学校で大人気の男子に告白されたのだけど……

なおち

  1. 校舎裏に呼び出され「好きだ」と言われてしまい……
  2. 「何やってんだお前ら!!」と達也先輩が悪女らに吠え……
  3. 「なりませぬぞ!!」弟者は姉の結婚に異議を唱える。
  4. 「粛清せねばならぬ」と達也に遊ばれた少女が嘆く。
  5. 森由紀が言う「私だけ結婚できないのは世界がおかしい」
  6. 「人の死を軽々しく扱うものではない」美奈が弟者の頭を叩く。 
  7. 「愛する息子は無垢なままでいて欲しい」と美奈が願う。

学校で一番人気の男子、布施達也(ふせやたつや)に告白されたのは、
中学一年生の女子、新見美奈(にいみみな)
これが彼女の不幸の始まりだった。

美奈は平安時代の基準に照らせば絶世の美女になる。
しかし現代の基準では「のっぺりとしたお顔」と称されてしまう。
生まれるべき時代を700年くらい間違えてしまったのだ。

美奈は、達也を慕う女子(親衛隊?ファンクラブ?)から壮絶ないじめを受ける。
コンビニエンスストアに呼び出されては暴行を受け、校舎裏に呼び出されたら暴行、
度重なる暴力に嵐に世の無常をなげくが、そこへ救世主達也が現れて美奈を救う。

美奈は時間をかけて達也に心を開いていく。
達也が実は偽りのヒーローであるとも知らずに。

校舎裏に呼び出され「好きだ」と言われてしまい……

美奈が最初に思ったのは、どうして自分が?ということだった。
美奈の学校のサッカー部で有名な人だってことは
知っていたが、学年が違うのだ。とうぜん話をしたことがない。

達也は三年生だから、秋のこの時期は受験を控えている。普通に考えたら
恋愛どころではないだろう。まして学校でアイドル的な存在とされる彼が、
一年生の女の子に告白するなんて普通じゃない。

彼の顔は確かに整っている。野性味を感じさせる目鼻立ち。
日に焼けた肌。肩幅が広く、がっしりとした体つき。
前髪をワックスで固めてオデコを出している。

「あのさ。すぐにじゃなくていいけど……返事、待ってるから」

このサッカー部のイケメンは、告白を済ませると
校舎裏から走って去っていった。
美奈は、13歳になっても一度も人を好きになったことがない。
誰もが通ると言われる初恋の経験もしたことがない。

だから急に呼び出されて好きだと言われても返事に困ってしまう。
それどころか……。

「なるほど。罰ゲームか」と思うのは当然だった。

すぐに茂みに隠れた男子の先輩たちが、クスクス笑い始めるのだろう。
もしくは、「どっきり成功」のプラカードを出てくるのかもしれない。

美奈は、自分を落ち着かせるため深呼吸しながら、どっきりが
明かされるのを待った。10分待ったが何も起きなかった。

「君、そこで何してるんだ。もうすぐ完全下校時間になるんだぞ」
「……はい。分かりました。教頭先生。今教教室までカバンを取りに来ますから」

「私立平和中学」の教頭先生は強面で有名だった。
噂によると元ヤクザ。言うことを聞かない思春期の男子達を
片手でちぎっては投げ、ちぎってはぶっ飛ばし、病院送りにしたらしい。
今どきの教師にしては珍しく、女子相手でも手は出さないにしても
口ではかなり厳しく説教するとの話だ。

美奈は、先輩から手渡された恋文をスカートのポケットにしまい、
帰りの支度をした。


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「ふむふむ。コンビニで買ったお菓子は大変に美味である。もぐもぐ」

自宅に着いた美奈は、とりあえず甘味に頼り落ち着くことにした。
今日学校で起きたことは、きっと何かの間違いなのだ。

座敷にしいた座布団に正座。膝前に置いた小さな円形テーブル。
その上に、コンビニで買ってきたスイーツを並べる。
カスタードプリン。ベルギーワッフル。百円均一のチョコチップ。
彼女は甘いものには目がなく、また親から無制限にお小遣いを
もらえるため、学校帰りにコンビニに寄るのが好きだった。

「お茶のお替りをいただこうかしら」

急須に入れておいた日本茶は空になってしまった。
一度、台所にある電気ポットでお湯を入れようと、重い腰を上げた時だった。
ガラッ、とふすまが開かれる。縁側に頭を下げた召使の女がそこにいた。

「まあまあミーナさま。また学校帰りにスナック菓子を食べてらっしゃる。
 あと一時間もしないうちに夕食なのですよ。食事前に甘いものを食べると
 お夕飯が入らなくなるし、栄養バランスが悪くなると、うんぬん……」

「説教うざし。いとうざし。私は甘いものがないと生きてゆけぬ。
 人の趣味を邪魔するでないと度々言っておるのだ。
 それより何用でこの部屋に参ったので?」

「ミーナ様のご学友を名乗る女性の方々が玄関先で待っておられます。
 どうも制服のバッチからして三学年の生徒さん方のようですが、
 いかがなされますか?」

三年生の友達なんていたかな? といぶかしむが、
思い当たる節がないわけでもない。召使いに命じて
ここで彼女たちを返してしまうこともできるが、
そんなことをしたら明日からの学校生活に不安が生じる。

「……行く」
「そうですか。ではこちらへ」

ミーナとは彼女の家庭内の「あだ名」だ。
ミーナの家はいわゆる、NHKの大河ドラマに出てくるタイプの
屋敷であり、いかにも平安貴族が住んでそうな風である。

現にミーナの召物も「平安貴族の着物」でググればでてくる、あの
着物である。ミコさんタイプの白(上着)と朱(スカート)の着物をインナーに、
真っ赤な羽織をかぶる。この赤が見事で、細かく描かれた花柄がミーナのお気に入りだった。

さすがに令和の時代にこの格好で人を出迎えるわけにもいかず、
適当な私服に着替える。彼女の私服は「ファッションセンターしまむら」で
買った激安品だが、一方で着物の価値は40万を超えた。

「こんにちわ。ニイミさん。私たち友達だよね?」
「ニーミさぁぁん? きょうはお話したいことがあったのよ」
「ここじゃ……ちょっとあれだからさ、コンビニまで行こうか?」

彼女を玄関先で待っていたのは、
恐るべきことにイケメン達也のファンの先輩たちだった。
嫉妬・する子、モブ・モブ子、ヤン・デレ美という名の女である。

彼女たちの達也に対する愛は、インド洋の海よりも深く、
アフガニスタンの荒野よりも広かった。彼女らは、達也に接近しようとしたり、
逆に彼に好かれそうな女子がいたら全力で邪魔をする。

彼女らの悪行は学園中に知れ渡り、
三学年ではその存在を知らぬ者はいないというほどであった。

「おい、ブス。ちょーし乗んなよ?」

美奈は強烈な腹パンを食らい床を転がった。今のはデレ美の攻撃だった。

美奈は恐ろしいことに、コンビニの駐車場の裏手で暴行を受けていたのだ。
このコンビニは茨城県小山市という田舎の立地だからか、
コンビニ周辺に民家は少なく、周囲数キロにわたり田園が広がる。
したがってコンビニの裏手は誰の助けも来ない魔界となっていた。

「このドブスが!! ブッサイクな顔してるくせによぉ!!」
「キモ。こいつ、泣いてんじゃんwww」
「おら!! くつ舐めろよ!! くつ!!」

美奈は言い訳する間もなく、達也に告白された件を追求された。
美奈は今日起きたままのことを口で説明したのだが、それできゃつらが
納得するわけもなく、達也は何かの間違いでおまえに告白したのだと言われてしまう。

美奈の日本人形を思わせるストレートでよく手入れされた黒髪は、
靴で散々踏まれて汚された。美奈は、何より髪を汚されたのが悲しくて涙を流した。

「おいブス。あたしらにひとつ約束してれる? そしたら解放してやるよ」
「……何を約束したらよろしいのでしょうか?」
「達也君に関るな。彼に近づくな。ラブレターは燃やせ」
「ですが、告白された側の私としては、せめて返事をしませんと」
「返事なんかする必要ないんだよ!! 彼と話をするなつってんだよ!!」

こうなっては従うほかなかった。
のんびり屋で人との争いを好まぬミーナには、
この三年の先輩たちは獰猛な獣のように恐ろしいものに映った。

家に帰り、ボロボロになったミーナを召使いはそれはもう心配したが、
「外でブレイクダンスの練習をしていた」と言い訳した。
平安貴族育ちのミーナには無理のある言い訳だったが、なんとか乗り切った。

そして翌日。
ミーナは朝食と着替えを済ませ、改めて自分の顔を手鏡(高級品)で見た。
やはり、自分の顔立ちは美人ではなかった。昨日の暴行によって、もともと
太かったほっぺが、ますます晴れてしまい、顔は左右に延ばされたように
のんびりしていた。おまけに目と口元もおっとりしていて、これでは
男子に「かえるちゃん」と呼ばれても文句は言えない。

男子にからかわれるのは小学生の時から続いているから、今さら傷つくことはない。
前髪は眉の上で綺麗に切り揃えられ、後ろは腰の位置まで垂らしている。
10代らしく、つやつやでみずみずしい髪の毛は自慢で大人からも褒められる。

本格的な作法にも通じているので、親族の集まる会合では
「平安貴族のお嬢様」とまで呼ばれて得意になっていた。

「胃が痛む。朝餉(あさげ)を半分も残してしまった。
 しかしながら、私の仕事は学業に励むことである。
 学校に行かねば母様と父様に心配され、余計に事がややこしくなるのだ。
 とにかく達也さんと関わらなければ良いのだ。ものは単純に考えることにする」

早朝。学校の門をくぐる。校庭ではサッカー部の練習する姿が目に入る。
だが達也はそこにいない。三年の秋なのですでに引退しているのだ。
よく考えてみると、例の女子の先輩たちも、受験で忙しき意味であろうに、
よくも自分を呼び出して暴行を加えてきたものだと感心してしまう。

一年六組の扉をくぐり、自分の席に座る。教室には誰もいない。
特にすることもなく、机に頬杖を突きながら時が過ぎるのを待つ。

やがて生徒たちが次々にやってきて騒がしくなる。
美奈の周りには友達が集まり、昨日テレビで見たドラマの話題に花が咲く。

「お、いたいた」

扉の先には、美奈の知っている男子の顔が。

「おーい、新見さん。俺だよ俺。オレオレ」

サッカー部のイケメン。布施達也であった。
まさかの三年生の男子の襲来に、教室がざわつく。

「おはよう」
「お、おはよう……ございます」

机の前に来て、あいさつされた。
一体何が始まるのかと身構えるが、達也はあいさつだけして
速足に去っていった。一体何をしに来たのかと不安になる。
達也と入れ替わるようにして担任の女教師が入ってきて、
何事もなかったかのようにホームルームが始まる。

しかし教室中はまだざわつきが収まらず、結局担任の
森由紀がプチギレするまで生徒はおしゃべりを続けたのだった。

昼休みになる。
美奈の楽しみにしていた食事の時間だ。この学校は私立で給食制ではない。
美奈の取り出した「重箱」の中は色とりどりのおかずが盛り付けられている。
この子の家は平安貴族風のお金持ちのため、食事は常に和食だった。
通販で取り寄せる「豪華おせちセット」並みのお昼ご飯を
学校で毎日食べていた。このメニューは専属のシェフに作らせている。

「今日も美奈のお弁当美味しそーだね」
「すっごい量だね。一人で食べきるの?」
「うん。誰にもあげないよ」

美奈はケチだった。成長期の娘ということもあるが、
食欲は人一倍であり、自分の分のご飯は独り占めする。
見せびらかすように机の上に豪華な食事を並べて食べるのが趣味だった。

「ふむふむ。この伊勢エビ。大変に美味なこと。
 イクラとしらすが乗せられたご飯も美味である」

そんな楽しい食事を邪魔するように、

「ちょっとそこの一年、面(つら)貸してくれる?」

嫉妬する子が一年六組に襲来したのだった。
する子の後ろには、デレ美とモブ子もいる。

美奈は恐怖と緊張のあまり息をのむ。せめておかずを
全部食べ終わるまで待ってほしいと言う。どのくらいかかるのかと
問われ、あと20分と答える。昼休みが丸ごとつぶれてしまう時間であった。

「ふざけんじゃねえよ!! ぶっ殺されたいの、あんた!!」

もはや女子学生の口調とは思えない。怒鳴ったのはモブ子だ。
この三名は一様に作法を知らぬ下賤な人間であると美奈は思った。

美奈は食事はよく噛んで食べるものだと教わっているし、二段もある
重箱を咀嚼するには、それくらいの時間は当然かけるものだと思っていたのだが。

美奈は首根っこをつかまれ、拉致されてしまう。
教室に残された生徒は、彼女の不運のために泣き、わめいた。

ある者はイエスキリストの十字架を取り出して聖水を振りまき、
ある者は法衣をまとい、インド式仏教の経典を斉唱した。

彼らは昼休みが終わるまでそうしていた。
6組は心を一つにし、彼女が生きて教室に帰ってくることを祈る。
これらは美奈がクラスの人気者だったことの何よりの証である。

校舎裏に呼び出されたミーナを三人が囲い込む。

「今朝のあれはなんのつもりなん? ああ?」
「いえあれは布施先輩の方から挨拶をしてきたのであって、私は何も」
「言い訳が聞きたいんじゃないんだよ!! なに彼とあいさつしてんだよ!!」

みぞおちを蹴られてしまい、食べていたものを吐きそうになる。
苦しくなったミーナは、お腹に手を当てうずくまった。
そんな彼女の背中を寄ってたかって蹴りまくる悪女たち。

調子に乗った悪女は、トイレのバケツを水でいっぱいにして戻って来た。
ミーナの頭の上でひっくり返す。

「きゃあ!! 冷たい!!」

季節は11月の末。水の冷たさは肌を刺すかの如く。
早く乾かさないと風邪を引いてしまう。

「何やってんだお前ら!!」と達也先輩が悪女らに吠え……

身を抱きしめ小さく震える美奈。
その様、さながら雨水に濡れた子犬のごとし。
長いまつ毛にかかった水滴が、目の前に滴り落ちる。

「ぷっ、泣いてるよ。バッカじゃねえの。ねえねえ。こいつどうする?」
「学校の裏の川に捨てちゃおうか」
「まじで? 川、けっこう深いし流れ早いから死ぬんじゃない?」

「違う違う。胴体にロープを巻いて溺れないようにしてさ、
 永遠と川を泳がせるんだよ。こう、流れに逆らって頑張って泳ぐ感じで」

「なにそれウけるー!!」

平安貴族として育てられし美奈。運動音痴なりて
体育の成績は小学の時より長らく最下位を維持する。
まして泳ぐなど言語道断で、手足の自由の利かぬ上、
多量の水を飲みこみ死に至るかもしれぬ。
果てして自らの身に死が迫ると思うと、
恐ろしくなり歯のかみ合わせが合わなくなる。

恨む。この女人に対してではない。無論悪女らは憎むべき
対象であるが、それ以上に恨みが募るのは、
布施達也である。彼はなにゆえ美奈に告白したのか。

彼は学園の偶像(アイドル)なりて、その名、実に校内の隅々まで
知れわたる。サッカー部の現役時代はフアンの女学童らが、
その練習風景を熱く見守ること多々ありけり。

またフアンの娘の黄色い声援に答えるため、明るく手を振ることを常とし、
まこと好少年として校内に名を馳せる。その彼まさしく、自らの人気を自覚し、
軽々しく一学年の女童(めのわらわ)に恋文など送ろうものなら、
自らのファンが激怒し、果てはいじめに発展すると想像できぬものか。

「おい。おまえら、そこで何やってんだよ!!」

そこに男、現れり。件の男子、達也なり。

「あぁ、かわいそうに。こんなに濡れちまって。
 今ハンカチ貸してやるからな」

達也のハンカチ程度では、全身に水をかぶる美奈の
前髪をなでる程度であった。

「おい!! ストーカー女ども!!」

「は、はい!!」

「てめえらのうち、誰でもいい。今すぐ保健室に行って大きめの
 タオルを持ってこい。あと替えのジャージもだ。早くしろおらぁ!!」

「ただいま持ってきますわ!!」

駆ける女の一人、その後ろ姿は欧州に広く生息するヘラジカのごとく。
残された二名は、オロオロと激しく心を乱し合掌して謝罪を始める。

「こ、これはね。違うのよ。私達はその子をいじめてなんかないわ!!」
「達也様ぁ。私達はちょっとお水で遊んでいただけなのです。本当ですわ」

その醜さたるや、万の言葉を尽くしても語り足りぬ。
いじめの最中とは打って変わって別人の語り口なり。

「どう見たって、てめらがいじめてたんだろ!!
 よりによって俺のお気に入りの新名さんを、こんな目に
 あわせやがって……どうなるかわかってんだろうな!!」

乱心した達也。髪の毛がライオンのごとく逆立つ。
ぱしん、ぱしんと、悪女の頬を順番にはたく。

「いったぁい……ひどいわ。女の子に暴力だなんて……」
「あぁ……達也様にぶってもらえた……」

女子座りして、ひっぱたかれた頬を押さえる姿に反省の色などなく、
達也に悟られぬよう、チラツと美奈を見るや、その恨みの恐ろしさに
美奈の奥歯が震える。悪の娘達は猫をかぶりながらも美奈への恨みを
まるで抑えておらぬ。

これではいずれ報復される可能性大として、美奈はどうしたものかと
考える。タオルとジャージを手に駆けてきた女から、達也は乱暴に
物を受け取ると、美奈を連れてその場を去る。

美奈は女子トイレで着替えてから、達也の待つ保健室へとやってくる。
ジャージに着替えたところで下着が冷たく替えが欲しいと願うが、
女の恥じらいから左様なことを口にするわけにいかず。

ドライヤアなる文明の利器が、都合よく保健室にありけり。
さあとて使うてみると、たいそう早くも美奈の髪につやが戻る。

「ありがと……ございます。先輩」

「いやいや。お礼を言われるほどのもんじゃないさ。
 あのストーカー女どもが、すっげえ迷惑かけた。
 本当にすまなかった」

真摯に首を垂れる。上級生が下級の生徒にかような態度をとること、
常とは言えず、彼の心持ちが好く伝わるというもの。
このやうな事態を好機と捉えた美奈は、かねてより
感じていた疑問を垂れる。

「あの人達は、布施先輩のストーカーなのですか?」
「ストーカーなんてもんじゃないぞ。あれは完全に病気だ!!」

達也、身振りを大きくして大いに語る。

いわく、悪の女囚と関りを持つに至るは、偶然にも
中学の二学年時に同じクラスになつたことを始めとする。
当初三人の娘は互いを敵と見なし、
言い争いを続けていたがやがて和解した。

そして三人の意志を一つにし、達也を離れた場所から見守ることを是正とし、
彼に好意を寄せる女生徒らを排除することを良しとするに至る。
彼女らは達也に声をかけることはせず、あくまで距離を取りたがる。
時も場所もわきまえず、彼を忍びのごとく追尾し
何時なん時でも彼の様子を把握せり。

盗難の被害多数ありけり。内容は達也の衣服なり。
Yシャツを筆頭に部室で脱衣したアンダーシャツなどなど。
犯行に及んだのが、ストオカアなる件の
女学生らであること周知の事実なり。

達也にとり身の毛もよだつほどの事態なりて、
いっそう神経を過敏にする。
学校では当然として休みの日でさえ自室の窓の外に
人の視線を感じてしまう。アマゾンで注文した品を届ける
宅配便の業者にさえ脅えて玄関を開けることためらわれる。

サッカー部を引退してからというもの、休日は自宅で過ごすこと多し。
妹と買い出しに行こうものなら、背後に迫るストオカアの気配に心を乱す。
もはや心の寄りどころが見つからず、ますます女人への不信が増す一方で、
かような生活をつづけた達也の心の疲労はいよいよ極限に達せり。

「俺がまだサッカー部だった頃、君が歩いてるところを見ていたんだ。
 君はよく夏休みに学校に来ていたよね?」

「夏休みですか。確かにわたくしは読書を好むため、
 夏休みのを利用して学園の図書館通いをしておりました」

「俺が校庭で練習している時、ちょうど君が校庭の横を通って、
 昇降口の方に歩いて行くんだ。ああ、可愛らしい子だなってずっと前から
 思ってた。ああいう子が彼女だったら人生楽しいかなって」

可愛らしい。
親族を除く殿方に言われたこと無き言葉。
美奈の心がにわかに温まる。

「俺、妹がいるんだよ。君と同じ学年にね。
 妹から君のこと聞いててさ。でっかいお屋敷に住んでるお嬢様だって
 聞いて、ますます興味がわいちゃったんだ。さすがにいきなり
 告白するのはやりすぎだったって思ってるけどね。あはは」

一年四組に布施なる名字の女生徒あり。美奈は彼の話に耳を傾けつつも
頭に顔を浮かべる。美奈と同じく美化委員に所属し、委員の全体会合の時に
顔を見たものの話したことはついになく、その顔は兄者のごとく
美形とはとても言えぬ。10人並みの顔立ちと記憶する。

「この前の告白さ、やっぱり無かったことにしてくれ」

と申す達也。

「なにを申されるのですか……」

まさしく驚天動地のミーナ。
こつんと頭を小槌で叩かれたかのごとく。

「俺は三年だ。もうすぐ受験を控えてるから、気分転換に女の子と
 付き合いたくなったのかもしれない。やっぱり俺は馬鹿だ。
 うん。すまなったね。本当に……ああっ、やっぱり
 こんなこと君に話してもつまんないだろうけど聞いてくれ」

この際だからと、彼が直面したストオカアなる新しき人類による
性的な被害について語る。これに美奈は真剣に聞き入る。

いわく、彼は小学の学童の頃より彼のファンクラブなる組織が存在した。
クラブの会員は同じクラスを初め下級の生徒も含み、
彼が6学年の頃を最盛期とした。

バレンタインなる現代人の考える摩訶不思議な行事にてそれは
特に顕著になり、チヨコレイトなる西洋菓子を過分にプレゼントされる。
その数、実に30を超える。娘らは恥じらいのためか直接に手渡すことはせず
下駄箱や机の引き出しに菓子を入れることを好む。

謎の液体が混入されたチョコあり。
使用済みと思われるパンツが箱の中に存在せり。
その他はこれと言って描写するに堪えず。
まともなプレゼントの方が少ないとは皮肉の極みなり。

布施達也。齢12にして女性不振が極みに達し、身内の母上と妹者を除けば、
一切の女子児童との会話をせぬことを誓う。しかしながら、
彼が女子らとの接触を避けたところで遠目から観察されることに
支障をきたすわけもなく心の休まる時がない。

中学に進学してからも達也の光り輝く容姿と華麗なる蹴球(さっかー)の
腕前により、早くも学園の花となりけり。時より女子学生に告白される
ことありけりとも、達也は頑なに懇意になることを拒絶する。
あちら側から好意を寄せられても、達也の側から女人を求めること、
ついに三学年の秋になるまで無きに等しく。

ゆえに達也の美奈に対する恋は初恋といえる。
また彼は容姿の整った女子よりも、少しくらいふくよかで
おっとりした顔つきの女子を好ましいと感じるのだ。

「俺は君とは今日で終わりにして、今後は一切関わらないことにする。
 あのバカ女どもには俺から伝えておく。そうしたら奴らも君に
 危害を加えないと思うんだ。俺は君が傷つくって知ってて自分の意志を
 通すほど愚かな男じゃないつもりだ。本当にごめん。それじゃあ」

まるで美奈に語る暇など与えず、まくし立てた達也。
ぴしゃりと保健室の戸が閉じられ、戻る気配はない。

去り際に彼の瞳に涙が浮かぶのを確かに見た。
ゆえに彼の思いは決して偽りではなく、
美奈を大事に思う心もまた真なのだと思われた。

その日、美奈は日課の長風呂に肩までつかりながら

『可愛らしい子だなって思って』左のセリフがリフレインする。

尼(おんな)としてこの世に生を受け、見目麗しい殿方から
褒められたら喜ばしいものである。
その相手、まさしく校内で偶像ともてはやされる殿方なりて、もはや誉である。

彼は言った。二度と美奈と関わらないと。

「しかしそれでは……」と美奈は思う。

二度と彼と言葉を交わすこと叶わぬ。赤の他人に戻ればリセツトされる。

本当にそれでよいのか。
美奈は気が付いたら彼を心で慕うようになる。
その思いは日が過ぎるごとに強さを増し、2週間が経過する頃には
美奈の側から彼の姿を目に留めたいと願うようになる。
意を決した美奈は、三年生の教室が並ぶ廊下へと足を踏み入れる。

一学年という若年者には敵国の領土に足を踏み入れるのと
等しきことなりて、美奈の鼓動がこれでもかというほど高まる。
難なく彼の教室を見つける。三年二組なるプレートあり。

「あのぉ。そこにいらっしゃる先輩。人を呼んでほしいのですが」
「見ない顔だけど、一年生の子かな? で、誰を呼んでほしいの?」
「布施先輩でございます。布施達也様」

二組の教室が、それはもう騒がしくなる。
まもなく受験を控え殺伐とする教室内であるが、色恋沙汰が生気せりと
多くの生徒が身を乗り出し、戸の前で話し込む二人の男女に聞く耳を立てる。

「き、君の方から呼び出すなんてめずらしいね。何か困りごと?」

「特に用などございませぬが、あなた様と久しぶりに
 言葉を交わしたいと思いまして、こちらにやって来た次第でございます」

すると、面白いくらいに愉悦の表情をする達也。周囲の目など
気にせず美奈を抱きしてしまう。美奈は食べることを好み
その体系は常の女性と比べて太ましく、実に抱き心地が好いものと
達也はむしろ関心した。大太りとはいえず、小太りをわずかに超えた体系である。

美奈もまた舞い上がるほどに高揚し、彼の背中に手を回して
体をますます寄せる。彼の肉体ときたら、筋肉の鎧に覆われたかのごとく。
男性の体とは、かように力強いものかと美奈の体の奥が火照る。

この様は彼らが恋人の関係にあることを世間に呈したも同然であった。

美奈は背中に焼け付くかの如く鋭き視線を感じ振り向く。
廊下のカドの目立たぬところに立つのは、件の女三人である。
この世のものとは思えぬほど形相を醜くゆがめ、美奈を見る。

(絶対に許さないから。この小娘が!!)

上の内容を目で訴える。美奈は恐ろしさに耐えきれず失禁してしまう。
これに心を激しく乱した達也が美奈を抱え上げ、ただちに保健室へと走り、
さすがに今回ばかりはと替えの下着も用意してやる。昨今の倭国(日本)、
学園の保健室にて女子用の替えの下着を用意すること常のことなり。

美奈はふしぎと体に対する恥じらいがなく、達也の目前で
堂々とパンツを脱ぎ変える。これには達也はたまらず目をそらす。
彼女のお腹周りには確かな脂肪がついてる。

「俺は君のことが好きだ。
 いいや、好きなんてもんじゃなかったよ。
 もう愛してしまっているんだ」

「わたくしも、あなた様のことを心よりお慕い申しております。
 ここ最近と言えば、夜は月明かりのもと琴を引きながらあなた様のことを
 思い出し、二度と口も聞けぬまま、卒業されるのを待つだけのなのかと
 枕を涙で濡らしたものであります」

とても現代人の語り口とは思えぬ美奈の口説き文句。
達也は嫌煙するどころか、一層の新鮮さを感じ、
いよいよこの娘を抱かなければ家に帰らぬとまで思う。

常の女人らに絶望した達也だからこそたどり着く極地。
これが彼の側からした美奈の美しさであった。

「動かないでくれ。すぐ終わるし痛くしないから」

さらさらと、美奈の上着のボタンが脱がされていく。
ブラ越しにも大きな胸だ。ふっくらした肉体が露になり、
達也もズボンを脱ぎ棄て戦闘の準備を始める。

二人は時が経つの忘れてベッドの上で交じり合う。
美奈は脂肪が多いためか、一年も前に初潮を迎えており
男性を迎え入れる準備はできていた。とはいえ実際に交わるのは
これが初めてのことで、保健室のベッドに赤い染みができる。

感じたことのない痛みと戦うミーナ。
くすぐったさと内臓の痛みに身をよじり、彼の思うとおりにさせてあげる。
挿入されるごとに、長い黒髪が左右に揺れた。ついに精液を出し尽くした
達也は正気を取り戻したのか、激しく謝罪を繰り返してくる。

美奈は初めから恨みなどないのですぐに打ち解ける。はたして
鮮血と男の液体に染まるシーツはどうしたものかと考えていると。

「あなた達!! そこで何をしてるのよ!!」

一年六組の担任襲来セリ。名を森由紀という。
参考にした人物は宇宙戦艦ヤマトのヒロインなり。
故人・松本零士がデザインしたアニメ史に残る比類なき美女なり。

「ベッドシーツに血が……なんで新見さんは裸なの?
 え……まさかうそでしょ……。うちの生徒がこんな……。
 大人の私だってまだ古代君と経験したことないのに」

森由紀は齢26にて独身なり。齢19の時より付き合いし古代進とは
関係が停滞して久しく、ついに肌を重ね合わせることなく現在に至る。

森由紀は怒りを発散せしめんと、腹に力を込めて怒鳴る。
保健室から発信された音の波が、窓ガラスをぶち割り、小山市の
広大な田園地帯を通過し、ついには鉄塔まで破壊してしまうほどだった。

「先生様。ここはひとつ穏便に手を打ちましょう」

「はい!?」

「学生としてあるまじき行為をした自覚はございます。
 しかしながら、これは一つの男女の真の愛の証でもありますゆえ、
 どうか内密にしていただきたいのでございます」

「内緒になんかできるわけないでしょ!!
 すぐに教頭に報告してやるわ!!
 あんた達、中学生のくせになんて破廉恥なことを
 学校でやってんのよ!! 保健室はAVの撮影場所じゃないのよ!!」

「ならば、これで手を打ちましょう」

どさっと、床に札の束が落とされる。
一万円の札が、すくなくとも100枚以上あり。

「さーて。仕事仕事。もうすぐ昼休み終わっちゃうものね。
 あなた達は特別に体調不良で保健室で休んでるってことに
 しておいてあげるから」

森由紀は札の束を落とさぬようしっかりと抱えながら去ってゆく。
もしものためにと用意しておいた大金がこんなところで役に立つとは。
美奈は愉悦を感じ微笑む。

それから時は経ち、美奈は齢14の誕生日を迎える前に懐妊することになる。
彼とのたった一度の過ちが、子を宿すことにつながったとは奇跡に近い。

「なりませぬぞ!!」弟者は姉の結婚に異議を唱える。

時が過ぎ春休みとなる。学童らにとっては心やすめの時だ。
この春休みが終わるころには桜が舞い散る。

あれから達也は高校の指定校推薦に合格する。
一月の中頃であった。中学時の蹴球部での好成績により
県内で蹴球の強豪校として知られる高校へと進学を決めた。

美奈は彼の球を蹴る姿を拝見したことがあるが、
それはもう立派なものだった。ゴールキーパーという役割は、
敵から一度奪ったボールをこう、ぽぉんと、グランドの中央へと
蹴り返すのだが、躍動感あふれる動作と力強さに惚れ惚れとしたものだ。

「姉者よ」

と弟が姉の部屋のふすまを開ける。年は11歳。名をスゴロクと言う。

「ならず者の子を宿したという話を父上から聞かされた。
 その話は真(まこと)か?」

「真である。なんじゃそなた、自分の姉上の結婚に不都合なことでもあるのか」

「結婚とな!? 姉者は結婚を考えてなさるのか?」

「うむ。倭国の法律では女子は齢16より婚姻を結ぶこと可能なり。(※現在では改正された)
 あちら側の両親の説得には難儀しようが、わたくしはすでに心を固めておる」

「それではなにか? 姉者は、高等学校への進学を断念し中等学校を卒業ののち、
 直ちに夫婦(めおと)となることを望むと?」

「そうだ。わたくしは一刻も早くあの方と婚姻を結びたくてな」

「事を急ぎすぎではなかろうか。ここはひとつ高校までの学業を
 修めるべきではないのか? 父上や母上も姉者の
 優れた成績を好ましいと思うご様子であったゆえに」

「われは女人である。女人はやがて母となり子を宿す使命。
 子育てに必要のなき学業は過ぎたものと知る」

「なんと時代錯誤な考え方をされる方なのだ」

弟者はこの話にたいそう不満を抱く。
言葉をもってしても姉を説き伏せることに難儀し、
何を思ったか、畳の上をゴロゴロと転がり駄々をこねる。

「これ。弟者よ。暴れると茶がこぼれるではないか」

「認めぬぞ認めぬぞ。ワガハイは認めぬ。あの達也なる男は
 姉者にはふさわしくない。あの男が高校生になれば、
 いつか姉者のことなど忘れて他所の女とあいびきをするかもしれぬ」

上のように話す理由として嫉妬もある。
弟者は、幼き頃より母親代わりとして接してくれた姉のことに
深い親しみを感じている。両親は共働きで家を空けること常にて、
姉と弟の他には使用人の方々に囲まれ、この広すぎる屋敷で育つ。

彼の遊び相手は常に姉であり、いかなる時でも姉は共にいる。
そう信じた。その夢がたやすく壊され心中穏やかでいられず。

「スゴロクよ!! わたくしの夫となる殿方を悪く言うとは何事か!!」
「うわーん。僕はあんな奴、義理に兄だなんて絶対に認めないぞー」

弟者は前触れもなく現代風の言葉で話し廊下を駆ける。
バタバタと足音がやかましい。

「ふぅ」と美奈が腰を上げ、縁側から庭の木を眺める。
桜の木の枝にメジロらしき鳥ありけり。白きアイリングが愛らしい。
他にもスズメやヒヨドリあり。実に気持ちの良い風が吹く。
日差しの温かさもあり、いっそ縁側で昼寝でもしようかと考える。

「むむ……?」

正面から殺気を感じ、首をひねる。
肩の上を通過し、背後にある壁に刺さる、一つの矢。
矢文(やぶみ)であった。何者が放ったのか。
刺客は矢を放ち直ちに逃走したと思われる。

『これは不幸の手紙です。この手紙を読んだ人は必ず不幸になります。
 回避する方法は一つ。この手紙をあなたの知り合い7人に読ませてください』

実にたわいもない内容だったので、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱へ投げる。
内容は問題にあらず。殺意を持って矢が放たれたことが恐ろしい。
かつて美奈に暴行を加えた悪女の三人衆は中等学校を卒業している。
したがって新学期が始まれば、もはや学童としての接点無きにして、
恨まれる理由もないものと想像する。

弓を放つ曲者の正体とはいかに。
その理由はのちに判明する。

新学期が始まった。美奈は2年4組となる。
新しきクラスメイトらと談笑する。
美奈は決して美形と言えぬとも、でっぷりして愛嬌のある容姿をしており、
また教養に満ち口も大変に達者なことから、クラスの人気者となる。

春休みの間に達也とあいびきを重ね、彼の体をさらにくわしく
知りえたことからも、中学の学童とは思えぬほどの色香が存在し
一部の男子から定評を得るほどに至る。

最たる問題となるのは、子を産む時期である。
妊娠した時期から考え今年度の秋までに出産を迎えねばならず、
その間は学業に励めず休学の措置を取るべしとした。

「その年で出産? 世の中を舐めてるとしか思えないわ。
 教師として絶対に認めるわけにはいきませんよ。
 妊娠中絶の手術を受けに行きなさいよね!!」

森由紀教員は特に厳しい。
宇宙戦艦ヤマトに登場する森雪とは何もかも異なり心の狭き人物なり。

「今年もあなたの担任になったからには、全力で邪魔させてもらうわよ!!
 イスカンダル星ならともかくね、地球の女性はそんな簡単に
 妊娠しちゃいけない決まりなの!!」

「ならば先生殿も懐妊なさればよろしいのではないですか」

「ぐぬぬ……わ、私はまだ予定が先なのよ」

「女人の懐妊の時期は早ければ早いほどよろしいと、平安時代から
 言われておりました。わたくしの年で子を宿すこと当時では
 常とされており、20を過ぎても男を知らぬ生娘など、
 日本中を見渡しても存在しないとされておりましたが?」

この言葉に腹を立てた森教諭。直ちに宇宙戦艦ヤマトの主砲を
生意気が過ぎる小娘に命中させてやると脅しにかかる。
恋愛小説に宇宙戦艦など存在せず、文字通りただの脅しとなる。

そこで森教諭は、教頭室へと駆けこむ。
100万の札束を受け取った恩をついに忘れてしまうのだ。
そして教頭から激しく折檻されてしまう。

いわく、新見家は茨城県で名のあるヤクザの家系なり。
その歴史は500年を超える。かつてはその地方の城主に仕える身とされた。

美奈の父上はやくざの親玉であり母も極道の道に通ずる。
学園は美奈の出産に伴う休学を認めざるを得ない。
またすでに多額のワイロが支払われている。

森由紀は、この世の終わりが来たと泣きわめき、取るに足らぬ
中学生にすら劣る自らの運命を嘆いた。彼女の怒りの源泉となったのは
深き嫉妬の心であり、大人の年齢の自分より先に、
教え子が母親になる姿を見るのが大変に憎ましい。

また美奈の伴侶が、学園一のイケメンとして知られる達也だったことも
不満になる。なぜなら森由紀はいかに美人としても、それは宇宙戦艦大和で
働くようになる18の年齢を過ぎた頃の話で、彼女は学童時代はこれと言って
目立つような女子ではなく、イケメンの先輩に声をかけてもらえることもなく、
またそのことを今なお心残りとしていた。

吹き矢を使用したのは彼女である。
自分よりも女として劣等にあたる美奈が、むやみに
イケメンに好かれることに大いに嫉妬してのことである。

そこで森は英知を絞り、むしろイケメンと肌を重ねるきっかけを
考えればよいのではないかと思う。ことは成り行きだ。

「私も勇気を出して古代君に自分から迫ってみようかしら」

その日の夕方、森由紀のラインに信じられぬ文が送られる。

『今まで黙っててごめんな。俺には新しい恋人ができちゃったんだ。
 紹介するよ。アキラちゃんだ。職場で知り合って仲良くなったんだ』

森由紀は、直ちに電子文通の内容を消去する。送られてきた
浮気相手の写真画面には画面の上から拳を突き立てた。

美奈は我を失う担任の姿を失笑したものだが、
やがては哀れむようにもなり、世に男は星の数ほどいると
妙に大人びいたことを口にしてはまたしても森教諭を怒らせた。

やがて自らの身にも同じことが降りかかろうとは、
この時点では思いもよらぬことである。

『久しぶりだねミーナちゃん。返事が遅くてごめんね。
 直接会って話したいことがあるから公園まで来てくれないか?』

深刻な話ではあるまいと信じたミーナは、ピクニツクにおもむく
夫人の如き心境で夜の公園へはせ参じた。
団地に囲まれた小さき公園なり。
未来の夫はブランコに乗り表情を沈めている。

「実は俺と別れて欲しいんだ」

「なんと」

「君の家ってヤクザの家系なんだろ? 今まで知らなかったけど、
 君の担任の先生がわざわざ連絡をよこして教えてくれたよ。
 別に君のことが嫌いになったわけじゃないんだけど、
 俺にも将来があるし、さすがのヤクザのお嬢さんと結婚するのはちょっとね」

この男の本心は別にあり。ミーナに内緒で別の女と交際せり。
高校で知り合った女人にて、生まれ育ちもよく、父親はお菓子メーカーを
経営する社長。およそ女性として欠点の見つからぬほどの器。
彼女は蹴球部のマネージャーなりて、同じく一学年の達也と
懇意の関係に発展する。時は4月の末である。

「わたくしは、あなた様のお子様を宿しております」

「そんなの、おろしちまえよ。
 どうせ俺とお前は分かれるんだから生む必要なんかねえだろ」

矢が胸に刺さるかの如く、かような言葉を愛しの殿方から
聞かされるとは思わず、瞳から涙がこぼれ落ちる。

「なにゆえわたくしを捨てなさるのか。
 せめて理由をお聞かせ願いたいのです」

「そうだな。まずはその口調とか。最初は新鮮だったけど、令和の時代に
 平安貴族っぽいしゃべりかたとか有りえねえわ。時代劇の芝居を
 やってんじゃねえんだぞ。あとはその体系かな。おまえよく食べるし
 前より太ったんじゃねえか? やっぱデブはすぐ飽きるわ」

もはや言葉を交わすのも限界に達し、美奈は駆けだした。

それからというもの、美奈は学校に行くことなく自宅の布団にとどまり、
さめざめと泣く日々が続く。事情を知った父上は悪鬼のごとく激高し、ついには
娘を傷物にした達也を亡き者にするとまで言い出す始末。
母上に至っては、達也をコンクリで固めてドラム缶に押し込む案を口にする。
美奈は両親の考えをいずれも否定し、彼に一切の手出しをするのは無用とした。

弟者だけは、ひとまず婚約が破談になることで心を落ち着かせていた。

美奈は学業をすっかり放棄し、三か月もの時を自宅にて過ごす。
いまだ中絶手術を受けることなく、大好きな甘味に囲まれて、
それをむしゃむしゃと食べる日々。さすがに運動不足がたたり、
顔のニキビが増える。また太ももと尻を中心に肉が付く。

「姉者よ。ワガハイとウオゥキングなるダイエツトに励むべきではないか。
 それ。吾輩が先を行く故、姉故は後ろから着いてまいれ」

たわむれも悪くないかと美奈は重い腰を上げる。
外の道を歩いてみると、これが思いのほか楽しく癖になる。
広大なる田園が左右に広がり、この歩道の行く手を邪魔する者なし。

姉たる自分が弟の後ろを歩くなど、多少滑稽に感じる。
やがて姉が散歩を楽しんでいる様子を確認すると、
照れくさそうに弟者は姉の横に並び、談笑しながら歩く。

自宅から実に2キロも歩くと、近代的よろず屋(コンビニ)が見える。
このコンビニは、中学一年の時に美奈が悪女らに暴行された現場なりて、
嫌な思い出を振り払うように頭を左右に振る。

弟者は小腹がすいたので甘味でもいかがと入店を促す。
美奈も空腹を我慢できず電動式引き戸をくぐる。

よろず屋は、夏も冬も関係なくエアコンディショナアにて
快適な温度が維持され店内に陳列される商品の雑多なこと。
書籍だけにあらず文具から日用雑貨など実に幅広い。

その中でもスイーツコーナーなる甘味処の棚は、
美奈のお気に入りである。さて。本日はシュークリームを
頂戴しようかとカゴに商品を入れていく。

「あんたは、すぐ言い訳ばかりして、いい加減にしてよ!!」
「おめーはうっせんだよ!! 店先なんだから静かにしてくれよ!!」

レジスタの目前にて、いさかい発生せり。
どうやら若き男女の様子。
片方は高校の制服に身を包む達也である。
もう一方は美奈の知らぬ女人。これは誰が見ても
その顔に目を奪われずにはいられぬほどの美しさである。

美奈と違いスタイルに優れており、コンビニの売り子なのか、
近代的なデザインの前掛け(エプロン)を着こなす。
長い黒髪を後ろで一つにまとめ、現在は達也と店先にも
関わらず言い争いをしている。

「なんですぐ他の女の子と仲良くするの!?
 私のこと遊びだったなら初めからそう言ってよ!!」

「ミカコと話していたのは、学校の成績のことだよ。
 お前が考えてるようなことじゃねえっつってんだろ」

「嘘よ!! 駅のホームで腕を組んで親しそうにしてたじゃない!!
 浮気よ!! どう考えても浮気よ!!」

達也は強引に話を切り上げて店を去る。
売り子の美人は、もはや仕事どころではなく、奥から出てきた
店主らしき夫人が気の毒そうに声をかけていた。

美奈もまた彼女に声をかけた。

「まさか、あなたも達也の被害者なの?」

その女の視線には侮蔑も含まれていた。美奈がこの三か月で
一層肥えたことで、女の美貌を損ねたためだ。中等学校の
学童にて、目鼻立ちも整っておらぬ娘まで妊娠させていたとは
驚天動地のことであろう。

「あの野郎……絶対に許せないわ。
 絶対に痛め目見せてやる!!」

聞けば、この女も達也と体の関係を持つにいたるが、その後
すぐに別れ話を持ちかけられた。達也は一度床を共にした女を
すぐさま飽きてしまう傾向にあり。

寝るのが目的であり愛情など初めから存在しないのだと知り、
美奈は悔しさに耐えきれず涙がこぼれる。かつて保健室にて
彼が真摯に語る内容は、実のところ偽りであつたのか。

「粛清せねばならぬ」と達也に遊ばれた少女が嘆く。

夕方になり売り子のシフトが終了する。
美奈と共に近所の家族食堂(ファミリィレストラン)で
食事をとりつつ達也について語り合う。

「美奈ちゃんに手伝ってほしい。一緒にあいつを粛正しよ?」
「たんなる出来心ではなく真に粛清したいと?」
「あいつを殺さないと気が済まないくらいに本気だよ!!」

その女、名を岩崎キリンと申した。なんとも不思議な名前と
美奈の記憶に確かに刻まれる。キリンは洗練されたる美しい顔を
実に醜悪にゆがめ、1時間もの時間、飽きもせず達也の恨み言を並べる。

いわく、達也はサッカー部のマネージャーである「キリン」のみならず、
クラスの女子にも手を出す始末。入学して未だ
ひと月も経たぬうちに怒涛の勢いである。

美奈の記憶するところ、中学の学童時代の達也とは別人となりけり。
かつてストオカアなる被害にあい、女人を避ける彼の心境に
変化が生じたことに起因するのではないかと問う。

「高校ではすごいチャラ男で有名人になってるんだよ。
 悪い噂が学園中に広がってすごいんだから。
 あいつが中学の時は女嫌いだったなんて意外ね」

「世では高校デビュウなる風習を耳にします。
 高校に進学したことで自らの信条を
 すっかり変えてしまわれたのではないですか」

「あいつの過去がどうであれ許せないことに変わりないよ。
 ねえこのあと時間空いてる? 達也の家がここの近くなんだけど
 よかったら一緒に行ってみない?」

まさか、いよいよ粛清をなさるおつもりかと問うと、彼と話し合いを
したいからだと言う。美奈は思うこと多々ありけりとも、
達也の生家を見たい心境から賛同す。

「ごめんくださーい。誰かいますかー?」キリンが声を張る。

達也の家、老朽化の激しい団地にて予備鈴(チャイム)が故障せり。
それにしても広いおうちだと感心する美奈をキリンがいぶかしむ。
訳を聞くと、四階建ての団地全体が達也の所有と勘違いせり。
世間知らずの娘ここに極まれり。キリンが丁寧にも達也の住む場所は
この玄関の先の部分のみと説明すると仰天し、キリンを憤慨させた。

眠たい目をこすりながら妹者が玄関先に現る。

「誰ですか。今昼寝してたんですけど」

「突然押しかけちゃってごめん。あなたは達也の妹?」

「そうですけど」

「私たちは達也の知り合いです。達也はいますか?」

「まだ帰ってきてないですよ。兄は高校に入ってからバイトを
 始めたらしくて夜8時までは家に帰ってきませんよ」

偽りの香りがすると美奈は悟る。キリンの背後からひょいと顔を出す。

「いずこで働いてらっしゃるのか」
「むむっ……あ、あんた、まさか新見さん?」
「いかにも。わたくしは新見美奈なり」

達也の妹者、名を七味(しちみ)と言ふ。
名の表す通り辛辣なる言葉を使うものなり。
七味と美奈が平和学園中等部で学年を同じにすることは
チヤプタア2付近で述べた通りである。

「あんたがうちの兄のことを知りたがる理由は?
 あんた、兄に振られたんじゃないの?」

「確かに振られましたが、未だ彼に対し未練あり。
 わが疑問の最たるところは、なにゆえ彼がチャラ男なる
 身分に身を落としてしまったのか。その理由を明らかにしませんと、
 このままでは死のうにもこの世に未練が残ってしまうというもの」

「ぎゃはははっ、なにその平安時代みたいなしゃべりかたっww
 うわさで聞いてた通りだwwwwwチャラ男なる身分wwww
 最高に楽しいwwwまじうけるwww腹痛いwwwwww」

七味はそれはもう楽しそうに笑い転げる。
美奈には可笑しなところなど何もなく不快だが、
七味が笑い終わるまで静かに待つ。

「あーやばいっ。こんなに笑ったの久しぶりだよwww
 あんたのこと気に入っちゃった。おかめ納豆みたいな
 ブサイクのくせに、まだうちの兄貴に未練があるんだ。
 うんうん。今日は暇だから二人を案内してあげるよ。
 兄貴のバイト先にね」

あたしについて来いよカスども。
乱暴な物言いに、年長者のキリンは拳を握りしめる。
世俗にまみれた若人の言うことですからと、達観した美奈がいさめる。
それにしてもオカメ納豆みたいなブサイクはどうしても心に残る。

「二人とも兄貴の元カノだったんだ?
 あたしさ、てっきり二人が兄貴の新しいストーカーなんだと思って
 実はびびってたんだよね。玄関開けたら変な奴らがプレゼント
 持ってきたりとか中学の時まじであったからさ。しかも
 プレゼントの中に使用済み下着とか入ってんのよ。
 血がついてたしwwマジキチじゃねwww?」

この娘、乱雑に伸ばされた髪を腰まで垂らす。
白いパンツルックで上はキャミソウルのみを羽織る。
笑う時には口を大きく開ける。
馴れ馴れしい口調も手伝い、その印象は粗暴の一言に尽きる。

やはり兄者と違い美形の血は引いてないのか顔は十人並みであり、
特に描写すべきことが見当たらず。

「あそこが兄貴が働いてるとこだよ」

奇想天外なる店の名前であった。
看板に書き連ねる名は「出張ホスト」なり。

唖然とするキリン。
令和にて平安の世を生きる美奈はホストなる現代語の意味を知らぬ。
さてここは自分の出番だと楽しげに語るのは七味である。

「女をもてなすサービスをする仕事だよ」
「具体的にはどのようなことを?」
「偽の彼氏彼女の関係になったり愛人になったりすること!!」

汚らわしい、水の仕事なのだと説明されてしまい衝撃が走る。
気を失うまいと美奈は必至で足を踏みこむ。
学童の小遣い稼ぎにかような仕事が存在するとは世間は広いものだ。

「中に入ってみようよ」とキリン。
「中には兄貴いないと思うけど」
「どうして?」

「出張ホストだからだよ。
 この時間は出先でおばさん相手にデートしてるはずだよ」

「おばさん相手って、どういうこと?」

「兄貴若いじゃん? 兄貴の客になるのはあたしらの母親くらいの
 年のおばさんばかりなんだよ。40台がメインかな。旦那に飽きて
 若いエキスに飢えてる感じの連中よ。イケメンにちょっと真顔で
 口説かれるとすぐお小遣い上げちゃうんだよね」

「それってセレブ的な人が相手の?」

「ぴんぽーん。説明する前なのによくわかったね。
 兄貴のお客さんは金持ちの専業主婦ばっかりだよ。
 都会のタワマンまで遊びに行って、夕飯を一緒に食べたりして
 旦那が帰宅する前にお仕事を終えるんだ。お仕事ってのは、
 わざわざあたしから言わなくても察してくれるよね」

達也は出張ホストの仕事に手ごたえを感じたことから、
あれだけ熱を上げていた蹴球部を退部するに至る。

三人はどうせならここで兄者の帰りを待つと決め、
小腹が減るためと近代的よろず屋に邪魔をする七味。美奈も続く。
さきほど食堂で三人前も平らげても食欲が衰えぬ様子に
呆れはてるキリン。甘味は別腹なのだと
美奈は抱えきれぬほどのスイーツを手にして戻る。

街路樹のもとに街灯に照らされるベンチあり。
ここで三人は時が過ぎるのを待つ。
七味はから揚げをいかにも美味しそうに食べながら、
あれこれと話してかしましい。

夜の8時を過ぎ駅から降りる人の列に達也の姿あり。
ホストの事務所へと向かう最中、街路樹のベンチに座る三人の娘を見る。

何事もないように立ち去ろうとする達也にキリンが足払いで転倒させる。

「いってぇ。しつこい奴だな」

「何無視しようとしてんのよ。この卑怯者!!」

「おまえは何度言ったら分かるんだ。俺はお前の言う通り卑怯者だ。
 人間のクズだ。俺みたいなクズと関わったところでおまえに
 何のメリットがある? なにもねえだろ。ならほっとけ!!」

「私はね、あんたがチャラチャラしてるのが気に入らないのよ!!
 そこにいる子からあんたの昔のことを聞かされた!! 
 中学の時は女性恐怖症になってたそうじゃない!! 
 それなのになんで高校生になってからホストなんてやってんの!!
 サッカー部のことはどうするつもりなの!!」

「……部長には退部届を出したよ。俺は金が必要なんだ。
 最近おふくろが鬱になって休職しちまってな、
 家の金がやべえ状況になってるんだよ」

いわく、達也は母子家庭なり。父上は妹者の出産後、
妻に何を言い残すこともなく行方をくらます。
おそらく新しい妻を見つけたのだと想像される。

幼い子供を育て上げた母上の苦労は並のものではなく、その母上は
介護職員として長年働くも、ついに心労の極みから心の病を発症せり。
蹴球に才能を見出した息子を、無理して私立の平和学園に入学させ、
華々しい成果を飾る。母上には息子の活躍こそが生きる希望となりけり。

息子が高校へと進学するとますます金の面での苦労が増えてしまい、
仕事の量を増やそうとダブルワアクに手を出したところで
睡眠時間がむやみに減り現在の病気に至る。

「俺の学費だって今は自分で稼がなくちゃならねえ。
 七味はまだ義務教育だけらいいけど、高校に進学したら
 こっちの学費もかかるんだ。俺はサッカーで遊んでる
 場合じゃねえから辞めた。文句あるか?」

「そ、そうだったんだ……」左はキリン

「俺はどうやら無駄に女にモテるみたいだ。
 自分では認めたくないが事実だからしょうがねえ。
 だったらこの事実を別のことに生かしたら金儲けが
 できるんじゃねえかって思ってな。部活の先輩から…
 ああ、サッカー部じゃなくてラグビー部の先輩なんだが、
 その人にホストの仕事を紹介してもらったんだよ」

「その仕事はお金になるの?」

「すっげえ稼げるぞ。俺の財布見るか?
 さっき化粧が濃いババアと少し寝そべってキスしただけで
 こんなにもらえたんだぞ。ほらよ」

万札が5枚もある。
これは達也の一日の売り上げとしては最高を記録した。
富裕層を相手にする商いの特権である。
高校生の学童には過剰すぎる金額である。

「そういうことだから」と妹者。

「うちの兄貴のことに口出ししないでくれる?
 今うちの家では兄貴が稼ぎ頭になってくれてるんだから、
 これは家庭の問題。家庭の問題よ。わかる?
 あんたら学校の女がどうこう言う権利ないっしょ」

「うんいいよ。なんかもう疲れちゃった。
 どうせ達也とはクラスも違うし、廊下ですれ違っても
 無視してくれてかまわないから。それじゃあ、さようなら」

キリンは背を向け歩き出す。
振り返ることはなく事実上の今生の別れとなる。

「なあ美奈」

「は、はい」

「あれだけこっぴどく振られたのによく俺の前に現れたな。
 おまえは帰らなくていいのか?」

「達也様とお話をするためにここに来ましたゆえ」

「その話し方まじうぜー。普通に話せねえの?
 で、何が話したいって?」

「わたくしのお腹に宿る子供のことです」

「またその話か。おろせって言ったの覚えてねえのか」

「わたくしは生むつもりなのです。ご縁がありこの世に授かりし
 生命なのですから粗末にするわけにいきませぬ」

「なら勝手に産めよ。俺は認知しねえぞ。
 育てるのもおまえがやれよな」

「なにゆえ……そのように冷たいことをおっしゃるのですか。
 わたくしは今でも変わらずあなたをお慕い申しておりますのに」

この女メンヘラかよ、めんどくせーと妹者が愚痴る。
妹者としては兄の仕事の邪魔をする女は家計を考えるうえでも邪魔者と映る。
売り出し中のホストが実は子持ちの父親では世間体が大変に悪い。

時代遅れの一途な恋愛を好む様は、令和を生きる七味には
滑稽で仕方がない。両名の感性に700年の差が
あるのだからそれも致し方ないこと。

妹者は打算せり。
同学年の女童(めのわらわ)生まれし時より平安貴族の生活を送る。
家が金持ちであるから、ここはひとつ、むしろ交際を再開して
この女から金をせびる方が、出張ホストより効率が良い。

上の内容を兄者に耳打ちすると「確かに」と手ごたえあり。

「ごめんな美奈。今言ったのは全部嘘だ」
「なんと」
「やっぱ子供を認知しないのは人として最低だ」

優しく美奈を抱きしめ耳元でささやく姿はホストそのもの。
仕事を通じ洗練された彼の仕草は、一度抱きしめた女すら
再び虜にすることなど赤子の手をひねるより容易いとした。

「またそのたくましい腕で抱いていただける日が来るとは。
 達也様はわたくしの子供を認知していただけるのですね?」

「ああ、嘘じゃねえよ。子供は無事に産んでくれ。
 ただ俺は金がちょっとな」

「お金ならわたくしの家から出させてもらいますゆえ。
 御心配には及びませぬ」

「それは助かるよ」

「達也様とはいずれ婚姻を結ぶわけでございますから、
 当然のことです。できれば達也様のお小遣い稼ぎも
 辞めていただければと思うのですが」

「だから金がねえんだって」

「お金ならわたくしが」

と言わしめたので妹者がこそりとガッツポウズをする。

お金を工面するうえで、美奈は様々な条件を出した。
ホストの仕事を直ちに辞めること。そしてサッカー部に復帰すること。
美奈以外の女との不要な接触を避けること。美奈がさみしくないように
定期的に逢引(デイト)をすること。出産には必ず立ち会うこと。
などなど。

「さらに念を押すために」と、美奈は布施家の母者に挨拶をしにゆく。

おい待てよブスと言いたいのを何とか堪える達也。
妹者は成り行きに任せる姿勢を見せる。

「お初にお目にかかります」
「え……誰よあんた」

奥の寝室で横たわる母者に首を垂れる。母者は娘と同じ年の
娘から金銭の援助の件を出され恥に思い気分を害すが、
どうやら新見家が500年も続く名家だと知ると欲に負けてしまう。

母者は息子と新見美奈の婚姻を正式に認め念書までした。
念書は民事裁判で有効な証拠となりけり。達也は大いに焦る。

「さあさあ。お母様の同意も得られたことですから」

と美奈に言われ、もはや頷くほかなく、果たして仮なのか本当なのか
あいまいである恋愛関係がここに生起したのであった。

森由紀が言う「私だけ結婚できないのは世界がおかしい」

時は五月の大型連休に突入。これを令和の世では「黄金週間」と呼ぶ。
何ゆえ黄金と称すのか森教諭は疑問に感じる。彼女は26歳にて恋人無し。
昨年度は友人の結婚式に相次いで参加しみじめさを蓄積させる。

「ごきげんよう。先生様」
「新見さん……?」

イオンモウルにて見知った顔と会う。教え子の美奈は男を
連れて悦に入る。男とは別れたはずの達也である。
果たして寄りを戻したのかと思うがそこは重要ではなく、
教師の前で男女の逢引を見せつけることが我慢ならぬ。

「森先生。ご無沙汰しております」
「な……」

ホストの笑みで頭を下げる、かつての教え子。
高校生となると何もかものが洗練されて見えてしまう。
中学教諭のため中学生に目が慣れた森には新鮮で仕方がない。

デジタル紙芝居(アニメイション)の歴史で宇宙戦艦ヤマト以来の
話題作として第一にガンダム、第二にエヴァがあげられる。
エヴァのテレビジョン放送版の第弐拾四話にて渚カオルが
閃光の如く現る。この渚、目の覚めるほど容姿端麗にて
女性のファンを量産する。達也の容姿は渚に瓜二つだ。

布施達也が平和中の壱学年時に森がクラス担任を務める。
森がよく認識していた彼は齢13の小童。大人ほど背丈を伸ばし、
陰でホストとして金銭を稼ぐ達也の姿はまさしく大人の貫禄あり。

「二人とも、これから買い物に行くの?」
「携帯式電話機の売り場へ参ろうかと」
「へー。携帯を買い替えるの?」
「わたくしは、家庭の事情により携帯電話を持つ経験がないため…」
「あーはいはい。なるほどね。私も行っていいかな?」

達也が仰天する。教員が私的な時間を生徒と共に過ごす訳とは何か。

「先生様は目つきがいやらしいものですから、
 お断りさせていただきます」

「そんなぁ……」

野島電機の携帯売り場に着くと背後に視線を感じる。
森教諭の尾行は素人のそれであり、分かりやすいゆえに不快に感じる。

「先生は僕らに用でもあったりします?」
「用があるのは、あなたに……かな」

悪寒に襲われる達也。
26歳の美しき女教師は何を間違えたのか、
自分に興味を抱いていると認識せざるを得ず。

森由紀は絶世の美女と学内で定評あるも古代進以外の
男に興味を抱かぬ一途な女である。古代進に浮気され婚約が
破談になり、いよいよ相手を選ぶ余裕が失われたか。
26の年齢を考えると晩婚化の進む令和では焦るほどには思えず。

「先生。あとで食事でも一緒にどうですか?」
「え……」

美奈に悟られぬよう注意を払い、連絡先の書かれたメモを手渡す。

なんとも面妖な展開生気せり。
その日から夜に逢引を始める由紀と達也
場所は由紀のマンションとした。

「あんっあんっあんっ……あぁああんっ。やっぱり若い子は良いわぁっ……」
「先生っ……先生っ……先生はスタイル抜群でっ……何度も出したくなりますっ……」

季節は流れ6月の梅雨。この時期になると両者の夜の会合は恒例となる。
森はイケメンの顔と若く美しい肉体を求める。
達也はブヨブヨした美奈の体に飽きたため、森のしなやかな手足、
ちきれんばかりの乳房、形の整った尻に夢中になる。

最初は予防のつもりとしていた。すなわち森由紀は学童時代に
しつこく付きまとうストオカアなる者の兆しを見せた。
ストオカアは、達也が拒否をすればますますその気になり、
尾行を強める傾向にある。逆にこちらから相手にすればどうだと奇策に出る。

美奈の平安顔も脂肪のついた体も悪くないと感じた頃を懐かしむ。
一度森の体を知ると美奈の体には戻れない。

ベッドの上で熱烈に口づけをし互いの体を抱きながら
ゴロゴロと寝転がる男女。美奈さえいなければ二人は
当然の成り行きで恋人となるはずである。

「達也くぅん」
「なんですか先生」
「んもう。先生じゃなくてぇ……ユキでしょ?」
「なんだいユキ?」
「そろそろあのデブと別れてくれると嬉しいんだけどなぁ」

そうはいくか、と達也は思う。
布施家は美奈より月額10万を超える金銭的援助を受ける。
先立つもの無しに人は生きられず。
ホストを辞めた達也には美奈に依存するほかない。

「あっあっ……きもちっ……」

座った由紀を後ろから抱きしめ、ぴんと張った乳首を愛撫する。
乳首をつねるごとに雪の口から大げさな吐息が漏れる。
無防備な股の間をさする。太ももにまで愛液がこぼれている。

「由紀……感じてるの? こっちはびしょ濡れだよ」 
「いじわるぅ……さっきの話ごまかさないでよぉ…」
「俺はお金がないんだよ……」
「お金なら私が出してあげるわよぉん?」

由紀が振り向き足を絡めてきた。
由紀が彼の膝の上に腰かけ接吻する。
弾力性に富み、実に艶めかしい足を絡められると
達也は再び森由紀が欲しくて辛抱たまらなくなり、
彼女の腰を持ちながら男のものをどんどん奥へと挿入していく。

「あんあんっあんあんっ……おかしくなっちゃうぅううっ!!」
「由紀が誘惑したのが悪いんだっ……はぁはぁ……今日は生で出すからねっ……」

都合の悪いことに避妊具の予備をすでに使い切る。
成熟した大人の女の中へ精液を出し切るのはこの上のない快感で
達也は体ごと宙へ浮いてしまうのではないかと思う。

由紀は性欲の塊であり男を2回も射精させてもまだ物足りない顔をする。

「ねえねえ」「うっ……」

つい先ほど達したばかりの男のイチモツは、
雪の細い指で握られると硬さを再現する。
由紀がさらにぎゅっと握ると、
なんともいえぬ快楽から全身を脱力させる達也。

「私ともっとしたいでしょ? 
  美奈と別れてくれたら毎日させてあげてもいいのよ?」

「でも先生……俺はあの子の母親の前で誓約書まで書かされたんです」

「うふふ(´∀`*) おバカさんね。たかが紙切れ1枚の
 約束なんて破ってしまえばいいのよ。世の大人だって
 簡単に約束破ってるじゃない。政治家とかさ」

「俺は高校生になってから女たちをたくさん裏切って来たんです。
 罪悪感がないわけじゃない。これ以上罪を重ねるのは抵抗があります」

「あらあら。元ホストなのに根は真面目さんなのね。
 そんなところもステキよ。うふふ。今度はお口でしてあげるからね」

由紀が長い髪をかき上げ、だらしなく口を開いて男のモノを加える姿は
たまらなく卑猥である。またしても達也が劣情に支配され、
美奈との約束など頭の片隅にも残らなくなる。

こうして達也は由紀に調教される日々を送り、
やがて懐妊した旨をラインで送られる達也、
血の気が引き1週間の間行方をくらます。

布施家の母上は家に帰らぬ息子を心配し捜索願を出す。
後日、栃木県宇都宮市のカプセルホテルにいるところを警察に発見される。
警察署で事情を聴取せり。これが致命傷となりけり。

かつて宇宙戦艦ヤマトに乗船し地球の平和を守り抜いた英雄、森由紀。
学童にわいせつ行為をした教諭として逮捕され職を失う。

森は貯蓄の大半を使い保釈金とする。
子を産み育てるのは先立つ金が必要になるが、
自らは無職にて将来の旦那は未だ学童なり。

「貴様がわたくしの旦那の浮気相手か」

鬼の形相の新見美奈が包丁を握りしめ待ち伏せをする。
一触即発の事態なり。一切の予断を許さぬ事態なり。

これはいかんと思う森は、痴漢撃退用噴霧器(スプレイ)を美奈の
顔の前で使用し逃走を図る。森由紀は美奈の報復を警戒して
隣の県のマンションに転居する。

埼玉県の北川辺町である。小山市と同じく田園が広がり
農業が非常に盛んな地域なり。

「貴様が我が姉者を裏切りし者か」

今度は達也の番である。学校の帰りに美奈の弟者に待ち伏せされる。

「学校教諭と密会し破廉恥なる行為を繰り返した罪、万死に値せり。
 我ら憎み合う者同士、もはや言葉による問答など不要」

弟者は刀を放り投げて、これで勝負しろという。
互いに刀を握り合う。どうも偽物ではなく刃の輝きは鋭い。

「ぬわあああああ」「ほおおおおおおおおおぅ」

瞬きする間もなく決着する。蹴球が得意な達也だが刀の扱い方を心得ておらぬ。
剣技が実に達者な弟者は、達也の胸を深く突き上げる。
刀を勢いよく抜くと達也が往生し、多量の血液が流れ地面を染める。

「そのまま果てればよい」

用が済み立ち去る弟者。
12歳の誕生日を迎えたばかりの小童には思えぬ貫禄を身に着ける。
その後ろ姿、幼き日の緋村剣心の姿に酷似せり。

通行人の通報によって直ちに達也が病院へ運ばれ治療を受ける。
瀕死の重傷であり助かる見込みは万に一つもなし。
達也危篤の報を受け、美奈が治療室の前に到着する。
大粒の涙を流し達也の名前を連呼する。
その哀れさに病院関係者は涙を禁じ得ない。

まもなくして達也の妹者、七味が到着し大泣きする。
兄者は人間のクズを自覚するものの、学費を稼ぐためホストで
収入を得た時期あり。彼のすべてを悪と断ずる根拠なし。

彼女達の願いはついに通じ達也は一命をとりとめる。
刀で深く胸を刺されたため多臓器不全に加え、血液の量が
絶望的に不足する。直ちに妹者が輸血を申し出る。
美奈も申し出るが、美奈はB型。達也はA型のため認められず。

手術は六時間に及び未明になり終了する。

「人の死を軽々しく扱うものではない」美奈が弟者の頭を叩く。 

術後の達也は当面の間眠り続けた。その時期実に2週間にも及ぶ。
まさかこのまま目を覚まさぬのかと、妹者が瞳に涙をにじませる。

達也の見舞い客に森由紀の姿有り。この女、本名を森雪と申すが、
これでは宇宙戦艦ヤマトのヒロインと同姓同名となるため偽名を使う。

「ううん。ここはどこだ? 家じゃねえようだが」

達也覚醒す。達也の見舞いは妹者、美奈、由紀が順番(ロウテイション)
を組み行う。この日の当番は由紀だが、心配のあまり妹者も同行した。

「兄ちゃん!!」
「七味……か。どうやらここはあの世じゃないらしいな」
「達也くぅん!! ずっと心配してたのよ!!」
「由紀さん……あなたもそばにいてくれたんですね」

退院後の達也、車いすの生活を余儀なくされる。
高校は回復するまで休学扱いとし、自宅にて宿題に励む毎日。
半年もすると学業に回復し、いよいよ迎えた美奈の出産に立ち会う。
美奈はいと可愛らしき男の子を出産する。

二人は両親の了承のもと婚姻を結び、美奈が満16歳を迎えると同時に
式を挙げることに決まる。かつての恋敵、森由紀もいさぎよく負けを認め
祝福の拍手を送る。妹者も二人の旅立ちを笑顔で迎えた。



ーーーーただ今の内容は、美奈の妄想であり偽りである。


「23時54分。息を引き取りました」

男性の医師が遺族に首を垂れる。

床へ座り込み嗚咽する達也の母者。妹者も同じようにしていた。
森由紀は奇声を発し壁を叩く。美奈は虚空を見つめ、だらりと口を開ける。

達也の死因は、胸を深く差されたことによる多臓器不全である。
心臓の近くを刀が貫通したことにより出血が止まらないため
一夜を超えることができずに終わる。

「そういえば、達也様を殺したのはわたくしの弟でしたね」

美奈は弟者を懲らしめる決意を固める。どのやうな経緯にしろ
彼の殺害に直接加担した弟の罪は許されるものではなく
復讐の対象とするには十分すぎる。

「あ、姉上ええええ!!」

屋敷の地下室に弟を閉じ込める。江戸時代より使われし牢獄なり。
座敷の外を格子が囲い脱走を防ぐ。

美奈は愛する旦那を奪いし自らの弟を懲らしめるため、
どうしようかと知恵を絞る。美奈は腕力に劣りまた暴力の経験なし。
そこで学園の理科の実験で習う薬品の調合に頼る。

家中にある薬品を探し集め、硫酸を生成せり。
大きな樽の中を硫酸でいっぱいにする。これを風呂代わりとして
弟を入れてしまうことにする。家族とはいえ弟を殺し罪に問われるなら
その証拠を消し去ることに決める。

「姉者ああ!! 本気でやるつもりなのですか!!」

美奈の決意は固く弟を亡き者にすることに躊躇なし。

「何をするつもりなの!? やめなさい!!」

ここへ宇宙戦艦ヤマトの美形ヒロインがさっそうと登場せり。
オレンジ色のセミロングの髪の毛。毛先が愉快にはねて愛嬌あり。
地下室のランプに照らされてもその美貌がいささかも衰えることなし。

「きっと先生様もご賛同してくださると期待しておりました」
「人を殺したって達也君が生き返るわけじゃないのよ!!」

大粒の涙が美奈の足元を濡らした。
達也はこの世におらず。その事実を認めるだけで涙があふれる。
子を宿したお腹が大きくなりつつある。彼と再会できる方法ありければ、
自らの財産を全て費やしても惜しくはない。

「私だって彼のことが好きだった!!」

「何を申しますか。私の彼に対する愛は地球の重力より重いのですよ。
 今さら止めようなどと思わぬことです。わたくしは弟を殺すことでしか
 自らの気分を晴らすこと叶わぬのです」

「あなたの弟だって、お姉ちゃんのことが大好きだったのよ!!
 お姉ちゃんを奪われたくなかったから達也君を殺してしまったのよ!!」

「嫉妬か。弟に好かれて嫌な気持ちはせぬ」

「私たちは生きているのよ!! 生きている人を大切にして
 生きるべきじゃなくて? 達也君は悔しいけど死んでしまった!!
 あなたの弟は殺人罪で警察から逮捕状が出ている!!
 あなたが罰を下さなくても司法が裁いてくれるのよ!!」

こつん、と小太刀が床に落ちる。
最後は自分の胸を突こうと隠しておいた刃物だ。
美奈は教師の言うことがもっともだと考えるに至る。

自分は確かに生きている。そして生まれてくる子供もいる。
母親になる自分が死ぬわけにいくものか。
自らとその子孫には令和の世界を生きる権利がある。

美奈は声をあげて泣く。その顔を由紀は豊満なる胸で抱く。
かつて達也を巡り対立した二人が和解した瞬間である。

しかし不幸は続く。

8月某日。達也の母上。自刃。
自宅の風呂場で手首を切り裂く。
セミの鳴き声やかましく蒸し暑き日である。

息子の死により「うつ」が加速するも、自民党の時世の自治体は
生活保護の申請を許さず「自己責任」で切り捨てる。
求職活動にことごとく失敗し焦る日々。娘の励ましも
大した効果はなく、ついに人生に見切りをつけ息子の後を追う。

天涯孤独の身となる七味。
母方の両親はすでに他界。頼れるものもなく児童施設の
入居を行政に斡旋されるも美奈が救いの手を差し伸べる。

「本日から七味はわたくしの家族の一員となるのです。
 あなたは達也様の血を受け継ぐ妹者。わたくしにも大切な存在となる。
 わたくしのお腹から生まれてくる子供の世話をしてくださいな」

その日から七味は美奈をお姉さまと呼び慕う。同級生だが気にしない。
残暑厳しい九月に出産する。美奈の妄想と同じく男の子である。
元気に泣く男の子の顔は、亡き父上によく似ていたので母親の目に涙が浮かぶ。
出産に立ち会う妹者も声を上げて感動する。

子の名を「達郎」と名付ける。古風な名前だと妹者はからかいつつも、
たまらなく幸せそうだ。その日のうちに駆け付けた森由紀も
大粒の涙を流しながら祝福の言葉をかける。嘘偽りのない祝福である。

美奈の弟者スゴロクは、満18歳を迎えるまで栃木県の児童厚生施設で生活を送る。
未成年は無期懲役の刑にならず。成人男子であれば
殺人罪に刑事罰の最高刑が適用されるのは世の常であるが。

美奈ら女三人はスゴロクなど初めからこの世に存在しないものとして
扱うことにした。新見家一族も同様の認識で、面会の機会ありけりとも、
母上でさえ一切の面会を拒否する。こうしてスゴロクは一族から消し去られた。


それから時が過ぎ、息子の達郎はすくすくと育つ。
10歳の誕生日を迎える。

美奈はこの時24歳と実に若々しい。
成人を機にデンマーク体操を繰り返し行い、
余分な脂肪をそぎ落とすことに成功する。
丁寧に化粧を施したその顔は、かつての平安顔を過去のものとし
十分に美しいと評されるまでになる。

22畳の和室に正座する母と息子。
膝の高さに丸テイブルを置き、切り分けたケーキを食する。
ふんだんに盛られた生クリームと栃木産のイチゴが美味である。
息子はどんどん食べる。美奈は日本茶の湯呑を持ち微笑む。

「時に母上よ。叔母さまがおらぬようです」

「お前は実に七味のことを好むわね」

「はい。おばさまは大変に美しい方ですから」

成人後の七味はギャル風の外見をする。毛髪を濃い茶色に染め、
衣服においては肌の露出を好む。息子とて決して好みではないだろうが、
父親の肉親ということで慕うのだと美奈は思う。
しかし現実は逆で清楚可憐なる母上のもとで育つ達郎は、
ギャルのおばさまが新鮮であり好ましく思うのだ。

「来たわよ美奈ちゃん」
「先生様」
「先生様はやめてちょうだい。今の私は会社の事務員なんだから」

36歳の森由紀である。10年間で離婚を二度も経験し男に懲りた。
森由紀は年を重ね熟年の色気が増し、未だに職場で花となる。
世にはこのように美しき女人がいるのだと美奈が嫉妬を覚える。

多少に尻にたるみがあるものの、165を超える長身に相応のスタイルが維持される。
しっかりと化粧されていて涼しげな眼元、厚みのある唇がなんとも女らしい。
教職を辞してから職を転々とし、現在は貿易会社の事務を担当する。

「誕生日おめでとう達郎君」
「由紀様。光栄でございます」

子のおらぬ由紀には達郎が我が子の代わりとなる。
誕生日の祝いにとウルトラマンの人形が満載された袋を広げる。
達郎は感極まり由紀の胸に飛び込む。色気あふれる由紀に頭を撫でられ
顔がにやける。不快な顔をする母に気づく様子無し。

その日の夜。残業を終えて帰宅する七味。

達郎にありたけの祝福の言葉をささげプレゼントを渡す。
ウルトラマンのブルーレイボックスなり。
飛び上がり喜ぶ達郎。愛しそうに甥を見つめる七味。
実に微笑ましい光景である。

「大切な話があるんだけど」

と叔母が達郎を夜に自室に誘う。
母上に内密にするよう言い含めた。

「たっちゃん。あなたすごく可愛いわ。学校で女の子にもてるでしょ?」

「それほどでもありませぬ。自分はごく普通の男子と思います」

「またまた。バレンタインのたびに山のようにチョコもらってるの
 知ってるよ。女にモテるところも兄貴とそっくりじゃん。
 兄貴が生きてた頃はストーカーがしつこくてさ…」

「それで叔母様。お話というのは?」

「ああ、ごめんね。一人で話し続けちゃって。
 別に特別なことは何もないんだ。最近仕事で忙しくて
 たっくんと二人気になれることなかったじゃん?
 だからたまには二人きりでお話でもしたいなって」

ベッドに腰かける両者。腰を上げ、にわかに距離を詰める七味。
肩がぶつかる。大人の化粧の匂いが漂う。

「おばさまがこんなに近くにいるとドキドキします」

「今夜は叔母さまって言わないの。七味って呼んでいいのよ?」

「なんと。それはどのような意味でおっしゃってるのか」

「こんな意味だよ」

達郎は生まれて初めて唇を奪われ気絶しそうになる。
幼き頃から憧れていた叔母に求められている。
その事実に頬を赤く染める。

「ふふ。たっくんも男の子なんだね。ここが大きくなってるよー?」
「あ……なんだかおかしな気分に」
「お姉さんの胸、大きいんだよ。触りたくない?」

服越しにも胸のふくらみは見事だと分かる。
七味は上着を脱ぎブラジャアを床に捨てる。
母以外の大人の女の胸を目にした達郎の衝撃たるや、
並大抵のものにあらず。ズボンが直ちに膨れ上がる。

その部分を先ほどから七味が手のひらでなでる。
優しく押される度に達郎の男の部分が硬度を増す。

七味は達郎の手を乳房に誘導する。達郎の幼き手の中で
乳が自在に形を変える。これが女の体の感触なのかと感動する。

七味は叔母だが20代の女である。日に焼けた叔母の体が
溜まらなく欲しくなり乳首にむしゃぶりつく。
調子に乗り嚙みつくと「痛い」と注意され慌てる。悪童のごとしである。

「今度はお姉さんが触る番かな」

七味の手が甥のズボンの中へ侵入する。

「あっ」
「たっくんはここを触られるの初めてだよね。どんな気分かな」

女の細い指でしごかれ快楽を感じ答える余裕などない。
限界までイキリ立つそこを上下にもったいぶるように
動かされ、あえぎ声が漏れる。

ズボンを乱暴に脱がされ下半身を露出させられる。
力を込めて握られると強い快楽に襲われ、また声が漏れる。
先端の部分に顔を近づける七味。
何をするつもりなのかと思うと、舌の先で舐め始める。

「イキたくなったらこのまま出しちゃっていいから」
「で……でもそしたら叔母様のお顔が汚れて」
「いいの。たっくんの、たくさんちょうだい?」

なんとも艶めかしい顔でそう言われ、
むしろ叔母の顔を汚してやりたいと欲望が生まれる。
いっそう激しく上下にしごかれてから口の中に含まれる。
もう我慢はできそうにないと、達郎は短く声を上げる。
あふれんばかりの精液が七味の口から洩れる。
一部は飲み込んでしまう。よく飲めるものだと達郎は思う。

「お姉さんのここも濡れちゃったよ」
「おねしょをしたみたいですね」

ぴたりと閉じた女の秘所が愛液で満ちる。
試しにと達郎が指で触れると吸い込まれるように奥へと入る。
膣口に侵入した指の感触に「んーーーっ」とのけぞる七味。

達郎に押し倒される。開いた股へ達郎の顔が近づく。
舌の感触が七味の敏感な部位をくすぐる。
達郎の荒い吐息を股に感じる。

止まらず流れる女の液体を達郎が味わう。味の感触は
塩辛くて苦みがある。むわっと匂い立つ。大きく足を広げて
感じ入る叔母の姿にますます興奮を強くする。

「これならどうですか」
「あーっ!! いいよっ……もっと奥までいれて……」

達郎の二本の指が簡単に入る。三本でも入る。
女のあそこは魔法のようだと達郎は思う。
膣内の上部分の壁をぐりぐりとなぞると、
七味が体をよじらせて喘ぐ。

あまり大きな声なもので達郎がむしろ心配する。

「あの。痛かったんですか?」
「逆だよ。もっと触って。途中で止めちゃ嫌」

ならばと今度は休みなく刺激を与える。
空いてる方の手で胸を乱暴にもむ。
乳首が敏感なようでぐりぐりとつまむ。

「んあああああっ。だめええっ。いっちゃううう!!」

液体がどんどん出て達郎の手を汚す。初めて見る粘液である。
慎重に膣から指を抜き出すと糸を引く。卑猥な割れ目を開いて
中を見ると視線が釘付けになる。尿道まで丸見えだ。
愛液が光を反射し輝いて見える。匂いもすごい。
まだ感じるかと再び指を奥へ入れる。

「あああんっ……!!」
「達したばかりでも感じるものですか」
「うんっ……たっくんだったら何回でもっ……ああっ……うっ……」

要領を得た達郎は指の出し入れの速度を上げる。

「あーっ……また……気持ちよく……なっちゃうぅっ……ああんっ……」

七味は夜遅くまでベッドの上で乱れた。
相手が児童なため挿入こそしないが満足した。
聖なる誕生日が性なる目覚めとして達郎が記憶する。

やがて二人は夜の逢瀬を繰り返す。
美奈に悟られぬよう神経を十分に払う。
それでも家庭の出来事の故ひと月も経たぬうちに美奈の知るところとなる。

「愛する息子は無垢なままでいて欲しい」と美奈が願う。

誕生日を境に息子から男の匂いがすると感じる。
顔つきも変化が生じる。単なる小童でなく厳めしさを含む。

これは只事ではないと、深夜息子の後を着けると
叔母の部屋へ転がり込むところを発見する。

ふすま越しでも二人の会話は鮮明で事情をすべて悟る。
さてどうしようかと思う。
息子を叱るか、同居人の妹分(七味)を叱るべきか。

まず七味の言い分を考える。七味は不幸にも兄と母を亡くし、
この家に住む者。美奈を姉と慕い甥に愛情を注ぐ。
幼子の夜泣きで眠る暇もない頃、
昼間に息子の相手をしてくれた恩は忘れぬ。

息子が叔母に恋することも事情を複雑にする。
両者が好み合う関係なのは疑いの余地なし。
現代人の言い方を借りてカツプル成立なり。

美奈がむしろ邪魔立てする立場と知り落胆を隠せない。
七味の気持ちは分かる。美奈も旦那を十年も前に無くしてから
一人で寝るのはさみしく自分を慰める。
そばに旦那がいてくれたらと思わぬ日はない。

(達也様……わたくしの中の達也様は古びた写真の中で
 永遠に生きておりますゆえ。わたくしが寿命を迎えるまで
 あの世で再会を果たすことはできませぬ)

22畳の広大なる美奈の部屋。座布団と丸テーブルを除いて
物を置かぬ。学生時代から変化なし。

そこへ旦那の霊が降臨せり。
見間違えではないかと目をこする。

「俺だよ美奈。達也だ」
「ああ……あなた様……お慕い申しております……」

相手は幽霊なり。抱き着こうにも空を切る。

「俺は死んじまったからお前に触れることはできねえんだ。悪いな」
「たとえ触れることできずとも、こうしてお話ができております」

達也は高校の学生服を着る。顔立ちもあの時と変わらぬ。
今では美奈の方が10歳も老けて時の流れを感じずにはいられない。

「今さらこんなこと言っても、信じてもらえないだろうけど
 聞いてくれ。俺が一番好きだったのは美奈だった。俺の初恋が
 美奈だったから、やっぱりおまえのことは特別なんだよ。高校に上がって
 色々あってな。おまえのこと金づる扱いしちまって悪かった。俺は最低だし
 刺されても当然だと思うからお前の弟のことは全然恨んでねえからな」

美奈は祈るように最後まで耳を傾けた。あまり長い時間は降臨できぬ事情が
あるとのことで、達也は一通りの用件を伝えると消えてゆく。

美奈も言葉の限りを尽くして彼への愛を語るが、
果たして十分に理解されたか不安になる。
なんとも心が満たされた一方でむなしさも残る。
美奈は彼が降臨した場所へ布団を敷く。
夢で再会できぬ者かと夢想しまぶたを閉じる。

それから達也の霊は、数か月に一度の頻度でそこへ現れた。
美奈のみならず、七味の部屋にも出るらしい。
七味は愛する甥とのただれた関係を叱られたとか。

美奈が30を過ぎる頃には達也の霊は現れなくなる。

達郎は高校を卒業後、バイト先で将来の伴侶と知り合う。
七味も職場恋愛の果てに結婚し一児の母となる。
叔母と甥の夜の関係はとうに終わりを告げていた。
あれは一時の過ちであると懐かしむ余裕すらあり。

時はさらに過ぎ、美香は白髪の生えたおばあさんになる。
一度はやせたが再び食べ過ぎの生活を始めたことがたたり
肥満による動脈硬化で倒れる。入院してわずか三日で亡くなる。

美奈の死を、愛息子とその娘(孫娘)が大いに涙する。
息子の伴侶も自分の母のことのように思い涙した。

美奈の霊魂は病室を浮遊して家族を見下ろす。
不幸にも亡くなられた旦那の子孫が、
こうして自分の遺体を見て悲しむ姿といったら、
美奈の晩成は幸せに尽きる。

幼き学童の頃、何に替えても旦那が宿した子を
産むと決意して実に55年が経過する。その子孫は今こうして
確かに生を繋いでいる。暖かい涙がこぼれる。

三途の川の向こう側で若き日の旦那が手を振る。
美奈も制服に着替えてから向かうことにする
再開するのに55年も掛けたから、
まず何から話そうかと思い頬が緩む。


                    終わり

学校で大人気の男子に告白されたのだけど……

学校で大人気の男子に告白されたのだけど……

キャラクター紹介(中学生です) 新見美奈(にいみみな) ブサイク。一年六組所属。部活は茶道部だが幽霊部員。 布施達也(ふせたつや) イケメン。三年二組所属。サッカー部のキャプテン。ゴールキーパー。 嫉妬する子 三年生で達也のファンの一人。新見に嫉妬し、いじめを計画する。 モブモブ子 上に同じ。恥ずかしくて達也に声をかけられない。 ヤンデレ美 上に同じ。達也にプレゼントと称して毒入りのチョコを渡す。 森由紀 → スタイル抜群の美人女教師。名前と容姿は 宇宙戦艦ヤマトに登場するヒロインからさんしょ…パクった。 恋人の男に浮気され人生に絶望する。 教頭先生→ 強面の男性教諭。年は51にて筋骨たくましい。 言うことを聞かぬ生徒には拳を持って指導する。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • サスペンス
  • ホラー
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
  • 強い性的表現
更新日
登録日 2021-01-24

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著作権法内での利用のみを許可します。

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