それから 本町絢と水島基は

すんのはじめ

それから 本町絢と水島基は
  1. 第一章
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  12. 第二章

僕、水島基は地方大学の農林海洋学部に進んだが、オリエンテーリングの日、幼馴染の本町絢が校内で待ち受けていた。僕の後を追って、同じ大学の教育学部に合格していたのだった。彼女の姿を見つけて、駆け寄ってくる絢を思わず、僕は抱きしめていた。

第一章

1-⑴
絢はお父さんの昔からの仕事関係の仲間の家に住まわせてもらって、僕は学生寮に入った。2年までは教養課程で同じ講義を選べる。

 学生会館のカフェテリアで、絢と二人でお昼をしていたら、

「おぉ いつも仲がいいな おふたりさん。いつもは、表の潮食堂なんだけど、二人の姿が見えたもんでな」

 寮の隣の部屋で同じ学科の 石本慎二(いしもとしんじ)が、A定食のトレイを置いて、話かけてきた。彼は、早々と水泳部に入部していた。

「水島、高校の時も水泳やっていたんだろ、一緒にやろうぜ」

「うーん もう少し様子見るよ 他にやりたいことあるかもしれないし」

「そうかー 絢ちゃん、入らない」

「私 合気道やろうかと思っています。なんでウチの名前知っているん?」

「えぇー なんで合気道 イメージ合わないなぁ あのね、先輩連中の間では、ミス〇〇大の教育学部3回生の桂川音海の後は、新入生の吉川すずり か 本町絢 か っていう話なんだよ 絢ちゃんは有名人なんです」

 僕も絢も声が出なかった。つづけて、石本が

「もっとも、僕は本町絢には水島基という彼氏がいますって言っておいたよ」

「おい やめてくれよ 彼氏って そんなー」

「ウチは、かまへんよ モト君が彼氏って ウチはモト君の彼女のつもりだもん」
 
 やめろよー。ただでさえ、しょっぱなに学生会館の前で女の子を抱きしめている奴がいたと話が広まっているのに・・。

「おお おお 言うのー 絢ちゃんも。それで吉川すずりは付き合っている奴がいるんか聞いてくんない? 同じ教育でしょ」

 石本も関西出身で遠慮なしに話しかけてくる。でも、付き合いやすいので、この後、僕はこいつと仲良くなっていく。

1-⑵
水曜日の午後、僕と絢はお城公園の坂道を天守閣めざして登っていた。水曜は午後から履修が1ケだけなので、絢が「お城に行こうよ」って言いだしてきた。もちろん、ふたりとも初めて行く。それに、デートみたいなのも初めてだ。そういえば、今まで、図書館とか僕の家でしか、ふたりだけで会ったということがなかった。

 [うふっ モト君と初めてのデート 私、ジーンで色気ないけど、まぁ 良いっか モト君、手をつないでくれないのかな 私からつながなあかんのかなぁ]とか絢は思いながら、時々、手が触れるように近づいて、登っていた。

 僕は、絢の手の平を探すように、後ろからつないでいったんだが

「うぅーん ちがう 逆 ウチが後ろから モト君が引っ張って行って」とつなぎ返してきた。

 絢はつないだ手を前後に振り出して「ワン ッー ワン ッー」と掛け声を出し始めてた。石段を登って、三層の天守閣に着いた。中を登り始めたら、途中から急な階段になって、さすがに手を引いてやるのも大変だった。

「うわぁー こんなの スカートじゃあなくて良かった」

「絢のパンツなんか誰も・・」

「いやだぁー 誰も見ないってー」絢は下から僕のお尻をつついてきた。

「いや 誰にもみせちゃぁ駄目だよ」

「ウン わかってる」と言ったきり、絢はまた顔を紅くして、黙っていた。

 最上階からは市内が全部見渡せた。

「絢んちも見えるのか」

「うん こっち」「あそこだよ 中庭の庭園があるから、わかる。大きなお家なんだ。ウチの部屋からもお城見えるんだよ あっ もしかしたらウチの部屋も見えるんかも あー 着替えてるとこ見られてるかも」

 僕が「ばーか」と変な顔していると

「だいじょぶだよ カーテンしてるもんねー」と、こんな絢は可愛い、抱きしめたいと思っていたら

「そうだ、ふたりの写真撮ろうよ 仲良いのん 小学校の植田先生に送らなきゃ ウチ、まだ先生に、ここにいること知らせてないんだ。不義理しちゃてるね でもね、ウチ、もしかしたらモト君にふられるんじゃぁないかと心配やったから」

 そんな訳ないよ、絢、今度はしっかり・・

1-⑶
 澄香お姉ちゃんが就職してしまったので、私、その代わりにお店を手伝っていたのだ。私が住まわせてもらっている藤沢さんのところでは、『藤や商店』という名で、駅前と商店街に店を構え、近隣の海産物と北海道、沖縄のものも取り寄せて販売している。

 おばさんは「絢ちやんに手伝ってもらう訳いかないわよ、本町さんに叱られるわ」と言っていたが、「ううん 時間のある時だけ。それに、私は働いたことないから、社会勉強になるから」

 私は、家に近い商店街の店のほうで、店員さんの着物姿で店頭に出ていた。着物の着付けも教えてもらって、今日で3回目。最初は恥ずかしかったり、解らないことばかりで、ベテランの店員さんに叱られてばっかりだったけど、何となく慣れてきた。私が、お客様の問いかけなんかで、困っていると、直ぐに、その人が駆け寄ってくれて、助けてくれる。普段、厳しいけど、親切に見守ってくれている。そういう点では、私、先生目指しているから、勉強になる。

 今日は、女の人仲良し4人組の観光客に、覚えたての幾つかの商品の説明をして、「あなた、明るくて、一生懸命でいいわね」と、いっぱい買ってくれた。あとで、ベテラン店員さんに「ほんと、明るくて、かわいらしくて、ちゃんと説明してお薦めしていたのよかったわよ」と褒めてくれた。

1-⑷
 2回生までは、ふたりとも出来るだけ、同じ講義を受けられるように、履修科目を選択しておいた。でも、受講中の席は、あんまり、べったりなのもと思い、前後に別れて、同じ学科の者同士で座っていることが多かった。

 経済学の講義を終えて、私は同じ学科の 吉野茜よしのあかねちゃんと歩いていると、後ろから
石本慎二が声をかけてきた。振り返ると、モト君ともう一人 竹川光喜たけがわこうきの3人連れ

「絢ちゃん、お昼一緒に潮食堂行こうよ」

「ごめん、ウチ 私、あかねちゃんとお弁当持ってきてんねん」

 僕は、最近、絢が、僕以外の人と話す時は、ウチというのを直そうとしているので、おかしくて、少し笑ってしまった。

「おぉー いいなぁ ウチ等にも作ってきてよ」と慎二がふざけ気味に言った。

「あっそうかぁー じゃあー 明日は君達3人の分も作って来るわ 毒入りの」と負けずに絢も返したてた。

 僕には、絢が今の大学生活を楽しんでいるようで、一緒の大学で本当に良かったと思っていた。

 翌日、庭園の芝生に5人が、絢特製のお弁当を食べていた。サンドとドッグに玉子焼きとかベーコン巻きも、絢は5人分を作ってきたのだ。

「絢ちゃん、うまいよ こんな女の子が作ったもの食べるの初めてだし、感謝、感謝だよ なあ光喜 涙出るよな」

「うん うまい こんなの基はいつも食べてるのか いいなぁー」

 確かにおいしかった。でも、僕は2回目なんだ。小学校の時の夏休み、ふたりで図書館で勉強してたころ。あれ以来だ、あの時から、絢と・・。

「ところで、吉川すずりの情報入った?」と慎二が絢に聞いていた。

「ウン 話はしたけど、彼氏のことなんか、いきなり聞けないやんか 自分で聞いてみればいいやん」

「そーなんだけど、知らないのに、いきなり話かけるのもなぁー 向こうは美人だし」

「あらー 目の前のかわいらしい子ふたりには遠慮なしに話すのに・・ ねぇー あかねちゃん」

 絢も慎二には、ずけずけ言うようになっていた。

1-⑸
 僕は、結局、水泳部に入部し、週2回夜に家庭教師のバイトもすることにした。飲食店をやっているので、学習塾は送り迎えできないからと、中学2年の男の子と小学6年の女の子だ。下の子を教えていると、絢にもこんな調子だったかなと想い出していた。夕食も用意してくれるので、僕には具合も良かった。

 5月の連休があったけど、僕は半分は練習があり、絢はお店が忙しいので予定が詰まっていたけど、 最終日に絢が休みもらったとかで、ふたりで海辺の公園に行くことにした。

- - - - - - - - - - - ☆ ☆ ☆ - - - - - - - - - - 
 
 前の日、お店を閉める頃、澄香お姉チヤンが訪ねてきた。お姉ちゃんは今日と明日だけ午後から、駅前のお店の方を手伝っている。4月から小学校の先生をしていて、忙しいんだけど、家業ということで、奥の方を手伝っている。

「絢、買い物あるでしょう?。少し早い目に上がらせてもらったから、一緒に行こう。北野店長には私から言うから」

 私は、お店は8時までだけど、今は7時。いいのかなぁーと戸惑っていたけど

「OKもらったから。早く着替えてらっしゃい。あそこのスーパー9時までだから。絢の着物姿も似合って可愛いわね」

 私、お店の人に挨拶して、お店を出た。

「明日、何時待ち合わせ?」

「うん、モト君、たまには、ゆっくり寝たいからって11時なんだぁ」

「そう、いいじゃぁない。私も手伝うから。お弁当、どんなのがいい?」

「いつもサンドばっかりだから、今度はおにぎりがいいのかなって思ってるんやけど、私、作ったことないんだ」

「大丈夫よ、教えてあげるし、簡単よ」

 おにぎりの具材、たらこ、肉しぐれ煮、鮭とかと焼肉用なんか買ってきた。支払いの時、お姉ちやんが出してくれて「いいよ、お母さんからあずかっいてるから」と

 その夜はお姉ちゃんと一緒にお風呂に入ってから、色々とモト君のこと聞かれた。小学校からの成り行きは前に話してあったんだけど、大学になってからの話を。お姉ちゃんはビールを飲んでいた。

「あー 風呂あがりはおいしいぃー で、あなた達はどこまでいってるの?」

「えー モト君とは・・この前、ふたりでお城に登った時、初めてを手をつないでくれた」

「アハー? なにそれ、小学生か いまどき 純粋といえば・・・なんだけど」

「お姉ちやんは お姉ちゃんの話聞きたい」

「私? アハー キスぐらい高校の時したわよ でも、そこまで その人とは別れたし、その後、私の理想の男なんているわけないじゃぁない でも絢は別よ 好きな人が居るんだし、明日はチャンスだよ そろそろ、そのつもりで仕掛けなきゃだめよ」

 お陰様で、その夜は想像してしまって 今でも、いつも会っているし、勉強も一緒に出来ているし、とっても幸せなんだけど・・。でも、学生会館の前で初めてあった時みたいに、ギューっとして欲しいし、キスだって・・してほしい時もあるかな。モト君が求めてくるんだったら、ウチの全部でも・・高校の時でも、何人か聞いていたし・・あっ 明日、何着て行こうかな うー 明日決めよ

1-⑹
 朝早く起きたつもりだったけど、おばさんがもうご飯を炊いていてくれた。

「ごめんなさい」

「いいのよ どうせお父さんの分もあるから そうだ、これお給料」

「そんなぁ お世話になっているのにー」

「いいの その分は本町さんから充分いただいているから 今日は天気も良いし、楽しんできてね」

 と言ってくれたが、確かお父さんもいつも朝はパン食のはず。そのうち、お姉ちやんも起きてきて、作るの手伝ってくれた。おにぎりも海苔巻いて、私、上手に出来た。玉子焼きとか肉も焼いておしいそうなの出来上がった。もちろん、入物は一つだよ。

 おばさんとお姉ちやんは先にお店に出て行った。私、白のサスペンターのストレートパンツとロイヤルブルーのニットのセーターに決めた。私の大きくない胸でも少しは強調出来る。胸ぐらいは開けれる方が良いのかななんて、ふと考えたりして・・。なんだろうー、下着も私の持っている一番可愛いのにした

1-⑺
 来た、絢だ。今日は、髪の毛を束ねていなくて、風に揺れている。眼がくりっとしていて、唇も小さいせいか、美人ではないが、なんか可愛い。

 浜に着くと、もう12時を過ぎていて、直ぐに、絢がお弁当を食べようと砂浜で食べだした。今日はおにぎりだ。こいつ、一つの箱にしてきやがった。でも、僕の好物ばかり詰まっていて、おいしい。ボトルの冷たいお茶をその蓋に注いでくれたんだけど、僕の飲みかけを、絢はツレーと飲んで平気な顔をして、又、注いできたので、僕もそれを飲み干した。

 ここには、水族館もあって、僕はとても興味があった。色んな海の生物がいて楽しい。中でも、サンゴの色々な生態に魅かれて、僕は、絢が飽きてくる30分位そこに釘付けになっていた。でも、絢は何にも言わずに、僕がぶつぶつ言っているのを、側で付き合っていてくれた。

 それから、展望タワーに登ったりして、浜辺で石を探して歩いたりして、真下に海が見渡せる先っぽの展望台に向かった。もう、夕陽が沈む頃だった。

「水平線がすごくて、きれいだね」

「うん ウチ等、海に馴染みないところだつたから、いいよね海って、夕陽もきれいだし」

「あの海の底には赤いサンゴとかいろんな色のがすんでいるんだろうなぁ」

「モト君、サンゴ好きなの?」

「いや でも、アイツ等きれいな海じゃぁないと生きていけないんだ。環境の変化にも弱いし、だから、サンゴが元気に育っていると、海も汚染されていないし、魚達だって、安心して卵を育てたりして、結局、人間の生活を守ることになるんだよ」

「モト君はそんなことまで考えているんだ。だから、海洋で勉強しようとしているの?」

「うん そうなんかなぁー」

「わかった、すごいね そんなモト君に私も、付いて行って良いカナ?」

 僕は、無性に絢が可愛かった。そして、離したくなかった。周りに人もいなかったし、絢の肩を抱き寄せ、顔にかかった髪の毛を分けると、シャンプーのいい香りがした。絢の眼は大きくないが、透き通っていて、真っ直ぐ見つめられると、真っ黒な瞳の中に吸い寄せられる。「絢」と言いながら、唇を寄せて行った。絢は、嫌がることも無く、顔を上に向けて、目を閉じていった。自然に、ふたりの唇は合わさっていた。

「絢、好きなんだ ずーと言えなかったけど」

「ウチも うれしい 大好き モト君」

 帰りの道に他の人も居なかったので、僕は絢の後ろから細い腰をぐっと抱き寄せた。絢も僕の胸に顔をあずけてきて、胸を押し付けるようにしてポツンと「すごく ウチ、うれしい しあわせ」と・・

1-⑻
 街に戻ってきて、私は、晩御飯も食べようよって

「モト君、お願い、ウチな ラーメン屋さん行ったことないんよ 連れてって―」

「えー そうなんや 家でとか友達とかで行ったことないの?」

「うん 学校帰りは禁止されていたし、お母さんがたまに作ってくれたけど、今まで、2、3回しか、食べたことないねん 会社の人も、駅前の中華のお店、焼飯はうまいけどラーメンはなぁー って言っていたしな」

「ふーん やっぱり、絢はお嬢さんなんやなぁ」

「そんなことないわー なぁ 行こー とんこつ食べてみたいねん」

 ふたりで、カウンター席に座っていた、私、初めての経験。モト君は、炒飯も頼んでいたから、食べている途中で「食べる?」って、お皿ごと私の前に差し出してくれた。私、そのまま2口ほど口に入れて、戻したら、何でもなくモト君は、又、食べていた。普通に、こんなことが私達出来るようになったんだと、うれしかった。

「送って行くよ」と店を出たあとモト君が言ってくれたけど

「うぅん 大丈夫 歩いてもそんなに遠く無いし モト君の方が遠いし、ここでええわ それより、少し膝曲げて低くなってくんない?」

「えー こうかぁ」

私、低くなったモト君のほっぺにチュッとして

「今日は楽しかったわ ありがとー じゃぁまた明日ね」

 - - - - - - - - - - ☆ ☆ ☆ - - - - - - - - - -

家に帰えると、お姉ちゃんは流しで洗い物していた。

「ただいまー あっ 着替えてきて手伝うね」

「いいわよ それよりどうだった? ちぃーとこっちに来なさい。男の臭いが移ってないか、確かめてあげるから」

「そんなぁの いやだ、恥ずかしいよ、お姉ちゃん 私、そんなことしてないもの・・」

「何にも言ってないよー さては あやしいぞ 絢」

 私、危ないから無視して、リビングでくつろいでいるおじさんとおばさんに、ただいまの挨拶にいった。

「おかえり 楽しかったみたいね すぐ、先にお風呂入りなさい お父さんが先に入れって、たまには若いおなごのエキスが残っちょるのがいいって、いやらしいこと言っとるよ」

「そんなぁ・・ すみません じゃぁ、失礼してお先にいただきます」

 今日のことは、お姉ちゃんにも黙っておこうと思った。大切な想い出だもの 

1-⑼
 次の日の朝、階段教室での社会学の講義で会った時には、ふたりとも、普段と変わらず、おはようを交わしたが、私はVサインを送った。でも、会った時の感じが、今までよりも、もっと近くなったのを感じていた。

 今夜は、お店が休みなので、皆で外食しようとおじさんが言っていた。私は部活があるので、帰りは8時になる。お姉ちゃんも、それぐらいかなって、8時からってなった。7時半頃家に着いたら

「もう、私達はお風呂済ませたんだけど、絢ちゃんも入る?」

「うーん ちょっと、せわしいので後にします。シャワー学校でしてきましたし」

「そう 澄香も、もう帰って来ると思うし、着替えたら、リボン結んであげるね」

 着替えなさいってことだよね。私は、ローズピンクのフレァーワンピースに襟元には、お母さんからもらったアメジストのネックレスをした。行くのは、歩いて10分足らずの所にある『やましげ』のステーキハウスなんだけど。着替え終えて、下に降りて行ったら

「なんて、可愛いらしいのかしら こっちに来て リボンはえんじ色でいいかしら 澄香のものなんだけどね。あとで、写真撮りましょ」

「そうだ絢 うちの宣伝ポスターに出てくれないか 今は澄香がモデルしちょるが、割と人気あってな 絢と二人で出ていると、もっと話題集めて、テレビ局も来るわいな もっとも、澄香は先生になったから、もう、駄目かも知れんが」

「私、そういうの、駄目なんです。恥ずかしいから」
 

 澄香お姉ちゃんは、少し遅れるらしくって、3人で先にお店にいった。お店は古くからあるお肉屋さんの隣に白壁造りで建てられていて、中に入って行くと、テーブル席が幾つもあって、3組の夫婦らしき客が居て、壁側の通路を通って行くと奥には、鉄板の周りに10席ほど円形に配置されていた。その真ん中あたりに座ったら、男性のウェイターさんが飲み物を伺いに来た。

「わし等はビンのビールがいい、グラス2つ、絢はどうする?」

「私、お水がいいです」

「そうか、じゃー ぶどうのジュースでも持ってきてくれ」

 コックさんがお肉の塊が入った竹ザルのお皿を見せて「これになります。土佐のあかうしで」と言ってきた。

「おう、いいぞ その前に鮑を頼む」

「申し訳ございません。今日は大きいのがなかったので入れておりません。とこぶしなら大きいのがございますが」

「それは、味がもうひとつでなぁ。じゃー 帆立と車海老あるか?」

「はい、知床の帆立と車海老は対馬の天然物がございます」

 おじさんは、やり取りした後、私に

「この男は『やましげ』の社長が東京のホテルから引っ張ってきたんだ。腕は良いし、客の身になって、よく考えてくれちょるから・・、重友君だ。わしは、いつも指名するんだ」

 その時、黒のダブルのスーツ姿の人が寄ってきて、おじさんとおばさんに挨拶してきた。

「いつも、ご贔屓にありがとうございます。奥様もいつもお元気そうでいいですね。こちらのお美しいお嬢様は初めてでございますよね」

「あぁー 社長 これは、わしの下の娘だよ 4月に生まれたんだ」

「えぇー そうなんですか オーナーの永田でございます。お嬢様はこちらのご出身でございますか」

「社長もしつこいな わしの娘だから、ここの出身にきまっちょるよ」


「遅れて、すみませーん。ごめんなさいね」と、その時、澄香お姉ちゃんが入ってきた。

「おぉー こんな美しいお嬢様お二人もお持ちなんて、うらやましいですな。どうぞ、ごゆっくりしてください。私は、ここで失礼いたします」とオーナーは笑顔で去って行った。
お姉ちゃんが席に着くと、コックさんが話しかけていた。

「いらっしゃいませ 髪の毛を短くなさったのですね そちらも素敵です」

「ありがとうございます うれしいわ この前はお世話になりました」

「おいおい 君達は知り合いなのか」とおじさんが少し慌てていた。

「そんなことじゃあ無くてょ ただ、卒業前にお友達と食事に来ただけよ その子、卒業旅行に一緒に行けなかったから、記念にと思って、その時、重友さんにお世話になつたの」
「あっ そうだ この前、一緒だった璃々ちゃんが、とてもおいしくて、楽しかったので、いい想い出になりましたと、重友さんにお会いしたらお礼言っておいてと言われてたのよー あの子、島の先生になると言って志願して行っちゃったけど」

 コックさんは、黙ったまま、うれしそうに頭を下げていた。
 
「そうなんか わしはいろいろと考えてしまった すまんのー」とおじさんは、ひとり、ぶつぶつ言っていた。

1-⑽
 水泳部の新入生歓迎会が市内の海鮮居酒屋でしていて、僕は、そこに居た。僕は、入学式の時のことがあったので、酒は印象良くなかったから、先輩から勧められても、ほどほどに交わしていた。同級生の慎二は調子よくやっていたし、同じく海洋の松田美波も平気で飲んでいた。自己紹介の時に、地元出身で漁師の家と言っていたのを思い出した。

 隣の部屋は、サッカー部で、かなり騒々しく、盛り上がっている。団体競技と、どちらかと言うと個人では、連帯感が違うのかなと思うぐらい、むこうに比べて、こっちは静かだ。女子が数人居るにもかかわらず。逆に言うと、そのせいかな。

 盛り上がりに欠けているせいか、話題が、3回生の桂川音海の話になった。先輩連中の何人かが、アタックしていった時の、成り行きの話をそれぞれしていた。彼女は今年から、地元のTV局でキャスターとして出るらしい。
「去年の今頃、俺は、彼女が独りで歩いていたので、話しかけて友達になってくれと言ったら、良いですよという返事で、喜んでいたのに、一週間ぐらい後、話かけたら、誰でしたっけとか言われた。八方美人ってあんなのを言うんだろうな」と先輩の一人がグチっていた。

 別の人の話も似たり寄ったりで、あんまり、彼女の評判は良くない。今年の新入生は豊作だよなとか言っているのも聞こえた。

「音海って、観光協会のポスターの話もあるらしいぞ。スターだからな。美波ちやん、どう思う」

「私みたいな雑な女に言い寄って来る男の人は居ませんから、わかりません。でも、私なら、もっと大事にしちょるなぁ」さばさばした娘だ。

 最後は、桂川音海の話で済んで、絢のことにまで及ばなかったのは、みんなが僕に気を使ってくれたのか、気にしすぎることじゃぁないのかな・・。

 同じ寮なので、慎二と帰っていたら、肩を組んできた、酔っているようだ

「なぁ 基 本町絢と吉野茜は良い娘だよな 二人とも、気立て良くて、明るくて 俺たちのアイドルみたいなもんだ お前、絢ちゃんを大事にしろよな」

 あれ以来、昼休みに5人で居ることが、ちょくちょくあり、こんな風に言っているのだろう。でも、こいつは良い奴だなぁ 僕は、ここに来ての初めての親友のような気がしていた。

1-⑾
 7月初め、紳お兄ちゃんが訪ねてきた。私が小学生の時、大学を中退してアメリカに行ってしまったから、ひさびさに会う。4月下旬頃に実家に帰ってきているはずだ。

 駅前のホテルに泊まるというので、そのロビーで待ち合わせした。部活が終わった後、私はそこに向かった。7.8年ぶりなんだけど、わかるだろうか。

「絢 絢」手を振っている。すぐにわかったみたい。

 私も「お兄ちゃん」と駆け寄ると、いきなりハグされ、背中をポンポンしながら

「かわいらしくなったな。去年の写真より、少し大人びたみたいだなぁ」

「おにいちやん みんな見てるから もう 恥ずかしい」

「おー そうか  表の海鮮の店に行くか あっ でも商店街の近くが良いか その方が家近いんだろう」

 と、言って路面電車で移動した

「お兄ちゃん、クリスマスのプレゼントありがとう ごめんなさい、付けてこれなくて、ウチ、学校から、そのまま来たし、もっときれいな恰好で来れば良かったんやけど」

「そんなこといいよ 急に連絡したし、それで充分可愛いよ」

「ありがとぅ あと、お父さんにウチのこと、後押ししてくれたんやろー 助かったワ」

 お店に入って、お兄ちゃんは「7月に洋風雑貨のお店を東山でオープンさせるので、今、内装をやっているんだ」と言っていた。お父さんが反対していたに決まっているけど、たぶん、納得させたんだと思う。

「さっき、藤沢さんに挨拶してきたんだ。おやじからの言づけもあったしね。水島君の話も出てな、仲良くやっているそうじゃぁないか。良かったなぁー 彼にも、会ってみたかったんだけどね、おやじにも、どんな印象かを伝えたいと思ってね」

「と、思ったんやけどナ モト君、今日、家庭教師やし、あんまり、プレッシャーかけるのも嫌がるかなって思ってナ、お兄ちゃん来ること言うてへんねん」

「それより、お兄ちゃん恋人は? 居るのー」

「いやーぁ まだまだ 先に、仕事成功させないと」

「ウチ、日本に帰って来るいうから、アメリカからお嫁さん連れて、帰って来るんかなって思っててん」

「じょーだんだろう 向こうでは、仕事ばっかだったよ。でも、僕はあのまま大学に居るより、向こう行って良かったと思っている。実際に、実務を勉強させてもらったからな」
「絢は、夏休み帰って来るんだろ。お母さんも楽しみにしているぞ」

「ウン でも8月初めに試験があって、お盆は藤沢さんとこのお店が忙しいから、お手伝いしなきゃあなんないし・・」

「そうかー でも出来るだけ帰ってこいよ それも親孝行だぞ」

 それから、私の小さい頃の話も出て、本当に私は、その頃から誰とも遊ばす゛、家ん中で絵ばっかり描いていたみたい。話をするのが苦手で、でも、私が明るく、話をするようになっていたので驚いていた。
 お店を出て、家まで送ってきてくれた。挨拶もしておかなきゃと

「ただいま帰りました。実家の兄が挨拶したいと言っているんです」と、言ったら、お姉ちゃんが出てきて

「初めまして、娘の澄香です。母は今、身なりを整えてますわ。どうぞ、お上がりくださいな。私、今、晩酌始めたところですの。ご一緒に如何ですか」

「いえ それは豪快ですね。こんな美人と飲めるって嬉しいのですが、もう、時間も遅いですし失礼いたします。次回、機会ありましたらと楽しみにしています」

 その時、おばさんが出てきて「どうぞ、まもなく主人も帰ってきますから」と勧めたが、やはり
「時間が遅いのでここで失礼します。絢のこと、どうぞよろしくお願いいたします」と、帰って行った。

「感じのいいお兄さんね あんなにサラリと褒められて、私うれしいわ」とお姉ちゃん、浮かれてた。

第二章

2-⑴
 ハンバーグショップで、絢と二人で居た。さっき、試験期間を終えたところだった。僕は、試験が終わるまで、少し家庭教師を中止していたので、今日は久しぶりに行くのだけど、時間があったので、絢を誘った。

「大阪に帰るの決めたか?」

「うぅーん まだ、決めていない。モト君に相談しようと思って」

「なんで 自分で決めたらええやん お母さん、楽しみにしてるでー」

「モト君はいつ帰るの?」

「うん 僕はいつでも良いし、絢に合わせようかと思っている。帰らなくても、良いし」

「そんな風に思っていてくれたんや じゃー、17日に一緒に帰ってくれる?」

「いいよ じゃー 17日の朝の特急指定取っておくわ 飛行機の方がいいか?」

「飛行機高いし、電車の方が、モト君と長いこと一緒に居られるし ウン、うれしいわぁー 楽しみ、一緒に旅行できるなんて」
「明日から、松田美波さんとこ行くんでしょう。あと、川崎葵さんも一緒だって?」

「ウン 慎二もな。最初、茜ちゃんも誘って、みんなで海でキャンプしようと言っていたのに、絢が水着は嫌だって言いだしたから、取り止めになったままで・・。そしたら、美波がみんなで遊びにおいでよ、海も近いし、魚もおいしいからって、誘ってくれてな」

「だってね 水着って、みんなの前じゃー恥ずかしいよー モト君だけだったら、別にいいけどー。でも、他の女の子と、あんまり仲良くなっちゃぁ やーだな 川崎さんって、少し、きれいな娘だよね 心配だょ ウチって嫉妬深いのかナァー ごめんね アッそうだ 9日の夜には戻ってきてよ 花火、一緒に見たいの お願い」

「わかった 大丈夫だよ みんなクラブの仲間だし。僕は、いつも、絢のこと思っているし、心配するなッテ!」

「だって あれから、チューもしてないんだよ」

 絢は、うつむき加減に言って、相変わらず、みるみる真っ赤になっていた。

それから 本町絢と水島基は

それから 本町絢と水島基は

僕は地方の大学海洋学部に進んだ。オリエンテーションの日、絢が学生会館の柱の陰から姿を見せた。僕を追って、教育学部に入学していたんだった。駆け寄る彼女を、僕は、思わず抱きしめていた。 それから、ふたりは大学生活を楽しむ日々を送っていたが、僕の就職を巡って・・ 絢と僕の留メ具の掛け違い・・そして 続編 連載

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日 2021-06-08

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