無力

天国

夜にセミが鳴いた。僕は耳を疑った。

 夜にセミが鳴いた。僕は耳を疑った。部屋でかけてる音楽の音かと思ったが違う、確実に外から聞こえたのだ。
 セミといえば夏の昼間に鳴く虫だと思っていた、いや実際そうだったはずだ。そこまで僕も馬鹿ではない。世界が破滅する予兆か、そんなことを考えていたら怖くなってきた。
 スマホで「セミ 夜」と文字を打ったところで検索候補に「夜に鳴く」と出てきた。となると、僕だけに聞こえたわけではないようだ。電気代をケチってクーラーをつけてなかったので、暑さで頭がおかしくなったかと実は考えていたが、違うようだ。それならそれで面白い体験ができたのにと思うと、改めて僕は平凡な人間だと自覚せざるを得なかった。
 どうやらセミは気温が二五度以上で、街灯などで周辺が明るいと昼だと勘違いして鳴くらしい。人類の文明の発展によって、また一つの自然界生態系を犠牲にしてしまったんだと、悲しくなったが、セミはカメムシの子孫で本来夜行性。種に抗わずにいれば夜に鳴いていてもおかしくはないそうだ。そして一週間の儚い命で知られるセミは、驚いた事に自然界では一ヶ月ほど生きることができ、幼虫の頃は数年地中で過ごすことから割と寿命の長い類の虫なのだ。いつかテレビでセミの七日間の命を歌った人がいたが、彼はこの事実を知っているのだろうか。その曲を聞いて感動していたファンは知っているのだろうか。
 窓の外では、街灯によって勘違いをしたセミが子孫を残そうと必死に鳴いていた。いや、このときばかりは泣いていたのかもしれない。人間によって活動時間を無理やり引き延ばされ、都合の良いように命のイメージを決められた生物の悲痛の叫びだ。
 

無力

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  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-05

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