その代わり、クリスマスディナーはちゃんとしたのするし、持ち帰りもOKにするしね 炭焼きローストビーフと豚のスペァリブ」

「めっちゃ 手間かかるやん 大丈夫か」

「手間かけた方が、おいしそうやんか シャルダンには出来ないものを、やらなきゃ」 

「そうか でも、手伝えないしな」

「わかっている 晋さんも乗り気でいてくれるから」

「あのさ 正月 又 ウチに着て、着物着てくれないかなって お母さん 期待してるんだけど もっとも、新しいのは、用意出来ないけど」

「うん お願いします だけどね、元旦の日 お詣りは良いから 私に付き合って欲しいところあるんだけど それとね、二日の夜も」

「なんだよ どこに行くの?」

「うん そのうち言うから お願い」

「わかった どこへでも付き合いますよ 御姫様」

「うぅー わらわは、殿を頼りにしておるぞー これで、いい?」

8-⑽
 クリスマスイブは平日にあたるのだが、僕は、光瑠を誘って、ナカミチに行った。最初、迷っていたようだが、久し振りだし、会うかってことになった。

 僕が、先に着いたみたいだったので、しばらく、待っていた。美鈴が

「あのね、2日の日、お泊りだよ。大阪のベイエリァでホテル予約しちゃったからね。私、3日の午後からは、次の日の準備あるので仕事だけど・・」

「ええー そうなんか 別に良いけどさー じゃぁ つもりしなきゃあな」

「なんの つもりよー あんまり、考えないでよー 31日もお願いね 6時よ」

 光瑠がドァーを開けてやってきた。普通にコートにマフラーを巻いて・・。明璃ちゃんと違って落ち着いた格好だ。

「寒いね 風も冷たいわ あら、舞依ちゃんも、もうあがったみたいね バイトの娘とふたりなんだ」

「うん あの子 早番だから 光瑠 ごめんね 寒いのに・・あっ そう 31日もお願いして、ごめんね 勉強 大変なんでしょ」

「いいのよ 社会経験だから」

「ありがとう ふたりとも、ローストビーフでいいかしら」

「うん その炭焼きっていう特製の 楽しみにしてたんだから」と、僕は、本当に楽しみだったのだ。

「裏にかまどを急ごしらえしてね、

たけし
君が焼いてくれたんだ。スペァリブもだったんだけど、持ち帰りで今日の分は売り切れちゃったんだ あっ 光瑠 初めてでしょ あの子 もう、ウチに来て半年ぐらいになるかなー」と、紹介しようと、呼んできた。

「こちらね 私の昔からの親友で 吉井光瑠ちゃん 明璃ちゃんのお姉さん」と、美鈴はその武君に行っていたが、恥ずかしいのか、頭を下げただけだったが、光瑠が

「初めまして いつも、明璃から聞いています いつも、仲良くしていただいて有難うございます」と、言っても、又、頭を下げるだけで、奥に消えて行った。

「よく、働いてくれるのよ 晋さんが教えたことも、ちゃんと守るしね 口数は少ないけどね でも、明璃ちゃんとは、楽しそうに話しているのよ バカみたいなことばっか、話しているけどね」 
 
 香ばしい匂いとともに料理が出てきた。隅にソースとベイクドポテト、人参のグラッセにクレソンが飾ってある。ローストビーフも手のひらの倍程もある大きなもので豪華なものだった。

「美鈴 立派なもんだ チラシの写真以上だよ」

「うん 好評なのよ おいしいって、昨日も今日も来てくれたお客様も居るのよ 寒いのに、表で並んで待ってくれた人も居てね」

「忙しかったでしょう 明璃に声掛けたら良かったのに」と、光瑠が言うと

「うん 私も、平日だし、こんなに来てもらえるって思ってなかったから」

「確か、あの子 授業は明日までだけど、早い目に帰ってきて、手伝うように言っとくね」

「いいのよ 悪いわ バイトの娘も頑張ってくれているし、それに明日一日だけし」

「こんな時 手伝わないで、どうすんの いつも、お騒がせなんだから 言っておくって 今日もね、蒼と食事に行くって言ったら、お姉ちゃんは蒼君とふたりってずるいってスネてんのよ そのくせ これ 内緒なんだけどね あの子の部屋の洋服ダンス開けたら 扉のうらに [昇二 命]って貼ってんのよ なんか 私とはちがうわ」

「そうなんかー でもね、それが明璃ちゃんだよ 昇二も好きになるはずだよ」と、僕は思っていた。

8-⑾
 31日は僕は、少し早い目と思って、5時半に行った。割と暖かい日なので助かった。だけど、もう光瑠と明璃ちゃんは来ていた。

「どうしたんだよ 早すぎるんやんか」

「お姉ちゃんにたたき起こされたんよ」と、早速、明璃ちゃんに訴えられた。

「晋さん達は、朝4時から来て、仕込んでいるんよ」と、光瑠も言っていたところに、美鈴が来て

「ありがとう コーヒーでも飲んで」と、持ってきた。見ると、舞依ちゃんも来ていたのだ。そのうち、バイトの女の子と昇二がやってきた。

「昇二 昨日、帰ってきたところだろう すまんのう」と、僕が言うと

「なんの 今日を楽しみにしてたんだから なんか、年末のイベントだからな」

 武君が、「ローストビーフあがりました」と、大きな声で言っているのが、聞こえた。晋さんは鰤と海老を焼いていて、美鈴のお父さんは、だし巻き卵を仕上げていた。
「今日の目標は110セットよ 12セットが9回 1回45分 午後2時までに仕上げます」と、美鈴の号令で始まった。僕も昇二も慣れたものだった。舞依ちゃんは、和え物をカップに入れて、美鈴と光瑠は包装の仕上げをするという段取りで進んだ。

 もう、慣れているので、順調に進んで、9時過ぎに5回目が済んでいて、美鈴が「休憩しましょ」と言って来た。武君が出来たてのローストビーフをサンドイッチにしてくれていた。

「うまい 絶品だよ 一流店の味だよ これは こんなローストビーフ初めて食べた」と言って、昇二が感激していた。僕も、二度目だけど、確かにうまかった。

「武 やるじゃん やっぱり、私の指導が良いのかしら」と、明璃ちやんが武君に言っていたが

「そうですね 明璃先生の言うことを聞いていたら、今頃 フリーターになっていますけどね でも、感謝してます」と、武君が話しているのを僕は初めて聞いた。明璃ちゃんとは、冗談を言い合うみたい。

 その後も、順調に進み、1時過ぎには全て終えていた。そして、3時頃、掃除も終えて、美鈴は「ご苦労様 ゆっくり休んでちょうだいね」とみんなにおせちを持ち帰らせたのだ。昇二と明璃ちゃんは、勿論、赤いのと黒いマフラーをお揃いで巻いて、連れ添って帰って行った。僕と美鈴が最後まで残っていたのだけど、美鈴は厨房でまだ、何かをやっていた。

「なんで なにやっているの」

「うん 明日のお伺いするおうちのお重作っているの」

「お重って どこのだよ」

「あのね 明日 付き合ってって、言ってたでしょ ここの地主さんのおうち おばあさんが独り暮しなんだ だから、持っていくの 蒼も付き合ってね」

「あっ そのことかー 付き合ってというのは・・」

 そして、最後のお客が受け取りに来た。僕達が帰る頃、結局5時過ぎで、もう暗くなっていた。美鈴は「今年の締めくくり」と、言って、抱きついてきていた。

第九章

9-⑴
 年が明けて、僕は、美鈴がやって来るので、途中まで迎えに行った。何時もは、後ろで留めている髪の毛が、今は風になびいていた。やっぱり、僕にとっては、可愛い。

 家に着くと、お母さんが待ちかねていたかのように、美鈴を座敷に連れて行こうとしたが、美鈴は

「おかあさん これ 私 作ってみたんです お煮〆 お口にあうか見てもらえます?」

「まぁ 美鈴ちゃん いそがしいのに・・ そんなことまで・・有難う 後で、ゆっくりいただくわ」

 着替えに入って、30分ぐらいで出てきて、やっぱり、綺麗な美鈴が居た。

「さぁ 食べましょ 美鈴ちやん 蒼の隣に座って 今朝もせわしかったんでしょ」

「いいえ 私とこは、いつも、6時が朝ごはんですから それに、お正月いっても、お雑煮と海老を焼いて、後はお父さんが、数の子と黒豆だけで良いって言うから・・今年は、ローストビーフも加えましたけど・・ ちょっと前までは、お雑煮だけでしたから」

「そうなの じゃぁ いっぱい食べてね でも、出掛けるのよね」

「すみません どうしても、恩があって それに、お寂しいみたいだし 一人暮らしで・・ 出来るだけ、早い目に帰ってきます」

「ウチのことは いいわよ それより、お父さんこそ、お寂しいんじゃぁないの?」

「父は いいんです スーパー銭湯に行くのが楽しみだって言っていたし、家でも、お酒飲んでいるだけですから」

「美鈴ちゃん このお煮〆 おいしいわよ ウチのは、もう少し甘めだけど、蒼にはこの方が良いのかも」

「うん おいしいよ 美鈴 確かに、いつも、甘いなぁて感じていたんだ」と、僕もおいしいと思っていた。

「よかった 田中さんのお口にも合うと良いんだけど・・」

「これなら 大丈夫よ それに、貴方の気持がこもっているわ」 

 1時間程過ごした後、もう出掛けようかとなった。お昼前には、着くと連絡してあるらしい。

「蒼 ゆっくり歩くのよ」と、出掛けにお母さんに、去年と同じことを念押された。お重をアパートに置いてあるというので、取りに寄ったが

「お父さん 出掛けたみたい 居なかったわ」

 並んで歩くと、美鈴は腕を組んできたので、お重の袋は僕が下げたが、今年は、美鈴のショールを新しいものをお母さんが用意していたみたいだった。

 着くと、確かに、お年寄りの独り暮らしらしい家構えで植木なんかもいっぱい並んでいた。

「こんにちは ナカミチです」美鈴は、門を入って、玄関のガラス戸まで開けて、声を掛けていた。奥から声がして、お年寄りが出てきた。

「まぁ 美鈴ちゃん お着物で・・ きれいわねぇー 女優さんみたいよ」と言いながら、僕のほうも見ていた。

「私の、大好きな人なんです 一緒にと、誘っちゃて・・」

「そうなの どうぞ あがってちょうだい」と、案内された。

 持ってきたお重を広げながら、美鈴は

「私が作ったんですけど、お口に合うか心配ですけど・・」

「へぇー 美鈴ちゃんが・・ お料理持ってくるって言っていたけど、こんな立派なおせち料理だとは思って居なかったわ うれしいわ 美鈴ちゃん」と、本当にうれしそうにしていた。そして、口にしながら

「もうね お正月におせち料理なんて、あきらめていたのよね ひとりだし 有難いわ 美鈴ちゃん おいしいわよ お上手ね」

「ありがとうございます お口に合って良かった」

「あっ そうだ あなた達 おビール飲むんでしょ さっき 冷やしておいたのよ」と、冷蔵庫から取り出してきて、コップと前に置いてくれた。

「すみません 遠慮なしにいただきます」と、美鈴は言って、缶を開けて、僕のと自分のに継いでいった。しかし、美鈴は、口を少し付けただけで、飲みはしなかった。

「どうぞ 遠慮しないで もらいもんがいっぱいあるのよ 若いんだから、どんどん飲んでちょうだい」

「田中さん クリスマスのときは有難うございました。田中さんから勧められたとおっしゃってたお客様が何組もおられました」

「どうして あなたが頑張っているからよ だけど、みんなおいしかったって言っていたわよ いいお店だって 私も、紹介した甲斐あるわよ だから、ずーと続けなきゃだめよ お店 大きくするんでしょ シャルダンと勝負するんでしょ」

「ありがとう ございます 私 本当になんといっていいか こんなに、良くしてもらって」

「なに言ってんのよ こんなに、賑やかなお正月って うれしいわ 来てくれて それも、彼氏も紹介してくれて 道代ちゃんにも、自慢しなきゃぁね 私ね 美鈴ちゃんと知り合えてから、元気出てきたのよ 美鈴ちゃんは、本当の孫みたいに思っているから、がんばれって思うと元気になるの 主人が、昔、土地を手にいれていたお陰ょね」

「そうなんですか 買われたのですか?」

「ちがうのよ 今の市民会館とか官庁の辺りに、もともと少しばかりの土地があったんだけど、半分強制的に売らされてね 主人は、ごねて、その周辺の土地を紹介しろって言って、手に入れて行ったのよ だけど、市街地がどんどん広がってってね 土地を借りたい人が増えて行って、今 よ」

 それからは、田中さんはお見合いで結婚して、嫁いできたけど、直ぐに両方のご両親が亡くなって、自分達は兄弟も居ないし、子供も居ないから、寂しいんだとしんみり聞かせてくれた。

 もう、夕方近くなったので、帰ると言った時、寂しそうに残念がっていたので、美鈴が「また ちょくちょく遊びにきます」と、言っていた。家を出る時、僕に向かって

「こんな 良い娘を手放しちゃぁだめよ」と、背中をポンとされたのだ。

 そして、家に戻る途中、お父さんの様子見て来るといって美鈴のところに寄った。

「飲んでいた 元気だよ 蒼のお母さんに、くれぐれも礼を言っておいてくれって 自分の娘がこんなにきれいだと思って居なかったんだって 酔いも醒めたってさ」

 家に戻るとお母さんが駆け寄って出迎えてくれた。美鈴だけを連れて行ったのだ。「大丈夫だった? おせち喜んでくれた? 寒く無かった? お腹すいていない?」とか矢継ぎばやに聞いていた。

「昨日ね 重兵衛さんの、磯巻きと穴子のお寿司買って来たのよ さっき 出すの忘れていたわ 食べて」と、並べてきた。

「あっ すみません 私 子供の頃 食べたことある おいしいんですよね」と、美鈴が珍しく、自分から手を出していた。

「お母さん おいしいー 昔のまんま」と、美鈴が思わず言ったみたいだったが

「美鈴ちゃんから お母さんと呼ばれると本当にうれしいのよね」と、お母さんは少し涙ぐんでいた。

「お母さん 大袈裟だよ 気持ちわかるが まぁ ゆっくりしてください 美鈴さん 我が家も華やかで楽しいんだよ なぁ 蒼 飲めばぁー 美鈴さんも飲めるんだろう」と、お父さんも機嫌が良かった。

 みんなで、飲み食いしていると、お母さんが

「美鈴ちゃん 苦しいでしょ 慣れないからね もう、着替える?」と、気を使って、美鈴は着替えに行った。着替えて、出てきたら

「やっぱり きれいだね 昔、何て言ったかなぁー 世界の美しい顔の人に選ばれた娘 あの子に似ているな」と、お父さんが言い出すと

「あなた 酔っぱらってるの― あんなどんぐり眼じゃぁないわよ 美鈴ちやんのほうが美人よ」

「えー 私 そんなんじゃぁ無いですよー」

「今夜はゆっくりしていけるんでしょ」と、お母さんが聞くと

「うーん でも、お父さんが飲み過ぎてないかな 心配ですし、あしたも、伏見稲荷 お父さんといこうと思って」

「あら 明日は、蒼と一緒じゃぁないの?」

「違うよ 僕は 会社の連中と飲み会だよ」と、僕は焦った。

「そうなの 泊りだっていうから、美鈴ちゃんとかと思ったわ みんなに紹介すればいいのに なーんだ」

「そんなわけないじゃぁないか」

 美鈴を送って行くとき

「うそついちゃったね」

「うん たまには、良いじゃぁ無いか」

「そうか 明日 楽しみにしているよ」と言う美鈴を見て、僕は、美鈴のことを本当に可愛く思えていた。

9-⑵
 美鈴とは大阪の天満橋で待ち合わせをしていた。地元だと誰かに見られるとうるさいので嫌だった。美鈴はフレァーなスカートにタートルのニットと長めのコートで来た。髪の毛は留めていなくて、横に髪飾りを付けているだけだった。

 美鈴の希望で天満宮にお礼に言ってから、道頓堀に出て、お好み焼きが食べたいと言っていたのだ。

「お父さんは、今日はどうしている?」

「今日もね、スーパー銭湯でゆっくりすると言っていたわ。昨日、お母さんから、重兵衛さんのお寿司もらったじゃぁない アレをね なんか、しみじみと食べていたわよ 昔を思いだすのかしら」

「そうか 元気そうだね」

「うん でも、飲みすぎが心配なんだけど」

 天満宮では、初詣の人達で大賑わいだった。僕達は、こうして一緒に居ることを感謝してお詣りした。

「ミサンガ 又 買おうか」と、美鈴が言っていたが

「いや もう 卒業しようよ」と、僕は言って、買うのを控えたのだが

「どうしてよ 蒼も もう、してないじゃぁない」と、美鈴は不満そうだったのだが・・。

 それから、千日前にある古くからのお好み焼き屋さんに行ったのだが、30分くらい待つだろうということだった。

「私 初めてなんだー お好み焼き屋さん 前から、来てみたかったの」

「そうか 僕も、京都ではあるけど、ここは初めてなんだ やっぱり、いい匂いがしてくるね」

「うん 待ちきれないよね 楽しみ」

 ようやく、案内されて、部屋は個室になっていて、焼き台の下が深くなって脚が伸ばせる様式だった。豚玉といか玉をひとつずつ頼んで半分ずつにしようということになった。ビールも来て、焼き始めた時、それまで、向かい合って座っていたのだが

「やっぱり 隣がいいなぁー」と、言っても美鈴が隣に座って、身体を摺り寄せてきたのだ。僕も、たまらず、チュッとして応えた。

 店を出ると、美鈴が「なんか テーブルに置く お正月らしいの探そうよ」と、商店街をぶらぶらしたが、そういうものを売っているお店は閉まっている所が多かったのだ。

 気が付くと、もう4時近かったので、一回ホテルにチェックインしようかと向かった。ホテルのフロントでは、美鈴が手続きするというので任せることにした。部屋は窓からの眺望が海側に開けていて、眼下には大阪港がよく見えたが、遠くの方はボャッとしていた。

「なんだ 淡路島くらい見えると思ったんだけどなぁー ガッカリ」と、美鈴が言っていたんだけど、僕は、素敵な部屋だと思っていた。それでも、雲に夕焼けが映し出されて、絵を見ているように綺麗だった。

「蒼 先に お風呂してきてよ 私 後からでいいから」

「そうか じゃぁ 先に入るよ」

 僕は、バスローブになって出てきた。美鈴はその後向かったけど、今日、僕は決心をしていたのだ。美鈴にネックレスを用意していた。プロポーズしようと・・。そして・・。

 美鈴が出てきたときも、バスローブをまとっていたが、突然、部屋の電気消し始めたのだ。そして

「カーテン閉めてよ」

「何で、夜景 きれいよ」と、言うのを遮って

「いいから 閉めてよー」と、言ってきたので、僕が閉めて、振り返ると、美鈴は

 透き通るような白いナイトウェァみたいなものを着て、下は白に赤い刺繍がしてある下着姿だった。

「私 全て 蒼のものになるから もらって」と、呟いた
 
 僕も、そのつもりだったから・・。美鈴の側に寄って

「美鈴 僕からの 贈り物 身につけていてほしい」と、ネックレスを見せた。

「蒼 こんなの用意していてくれたんだ ありがとう」

「うん 指輪はできないんだろう? ミサンガの代わり 美鈴 僕と 結婚してくれ ずーと一緒に居たいんだ」

「私 うれしい ハッキリ 言ってくれて でも、借金だらけだよ 私 蒼の負担になるかもれないんだよ」

「そんなのどうとでもなるさ 前も言ったけど、今の美鈴で良いんだよ 僕は、小学校の時から、ずーと 美鈴のことが・・」と、美鈴の首にネックレスを留めていた。

「私も ずーと だったわ」と、美鈴は泣き始めていた。

 そして、僕は、美鈴を抱きしめて、ベツドにふたりで倒れ込んでいったのだ。

 僕達は、長い間、抱き合っていた。美鈴は、初めてなんだろうけど、こらえて、僕に応えてくれていたのだ。

「私 今 すごーく幸せ こんなの生まれて初めてなんや」と、ポツンと言って居るのが聞こえた

「美鈴 これから、もっと、幸せになるんだよ」と、言うと、美鈴はしっかり、抱きついて、思いっきり口を合わせてきた。

「ねえ なんか食べに出ようか お腹すかない?」と、いきなり、美鈴が言ってきた。僕達は、近くの小さなレストランを探して、食事した。美鈴は、気になるのか、店のアチコチをチェックしていたようだが「おいしい」と、声を出して言っていた。ホテルに戻る時

「ねえ 新婚旅行って こんな感じなのかなぁー」と、僕の腕にぶる下がって歩いていた。僕だって「美鈴 僕も 今 ヤッターって思っているんだよ」と、心の中で噛みしめていた。

 ホイルに戻って、しばらく休んで、夜景を眺めていると

「ねえ 蒼 もう一度して 記念だし・・着替えるからね 私 我慢できると思う」と、美鈴は下を向きながら言ってきたのだった。 

9-⑶
 4日に昇二は夜、東京に帰ると言うので、お昼にナカミチに集まることになった。少し、ずらして2時集合ということだった。

「すまんな みんな 俺のために集まってくれて」

「いや 昇二が、大阪から出て行くので 祝おうと集まっただけなんだけどな」

「そんな風に言うと 俺には、小悪魔が付いているから、後ろから槍で刺されるぞ」

「あー 突拍子もないのがな 今日はどうしたんだ」

「あの子 バイクで出て行ったわよ 敦賀の金ケ崎にお詣りしてから、おそば食べるんだってー あの子、大谷なんとかって武将を崇拝しているのよ 夕方には間に合うように、帰るって言っていたけど 相変わらずよ」と、光瑠が言っていた。

「2日に会ったんだけどな 着物で来てくれたんだけどな 可愛かったよ でもな その上に赤いマフラーしてきていてな 俺もマフラーでって言われていたんだ。 なんと、端っこにAI AKA って赤い刺繍がしてあるんだよ」

「あー そういえば あの子 一生懸命 編んでたのよ」

「そーなんだよ あっちには、AI SYo って刺繍あった」

「好かれているんだよ 昇二は いいじゃぁないか」と、僕は、半分からかった。あの時のマフラーだと思い、そんな刺繍がしてあったんだ。

「でもな 俺なんかに つくしてくれるのって なんか 申し訳なくてな」

「いいじゃぁないのー 本人がそれで満足してるんだから」と、光瑠は冷たく言っていたのだ。

「昇二は贅沢だよ 一流企業のホープで あんな可愛い彼女に好かれて」と、僕は、何げなしに言ったのだが、美鈴は僕をじーっと見つめていた。

「光瑠は どうするんだ 就職考えているんだろう」

「ううん 多分 弁護士事務所で司法試験めざす アルバイトみたいなものだけどね まだまだ雑用よ でも、少しは、自由きくから」と、答えていた。色んな事を考えてのことだろう。

「昇二 何時の電車?」と、美鈴が聞いていた。

「うん 6時京都 今度は、いつになるかわからないけど、美鈴も店 頑張ってな 今度は、大きい店かな」

「まだよ 徐々にね 決まったら、知らせるわね」

9-⑷
 日曜日の朝、両親が揃っていたので、僕は、美鈴のことを打ち明けた。

「美鈴に結婚申し込んだ」

「あー そうなの 良かった やっとね OKしてくれたんでしょ」と、お母さんは、そんなに驚いていなかった。

「うん 喜んでくれた」

「そうだよね で いつするの?」

「まだ、これから、話合う 多分4月頃かなー まだ、決めなきゃなんないこと、いろいろとあるんだ」

「そうよね まず、美鈴ちゃんのお父さんのこともあるしー お店のこともね それに、借金もあるんでしょ いざとなると大変なことばっかりよね」

「それでね 美鈴は、今、店を大きくすること考えているんだけど、僕は、店舗併用の住宅を考えているんだ。まだ、美鈴と相談していないけど」

「そんなのどうなの 借金で大変なんじゃぁないの」

「借金いうなよー 確かに、そうだけど・・借入金だよ 美鈴は店のほうの返済を考えるだろうし、僕は、給料で家の返済を考える。余裕は無いだろうけど、二人の時間もその方が増えるしね その方がマンション借りるより経済的かなと思う」

「でも、土地は他の人のものでしょ 同じ建てるんだったら、別の場所にでも・・」

「うーん でも 最終的には、土地を売ってもらうことも考えている。持ち主の田中さんは美鈴にだったら承知すると思う」

「蒼 他人に甘えたらだめよ まして、美鈴ちゃんを頼りにするんじゃぁなくて、蒼が引っ張っていかなきゃ あなた どう思う?」と、お父さんにもなんか言って欲しかったみたいだ。

「とにかく 美鈴さんと、よく話し合ってから、もう一度、どうするのか聞かせてくれ 蒼の考えはわかったけど、結婚って二人三脚だからな 美鈴さんは、もう、ウチにとっても娘みたいなもんだ 二人が、幸せになるんだったら、出来るだけの協力はする そのうえで、もう一度話し合おう 二人の思いは尊重するけれど、美鈴さんのお父さんの意見も聞きたい」

「ありがとう お父さん お母さんも 美鈴は、小学校のときから、僕になにかと世話をしてくれて、でも、高校に行く前にあんなことが起きて、でも、ずーとお父さんの面倒を背負ってきて、苦労してきているんだ。今度は、僕が幸せにしなきゃなんないと思っているんだ」

「わかっている あの娘は、いつも自分のことより、人のことを考えているし、お母さんとも直ぐに打ち解けて、本当に優しい娘だと思う。だから、今もみんなから好かれて、店も順調にいっているんだろうな だけどな、蒼 客商売は昔から水商売と言ってな、何が起こるかわからない 事実、昔のナカミチもあっという間だった あんなに評判良かったのにな」

「うん わかっているつもりだし、美鈴も身に染みてわかっいるって言っていた。僕もいるし、それに仲間もいる。美鈴の周りの人達も応援してくれているし、頑張っていくつもりだ」 

9-⑸
 水曜の夜、いつものように美鈴と待ち合わせをしていた。今日は、珍しく、いつものカフェでなくて、ハンバーガーショップのほうだった。

「どうした 今日は、ハンバーガー食べたかったのかい?」

「ううん ちょっとね もしかしてと、思ってさー」

「何が― ・・・ 前、見かけた あの子か?」

「うん そんなに、うまいこと行かないよね」

「やっぱり 気になっているんか?」

「そんなんちゃうけど なんか お父さんがね この前 何で、ワシ等は二人っきりなんだろう って聞いてきたの 私 とっさにさ 私が小さい頃からお母さんも居なかったよ って答えたの そしたらさ そうか、よく、海で遊んだよなぁー どこの海なんだろう 最近、良く、夢で見るんだ でも、家ん中で遊んでいる美鈴にはもう一人女の子が側に居るんだよ その子はよく抱き着いてくるんだ そこまでなんだけど 何なんだろう あの夢は・・ って」

「なんか 思いだしてきてるのか?」

「うーん でも、海で遊んだって 高井さんのことだと思うんだよね 記憶がダブッてるかな だけど、多分、もう一人の女の子って、清音のことだと思うんだよね お父さん、どっちかと言うと清音には甘かったもの」

「まぁ それは 下の娘だから・・」

「どうしょうか 蒼 本当のこと言った方が良いのかなぁー 清音はもう、お父さんとか私のこと忘れているんだろうか」

「忘れてはいないと思うけど いろんな事情とか、今の環境とかは、本人しかわかんないから、ど、思っているのか・・」

「そう なんだよね だから 私も そこで止まっちゃうんだよね」

「あのさ そんな時に、言うのは、どうかと思うけどさー 美鈴が店を立て直す時に、僕達の家も建てて、店舗併用住宅にするってのは、どう思う?」

「えー いきなり、新居建てるのー そしたら、ローンが増えるよね」

「うん だけどさー 結婚したら、美鈴はお父さんのことどうするつもりだよ まさか、独りぼっちにできないだろう?」

「うん でも、近くなら独りでも仕方ないかなーって」

「誤魔化すなよ 美鈴がそんなこと出来るわけないだろう 僕は、お父さんの部屋も作って、一緒に暮らせば良いじゃぁ無いかと思っているんだ 僕達のマンション、お父さんのマンションを賃貸するんだったら、その方が経済的だろう 家のローン位だったら、僕の給料でも、贅沢は出来ないけど、何とかなるよ 僕は、美鈴が居るだけで満足なんだから」

「ありがとう 蒼 そんな風に言ってもらえて・・うれしい 考えてみる」

「そのためには、田中さんの了承が必要だけどな 美鈴さえ、良けりゃあ 僕が頼んでみる」

「そーだね 私からも、お願いしてみるけどね 蒼 本当に、お父さんも一緒で良いの?」

「当たり前だろう 美鈴が見守ってきた大切な人だろう」

「ありがとうね 蒼 私が大好きになった人が蒼で良かったわ あのさー 小学校の時、私、給食のお盆落とっしゃって、恥ずかしくて動けなかったんだ。その時、蒼が僕がぶつかりましたって、先生に言ってかばってくれてね うれしかったんだ あの時 好きになっちゃったんだ」

「そんなこと 覚えてないよ バカ 美鈴だって、僕のこといろいろ世話してくれじゃあないか」

「あのね ・・・ こんな時って すごーく 抱いて、欲しいって 思うんだよね うわー」と、美鈴は、言って、顔を伏せていた。  

9-⑹
 僕は、土曜の夕方、光瑠を誘い出していた。美鈴の妹の情報を聞こうと思ったからだ。

「明璃ちやんから、お姉ちゃんがいろいろ知っているみたいって、聞いたもんだから」

「そう あんまり、良いお知らせじゃぁないんだ。いいかなー。友達に頼んで一緒に行ってもらったのよ。清音ちゃんの勤めているとこに・・。確かに、居たわ。でも、何だか苗字が小野って言うようなのよ。それにね、程度悪いような男がバイクで訪ねてきてね、何だかお金せびっていたみたい。それでね、私達、その男の後をつけたの、でも、見失ってね。競輪場辺りだったから、探したわ。競輪場。見つけたのよ、探しまくったけど」

「光瑠 刑事みたいだな」

「やめてよ 私達、疑わしいのは、調べろって言われているからね」

「うん 張り込みかー」

「あのなー ちゃかすんだったら、話さないけどー」

「すまん ついな」

「ずーと 張っていたわよ それでね 最終レース辺りで、当てたみたいでね 仲間に飲みに行くぞってはしゃいでいたの 私達、馬鹿みたいに、後付いて行ったのよ 居酒屋でさー 言っていること聞いて、ショックだったのよ これって、話したくないけど・・」

「何だよー 何なんだよー 話せよ」

「飲んで、盛り上がっている時にね 男の仲間が [キヨにも金渡さなくていいのかよー] って言ったらさー その男 [いいんだよ あいつは、夜、可愛がってやるから、それでヒィヒィ言って喜ぶんだから] って言ってたのよ」

「そうか そうなんだー ひどいなー」

「それにね [あいつは、男を渡り歩いているから、あっちのほううまいんだぜ 今の仕事より、ガールズバーにでも、行けって言ってんだけどな 金になるから] って 私 涙、出て来たわよ」

「うーん そんなに 乱れているのか―」

「そんなの 美鈴に言えると思う? 残酷でしょ? 私 蒼にもこんなこと話したくなかった でも、ひとりで抱え込むのも辛かったのよ」

「わかった 光瑠 そこまで、調べてくれて有難う 美鈴は、今、清音ちゃんのこと、消息をしりたいと思っているんだと思う 僕は、美鈴と何でも話し合っていきたいんだ 何でも共有しなきゃいけないんだ だから、事実を話す その子が清音ちゃんでないことも祈るが・・ 実はな この前 美鈴に結婚申し込んだんだ」

「あらっ そう やっとと言うか 良かったね 喜んだでしょ 美鈴」

「うん 受けてくれた」

「当たり前じゃぁないの あなた達 結ばれていたんだから 美鈴を幸せにしてあげてよ」

「わかっているって 光瑠 羨ましがるなよー」

「なによー それ 私は 私なりにね」
 

9-⑺
 土曜日の昼過ぎ、僕は田中さんを訪ねた。天気のいい日だった、僕は、あの土地に新居を立てることの許しをもらうお願いに来ていた。後で、美鈴も時間があれば、来ると言っていた。お母さんから、「あかつき」を買って持って行けと言われていたので、手土産で持ってきていたのだ。

「こんにちは、突然 すみません」

「あらっ 美鈴ちゃんのー 三倉さんだっけ」

「そうです 突然ですみません お願いしたいことがあって・・伺いました」

「あら なにかしら どうぞ、あがってちょうだい」

「これ どうぞ 召し上がってください 焼きたてだそうです 普通のあんことバター入りを買ってきました」

「まぁまぁ そんな気を使わなくて良いのに― せっかくだから、焼きたてをいただきましょうかね 私 小さい頃からずーとここの食べてきたのよ おいしくてね」

「うちの母も好きだと言ってました」

「そう お母さんは、この辺の人なの?」

「いいえ 越前の方だとか 父はここの出身ですが」

「そう 越前もいいわね 海も近いし 少し、寒いけどね で、どうしたの 今日は」

「はい 実は、美鈴に結婚申し込みました」

「あら そう それは、おめでとう 美鈴ちゃんもOKしたんでしょ?」

「ええ 受けてくれました」

「そりゃぁ でなきゃぁ お正月 連れてこないわよ で 式はいつ?」

「まだ そこまでは・・ 美鈴のお店の新築のこともありますし それで お願いっていうのは・・ あそこに僕達の新居も建てさせてもらえないかと思って 店舗併用住宅を お願いします 」と、言って、僕は頭を下げた。

「なーんだ そんなことか あそこは、美鈴が思う通りに使ってもらって良いのよ あなたと住む家を建てるんなら、なおさら良いわよ ずーと住んでいただけるんなら」

「えー そうですか ありがとうございます 助かります」

「そうよね べっこにマンション借りるより その方がいいわよね じゃぁさー まだ、少し先の話だけど 私がホームに入ることになった時、私の住所 あそこに移してもいいかしら この家 誰も居なくなるでしょ でも、心配しないでよ 年寄の面倒みてくれって言ってんじゃぁないから せめて、連絡先にね」

「それくらいは 当然です 本当に、ありがとうございます」

 その時、美鈴が来たみたいだった。

「美鈴ちゃん おめでとう 結婚するんだってね」

「ええ 私 幸せになります もっと、もっと」

「そう 本当に良かったわ あがってちようだい」

「これ オムレツに野菜のあんかけを添えました あと、さつま芋の甘露煮です」

「まぁまぁ いつもすまないね 毎回、飽きさせないように考えてくれて 私もね 美鈴ちゃんの作ったの、おいしいものだから、ついつい甘えちゃって ありがとうね」

「いいんですよ 私も、おいしいっておっしゃってくださるから、嬉しくって」

「あなたは本当に良い娘ね ずーと私のお友達でいてね 聞いたわよ お店広げる時、新居も建てるんですって 良いじゃぁ無い 大賛成よ」

「えー 良いんですか 有難うございます でも、私、まだ良いのかなって・・」

「何言ってんのよ ずーと住んでちょうだい 幸せな家庭作ってちょうだいな」

「田中さんにそう言ってもらえると、前に進める気持ちになります 有難うございます」

「私は、あなたのこと 孫だと思っているからね 迷惑でしょうけど 何でも、言ってちょうだい でも、こんなバァさんじゃぁ、何にもできないけどね」

 美鈴も、あんまり時間も無いというので、僕達は家を出てきて

「堤さんに、早速相談するね 新居のこと」と、美鈴が言ってきた。

「うん 僕は、ローンとか銀行に相談に行くよ 美鈴 頑張ろう 僕達」

「ウン 蒼 絶対 幸せになろうね」と、繋いでいた手を振ってきた。

9-⑻
私は、堤さんを訪ねていた。向こうもお休みなんだけど、良いよと言ってくれていた。

「お店と住居 うまいこといかないかなって思ってます。なんか、堤さんに、又、助けてもらおうと思って」

「うん 聞いているさー 隣も借りれるんだろう 田中さんも相当、店長のこと気に入っているよー どうするかなぁー 今ある倉庫 壊すのもったいないよなー それだったら、その費用で建築にまわした方が良いと思う。ただ、どうしても、見た目がなぁー」

「良いんです 私もね 倉庫を住居にして、何とか今の店舗と繋げられないかなって 今の店舗も壊すのってもったいないし それにね 住居のほうは部屋数多くっていいんです。私のお父さんも住むし、そのうち、人も増えるかもしれないし」

「うーん 難しいね 店を広げても、少し離れすぎているかなぁー でも、何とか考えてみるかー あぁ そうだ 結婚おめでとう 言うの遅れた 真面目そうで、いい男だね」

「えへー 有難うございます でも、一緒になるのは、新居出来てからなんです」

「そうか じゃぁ 気合入れて、設計しなきゃぁなぁー 田中さんからも、あんまり儲けちゃぁだめよって、釘をさされたよ」

「そうなんですか でも、いつも、お願いばっかり言っているんですから、無理しないでくださいね 普通で・・」

「わかっているって でもな あの田中さん 色々と、知り合いを紹介してくれて、仕事増えたんだよ だからっていう訳じゃぁないけど、変なことは出来ないよ」

「あの人‥ もとはと言えば、堤さんが教えてくれて・・ 良い人で良かったわ」

「それは、店長が一生懸命だから、誠意が通じたんだよ それとな 立ち入り過ぎかもしれないけど・・ お宅の明璃ちゃんのバイク仲間・・ やつらに聞いたんだけど 妹さんのこと」

「やだー そんなことまで・・」

「うん この前、会った時にね あいつ等、ヤンチヤしてたけど、3人揃って一流の大学に行って、やる時は真面目にやるんだよ。でも、今は、又、明璃軍団とか言って、親衛隊なんだとバカ言ってるけどな」

「ああ あの子達 良い子よね 明璃ちやんは、少し、飛んでいるけど」

「まぁ 若いんだから、今のうちだけだよ それは、良いとして 店長が気になっているんだったら、力になるよ 俺は、昔、バカして居た頃の仲間があっちにいるから・・ その舎弟なんだよ その 今 多分 妹さんがつるんでいるグループって 正直言って、あんまり、素行が良くない連中」

「何となく そうなんじゃぁ無いかなって、思っています 私が悪いんです あの時、離れ離れになってしまったから・・」

「何で 店長は、お父さんをお世話するから・・ 立派だったと思うよ」

「でも、待ってください 私 心 整理してから・・ お父さんも、いきなりだと・・ もしかして、お力、お借りするかもしれません その時はよろしくお願いします」

「わかった いつでも、言ってくれ かならず、力になれると思う」 

9-⑼
 私は、市役所の商工課を訪ねた。建築資金の融資を尋ねようと思っていた。対応してくれたのは、若い男の人で、言葉使いは丁寧なんだけど、どうも、経験が少なそうで、どうも、頼りなかった。

「で ナカミチさんは、商工会には加盟してないんですか?」

「はい 私は、どうも、相性が合わなくて・・」

「相性の問題なんですか 商工会に入っている方が、融資はすんなりいくんですけどね 保証の問題とか 事業主は、お父さんなんですよね あなたは、その娘さんなんですか? で、申し込むのは、あなたなんですか じゃぁ 新規開業という形となりますかねぇー 実績が全く無いんですよね そうすると、担保の審査とかありまして、遅れますよ お父さんじゃぁ駄目なんですか?」

「そうなんですけど、いろいろと事情があるんです」

「とにかく、資料をお渡ししますんで、読んでご検討ください。融資自体は、いろいろありますから・・。そのうえで、ご相談にのります」と、言って、何枚かの冊子を渡された。

 私は、何か相手にされなかったような・・とにかく、面白くなかった。不親切なとこだなって思っていた。相手も不運だったのかな。出口に向かった時、男の人に呼び止められた。

「すみません。中道さんですか」

「そうですけど・・」

「あのぉー 僕は、観光課の広瀬と申します。以前は、商工振興課に居ましてね。今の話、ちょっと小耳にはさんだもので・・ 実は、僕は、中道さんが以前お住まいになった所に、住んでいるんです。以前、三倉と名乗って大学生が訪ねてきて、中道さんの行先を探しているんだとか・・。でも、お店を復活されたんですよね」

「そうです 昨年の秋から でも、その三倉蒼って、お宅にまで行っていたんですかー その人と 今 私 婚約しています」

「そうなんだ 会えたんだ 良かった あの時の学生がねー 彼はあの時、真剣だったんだよ あー、お店の方 妻と行こうとは話しているんだが、子供も小さくてね なかなか機会がなくって・・ 僕は、お父さんとも面識があるんだよ あの店を閉める時も、力になれなくて・・ 悔いが残っていたんだ 申し訳ない」

「そんなこと気になさらないでください 父は元気にやっていますから お店の方も、小さなお子さんも来てくださっていますよ どうぞ、ご遠慮なさらないで、気楽に寄ってください」

「ありがとう ところで、今 融資の話で来てたとか」

「ええ お店を大きくしたいんで、その資金に・・でも、何か複雑みたいって言われて・・」

「そうか、お店の評判良いの聞くよ 大きくするんだ わかった、僕は、今は観光課だけど、以前は商工の方に居たから、いろいろ有利なのを調べておくよ 又、連絡する」

 私は、頭を下げて、よろしくと言って名刺を差し出した。

「美鈴さんか 店長さん 君があの時の娘さんなんだ まだ、中学をやっと卒業するときだったと思うが・・頑張ったんだ あの時から、しっかりした娘さんだと聞いていたが・・ 必ず、連絡するよ 実はね、妻と若い頃、よく、ナカミチに行った想い出のお店なんだよ」と、笑顔で送ってくれた。

 私 やっと 心が晴れていた。お父さんも、素晴らしかったんだ あの時のお店 いろんな人に愛されていたんだ・・私も、頑張らなきゃ―

9-⑽
 僕は、建築のことで、打ち合わせする為に、美鈴と会うことになっていた。電話では、今ある倉庫をそのまま利用した方が、建築費もやすく抑えられると聞いていたのだ。それに、今夜は一緒に泊ろうと言うので、大阪で待ち合わせをした。

「お仕事 お疲れ様」

「なんの 疲れてもいないよ 美鈴から聞いて、いろいろ間取り考えて来たヨ」

「うん 私も、図面書いてきた 蒼から聞かせてね」

「そうだな 何、食べる? 海鮮居酒屋でいいかい?」

「そうね 普段 お肉が多いからね」

 僕達は、適当に見つけてお店に入って行った。

「蒼のん 聞かせて」

「うん 倉庫のほうだけどね 1階は、大きなリビングフロァ、片隅は事務所スペースと風呂、トイレ、それとお父さんの部屋に従業員の更衣室 2階にダイニングキッチンと僕達の部屋、トイレ、それと幾つかの部屋 1階と今のお店を繋げて、その間には、客席を・・長くなるけど個室風に区切りをつけるんだ。そして、その裏側には、お弁当を準備する部屋を新設する感じかな そうすると、厨房ももう少し大きくできる」

「うーん 2階がキッチンだと、お父さんも2階まで来なきゃあなんないのか― 今は、いいけど、そのうち辛くなるからね それに、もしも、なんかあった時、私達近い方が良いと思うの だから、私達 1階 ごめんね」

「そうかー 僕は、いいけど・・ 夜の声、聞こえちゃうよ」

「夜? やだー 蒼 私は そんなー・・ じぁさー 私達の仕事場とかクローゼットなんかで囲もうよ そしたら、声ももれないわ やだ わたし、なに言ってるのかしら」

「いいじゃないか 当たり前のことだよ 夫婦間のプライベートだよ」

「そーだね それとね、お風呂 夏なんかのことも、考えて、従業員も使えるように、少し大きめにね、ゆったりと 私はね お店と倉庫繋げる建物 待合室にどうかなって、裏側は厨房にして、場合によっては、待合室から見えるようにしても良いかな お肉焼くところも見えるようにして そうすると、厨房のあるところに客席が増やせるわ 玄関とレヂを新しい建物との間に持ってきて、待っていただく人は左に客席は右にご案内できるからね」

「うーん そーすると、1階は少し、手狭になって、2階はスペース広すぎる感じかな」

「余分なスペースあったら、風邪良くして、物干し場にしたいわ 夏の夕涼みのスペースにしても良いじゃない 従業員の更衣室2階でもいいわよ 休憩室も作って」

「わかった 基本的に、美鈴の言う通りにしよう 2階は何室にする?」

「将来の子供の部屋でしょ それと、私が蒼と喧嘩したときに籠る部屋でしょ あと予備の3部屋かな」

「美鈴 今 さらっと言ったけど 籠る部屋ってなんだよー」

「うふっ 聞こえた 子供、2人になるかも知れないでしょ 気にしないで」

「バカ 喧嘩なんかしないで、ずーと仲良くやるんだよ」

「だよね ずーと ね」

 店を出て、僕は、どっちと美鈴に聞いたら

「うーん あっちの方かな 歩いて行こー」と、歩き出した。

「美鈴 もしかして 予約してないんかー?」

「うん なんとでもなるって思っていたから・・」

「そーかよ 泊ろうて言うから、予約してるんかと・・」

「いいじゃん ラブホ 行ってみたいし‥ あっちのほうにあるかなー 満室だったら、野宿だね

「あのさー あきれたよ」

 そこから、天満のほうに、しばらく歩いて、電飾の輝いている建物を見つけて入って行った。

「良かったね 空いていて ベッド大きいんだね ライトもきれい テレビも大きい わぁー お風呂の中ここから見えるんだよー」

「美鈴 はしゃぎすぎ お風呂 入ろうよ」と、僕は、思い切って言ったつもりだった。

「えー 一緒に・・ やだ 蒼 先に入って・・」と、途端に、下を向いていた。

 だけど、僕が身体を洗っていると、美鈴がタオルで隠しながら、入ってきた。一言も話さないまま、美鈴は、身体を流して、そのまま湯舟に浸かっていた。僕も、洗い流して、湯舟に入って、横から美鈴を抱いて、口を寄せていった。

 僕が、美鈴の胸に手を添わしていくと、喘ぐように

「あーぁ ここじゃぁ のぼせちゃうよ まって 私 髪の毛も洗うから、先にあがってて」と、

 僕が、バスローブで缶コーヒーを飲んでいると、美鈴は長いことかかって上がってきた。

「ごめんね 髪の毛乾かすから・・ 大きいお風呂ね あんなのいいなぁー 蒼に抱かれても、ゆったりだもんね」と、他人事のように・・

 ドライヤーの音が止んで、少しして、「ごめんね」と美鈴が言って、バスローブを脱いだかと思うと、色柄のキャミスリップ姿で、いきなり抱きついてきた。美鈴の髪の毛の香りに僕もたまらなかったのだ。

 美鈴は、「ようやく蒼のものになった気がする」と言って居たのだ。「すごく幸せ感じる」とも。僕も、満たされていたのかも。

 翌日は、美鈴も店に出ると言うので、朝早く別れて、僕も会社に向かった。まだ、美鈴の匂いがする気がしていた。

9-⑾
 お店がお休みの日、私は、お父さんを誘って京都鞍馬に出掛けた。お寺を見学した後、貴船で予約してあるので、お風呂と食事をする予定だ。

 お風呂は貸し切りにする?って聞いたけど

「バカ 美鈴と一緒に入るなんて、まぶしくて、眼がつぶれっちまうよ そんなのいい いいっ」とって言っていたが、私だって・・抵抗あるんだよ。だけど・・お父さん だから・・。

 お父さんは、まだまだ元気みたいで、行きも帰りも歩こうと言って、ケーブルを使わなかった。まだ、雪が残っているようなジメジメした所を私は、イノシシでも出て来るんじゃぁ無いかと思いながら、時々滑りながらもようやく歩けた。

 お店に着くと、早速、枯れているが山の景色を見ながら、渓流の音も聞こえてくるお風呂で暖まっていると、私は、もう、蒼に抱かれながら、こういう風にゆったりとお風呂に入ってみたいなぁと思うようになっていたのだ。その後、山菜とイノシシ肉の味噌鍋が迎えてくれた。

「お父さん お風呂 良かった?」

「ああ こんなところで、ゆっくり出来るなんて、心までゆっくりするなぁ」

 私は、お父さんにビールを継ぎながら

「あのね 私 プロポーズされたの」

「うー 蒼君にか?」

「うん 私 彼と一緒になりたいの」

「いいじゃぁないか 良い青年だよ 彼なら、美鈴を幸せにしてくれるよ」

「ありがとう 私 ずーと彼のこと想っていたのよ それでね 今のお店、広げるの 隣には、私達の住むところも建てるわ 勿論、お父さんも一緒に住むのよ」

「えぇ― ワシもかー ワシは今のアパートで暮らすから、心配するなって」

「お父さんはそう言うと思ったけど、ひとりの方が心配なのよ 今まで、二人で、ずーと暮らしてきたんだから、私の言う事、聞いてよー お願い」

「だけど、美鈴はずーとワシの面倒を見てくれて、ワシは何にもしてやれなくて・・。今度は、蒼君と幸せになれよ」

「幸せになるわよ だけど、私、お父さんも一緒の方が幸せなのよ 勿論、蒼も賛成してくれているわ わかってー」

「美鈴 すまんな いつも、気に掛けてくれて・・ だけど、なんでお母さんが居ないのかが、思い出せないんだよ お母さんがいたら、美鈴にこんなに苦労かけないかもな」

「いいのよ お父さん 私 頭ん中にお母さん居ないわよ ただね・・」

「ただ 妹が居た? そう思っているんじゃぁないのか? 言ってくれ 美鈴 知っているんだろう?」

「お父さん やっぱり 思い出していたんだ ・・・ 清音」

「きよね? そうだ やっぱり、美鈴の妹なのか? 海辺の砂浜で遊んでいたのは、美鈴ときよねなのか?」

「それは、違うわ でも、私、妹の清音とよく遊んでいたわ 小さい頃 お父さんも可愛がっていたの」

「そうか やっぱり 姉妹だったんだ なぜ きよねは居ないんだ」

「あのね 私も よく、わからないんだけど 貰われて行って、私達、離れてしまったの」

「なんだ その 貰われたって言うのは」

「だから そこは わからないんだって 私だって・・ お父さん 清音に会いたい?」

「そりゃ 自分の娘と聞くとな どうしているんだろうかと・・どんな、娘に成長しただろうかとか・・」

「そう」私は、心が揺れていた。

「美鈴 何にもしてやれないけど、美鈴が結婚して幸せを掴んでくれれば、ワシも幸せなんだよ だから、本当に良かったと思っているんだよ」

「ウン ウン」と、言ったきり、私は涙が出てきて、それ以上、言葉にならなかった。こんなに、父親って、娘の幸せ喜ぶんだろうか・・。それに、私だけ、こんなに幸せで良いんだろうかと言う感情も激しかったのだ。
 

第十章

10-⑴
 私、晋さんに相談というか、打ち明けていた。

「うすうす知っていると思うけど、お店広げることにしました」

「ええ 大体はね 良いじゃぁ無いですか 店長の夢だものね」

「ありがとう それでね お店のレイアウト 相談なんだけど・・ あとね、私 結婚するの」

「そうですか 蒼さんとでしょ ようやくですね おめでとうございます で、いつですか」

「うふっ 今回、新居も作るの あそこの、倉庫に それでね、お店と新しい建物と繋げるの」

 私は、今の構想を説明していった。晋さんはしばらく考えていて

「もう、少し、厨房の巾を取って欲しいですね 細長いのは、良いと思いますが、後ろをだれかれ通るでしょう 気になってしまって 店長何かが通ると、僕は、大変ですよ」

「なんでー 私なの?」

「だってね 触れたら、と大変ですよ 変に訴えられたりして・・」

「ばかね 晋さんを訴える訳ないじゃぁない 晋さんだったら、触ってきても、ペシッてやるだけよ」

「それは、冗談ですけど 万がいち 怪我でもされたら・・ それと、更衣室は、男女別が勿論、休憩室が欲しいですよね ちゃんと、ご飯食べる場所が必要だと思います」

「そうね 今みたいに立ち食いみたいなのって駄目よね」

「あと 住まいが隣だからって、無理しないで、ちゃんと、けじめつけてくださいね」

「それは、晋さんにも言えるわよ 多分 夏位の完成になると思うの それまで、もうひとりぐらい料理人必要よね 心当たりあるかしら」

「そうですねぇー 松永さんに相談するか 武の出た学校に心当たり、つけてもらうか・・」

「わかった 晋さんも心しておいてね もう、ひとつ 聞きたいんだけど・・」

「どうぞ なにかー」

「うん お父さんのこと 何か、昔のこととか聞かれたことない?」

「昔のことって 松永さんのとこの話ですか?」

「ううん もっと、昔のこと」

「もっと前のことですか そんな前のことは、僕は、知らないんですけどね そーいえば、以前、オーナーが「何で いろんな人から声を掛けられるんだろう 知らない人なのに・・ 以前、この土地で仕事していたんだろうか」と、呟いているのを聞いたことがあります。昔、ここで店やっていた記憶無いんですよね」

「そうなのよ でも、私 昔のことの記憶 戻ってほしくないのよ」

「わかります 松永さんから、何となく聞いていますから 僕も、その辺は、気をつけています」

「晋さん 本当にありがとう 助かるわー」

10-⑵
 美鈴から相談があるから、言って来た。

「蒼 相談なんだ。私 どうしたらいいかと思って・・ 清音のことなんだ」

「清音って 妹のことか?」

「うん 私 それとなく、お父さんに、しゃべっちゃったんだ 妹が居たこと やっぱり、会いたいみたいなのね」

「そうだろうな 自分の子供なんだから」

「どういう訳で 離れているのかは、わかっていないんだけど・・」

「美鈴は 会いたいのか?」

「半分半分 でも、お父さんが、会いたいのなら・・」

「でも、会って、どうしたいんだ?」

「うーん 出来れば、一緒に暮らしたい 責めるわけじゃぁないんだよ 私 蒼のものになってしまうから お父さん 寂しくなるかなって」

「美鈴って どこまで・・ お父さんのことを・・」

「うーん だけどさー 家族思いで、一生懸命、私達の為に働いてきたのに、突然、家族 失くなってしまったのよ 不幸だと思わない? だから・・私」

「わかったよ でも、会って すんなりいくかなぁー」

「蒼の考えていること、わかる あの子 乱れた生活なんでしょ 蒼は、隠しているけど 私 何となく、わかっていた あの時のにチャラチャラしたような服装だったから・・」

「そうか 美鈴 鋭いからな そこまで、わかっているんなら・・ じゃぁさ 美鈴に黙っていて悪かったけど・・光瑠が或る程度知っているんだ 直接 聞いた方がいい ここに呼ぼうか?」

「光瑠? 明璃ちゃんから聞いたの?」

「うん 最初はね でも、こっそり、調べてもらったんだ ごめん」

「それは いいんだけど 光瑠にまで、心配かけたのかー」

 僕が、光瑠に連絡すると、出てきてくれることになった。待っている間に、お父さんと鞍馬に出掛けたことを、美鈴は話していて、ポツリと「蒼とゆっくり温泉にいきたい」と言っていた。

 光瑠が急いでやってきたみたいで、息を切らしていた。

「なによー いきなり 私 品行方正なんだから、夜になって出るなんて無いんだからね 女の子が」

「ごめんね そーだよねぇー、光瑠は品行方正だものねぇー」と、美鈴が光瑠の顔を覗き込んでいた。僕には、意味ありげに感じていたのだが

「光瑠 ごめんね 報告遅れたけど、私達 結婚するの」と、美鈴が切り出した。

「やったね 今更って感じだけど いつ?」

「うーん 今 お店を広げる計画してるから、落ち着いたらね」

「そうかー でも、おめでとう 蒼 幸せにしてあげてよー」

「もちろんだよ それでね、電話で話したように、美鈴が清音ちゃんに会うことどうかなって思ってな」
 
 その時、光瑠は美鈴をみつめて、しばらく黙っていたが

「美鈴 心して、聞いてよ」と、光瑠は、前に見てきたことを話して、それ以降の僕の知らないことまで話し始めたのだ

「清音ちゃんは、勤めているお店の人達にも評判は良いのよ、だけど、男が悪くってね お金を清音ちゃんにせびりに来るらしくって、清音ちゃんの顔を叩いて、財布ごと奪い取って行ったこともあるらしいのよ だけど、清音ちゃんはあの人は本当は優しいのよと笑っていたみたい ひどくない?」

 美鈴は下を向いたきりだった。何かを考えているのだろうか

「だけどさー お母さんも一緒なんだろう 何で、そんなんになるのかなぁー」と、僕がつぶやくと

「そうなんよ 多分、お母さんとは、一緒に住んでいないわよ もう」と、光瑠も言っていた。

「美鈴 会ってどうするんだよ そんな状態なのに 一緒に住もうなんて だいたい、その男だって清音ちゃんを手放すと思えない 金ずるなんだろう」

「あっ もう一つ その子 小野って苗字みたいよ だから、妹さんじゃぁ無いかもね」と、光瑠が言うと

 それまで、黙っていた美鈴が、思い切ったように話し出した

「小野って お母さんの旧姓なの あの時、お母さんが一緒に出て行った男は、上野という苗字なのよ 何か事情があったのね やっぱり、会いに行かなきゃ ずーと、このままじゃぁね」

「だけど、無理やりなことすると、美鈴だって危険だし、そんな奴だから、美鈴のお店に嫌がらせしてくるかも知れないよ」と、光瑠は心配していた。

「そうよね 変な風にすると、清音だって、素直になれないかもね 難しいよね」と、美鈴は考え込んでしまった。

「とりあえず 僕が会ってみようか」 

「だめよ 角立つわ お姉ちゃんの昔からの仲良い男の子って、わかっているんだから・・私ね 思い切って 明璃に行かそうかとも思ったりするのよ あの子、不思議とそういうことをうまくこなすような気がするから・・ ねぇ 美鈴 聞いている?」

「あっ ごめんね 考えちゃって」と、美鈴は何かを考えていたのだ

「あのね 私 堤さんにお願いしようかと、思って」

「堤さんって、あの工務店の なんで・・あの人 信用できるの? 私ねなんかあの人、やさぐれているとこあるような気がすんのよね」

「どうして? とっても、親切で助けてくれているわよ」

「それは なんか 美鈴に下心あるんちゃうの」

「光瑠がそんな風に言うのって らしくないわよ 見た目で判断するなんて 今回のお店のことでも、助かっているわよ」

「うー そうかな 蒼 どう思う」

「うん 僕は、あんまり、あの人のこと知らないから何とも・・ でも、ナカミチのことを昔から知っていて、美鈴のこと応援はしてくれているのは確かだ 美鈴がいいのなら、それも手かもな」

「実はね あの人 昔から、バイクにも乗っていて 確かに 昔は・・チョットということあったみたい でも、明璃軍団の連中とも関わりあるみたいだし、彼らから聞いたんだと思う 清音のことも、少し相談したのよ」

「そうなのよね 明璃 男の子とつるんで遊ぶの、いい加減にしなさいと言って居るんだけど・・」

「でも 明璃ちゃんは しっかりしているし 良い子よ」

「で 光瑠 ここは 美鈴のことだし とりあえず 美鈴の思う通りでいいか?」

「そうね 美鈴が言うんだから とりあえずね うまく、いくこと願うわ 何かあったら、又、言ってちょうだいね」と、光瑠も納得した。 

10-⑶
 私 堤さんにお願いするので、お伺いしていた。

「堤さん お忙しいのに、すみません」

「べつに構わないよ 設計のことかな?」

「ううん こんなこと、私 堤さんにしか頼るひと居なくって・・」

「いいよ 妹さんのことだろう 話してみてよ」

「私 やっぱり会いたいんですけど、もっと、気になっているのが、あの子の状況が変な男に掴まっているんじゃぁ無いかってこと」

「そうだよな 良くないと思う 俺に任せてくれるんだったら 何とかしてみるよ」

「お願いします 私なんかが出て行って、変に今のお店に影響すると・・怖くって」

「そりゃそうだよ 特に、その男にはかかわらない方がいいよ 任せとけって 力になるかどうかわからないけど」

 そのやり取りを、事務所の机で聞いていたのだろう、堤さんの奥さんが

「あんた 昔の仲間と 又・・ 美鈴さんの頼みだから仕方ないけど あんまり無茶しないでよ」と、釘を刺していた。

 それから、数日後、堤さんがお店にやってきた。気を聞かせてくれたのか、設計の話でと、表に連れ出してくれた。待合所で倉庫のほうを向いて、話始めたのだ

「昔の仲間に会って、いきさつを話したんだ。そーしたら、俺の前に、その男というのを呼びつけてな 関わっている女のことを聞き出したんだよ そしたら、奴は俺のコレですよ と小指をたてて、自慢げに話出していたんだ だけど、俺のダチは怒りだして、お前はまともに働いてもいないくせに、真面目に働いている女を食い物にしている奴は最低だと・・もう、別れて、今後、関わるな 直ぐにな とも・・ あの娘は俺の仲間の昔の女だ と俺のほうを指さして言うんだよ おいおいと思ったけど・・その場のこと考えるとな― それから、言う事聞かないとみんなに言ってお前の相手をしないようにするぞー それだけじゃぁ済まないのはわかっているよなー と脅していたんだ。そーしたらな 奴は 何にも、言えなくなって、ビビってしまって、謝って、あわてて帰って行ったよ」

「堤さん 本当に有り難うございました 忙しいのに」と、深く頭を下げていた。

「もう、奴のことは、大丈夫だと思うけど・・謝らなきゃならないのは、俺のほうなんだよ すまない 店長 俺は、勝手に妹さんに、会ってしまったんだ つい、勢いで・・と言うか 我慢できなくて・・」

「えぇー 会ったんだー 話したのー」

「うん 申し訳ない 出しゃばってしまって・・ でも、ちゃんと名刺出して、礼儀正しくな 妹さんの店を終えるの待って」

「うーん でも、私も 堤さんにお任せしたんだからなー」

「ごめん やりすぎかなぁー 嫁さんにも叱られた」

「で どんなお話?」

「まず 付き合っている男のことから、話した。もう、関わりがなくなるだろうって 彼女は困惑しているみたいだったけど、少し、安心もしていたみたいだった それで、本題を切り出した 店長が探していることを そーしたら」

「そーしたら なんて?」

「うーん あんまり、会いたくないって 店長のこと、恨んでいるんだってさ」

「えー どうしてー? 私がー」

「あの時 彼女も迷っていたらしい どうしたらいいのか、だけど、お姉ちゃんは構ってくれないし、結局、お母さんの言うままに連れて行かれてしまったらしい だけど、お姉ちゃんと離れ離れになってしまって、ずーと泣いていたらしい お姉ちゃんは私を見捨てたんだと」

「そんなー 私 あの時、お父さんのことが精一杯で・・ナカミチのこともあったし・・ そうよね、構ってあげれなかったわ やっぱり、私が悪いのよね なんで、もっと、清音のことを・・」と、私、涙が出てきていた。

「そんな 泣くなよ 店の人に見られるじゃぁないか」

「だってね だって 私 どうしたらいいのー」涙が止まらなくなっていた。堤さんは、ハンカチを私にわたしながら

「ちょと 待ってよ なんか、俺がいじめているみたいだよー それでね、俺は、店長の気持も伝えておいた あの時は、仕方なかったんだと だから、一度、会って、お互いの気持をぶつけあってみたらどうかと それとね、お母さんのことも聞いてみたんだ そーしたら、あの人のことは、もう、忘れましたと冷たく言っていた。もう、誰も頼らないで、私は独りで生きていきますとも言っていたよ」

「そうなの なんかあったんだね お母さんとも」

「みたいだよ それ以上は話したくないみたいだったから でもね、昔のナカミチの時のお父さんの話を持ち出して、元気になって たまに きよね って言って会いたがっているって話したら、反応していた。会いたいと思っているんじゃぁ無いかなぁー」

「そう やっぱり お父さんかぁー」

「いや ああは言っているけど、お姉ちゃんにも会いたいに決まっているよ 今は、バツが悪いだけで・・ナカミチが復活したことも、うすうす解っていたとも言っていたよ いつかは と思ったこともあった ということまで話し出してくれた」

「そう 少しでも、会いたいという気持ちがあってくれているんだったら 良かった」

「だからね 俺は、この際、生まれ変わった気持ちにならないか 別の仕事も見つけるし、住むところも、独り暮らしのおばぁさんが居て、一緒に住んでくれる人がいたら、大歓迎だと言う人も居るんだ。どうだろう、考えてみても良いんじゃぁ無いかな 考えて 又、来週、気持ち聞かせて と言ったんだけど 彼女 俺の名刺 しまっていたから その気無いわけじゃぁ無いと思うよ」

「なによー 堤さん そのー 独り暮らしのおばぁさんって もしかして 田中さんのこと? 仕事って何よー」と、少し怒っていたのだが

「まぁまぁ すまん 出しゃばりすぎなんだよなー 怒るなよー」

「ちがうの 私 怒っているのは そこまで、してくれるなんて・・ 私 奥さんに何て言われるか 叱られちゃうよー 田中さんのおばぁさんだって」

「いいんだよ 美鈴さんのことならと、納得してくれているよ」
 

10-⑷
 数日後、私は、近い神社にお願いに行って、清音と元のように暮らせますようにとお願いした。その足で、堤さんのとこに行った。堤さんは、居なかったけど、私は、奥さんに用事があったのだ。

「今度のこと、ご迷惑お掛けして申し訳ございませんでした」

「あら いいのよ わざわざ来てくれたのー 主人、出掛けて居るのよ」

「いいえ 今日は、奥様に お礼をと思って・・」

「なに言ってんのよ 私はなんにも・・」

「でも 前に 私が来た時 後押ししてくださって・・ 有難うございました」

「美鈴さん 丁寧よね 主人が、気に掛けているっての わかるわー 最初のうちは、ちょっと勘繰ったけど、今は、あの人の男気なんだなって」

「すみません 私 甘えてしまって・・」

「いいの いいの あなたと関わってから お仕事も増えてね 忙しくなって、ウチも助かっているのよ」

 私は、蒼と光瑠にも、堤さんが清音のもとに行ってくれたこと、知らせておいて、1週間後に又行くと言っていたことの連絡を待った。

 数日後、堤さんがお店に来て、外に呼び出してくれた。

「昨日 行ってきたんだ 会って来たよ 嫁さんも、一緒のほうが信用してもらえるからって、行ってくれたんだよ」

「えぇー それは、すみません」

「あれから、男は寄り付きもしてないそうだ この前よりも、打ち解けて話してくれたよ 嫁さんが居てくれたお陰かも知れんな 信用してくれてな 半分乗り気になってくれて 嫁さんが、とりあえず 相手に会ってみようよと誘ってくれたんだ それで、案内した」

「えー 田中さんに・・」

「そうだよ 田中さんとこ行くとな 連絡してあったから、待っていたように歓迎してくれて・・
それどころか、あのばぁさん もう、部屋を用意してて、ベッドも置いてあった すっかり、その気になっているんだよ」

「うわー 田中さんらしいわねー どうしよう」

「だろー だけど、来てくれるなんて、うれしい うれしいの一点張りでなー 孫が来るんだから当たり前でしょって 清音ちゃんも、戸惑っていたよ」

「そうだよねー あの人に言われると、押し切られてしまうのよ」

「それからね 貸農園をやっている人のところに連れて行った 年寄夫婦がやっていて、若い人を欲しがっていたから」

「何で 農園? 勤め先? そんなのー」

「あのさー いきなり、ナカミチでって行かないだろう? それは、清音ちゃんにも、抵抗あると思ったから それに、嫁さんとも相談して、サービス業は人に会うのが多くなるだろう 今の、清音ちゃんには、そういう所の方が良いかなって・・ 本人も興味あるみたいだったよ」

「そうなの あの子がね でも、まるで経験もないし」

「でも、連れて行くと 農園の木下さんって言うんだけど 最初から教えるし、大丈夫だよって それに、農作物を作るんじゃぁ無くて、貸した土地の管理だからと・・ 清音ちゃんも、陽のあたるところで働けるのも、好いかも・・って言っていた」

「そう じゃぁ 全て、その気になったのかしら」

「それは、まだ、わからない でも、帰りに 堤さんには、ここまでしてくれて感謝していますってお礼を言われたし、田中のおばあさんは、とっても気さくだし、あんなにしてもらえるって信じられないって 断るのって悪いよねー ってつぶやいていた それから、どうして、ここまで堤さんは私に親切にしてくださるんですか 美鈴さんのためですか? って聞かれたんだ」

「それで なんて?」

「突然だったからね 考えたんだけど 美鈴さんの為ってより 昔、ナカミチのオーナーにお世話になったので、その娘さんのことだから ナカミチが復活したので、応援している人は多いんだよ 田中さんもそのひとり と答えたんだ そーしたら、今のナカミチはお父さんがオーナーなんですか と考え込んでいた」

「そうかー どういう気持ちなんかなぁー」

「うーん でもね 最後に、考えさしてもらってもいいですか 又、こちらから、連絡します すぐに、今の勤め先も辞めるわけにもいかないので・・それに・・私、ずーと 独りで生きて行こうと決めていたのに・・こんな・・親身になってもらうなんて・・初めて・・と言っていた」

「そうですよね いきなりって言ってもね」

「うん 連絡、待とうよ 感じとしては、その気になってくれていると思うよ それに、嫁さんが言っていたけど、田中さんとこから、農園に行く前に、あの子、それまでの濃いお化粧を落としていたんだって その気になっていたんじゃぁないかなー ってさ 素直で良い子だって」

「堤さん 有難うございます 私 お願いして良かった 又 助けてもらいましたね 奥様にも、お礼言っておいてくださいね」

 私、何かすっきりとしていた。待とう すくなくとも、悪い男からは、逃れたんだ。

10-⑸
 水曜の夜、美鈴といつものように待ち合わせをしていた。今日は、スェットスーツみたいなので来ていたので

「美鈴 もっと 色気のある格好で来いよ たまに、会うんだから」

「あっ ごめんね なんだか、忙しくね ごめん ごめん」

「べつに、良いんだけど 可愛けりゃ―」

「うふっ ありがと 今日 田中さんちに行ったんだ そしたらね 清音が突然、尋ねてきたんだって 何となくケーキを持ってきたって言ってた あの子 だいぶ 気にしているみたい」

「そうなんか うまく行くかなぁー」

「うん きっとね 田中さん 良い人だもの それにさー 清音が一緒に住んでくれたら、私達も安心じゃあない?」

「だけど、美鈴は僕等の家に清音ちゃんの部屋も用意しようと思っていたんだろう?」

「うー ばれていた?」

「美鈴の考えそうなことだよ わかるよ」

「さすが 私の旦那さんだね」

「まだ 君の彼氏 だよ」

「いいじゃん 私は もう 蒼のもの だよ」

「だよなぁー 着工 いつになる?」

「来週 あたり それで、急ぐって堤さん 言って居たから 完成は、それでも7月末だって でもね 私 同じなら 9月の開店記念に合わせようかと思って」

「そうだよね 夏って 客脚もいまいちかも知れないね」

「そうそう 広瀬さんって覚えている? 蒼が前の私の家の後に住んでいる人 私を探して、訪ねてくれたんだって」

「あー そんなことあったなぁー」

「あの人がね 役所でしょ 融資のことで、いろいろやってくれて、街づくり応援資金というので融資受けられることになったのよ 連絡してくれた」

「そうなんか あの人がー 美鈴はいろんな人に応援してもらえるなぁー やっぱり、魅力があるんだよ」

「そんなことないよー 蒼がいろいろやってくれたから」

 美鈴はメモのようなものを折りたたんで、僕に渡してきた。

「後で、読んで そう 明璃ちゃんがね 本内定決まってね 3月に東京行くので、昇二に連絡したらね 会うのは良いけど、一緒に泊れないって言われたって、プンプンしてたのよ 昇二もどういうんだろうね 久々に会うのに・・」

「うーん あいつ 意外と固いからなぁー 光瑠の妹だから、きちっとしたいんだろう」

「ねぇ あのふたり まだ なんにも ないの?」

「うー なんにもって? 美鈴が考えているようなことないよ」

「なに それ 私 なんにも・・ そうなんだー あのね さっきの返して」

「なに言ってんだよ 情緒不安定」と言って返さなかった。

「清音ちゃん 連絡あるといいね」と言って別れた後、開いてみると

(蒼といつも一緒に居たい 愛してほしい やっぱり、のめり込んでしまった 責任取れ)って書いてあったのだ。

10-⑹
 それから、しばらくして、堤さんから連絡があった

「清音ちゃんから しばらく、自分だけでやってみたいと 他人が、親切にしてくれたのは、初めて感じました。だけど、ごめんなさいと 丁寧に謝っていた 仕方無いよね 彼女なりの決断だろうから さすが、店長の妹だよ」

「そうですか でも 自分で頑張るんなら、仕方ないですよね」

「でもね たまに 田中さんのところには、遊びにいくっていう話だ」

「そうなんだ じゃぁ 私 かちあわないように、しなきゃぁね」

「うーん でもな いつかは、話し合う機会、必要だよね」

 それから、しばらくして、工事の起工式も終えて、基盤工事と同時に倉庫の改造も進行していた。堤さんが会いに来て

「清音ちゃんから、又、連絡あってな やっぱり、お世話になりますって 田中のばあさんが、清音ちゃんの勤め先に訪ねて来たそうだ 客として それでね、かつ丼やなんだけど、かつ丼頼んだんだけど かつ丼が食べたくなったから、来たんだと言って居たわりには、ろくに食べてなかったそうだ それでね、清音ちゃんは、田中さんと暮らしたいと思ったんだって あんなに、自分のことを心配してくれて、暖かい人となら、独りっきりより、楽しいだろうってさ」

「そうなのー 田中さんがー そこまで、心配してくれて・・」

「堤さんも、木下農園の人も親切なんで、安心して働けるようだし とも言っていた」

「本当に堤さんのお陰です いつも いつも お世話になってしまって・・」

「ただね しばらくは、美鈴さんに会いたくない って 言っていた 距離を置きたいそうだ 田中さんにも、そのことはお願いしたと言う事なんだ」

「そうですか それでも、近くに居るんなら、安心できるし ただ、お母さんとのこと聞きたいけど・・」

「そういうことも、徐々に話してくれるよ 今は、とにかく、平穏な生活を送れるように、見守っていこうよ」

「そうですね 私も、頑張る」

10-⑺
 金曜日の夜、会社の帰りに久々にナカミチに寄ってみた。美鈴が迎えてくれたが、調理場には、晋さんが居た。

「ねえ ご飯まだでしょ 何にする?」

「うん いつもの肉がいいなぁ ご飯は要らないや」

「そうなのー ご飯食べないのー」

「うん ビール 飲みたいんだ」

「わかった そのかわり、野菜多い目にしておくね」と、言って、調理場のほうにいって、晋さんに伝えていたみたいだ。

「晋さん 交代したの?」

「ウン お父さんが朝の方が良いって言うしね、武君も慣れて来たし、彼も若いし、夜いろいろとあるでしょ だからね」

「そうだね 朝は、舞依ちゃんと若い者同士のほうが良いかな」

「あのね この前、田中さんと仲良くしている道代さんが来てくださってね 田中さんがすごく清音のこと、みんなに自慢しているんだって 本人も最近すごく元気になったってっ 何だか、親戚の娘だって言っているみたい 道代さんも、近所の人にもいつも笑顔で挨拶をして、気持ちの好い娘だって言ってくれていたのよ」

「そうなんか 安心したね 元気そうで」

「そう 堤さんにも、それとなく聞いてみたんだけど 農園でも、動きまわっているそうよ 今は、大根とか白菜の収穫に来る家族がいてね そこの子供達の面倒もみて人気があるみたい 良かったわ 私、あの子がそんなことするって思ってもみなかったから・・」

「そう 僕も、知っている清音ちゃんって どっちかというと おとなしくて、静かなイメージだったけどな」

「私の知らない間に 変わっていったのよね 私の知らない清音がいるわ」

 晋さんは、気を利かせたのか、閉店のお店の外の電灯とかを落として、早々に帰って行った。僕は、美鈴を抱き寄せ、長いこと唇を合わせていたのだが、胸に手を持って行った時

「あぁーっ 蒼 もう、それ以上は・・ 私 我慢できなくなるし・・ それに お店の中じゃぁ ダメ ごめんね あんなこと書いてしまって・・」

 次の日の朝、休みだったので遅めに起きて行くと、お母さんに

「蒼 そろそろ 美鈴ちゃんとのこと ちゃんと 決めないと」

「うーん 今はなぁ 家が完成する目安が決まったらね あと 美鈴が妹さんと話し合う機会の後の方がいいと思ってさ」

「まって その妹さんって何よー どういうこと?」

「うん 探していた妹の清音ちゃんが近くに住んでいるんだよ 1ト月位になるかなー」

「なんなのー それって 聞いてないじゃぁ無い!」

「うーん 様子見 だったし いちいち言う事じゃぁないじゃん 美鈴のプライベートなことだし」

「なによ 美鈴ちゃんって ウチの娘なのよ 何で、知っちゃぁいけないのよー」

「知ってダメってことないんだけど 美鈴の口から聞けよ 微妙なんだけど 僕から話すことじゃぁ無い気がしたんだよ」

「そう じゃぁ 美鈴ちゃんに聞いてみるわ」

「あー それも、もう少し 待って 今は、とにかく そーっと しておいてやりたいんだよ」

「なんか よく わからないわねー でも、見つかったんだね 妹さん お母さんも?」

「うん そこのところ よく わからないんだ 複雑な事情があるらしくって 美鈴もわからないんだ それにな まだ 美鈴と清音ちゃんは接触してないんだ 事情があって だからさー まだ そのことは そーっと しておいて」

「ふーん そー言うならね 仕方ないわね でもね 私 美鈴ちゃんの花嫁姿 どんなのが良いかなって楽しみなのよ やっぱり、白無垢かなとか ドレスはどんなのがいいかなぁー って」

「あのさー そんなのは、お母さんが考えることじゃぁないんじぁ無いの?」

「だってさー あの娘のお母さんなんだから 当然でしょ」

「あのさー それも、先走んないでよね 夢見るのは勝手だけど」

「そう だってさ お兄ちゃんも何の音沙汰もないでしょ あの子 昔から女っ気ないし あなただって 家建てて 別に住むっていうし 男の子ってつまんないのよね 結局、出て行くんだし だから、美鈴ちゃんが可愛くってしょうがないのよ 小さい頃から知っている娘だし あっ そうだ 一度 むこうのお父さんとも、お会いして、一度お食事でも・・ 美鈴ちゃんと相談しておいてね」

10-⑻
 3月も中頃、僕は、上司の友部さんから

「最近 愛ちやんの様子がさー 何か あの子 発情期みたいなんだけどね」と、いきなり言われた。

「なんか ありましたか」

「あの子ね 最近 男と女のことばっかり聞いて来るのよ 初めてはどんなだったとか きっかけはなんだったんですか とか」

「ウー過激ですね」

「そうでしょ 最初のうちは、良かったけど そのうち 返事に困るよね この前なんか 愛ちゃん 男の人とラブホテル泊ったんだけどね、こっちが裸同然なのに手も触れなかったんだって 私 そんなに魅力無いですかって 私、覚悟していたのに、どうすればよかったんでしょうとかね どう言ったらいいのかわかんないよね 内緒よ この話」

「えーと その時はなんか事情があったんでしょうね 何か、言ってました? 男のこと」

「ううん 昨日なんてね 私にね 今でも、してるんですか ってね 私 いい加減にしなさいって 怒ったのよ それとね、あの子、まだ、経験ないんだって」

「そー なんだ」

「そう 可愛いのに、彼氏もいないんだって それとね、製造の華ちゃんね 周りの男どもがもめているのよ 誰がものにするかってね だけど、本人は迷惑しているみたい 来週は、今年入る子が研修兼ねて、やって来るでしょう 女の子が二人 また、なんかね、あるかもね そういうこと、注意すると、最近は、パワハラとかセクハラとか直ぐに言うでしょ あなたも注意してね あんまり、親切にするのも考えものよ こっちが、いくら相手のことを考えてと言っても通用しないんだから 今は、よく考えなきゃね」

「はぁ 気をつけます」と、しか言いようがなかった。少なくても、愛ちゃんとのことばれていなかったみたいだ。なんにも、やましいことは、ないんだが・・。

 今晩は、美鈴と天満で会う約束をしていた。この前の夜、「又、大阪に出てくるかい?」と聞いたら、小さな声で「ウン 今度は、普通のところ、予約しておく この前みたいなとこ、やっぱり、恥ずかしい」っ言って居たのだ。

10-⑼
 4月になって、新人の女の子が2人入ったのだが、今年は男は居なかった。一週間ほど経った頃、友部さんが会議で居ない時に、愛ちゃんが

「この頃ね 製造の男どもが、相手にしてくんないんだよね からみがなくなって・・ 新しい子 入って来たでしょ みんな、そっちに気とられていて」

「だろうな フレッシュだから・・」

「私も アイドル没落ね ねぇ 蒼君はまだ彼女と付き合っているの?」

「うん 結婚の予定」

「えー 聞いてないよ」

「あのさー あんまり、擦り寄ってくるなよー 誰かに、見られたりしたらさー まだ 日取りも確定していない 会社には、言って居ないんだけど」

「そうかぁー 私 まだ フリーなんだけど 新品だし 駄目?」

「ダメ 愛ちゃん 可愛いんだけどなぁー 誰か居ないかなぁー」と、言って、その場を離れた。

「この頃 あの誠なんかもね 新人の娘 ばっかで 構ってもくれないんだよ」と、まだ、愛ちゃんは後ろから話し掛けてきていた。

 そんな時、製造の華ちゃんが顔を出した。

「ちょっと 休憩ね 愛さんも三倉君も 聞いてよー 荒井さんも中野さんもね この頃 ちっとも、私のこと構ってくれなくてね お昼休みも新しい子にべったりなんだよー もう 私のこと お局様って パートの人が言うのよ もっと年とった人いっぱい 居るのにさー」

「あらら 私も、今その話 していたとこ 華ちゃんが、お局様だったら、私なんか 何とか院の隠居かしらね」 

「そんなー 愛さんはきれいだし もてるでしょー」

「全然 いい女だと思うのにね えへっ こうなったらさー 愛ちゃんふたりで合コンしようよ 製造のバカ男は相手にしないで 華ちゃんなんか、スタイルいいし、短いの穿いて行ったら、最高よ」

「えー 合コンですかー」

「そう そうだ、蒼君 大学の同級生とかいいの居ない?」

「えー 僕ですか あんまり、友達居なかったからなぁー」

「なーんだ いい大学出てるのに 役たたずね」

「そんなー 八つ当たりしないでくれよな 確かに、愛ちゃんは発情期なんかも・・こんな時は、いい加減な男に掴まったりするんだよなー だけど、あんまり、立ち入ることも出来ないかー」  

第十一章

11-⑴
 4月中頃、明璃ちゃんがバイトに来た時

「店長 私 明璃ちゃんとお友達になりました」と、いきなり言ってきた。

「えー どうしてー 突然」

「うん ウチの両親が農作物作りたいって言っていたから、木下農園勧めたの。それで、いろいろとやっているうちにね、清音ちやんが面倒みてくれて・・それで、私も一緒に行っていたから」

「あのー それって・・・」

「うん 店長の言いたいこと、わかる お姉ちゃんに散々、叱られたから・・ 出過ぎたマネよね でも、タイミング良かったんだもの 春でしょ 虫たちも飛びまわるんだよ それに、清音ちゃん 同じ年頃のダチも居なくって、可哀そうじゃぁ無い 年寄相手ばっかりで」

「そうねぇー でも、大丈夫?」

「なにがー あぁー この前、打ち明けたの 店長の友達の妹だってこと 知っていたってー 中学の時、変わっていたからだって そんなに、私、変だった? 最初は、警戒したんだって だけど、関係ないよ そんなこと 今は、清音と明璃よ 今度ね、ふたりでツーリングして、くろんど池に行って、ボートに乗るんだ」

「そう ありがとう そのツーリングって あの子もバイク?」

「うん おばあさんが買ってくれたんだって 原付バイクだけどね でも、この辺走るのは、立派なもんよ」

「そう 清音 なんか言っていた?」

「私ね 最初 見た時、ミニ穿いて、チャラチャラしたの身に着けて、男にベタベタしゃがって、やな奴って思ったんだけどね、でも、話すとね、気が合ってしまって 今は、ダチって感じ だから・・ 私、そういうこと関係ないって思っているんだ・・わざと・・」

「ありがとう 明璃ちやん いつまでも、友達で居てあげてね」

「ガッテンだ 美鈴さんって 少し、なんだろうなぁー お姉ちゃんと違うのよね だから、親友なんだ」

 それから、5月初め、田中さんから、連絡があって、相談したいことがあるって言っていた。清音を養子にしたいと言ってきたのだ。

11-⑵
 田中さんが、相談事があると言うので、お家を訪問していた。5月連休中だけど、農園も忙しくって、清音は仕事に出掛けて居るからというので・・

「どうなんですか 清音」

「優しいよ いろいろと気つかってくれてね それにね、あの子、今、英検と介護の勉強しているんだって 私のこと、将来、必要になるかも知れないからだって 優しいのよ」

「そうですか もともと 勉強ばっかやる子でしたから」

「この前ね 私と暮らすようになって、今までで一番、ゆったりとしているような気がするって ずーと気が張っていたんだって 良かったわ それでね、最近、ぽつりぽつりと昔の話をしてくれるようになったのよ」

「昔って・・ お父さんが倒れた時のこと?」

「うん それよりも 前のことから あの子ね 気が付いたら、お姉ちゃんが勉強出来て、賢いって周りから言われていたんだって だから、自分も負けちゃぁいけないと、頑張るしかなかったんだって 辛かったらしいわ」

「あの子 そんなこと考えていたんだ」

「だけどね 成績下がるとお母さんから、お姉ちゃを見習いなさいって、言われたんだったって お父さんは、人それぞれに個性があるからって、いつも、かばって、可愛がってくれたらしいよ」

「それも 知らなかった 私」

「お父さんが倒れた時もね、お母さんが「あの人には、他に好きな人がいるから、その人に面倒みてもらえば良いじゃあない」って、離婚の話を一方的に進めたらしいんだけど、その時、清音ちゃんは、頼りにしていたお姉ちゃんが私のことを構ってもくれなくて、誰にも相談できなくって、お母さんの言うままに、何にもわからないまま、付いて行ったそうよ だから、その時のこと、美鈴ちゃんには根に持っているんだって それは、違うのよって、私からも言ったんだけどね」

「そうなんだ だから・・あの子 私に会いたくないんだ でも、お父さんの好きな女の人が居るっていうのは、誤解です。 だけど、そうだよね 確かに、あの時、私 清音のこと全く考えていなかった 悪いのは、私です」

「美鈴ちゃん それは・・ 違うよ あなただって お父さんのことで必死だったと思う 仕方ないことよ 自分 責めちゃぁだめよ 美鈴ちゃん 頑張ったんだから」

「だって 清音も大事な妹なんだもの・・」

「違うのよ あの子が傷ついたのは・・ 離れ離れになって、お母さんと上野さんって人と一緒に暮らすようになって、しばらくすると、お母さんが妊娠しているってわかったんだって、それでね、離婚する前からそういう関係だったんってわかって、誰も、信じられなくなって、中学卒業したら家を飛び出して、ひとりで生活するようになったそうよ だけど、お金もないから、男のところを渡り歩いたそうよ そんなだから、余計にあなたのこと、逆恨みしているみたい これは、清音ちゃんから、口留めされているんだけどね」

「清音 ごめんね そんな 辛い思いさせてしまったんだ」

「美鈴ちゃん 私ね あの子のこと 今、大切に思っているわ あなたも好きよ ふたりがこのままじゃぁいけないと思うの だから、清音ちゃんには、内緒だけど、この話をしたのよ やっぱり、ふたりで話合う機会が要るんじゃぁないかと」

「でも そんなに私のこと嫌っているんじゃぁ」

「大丈夫よ 最近 あの子 お友達も出来たって 明るいんだから もう、そんなこと、気にしてないみたいよ 年寄りばっか相手じゃぁね それと、ポツンと お父さん、元気になったんだぁーって 気になってるみたい 会いたいんじゃぁないかなぁー」

「お父さんも ポツリと言ったりするんですよ 清音って 思いだしているんじゃあないかなぁー」

「私ね あなた達 ふたりを本当の孫みたいに思っているの だから、清音ちゃんに 養子の話したの だって、これから、保証人とか必要になるでしょ 年寄りだから、役立つかわからないけど  そーしたらね お父さんとお姉ちゃんに相談してみないと って 言っていたわよ それ以上、話しなかったんだけどね あの子の思っていることわからない でも、その気あるんよねぇー」 

「田中さん 本当にありがとうございます 清音のことだって そこまで、思ってくださって 私達 こうやっていられるの 田中さんのお陰です」

「なに 言ってんの 元はと言えば あなたが、頑張っていたからでしょ 年寄りのやることなんて、しれているわよ」

「ありがとうございます 養子の件は おりを見て、清音と話し合います」

11-⑶
 連休も終わって、最初のお店が休みの日。蒼がお父さんに挨拶をしたいと言うので、私達のアパートに来ることになっていた。お昼ごはんも一緒に食べると言っていたので、私は、朝からハムカツと玉子サンドとグラタンの準備に追われていた。多分、ふたりして飲むことになるから、そんなものが良いかなって思ったのだ。あとは、塩辛にとびっこを和えた。

 迎えに行くと言ったんだけど、直接来ると言って居た。だけど、スーツじゃあ無い方がいいよねと言ったから、トレーナー姿で来てくれた。お父さんも朝から落ち着かなくて、散歩に出かけて、帰りに焼きとりを買って帰ってきていた。

「いらっしゃい 今日 休み取ってくれてありがとうね」

「良いんだよ 有給たまっているからね 美鈴こそ、ゆっくり寝ていたいんだろうに、すまない」

「どうしてー 私 いつも 5時に起きているよ お父さんなんか4時よ」

「蒼君 まぁ あがってくれよ 狭い所で悪いがな」と、お父さんが声を掛けてた。

 部屋は、1DKの間取りで、確かに狭かった。部屋に入ると、直ぐにキッチンダイニングでその隣に6帖の和室があるだけだった。美鈴とお父さんとは、いまだに一緒の部屋で寝ているみたいなのだ。そのことは、以前にも、聞いたことがあったが、贅沢出来ないと言っていたのを思い出した。ふたりっきりになってからは、ずーとそうだと言っていたのを聞いたことがあったのだ。

 そのダイニングに案内されたのだか、テーブルの上には、サンドイッチとサラダが並んでいた。

「中道さん 僕は 今日 美鈴と結婚したいので そのお許しをもらいにきました」と、直ぐに切り出した。

「そうか わかっている 美鈴から聞いた 小さい頃から、美鈴から君のことは聞いていたし、この子は 蒼君のお嫁さんになるって言っていたこともあった 良かったよ」

「お父さん 私 そんなこと言ったことないよー」と、美鈴は・・

「この子は、親の私から言うのもなんだが、とっても気持ちの優しい子だ そんな子が好きになった人だから間違いないと思う 親にとっても、こんなにうれしいことは無い 私は親らしいこと何にもしてやれていないんだ どうか 娘をよろしく頼む 君が幸せにしてやってくれ」と、お父さんは、頭を下げてきた。

「お父さん そんなー 私 今でも、幸せだから・・」と、美鈴はもう涙を拭いている様子だった。

「しっかり受け止めて 美鈴さんを幸せにしますから」と、僕も返した。

「頼むぞー 飲めるんだろう? 今日は、祝杯だなぁー」と、もう、お父さんは、グラスを差し出してきていた。

「美鈴 さっきの焼きとり、少しあぶって出してくれ さっき買ってきたところなんだよ うまいんだよー ところで、式はいつするんだ?」と、聞いてきたので

「はぁ 今、建てている 新居 出来るのが 夏頃になるので、その後にと思っています」

「お父さん あんまり、飲みすぎたら嫌よー 蒼も・・」と、美鈴は焼きとりをあぶりながら言っていた。

「ばかやろう 美鈴を守ってくれる人が出来たんだ こんなめでたい事があるかー ワシはもう、いつ、くたばっても良いんだ」

「お父さん もう 酔っているのー まだ、元気でやることあるんだからね」

「そうだね 昔みたいに ナカミチを地域の一番店にしなきゃぁな そーいえば、蒼君の家族も揃って、よく食べに来てくれていたよなー」

「お父さん なんかー 何か、思い出したのー」と、美鈴が料理箸を持ったまま、レンヂの前から寄ってきた。

「うーん 前も、ナカミチがみんなから慕われていたんだよ 今、みたいにな でも、もっと客席は多かったような気がする なんだろうな 妄想なんだろうか」

「ちがう! 妄想なんかじゃぁ無いわ 現実よ お父さんは、私が小さい頃から、お店で頑張っていてくれていたわ 思いだして」と、美鈴はお父さんに抱き着きながら言っていた。

「そうなんか やっぱりか 時々 ふっーと 別の調理場の光景が出て来るんだ」

「そうよ 松永さんなんかも居たでしょ」

「そーいえば 松永さんか うん 居た どうしてだ?」

「だって お父さんと働いていたのよ あそこのお店じゃぁ無くて 昔のナカミチで」

「そうなんか 確かに松永が居たなぁー」

「うん ゆっくり思いだして 蒼 ごめんね ほったらかしにして」

「いいとも 回復にむかってきて良かったじゃぁ無いか」

「うん 蒼が来てくれたお陰かも」と、美鈴と話していたら、お父さんは隣の部屋に移って、真ん中に置いてある小さな座敷机に移って

「蒼君 こっちで飲まないか どうも、そっちは落ち着かなくてな ワシはあぐらの方が性に合っているんだ」と、自分のコップを持っていった。

「そうですか じゃぁ 僕も」と、移った。部屋の隅の棚には、切れたミサンガと貝殻がおいてあった。貝殻は以前に行った砂浜で美鈴が拾っていたものだろう。そういうことを大切にしている美鈴に僕は、魅かれたんだ。そうしたら、お父さんは

「海岸でな 小さい女の子と遊んでいる光景も、時々、浮かぶんだ だけど、どうも美鈴では無い気がするんだよ 美鈴の時は、側にもう一人女の子がいて、芝生に座って何かで遊んでいるんだ 一人は、美鈴なんだけど、もう一人は解らないんだよ でも、仲良く遊んでいた 誰なんだろう」と、しみじみしゃべり出したのだ。

 美鈴はその時、僕の顔を見つめてきた。どうしょうかと言って居るようだったので、僕は・・うなずいて返事をしたつもりだった。

「お父さん あのね 聞いてよ 前も話したけど その子 私の妹なの 清音よ 実は、今は、最近になってなんだけど、近くに住んでいるわ」

「そうか 元気なのか」

「元気に働いているって聞いたわ」

「会ったのか?」

「ううん 事情があってね」

「そうか き・よ・ね なぁー」

11-⑷
 お店は休みの日だが、私は、明璃ちやんが清音を連れてくるというので、待っていた。そのうち、バイクが2台お店の前で停まった。ヘルメットを脱いだ時、確かに、清音の顔が見えた。前にチラッと見た赤茶ではなくて栗色の長い髪の毛を後ろで束ねていた。

「店長 来たよー」と、明璃ちゃんが元気よく入ってきた。そして、その後ろから清音が黙ったまま付いてきていた。

「清音」と、思わず言ってしまったのだが、眼をそむけるように下を向いたままだった。

 明璃ちゃんと並んで、私と向かい合って、座った時も、下を向いたままだった。

「元気そうね」と、声を掛けたけど、黙ってうなずいただけだったのだ。明璃ちゃんが、清音の腕をこつく仕草をしていたけど、やっぱり、黙っていた。

「清音 会いたかったわよ 元気でいてくれて良かったわ」と、言った時、初めて口を開いた。

「ウチはどうでも良かったんだけど、明璃とおばあちゃんが・・ 会わなきゃダメだって・・」

「清音 離れ離れになった時は、本当にごめんなさい 私 あの時、お父さんのことばっかりで・・ 」

「お姉ちゃんは、私なんか どうでも良かったんよ! ほったらかしで、見捨てたのよ! あの時」清音は、初めて、私の眼を見て訴えてきた。

「違うのよ でも、ごめんなさい 確かに、あの時、清音のこと守ってあげれなかった ごめん」

「美鈴さんの知り合いだっていう、堤さんとか田中のおばあさんには、世話になったわ でも、ウチは、まだ、恨んでいるのよ あん時のこと あん時、すごく、不安だったのに 見捨てられたようで・・誰にも、相談できなくて・・」と、清音が言った時、それまで、黙っていた明璃ちゃんが

「チョット 清音 いい加減にしなさいよ! お姉ちゃんが妹のこと見離すわけないじゃぁ無い 美鈴さんが、どんだけあんたのこと心配していたかー 私にも、お姉ちゃん居るけど、私がどんなことしても、いつも、見守ってくれているわ 美鈴さんだって、ずーと、あんたの心配していたのよ! あの時は、きっと、美鈴さんは、お父さんのこと、お店のことでいっぱいいっぱいやったんよ それから、お父さんのお世話をずーとやってきて、ここまで、来たのよ あんた 何をやったの? 大好きなお父さんのこと考えた? 何にも、考えていなかったから、流されてしまったのよ 美鈴さんを恨むなんて、大間違い 自分で何もしないで、他人のせいにして・・ 美鈴さんは、お父さんの世話をずーと献身的に・・ 感謝しなさいよ それくらいのことわからない清音じゃぁないでしょ 私、清音のこと大切なダチだと思っているから、言い方きついけどね 清音にグズグスしてほしくないから」

「明璃 ・・・ お姉ちゃん ごめんなさい ウチ 明璃の言う通りだった」と、ポツリと言って、下を向いたまま、泣いていたみたいだった。

「清音 お父さんも、会いたがっているみたい 元気にしているって聞いて、安心していたよ また、3人で楽しくねー・・ お母さんは・・」私は、席を立って、清音を抱きしめに行った。

「お姉ちゃん ウチ 本当は、会いたかったんだよー お父さんにも・・ でも、あの人のことは・・知らない どうしているか でも・・私は、もう、あの人の子供じゃぁない 会いたくない」と、清音は言っていたのだ。

「よーし 手打ちが終わったところで 清音 バティングセンター行こうぜ」と、明璃ちゃんが突然

「えー なによー それ ウチ 出来ない」

「やってみないとわかんないよ 教えるから 今までのこと スカーっとしようよ」と、清音の腕を引っ張っていた。

「清音 今晩 ウチに来て ご飯、一緒に食べようよ お父さんも、喜ぶよ」と、私が誘ったら

「うーん おばあちゃんも待っていると思うし 今度にするよ そのうち、お店に顔だすから」と、言って、明璃ちゃんと手をつないでいた。

「明璃ちゃん ありがとうね」と、出て行くときに言ったら

「えへー なにがー 普通だよ」と、照れるように言っていたから

「あのね 昇二が好きになったのがわかったよ なるほどなーって」

「やだー それは、言わないでよー」と、清音と連れ添って走り去っていた。その後、私は、涙が出てきて止まらなかったのだ。

11-⑸
 それから、しばらくして、清音が田中のおばあちゃんと一緒に、店に来た。清音が後ろから、腕を組むというか、支えるようにして、店に入ってきた。

「田中さん 清音も・・ いらっしゃい」

「最近 美鈴さんが来てくれないから、食べたくなってね 清音ちゃんに付き合ってもらったの」

「ごめんなさい 私 気をきかせたつもりだったんですけど すみません」

「いいのよ お陰で、清音ちゃんが こうやって、付き添ってきてくれるから」

 私は、まだ、清音には、気楽に声を掛けれなかった。それは、向こうも同じなんだろう。田中さんは、オムレツとクリームコロッケ、清音はハンバーグとクリームコロツケを注文してきた。田中さんのは、シニァメニューだ。

 清音は、しきりに、調理場のほうを見ていた。お父さんを見つけたいのだろう。

 料理ができるまでの間、舞依ちやんも、ふたりのほうをしきりに見ていた。

「舞依ちやん あんまり、じろじろ見ていたら失礼よ」と、私が注意すると

「店長 あの子 似てるんですよね 店長に・・ 気づきました?」

「そうよ 当たり前じゃぁない」と、少しして、料理が出来上がったみたいで、私は、お父さんの側に行って

「お父さん あそこに、清音が来ているのよ このハンバーグ、清音が注文したの お父さん 持って行ってあげて」

「清音か 本当なのか 会えるのか」

 私が、田中さんの分を出して、お父さんは清音の分を厨房から持って行った。

「お父さん」と、清音は言ったきり、出されたハンバーグを見つめていた。

「清音 やっぱり 清音だ 元気で良かった きれいになったなー」と、お父さんが言った時、清音はお父さんの手を両手で握り締めて

「お父さんも元気になってくれて・・ ウチ 何にも お父さんのこと、お姉ちゃんに、任せっきりで・・ごめんなさい」清音は泣き出していたが

「清音 何を言っているんだよ お前だって、苦労したんだろう ほらっ、もう、ワシは、この通り、元気でやっているよ」と、清音の背中をポンポンと叩いていた。

「良かった これ、お父さんのハンバーグ 久し振りだねよ 又、食べられるんだ うれしい」

「あぁー うまいぞー 追加しても良いから、ゆっくり、食べてくれ」

 お父さんが、厨房に戻る時、涙を拭いているような仕草が見えた。私も、涙が滲んできていたんだけど、舞依ちゃんが側に寄ってきて

「あの人 店長の妹さんなんですかー あの うわさの あの向かいの人、店長のおばあさんですか?」と、聞いてきたが、私は、答えられなかった。ただ、うなずいていたのだ。田中さんもハンカチを清音に渡しながら、何か言っているようだ。清音はハンバーグを口に運んでいたが、それでも、涙が止まらないようだった。

 食べ終わる頃、私は、お茶を入れて、お出しした。

「美鈴ちやん だいぶ、工事進んだわね」

「お姉ちゃん 結婚するんだよね」

「うん でも、清音の部屋も用意してんだよ だけど・・」

「ありがとう お姉ちやん だけど 私 おばあちゃんと、一緒の方が楽しいもん だってさー 旦那さんとイチャイチャしてんの見るの嫌だもん」

「清音ちゃん」と、今度は、田中さんが言葉を詰まらせていた。

「わかったわ 清音 あなたの思ったようにすれば良いと思う あのこと 私から、お父さんに言っておくわ 貴方がそう決めたんだから、それが一番いいと思うの お父さんは、少し、寂しい気持かもしれないけど、今後は、会えるわけだから、それに、私達が側に居るし」

「ありがとう お姉ちゃん でも、お父さんは、お父さんよね お姉ちゃんも」

「当たり前じゃあない 大事な妹に変わりないよ」

 その後、やっぱり、田中さんを支えるようにして、清音は帰って行った。

「店長 どういうこと? みんな固まっていましたよ」と、舞依ちゃんが言っていたけど

「うん そういうこと お騒がせだったわね」私は、込み入ったこと言う気になんなかったのだ。

11-⑹
 お店の完成は、お盆前の予定だったが、私が、営業は何とか休まない形で続けたいと言ったものだから、色々と工夫しながら、やる形になったもんだから、遅れて9月初めになるということになった。
私は、それでも良かったのだ、1周年に間に合えば。新居の方は、8月末に完成するという予定だった。

 蒼のお母さんが、私のお父さんと、一度、顔合わせというか、会ってお話もしなければと言うので、一緒に食事をすることになった。お店のお休みの時で良いというので、蒼の仕事帰りを待って、お寿司屋さんの2階の個室を予約してくれていた。

 私は、白いレースの襟の付いた紺のワンピースがあったのだけど、お父さんはダークブラウンのブレザーしか無くて、それでも仕方ないかと思って、ノーネクタイで、予定のお店に出向いて行った。もう、先に、蒼のご両親は着いていたのだ。

「すみません お待たせしてしまって」と、私は、部屋に案内された後、言ったのだが

「いいのよ まだ 約束の時間前だし 蒼も帰ってきていないから」と、お母さんが言ってくれた。

 その後、お父さんが挨拶をして、座ったのだか、蒼のお父さんが

「飲み物は何がいいですか」と、いきなり聞いてきた。

「はぁ お酒で・・」と、うちのお父さんたら・・。私は、お父さんの脚をコツンとしていた。

「じゃぁ 熱燗を頼んでくれ」と、お母さんに言っていたが

「いゃ ワシは いつも冷なんですわ」と、又・・

「お父さん 飲みすぎちゃぁ 嫌よ 今日は・・」と、私、留めたんだけど

「いいじゃぁないか 美鈴さん 特別な日なんだから」と、蒼のお父さんも、その気になっていたのだ。お母さんは、電話でお酒を冷でと氷とお水を、それとウーロン茶を注文していた。

 お酒が運ばれてきて、その後、直ぐにお刺身と天ぷらが来た時、蒼が顔を出した。それまで、あまり、何を話していいのか、みんな戸惑っていたから、丁度良かったのだ。

「あー ごめん ごめん 1本乗り遅れてねー」と、言いながら入ってきた。蒼は着ていたスーツの上着を脱ごうとしていたので、私は、思わず、その上着を受け取ってハンガーに掛けにいった。

 蒼がビールを頼んで、改めて乾杯をした。

「美鈴さんは、本当に気立てが良くて、うちの奴も仲良くしてもらっているんですよ そんな人が蒼の嫁になってくれるんで、嬉しく思いますよ」と、蒼のお父さんが言うと

「この子とは、気がついたら、二人だけで生活していて、それ以前の記憶を失くしていまして それから、ずーとワシの世話をしっぱなしでね、ワシはなんにもしてやれなくて・・・やさしい娘なんですよ どうか、よろしくお願いします」と、お父さんは頭を下げていたので、私も、あわてて頭を下げた。

「ふたりとも それで 式は決めたの?」と、お母さんが聞いてきた。

「ううん 8月の末あたりになるかなー そろそろ決めなきゃあね」と、蒼が私の顔を見ながら言ってきた。

「もう 式場なんか いっぱいヨ 早く、探さないと」

「でも、そんなに呼ぶ人も居ないし 小ぢんまりとしたものになると思うよ 美鈴の方が、多くなるかも」

「私だって 2.3人よ 親戚も居ないし」

「美鈴ちゃんは、どんなのが希望? 内掛けとかドレスとか」と、お母さんが聞いていたが

「私 あんまり 考えていないんです あんまり、お金かけられないし」

「でもね 一生一度のことだしね 蒼が何とかするわよ 可愛い美鈴ちゃんのことだもの」

「ちょっと 待ってよ 僕だって まだ、貯金なんて、そんなにないよー 美鈴には、可愛いく着飾ってほしいけどなー」

「でも 先に 式場決めなきゃあね」

 その間、蒼のお父さんは、昔のナカミチの話を私のお父さんと話し合っていたが、私のお父さんは、何かを思い出してくれたんだろうか

「おとうさん 明日も早いんだから あんまり、飲むのもほどほどにね」って、私は、気になってきた。

「美鈴はね 最近ね、あんまり飲むな 飲むな って怒るんですよ ワシの唯一の楽しみなんですけどね」と、蒼のお父さんに訴えていた。蒼のお父さんも笑っていたが

「私 怒ってるんちゃうよ ただ・・ これ以上、記憶失くしてほしくないから・・血圧だって高いし・・」

 結局、お父さんが、だんだん眠たそうになってきて、終わりにすることになったのだ。

11-⑺
 私は、以前務めていたホテルを訪れた。親切にしてくれたフロァーマネージャーを訪ねたら、懐かしく招いてくれた。

「元気そうだね お店、頑張っているそうじゃぁないか 順調なんだろう でも、やっぱり、相変わらず綺麗だね」

「ありがとうございます マネージャーにはいろいろ気にかけて頂いて有難うございました 今日は、もう、一つ お願いがあって」

「ふ 何だろう デートのお誘いかな」

「いえ それは、機会がありましたら 実は、私、結婚するんです ずーと、想っていた人と それで、ここで、式 お願いできないかと思って」

「そうかぁー それは、残念だなぁー いや おめでとう それは、願ってもいないことだが で いつ頃?」

「ええ それが 8月の末の 土曜日に すみません」

「うーん それは、どうかなぁー 待って 係に聞いてみる」と、言って、連絡をしてくれているみたいだった。だけど、うまく行かないのか、あちこちに連絡を取ってくれているみたいだった。

「しずかちゃん やっぱり、難しいんだけど・・ 何人ぐらいになる?」

「うーん 多分 全部で・・ 多くても 20人くらいかなぁー」

「そうか あのね 総支配人の了解も得たんだけど 披露宴は、このナイトラウンジじゃぁ駄目かい? あと、神式はダメで、教会のほうは、何とか、遅い時間なら何とかなりそうなんだけど」

「マネージャー ありがとうございます いろいろ、掛け合ってくれたんでしょう?

「いいや 総支配人も何とかしろって言っていたんだ 教会のほうは根回ししてくれたんだけど、披露宴会場は空いて居なくて」

「ありがとうございます ここの方が 私 いいんです 私を育ててくださったんですもの それに、白無垢も 私 ちょとって 思っていたし ドレスだけで良いんです あんまり、お金もないし、贅沢できないから」

「アハハー 相変わらず ストレートだね しずかちゃんは でもな、照明とかは明るくするように考えるよ だけど、テーブル椅子はなぁー 無理かもしれない」

「いえ このままで・・ そんなに、無理なさらないでくださいね」

「そうだなぁー でも、料理のほうは頑張らすよ しずかちゃんが恥をかかないようにな とにかく、うちのスターだったんだものな もう、伝説になっているよ 辞めたあとも、しずかちゃんを訪ねて来るお客様がかなり居たんだよ」

「そう なんですか 申し訳ございませんでした」

「そんなことは良いんだが しずかちゃんの行方 もう、ばらしてもいいかなぁー 食品会社の社長の森下様と、東京のレストランチェーンの新井様 君も、知っているだろう? この人達はしつこく聞いて来るんだよ 連絡先教えろって 従業員の教育係にしたいらしい もう、教えてもいいかい? レストランの凄腕マネージャーですって」

「そんなー 私 一生懸命なだけですから でも、教えてもらってもいいですよ ウチのお客様になってもらいますから」

「綺麗なだけじゃぁなくて さすが、やり手だねぇー」

「いいえ それは、さんざん、マネージャーに仕込まれましたから ここに、初めて、来た頃、何にもわからない私に、いろいろと教えてくださって・・」

「そうかぁー 懐かしいね でも、君は一生懸命だったよ 何にも知らないお嬢さんだったっけ」

「えぇ でも、マネージャーのお陰です」

「君みたいな 女の娘を射止めるのは、どんな人なんだろうと興味があるよ 羨ましい」

「ごくごく 普通の人 でも、優しくて 私には、この人しか居ないって感じです」

「おぉー ベタぼれなんだね 幸せになれよ」

「ハイ! 世界一」 

11-⑻
 水曜日の夜、例のごとく、美鈴と待ち合わせのカフェに向かった。美鈴はトレーニングウェァにパーカーを羽織っていたので、

「どうしたんだ 運動してきたのか」

「ウン ちょっと ジョギングしてきた。運動不足だから」

「そうか 相変わらず 元気だね」

「蒼が 年の割に 疲れすぎてんじゃぁ無い? あのね 電話で話したこと どう?」

「そうだね 美鈴がそれで良いのなら、僕は、賛成だよ」

「ありがとう ただね 考えてみると、座席がソファーでテーブルが小さいのでどうかなって、心配なの」

「そうだなぁー それより 美鈴 ドレスだけでいいんか? お母さんが、白無垢見たいって 絶対綺麗なんだからってさ お金のことは気にするなってさ なんとかするからって」

「うん 私 もったいないと思うし 面倒だからね 今、そんな贅沢言っている場合じゃぁないから」

「美鈴 あのな 式の費用 僕が全部出すから お前は使うな お店の方に使えよ」

「そんな訳にいかないよ はんぶんこにしないと」

「あのな どっちみち ふたりのお金だろう どっちがっていうことじゃぁないよ ここは 全部、僕が出す お母さんも そうしろって 足りなければ、親の務めとして、お祝い金として出すから、美鈴には負担かけるなってさ それは、男側の務めだろうって 美鈴は、お店のこともあるんだ 納得してくれ」

「うーん ありがたいけど お父さんも、貯金あるから せめて、花嫁衣裳ぐらいに使えって言ってくれているし・・」

「それも、含めてだよ お母さんは、自分が見たいんだから、出すって」

「そんなの 悪いわよ 甘えられないわ」

「美鈴 そうさしてくれ 頼む ウチの娘になるんだから・・って、強く言われているんだよ ここは、世話になろうよ そのうち、余裕ができたら、親孝行して返していけばいいじゃぁないか」

「うーん そうかなぁー 甘えてしまって良いのかなぁー」

「そう しようよ それが、いいんだよ」

「蒼がそんなに言ってくれるんだったら 甘えるわ お母さんに頭あがんないね」

11-⑼
 7月になって、ホテルのフロァーマネージャーから、連絡があった。

「しずかちゃん 懇親会の予定が入っていたところがキャンセルになったんだよ どうする? 
そっちなら、窓もあって明るいから、良いかなって思ってね それに、円卓も用意出来るんだよ」

「えっ じゃぁ そっちで お願いできれば」

「うん 押さえるよ あんまり、広くないんだけど、20人位っ言っていたから、丁度いいと思う。5~6人用の円卓 5つもあれば良いか?」

「ええ 充分だと思います それと、来週に打ち合わせにお邪魔します。衣装を借りる予定もあるし」

「わかった 待っているよ」

 翌週、お店が休みの日に、ホテルに向かった。お母さんが付いて来てくれたのだ。最初にフロァーマネージャーを訪ねた。

「あぁー しずかちゃん 丁度、良かった 午前中は部屋が使用中だったから、今なら、空いているから、まず、案内するよ」

「マネージャー すみません いろいろとお世話してもらって・・ あっ お母さんです 主人の」

「あー そうなんですか この度はおめでとうございます」

「お世話になります。いろいろと手配していただきまして」と、お母さんも、お礼を言ってくれた。

 部屋を見せてくれた時、会議用の長テーブルが置いてあって、一面はガラス窓で明るすぎるみたいだった。

「ここに 円卓 用意するから ちょっと殺風景なんだけど、多分、夕方なんで、西陽があれば、ブライントを降ろして、その前に花を並べるからね これは、なんとか、調達するから」

「マネージャー 思っていたより、広い 空間出来過ぎるんじゃぁ」

「大丈夫だよ なんなり、考えるから それと、ステージっているのかな」

「ううん そんな 大袈裟なこと考えていないですよー」

「わかった それと、部屋の前には、スペースあるから、そこで、受付するといいんだけど、招待客の控え室がないんでね そのスペースで共用でいいかなぁー 勿論、飲み物用意する あと、花嫁の控室も、埋まっていてね 客室を利用してもらうことになると思うけど、すまない」

「いいですよ 急に言い出した私が悪いんですから 本当に、ここまで、してくださって感謝しています」

「いいんだよ ウチのスターだったんだから 総支配人も出来る限りのことはやれ って言っていたし」

「あのー 総支配人にも 一言、お礼 言えますか?」

「うーん 出掛けて居るんだよ でも、私から、伝えておきます」

 その後、衣装室に行って、ドレスの試着をさせてもらった。その時、お母さんが

「ねぇ さっきの人 どうして、しずかちゃんって、言ってたの?」

「ええ 私 ここで、働いていた時、しずかって名前にしていたんです 美鈴って、捨てたつもりで働いていましたから」

「そうなの 苦労してたんだね」

「いいえ 良い人ばっかりで、楽しかったですよ それに、接客ってこと、ここで、教わりましたから」

 私は、シンプルなデザインのドレスを選んでいたのだが、お母さんは

「ダメよもっと華々しいの 美鈴ちゃんはドレス負けしないんだから、もっと派手なのにしなさいよ」って、言っていたけど、だんだん値段が高くって、私 遠慮していた。

 私は、ウェディングドレスだけと思っていたが

「何言ってんの お色直ししなさい あなたは、私の娘なんだから、みんなに綺麗なとこ見てもらわないと・・本当は、白無垢も見せたかったんだけどね」

 結局、2着目も選んでくれた。深いローズ色のものと、ロイヤルブルーのもの。

「こっちは、胸に大きなリボンが付いているから、こっちの方が良いわね 上品な色よね あなた 胸があんまり無いから、こっちならわかんないわよ」と、ブルーを選んでいた。

「やだー お母さん 私 今から大きくなるんです!」と、二人で笑っていた。

 帰る前にマネージャーの元に挨拶に行くと

「あのね よかったらなんだけど えりかちゃん 知っているだろう 仲良かったから 彼女がね 披露宴の時 司会をやらせてもらえないか聞いといてくれって言っていたんだ どうだろう?」

「そんなー うれしいです ぜひ、お願いって言って居たって伝えてもらえます 私からも、連絡しますけど あと、総支配人さんにも、よろしく、伝えてください うれしいって」

 そして、家に帰る前、お母さんが、買い物をしようと連れて行ってくれた。新しい下着とかそれに・・

「美鈴ちゃんは、私の本当の娘のように思っているからね 結婚して、最初の夜はこういうの身に付けなさい 恥ずかしがらなくって、一生の想い出なんだから」と、白いヒラヒラしたのを買ってくれたのだ。

11-⑽
 美鈴と打ち合わせするために、いつものカフェで待ち合わせをしていた。今日も、ジョギングをしてきたと言って

「こめんね 汗臭い?」

「いいや 頑張るね」

「お腹 出てきちゃぁ嫌でしょ?」

「まあな それより、もう少し、太れば それで、よく体力持つよ」

「そうだね 胸はもっとあった方がいいのかなー」

「もう、いいって そーいえば 式のドレス 写真見たよ 可愛いなぁ」

「そう 良かった 喜んでもらえて お母さんに甘えちゃった 高いのよ 蒼は、どうするの?」

「いいじゃぁないか 一生一回だよ 僕は、折見て、ホテルに行くよ、クリーム色のタキシードにするつもり」」

「ウン わかった 楽しみだね 招待状 20部で間に合うかしら?」

「うーん リスト作ろうよ」

「私はね 松永さん 田中さん 堤さん あと、ホテルの進藤マネージャー そんなものよ」

「そうか 僕は、伯父さん、社長、製造部長、友部さん、天野原さんと、後、昇二、光瑠 じゃぁ 余り過ぎちゃうね」

「そうだね テーブルは私の親族席 松永さん夫婦、田中さん呼ぶから、5人でしょ 来賓席は堤さん夫婦、進藤マネージャー、晋さん、舞依ちゃんの5人」

「僕の所は、伯父さん夫婦呼んで5人、会社関係が4人、あと友人席に昇二、光瑠、明璃の3人かぁー じゃぁ大学の時、仲の良かった増渕呼ぶかなぁー」

「うん 任せるよ 私ね 今年のお盆休みに、3人で旅行しようと思うのよ そんなこと、最後だから それに、工事するから、3日ほどお店休んで欲しいって言われたから」

「そうか 良いんじゃないか お父さんも喜ぶよ」

「あそこの海岸に行ってみようかなって思って 何か、思い出すかも知れないし」

「うーん あんまり、思い出してほしくないこともあるんだろう?」

「そう なんだけどね 私 今 2つの夢が叶おうとしている 私だけがこんなに幸せで良いのかって思うの 旅行でね お父さんが、何かを思い出さなくても、いいの せめて、今回のことを想い出にしてもらえたらなって思うの」

「美鈴 優しいな」

第十二章

12-⑴
 私達3人は、電車で敦賀に向かっていた。京都駅まで出て、快速に乗って敦賀を目指していた。清音は、ピチっとした短パンに薄いパーカー、編み上げのサンダルという恰好でやってきていた。私も、短めのキュロットだったんだけど、あの子の方が脚が長くてスタイルが良かったんだ。

「お姉ちゃん 琵琶湖だよ ずーと見渡せるんだね 私、バイクで走ったことはあるんだけど、電車だとこんなに見えるって知らなかった ポコンとした山もあるんだぁー」

「私は、あの時、蒼と そー言えば 重い気持ちで 乗っていたんだ」と、思い出していた。

 敦賀の駅で、少し、乗り換えの時間が有って、駅前で鯖寿司と穴子の寿司を買いに行った。清音が海岸で食べようよと言って居たからだ。あの子には、あの海岸に行く理由を前もって説明していたのだ。目的の駅に降りたが、前と風景は変わっていない、むしろ、前より、閑散としたように思えた。海岸に向かう途中、コンビニがあったので、飲み物を買ったのだが、お父さんは、お酒がいいと言って居たのだが、私はこの人、アル中気味なのかなと心配していた。清音にその話をしたら

「お姉ちゃん 男の人ってそんなもんだよ お父さん、普段、一生懸命働いているじゃぁ無い それに、お酒が楽しみだと思うから お休みの日ぐらい、いいんじゃぁない」

「そうかなぁー」

 そして、海が見えてくると、清音は

「わぁー 海だ 私 海に来たなんて、覚えないんだよね 泳ぎに行くのも、いつも、プールだったから」と、言って、砂浜に向かって、走って行ってしまった。

 波打ち際には、2組の家族連れが遊んでいるだけで、広々としていた。そうだ、あの時は、誰もいなくて、私、貝殻を拾ってたんだっけ・・。その砂浜に私は持ってきたバスタオルを敷いたんだけど、清音は自分のパーカーを脱いで敷いて座っていた。脱ぐと、ノースリーブのTシャツで、腕が日焼していて、半袖の跡がわかった。

「清音 陽焼けしているね」

「えへー 農作業でね でも、普段、半袖だから 境目がみっともないよね」

 その後、買ってきたお寿司を食べていたんだけど、陽ざしが暑いので、近くの物置小屋の陰に移動した。

「お姉ちゃん 波のところいこう」と、清音が向かった。二人で、少し、遊んで、戻ってくると、お父さんが

「昔、よく、二人でここで遊んでいたよなぁー」と、ポツンと言った。

「お父さん それは・・」私 言いかけて、止めたのだ。

「清音 ちょっと あっちの方 見に行ってみよ」と、誘った。あの時の建物がどうなんか 見てみたかったのだが、なんか、魅かれていたのだ。あの高井さんの家がどうなっているのか・・。

 清音も付いて来て、比較的大きな屋根の家に向かった。庭先に着くと、小さな女の子が軒先で何かをしていた。イカとか小さな魚の開いたものを何かしていた。誰も、住んで居なかったはずなのに・・。

「こんにちわ お嬢ちゃん この家の人?」と、声を掛けたら

「あっ そうだよ みれい って言うの」と、元気よく返ってきた。

「そう お家の人は?」

「うん お母さんとふたりだけなんだけどね 今 お仕事 もうすぐお昼ごはんで帰って来る 私ね今、この干物 反対向けていたんだ 片側だけ陽が当たると、ふっくらしないんだって だから、お手伝いしてるんだよ えらいでしょ」と、言っている顔は、高井さんの面影にそっくりだった。

「そうなの えらいわね」と、話していたら、後ろから声がした。

「どちら様ですか・・・」

 私達がその方を振り返ったら、声が詰まってしまったようだった。高井さんだ。

「お久しぶりです」とお辞儀をしたら

「もしかして 美鈴ちゃんと清音ちゃん?」と、聞き返してきたのだ。

「そうです 覚えていてくださいました?」

「ええ もちろんよ あの時も、可愛かったけど、お二人共 きれいになって・・ わざわざ、尋ねてきてくださったのー?」

「ええ まぁ お父さんとここの海岸を見に来たんです お父さん、砂浜に居ますから、会ってください」と、強引に連れて行った。

 海岸まで行くと、お父さんは波打ち際で砂をいじっていた。高井さんは、思わず

「社長さん お元気そうで・・私 小さい頃、よく、あそこで遊んでもらった」と言った切り、立ち止まって、足をとめていた。

「美鈴ちやん ごめん 私 やっぱり 社長には、顔を合わせられない」と、涙を浮かべていたのだ。

「どうして? お父さんも、きっと喜ぶよー」

「私ね 社長さんには、不義理してしまって・・私はね 社長さんが倒れた時、私のお母さんも状態も良く無くてね 入院して手術受けるにも、お金無かったの 社長さんにも相談出来なくて・・ そんな時にね、上野に声を掛けられたの 言うことをきけば、お金の面倒をみてやるって それで、私 あいつに身を任せたの それで、しばらくしたら、会社も辞めろって言われて 上野が会社のこと自由にしたかったんだと思う でも、もてあそばれたのね 妊娠がわかった時も、知らんぷりされて・・ そのうち、ナカミチがつぶれたって聞いて・・ でも、私は、産んだわ あの子 独りで育ててきたけど、結局、母も亡くなって、ここに、3年前に帰ってきたの そんなだから、社長さんに合わせる顔ないのよ あんなに、お世話になったのに・・」

「ごめんなさい 私 なんも、知らなくて・・ あいつ、お母さんと・・ お父さんを裏切って」と、それまで、黙って聞いていた清音が謝っていた。

「清音ちゃんが、謝ることじゃぁないのよ 私が、しっかりしてなかつたから」

「だけど 高井さん お父さんは、倒れる前の記憶は無くしているのよ だけど、高井さんの顔を見ると、少しでも思いだすかも・・」

「そうなの そんな状態なんだ でも、本当に、ごめんなさい 私 辛くて・・ 今ね、私、近くの旅館で手伝いとかして、漁師さんからお預かりして内職みたいなこともやっているし、みれいと一緒に、なんとか平穏に過ごしているの だから・・」

「うん わかった でも、高井さん 心配しないで、今は、ナカミチ復活して順調にいっているの そして、もうすぐ、お店を大きくした建物が完成するのよ だから、高井さんが責任感じていること、もう、必要ないのよ あの子、元気に育ててね 良い子よね みれいちゃん」

「ありがとう あの子 美しいと鈴 って漢字書くの ごめんなさい 名前 勝手に使わせてもらつて 美鈴ちゃんみたいに やさしい娘に育って欲しくて・・」

「えー そうなんだ じゃぁ 妹みたいなもんだね 明るくて良い子 幸せにね 私も、末に結婚するの」

「そうなのー おめでとう 中学生だったのにね 早いわー 私も、それだけ歳とったのよね」
  
「そんなこと ないですよ まだまだお綺麗です それから、もし、何か困ったことあったら、連絡ください」と、私は、お店の名刺を渡したら

「まぁ 美鈴ちやんが ナカミチの店長さん 苦労したのね どうぞ、社長さんのこと よろしくお願いします」と、最後に言われて、高井さんと別れたのだ。

 砂浜を走ってお父さんのもとに駆け寄ると

「おぉー どこまで、散歩行っていたんだ さっき 話していたの この辺の人か?」

「うん ここの人 素敵な人だったよ」

「そうか この辺の人はみんな良い人ばっかりみたいだからな やっぱり ここの海は懐かしい感じがするよ さぁ 行こうか 宿に」

12-⑵
 私達は、予約していた旅館に向かった。海の近くだが、内湖に面していて、静かな所だった。お部屋からもその湖が一望できた。遠くに、水鳥が浮かんでいるのも見える。

「わぁー きれいね けっこう、歩いたから、疲れたよー お父さん、大丈夫?」と、清音が心配していた。

「あぁ いつも、散歩して鍛えているからな お前たちより、元気なつもりだよ」

「そうか 私が一番、普段歩いていないかなぁー お店の中だけだから」

「ねぇ 直ぐに お風呂いこうよ さっき、ここの人がね 今なら、お客様少ないから、貸し切りで入ってもらってもいいですよって 言ってたから 行こうよ みんなで・・」

「そうね お父さんも 行こうよ」と、私 少し、抵抗あったけど、清音が言い出したから

「あー 娘の裸 見てもなぁー こっちが、恥ずかしよ」と、お父さんが言っていたが

「なに 言ってんのよ 昔は、一緒だったじゃぁない 私達の、この美しい身体なんて、もう、見られないよ 行こうよ」と、清音はお父さんの手を引っ張っていた。

 フロントに声を掛けると、女性用でお願いしますと『貸し切り』の札を渡されて、入口に下げておいてくださいと言われた。浴室は、男性用より、少し、小さいらしいが、それでも、湖が見渡せる一面が大きな窓になっていた。清音と私は、二人で、身体を洗いっこしたりして、ふざけあってお湯をかけあったりしていたが、お父さんは、さすがに私達の方をまともに見ようとしていなかった。だけど、昔見た、筋肉が隆々としていた姿じゃあ、無かった。ただ、静かに湖を見ていたのだ。

 お父さんは、先に出て行ったんだけど、私が、下着を身に着けていると

「お姉ちゃん 胸 割と小さいんだね 下着もおとなしいし 蒼さん 可哀そう」

「大きな お世話! 蒼は そんな すけべぇー じゃぁないし」と、バスタオルで、叩き返した。確かに、清音は胸もあったし、私からしたら、色物の派手な下着を身に着けていた。そうなんかなぁーと私 思っていたのだ。

 部屋に戻ると、お父さんは、もう、何処から調達したのか、何か飲んでいた。お酒の匂いがしていた。お酒を冷やで飲んでいたのだ。

「お姉チヤン ウチ等も飲もー ビール買ってくるわ」と、清音が出て行ったて、缶ビールを抱えて戻ってきた。そのうち、お料理が運ばれてきて、お刺身が盛られた大皿と、魚の煮つけ、野菜の天ぷら、そして、鰻の蒲焼が香ばしく持ってこられた。そして、食べ始めるときお父さんが

「ワシはこんなに幸せなことはないよ 仲の良い娘ふたりに囲まれて ゆっくりさせてもらってな 風呂に浸かりながら、昔のことを思い出そうとしていたんだが・・出てこなかった だけど、今は本当に幸せだ 美鈴は良い人見つけたし、清音だって毎日が楽しそうだ こんな、嬉しいことは無い 有難う」

「お父さん もう いいのよ 昔のことは・・」と、私、涙が・・。清音は泣きながら

「ウチ お姉ちゃんを恨んでしまっていた だけど、今は、本当に幸せって思っている 良かったって お姉ちゃん 本当にありがとう」と、泣きじゃくっていた。

「なによ これからも、ふたりでね お父さんを支えて行くんだよ」と、言うのが精一杯だった。

「せっかくの、お料理がさめちゃうわ 清音が泣き出すから・・」

「何よ お姉ちゃん から 泣き出したんじゃあない!」

12-⑶
 式の当日、僕達は、新居から美鈴と一緒に出た。昨日、仕事を終えて、新居に向かったのだ。美鈴は夕方、引っ越しを済ませていた。武君が堤さんに軽トラを借りて、手伝ってくれたらしい。大した荷物も無いので、直ぐに、済んだと言っていた。

「ごめんね 私等、ベッド無いんだ。お父さんのは買ったんだけど、私達のは、もう、少し、我慢してね」

「いいんだよ 余裕できたら、買えば良いよ 美鈴が居るだけで、満足だよ」

「うん 待っててね 私 舞依ちゃんにお店任せたままだから、代わって、あの子に帰ってもらうから」と、キッチンの片づけの途中で、お店の方に出て行った。

 冷蔵庫は、美鈴がお父さんと暮らしていた時のものだから、小さなもののままだ。まあ、これから、徐々に買い揃えれば、いいかと思ったのだ。美鈴が店を閉めて戻ってきた時、僕は、お父さんとチビチビやっていた。直ぐに、お風呂を用意して、美鈴はお父さんに、入ってと勧めたが、お父さんは、やっぱり、蒼君が一番に入るんだろうと、僕に入れと促してきたのだった。

 次の日、美鈴は、美容室に行くので、早い目に出ると言って居た。僕は、一度、実家に帰ってから、式場に向かう予定だったので、駅で別れた。

 - - ☆ - - ☆ - - 

 僕は、ホテルに着いた後、衣装室に行って着替えたんだけど、その後、どうしていいんだか迷って居たら、ホテルの人が、ご両親は一回のナイトクラブにほうにおられますと聞いたので、そっちに行った。

「蒼 久し振りだよな いゃー おめでとうな あの可愛かった中道と結婚するんてな」と、何年ぶりだろうか、北海道に居る兄が居た。

「うん 今日 来たの?」

「ああ 大阪は久し振りだよ」

 そのうち、僕達はそろそろ教会のほうへと案内されて・・

 祭壇の前で、待っていた。教会の入口のドァーが開いて、ベールを被った美鈴とお父さんが立っていた。そして、ゆっくり、こっちへ向かって歩いてきた。周りからは、祝福の言葉が聞こえていたが、僕は、緊張も重なって、ただただ、美鈴の眩しい姿を見ておこうと見つめていた。

 僕は、多分、指輪を交換して、ベールをあげて美鈴にキスをして、サインをしたんだろうけど、言われるままだったので、美鈴がバージンロードを僕の方に歩い来る姿以外はあまり覚えていなかったんだ。

 披露宴が始まる前、入口に現れた美鈴は髪と左腕に花の飾りを付けていた。そして、慌ててホテルの人が僕の胸にも同じ花の飾りを挿しに来たのだ。会場に入場して、各テーブルを挨拶してまわったのだが、武君がしきりにカメラを構えていた。急遽、美鈴が頼んでいたのだ。

 美鈴がお色直しで、退席している間に、僕の伯父さんが越前の嫁迎え唄を披露してくれて、その後 明璃ちゃんと清音ちゃんが揃って出てきて・・なんと、二人共、ツインテールでリボンを髪の毛に巻き込んでいて・・それまで、気が付かなかったのだ。おまけに、二人はAラインのドレスの色違いで揃えていたのだった。いつの間に練習したのだろうか・・いきものがたりの「ありがとう」を二人で歌ってくれた。そんなことをやるって、僕達は聞いていなかったのだが、当然、会場からはやんやの喝采を受けていたのだった。

 歌い終わった後、僕に向かって、花びらを二人で撒いていった。おそらく、明璃ちゃんの企みだったんだろう。でも、僕は、明璃ちゃんが清音ちゃんと、ここまで、仲良くなったことが嬉しかった。美鈴が聞いたら、おそらく、涙するかも知れない。

 美鈴が衣装を変えて戻ってきて、入口まで迎えに行った時、今度はロイヤルブルーのドレスに、花飾りで頭を飾って、首にも花飾りを付けていた。やっぱり、綺麗なので感動した。そして、持っていた花束の大きなものを見せて「これ 高井さんが送ってくれたんだって」と、言って居たが、僕には、その時、誰だか解らなかった。美鈴は一輪の花にキャンディのついたものをたくさん入れた花籠を腕に下げていた。僕達は、キャンドルでは無くて、参列していただいた方、一人一人に美鈴がその花の一輪を渡していた。美鈴が感謝の気持だと言っての希望だった。

 その後、一人一人に司会のえりかちゃんが一言と言って聞いて周ったのだ。最後に友人のテーブルに行った時、明璃ちゃんが最後になったのだか、その時、清音ちゃんを呼び寄せて

「私等、二人は、美鈴さんを崇拝している妹なんです」と言い出して、それから、美鈴の良い所を褒め出していたが、僕の会社の社長が

「お嬢さん達 さっきの歌をもう一度披露してくれないか さっきは、花嫁も居なかったし」と、言うと、拍手の中、堤さんが出てきて、二人を前に押し出していた。光瑠もあかりちゃんの背中をポンと叩いていた。

 美鈴もその時、初めて、気が付いたみたいで「あの子達・・お揃い・・」と・・。そして、歌の途中で、本当に泣き出してしまって、くしゃくしゃになってしまったのだ。

 披露宴も終えて、僕達は、そのホテルにそのまま泊まることになっていたのだが、近くの居酒屋で、慎二らが待っていて、もう、少し飲もうと言っていたのだ。

 着替えた美鈴は、白いミニスカートで、何故か、あのミニ花束を抱えていた。

「あのね 高井さんって 誰?」って聞いてみた。そうしたら、高井さんとの経緯を聞かされて、ようやく、僕も思い出したのだ。昔、美鈴と行った海岸のこと。

「あらっ 清音と明璃ちゃんは?」昇二と光瑠だけだったのだ。

「うん 清音ちゃんはおばあさんと帰るって、明璃は慎二と別れを惜しんでいたんだけど、明日も会えるからって・・昔の仲間4人で懐かしんでって、清音ちゃんたちと帰って行った。あぁ そう 美鈴のお父さんは、晋さんと舞依ちゃんが送るって言っていたわ」

「そう 明璃ちゃんにお礼 言わなければと、思ったのに・・」

「うーん あの子 破天荒なとこあるけど、自分の妹ながら 良い子よね 他人の気持ち、考えているし・・あの子なりの表現なのよ 慎二 大変だけど、よろしくね」と、光瑠が・・

「なんだよー 俺が、面倒引き受けるのかよー お姉ちゃん」と、昇二が返すと、光瑠のお手拭きが飛んでいた。

「でも、次は 昇二の番だよなぁー」と、僕が言ったけど

「それがな ベトナムの話があるんだよ」と、下を向いていた。

「なによ それ 海外赴任? 早すぎるんじゃぁ無い」と、光瑠が言っていたが

「いや まだ、決まってはいないんだが・・ ウワサ 勿論 明璃には言って居ないよ」と、昇二はビールを注いでいた。

 僕達は、ホテルに帰ってきた。もう、11時になろうかという頃だった。

「蒼 私 こんなに幸せで良いんだろうか」

「当たり前、じゃぁないか 美鈴が優しいから、みんなが祝福してくれだんだよ」

 私は、お風呂から出て、お母さんに用意してもらったものを着て・・恥ずかしかったけど・・

 だけど、もう、蒼は飲み過ぎていて、うつろだった。そのまま、その日は、私、蒼にひっいて横たわっていたのたけど・・。幸せを噛みしめていた。

12-⑷
 僕は、薄暗い明かりで眼が覚めた。隣に黒い髪の毛があった。そして、柔らかい美鈴の身体が・・。そうだ、僕達は、昨日、結婚したんだ。その時、現実となって実感できた。

 そして、美鈴の身体を抱きしめて、髪の毛を分けて、額にキスをしたら、美鈴も眼を覚ましたみたいで

「おはよう 蒼 私も いつの間にか、寝ちゃったみたい」と・・

「ごめん 僕 いつの間にか 寝てしまって・・ 思いっきり 美鈴と 楽しもうと思っていたのにさ」

「ううん 疲れていたから でも、今からでも・・ネ」と、お互い抱き合っていって・・激しく・・

 僕達は、新婚旅行は、行けなかった。美鈴のお店のこともあるし、金銭的にも、余裕がなかったのだ。お昼近くまで、ぐたぐたと抱き合っていて、天満宮に結婚の報告をして、新居に帰って行った。いろいろ、買い揃えるものもあるし、片付けをするつもりだった。

 帰ると、お父さんは居なかった。初めて、僕は、新居を見て周った。基は、倉庫とはいえ素晴らしく改装してあったのだ。美鈴は、ずーと、べったり僕と手をつないできていた。そして、各部屋の中でチュッとしてきて、こんなに新婚ってベタベタするんかなって思うぐらい。そのうち、お父さんが戻ってきて

「帰ってきたんか 夜になるかと思ってたのに・・ 散歩コースが変わると思ってな その下見に言って居たんだ 二人共、お疲れだろう 今夜は、ワシが特別料理作るから ゆっくりしなさい」

「お父さんこそ 飲み疲れ無い?」

「大丈夫だよ 晋さんが送ってきてくれてな 又、飲んだ 楽しかったよ」

「もう 歳考えてよ まだまだ働いてもらわなきゃぁ駄目なんだから」

「わかっているよ これからも、返していかなきゃな こんな、立派なもの建てたんだから」

 それから、店の方にも行くと、堤さんが作業していた。美鈴が駆け寄って

「堤さん すみません こんな日まで」と、美鈴が声を掛けると

「やぁ 帰ってきたのか もっと ゆっくり、しなきゃー 今日中には、何とか恰好つくぜ もうすぐ、オープンできるよ」

「じゃぁ 9月の第2週にするね 再生オープン」

「う 新生じゃあないのか」

「いいえ 復活発展するのよ ナカミチ ずーと」と、美鈴は力強く言っていた。

 その日、お父さんが腕によりをかけたと言う料理が並んでいた。自然薯のポタージュ、鯛のポワレ。どれも、おいしかった。

「天然鯛なんだよ。今の時期は紅葉鯛のはしりなんだけど、脂も乗ってきてうまいんだよ。残念ながら、明石のものは、手に入らなかったけどな」と、言っていた。

「いや いや 言っちゃぁ悪いけど、昨日の料理より格段に違いますよ」と、僕は褒めていた。という訳で、今夜も、お父さんに付き合って、美鈴の冷たい視線を横に、そこそこ飲んでしまったのだ。

「今夜は、二人でゆっくり、風呂に入れよ ワシは、昼、銭湯に浸かってきたから、もう、良いから」というお父さんの言葉で、ようやく、切り上げた。僕は、二人でお風呂に浸かるのは、二度目だったのだが、自然とそうなってしまった。

 僕が、ゆっくり、湯舟に浸かっていると、後から、美鈴が入ってきた。

「温泉の元 もらったから 入れるね」と、横に入ってきた。

「お父さん 気 使ってくれたんだね あんなこと言って」と、言ってきたが、その時、僕は初めて「ああ そうなんか」と、思った。

 そして、美鈴が髪の毛洗うからって言って居たので、先に出て居たのだが、しばらくして、美鈴が部屋に入ってきて、着ていたガウンを脱ぎ捨てると、真っ白なナイトウェァだった。おそらく、昨日も着ていたのだが、不覚にも、僕は、昨日は覚えていなかった。だけど、今は、ちゃんと美鈴の身体が透けて見えていた。そして、抱きしめていって「幸せになろうな」と言葉を掛けていた。美鈴は思いっきり抱き返してきた。

僕は 彼女の彼氏だったはずなんだ

僕は 彼女の彼氏だったはずなんだ

僕等4人の仲好しグループは同じ小学校を出て、中学校も同じで、地域では有名な進学高校を目指していた。中でも、中道美鈴には特別な想いがあったが、中学を卒業してから、彼女の消息が突然わからなくなってしまった。僕の頭からは、彼女のことを消え去ることが出来なかったが・

  • 小説
  • 長編
  • 青春
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2021-09-09

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著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第一章
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 第二章
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  11. 11
  12. 12
  13. 13
  14. 14
  15. 15
  16. 16
  17. 第三章
  18. 18
  19. 19
  20. 20
  21. 21
  22. 22
  23. 第四章
  24. 24
  25. 25
  26. 26
  27. 27
  28. 28
  29. 29
  30. 30
  31. 31
  32. 32
  33. 33
  34. 第五章
  35. 35
  36. 36
  37. 37
  38. 第六章
  39. 39
  40. 40
  41. 41
  42. 42
  43. 43
  44. 44
  45. 45
  46. 46
  47. 第七章
  48. 48
  49. 49
  50. 50
  51. 51
  52. 52
  53. 53
  54. 第八章
  55. 55
  56. 56
  57. 57
  58. 58
  59. 59
  60. 60
  61. 61
  62. 62
  63. 63
  64. 64
  65. 第九章
  66. 66
  67. 67
  68. 68
  69. 69
  70. 70
  71. 71
  72. 72
  73. 73
  74. 74
  75. 75
  76. 第十章
  77. 77
  78. 78
  79. 79
  80. 80
  81. 81
  82. 82
  83. 83
  84. 84
  85. 第十一章
  86. 86
  87. 87
  88. 88
  89. 89
  90. 90
  91. 91
  92. 92
  93. 93
  94. 94
  95. 第十二章
  96. 96
  97. 97
  98. 98