わたし、きれい?
わたし、きれい?
「わたし、きれい?」
妻がわたしに問いかける。
「もちろん、きみはきれいだ」と即答できなかった。
目が見えない私は、妻の姿を脳裏に呼び起こす。回想のように、彼女の姿が思い起こされる。回想の始まりは、彼女との出会いの時からだ。
あれは、まだ私の視力があった頃、会社の入社式の日。百人規模の新入社員の中から私は彼女を見つけた。私の一目惚れだった。彼女の容姿が、私の好みのど真ん中だったのだ。
ほどなくして、私たちは交際を開始した。想いを打ち明ける時、一目惚れだったことは素直に伝えた。
交際開始から三年の月日が流れたのち、プロポーズをした。二つ返事で受け入れてもらえた。
それからの結婚生活は順調そのものだったが、十五年が経った頃から彼女に変化が訪れた。
彼女が老いを感じ始め、高級な化粧品や美容サロンに収入をつぎ込むようになった。
私が「顔が疲れているよ」と言ったことが引き金になったらしい。それから、私は妻に「きみはきれいだ」と言い続けていたが、彼女の美への追及は止まらず、ついには美容整形にまで手を出した。
その頃になると、私が若い子に目移りするのではないかと恐れるようになった。若い子との浮気を疑うようになった。
だから彼女は、私の視力を奪ったのだ。
「わたし、きれい?」
回想に耽っていると、再び彼女が問うてきた。
「もちろん、きみはきれいだ」
わたし、きれい?