写真には映らない何か

天国

ページを捲る度に、僕の中の感情をこんなにも上手く表現出来るのかと感心した小説があった。

 ページを捲る度に、僕の中の感情をこんなにも上手く表現出来るのかと感心した小説があった。僕はその作家も作品も大好きなのだが、それを気持ち悪いと評価している人がいることを知った。
 人間の頭の中には様々な感情が渦巻いている。大抵の人間はそれらの感情を整理し、カテゴライズされた本棚から本を取り出すかのように器用に出し入れすることができる。僕もそれが当たり前に出来ていたはずなのだが、気がつくと乱雑に重ねてあり、周囲に散らかっていて、これだと思って引っ張り出しても大体は題名もわからない本の形をした何か、であることが多くなった。でもだからといって薄情に成り果てた訳ではない。例えると部屋が散らかっている人の家に行って、ティッシュ取ってとかTシャツ貸してとか言ったときに案外パッとすぐ渡されたり、置いてある場所を瞬時に教えてくれたりすることがあるが、そういった状態のようである。
 気持ち悪いと思うことも結局は自分の物差しで人を測ってる行為の範疇を出ない。作品である以上どう受け取るかは読み手の自由なのだが、マイナスな印象から入るとそれ以上の情報をシャットアウトしてしまうから、そういう感想を持ってしまった人に対して、僕は数少ない感情の本棚から哀という本を引っ張り出している。
 僕には、暗闇の中から光を見出したり、ありふれた日常から幸せを見つけたりするような、読み手の心を躍らせるものを書くことはできない。何故なら、虚構を作り出す能力に欠けている僕は、苦手なものをわざわざ書こうと思わないし、ありふれた日常や現実に改めて向き合って、初めて見えてくる現実の世界に惹かれているからだ。昔はもしかしたら書けたのかもしれないが、いつしかそういったキラキラしているものを凄いなと一歩下がって見るようになってしまい、気がつくと既に目視できないほど後ろに来てしまっていたのだ。大半がマイナスから入るであろう作品(書いてるときはそんなつもりはないが、書き終わったものを客観的に読み返すと自分でもそう感じることがある。)を生み出すことはリスクが高い気もするが、これが一番読んで欲しい人のところへ最短距離かつ最速で届けられる気がするのだ。
 僕にできるのなら誰が見ても気持ち悪い、ゴキブリのような作品を作りたい。何故なら彼らは足が速いから。

写真には映らない何か

写真には映らない何か

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-05

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