歴戦の勇者~IT業界の裏話~

北きつね

  1. 作者の戯言と注意事項
  2. 【初級】パフォーマンスとしての徹夜
  3. 【初級】親の葬式
  4. 【初級】自分の結婚式(前編)
  5. 【初級】自分の結婚式(後半)
  6. 【初級】自分の結婚式(後日談)
  7. 【初級】今は1時間の睡眠を・・・
  8. 【初級】ある職場の 1 週間
  9. 【初級】遅刻の連絡
  10. 【初級】約束と言い訳
  11. 【初級】趣味・嗜好
  12. 【初級】ケーキ持参
  13. 【初級】存在意義

作者の戯言と注意事項


 本来こんな文章は必要は無いでしょう。

 あくまでこれは”|小説(フィクション)”であり”|文章(想像の産物)”として公開しています。

 しかし、何人かの人に遠回しに質問されました。
”某有名企業の人ですか?”
 違います。
”あの話はあの会社の事ですよね?”
 違います。
”もしかして、自分の会社の事ですか?”
 違います。
 名前を挙げられた企業と仕事をした事はありますが、名前が通るような企業に在籍していた事はありません。

 また、自分の周りに居た人に酷似していると言われても困ってしまいます。
 それほど、このIT業界・・・。特に、末端では”|ありふれた《よくある日常の》”話なのです。

 書いている話は、実話ではありません。実話をベースにしたフィクションです。
 実話に近い文章ではありますが、実話ではありません。時期や内容が違っている場合もありますし、名前は勿論違いますし、行動も違う部分が多いです。雰囲気を感じて欲しいだけの読み物です。

 あと、少しだけでも・・・。
 この業界を志す人達に忠告として聞き入れて欲しい事を書いたりしています。

 文章としては
パーフォマンスとしての徹夜
親の葬式
自分の結婚式
今は1時間の睡眠を・・・
ある職場の1週間
遅刻の連絡
約束と言い訳
趣味・嗜好
ケーキ持参
存在意義
ダイエット効果
死して屍拾う者なし

 この辺りまでは、愉快な人たちの話です。
 笑い話にならない事も入っていますが、話し込んだり、付き合ったりすると、気のいい人たちです。ただ、少しだけ常識的な行動が苦手だったり、常識が壊れてしまっていたり、心のネジが数本抜けてしまっているだけです。うまく付き合う事さえできれば、基本無害です。矛先が自分に向かない限りは・・・。と、いう前提条件はついてしまいますが・・・。

 これ以降は中級編と言うべき人たちのお話です。

青い鳥を探して
あそこから
誰かが僕を
クリーニング屋に
寒気が
もしも

 心が壊れてしまった人たちの話です。
 IT業界に限った事ではないとは思いますが、心を壊してしまった人の行動は、飛び抜けてしまう事があります。
 ネジが抜けているだけなら、常に言動がおかしかったり、不可解な行動が常態化します。しかし、いきなり心が壊れてしまった人は、行動もいきなりです。自分では大丈夫だと思っても、立ち止まって考えるべき事象なのかもしれません。

 これ以上は、上級編と呼んでいいでしょう。
 その現場に居合わせたらトラウマになってしまうかもしれません。

怒涛の攻撃
眠気よりも
一時の睡眠
屋上のフェンス
僕の背中には

 先入観なしで読んでください。
 フィクションです。本当です。

 ここから後はパソコン通信という今から数十年前に流行った技術を使って、コミュニケーションを取っていた時に出会った人々の話です。
 箸休めにしようかと思ったのですが、以外と量が多くなりそうだったので、一番最後に語る事にします。


 それでは、いろいろ書きましたが・・・。
 IT業界の一部で行われている事や中で働いている人たちのお話です。
 楽しめるとは思えませんが、読んでいただけたら嬉しいです。

【初級】パフォーマンスとしての徹夜


 徹夜作業。
 実際には、貫徹をする時は少なく、途中で仮眠を取る。貫徹しても作業が進むわけではないためなのです。
 しかし、状況によっては、徹夜をしたという事実が大事になることがあります。

 そんな時の話です。

 客先常駐の作業で、1週間泊まり込みの作業が続いていたある日。
 客筋の上層部が、視察に来る事が急遽決まった(らしい)。

 システムの納期が遅れている現場に”客筋”の上層部が来る事は殆ど無い。遅れている現場に来ても、誰も幸せになれないからだ。
 そして、その現場では特にリリースが遅れている原因が客筋の上層部にあるからなのだ。

 その上層部が視察に訪れる事になる。
 現場の人間たちは切れる寸前。特に、常駐作業を言い渡された会社は怒り心頭な状況です。

 しかし、パフォーマンスは必要なのです。上の人間は、現場がどんな状態で作業しているのか知らない。
 ひどい場所だと、3週間近く現場に泊まり込んでいる。そんな現場に、激励という事で問題の発生源の上層部が来るのです。気分が言い訳はありません。

 私たちのチームにも現場を仕切っている会社からの指示として、その日は帰らずに、貫徹で作業を行う事になったのです。仮眠も出来る限りしない欲しいという事だ。指示の内容としてはおかしな話です。徹夜しても作業が進むわけではないのは、現場の人間なら解るはずなのです。

 後で聞いた話なのですが、この日の視察で訪れる上層部は、遅れるのは現場がしっかりやっていないからだと言っていて、自分がテコ入れをすると言っていたようです。現場を仕切っている会社は、作業を進める目的よりも演技ではない悲壮感を、上層部の人間の目に焼きつける為だったのです。

 視察後に、リーダたちが集まった会議で出された結論はリーダ達が以前から主張していた。『納期の延期か、機能削減のどちらかをやらないと、死亡者の1人や2人出てもおかしくない』が、冗談でもなんでもないと言うことが伝わり。納期の延期が認められたのです。

 しかし、機能の削減は認められなかったのです。そして、視察の翌週に全員無条件の帰宅が義務づけられたのです。

 しかし、義務感か責任感からなのかはわからないのですが、リーダの殆どが帰宅予定日も終電を逃して常駐先に泊まる事になったのです。そして、それはリーダだけではなく、現場に出ていた7割以上が終電までは残ったのです。

 そこでリーダの命令で、帰宅を命令されたのです。帰宅命令がなければ、多分残って作業を行っていた事でしょう。あれ程、帰れない事に文句をつけていたメンバーたちも上からの命令で帰れと言われると現場に残って作業をしているのです。それが間違っているとかではなく、リリースが遅れているのを少しでも取り戻そうと頑張ってしまうのです。

 ある一種のトリップ状態だったのではないでしょうか?
 リーダたちが笑いながら教えてくれた事は、同じ様に現場に居るのが当たり前になってくると、”家に帰る”のではなく、”家に行ってくる”となって、”会社に帰ってくる”となってしまうようなのです。そして、たまに家に帰ると次に出てきたときには、作業が進んでいて、自分は”ここ”に必要がない人間ではなくなってしまう、そんな感覚で帰る事を拒否するようになってしまうようなのです。
 そうなったら、終わりだからパフォーマンス以外の徹夜はしないようにと教育されます。

【初級】親の葬式


 徹夜作業まで必要がなく、終電では帰る事が出来る現場での話。
 上司は、責任感もあり、人間としては尊敬に価する部分も有ったのですが・・・。
 責任感に見合う能力が欠落していたのです。

 上司は、40代後半で、チームリーダでした。現場に出ているチームのまとめ役をやっていました。
 同僚からも客先からも部下からも|頼り《便利》に|され《使われ》ていました。

 確かに信頼はされていましたし、最低限の事は出来るのですが、能力が信頼を越えていないのです。これが不幸の始まりだったのです。その現場は、月で作業の偏りが激しい現場です。
 忙しいときには、終電で帰る日々が続きます。幸いな事は、客先が終電では帰るようにと、指示が出ているので、無理矢理にでも追い出されるのです。

 忙しい月の予定が出てきて、上司は足りない能力を責任感という無責任な物で補おうとし始めます。
 簡単に言えば、部下よりも早く出社して全部の部下の作業を見て、部下の全員が帰るまで、自分に用事があろうと、職場に残って作業を見守っているのです。最初は手伝ってくれたりもしたのですが、邪魔にしかならない事もあり、やんわりと断られる事が多くなっていたのです。
 しかし、部下が|でき《やら》ない書類仕事を上司が肩代わりしてくれるので、相対的な勤務時間は短くなっていきます。

 顧客や部下から信頼されるのも、プログラムやシステム構築とは関係ない、書類作業が丁寧だという所から来ています。

 そんな上司から、修羅場が目前に迫ったある日、相談があると呼び出されました。

 昼休みは基本的に睡眠時間にしていた上司が、私たちを珍しく招集したので『緊急事態でも出たのか?』と現場は騒然としました。腐っても上司です。会社からの連絡や撤退や規模拡大の連絡は上司が受け取ります。私達は、昼飯を早々にすませて、会議室に集まったのです。会議室には、深刻な顔つきで上司が待っていたのです。

 私たちにも緊張が走ります。

 上司が、私を含めて呼び出した者が揃ったことを確認して口を開きます。

「今日、オヤジの通夜なんだ。本当に申し訳ないが、今日は、定時であがらせて欲しい」

 私たちは、きっと頭上に『?』をいくつか出していたことでしょう。

「君たちが作業している中、親の通夜なんて、個人的な用事ですまないと思うが、今日だけは先にあがらせて欲しい」

 机に頭が着くのではないかと思うくらいに頭を下げてきます。
 必要な事ですか?と誰もが思っていました。

 そして・・・。

 ”勝手にしてくれ”という思いと、”なんで通夜に行くのに許可を求める必要がある?”という思いが湧き上がってきます。
 そもそも、上司が居なくても困る事はない。確かに、書類仕事では戦力になるが、それ以外では戦力になるどころかマイナスにしかならない。皆が私を見ます。残念な事に、私が上司直属の部下で、副リーダを勤めています。

 私を含めて、その場に居た人間は、最悪な事態を考えていました。
 作業遅延を理由に切られると思っていたのです。確かに、通夜は重大な事ですが、私たちに対してお願いするような事ではありません。通夜という事は・・・。ここ数日、上司のポンコツに拍車がかかっていたのは、そういう理由だったのでしょう。

『定時で帰るも何も今日は今すぐ帰ってください』が、私が発した言葉です。

 上司の実家の事は聞いています。
 作業場所からどんなに急いでも、電車で3時間の距離です。定時までいたら通夜の時間にギリギリです。その上、上司は長男のはずです。長男が出席しない通夜など田舎では考えられません。
 上司は、先月末から毎日・・・。土日も出勤してきています。お父さんがいつから病床に有ったのかはわかりません。突然死なのかもしれません。しかし、少なくても上司は見舞いにも行っていません。その上、通夜にも遅れていく事になったら大変ではないのでしょうか?

「わかった、ありがとう。今日は、|コアタイム《午後3時》が終わったら上がらせてもらう」
「今すぐに午後半休で帰ってください。初七日が終わるまで有給を使ってください。お願いします。現場で困ったことがあったら連絡します。ご実家の連絡先を教えてください」

 でも・・・と食い下がる上司を無視して、顧客や会社に連絡をして、休みをもぎ取ります。
 顧客も上司が信頼出来る人である事は解っていますし、プログラムやシステム構築では戦力外なのも知っています。そのために、確かに修羅場突入寸前で忙しくなり始めている時期ではあるが、納品までには日数もあるし、上司が活躍しだす書類作業までもまだまだ時間がある。その事からも会社も顧客も10日の有給を許可してくれたのです。

 正直に言えば、親の通夜~葬式くらいは現在を分析して相談なしに休んで欲しかった、その位の事はしてくれないと困ると本当に痛感した。しかし、この相談が上司なりの責任の取り方であり、誠意だったのです。

 上司は、11日後にいつもどおり会社に出てきて、顧客から始まって、メンバーに土産を渡しながら感謝を伝えていく、父親を見送ることができたと・・・。

 その上司の背中は、”親の葬式”という大事な、当たり前の事をしてきた人ではなく、忙しいのに休んでしまって申し訳ないという雰囲気を出している。

 何かが間違っているのは、皆が感じている。しかし、自分が同じ立場になった時に、果たして休む事が出来るのかを考えてしまっていた。

【初級】自分の結婚式(前編)


 毎年3月末から4月中旬にかけて地獄の日々を過ごす現場がある。長い時には、5月末まで続く。
 この時期は、自分の部屋で過ごす時間はほぼ皆無で殆どの時間を職場で過ごしている。

 それは、システム屋に出された、お上からの命令だからしょうがない。

 4月1日から会計システムを変更して、新しい料金体制で業務を行わなければならない。
 その仕様を決めているのが、”東京都千代田区霞が関1-2-2”にある役所だ。そして、その仕様が出てくるのが、早くても3月半ば。しかもこの時点で最終稿ではない。
 お役所の文章を読んだことがある人はわかると思う。|せんびき《ものさし》を持って、段落をしっかり認識して読まないとプログラムに落とし込めない。
 難解な言葉を使って、参照先が幾重にも張り巡らされている文章を読み解いて、プログラムに落とし込んでいく。この作業を、2週間で行わなければならない。簡単に聞こえる人がいたら、この業界の人では無いだろう。
 数万行。もしかしたら、桁が二桁上かも知れないソースコードの中から該当箇所の変更を行う。これが、どれほど神経を使う作業なのか・・・。そして、それが終わってから、テストを行う。本来なら、テストだけでも数週間かかる事を、1-2日で完了させなければならない。

 必然と、残業時間が増えていく。
 そして、問題なのは決定稿や修正稿が4月に入ってから到着する事があるのだ。
 新しい仕様が来たからといって、システムは止められない。客が使っているからだ。客も最終顧客に提供しなければならない。そのために、システムの問題があれば、即日修正が基本になってくる。客の業務が終了してから、データの整合性を取って、プログラムの修正を行う日々が続くのだ。

 仕様が変わってしまった事による不具合も出てくる。それらに対処する為に、客先でデータの修正を行いつつプログラムの修正を行う必要がある。

 これが一段落するのが、4月の半ばだ。
 半ばをすぎれば、プログラムの修正は落ち着いてきてくるが、今度は新機能の話が出てくる。
 そして、7月か8月くらいには、4月から新しい計算で行った結果を国が調べて問題点を通知してくる。早い年で6月末くらいには通知が届く7月にはほぼ出揃って、そこからデータの修正したり、プログラムの改修をしたり、作業が大量に発生する。
 問題点が少ない年もあるが、難解な文章の一つを読み間違えるだけで大量の修正が発生するのだ。
 会計に関わる部分なので、顧客への返金が発生する事もある。これらの処理を行わなければならないのだ。

 そんな楽しい職場だが、6月は比較的休みが取りやすい。
 あくまで、この現場としては・・・と、いう枕詞が着く。5月の連休は何年も関係がない状況になっています。この現場に配属が決まった時に言われたのが、3月4月5月の休みは無いと思ってくれだった。

 そんな現場だが、5月の終わりになれば、時間ができ始める。
 しかし、この年は違っていた。

 本来なら暇になるはずの時期が来ても、暇になりそうになり。
 それどころか、忙しくなる一方なのだ。役所のミスではない。役所はいつもどおりのクソのような対応で3月末に仕様を出してきて、4月1日対応を言ってきた。最終稿も4月の第二週に送ってきた。いつもどおりだ。
 客もいつもどおりだ。悪い、悪いといいながら、オーダーを変えることはない。

 それでは何が違っていたのか?
 会社の上層部がミスを犯したのだ。3月、4月、5月が忙しくなると解っていながら、現場の人間を1月に着火した別の現場に送り込んだのだ。見事に消火に失敗した。
 こちらでも人手が必要になってから、人員を送ってくれた。経験もない、言語知識だけを持つド素人の集団を・・・だ。
 業務知識がない素人を100人送るのなら、現場から連れて行った経験者を1人返してほしかった。

 しかし、有能な上層部はこれで乗り切れると思ったらしい。

 乗り切れるわけもなく、偉い大学を出たド素人がしたり顔で現場に出てきて、口を動かしている。
 そんな事は言われなくても百も承知だ。いいから、手を動かせ。まずは乗り切らなければ、その先の話も繋がらない。その程度の事もわからない口先野郎は、引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、会社に来なくなって、辞表を出して居なくなった。

 これが、今年の修羅場とかした現場で発生したことのすべてだ・・・と、思いたかった。

 そして、出口が見えないまま6月が見えてきた。
 手を動かしていたド素人たちもある程度は使えるようになってきた。暇になりつつあり、6月になれば交代で休めるくらいにはなりそうだった。

 この時に、翌日に来る悪夢を予感できた人間がいたとしたら、その人物は神か悪魔だろう。
 発生した事を考えれば、後者である可能性が高い。

 予測できない事を皆が悔やんでいた。悔やんでもしょうがない事を、悔やむしかない状況だったのだ。

 システムの改修も終わって、データの整合性も取れた。
 営業が客先と話をして、OKを貰えれば、2週間の休暇となる。

 客先にも、もう何度も何度も確認をして問題ない事は確認している。
 儀式な様な物だ。皆が、問題なぞ発生しないと考えていた。

”ジリジリ”--”ジリジリ”

 上司の携帯の呼び出し音が、静かな部屋に乾いた音で鳴り響いた。

 最終確認が取れたという連絡だろう。だれもがそう思っていた。

『はい。上里』

『は?』

『なにを・・・はぁ??』

『何を、今さら、そんな事を言われても、できません』

 雲行きが怪しくなってきた。
 皆に緊張が走る。

『・・・・』

 上司の沈黙が怖い。上司は、メモ用紙をとると殴り書きをしている。”会議室を借りて、全員を集めてくれ”とだけ書かれている。

『それで、それは”いつ”言われたのですか?』

 長い沈黙です。
 会議室はなかなか取れない。
 その間も上司と営業の話は続いています。

『はぁぁぁ?何、言っている。自分が言っている事解っているのか?あんたじゃ話にならない。上司に変わってくれ!居ない?どういう事だ?客先には、二人で行く約束だろう?』

 上司が立ち上がって、携帯に向かって怒鳴ります。
 もうダメだという事が確定したのでしょう。

『無理なものは無理です。”部下に死ね”と言えってことですか?』

 皆がうつむきます。
 上司が粘ってくれているのはわかりますが、経験上どうにもならないのだと悟ります。

『どうにもなりませんよ。無理なものは無理です』

 まだ営業が食い下がります。
 誰かがミスをしたのだろう事はわかりますが、事情が飲み込めない状況です。

 上司が電話を切って、皆を見回した。
 丁度、会議室が取れたという連絡が入ったので、会議室に移動します。

 その間も、上司は電話をかけ続けます。営業のトップにも連絡しているようです。

 電話の内容から作業が発生したのは想像できます。
 それがどんな作業なのか判断できません。上司ができないといい切ってしまうほどの問題だったのでしょうか?

 かなりヤバイ話であろう事は想像できます。
 しかし、簡単に聞くことができません。聞かなければ話が進まないのは解っているのですが、上司も座って腕を組んだ状態で動きません。

 静かな・・・。本当に、静かな時間が流れます。
 1分・・・2分・・・3分・・・自分の心臓の音なのか、隣に居る同僚の心臓の音なのかわからない音が耳に届きます。
 遠くに座る同僚の貧乏ゆすりの音が徐々に早くなっていきます。

 永遠に思える5分が過ぎて、上司は口を開きます。

『多分、皆、いろいろ想像したと思う。楽観的な想像をした者も居るかも知れない。今から話すのは、悲惨な状況の想像を思い浮かべて、それを5倍にした程度の話だ。安心して欲しい』

 どこにも安心できる要素が無い状況のようです。

『システムの納品はOKになった・・・なったのだが・・・』

”ジリジリ”--”ジリジリ”

 また上司の携帯がなります。

『社長からだ、少し待ってくれ』

 上司の携帯にかけてきたのは社長だ。
 話を聞いて、何らかの救済処置を取ってくれたのかも知れない。そんな淡い期待を持ってしまった。

『はい。上里』

 なにやら話していますが。
 問題に関わる事ではないようです。

『わかりました。今、受付ですか?わかりました。今から行きます』

 どうやら、社長が来ているようです。
 少しは状況が好転してくれたらいいのですが・・・。

 上司は、電話を切って、自ら社長を迎えに行くようです。
 先程の話を確認して、善後策を考えるのかも知れません。

 残された者たちは、今わかっている情報から、意味がないと解っていながら、何が発生しているのかを考える。

 自分の想像したパターンを照らし合わせて、どんな状況になっているのかを検証していたのです。

【初級】自分の結婚式(後半)


 上司が社長を連れて会議室に入ってきた。

 状況報告がされている。
 社長は状況を把握していたわけではなさそうだ。

 社長の顔がみるみる険しくなっていきます。
 今日社長が来たのは、とある人物との打ち合わせなのですが、状況が打ち合わせを行う事を許してくれません。

 状況はわかりました。
 最悪の状況の中から、チームで成し遂げた事を、無視した上に、無にして、さらに新しい業務を上乗せしてくれたようです。

 わかります。営業は、赤字をなんとかしよとしたのでしょう。
 自分たちの蒔いた種を自分たちでなんとかしたかったのでしょう。先に言ってくれれば、全力止めました。

 確かに、見た目上の赤字は埋まったようです。
 営業部が主導してやったのは、ここで作られていたソフトウェアをパッケージにして売り出すという暴挙です。

 確かに、点数計算部分やそれに類する部分は”共通”です。違う解釈が会ってはならないはずです。
 しかし、現状が違うのは誰もが認識している事です。それを、有名な大学を優秀な成績でご卒業した優秀な営業が主体となって、開発に確認をしないで動いてくれたようです。

 最悪な事に、その口車に乗った新興の施設が見つかってしまって、半分を前金で貰ってしまったようなのです。

「社長。この部隊を半分に分けろと言っていますが、そんな事を許可するつもりですか?」
「許可も何も・・・。そんな話は、こちらには上がってきていませんよ?」
「営業の担当は、社長の許可済みだと言っています」
「そんなはずはない。そもそも、パッケージの話も今日始めて聞いた」
「本当ですか?」
「本当だ」

 社長は全面的に否定してくれましたが、何一つ解決していないのは間違いないのです。
 営業が勝手にやったことだとしても、動き始めてしまったプロジェクトは処理しなければなりません。

 上司と社長は、状況確認と説明をして、営業を呼び出して話を聞くことになったのです。
 現場では引き続き作業を進める事になりました。


 数時間後に、今日は解散という連絡が入りました。
 明日、|営業2(上司と馬鹿)と上司と施設のボスと話をする事になったようです。現場へ説明は、15時から行われる事に決まったようです。

 翌日現場に行くと、朝から真っ青なかおで出社してきて、作業をモクモクとこなしている人物がいました。6月に結婚式を執り行う予定の人物なのです。実は、昨日社長が来たのも、彼にお祝いを言いに来たのと、出席のお願いをした所社長が現場に来てくれる事になったのです。彼も毎年の事なので、4月は避けて何か問題があった時に対応する可能性がある5月の結婚式もさけ、暇になる6月に結婚式を行う事にしていたのです。奥さんになる人は、純粋に 6月の結婚式を喜んでいたらしいのですが、実際には6月が一番早く結婚式を挙げられる日取りだっただけなのです。
 奥さんになる人もこの業界の人なので、状況はある程度はわかっているようですが、この現場の人ではありません。
 状況の説明をして、どうなるかわからない事だけは伝えたそうなのです。

 運営の15時になりました。
 その間、現場は静寂が支配していました。

 上司とボスが現れました。
 営業は帰ったようです。正確には、帰したようです。この場に居ると、殺しかねないというのが、上司とボスの意見でした。
 顔は笑っていましたが、目は笑っていませんでした。

 どうやら、パッケージの話も、前金の話も、独断で動いたようで、営業部の上司も知らなかったようです。
 そして、最悪なのは前金を会社の口座に黙って入金させていた事なのです。そんな事をしてなんになるかと思ったのだが、本人はこれで赤字がなくなると思ったようです。
 社長と営業部のトップは、パッケージの話をした会社に状況説明に行っています。どうやら、あちらはあちらでなにか問題が有ったようですが、現場には直接関係は無いようです。
 パッケージの話は止める事ができそうだという事で、皆が最悪の状況が回避されたかと思いました。

 ただ、一つだけ問題が残されてしまったようなのです。
 営業の人間が、パッケージの件を持ち出す前に行っていたのは、この現場の営業です。

 大きなシステムでは、複数の会社が絡んでいる場合が多くあります。
 この現場でも数社が絡んでいます。

 営業は、仕様変更の依頼を現場に伝えない状態で放置して居たようなのです。
 それが捲れてしまったのです。めくれただけなら良かったのですが、内容が最悪だったのです。

 すべてのデータを攫って特定条件下で検索をかけた状態のデータを1件も取り残さずに提出する。

 とある役所からの命令なのです。
 上記の指示だけなら、プログラムをちゃっちゃと書いてしまえばいいのですが、付帯条件がひどい。『1件の取りこぼしが無いことを証明せよ』までつけられている。
 そして、該当データが考えただけで、4,000件×10億件あるのです。その中から、1件の取りこぼしもない事を証明するのはほぼ不可能です。プログラムの説明だけで良いかとも思うのですが、お役人が見て納得するのが条件なのだという事です。

 そして、この作業が6月中旬までなのです。

 これをやらないと役所から怒られるだけではなく最悪の場合は、行政指導が入る事が考えられます。
 そうなったら、また作業が遅れる上に余計な仕事が増えます。
 赤字を気にしてもしょうがないのですが、会社が傾くには十分な金額が必要になってしまうでしょう。すでに契約が結ばれています。それを、営業が勝手にやったからでは断れません。その上万が一行政指導が入った場合には、その間の休業補償はしなくていいのかも知れませんが、システム改修費用や、他の会社への支払は負担しなければならなくなります。

 なんとかしなければならないのです。
 これは確定事項なのです。

 無理難題。理不尽。
 いろんな言葉が出てきますが、もう無駄なのです。他の会社にはできません。

 ボスが理解ある人で助かりました。
 他の業務は一時的にストップしても構わないと口約束ですがしてくれました。それに、他の業務は概ね終わっています。

 スケジュールが発表されます。
 すごく人道的な内容です。絶望しか見えてきません。

 朝は、9時出社で問題はないようです。帰りは、終電で帰る事が確定しそうな分量です。それもそのはずです。この仕事は、減らされる前の人員で4ヶ月かかる想定なのです。それを、2ヶ月・・・。実質的には1ヶ月半で、半分の人員で行うのです。スケジュールがかなり優しめになっていることにびっくりしました。
 それもそのはずです。6月中旬に提出期限だと言われている物を、7月末まで行う予定なのです。
 上司は説明してくれました。役所から来ている書類を読むと、問題がありそうな状況だと、役所に行って説明する事になるそうです。それを積極的に使う事にしたようです。営業と上司が役所に説明に行くことで時間を稼いで、その間にデータの精査や証拠集めをするのです。危ない橋を最初から渡るつもりで居るようです。
 それだけ切羽詰まっている状況なのです。

 しかし・・・。

 上司は、忘れていました。
 6月に結婚式が執り行われる事を・・・。

 ボスは失念していました。
 その結婚式の仲人が自分だという事を・・・。

 そして、現場の人間は忘れていました。
 6月中旬の結婚式には、この現場の7割が出席する事になっている事を・・・。

 そして、そのデータ周りの仕事をしている人間は、話を聞いて青くなっています。
 今朝から青かった顔が今では白に近い色になっています。この現場で、該当データに詳しいのは、6月中旬に結婚式を予定している人物なのです。

【初級】自分の結婚式(後日談)


 私が話せる事はこれ以上無い。
 ボスも上司も、そして私たちは彼の結婚式の事を完全に忘れていた。

 彼が立ち上がって、上司の所に歩み寄るまで誰も彼の結婚式の事を忘れていたのです。
 流石に、中止にしろとは言えませんし、言うつもりもありません。

 全員で出席するためにもスケジュールの組み直しが必要になるだけです。
 それも、一番負担がかかるのは彼なのです。データの精査をする為の基礎データを作って、整合性を確認する為のプログラムを作るのが彼なのです。その合間に、結婚式の打ち合わせを行う。

 寝る時間があるとは思えません。

 彼は頑張りました。
 私たちも頑張りました。

 結婚式の前日に、彼は皆に頭を下げます。
「すみません。明日が式なので、今日は帰らせてもらいます」

 誰も文句を言いません。
 当然です。自分たちも、明日の式には出席予定なのです。

 結婚式は無事終わりました。
 正確に説明すると、出席者の大半が結婚式に出席した事は覚えているのですが、徹夜明けの状態で出席したために、乾杯でアルコールが身体に入った時点で半数が記憶を飛ばし、残りの半数は夢の世界の住民に成り下がっていました。

 そして、幸せいっぱいの新婦の横で船を漕ぎ出す新郎。でも、実際にそれを見ていたのは、新郎側では親戚や高校や大学時代の友達を除けば、社長だけだった。新郎側の出席者に用意されていた、会社関係者のテーブルで最後まで意識を保っていたのは、社長だけだったのです。
 ビデオには、意識を保っているようには見えないテーブルの麺を呆れ顔の新婦がはっきりと映っていたのです。

 新婦は彼の仕事の事もすべてわかった上での結婚だったようです。
 それは、後日にお詫びを兼ねた食事会を開いた時に聞いた話しでした。

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 今でもその当時のメンバーが集まれば、伝説の結婚式の話になる。
 上司やボスの采配に文句を言うメンバーはいませんが、優秀な大学を優秀な成績で卒業した営業様はこの件をきっかけに社内からの重圧に耐えられなくなって会社を辞めていったのですが、辞め方がまた酷かったと今でも話しに上がるほどなのです。

 営業は、会社を辞める時に、自分に不手際がなかった事を、営業の上司に一筆書いてもらおうとしたのですが、この時点で営業部では腫れ物扱いだったのです。
 自主退社扱いでの退社を迫ったのですが、営業の彼はのみ込まなかったのです。
 しかし、これ以上働かせるわけにも行かなくなって居たのも確かです。そこで、社長の一言で解雇の手続きが取られる事が決まりました。同時に状況説明と解雇した事。もし、営業の彼が関連会社や協力会社になにか言ってきても、会社として絶縁した事を説明したのです。
 この時点で、話は付き合いのある会社には伝わっていたので、社長の決断を悪く言う人は存在しませんでした。
 そんな営業の彼は、次に入った会社でも同じ様な事・・・。より問題のある行動をとったのです。会社の金に手を突っ込んで、裁判沙汰になったようです。
 その後、和解にはなったようですが、心を壊して入院してしまったようです。
 退院後は、故郷の北の大地に戻ったと風のうわさで聞いたのが最後でした。

【初級】今は1時間の睡眠を・・・


 私は、病院での激務を乗り越えて、会社に送還された。
 別に問題が有ったわけではない。もともとその予定だったのだ。事務所でパッケージ開発だけを行えばよかったはずだった。

 怒号も聞こえない。誰かの呻き声も聞こえない。
 怨嗟の声や呪いの言葉も聞こえない。そんな一般的で健やかな気持ちで作業を行っていた。

 私が会社に提案して作成したアプリケーションが納入された。
 売上なんて気にしていなかったのだが、会社に貢献できたのは単純に嬉しかった。
 4ヶ月間の時間を使って作ったアプリケーションが一本とはいえ売れたのだ。

 納入先にも出向いて、話を聞いて細かい部分のカスタマイズを行った。通常の業務として受ける事になった。
 今までの業務に比べると雲泥の差がある内容だった。1週間程度でできる事を、1ヶ月かかると申請して通ってしまったのだ。細かい修正を含めて、2週間もあれば終わる改修作業に2ヶ月間の猶予が与えられた。

 会社には率直に意見している。
 この部署の営業が優秀だったのだ。その営業は、1ヶ月間の余裕があるから、なにか違うアプリケーションを作る事ができないかと打診され、納品したアプリケーションの補助機能となるツールの提案をした。
 別途作って、一緒に売り込もうという話になった。

 倉庫管理を行うスタンドアローンで動作するアプリケーションだった。
 顧客がやりたい事が全部できて、安価なソフトとして白羽の矢が立ったのだ。もともと、スタンドアローンで動いていたアプリケーションのデータベースを集約したホスト的な役割を行うサブツールを作ったのだ。
 イメージが湧きにくいとは思うので割愛するが、特定の本部を作らなくて、自分の所が本部として成り立つアプリケーションになったのだ。

 これが、顧客に刺さった。金払いもいい。納期に関しても寛容。使う立場での改善要求も納得できる事が多い。システム的な指摘を行えば納得するまで話をしなければならないが、納得してくれる。
 客として考えると最高の顧客だ。

 システムの導入も終わった。
 これで、私の出番は終わったと思っていた。

 そんな日々の生活が一本の電話で打ち破られた。

 最初はいい話の様に思われた。

 予兆は確かにあった。
 納品後にすぐにアプリケーションを担当していた営業が移動になった。残ったのは、学歴がご立派な営業だった。
 この部署の営業は優秀でなくても大丈夫と会社側が判断したのかも知れない。移動になった営業は引き継ぎもしっかりすませ客にも挨拶回りをした。納品した会社には、営業ではなく私に直接連絡するようにお願いしていた。
 新しく来た|優秀な営業(頭はいいかも知れないが影響を考えない愚か者)は、必死に営業活動を行っていた。
 何件かのトラブルを出したあとでおとなしくなった・・・かのように思われた。

 電話は、最高の顧客からだった。
 優秀な営業から連絡が来て、”パッケージの販売許可を求めてきたけど、問題は無いと返事したけど、改修したら教えてほしい”ということだった。私が開発したアプリケーションは最高の顧客からの資金が入っているので、販売は単独ではしないという契約になっていた。
 優秀な営業は、私に断ることなく最高の顧客と交渉を行ったようだ。
 会社の・・・。私の事を自由にしてくれている社長派ではなく毛嫌いしている副社長や専務派の人間に許可をとっていたようなのです。

 ここまでは別に大きな問題はなかった。
 勝手にしろという気分が強かった。

 優秀な営業が、専務派に話を付けに行った事を考えればよかった。甘く見ていた。優秀な営業は、”空気感”が読めるのか権力闘争を上手く乗り切る嗅覚でも持っていた。嗅覚をフルに活かした大学時代を過ごして居たようで、出身大学の学閥を上手く利用して、とある研究所にアプリケーションを売りつける事に成功したのです。

 大学主導のシステム仕事をした事がある人ならこの辺りで察する事ができると思います。
 ”酷い”の一言です。内容は、涙が出てきそうなので割愛します。

 そんな精神を削られた上に金にもならない業務はすべて拒否した。権利も何もいらないから、自分たちで勝手にしてくれと放り投げる事になった。もちろん政治的な駆け引きはしっかりした根回しもしっかりした。

 問題は片付いて良かった・・・。と、思っていた。

 優秀な営業と大学側の担当者が、私を訪ねてきました。

 応接室に通して、私が下座に腰を降ろします。これは、想定の範囲内ですが、優秀な営業は正面の”上座の位置”に座ったのです。頭の中に蛆が湧いているのかと本気で思った瞬間でした。

 大学側の担当者は、何も言わないで優秀な営業の横に座ります。
 おかしな図式なのは誰の目にも明らかなのに優秀な営業は話を始めます。私に大学側に協力しろという説得を始めるのです。

 大学側の担当者からも戸惑いの色が見えます。
 私の横に優秀な営業が座っているのなら、席を外させて担当者とだけ話をする事ができるのでしょうが、場を仕切っているのは、優秀な営業なのです。
 その優秀な営業は自分の行いが間違っているは一切思っていません。自己の正義は、会社の正義だと思っているようです。そこには、私の最低限守られるべき権利は含まれていません。

 大学に納入したアプリケーションは初期試験に合格して、全国展開をする事が決定したという事です。
 最初からその予定だったので問題はありません。大学が主体となって売るだけの事です。大学が導入するわけではない事も最初から聞いています。アプリケーションの”命名権”を大学側に売ったと考えてくれればわかりやすいかと思います。
 この時点で私が作ったアプリケーションとは別物になるという契約を交わしています。
 ソースコードも渡しています。大学が改変して売っても問題ない事にしています。3者間契約を結んでいます。私が今後かかわらない事も大学側と優秀な営業からの申し出で追加しています。

 何が言いたいかというと、私はアプリケーションから切り離されたたのです。アプリケーションを大学側がどうしようと勝手にしてくれという事になったのです。

 しかし、優秀な営業の考えは違っていました。
 私が大学や優秀な営業の為に、自分のアプリケーションではない物を売るために協力するのが当たり前だと思っていたのです。

 もちろん拒絶した。
 しかし,優秀な営業は権力を上手く使う方法を心得ていた。
 大学側を動かして専務派を動かした。

 そして、次の週には、私の前に専務と営業のトップと優秀な営業と大学側の担当者と責任者が並んでいる。
 私の横には誰も座っていない。

 最初に言っておく必要がある。
 私は一つの問題を起こしていない。納期も全部守った。契約通りの働きをした。最初、多少はアプリケーションに責任を感じて、契約を巻く時に私が関与できる余地を残しておいた。それを潰したのは、大学側と優秀な営業です。

 専務たちにネチネチ嫌味を言われる事3時間。私が折れる以外にこの話を終了させる方法は見つかりません。

 どうせ、条件なんて付けても契約書さえ守らない様な人たちが守るわけがないと思っていますが、条件を提示します。専務たちがどの様な人種なのかよくわかっています。俗物が一番嫌うのは、自分が理解出来ない事を条件として言ってくる連中なのです。
 だから、条件は彼らが理解できない事を含めて上げていきます。

 まずは、当然の権利として、給与の全額保証と経費の清算を約束させます。
 諸手当も約束させます。残業代や出張手当などがあります。これらをしておかないと、なんだかんだと文句を言ってくる未来が見えてくるからです。
 ここからが条件の本番です。
・今後、私には優秀な営業にかかわらない事
・私の肩書を、システムエンジニアからプログラマにする事
・移動時に自分の車を使う事を許可する事(諸経費は会社負担)
・明確な契約違反なので、私への報酬を大学側としても職員と同等の支払いを行う事
・明確な契約違反なので、優秀な営業からの謝罪文を要求する。
・明確な契約違反なので、今回の件に関わった人物の洗い出しと全員の氏名を公表し再発防止案を提示する事
・明確な契約違反なので、この場に居る私を除く全員の処罰を希望する(大学側の担当者を含む)。

 一気に提示した。
 その場で文章を作成して専務たちに渡した。
 少なくてもこの中から5つは実行してくれなければ私は指一本たりとも動かさない。

 会社は、翌日最後の項目にある大学側の担当者の処罰以外すべてを受諾すると言ってきた。

 私が大学にお願いされた事は、営業サポートだった。
 言葉にすればそれだけなのだが話はそんな簡単な事ではない。大学側と言っているが、別の大手民間企業が絡んでいる案件だった。その大手民間会社が各都道府県の県庁所在地や政令指定都市にパイプを持ち行政としてアプリケーションの導入を行わないかと提案して動いている最中だった。

 一度行われた大都市でのプレゼンテーションには、時勢が影響してかかなり多くの参加者が来たようだ。
 その場で、アプリケーションのデモを見せて導入の為の費用やメリットの説明を行ったようだ。

 問題になったのは、参加者からの質問にデモを担当した者たち(大学関係者)が答えられなかった事だ。当然だ。単純なアプリケーションでも、裏側では複雑な処理をしている場合もあるし、改変に関しては即答できる物でなない。
 それだけではなく、技術的な事や導入時に考えられる問題点など答えられるはずがない。

 初めてのプレゼンテーションは、人を集めるという側面では成功したが、アプリケーションを売り込むという面では完全に失敗に終わったのだ。
 これを重く見た民間企業は一時的にプレゼンテーションの停止を提案してきた。
 大学側は、開発者をアサインする事で対応が可能になると考えた。
 最初は、大学内の人間での対応を考えていたようだが、適任者を探す事も育成する事もできなかった。次のプレゼンテーションまでの時間が短い事で大学は優秀な営業に話をした。
 優秀な営業は社員1人を動かすだけなら簡単にできるだろうと安請け合いをする。断られると思っていなかった大学の担当者はメンツを潰されたと、優秀な営業に文句をいうが契約を調べてできない事が確認されてしまった。そうなると情に訴えるか圧力をかけるかを選ぶ事になってしまった。

 私はそんなわけで、北は北海道、南は沖縄まですべての地域を1人で回る事になってしまった。

 これが殺人的なスケジュールで組み込まれていた大手民間企業がやり手なのかわからないが、連日デモの予定が組まれる。
 車での移動だと知った担当者達は無理目な予定を平気で組み込んできた。

 デモする場所も時間帯もバラバラで参加者も多いときには200名を越えている。少ないときには、3人の場合もあった。

 デモする場所も、公民館の様な所から事務所の片隅だった場合もある。
 持っていく荷物も最初は自分の着替えや仕事道具だけだったのだが、プレゼンテーションで使う資料を運んだり、プロジェクターを運んだり、デモが動かないと問題になるからとデモ用の機材一式を運ぶようになっていた。
 着替えも、最初は4-5泊したら家に帰れば良いと思っていたのだが、デモを土日にやってほしいという要望が入ってきた。

 そうなると帰る事ができなくなる。部屋が恋しいと思えるような生活でなかったので気にはしていないのだが、スーツや着替えだけが困ってしまった。
 吊るしのスーツを現地で買って、よく使っていたクリーニング店に電話して郵送してからクリーニングをお願いする様になる。下着も現地で買う事になって使い捨て状態にする。現地調達できる物は現地調達する様な生活になっている。

 ホテルからホテルに移動する。
 犯罪者と同じ様な生活をしていた。これだけなら良かった。本当に良かったのだ。

 この移動生活も、デモして質問に答えて帰るだけなら苦痛でもなんでもない。
 問題は、行く先々で歓迎会が行われる事だ。

 デモが組み込まれるのが、昼過ぎなら良かった。そのまま、次のデモがあるからと言って移動を行えば避けられた。
 しかし、デモが夕方になるとホテルに泊まる事になる。そうなると、夕方からは時間ができる事になってしまう。わざわざ東京から来ている事を知っているし、全国行脚を行っているのも知っている現地の心が優しい人たちは、そんな哀れな私の為に食事会を開いてくれるのだ。
 寝かしてくれたほうが嬉しいのだが、そうは考えない親切心から食事会の後には軽く飲みましょうということになる。隣に女性が座る店や正面に座るような店に連れて行ってくれる。

 次の日の予定を聞いてきてくれる人はまだ良心的だ。
 自分が歓迎されて嬉しいと思っている人は、他人も”そう”に違いないと思いこむ傾向があるようで、私にも同じ様な事をしてくれる。

 そのために、寝不足になりながら次の現場でデモを行う事になる。

 複数で移動しているのなら歓迎会に順番で出る事で対処はできるのですが、移動ひとりで行っている。
 私が疲れているのだろうと思って開かれる歓迎会を疲労がピークだからと言って断る事はできない。それも、親切心100%なのだ。
 デモに参加してくれた人たちも居るので断りにくい環境にどんどんなっていく。

 そして、徐々に疲労は溜まっていく。
 ホテルにチェックインして、倒れ込む様に寝ることが多くなる。

 そんな時に覚えたのは、”疲労がピークを越えた先にはねなくても大丈夫という世界が待っている”しかし、その時間は長続きしない。ホテルへのチェックインも覚えていない状態で部屋に入ってドアに寄りかかって死んだようになっていた事が有った。
 ホテルから警察に通報される事があってから、過剰な接待は控えてもらえるようになった。

 人間は眠くなると、思考が停止すると思います。
 しかし、眠くならない為に頭を動かし続けるのは無理なのです。無理なのですが、そうしないと寝てしまいます。
 寝ないために、思考を加速させます。しかし、考える事を続ける事ができなくなった瞬間に人は落ちて気絶したように寝られるのです。

 それを知ったのは、部屋を出てから1ヶ月半後の事でした。
 しかし、こんな状況になっても、この業界を辞めたいとは思わなかった。

 ただ、切実に”今は1時間の睡眠をください”とだけ考えていた。

【初級】ある職場の 1 週間

 私が関わった多くの現場の中で、最強にして最悪な職場が最初に勤めた会社から派遣された部署でした。

 そして、一番楽しかったのもこの現場だったと思います。
 時期は、バブルが弾けたすぐ・・・。世間的には、システム投資をこれから行うと思っていて予算が組み込まれ始めた頃です。

 仕事は途切れる事なく舞い込んできます。

 その部署で作って売っていた物は、一式で買えば1億円程度はする物です。
 それが月に何台かは売れていくのです。実際にはリース契約なのはわかっていますが、羽振りが良くなっていくのは当然の事です。

 世間的なバブルが弾けてからが、IT業界のバブルの開始だったのです。

 そんな部署ですが、上司がいるわけではなかったのです。
 実際にはいましたが、いるにはいました。あぁいましたね。

 部員の数は、私を含めて15名。
 全員が独身者で構成されていました。

 そんな楽しい職場の一週間を覗いてみる事にしましょう。
 注意事項があります。実際の会社でこんな事をしたら首になるでしょう。首にならないまでもかなり怒られます。

 これは、バブル時期という特殊な状況下で、特殊な人物たちが勝ち取った、特殊な環境だと考えてください。

---月曜日
 この会社では、月曜日の|朝1《9:00》に定例になっているミーティングが行われます。
 社員や関係会社の全員の参加が義務付けられています。

 よほどの理由が無い限り、ミーティングに参加する事になるのですが、私が属していた部署の人間は、私を含めて”殆どすべての人間”が、ミーティングに参加しません。参加しない理由は、予定を書いておくホワイトボードにかかれています。

『徹夜明け。午後出社』

 連絡のホワイトボードには、名前の横にかすれた文字で書かれています。
 書くのも面倒になって、印刷した紙を貼り付けるようになっています。

 月曜日の朝から”徹夜明け”である可能性は低いと皆が思うのですが、実際に作業をしていた事を示す客観的な証拠もあるので文句を言ってくるのは事情を知らない上役だけです。

 私達は、午後には出社してきます。
 昼前に入って、昼は食堂に行きます。独身者にとって昼にご飯が低価格で食べられるのは必須な事なのです。

 そして、午後から通常業務を行うのです。なんの問題も無いはずでした。

 しかし、いつの間にか私達に事情を合わせて、定例のミーティングの時間が月曜日の昼2時からになったのです。

 変更されるのはいいのですが、昼2時という時間は他の社員からも不評でした。
 13時から作業を開始して1時間で作業が中断されるのはいいことではありません。そして、昼ごはんを食べて眠くなる時間帯です。それならば、後ろが決まっている時間にすべきなのです。

 上役たちを得意の政治力を使って動かします。こうして、|朝1《9:00》だった打ち合わせが昼2時なって11時に変更されたのです。

 昼前に打ち合わせが終わらないと、部署全体から恨まれるので、上役たちも昼前に終わらせるように努力してくれます。
 早く終われば、10分や15分で業務がなにか進むわけではないので、早めに食堂に移動する事ができます。空いている時間に食堂を使えるので、部署内からも好評になったのです。

---火曜日
 月曜日からの連続勤務です。
 月曜日の11時から火曜日の|25(水曜日の午前1時)くらいまで勤務します。電車がなくなっている事が多いの、そのときには会社の近くにある飲み屋に生きます。その飲み屋は29時まで営業しているので、よく使っていました。

 始発までいる事ができる上に仮眠をとっても問題ないのはこの店だけだったのです。
 店に入って、軽く食事をして飲んで眠いものから仮眠をとる。始発の時間になったら起き出して帰っていく、支払いは誰かがしています。大抵は、ツケにしておいて部署でまとめてお金を集めて店側に渡します。

 多いのは迷惑料でとっておいてほしいと告げれば問題はなかったのです。

 こんな事が続けば、ツケ払いも簡単にできます。でも、部署の人間たちはツケが好きではないので、店長に相談してデポジット式にしてもらったのです。
 もともとは、ボトルキープをしていなかった店にボトルキープを始めてもらって、そのボトルを頼んだときにはデポジットから引かれていくシステムになったのです。これで心置きなく火曜日に飲んで帰る事ができたのです。

---水曜日
 結果的に前日は朝帰りです。
 そのために、水曜日は午後出社です。

 出社時間は問題にならないような仕組みです。
 そういうのも、フレックスタイム制でして、|コアタイム《居なければダメな時間》は13時から15時だったのです。ですので、午後から出社しても仕事が遅れたり客との打ち合わせに遅れるような事がなければ文句は言われません。

 出社時間が遅ければ当然の様に帰る時間も遅くなります。
 終電を逃す事が多くなります。ただ、水曜日は飲み屋が定休日なので、仮眠を取ってから帰るような事ができません。必然的に、職場で作業を行いながら始発を待ちます。

 作業は沢山あります。
 バックオーダーも大量にあり、それらをさばく為にも私達の残業は会社にとってもありがたい事だったので、深夜残業が付いても文句を言われません。早く来て作業をしろと言われた事もありませんでした。
 その結果、基本給を深夜残業代が越えてしまった事がありました。残業代ではありません。深夜残業代だけで基本給を越えていました。基本給が安かったという落ちは有ったのですが、驚異的な金額が振り込まれた事が多々ありました。

---木曜日
 水曜日の結果から、そのまま出社することもありますし、客先との打ち合わせが入るのも木曜日が多いのです。

 木曜日は、土曜日と日曜日のシステムの使用許可を申請する期限でもあるのです。

 土日の申請をしていて、使わなければ文句は来ませんが、申請をしないで使うと文句が来ます。
 開発に使っているシステムが大型汎用機と言われる機械なのです。開発機と呼ばれる物を使っていまして、CPUの利用時間の優先度が割り振られているのです。土日は、それらを顧客の為に使うので、開発に使うメンバーがいると割り振りを変更する必要が有ったのです。
 そのために、申請を行います。
 開発している汎用機なら自由に使えますが、実際にはそれだけでは手に負えない場合があります。その時の為に、申請を行っておきます。外部処理のバッチを流す為に開発機を使う事の方が異常なのですが、外部の情報を処理すると、処理した時間で料金を請求できるので、開発部員が少ないときにはよく行うのです。
 私たちは、それをバイトと呼んでいたのですが、大型汎用機のバイトはよく行われていたのです。

 木曜日は、客先との打ち合わせを行う事が多いので、22時前には帰る事が多くなります。

 早く帰られるのは問題では無いのですが、早く帰られるときに、二人以上で同時に帰ろうとしたら問題が発生します。
 二人以上になったら自然と飲みに行く流れになってしまいます。デポジットをしているので、お金が無いときでも飲み食いができます。そして、先に帰った者が飲み屋にいると解ると徐々に合流して人が増えます。
 4人で同時に帰ると、今度は飲み屋の上にある雀荘に場所が移されます。
 予約なしでも入る事ができる場所なのです。

 1人で帰らない限り、飲みに行くか麻雀をするか・・・。もっと人数が集まってしまうと、ボーリングやダーツなどの遊びにでかけてしまうのです。

---金曜日
 作業の調整に為に、雀荘や飲み屋から出社する事が多い曜日です。
 この職場なのかわかりませんが、職場にはシャワールームもありますし、実際にはあまり使われていませんが、仮眠室もあります。

 笑いながら言った話しで、”無いのは常識だけ”という事が笑い話しになるくらい異常な状態だったのです。

 金曜日には、作業のまとめと報告書を提出しなければならないのです。
 納品が近くなるとチェックがうるさくなるので、うるさくなる前に納品してしまう事もよくあります。

 個人的な作業がない場合やチームで作業が無い場合には、他の部署を訪ね歩いて作業を聞きます。スケジュール次第では手伝いのチームを派遣する事もあります。
 実は、私たちの部署が傍若無人だろうと、大企業の中に有って愚連隊の如く振る舞っても苦情が一部の上役だけしか来ないのは、自分たちの仕事が原因でプロジェクトが遅れたり火を吹いた事が無いことは、当然として他のチームや部署の仕事を率先して手伝って回る事があるからなのです。
 ヘルプを行って他の部署の情報や業務を把握する事がチームの今後に役立つ事がわかっているので、誰も文句は言いません。

 金曜日は、終電で帰ることが多くなります。他の部署にヘルプに出ている者は、その部署の業務時間に合わせますが、|料金(派遣料)が発生するわけではないですし、勤務時間を先方に点けるような事はしません。あくまで、自分の部署の仕事として作業を行います。

---|第二金曜日(土曜日)
 申請しているので、部署内の殆どの人間が集まります。

 実は、この火が部署のミーティングが行われるのです。来ない人が居ても問題はありません。部署内では隠し事がもともとなくミーティングの内容は飲み屋のデポジットの金額や雀荘にあずけている金額の確認などが含まれているのです。
 しっかり仕事の報告会もしていたのですが、定例のミーティングが月曜日の11時行われるようになってから、土曜日のミーティングは部署内の意思確認や作業以外の部分で困っていることがないかの確認になっていました。

 土曜日は、業務を続けるのもいいですし、仕事を行うためのツールやアプリケーションを作ってもいい時間としています。
 業務が遅れているときや新たに入っていそうな業務を先行して行う為に使う事もあります。

 会社側は一切ノータッチです。
 業務で使う為のツールと言っても個人的に作業を楽にする為の物です。土曜日に出てきて作るような類のものでは無いかも知れません。しかし、会社は黙認していたのです。

 実際の所、作成したアプリケーションやツールは他の部署で使用されたりしているのです。

 そして、他の部署でも使用して要望や障害報告が上がってくる事も有りました。業務時間中に作ったものではないという理由で即時対応や使えないと文句を言われたらソース一式を渡して自分で直せという場合も有りました。待ってくれている人たちや要望が納得できる物なら、土曜日に出て来て修正する事にしていたのです。
 土曜日は各々が好きな事をして適当な時間に帰ります。土曜日ばかりは、麻雀にも飲みにも行きません。独り者だけの集団でしたので、洗濯・掃除を行わなければならないからなのです。

---|第三金曜日(日曜日)
 なぜか、日曜日
 職場に出て来ています。それも、夕方位から・・・。
 仕事が遅れている場合には、業務を行いますが、遅れる事は殆どありません。ほとんどの場合は、ツールやアプリケーションの開発です。

 そんな事で、やはり出社していたのです。
 自分で使う為の物を作っているので時間を忘れてしまいます。終電を逃す事も多々あります。そんな時には、雀荘や飲み屋で時間を潰して朝になってから家に帰ります。

 そして、月曜日を迎える・・・。

【初級】遅刻の連絡

 私が経験した”業務以外で”もっとも楽しかった人たちとの現場の話しです。

 この現場では、朝の9:00出社が義務付けられていました。
 フレックスタイムは存在していましたが、事前申請が必要で1週間以上前に理由と出社予定時間を書いた物を、課長と部長に許可を貰って、業務が遅れていない事を証明した上で、フレックスタイムを使った時間を補填する残業予定を書かなければならなかったのです。
 今考えると十分ブラックな状態だったと思いますが、このときには現場で事情が違うので、そういう物だと受け入れていました。

 特に朝の連絡は大変だったのです。
 前の日が徹夜だろうと、8:50までに会社に連絡を入れて、連絡ボードに遅刻理由と出社予定を会社にいる社員に書いて貰わないと、遅刻の連絡をした事にならないのです。IT関連企業に勤めた事がある人なら解ると思いますが、部署やチームで特色が出てきます。
 8:50というのは9:00に業務を開始する場合に、社員が会社に到着し始める時間なのです。

 簡単にいうと、8:45くらいから8:50までしか”遅刻”の申請ができないのです。
 最悪なのは、ここで申請をしておかないと9:01に会社に出社できたとしても、午前中は半休扱いになり、有給休暇が減らされます。振替休日が残っている場合には、振替休日が一日分減らされる事になるのです。

 連絡も、会社に電話を入れて、一言”体調不良で遅れます”で終わりなのです。
 遅刻理由が重要ではなく、遅刻の理由を連絡してきたという事が重要になってしまっているのです。

 わかりますか?
 熱が出て頭が痛くてフラフラした状態での”体調不良”と、前日遊びに行って寝不足での”体調不良”が同じ”体調不良”なのです。
 それだけではありません。電車の遅延も遅延証明を持っていってもダメなのです。遅刻の理由を、電話で連絡して来ないとどの様な理由が有っても認められないのです。

 さて、会社側のことばかりを行ってきましたが、私が居た部署・・・チームは、少し・・・。いやかなり変わった人たちで構成されていました。人数は、10名ほどです。

 業務内容はどこにでもある、社内の何でも屋です。特別な事をしているわけではありません。

 特別なのは、仕事終わりにあります。
 ともかく、いろんな部署やチームや関連会社から客まで、それこそ関わった人たちからのお誘いがすごいのです。

 金曜日の夜は毎週のように違う場所での飲み会に誘われます。
 週末以外にも、ボーリングに誘われたり、やカラオケに誘われたり、関係がなかった業務の打ち上げに誘われる事もありました。違う会社の飲み会をはしごした事も多々あります。

 麻雀大会に呼ばれた事もあります。
 そのために、チームの全員が一通りの遊びができるようになっていきます。なぜ誘われるのかは、業務にも関係していたのですが、顔つなぎ役になっている為に麻雀大会もチームの10名と複数の会社から参加者が来ます。
 そうやって客同士やチーム同士をつなげていたのです。

 そんなチームなので、誘われなくても夕方に時間があれば飲みに行ったり遊びに行ったりします。
 基本的に全員参加ですが強要された事はありません。チームリーダーが強要するのが”大嫌い”だったのです。

 チームリーダーの家で麻雀をしながら飲むことも多くなります。いま思えば安い給料で働かされていました。
 飲み歩くのもいいのですが、お金が続かなくなれば、宅飲みに切り替わります。

 終電を逃して、リーダーの家に泊まる事もあります。
 朝起きて、会社に連絡を入れます。遅刻の連絡です。

 ”体調不良で遅れます”この連絡を入れるだけなのです。
 ただ、約10人が連続でかけます。出社予定もだいたい似通っています。
 電話を受ける方もわかってきます。最初の1人を受けた時点で、チーム全員だろうと予測できます。

 会社のルールとしては、8:50までに電話で”遅刻の理由”を伝えることなのです。最終的に、電話を一度つなげたら、その場にいるチームメンバーが電話口に出て、”体調不良で遅れます。9:30出社予定”と告げます。

 最初の頃は、1人1人電話を切っていたのですが、面倒になり切らないようになってしまったのです。
 最後には、最初に電話した人がその場にいるメンバーの名前を読み上げて”体調不良で遅れます。9:30出社予定”と告げるようなっていきます。意味が無いことがわかっていますが、意味が無いことを強要している会社側の問題でもあるのです。

 暫くそんな日々が続いていました。
 社員を規則という名前の命令で縛って居た人たちは一握りです。その人達が、私たちのチームを呼び出します。

 規則違反だと言い始めたのです。
 私たちは、規則違反をしていません。規則に則って対応しています。

 私たちのチームの解体まで言い出しましたが、チームリーダーは”どうぞ”の一言で終わらせます。
 業務実績が飛び抜けていいのです。業務実績が良ければ何をやってもいいのかと、上役たちは言いますが、そうではないのです。守るに値しない規則ばかりを増やして、会社を規則だらけにして、社員が自分たちの言う通りに動けば実績が上がると思っている人たちに対する嫌味なのに気が付かないようなのです。

 社長まで話が行きます。
 社長は懐の狭い人だったようです。上役の意見を通してしまったのです。

 チームは解散を命じられます。
 リーダーは、10名を集めて経緯を説明してくれます。そして、いろんな会社からの引き抜きが来ているけどどうする?とチームメンバーに告げます。10名とこのチームと連携していたチームの数名が、会社に辞表を提出しました。

 チームが抜けた後で、規則はより厳しくなったようです。
 そして、私たちが他の会社でのびのびと業績を上げているときに、その会社は徐々に生産性が落ちて、新しい発想が生まれなくなって、社長と上役はかなりの額の負債を抱えて飛んだと風のうわさで聞きました。

【初級】約束と言い訳

 とある大手家電系IT企業の部長が|部下(メンバー)たちに向って宣言しました。
”この仕事が終わったら、長めの休暇を取って遊びに行こう”

 メンバーたちは、部長の言葉が自分たちに向けられた言葉だと考えました。

 この会社は、2-3日程度の休みなら部長決済で問題は無いのですが、4日を超えるような長期休暇は人事部に申請を出して許可をもらう事になっているのです。

 この部署の仕事は、主に業務サポートで資料の整理や顧客対応だったのですが、この部長が来てから独自性が必要と言いだして、社内ツールの開発を行い始めたのです。
 社内で使うツールの為に多少荒削りでも問題がなく、皆が喜んでいたのですが、社内ツールを販売する話しが持ち上がって、部長が了承してしまったのです。業務サポートの部署が開発を行いながらツールのビルドアップを行っていくのです。
 2ヶ月間休みが殆ど無い状況で、一日20時間の勤務になる事も有りました。

 メンバーの多大なる犠牲の上に、ツールは完成して無事にリリースとなったのです。
 2ヶ月の過酷な労働と過大は残業時間。懐も温まるし、会社も新しい武器を手に入れて、賞与の増額をトップが約束したのです。

 家族持ちのメンバーももちろんいました。
 2ヶ月後に休みがもらえたら旅行に連れて行くと約束している人たちも多く居たのです。

 メンバーは、人事部に部長の承認済みとして、長期休暇の申請を出すことにしたのです。
 重ならないようにメンバー間で調整をして提出したので、許可はもらえると素直に信じていたのです。

 数日後、メンバーの下に長期休暇が却下された旨の連絡が届きました。
 メンバー全員です。

 メンバーたちは憤慨します。
 部長が承認してくれている事を、人事部が却下するのかと、リーダーが人事部に殴り込みに行ったのです。規則上は、長期休みの場合には部長の許可は必要なく人事部の判断に委ねられます。

 人事部はそう答えるしかありません。

 メンバーも部長に連絡をとろうとしているのですが、連絡が返ってくる事はありませんでした。

 翌日、メンバーは再度人事部に連絡を取り、成り行きを説明したのです。

 人事部は慌てました、自分たちが聞いている話と違ったのです。
 人事部の部長も出てきて、情報のすり合わせが行われました。

 メンバーが聞かされたのは、恐ろしい話でした。

 部長は、1ヶ月の長期休暇に入っている。海外に行くと言っていた、会社としては認められなかったのだが、”部署のメンバーが残るので大丈夫です”と告げていたようなのです。
 人事部の部長から”部長が長期休暇の最中は、部署は人事部預かり”となると説明されました。
 話を聞いた人事部の部長は、メンバーに順番に3-4日の休暇を与える事にしたようです。

 業務サポートを止めるわけには行きません。
 販売を始めたツールのサポートも新たな業務として追加されます。メンテナンスもしなければなりませんし、追加機能の要望に対する返答を行う必要も有ったのです。

 1ヶ月後に、部長が出社してきました。
 リーダーが部長と話をはじめました。個室に移動しようとする部長を呼び止めて、メンバーの前で人事部の人間がいる状況で部長に見解を聞く事にしたのです。

「部長。長期休暇。お疲れ様でした」
「おっおぉ」
「それで、なぜ私たちの長期休暇の申請が却下されたのか、教えていただきたい」
「俺が知るわけが無いだろう?人事部に聞けよ」
「部長は、システムのカットオーバー前に長期休暇の申請をされていますが?」
「当然だろう?予定が有ったのだからな?」
「それはわかりました、それでは、なぜ私たちの休暇の申請をしてくださらなかったのですか?人事部に話を通していただけるはずでしたよね?」
「はぁ?何を言っている。俺は、そんな事は言っていない?」
「いいえ、おっしゃいました。部長は、”この仕事が終わったら、長めの休暇を取って遊びに行こう”と皆に約束されました」
「あぁしたぞ?俺が休むのに、なぜおまえたちの休暇申請を俺がしなければならない?」
「え?」
「もしかして、俺の独り言を自分たちの休暇と勘違いしたのか?」

 ここでリーダーたちは察したのです。
 部長が自分の休みを優先したのだと・・・。言ってくれれば、リーダーたちも反対しませんでした。相談して順番に休めばいいだけなのです。こんな騙すような事に腹を立てているのです。

 この会社の人事部も馬鹿ではありません。
 部署で上司と|部下(メンバー)の休暇申請が重なった時には、|部下(メンバー)の休暇申請を優先します。
 リーダーたちもそれがわかっているので、部長が休むときには自分たちが残ればいいと考えていました。スケジュールを調整して、リーダー同士でも休暇が重ならないように調整したのです。
 それを、部長が休んだ。それも、1ヶ月に及ぶ長期休暇で海外に行くので連絡もできないと言われてしまえば、部署を預かる事になった人事部もリーダーの長期休暇を許可する事ができないのは当然の事です。業務が滞る事を恐れて、メンバーの休暇も却下するsか無いのです。

「わかりました」
「そうだ!今日、専務からツールのアップデートを頼まれて承諾しておいた。良かったな!頼むぞ!」
「え?部長が勝手にやってください。私は、来月付で辞職します。今まで有難うございました。明日から、貯まりに貯まった振替休日と有給休暇を使って2ヶ月の休暇に入ります。あっ私以外のメンバー全員です。それでは!」

 辞職時の休暇は、申請すれば必ず許可されます。
 そうしないと、有給を会社が買い取る事になるためです。辞職も本人の意思が優先されます。部長が交渉する事はできますが、止める事はできません。

 リーダーは踵を返して、自分の席に戻って、自分の荷物をまとめて立ち上がって、タイムカードを切ったのです。
 部署のメンバーもそれに倣います。その場所に居た人事部のリーダーが、事の顛末を人事部の部長も報告します。

 翌日、部長を除くメンバー全員が会社に呼び出されます。
 リーダーとメンバーは、人事部と話を付けていたのです。辞職を留意する条件を提示する|会議(茶番劇)が行われたのです。

 メンバー達の要望は2つ。
・部長の交代
・業務サポートか社内ツールサポートかどちらか一つにする事

 会社は、部長の交代を呑みました。
 もう一つの方は部署の人員を大幅に補充する事でリーダーとメンバーは承諾しました。人員が増えるまでは、社内ツールのサポートを優先する事になったのです。

 その後、部長にとって都合が悪い事が捲れてきます。
 社内ツールの販売は、当初は他の部署から持ちかけられた事になっていましたが、部長が自らの点数稼ぎの為に売り込んでいた事が判明したのです。そこまでは良かったのですが、部長はソース一式を持ち出して他の会社にも話を持ちかけていたのです。背任行為です。
 それだけではなく、|部下(メンバー)が使わなかった保養所の利用権を|部下(メンバー)に黙って申請して使っていたのです。
 他にも、セコい事のオンパレードです部署で使っていないパソコンのパーツや文房具が経費となっていたり、|部下(メンバー)と行った事になっている昼飯の領収書が多数出てきたりもしました。

 金額的には微々たるものでしたし、部長が全額返却したので刑事事件にはならなかったようです。
 しかし、部長の下では仕事ができない事が判明してしまって、新しく|部下(メンバー)を投入する事もできなくなってしまったのです。会社は、部長の1人部署を作成して飼い殺しにする事にしたようです。



 私が知っているのは、ここまでです。
 その後がどうなったのかは解りません。その部長が幸せに過ごしていることを、部長の信じる神と|部下(メンバー)たちが信じる悪魔に祈ることにしましょう。

【初級】趣味・嗜好

 仕事をする上で、メンバーの趣味嗜好はどうでも良いと考えていました。
 そう思わなければ、業界では長生きできません。

 しかし、まったく関心を寄せないのは、仕事をする事ができなくなる恐れがあります。
 趣味は潤滑油くらいに考えていれば問題は少ないと思っていました。

 初対面の人と仕事を急にしなければならない事が多い業界です。
 そのために、面倒な人間関係に悩まされる事も多くあります。

 そして厄介なのがこの業界の人で、多くは無いのですが一定数居るのが趣味の事を聞かれて、パソコンやプログラムと答える人たちです。
 これだけ聞くと変な人だと思われないかも知れませんが少しだけ考えてみてください。
 趣味が”ドライブ”で仕事が”レーサー”だったらおかしいと感じる人は少ないと思います。
 同じような事で、趣味が”マンガを読む”ことで、仕事が”漫画家”ならおかしいと考える人は少ないと思います。

 しかし、この部署の人たちは輪をかけて変わっていました。

 ある人物は趣味で”プログラム”を休日にしています。
 その人物の日常は変わっているだけではなく部署の人たちが変わっていたのです。

 まずは、その人物の日常は、仕事でプログラムを作っています。趣味ではなく、仕事なので当然の行為です。趣味で作っているプログラムの完成度も高くて、シェアウェアとして公開していて、定期的な収入につながったりしているのです。
 会社も黙認していて、その人物は副収入を得る事ができているのです。それだけではなくて、その趣味で作っているプログラムに来た話を、会社に振って会社が仕事として受けて、その人物に流したりしているのです。
 もうよくわからない状況に鳴っていたのです。

 1人は趣味のプログラムが仕事に密接に結びついたのですが、他の人物も問題がある趣味を持っていました。

 その人物は、ツーリングを趣味としていたのです。
 そこまでなら問題は無いと思うのですが、趣味の時間を作るために、部下に仕事丸投げするのです。なぜ自分が課長待遇になっているのか?仕事の割り振りする権限を貰っているのかを考えて居ないのです。部下たちを、趣味の時間を作るための道具程度にしか思っていないのです。
 それだけなら、ただの迷惑な上司なのですが、他人の趣味を馬鹿にするくせに自分の趣味を馬鹿にされると切れる厄介者なのです。これなら、趣味がプログラムほうが”まし”に思えてしまうのです。

 そして、厄介な事にこの部署には、この人物以外にもうひとり、趣味をツーリングとしていた人が居たのです。上司は独身男性で噂では童貞35歳年齢=彼女なし。もうひとりは、部下の女性で、年齢=彼氏なしの30歳だったのです。
 こじらせてしまった上司は、誰の目から見ても解るくらいの贔屓をし始めたのです。

 自分の趣味を否定された挙げ句に、上司は1人の女性を明らかに贔屓する。

 趣味ゲームを明らかに馬鹿にする。趣味ダイビングの男。
 そんな奴らが集まった部署が長続きするわけがありません。

 趣味は趣味です。しかし、趣味を他人と比べたり、趣味の為に自分の業務を疎かにするような人たちは嫌われてしまうのです。

 部署は解体。
 ツーリングが趣味だと言っていた上司は、会社を辞めた。皆からの冷たい目線に耐えられなく鳴ったようだ。
 女子社員は贔屓されている事を解っていながらそれを甘受していた。その後、上司とは別の人と結婚して退社した。その後、すぐに未亡人となり戻ってきたが、もうかばってくれる上司は居なくて、仕事ができない邪魔な存在としてすぐに会社を辞めていった。

【初級】ケーキ持参

 この業界は、甘党が一定数存在する。
 私も甘党の1人である。

 甘党と言ってもいろいろな種類の人が居ます。自分の基準が普通で、皆がそうだと思って行動している人がいました。
 ケーキが大好きで、昼飯に20cm超えのホールケーキを食べる人がいました。そして、少し残念な事に、この人物は頭のネジが数本入れ違いになっているのか?なくなっているのか?原因はわかりませんが、昼飯にホールケーキを食べるのは”普通”だと思っていたのです。

 そんな人物なのですが、困った癖も有ったのです。
 仕事で行き詰まったり、上司に怒られたりすると、自傷行為では無いのですが、自分の腕をナイフやカッターで斬りつけるのです。リストカットではありません。皮膚を切るくらいなので、血が滲むくらいなのですが、周りから見たら不気味な状況である事は間違いないのです。それを、会社の給湯室やトイレで行うのです。

 何度か、その現場を”上司”と見た事がある人は、”またか”で終わるのですが、その時は少し事情が違っていました。

 その人物=矢島(仮称)としましょう。

 矢島さんが、腕を切っていた場所は、会社の給湯室だったのです。
 またタイミングが悪い事に、その年にはいった新人が研修明けで戻ってきていたのです。

 1人の女の子が、矢島さんに気がついて、気を利かせて”手当”をしようとしたのです。手当をしたわけではありません。”手当をしましょうか?”と声をかけただけです。その女の子は、新人の中でも可愛いと言われていた子でした。
 私たちも気がついて、女の子を止めようとしました。手当の必要がない事や、矢島さんのもう一つの悪い癖が出てしまう事を恐れたのです。

 しかし、そのときにはもう遅かった。手当をしようとした行為だけで矢島さんには十分だったのです。

 完全に惚れしてしまったのです。完全にのぼせ上がってしまったのです。

 普段、仕事以外で女性と話をしない人が、女性から声をかけられて、その子が可愛い女の子です。”大丈夫ですか?手当をしましょうか?”の言葉だけで十分だったのです。このときに、全てが始まって、全てが終わってしまったのです。
 その場に居た事情を把握している者たちは頭を抱えます。

 会社が新人の女の子と矢島さんのどちらを優遇するのかはわかりきっていました。
 新人の女の子が辞める事になるだろうと・・・。矢島さんは、悪い癖があるし、人間的にも問題がある人ですが、仕事の面。それも、とある汎用機のエミュレータを使った|試験(テスト)では、右に出る人が居ないというほどの人物なのです。名指しで仕事が来るような人を会社が擁護しないわけありません。
 1人で2~3人分くらいの仕事量を平気でこなしているのです。多少の問題が有っても、会社が手放す理由がありません。モンキーテストなのですが必要なテストなのです。

 そんな矢島さんが惚れてしまった新人の女の子は、悪いことに会社の寮に住んでいたのです。それほど大きな会社ではないので、実際には寮が有るわけではなく、マンションを数戸借りている状況だったのです。
 簡単に言えば住所がすぐに解ってしまう状況だったのです。

 矢島さんがストーカーになるような事が無いように皆で監視していました。
 監視期間で、多少の問題行動は有りましたが、ストーカーにならなかったので、皆が胸をなでおろしていました。経験から、矢島さんは3ヶ月くらいで熱が冷めてしまうので、仕事が忙しくなってくると仕事を優先します。そして、今週を乗り越えれば来週からテストが始まるので、矢島さんはフル回転になるはずです。その間は大丈夫となるのです。そして、テスト期間が終了すれば、女の子の事も忘れてくれていると思えるのです。

 しかし・・・。木曜日に事態が動きました。
 女の子がなれない業務から体調を崩して熱を出して休んでしまったのです。矢島さんは、その事実を知らないはずでした。来週から始まるテストの打ち合わせの為に、現場に出ていたのです。

 金曜日になっても女の子は体調が悪い状態が続いて、無理をすれば会社で出てこられると言っていたのですが上司の命令で金曜日も休む事になったのです。

 その会社はタイムカードで出欠を管理していませんでした。
 プログラムで管理していました。出勤場所が変わる人が多いために、タイムカードは無駄になってしまうからです。誰が休んでいるのか、誰が現場に出ているのかは、簡単に判明しません。
 私たちは勘違いしていました。新人は現場に出ないので、社内で作業をしているので、所属が決まるまではタイムカードが支給されるのです。そして、女の子もタイムカードを使っています。矢島さんは、女の子のタイムカードが押されていない事に気がついてしまったのです。

 そして、私たちが仕事をしている時に、財布を持って外出してしまったのです。

 私のデスクにある電話が鳴った時に、矢島さんの姿がない事に気がついたのです。
 この電話は社員しか連絡してこない番号です。朝と夕方はかかってきますが、昼過ぎにかかってくる事は多くありまえん。

 私が電話に出ました。
 女の子からでした。

「体調が少し良くなって、食事に出かけようと思ったら・・・」
「どうしました?」

 かなり怯えている様子です。

「や、矢島さんが、マンションの前に、部屋の前に・・・居ます」
「え?」
「なんか・・・ケーキが部屋の前に置いてありました・・・。怖いです。どうしたらいいですか?」
「え?」
「ああああぁあ・・・上がってきました。ドアの前で、ドアの前で立っています。怖いです。怖いです。どうしたら」
「わかった、今から行く、いい。絶対に部屋の中に居て、外に出ないようにして!」
「はっはい。はい。絶対に出ません。早く来てください。あぁぁなんで、ドアの前に居るの!!」

 インターフォンを押すわけでも、ドアを叩くわけでもなく、ドアの前に立っているようです。
 インターフォンのカメラの前でただ、立っているだけのようです。

 私たちは数名ですぐに女の子の寮に駆けつけます。
 10分くらいで到着できます。

 矢島さんは、チャイムを押すわけでもなく、扉の前に立っていたのです。
 なぜ、そんな事をしたのかわかりません。女の子の部屋の前で、私と数名が目撃したのは衝撃的な光景でした。

 矢島さんは、推定体重150kgの巨漢です。しかし、身長が150cmを少し超えるくらいなのです。その人物が、扉の前で大きな大きな花束とケーキと思われる箱を1つ持って(2つは足元に置いてありました。3つ買って持っていったようです)立っているのです。
 ニコニコするのでもなく、真顔で・・・ただ立っているのです。直立不動です。微動だにせずに、ただドアを見つめながら立っているのです。
 そして、ケーキを切るために必要になると思ったのでしょう、花束を持っている手には、剥き身になっているナイフが握られていました。

 あの当時でも、私たちが発見しなければ警察が呼ばれる案件です。
 私たちが駆けつけて、矢島さんを確保して、女の子は体調が悪いから、矢島さんが居ると落ち着かないから帰りましょうと言って連れ帰りました。それから、二度とこんな事をしてはダメだと言い聞かせます。解ってくれたとは思います。

 確認する必要がなくなってしまったのが残念です。
 女の子は、週明けに辞表を提出しました。会社としては違う部署に移動を提案しましたがダメでした。そこで、協力会社に移動する事になったのです。女の子は、その会社でしっかり仕事をしていると話を聞きました。寮もしばらくは使っていいという事にしたようです。

---後日談
 なんで、矢島さんはチャイムを鳴らしたり、ドアをノックしたり、しなかったのでしょうか?

 本人に聞きました。
「体調が悪くて寝ていると、チャイムやノックは迷惑になると思ったから、起きて物音がするまで待っていようと思った」
 だそうです。

 矢島さんは、ケーキを3ホール持っていったのです。
 1ホールくらい食べるのは普通だから、体調悪いときには甘い物が欲しくなる。だから、ケーキを3ホール買っていったという事です。花束は、お見舞いだから、花束は当然持っていく物だと思っていたそうです。

 何かが間違っていると思うのは、私が愚かなだけなのかもしれない。
 そう考えさせられる事件でした。

【初級】存在意義


 IT会社には悲しいすれ違いから産まれる喜劇があります。
 この話しも、そんな悲しいすれ違いから産まれた喜劇です。

 私の勤めた会社に、前園という某サッカー選手と同じ名字を持つ男性がいました。
 本人の自己申告なので、どこまで本当なのかわかりませんが・・・
 彼曰く
 ・小中高校と主席だった
 ・主席だった為に、友達が居なかった
 ・旧家なのでそこそこの資産がある
 ・兄が居て、兄が跡継ぎになる事が決まっている
 ・兄に疎まれて家から出て生活している
 ・バイクの腕には自信がありレースに出た事がある
 ・大学生の時にレースにはまって彼女を作らなかった

 前園氏という男は、自分を売り込むのが下手なのかもしれないと思った。
 酒の席で、素面の状態で言われても、酔っぱらいが正確に反応できるはずがない。

 真実がどこに有るのかわかりませんが、唯一わかる事があります。友達が居なかった事と、大学時代どころか30半ばになるまで女性とも男性とも付き合った事がないという事です。
 これは、酔っぱらいが直接聞いて確認しているので間違いないでしょう。

 対人スキルが低い前園氏なのですが、自分が童貞だという事を頑なに否定します。
 実際に経験があろうがなかろうが、別に仕事上は問題はありません。しかし、童貞である事は否定し続けます。これに関しては、後日わかった事なのですが、童貞であったのは間違い無いようです。ただし、会社に入ったばかりの頃に、客に”おっぱいパブ”に連れて行かれて、そこで経験したと言いはったのです。店の名前を聞くと、本番をしているような店ではなく、|()|()なおっぱいパブだったので、嘘である事がわかったのです。

 前園氏にも春が訪れようとしていました。
 会社が新しい部署を作って、その部署のリーダーに前園氏を指名したのです。まだ本格参入の前段階の実験的な部署ですが、優秀だと自分で思っていた前園氏にとっては千載一遇のチャンスだったのです。
 なんと言っても、部署のメンバーは3名を除いて、自由に決めていいと会社側から言われていたのです。
 立ち上げ当初は部署のメンバーは前園氏を入れて6名になる予定です。

 1名は前園氏
 もうひとりは、この部署の営業を務める人物。もうひとりは、この営業を務める人物が他の部署から引き抜いてきた私。
 この3名は決定していたのですが、他3名は未決状態だったのです。

 そこで前園氏は、元いた部署に話をして人を回してもらおうと考えたのですが、人手不足な部署なので回せる人が居るわけではありません。
 前園氏は何を思ったのか、元々の部署で部下だった者を強引に引き抜いたのです。

 その部署のトップは、営業と私と仲が良かったので、前園氏の行いを苦情という形で受理したのですが、私がその部署のヘルプを行う事で矛を収めてくれたのです。それを、自分の手柄だと言い始める前園氏。この辺りから、かなりウザくなってきたのです。

 部署の立ち上げから1ヶ月も経とうとしている時に、あと二人も決まったのです。
 しかし、両者ともその部署で戦力になるとは思えません。いろいろ前園氏は言い訳をしていたのですが、1人は新人の女の子。もう1人は、前園氏の違う部署に移動になった元部下だったのです。

 そして、残念な事に前園氏は、対人スキルも皆無なので、対女性への対応もできない状況なのです。

 まず、新人の女の子を贔屓し始めます。
 当然です。何もできない子を引っ張ってきた人に責任を取ってもらうのです。しかし、それが裏目に出てしまいました。新人の女の子は、自分が贔屓されている事を認識して、前園氏にやめてくださいというのですが、前園氏はそれが本心からなのか、私たちがプレッシャーをかけたからなのか判断できません。
 そして、私たちが新人の女の子にプレッシャーをかけていると判断して、私たちに辞めるように”皆の前”で説教を始めるのです。

 唯々諾々と営業と私は話を聞いています。何を言っても無駄なのはわかっています。
 最後には、自分が如何に新人の女の子をフォローしていたのかを語りだしたのです。逆効果だという事がわからないのでしょう。

 翌日、新人の女の子は、営業と私に詫を入れて、前園氏に辞表を提出したのです。

 前園氏は引き留めようと必死です。
 別の部署の部長が出てきて、辞表は撤回させて、新人の女の子を引き取る事になったのです。後で話を聞いたら、営業が裏で動いたようです。その時の貸しが高くついたのですが、それは別の話です。

 前園氏は、自分が悪いとは一切思っていません。
 自分の事は優秀な人間だと思っています。確かに優秀な人物だと思います。1人で行う仕事はそつなくこなします。ただ、何度も書いていますが、絶望的に対人スキルが無いのです。従って、私や部下に仕事を出す事がうまくできないのです。
 そして、先の新人の女の子に対する事でわかったのですが、人の気持ちを汲み取る能力が著しく欠落しています。残念な事に、これは前園氏だけの現象ではありません。IT業界で優秀だと言われる人ほど、この現象が現れます。
 そして、決定的なのは、優秀だと思われる人や優秀だと思っている人ほど、人との交流が少なくなっていきます。そして異性との出会いも極端に減っていきます。

 童貞で、年齢=彼女いない歴で、仕事は優秀で、人付き合いができなくて、対人スキルが欠落している前園氏ですが、好きな人ができたのです。
 そう、この部署には前園氏を除いて、妻子持ちの営業。彼女持ちの私。同じく彼女持ちの部下(私から見たら先輩筋)。そして、前園氏の元部下の女性です。

 前園氏は、前にも書いたとおり仕事に関しては優秀だと言える能力を持っていました。ですので、前園氏さんが選んだ道は女性に1人では難しい分量の仕事を割り当てることなのです。そうする事で、女性の手に負えない仕事を、前園氏が手伝って頼りになるところを見せると言う状態を作り上げようとしたのです。

 前園氏らしいアプローチです。この作戦は一見うまくいきそうだったのですが、大きな誤算が発生したのです。
 前園氏もかなりの分量の仕事を持っていたのですが、無理にできる男を演出しなくても、しっかり仕事をこなしていれば十分だったのですが、自分が考えた演出の為に、手伝ってあげる行為が必要になり、手伝ってあげる事で自分の価値を上げようと考えたのです。

 嬉しい誤算もありました。それは、二人だけの残業時間が増えたのです。他のメンツは、私を含めて、人の仕事を手伝って残業するなんて馬鹿らしいと考える人間でした。人の仕事を手伝うという発想は持ち合わせていません。私たちは、リーダーがそんな感じなので好き勝手始めます。出社時間もあやふやになって居て、夕方から出勤して、次の日の朝まで作業をする様な事を行い始めます。しかし、前園氏は女性と二人っきりに慣れる時間が増えると思って容認していたのです。

 前園氏は、女性と二人っきりになる、幸せ時間を手に入れたのです。

 しかし、この幸せは、別の幸せを呼び寄せていたのです。
 女性は、仕事が多くて、残業も多くなって来て、上司(前園氏)は手伝ってくれるのだが、上司が担当している仕事が多いのはわかっています。思い悩んだ女性は、別の部署に居る同期に相談したのです。相談した事は問題にならなかった。当然ながら相談された同期は仕事の内容に関しての助言はできません。やっている事が違うので当然です。しかし、前園氏や女性が担当している仕事の配分が傍目にも異常な事はわかります。それを、その同期は先輩筋にあたる営業に相談したのです。そして、営業が乗り出して問題ない分量の配分にしてしまったのです。

 そして、発生した悲しいすれ違い・・・。

 前園氏は、自分の存在意義を求めて、女性の仕事を増やした。自分の存在をアピールしたかった。
 しかし、女性は、そんな前園氏さんを見て、自分の存在意義を考えてしまったのです。考え抜いた結果、別の部署に居る同期に相談してしまったのです。

 そして、その女性は、自分の存在意義を、前園氏の部下としてよりも、同期の恋人への存在意義にかけかえてしまったのです。あとでわかった事ですが、この女性は年齢=彼氏なし。本人申告の処女だったのです。そして、相談された同期も同じく年齢=彼女なしの童貞だったのです。

 女性は、前園氏の恋心には気がつかないまま、同期の恋人としての存在を確固たる物にしてしまったのです。

 その後は、|可哀想(笑いをこらえるのに必死)で見ていられませんでした。

 仕事中に聞こえてくる二人の会話が痛々しくてたまらないのです。

 特に前園氏が痛々しくて・・・。仕事中には止めてほしかった。

 同僚は、笑いをかみ殺して、私に詳細に会話の内容を教えてくれました。

 この時点になって、前園氏は、アプローチ方法が間違っていたことに気がついたのです。でも、すでに手遅れだったのです。
 そして今まで(本人曰く)挫折を知らない人だったので、自分の恋心を隠そうとしなくなりました。自分がこんなに好きなのだから、相手も優秀な自分を好きになるはずと思っていたようです。
 しかし、女性は 同期への愛情が体中から溢れ出ています、前園氏の言葉には耳を傾けようとはしていませんでした。

歴戦の勇者~IT業界の裏話~

歴戦の勇者~IT業界の裏話~

ラノベ史上一番転移/転生者が多い職業が、IT業界では無いでしょうか? そんな異世界転生が多い業界ですが、歴史はそれほど古くありません。 そんな浅い歴史でも、楽しい人や、愚かな人や、残念な人・・・。そして、哀しい出来事が多く発生しています。 IT業界で働くことを夢見て、門を叩く人は多いだろう。現実を知った時には抜けられなくなっています。 プログラムを生業にしている人物が”経験”した事柄をベースに書いていきます。 あくまで、これらの文章は”小説《フィクション》”であり”小説《想像の産物》”です。

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更新日
登録日 2021-01-01

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