それから 本町絢と水島基は 最終章
最終章-1
翌春、僕は、県庁を退職した。以前から、中村課長には打ち明けていたが、ずーと反対されていた。いずれ、技術センターに移動することもあるからということだったが、最後には、納得してくれた。そして、島の村役場のほうにも、掛け合ってくれて、空き家を借りられることになった。
漁協のほうにも話をしてくれて、もちろん、誠一郎さんの後押しもあって、勤められるようになった。島の漁師が捕ってきた魚を取りまとめて、取引先に売り渡したり、氷の用意とか運搬したりとか、いろいろな仕事があるのだが、僕にとってありがたいのは、空いた時間にサンゴの海の環境について調査研究ができるということだった。
僕は、みんなに感謝していた。夢を叶えることに、助けてくれている。島に移った時、最初に役所に、お礼に行った。すると、村長が相手をしてくれた。
「中村さんからも聞いているよ。島に移り住んでくれる若い人は大歓迎だよ。真面目な男なんで、見守って欲しいとも。ここは、漁業ときれいな海しか無くてね、サンゴも守る政策をなんとか進めなければ思っています。でも、そういう志しを持った若い人がここに住んでくれて、心強いのです」
「住むところを紹介していただきまして、ありがとうございます。仕事のことも、助けていただいて」
「いや、仕事の方は、漁協と話しあってね カンコーさんのほうも、ここの魚の取り扱いも確保してくれてね 漁師も喜んでいるよ 今後、サンゴの保護活動にも賛同してくれるそうだ」
「そうなんですか 神谷さんは、そこまでしてくださっていたんですね」
「いや 君みたいな若い人のチカラになるのは、我々の努めだよ 頑張って、ずーと海を守って、この島を盛り上げていってくださいね」
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私は、社長さんの帰って来るのを待っていた。
「モトシのこと、いろいろありがとうございます。私、彼から聞くまで知らなくて」
「いや それは、誠一郎がやってたことなので、ワシはあとから聞いた。なんだか、良かったじゃあないか。でもな、絢さんも一緒に行くんだろう 会社にとっては、痛手なんだ 今は、君は誠一郎の右腕みたいなもんだからな」
「でも 私・・」
「心配するな 誠一郎とも、そこは相談している 悪いようには、しない 大切な娘さんを預かっているんだから うちの会社にとっても宝物だし 彼にとっても宝物なんだろう」
「社長さん 私・・」下向いて、感謝しながら、涙を押さえていたんだと思う。
「あなた どうして、絢ちゃんを泣かせているのよ なにを言ったのよ かわいそうに」と、その時、奥さんが側に来た。
「いや ワシは何もひどいことは・・」
「ちがうんです 奥さん うれしくって こんなに大切に思っていただいて・・ 私 何にもできないのに」
「なにいってるのよ 絢ちゃんが良い娘だから 何にでも、一生懸命で あなたは、頑張ってきたじゃない だから、私達も、出来るだけのことはしようと思っているのじゃない」と、奥さんが言ってくれた。
最終章-2
僕達は、船の上だった。大樹夫妻と誠一郎夫妻に開君、それに小野原さんが写真の為、付いてきてくれていた。開君が、絢に懐いていて、ずーと側に居る
「お姉チャン、白い服、きれいだね お姫様みたい」
「絢ちゃん 本当にきれいよ 輝いているもの 船に乗る時ね、みんな見とれていたわ」と、郷子さんが言っていた。開君と何枚か写真撮ってくれた。もちろん、ふたりのも。
もうすぐ、島に着く。港には、歓迎の人達が見えた。船から降りて行くと、クラッカーで歓迎してくれて、みんなが絢を見て、感嘆の声をあげていた。民宿「力丸」のおばさんの顔も見える。絢は駆け寄っていた。僕は、慎二と葵、詩織を見つけたので、そっちに礼を言いに行っていた。
会場を港湾施設の一角に準備していてくれて、色んなお祝いの飾りがしてあった。絢は長いブライダルガウンを上から着て、さっきのブーケを持って、改めて、僕と腕を組んで登場していった。みんなから、称賛と感嘆の声があがっていた。みんな、絢の姿に見とれているのだ。「芸能人よりきれいだね」とか言ってくれている。
組合長はもちろんだが、誰が呼んでくれたのか村長さんも来てくれていた。
「水島君おめでとう 絢さんも 若い二人に来てもらえて、歓迎だよ 教員免許もあるんだって 絵の方も才能あるって聞いているよ 学校にもそのこと話してある」
立食だったので、立ち替わりお祝いに来てくれる。慎二達が来てくれて
「やぁ 俺も、結婚したくなったよ」
「早く、しなよー 葵も待っているんだろー」
「私は、ちゃんと、言ってくれるまで、いつまでも・・今は、クラスの子供達の方が楽しいしね」
「ほんと、慎二君って、肝心の時には、ぐずぐずしてるよね」と詩織も言っていた。
小野原さんが5人の写真を撮ってくれている時
「小野原さん お子さん、おめでとうございます 可愛いでしよう」と、詩織が声をかけた
「うん 茜に似てくれて、可愛いよ 太陽の陽って名付けた 茜も来れなくて、残念がっていたよ」
「京都で産んだものね 冬休み会いに行っていいですか? ねえ 葵も」
大樹も夫婦揃って、来てくれていたので
「大樹 遠くまで、ありがとな」
「私達、新婚旅行行って無かったので、丁度いいのよ 呼んでくれて、ありがとう 絢ちゃん きれいわよ おめでとう」と、くるみちゃんが横から言ってくれた。
僕が、誠一郎さんと、話し込んでいる間に、絢は民宿のおばさんに、連れられて、来てくれているペンションをやっている人たちとか、漁協の人達の間を、挨拶して周っていた。みんなからも、褒められ、歓迎されている様子を見て、僕は、安心していた。
「絢ちゃんは、誰からも好かれるし、直ぐに、打ちとけるから、ここの生活も大丈夫よ」と、郷子さんが言ってくれていた。
その間にも、島の人達が立ち代わり来てくれて、その度に、絢は挨拶して周っていた。島のみんなに知ってもらおうとしていたのだ。
最終章-3
その夜は、友達は「力丸」に泊っていた。僕達は、一度家に帰って、着替えてから向かおうと思ってた。
「ウチ 今日から、水島絢になったんだよね ねぇ モトシ 一生離れないって 誓いの抱っこしてぇ」
「力丸」には、大樹夫婦、慎二、葵と詩織が待っていてくれた。
「絢 とってもきれいだったよ 幸せそうで、あんなにずーと笑顔でいる絢なんてはじめて見たよ」と、葵が真っ先に駆け寄っていた。
「ありがとう 今、世界一幸せよ おばさん、今日も色々とありがとうね」と、民宿のおばさんにも礼を言っていた。
「なんだい よそよそしい うちの娘なんだから、あたりまえだろう みんな、親しいお友達なんだから、楽しんで」
「しかし、絢ちゃんはすごいよなぁ とうとう、ここまで追っかけてきたんだものなぁ」慎二も、もう、飲んでいたんだが
「島のみんなが祝福してくれているみたいで、村長さんも出てくれて、羨ましいわぁ 海もきれいだし、敦賀の海もきれいだけど、比べ物になんないわね」と、くるみちゃんが言っていたけど
「でもね 色々と、不便なこともあるのよ お店も限られるしね 食べ物も偏るわ もう、慣れたれど」と、絢も、今日初めてビールに口を付けていた。やっと、緊張がほぐれたのかもしれない。
「ねぇ くるみちゃん 喧嘩ってするの?」と、絢が聞いていた。
「するわよー でもね 一緒に寝れば、すぐに仲直りするわよ」
「そんなもんなんだ 仲良いもんね 大樹君達」
「絢ちゃんも、すぐそーなるわよ 女って弱いから」
「大丈夫 本町は鉄の女だから こんな可愛い顔してても、小学校の時、すごかったんだから 多少のことなら、へっちゃらなんだよ」と、大樹も絢のことを想い出していた。
「そうそう 大学でも、最初からそーだったんや モトシ一筋で、でも、自分の夢もなんとか叶えていくんや 葵なんかも、初めは、近寄れないぐらいの雰囲気あったんやでー」と、慎二が言ってけど
「そんなことないよ 私は直ぐに、茜も仲良くなったわよ ほんわかした雰囲気だったわ」と詩織
「そうだったよね オリエンテーションで、最初に座ったとこで、隣に居たのが、詩織と茜で、気軽に話しかけてくれて 私、誰も知り合い居なかったし、直ぐに、仲良くなってくれて それからよね でも、葵には、バリヤー張っていたの なんか、モトシの好みだと思っていたから ごめんね」と、絢も懐かしそうに話していた。
「そんなことないよ 確かに、モトシは優しくて気がやすらいだわ でも、私なんか女って思ってなかったみたいで、私を女として扱ってくれたのは、慎二が初めてよ そのうち、詩織、茜、絢が仲良くしてくれて、楽しかったわ」と言いながら、葵は慎二に寄り添っていった。
「ごちそうさま 葵も幸せそうで良かったわ」と、詩織も喜んでいるみたいだった。慎二は、気にも止めている様子もなく、目の前の刺身を頬張っていた。
「僕と慎二もそうだよ 学生寮に初めて行った時、心細かった僕に、馴れ馴れしく話しかけてくれて、でも、気持ちのいい奴で良かったよ」
「お前等 本当に、良い友達に恵まれたなぁ 羨ましいよ」と、大樹も言ってくれたが
「大樹君 大学入る前、貴方の言葉がなかったら、私 ここまで、モトシを信じられなかったかも 感謝しているのよ モトシの親友で良かったわ」と、少し、絢が涙ぐんでいた。
「そうだな 高校の時 お前等、もう、ダメになると思ってたけどな よく、本町も追いかけていったよ」と、大樹が言うと、くるみちゃんが「大樹 もう」と横から、止めていた。
「詩織は、浮いた話ないのー?」と、絢が聞いたけど
「私は、今、子供達に囲まれているから、幸せ あの子達に身をささげます」と笑っていた。
その後、庭で小さな花火をみんなでやった。
「そーいえば、美波のとこでやった花火、想い出すなぁー」と、慎二が
「美波は元気なんだろー なんか、仕事が忙しいっていってたけど」
「うん 葵に言わすと 仕事人間になってしまって 女の私が、男友達の結婚式なんかに出れないよ と言ってたそうな、あいつらしいよな」と、もう眠そうに・・。 僕も、もう、眠かった。
「モトシ しっかりしてよ バカ 私達、結婚して初めての夜だよ。・・・して欲しかったのに・・」私、郷子さんから、「最初の夜はこういうの着て、彼にしっかり愛してもらわないとね。男の人はみんな嫌いじゃぁ無いから」と言って、白くてふわっとしたナイトウェァをもらっていた。
まぁ 明日もあるから、良いかぁ。これから、ずーとだもんね。
でも、私は、ながーい旅が終わったみたいな感覚になっていた。又、別の旅が゛始まるんだ! でも、今度は、モトシがいつも一緒だ
結末
式から1ト月がたち、私は、週に2回、会社に通い、後はオンラインでやり取りさせてもらっていた。、民宿も予約が入ると手伝いに行くという生活だった。ペンション経営で移り住んできた人の子供で小学校2年生の女の子が、披露宴にも来てくれていたが、絵が好きだというので、民宿の1部屋を借りて、週に2回教えていた。玄関にも、私の絵を飾らしてもらっている。モトシは、相変わらず、休みの日には、潜っていた。
- - - - - ☆ ☆ ☆ - - - - -
1年後、私達の間に、女の子 実海((みうみ))が産まれていた。産まれた時は、民宿「力丸」のおばさんが、手伝いに来て、慣れない私に、色々と教えてくれたり、お世話してくれていた。
私は、地元の集会所を提供してもらえるようになり、4人の子に教えていた。みんな、友達との間がうまくゆかなくて、絵に興味がある子供達だったけど、この教室に来るようになって、4人は仲良くなって、うちとけて明るくなってきた。少しづつ、友達も増えていっているみたい。子供達の変化に小学校の先生も、興味を持って、見に来てくれた時
「芳子ちゃん 疲れたら、無理しないで、休んでお空を眺めていたら・・ みんなも無理しないでね」と、私は、みんなに声を掛けたら、みんなが明るい声で返事をしてくれた。
「すごーい みんな、楽しそうでー 明るいわね―」と、先生は感激してくれていた。その後、役場からも画材などの支援をしてくれるようになった。
私、高校の時から思い描いていたように、子供達と接することが、出来るようになり、絵を通じて、何かを教えられるようになって、今は、すごく充実していた。そして、時々私の手が絵具で汚れたままだったりすると、モトシか゜「早く、手を洗ってこいよ」と私にとっての殺し文句を・・聞きながら
そして、カンコー食品の処理施設の竣工が9月にあり、遅れて、本島の新工場も竣工した。会社の支援もあって、村役場と漁協でサンゴの保護活動も、来春には進めて行くという予定になり、モトシも張り切っている。
私達、贅沢なことは出来ないけれど、私、少しばかり貯金も出来るようになったし、美しい自然と親切な島の人々にも囲まれて、本当に、今 モトシと実海と一緒に、幸せを噛みしめている。
Is very happy with my family
それから 本町絢と水島基は 最終章