ボブとリサ/リサ_ケース2・下着を脱ぐ女

リサ_ケース2/下着を脱ぐ女

 
 リサは酔うと下着を脱ぐ癖がある。
 成り行きで男と寝てしまうという意味ではない。
 文字通り、リサは酔っ払うとショーツを脱ぐのだ。
 いつから始まった癖なのか、本人にもわからない。
 彼女はこの癖を知人の誰かに話したりもしていない。
 自分だけで楽しんでいるのだ。
 場が盛り上がり酒が回ってくると、リサはレストルームに向かう。
 そして、個室に入りショーツを脱ぐ。
 パンティストッキングを履いているときは、一度ショーツを外して、ストッキングを身につける。
 何というか、それがリサのこだわりなのだ。
 気に入ったショーツは小さく折りたたんでバッグにしまう。
 たまに気前よく、ゴミ箱に叩きつけるように捨てた。
 レストルームにリサの他に誰もいない時、ショーははじまる。
 彼女は洗面台の鏡の前に立ち、スカートの裾をせり上げてみせる。
 セクシーに唇を半開きにして、リサは自分の姿をくまなくチェックする。
 彼女のアンダーヘアはきれいに手入れされている。
 それは誰のためでもなく、自分が自分の美しい姿を楽しむためだ。
 おもむろにターンし、前かがみになっていきバックから性器を鏡に映し出す。
 ポールダンサーのように、リサは腰をゆっくりと回し、長い髪をかきあげる。
 そうしてリサは気が済むと、身だしなみを整えて颯爽と席に戻っていく。
 そこからのリサは、まるで変身したかのように華麗に立ち回る。
 ショーツを履いていないという秘密が、彼女の心を解放させ奔放に振る舞わせるのだ。
 酔っ払いのリサは魅力的だった。
 ユーモアがあり、大胆で、それでいてよく気が回るのだ。
 花びらのような赤い唇を開いて、リサは豪快に笑った。
 
 さて、場はお開きになった。
 時には男性から誘いかけられることもあったが、リサは一切断った。
 そのことが女性たちの好感を集めた。
 リサとしては、ただ仲間内で、下着を履いていない淫乱女とウワサされたくないだけのことだったのだが。
 しかし、それでかろうじて節操が保たれているのだ。
 
 皆と別れた後、リサはふと気が向いてバーに立ち寄った。
 店は空いていて、カウンターの奥の席に男が一人で座っていた。
 リサはヒールの音を響かせて男に近づいていった。
 「一人?ここいいかしら?」リサは男に声をかけた。
 普段、しらふのリサからは考えられないことだ。
 会社でのリサは控えめで人に気を使ってばかりでとても大人しいのだ。
 だからこそ、変身したリサを面白がって、仲間たちによく酒に誘われるということもある。
 「歓迎するよ」
 男はスツールに置いてあった自分の荷物をどけて、リサに席を譲った。
 リサは短いスカートでスツールに深く腰掛け、辺りの景色を見渡した。
 初めて来る店だったが、上品で落ち着いた雰囲気のいい店だった。
 隣の男もきちんとした身なりをしていた。
 「何を飲む?」男が言った。
 「ごちそうしてくれるのかしら?」リサが男の出方を試すように言った。
 「いいよ」男が言った。
 「じゃあ、あなたのおすすめのもので」
 男はバーテンを呼ぶと、慣れた様子でリサの飲み物を注文した。
 この店にはよく来ているようだった。
 
 男は話題が豊富で、リサをよく笑わせた。
 リサはいい気分になり、二人は盛り上がった。
 赤の他人ということもあり、リサは例の秘密を打ち明けることにした。
 男は目を丸くして、驚いたふりをしてくれた。
 「それでね、これをあなたに買ってほしいの」
 リサはハンドバッグの中から、小さく折りたたまれたショーツを取り出し、男の前に差し出した。
 カウンターの上に置かれたそれは赤いレースが施され、薄い台形をしていた。
 「何だい、これは?」
 「だから例の何よ」リサは男に微笑んでみせた。
 「いくらで?」男は試しに聞いてみた。
 「そうね。$50でどうかしら?」
 「ずいぶん大きく出たな。買うともれなく君が付いてくるの?」
 「まさか!私はそんなに安くないわ」
 「じゃあ、やめた。僕はこれの中身に興味があるんだ」
 男がそれを指ですべらせ、リサの前に差し戻した。
 「ねえ、聞いて。これってとっても素敵な品なの」
 リサは熱心にそのショーツについて語りはじめた。
 ランジェリーショップで出会った時、運命を感じたこと。
 その素材と履き心地。
 いかに自分の体を魅力的に魅せてくれるか。
 そして何人かの異性と過ごした夜をいかに素敵に演出してくれたか…。
 男はリサの熱を帯びた話にあっけにとられた。
 「これって、ただの下着なんかじゃない!最強のラッキーアイテムなんだから!」
 リサがそう絶叫すると、男は大声で笑いだした。
 「こりゃ、すごい。わかった。わかった。その下着を買わせてもらうよ」
 胸の内ポケットから財布を出そうとする男の手をリサは制した。
 「いいの。冗談なんだから」
 「そう?」男が不思議そうにリサの顔を見る。
 「ねえ、酔っ払っている時の私って、最強なの。いつもこんな感じで営業ができたらトップセールスレディも夢じゃないんだけどな」
 リサがしょんぼりとカウンターに頬杖をつく。
 「だったら、今度営業に行くとき、下着を脱いでいったらいいよ」男が言う。
 「そうかもね」
 でも、いつものリサは本当におとなしいのだ。

ボブとリサ/リサ_ケース2・下着を脱ぐ女

ボブとリサ/リサ_ケース2・下着を脱ぐ女

日常のあるあるをシニカルに描く「ボブとリサ」シリーズ。 リサ_ケース2・誘いー酔うと自由奔放になるリサ。彼女には酔っ払うとしてしまう秘密があった、、。

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-10-02

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