姫君たちのチェス

姫君たちはポーンとなって
戦場に立ちました。
八人の後ろには
東西のルークさまと
東西のナイトさまと
東西のビショップさまと
両陛下が
座しておられます。


姫君たちには使命がありました。
それは
愛する陛下に勝利をもたらすこと。
姫君たちには夢がありました。
それは
敵陣の果てまで進み
いつか自分もクイーンになること。
めったに叶う夢ではありませんでした。
縦横無尽に攻め動き
陛下をお守りするクイーンは
女の鑑
姫君たちの憧れでした。


姫君たちは
指図どおり動きました。
一歩ずつ
勇敢に進みます。
敵に捕えられると
思わず目をつぶりました。
敵は笑って
やさしく虜にいたします。
取られた姫君は
申し訳なさそうに陛下を見ました。
陛下は微笑んで
心配ないと肯かれました。


取り込まれ
二度と戻らない者もいました。
姫君たちのチェスは
今日も続きます。
もう少し
もう少しで
姫君たちは立ち止まりました。
敵を防いで
引き戻されて
何度でも
姫君たちは立ち上がりました。

姫君たちのチェス

姫君たちのチェス

2015年作

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-12

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