棘の少女
いりくんだ棘の園には、だれも触れることのできない、少女が住んでいた。その少女は水滴を集めて、大きな泉をつくる。波のない水面はだれのものでもなく、(ゆえに少女のものでもなく、)崩落の危うさとともに、肥大している。
少女はほとりに座りこんで、底を眺めていた。底には腐敗した死体がある。腹のあたりから酸素が湧きだして、それが少女の生命に直結している。生きてゆこうなどと、おもいもしなかったのに、その酸素は人間の創造物であるゆえに、生命体の運命を背負っている。
絡みついている、
棘が、
地に、草木に、風に、ささやきに、水に、足に、
絡みつき、いりくむ、
ひっそりと生きている。そのどこからか生えた過ちは、少女そのものに重複していく。だれのものでもなければ、人間のものになる。そう、棘の園が、語りかけている。崩落寸前の土が、少女の応報を予期していた。
そこで生きている。だれも。
棘の少女