黒猫現る 少しの夢を見させる おばぁさん編
黒猫何処からかが現れて 「お前に少しだけ夢を見させてやる」 と、言うと不思議な想い出がよみがえる。
年老いた女の人が、公園のベンチで、日向ぼっこしていると、何処からか赤いリボンを首に巻いた黒猫があらわれた。
その人は、袋からパンを取り出してちぎって、猫に
「お腹すいているか、ほれっ食べな」と手のひらにのせて差し出した。
すると黒猫は
「お前が大切にしている想い出をもう一度見させてやる」としゃべった。
すると不思議な想い出がよみがえってくる。
⑴
春のやわらかな日差しの中、年老いた女性が海の近い公園のベンチで休んでいた。
高浜和子、82才。身体は丈夫だが、最近、少し脚が弱ってきている。そのせいか、気持ちが弱ってきている。
海辺の旅館の女将だったが、数年前に息子夫婦に任せて、自分はたまに厨房を手伝う程度で、もう引退していた。
何処からか黒猫が現れた。赤いリボンを首に巻いている。
持っていた袋からパンを取り出してちぎって、猫に
「お腹すいているか、ほれっ食べな」と手のひらにのせて差し出した。
すると黒猫は
「お前が大切にしている想い出をもう一度見させてやる」としゃべった。
「忘れられない想い出はあるか?」と続けた
⑵
私が高校2年生の夏。その人は、友達3人と泊りに来ていた。
私は、旅館の手伝いをしていたんだけど、お昼の片づけを終えて、夕食の準備までの間、自分の時間になる。その人は独りでお庭の木陰で猫と遊んでいた。うちの飼い猫なんだけど、他人にあまりなつかないはず、珍しい。
夏、お客さんは海水浴に行くので、男の人の水着だけの姿は見慣れていたけど、その人は、大柄じゃあないんだけど、胸や上腕の筋肉が日焼けのせいか逞しく黒光りしていて、私には、とても眩しかった。
「お客さん、猫好きなんですか、タマコはあんまり知らない人には近寄らないんですよ」
「そうなんかー、可愛いからね。和子ちゃんはここの娘さん?」
「なんで、私の名前知っているんですか?」
「だって、旅館の人が呼んでいるの聞いたし、他の人に比べて若いし、なんかなって」
それで、ついつい私は隣に座って、話し込んでしまった。3日間ほど、泊っていたんだけど、彼の居る間は、夕食の片づけの後も、夜もそこで会うようになっていた。
その次の3年生の夏。再開を諦めていた、夏休みの終わり頃、彼が泊りに来た。1泊だけだったけど、その夜。彼に誘われて、海辺の突堤に座り込んでいた。
しばらくの間、話していたんだけど、突然、手をついて座っていた私の手の上に、彼が、手を重ねてきたの。私、びっくりして、手を引っ込めてしまったんだ。女子高で男の人と付き合ったこともなかったし、そんなこと初めてだったから。私、彼のこと好きだったんだけど、どうしていいか解らなかったから、黙り込んじゃって、そのまま、もう帰ろうか、ってなってしまって。
卒業してから、私、研修という形で加賀の温泉旅館に行かされてしまったから、もう会えないで終わったの。忘れられない人だから、あん時のこと、ずっと後悔してしまっています。
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「俺が、その想い出に連れて行ってやるから、夢の続きを見ろ」と黒猫が言った。
⑶
その夜、1年ぶりに会った彼と海辺の突堤に居た。彼は私の手に重ねてきた。私、そのまま、じっとしていた。すると、手を握り直して指を組むようにして、
「好きだよ、和ちゃん」
「私も」と、握り直した。
でも、月明かりで見えた私の手。シワだらけ、脚も、顔に手をやるとカサカサでツヤも無い。どうして、ひまわりのサマードレスを着ていて、若いのに、身体はおばぁちゃんだ。何なのこれは、どうして!。そうだ、私、確か82才。
「僕は、来年、就職するけど、離れていても、付き合って欲しいんだ」
私は、「ええ」って言ってしまったけど、この人はからかっているんだろうか、私が見えてないんだろうか。抱きしめられて、キスをされた。でも、私、嬉しかった。
「向こうへ行って、泳ごうよ」
手を繋いでくれて、岩場の向こうにある小さな浜に歩き出した。着いて、月明かりが海面を照らして、シワだらけの私を抱いて、もう一度キスをしてくれた。彼は、着ていた服を全部脱ぎだしたら
「和ちやんもおいでよ、泳ごう」
と言って、海に入って行った。彼の裸の身体が眩しい。私、どうしよう、一緒に行きたいけど、こんな身体、見せられないし、この年で海なんか入れない。でも、思い切って、着ているサマードレスだけでもと、すっぽり頭から脱いでいった。
私、ピンクのレースに飾られたブラとパンティなんだ。まるで、若い娘が付けているような。胸だって張りがあって、お腹だってツヤツヤしている。私、あの時に戻っているんだ。恥ずかしい。でも全部脱いで、彼の後を追いかけて、海へ入って行った。
二人して、抱き合って海の中にもぐったり、何度もキスしたり、私、彼のあれを感じたりした。海から出てきて、彼が服を敷いてくれて、私と抱き合って寝そべった。彼は私の身体中をやさしくキスしてくれて、「好きだよ」と何度も言ってくれた。「めちゃめちゃにして、今だけのこの若い身体を、私の全部を奪って」 私は、頭ん中が朦朧としながら「あなたが欲しい、私に入ってきて」とあえぎながら言ったと思う。すると、あそこから全身に鋭い痛みが瞬間、走った。私は思いっきり彼を抱きしめていた。「もっと、きて、もっと奥まで入ってきて」
私は幸せの絶頂を迎えていた。
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「その幸せを想い出として大切に生きていってな」と言って黒猫は消えて行った
黒猫現る 少しの夢を見させる おばぁさん編
「おばぁちゃん、こんなとこでうたた寝していたら、身体冷えちゃうよ」と孫娘の声で幸せの時間から目が覚めた。