闇の母子

昔あるところに
闇の母子(おやこ)がおりました。
母子は小さな家の
かまどのすみにおりました。
赤い炎がちろちろ燃えて
あたたかな家でした。
子犬が鼻をこすりつける
しめったやわらかな家でした。
小さな家に光がさすと
母子はすみへ逃げました。
こっそりじゃまにならないように
息をひそめて暮らしました。
ハッピーバースデーになると
母子は闇を深くしました。
この家の小さな男の子といっしょに
一生懸命ろうそくを消しました。



小さな家に灯りがともったとき
母は子を守りました。
かまどのすみのすみに
必死にわが子を隠しました。
光がきて母を奪うとき
光はとても穏やかでした。
やさしくつよい腕で
母を抱き消してしまいます。
「かあさま!」
小さな子は怖がって
奥の奥に隠れました。
光はどこまでも追ってきて
微笑んで
正しい腕で
子をさらっていきました。



世界に闇がもどるとき
母は子を探しました。
抱きしめて
傷を癒すと
静かに町を離れます。
夜はふたりを守ってくれました。
深い森の奥の奥で
大樹の陰にやすらうと
天の星の煌きのもとで
ふたりは眠りにつきました。

闇の母子

闇の母子

2014年作

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-12

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