「飛行機」

天からのみ望める地上の景色を見るために
僕は飛行機に乗りたい
だが忌々しいゲートがピーピー鳴って
一向に通してはくれないのだ
審判面した検査官は
探知機を全身にあてた後
ゲートへどうぞと通してくれたのに

あの性能のすぐれたゲート!
僕はまた順番待ちで
後ろへ戻って待つしかない。

検査場では絶え間なくブザーが響き続ける
探知機にはひっかからないのに
ゲートが誰もくぐらせない

しびれを切らした一人の男が
ブザーを無視してゲートを通過した
検査官の耳に音が届かないのか
その男には見向きもせずに
「次の人どうぞ」と手を上げて
自分の持ち場を守るだけだった

ブザーは飾りだったのか!!
それなら僕もあの男と同じように
無視を決め込み進んでやる
そうして耳障りなブザーを全身に浴びつつ
何食わぬ顔で
あっさりくぐり抜けられたのだった

念願の搭乗ゲート!!
なのに滑走路にも
駐機場にも
飛行機は一機も見当たらないのだ
代わりにあるのは乗用車ばかりで
ここは本当に空港なのか

唖然としている僕に向かって
CAは優しさをこめた職業的な声で
目的地まで自分で運転してくださいと
僕を車の運転席へと誘導してくれた

信号待ちで外を眺めると
エンジン音を轟かせて
飛行機は空へと向かっていった

僕は確信している
あの空港から飛び立つ「飛行機」に
人は誰も乗れないのだと。

「飛行機」

人は、空を飛びたかったんだよなぁ

「飛行機」

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-05

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