神さまのくれた種
砂漠生まれのある女
大空見上げいいました
主よ主よどうか私を
舞い散る雪にしてください
砂漠生まれのある女
夜になっても叫びます
主よ主よどうか私を
くだける星にしてください
私の願い言葉希望
すべて消えてしまえばいい
私はここから出たい
自由になりたいのです
主は苦笑して言われた
私の創った世界が
ずいぶん気に入らぬ様子だね
それから微笑んで
種をひとつくださいます
その種を大きく育てなさい
それができたら
お前の願いをかなえてやろう
ありがとうございます!
女は種をうけとると
きゅっと大事に持ちました
私必ず
仰せのとおりにしてみせます
だからきっと
見ていてくださいね
ああ 見ていよう
主は微笑んで
約束してくださいました
さあそれからが大変です
女は種をうえて
水をやると
毎日毎日待ちました
掘りかえす犬
ついばむ鳥
いたずらっこからも守って
おちおち寝てもいられない
悩むのもやめたほどです
女は毎日待ちました
信じて支えて見守って
種はやがて
かわいい芽をふきました
やったー!
でも女は気を抜きませんでした
水と肥料をやって
注意深く見守ります
くさらないように
枯れないように
過ぎたるは及ばざるが如し
女の見守りは慎重です
そのうちひょろい苗木になると
添え木と囲いをしてやりました
雑草ぬいて
お日さまさんさん
木は元気です
女は毎日楽しい気がしました
せっせと世話をしていたら
あっという間に五年の月日がたっていました
あー!
女は思わず叫びました
どうしよう
もう五年もたっちゃった
木は元気だけど
まだ小さいです
見ていてやれば
まだまだ伸びそう
どうしよう
木って
死ぬまでのびるの?
主は大きく育てよとおっしゃった
それを守りとおしたら
私一生死ねなくなっちゃう!
今気づいたの?
男は思わず苦笑しました
だって主のおはからいって
深遠すぎるの!
女はこまって
手をぱたぱたさせます
でも
木を育ててるときの君は
とても楽しそうだったよ
男は女を素敵だと思いました
でも照れるからいいません
うん 楽しかったの
女はこくっとうなずきました
自分のことなんて何も考えてなかった
人って何も考えてないときが
一番しあわせなの!
すごい大発見をして
目をぱちくりさせます
よかったじゃない
男は微笑みました
でも困るわ
女は困った顔をします
木の世話ってけっこう大変なの
ずっとやってたら
私倒れるかもしれない
私は倒れても起きればいいけど
木が倒れたら大変です
木は根をはって
どんどん大きくなるでしょう
そのうちひとりで
伸びていけるようになるでしょう
でも女にはそんなこと
まったくわかってないのです
種の時 芽吹きの頃
ひ弱かった苗木の姿を知ってるせいか
いつまでも守ってあげなきゃ
支えてあげなきゃと思っているのです
それで大変だと嘆いているのです
男はそれがおかしくて
くすりと笑いました
いいよ
君が倒れたら
俺が見ていてあげるから
微笑んで約束します
どうして?
女はきょとんと首をかしげました
男はとまって
少し困ったように笑うと
主の思し召しだからさ
やさしく答えました
そう
女は不思議そうに見ていましたが
ありがとう いいひとね
笑って礼をいいました
それから主の木は
ふたりの木になりました
ふたりならんで見守ります
雪になりたい女の願いは
もうひとつふえました
どうかこの木が
無事に大きくなりますように
神さまのくれた種