ボブとリサ/ボブ_ケース1・誘い
ボブ_ケース1/誘い
ボブは今日、自分のことが誇らしかった。
飲み会の席を早めに切り上げてきたのだ。
「もう少しいいじゃないか」
「久しぶりに会ったんだ。たまには羽目を外して朝まで盛り上がろうぜ」
いつものボブだったら、何だかんだ友人の誘いに付き合うのだ。
そして次の朝には死ぬほど後悔する。
今度こそ早めに切り上げて帰ってこよう、とボブは心に誓う。
けれど、酒の魔力がボブの決意をやすやすと押し流してしまう。
しかし、今日のボブは違っていた。
それはある本に出会ったせいだった。
そこには、自分の人生は自分で創造することができるのだと書いてあった。
そのためには、理想の自分を思い描いて、行動を決めるのだと。
今のボブは理想の自分からは程遠い。
ボブはつねづね思っていた。
確かに友だちは大切だ。
しかし、このだらけた付き合いに何の意味があるのか。
酒を飲めば、記憶の半分以上は消えてしまう。
そう考えるとボブは、すいぶん多くの金と時間を無駄にしてきたように感じた。
「今日はこの辺で帰るとするよ」ボブが言うと、仲間たちは「またまたー」と言いながら彼に寄ってきた。
ボブを説得するためだ。
けれど、とにかくボブは店を出たのだ。
頬に当たる風が気持ちよかった。
足取りも意識もはっきりとしている。
ボブは自分のことが誇らしくてたまらなかった。
部屋に戻るとボブは、まるで儀式か何かのように丁寧に、眠りにつくための身支度をはじめた。
意識があることがうれしくて仕方ないのだ。
ベッドに上がり、布団の中に足を滑り込ませると、優越感に浸りながらボブは思った。
「今頃、あいつら何をしているかな。どうせ、いつものようにくだらない話をしながら呑んだくれているのに違いない」
ちょっと冷たかったかな、ボブは自分のとった態度を少し反省する。
その途端、後悔の念が押し寄せてきた。
もう、誘われなかったらどうしよう。
いや、俺はあいつらと縁を切って、人生を変えるのだ。
いや、もしかして俺は今夜、何かとんでもない情報を取り損ねたのではないか。
いや、そうじゃなかったとしても、何かの発展のきっかけぐらいにはなっていたかもしれないじゃないか。
そう思うとボブは、人生を変える重要な分岐のチャンスを取り逃がしたような気になった。
あいつら、俺をのけ者にして今ごろ笑っているに違いない。
ボブは布団から飛び起きた。
とても眠っていられるような気分じゃなかった。
そして携帯電話を握りしめると、何でもいいから誰かから連絡が来ることを祈るのだった。
ボブとリサ/ボブ_ケース1・誘い