令和の大不況。無職になった若者たちの行く末は…

なおち

  1. タイトルで各キャラの紹介 ①飛鳥(あすか)ルナ 
  2. 寺沢(てらさわ)アツト 21歳。 学業に不満を持つ大学生。
  3. 水谷(みずたに)カイト 28歳。 政治に強い不満を持つ無職
  4. 飛鳥アリサ。28歳。旅行代理店の退職を検討中に、とある思想に出会う。
  5. 飛鳥トオル 59歳。革命的思想を内に秘める男。離婚調停中。
  6. アツトは愛に別れてほしいと言われてしまった。
  7. 川村アヤ 15歳。中学生の時から共産主義に目覚めた。
  8. アヤは学園で高野ミウと会った。
  9. 高倉ユウナ。学園の教頭。訓練兵の孤島への移送を計画する。
  10. 鉄人28号で審議中の国会議事堂を襲撃する。
  11. 自民党を代表する悪党、首相を捕虜にした。
  12. トオルは男の訓練兵たちと脱走しようか考えた。
  13. アリサもカイジの顔になって悩んだ。
  14. 日本国政府は、赤狩りを実行した。
  15. ユウナは最大の過ちに気づいた。
  16. 高倉アユミは小雨の中、傘をさして立っていた。
  17. 高倉ナツキは裏切り者の正体を知った。
  18. 日本が栃木を攻撃しようとしている。
  19. アユミの病院へ爆弾が降ってきた。
  20. 高倉ユウナは結婚式当日を迎えた。

リーマンショック以来の大不況が全世界を襲った。
今次コロナ災厄が小説の世界で発生した状態で
自民党が暴走し、国民から生命と財産を奪ってしまい、
ついに国民の不満が爆発したらどうなるのかを想像する。

(答えは…共産主義革命 (⋈◍>◡<◍)。✧♡)

尚も続く自民党政治への不満、不審。
政府は財政赤字がヤバイと言いながら、貧富の差は極限にまで達し、
一部の政治家(それと国家公務員全般)や資産家のみが得をしている。

オレオレ詐欺、自宅訪問型の詐欺、押し入り型の詐欺(ただの強盗)
電子決済詐欺、(セブンペイ、ドコモの決済口座)
郵貯とかんぽ生命による保険金詐欺(被害総額は現在も捜査中)、
『森かけ問題』や『さくらの会』による税金の私物化(自民党)
ジャパンライフによるマルチ商法詐欺(被害総額2300億)

サギ事件が横行する令和の日本。
国民が真面目に働いて溜めた預貯金は、
明日にも他人や自民党のお小遣いとなってしまうかもしれない…

無限に続く……恐怖!!
明日も分からぬ……不安!!

詐欺グループ (*^▽^*)
「令和の日本では、真面目に働いてお金を得るのが馬鹿らしくなる時代です!!」

増え続ける財政赤字 ☆彡 

自民党「コロナ対策で150兆の予算が必要だ!!」
 
  お金がない? なら国債発行だ!! 急げ (੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

(*^▽^*) 日銀は政府が発行した国債を買い続け、貨幣の供給力UP☆
  
   ★残念、これが量的金融緩和なのです★

相場変動制では… お金の価値は、中央銀行が実質的に管理している。
貨幣の価値は『市中に供給されたお金の量』に応じて変動します。

( ゚Д゚) このままではぁ…『インフレ率』がぐんぐん上がる↗ Σ(゚Д゚)

(∩´∀`)∩ 米国FRBのパウエル議長
        →『★インフレ率2%以上の上昇を容認しちゃうよ★』
    ★2020/9月某日のジャクソンホールの会合にて★

  これは、『致命的』なレベルまで量的緩和を継続することを
  意味している。つまり米政府は今後しばらく(たぶん3年先まで)
  借金しまくる(お金をすりまくる)ことを意味している!!
  
 世界のリーダー米帝国ですらヤバイ状態だ!! 
  もちろん日欧豪など各先進国の中央銀行も
  似たようなことをしていて、非常にまずい状態だ!!
   ヽ(^o^)丿\(^o^)/

毎年の春闘、最低賃金の引き上げ、だけど無駄な努力。
賃金の上昇は、物価の上昇に追いつけず、
実質賃金は下がり続ける↓↓ (;゚Д゚)

さらに高額な税金が追い打ちをかけ、
コロナによる潜在的失業者は数百万を超えることだろう。

現実世界も上記の通りの地獄と化しているわけだが、
金も地位もコネもない若者たちに
とって地獄のような生活が今後も一生続くのかという、
若者たちの怒りと苦悩を、日本国の革命のために費やす物語だ。

決められた主人公はいない。
各登場人物の姿にスポットを当てる群像劇として描く。
物語は各人の一人称で進んでいく。
ちなみに登場人物は結構多い上に、よく考えないで
作ったので作者もあまりよく把握してない。
たまに登場人物の名前を忘れたりする。

キーワードは、
「共産主義」「暴力革命」「強制収容所」
 またしてもソ連的な要素満載の作品である。

前作『学園生活』『学園生活改』に続く内容の作品となる。
基本的にはオリジナルキャラを中心としつつも、
学園生活に登場したキャラクターもたまに登場する。
興味のある人はそちらも参照していただきたい。

そこに、前作『令和10年、兄妹たちの物語~』の要素も加え、
最終的に作中の舞台となる栃木県の平均賃金が時給で140円まで
下がる中で、物価だけは変動しない地獄の社会で、労働者と農民が
反政府戦力として本気で蜂起したらどうなるかを描こうと思っている。


作中では、暴走した若者たちによる事件が多発する。

『暴行』 『市役所にサイバーテロ』 『誘拐』『拉致、監禁』
『自白を強要するための拷問』『化学兵器の製造、密輸』

グロ、サスペンス、その他あらゆる要素をつめこんだ作品なので
血なまぐさいのが苦手な人にはおすすめできない。
また、政治と経済と歴史に興味のない人にもおすすめできない。

タイトルで各キャラの紹介 ①飛鳥(あすか)ルナ 

飛鳥ルナは、飛鳥家の三女。高卒の22歳。
19歳の時までは本気で女優になることを夢見ていた。
そんな彼女は今、頭を抱えて悩んでいた。

――どうしよう。また仕事辞めちゃった。
家に帰ってから親になんて説明しよう。

『電話一つで辞められると思ってるのかい、君ぃ!?
 せめて事務所に出向いて退職関係の書類を書いてもらわないと困るよ!!
 制服だってクリーニングしてから返却してもらわないとだねぇ……』

主任のハゲ(46歳独身男性)のヒステリーがうるさくて、
最後まで聞いてられないから途中で電話を切ってしまった。

こっちは辞めたくて辞めたくて仕方ないから電話してるのに、
私の方から会社に行けるわけないじゃん。もう嫌。
あの会社の雰囲気が嫌。口うるさいおばさん達が嫌。
会社のことなんて考えたくもないし、
退職の手続きをするために駐車場まで行く時点で、もうムリ。

私が辞めたのは、
田んぼのど真ん中に新しくできた、日用品の倉庫だった。
一部上場企業だって話だったから、興味本位で入社したみたんだけど、
コロナの影響なのか、仕事が全然ないの。定時前の数時間前の退社なんて当たり前。

出社したら、午前中の段階で8割の出荷は終わっていて、あとは定時まで
ひたすら清掃して時間をつぶす。社員は帰りなさい、とは言わないけどね。
残ったところで、21時まで永遠と掃除するなんて精神的に限界。だから辞めちゃった。

私のシフトは、15時から21時。私はどこの会社に行っても
一ヵ月以上続かないから、早起きしなくて済む時間帯を選んだ。
この倉庫は6時から24時まで稼働してるので朝方の時間は全力で避ける。
午前中の時間帯だとパートのおばさん達がいるでしょ。
あいつらって……うざいのよ。理由は言わなくても分かってもらえると思う。

私たちの住んでいる場所は栃木県南部のとある田舎町。
どこで働いてもおばさん達ほどうざい物はないと思う。
中には意味わからないことで突っかかってくる中年ジジイもいるけどね。

「そんな理由で辞めちゃったの?」

ママは20時過ぎに帰って来た。
今は悲しそうな顔をして私の話を聞いている。

「むしろ逆にこう考えるべきかしら。ルミが1か月も続いた仕事なんて
 今回の倉庫が初めてだものね。少しは成長したと考えるべきか。
 前の仕事を辞めた時は半年も家に引きこもっていたんだから、
 またすぐに仕事見つけてもらうからね」

「分かってるよ……」

私に辞め癖がついてることを改めて言われると少し腹が立つけど、
本当のことだから言い返せない。それにしても時期が悪い。
コロナ渦の中で、簡単に次の仕事が見つかれば苦労しない。

もちろん選ばなければ、土方みたいな、きつくて汚い仕事だったら
簡単に見つかる。お金に困った女の定番なら、男の人を悦ばせるお仕事とかね。
でも私はまだまだ若い。ちゃんと時間をかけて探せば……うーん。

お風呂に入ってさっぱりしてから、自室のドライヤーで髪を髪を乾かしていた。
私の部屋の扉を少しだけ開けて、次女のナギサがのぞき込んでくる。
姉はいつものトゲトゲしい口調でこう言った。

「パパが帰って来てるよ。あんたに話があるそうだからリビングまで来て」

「……わかったよ。すぐ髪を乾かすから、それまで待って」

「できるだけ急ぎなさいよ。最近パパが老け込んじゃってるのって、
 きっとどっかの誰かさんのせいじゃないかな?
 あーやだやだ。学校を卒業してるのにまともに就職先も
 見つからない奴と一緒に暮らしてるとさぁ…」

私はムッとして、ベッドの上にあるマクラを投げつけてやろうかと思った。
小柄で顔は並みだし、胸だって小さい癖に、妙にプライドが高い。
私が会社を辞めるたび、私のこと穀潰しだってバカにしてくる。

「上から目線うざいんだよ!!
 姉ちゃんだってフリーターのくせに」

「私は画家志望ですから。絵は雑誌に入選したりしてますから。
 ネット投降のイラストでも副収入はありますから。何か?」

いちいち、言い方がムカつく。
ナギサはB型で人と違ったことを昔から好む性格だった。
そのせいか、芸術方面に才能を発揮し、今では多芸に秀でていると
いえるレベルにまでなっている。

東京の芸術大学を卒業してから3年経ち、現在は25歳。
昨年、有名な絵画雑誌に人物画が掲載され、10万円の賞金を獲得した。
でもプロとしてやっていくには、年齢が若すぎるし、まだまだ経験不足。

趣味でブログのイラストサイトを運営している。
油絵の風景画から二次元の萌えイラストまで書けるものだから、
調子に乗って漫画を描き始めて、さらにその内容を有料制のサービスにしたら、
そこそこお客さんがいるみたいで収入を得るに至っている。

お金はスポンサーから払われている。
といっても有名なユーチューバーと比べたら、
金額は子供のお小遣い程度。

ナギサは近所のカラオケショップでアルバイトをしている。
お昼から夕方まで働いているから、こっちが本業ね。
午前中の暇な時間を使ってブログの更新や絵の練習をしている。
行楽シーズンは一人で車を走らせて、那須や信州に風景画を描きに行くが、
コロナのせいで今は遠出がためらわれる。だから姉は、
暇な時間は家でアニメのイラストばかり描いている。

「ルナ。大切な話があるんだ。まずはそこに座りなさい」
「はい」

いきなり父に説教されるシーンが始まりました。
父はフチなしの眼鏡をテーブルに置いて、目元をハンカチでぬぐった。
シャツの肩から胸の部分まで汗びっしょり……。
6月のじとじとした季節とはいえ、なんでこんなに汗をかいてるんだろう。

テーブル越しに父と向かい合う。父が何か話し始めるまで待っていた。
父は、よほど言いにくいことなのか、なかなか言い出してくれない。

説教されるのは慣れてるから早くすればいいのに。
父は、白髪の混じったオールバックの髪を片手でなでつけ、
なぜか窓の外や玄関を気にしながらもようやく口を開いた。

「……もし、いやこれは、もしもの話なんだがね。
 父さんがこの家を出て行くとしたら、ルナはどう思う?」

「え」

「つまりだね。父さんと母さんは、色々と話し合った結果なんだが、
 今後も一緒に夫婦としていられる自信がなくなってしまったんだ。
 それは……まーその……別居したいと言う意味で。
 しばらく住む家を別々にしてから、
 お互いの今後のことを考えたいというわけで…」

父は典型的な理系タイプの人間で、説明がくどい。
言いたいことを要約できないのだ。
最後まで聞いてみると、アリサ姉さんみたいに頭の良い人だったら
1分で説明できることを、よくもまあダラダラと5分以上も
しゃべりつづけるもんだと思った。

「繰り返しになるが、これは今日突然決まったことじゃない。
 家庭裁判所では、調停離婚をするにしても、まずは
 夫婦仲改善の努力が必要だと説明された。だけどね。半年以上にわたっても
 このままの状態が続くんじゃあ、どうやってもお互いのためにならない。
 つまりもっと先のことを考えないといけないと思ってだね。あーつまりその…」

娘相手に、めずらしくばつの悪そうな顔をする人だと思った。
いつもは勝ち気で、家ではふんぞり返ってるタイプのくせに。

でも根は真面目な人で、私が生まれてから二回くらい転職したらしいけど、
今日までしっかり働いて家にお金を入れてくれた。
一番上の姉は大学を卒業した。二番目の姉(ナギサ)は芸大を出ている。
奨学金なしで卒業させてくれたことを二人の姉は心から感謝してる。

もっとも三女の私は、勉強もできないし芸術の才能もないから
地元の頭の悪い高校を卒業してから、ニートに近いフリーターになったけど。

「お父さんが出ていくパターンなの? 普通は逆じゃない?」

「その方が好都合なんだ。父さんは最悪社宅に入れる。
 母さんには帰る実家がないんだよ。ルナは覚えてるかな? 
 母さんの実家は弟さんが継いでいるじゃないか」

実はこれは建前。
ナギサ姉から聞いた情報によると
父は会社で愛人を作っていたらしい。

父は都市銀行で営業マンをしていて、
仕事柄、関連する金融機関にはよく出向く。
接待とか商談とかで女性社員との出会いが多い。

なんか夜は若い子と遊んでいるらしいけど父は50過ぎのおじさんだよ。
いくら仕事の経験は豊富でも若い女の子は着いてこないと思いたい。

夜になった。ベッドに横になってもなかなか寝付けない。
うちはマンションだから、この時期はエアコンなしでは寝れない。
ごうごうと、エアコンの音が部屋にむなしく響く。
オフハウスで衝動買いした、お洒落なデザインの壁掛け時計が
時間を刻んでいる音がする。

「お父さんとお母さん、ついに離婚か。
 昔は、ぜんぜんそんな感じじゃなかったんだけどな」

妙に昔のアルバムが見たい衝動に駆られるが、何を血迷ったことを
考えてるんだろうと思い留まる。今度こそ瞳が重くなってきて、眠りについた。
夢に小学校時代にクラスで人気者だった男の子が出てきて、
私と一緒にサッカーボールを蹴っていた。なんでだろう。

寺沢(てらさわ)アツト 21歳。 学業に不満を持つ大学生。

※アツト

毎日クソだりーぜ。

コロナのせいで大学に通えなくなっちまったからよぉ、
パソを使ってオンラインで講義を受けることになったんだが、
ほんとやる気出ねえわ。だってこれよぉ、モニターを見ながら
ノートを取るだけなんだぞ?

俺じゃなくて別の誰かに代わりにノートを取ってもらえば済む話だろうが。
そもそも俺は経済学なんざ興味ねえんだ。机にある教科書には、
「金融」「財政」とか書いてあるんだが、何度講義を聞いてもさっぱり
頭に入ってこねえ。人間ってやつは、自分に興味のないことを
学んでも意味がねえってことを大学生になって学んだぜ。

俺の高校は私立の進学校だったが、実際は低偏差値だ。
他の公立高校の入試に落ちた馬鹿どもが通うまさに底辺校だった。
学費が高いんでお坊ちゃん、お嬢様の集まりだったがな。

そこからエスカレーターで地元の私立大学に進学した。
この手の高校は、推薦枠を豊富に用意してくれてるから楽だったぜ。

進学先は文系の大学。学部は経済か法律か選べたんで、
よく考えもせず経済を選んだ。理由は、高校時代のクラスの
アホがこんなことを言っていたからだ。大学で普通科に
相当する学部はないが、経済学部だったらそれに該当する!! 

経済ってめっちゃ専門的だしよ。マジ難しいわ。
これのどこが普通科だってんだよ!! 野郎にワンパン食らわせてえ。

「おい、いつまで寝てるんだ。良い天気だから布団干したらどうだ?」
「いまなんじー?」
「11時だ。おめえの分のシーツ洗いたいから早く起きやがれ」
「だりー。ねみー。まだ寝てていいっしょ」

こいつは俺の妹なんだが、休みの日はこんな感じで昼過ぎまで寝てるんだ。
自分の部屋を掃除しろって5年以上言い続けてるのに聞きやしねえ。
仕方ねえので俺が代わりにやってんだ。ほっておくとゴミだらけになるからな。

しかも漫画本や小物をしょっちゅう買ってくる上に、その辺に置いておくので
足の踏み場がなくなり俺を怒らせる。俺が貸してやったカイジ全巻も
あろうことか男友達に貸してしまい帰ってこない。

妹マジうぜー。パンツまでその辺に投げ捨ててあるのは勘弁しろ。
妹のなんて汚ねえし触りたくもねえよ。

俺はおしとやかで優しいお姉ちゃんが欲しかったぜ。
高校生のお姉ちゃんがいるのってどんな気分なんだろうな。
『こらアツト。ちゃんと部屋を掃除しておきなさい』
とか言われてな……。ふふふ。たまらねえぜ。

そのせいか、俺の秘宝の同人誌のコレクションは姉萌えで占められてる!!
友達の家に遊びに行った時なんて、そいつの姉ちゃんの部屋を
意味もなく覗いたりしてるほどだぜ。綺麗に掃除してあった。

俺は一階まで降りてから、
冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。
コップについでから一気に飲んだ。

あー、なんつーか。将来のことを考えると、何もかもダリぃ。
今年で大学三年になったからそろそろ就活を意識しなきゃならねえんだが、
ちょうどその年にリーマンショック並みの大不況ときたもんだ。

リーマン、コロナ。
10年に一度起きる大規模な金融危機(不景気)だって教授のハゲ頭が言っていたぜ。

まったく笑えるぜ。自分の不運によ。

俺ほどの将来有望な人材ならトヨタをはじめとする大企業から
オファーが殺到するはずなんだが、現在は大手自動車会社などで
大量の人員削減をしているそうだ。

ディズニーを運営する『オリエンタルランド』
ではダンサーの大量解雇。人数はなんと600人(ほとんど白人)か。
やっこさんはエレクトリカルパレードとかで踊る奴らだな。
無駄にイケメン率が高い。

さらに……
正社員や非正規を含む1200人に対し、70%のボーナスをカットだと……?
ひでえな。

俺はスマニューを開いた、そして自らのスマホを握りしめたいほどの
怒りに襲われた。なんでこんなクソみたいな世の中なんだ!!

コロナによる影響の失業者統計。
米で2500万。ドイツで240万。英国160万。
日本では『たったの6万』ってことになってる。

ふっざけんじゃねえぞ、くそ共が!! 
俺はこういうふざけた情報を公表する奴らをぶっ殺してやりたいんだ!!

……当たり前だが政府の統計の取り方には問題がある。

なにせ日本ではハロワに登録して、しかも失業給付の申請を
した人だけが母数にカウントされるそうだ。アホかっつの!!
ハロワに好き好んで登録する奴がどれだけいるよ。
しかも失業給付ってもらえるまでに相当な条件が必要だろ。

ハロワの求人がブラック企業のフルコースメニューと
化していて、登録するメリットがほとんどねーんだよな。

そもそもハロワに求人広告の申請をする企業は、その時点でアウトだ。
企業ってのはハロワ側に掲載料を支払い、三か月間の掲載を許可される。

これは、何らかの理由で退職者が出た(続出した)が、
一般的な紙面やネットによる求人では人が集まらないことによる苦肉の策なんだ。
そして三か月後も掲載期間を延長し、引き続き求人を出し続ける企業なんざ、
99%まともじゃねえ。人が定着しねえクソ職場ってことを自ら世間に露呈してんだからよ。

この程度の常識なら、バカな大学生の俺ですら知ってるぜ。ネットで調べたからな。
離職率の高い職場=ブラック。就活するうえでこの法則は外せねえ。

ったく、むしゃくしゃするぜ。
こんな罰ゲームみたいな状況でどうやって生計を立てて行けばいいんだ。
現実はクソゲーって言葉を生み出した奴に対し、
クリスマスでもねえのにシャンパンを飲ませてやりたいぜ。

こんな窮屈な世界なら、縄文時代に生まれて
獣でも追いかけてウホウホやってるほうがだなっ……!!

「ほんと、不思議ですわよねぇ」

「お、おう」

何者かが俺の肩に触れたんで、ちびりそうになった。
この細い指、夏の季節でも全く日焼けしねえ白い肌。

こいつは大学生になってから知り合った俺の恋人みたいな女だ。
つーか、いつからそこにいた?

「ドイツと日本の労働人口の比率を考えますと、
 ドイツが労働人口約4000万。対して日本は6000万と2000万も多いのに、
 日本のコロナ関係の失業者が6万というのは過少に見積もり過ぎですわ」

「へ、へえ。相変わらず難しいこと知ってんのな」

こいつの名前は「愛」
腰にまで届く黒髪が特徴で、日本人形みたいな顔してやがる。
性格がおっとしてるのは美徳だが、声に抑揚がなくてたまにお化けみたいに見える。

もっと端的に容姿を表現しろだと……?
そうだな……。座敷童を「艦これ」みたいな美少女にした感じだ。

んなことよりもよぉ……。
許可もなく俺の家に入ってくるのはやめてくれ。心臓に悪い。
たまに差し入れでコンビニのから揚げをくれる。

「アツトさん。チャイムの鳴らさずに勝手に家に入ったことは
 謝りますわ。アツトさんが約束の時間になっても待ち合わせ場所に
 来てくれなかったので、心配して様子を見に来たんです。
 今日は私と一緒に外食に行く約束だったでしょう?」

「外食……? あ、ああ。あのステーキ屋のことか。
 忘れ…じゃなくてつい寝過ごしちまった。はは。悪いね」

ステーキ屋は日本中にあるチェーン店だ。
いきなりセックス……じゃなくて、びっくりステーキだったかww
いけえねえ。つい下ネタが……。
愛に言っちまうとドン引きされるから気を付けねえとな。

寝癖がひどいってんで、最低限の身支度はするよう言われた。
適当に水でもつけて、ドライヤーで乾かす。
床屋に行くのがめんどくさいんで伸ばしすぎたか。
耳の周りは完全に覆われ、目元に前髪がかかる。

そろそろ髪切りに行かねえとな。
俺バイトしてねえから小遣いねーけど。
かーちゃんか妹に金でも貰うか。

この季節にマスク姿で外を歩くのは暑くて拷問だ。
たどり着いた先は、喫茶店みたいな場所だった。

おい。経営難で、そろそろつぶれそうな
「びっくりステーキ」に行く予定だったはずだよな?

「ここはJAZZ喫茶です。近所では結構有名なお店なんですよ。
 たまには喫茶店とか楽しそうじゃないですか」

うちから歩いて15分の所にこんな店があるとは知らなかった。
白を基調としたログハウスみたいな作りだが、
確かに看板にはJAZZと書いてある。

JAZZってのはニコニコ動画でしか聞いたことがねえが、
俺は嫌いじゃねえぜ。高いイヤホンで聴くと、音がすごいらしい。
俺は音にこだわりはねえし、質素な生活を好むんで
ダイソーで勝った100均のイヤホンしか持ってねえけどな。

「いらっしゃい…ませ。お客様は……何名ですか?」

こいつはウエイトレスなのか……?
いかにも自分に自身がなさそうな感じだ。
エプロンは妙にサイズが合ってないのか、左肩からずり落ちている。

俺の視線に気づくと恥ずかしそうに直した。
肩にかかるほどのショートカットの茶髪。
大きな丸眼鏡をした女だ。背は小さいな。150程度だろう。
そのせいか余計に幼く見えるんだよな。

愛がウエイトレスの可愛い姉ちゃんに何か耳打ちしてやがる。

「かしこまりました。ご予約の席が用意してあります。こちらへどうぞ」

予約の席だと……?

「初めまして。わたくしの名前は高野ミウと申します」

おっ! ため息が漏れちまうほどの美女登場ですかぁ?
スーツに身を包んだセミロングの茶髪の女だ。
中肉中背って感じだな。化粧が濃いめだが、
さっきのウエイトレスよりこっちのほうが色気がある。

「アツトさん。こちらの高野さんはね。
 足利市の学園で校長先生をされているのよ。
 まずは学園の説明をするのが先かしらね。学園とは…」

愛がまた難しい内容を早口で説明してくれるんだが、
俺は目の前にいる美女の、うっとりするほどの知的な瞳に
目がくぎ付けになってしまい、ほとんど耳に入らなかった。

高野さんが子持ちの既婚者だと聞かされのが一番ショックだった。
それにしても若けーよな。これで28歳かよ。20代前半でも全然いけるんじゃね?

「この度、お会いする時間を頂いた理由は、党の勧誘のためですわ。
 すでにお聞きになっているかもしれませんが、
 そちらにいる愛さんも我々の同志なのです」

「同志? ネトゲ用語か何かですか? その党ってのはいったい……?」

高野さんはテーブルの上にいくつかの資料を置いた。
手に取って見てみると、宗教の勧誘なのか奇怪な文字が並ぶ。

・共産党左派ボリシェビキ
・マルクス・レーニン主義的世界観
・富の再分配。資本家階級のせん滅

どうやら政党への勧誘らしい。

ああ、あれか。低偏差値の俺でもマルクスの名前は聞いたことあるぜ。
ドイツ出身の学者で社会主義の生みの親だろ?
 
どうやら、この党は、ソ連のレーニンの真似をしてロシア革命を
起こすための組織らしい。名前は共産党。なんのひねりもねえ。
正式には栃木共産党という地方政党らしいが、
すでにある日本共産党とは異なる組織を目指してるらしいな。

あっちの共産党は同志レーニンの意志に背く偽の組織。
こっちは本物の共産主義革命を起こすための組織だと?

革命ねえ。今の日本で、んなことできたら苦労しねえよ。
いくら不景気でも餓死者が大量に発生してるわけじゃねえし、
政府を転覆させたいほどの不満は国民にはねえだろ。

アホらしくて最後まで説明を聞くのが苦痛だった。
俺の恋人らしいポジションの愛が
共産党員だったとはショックだったぜ。

まさか俺に近づいたのは共産党に勧誘するため?

そうに違いない。……あいつへの気持ちもすっかり冷めたぜ。
休みの日は普通に遊ぶし、長期休暇の時は旅行に行ったりもする程度に
仲良しだった。あいつは俺のことを恋人だと呼ぶから、じゃあそうだなって
答えて、気が付いたら付き合っていたんだが共産党じゃなぁ……

俺バカだし、政党とか全く興味ねえわ。もちろん宗教もな。
こいつらの思想って、政治じゃなくて宗教に近いんじゃねえか?
どうやったら平和な日本に収容所ができて、
政治犯を収容するようになるんだよ。北朝鮮じゃあるまいし。

俺は渡された資料を、帰り際にその辺の道端に捨てちまった。
だって興味ねえことに時間を使いたくねえもん。
もっとも、これがのちに後悔することになるんだが。

水谷(みずたに)カイト 28歳。 政治に強い不満を持つ無職

※みずたにカイト

僕は不幸にも無職だ。
コロナが発生する一年も前から失業している。

理由はうつ病だ。とある自動車メーカーのディーラーを
していたんだが、こんなご時世で自動車なんて売れるわけもない。
次々に近隣の支店がつぶれていく。

頑張らなければと気を張るが、ある日突然、気持ちの糸が切れてしまった。
理由は良く分からない。極端な人数不足から営業事務の仕事を手伝い、
帰宅時間が23時になることが増えて来たからなのか。経理のあほ爺が
不正会計をして本社の偉い人に叱られたからなのか。

人の出入りが激しい営業部は、納車の手続き(書類関係)
すらまともにこなせない奴が増えて
顧客からクレームの電話を食らうようになったからか。

先月入って来たばかりの新人は、お客の車検の日取りさえ
まともに決められなくて、直属の上司に怒られていた。
この業界に来る営業マンは、まさに底辺。
大卒でもまともに学業に励まず遊んでいたバカばかり。

僕はこの職場にいるのが精神的に辛くなり、最初は三日だけのつもりで
会社を休んだのだが、それが長引いて最後は退職してしまった。

僕は栃木県のボロアパートに住んでいる。実家は福島だ。
実家には両親と姉が済んでいるが、僕も姉も独身なので
どちらも家を継いでいるとは言えない状態だ。

姉は、リーマンショックの時にオリエンタルランドの株を大量に買い、
数年後に売って一儲けした。それ以来10年も家に引きこもっている。
あいつには株の才能でもあるのか、
親から借りたお金を使って累計1600万の利益を出したらしい。

1600万……!! 

目のくらむような大金だ。
僕の給料なんて、月に手取りで16万。大卒で正社員なのにだ。
3年前から働き続けて給料は一度も上がらなかった。
売れない自動車をどうやって売ればいいんだよ。

カルロス・ゴーンの不祥事以来、うちの自動車を買う奴は
後ろ指を指されて笑われてしまうようになった。
ボーナスも減額を続け、最終的に支給されなくなった。

都市部では公共交通機関の発達により自動車の需要は激減。
地方では老人天国で免許の自主返納が進む。
免許すら取得しない若者は増加傾向にある。

もはや国内で新車の需要はない。あっても買い替え需要だけだ。
だから自動車メーカーは、国外の新興国を中心に
「車を輸出」して貴重な外貨を稼ぐのだ。

国外市場で稼ぐには、為替相場と戦わなければならない。
我々の円と各国通貨との『交換比率』が為替。
ちなみに日差自動車は、為替が対ドルで4円、
円高になるだけで年間の利益が100億単位で減少する。

そして為替によって営業所の閉鎖。
我々ディーラーの解雇へつながる。正社員でも容赦ない。

コロナ渦の外国為替市場では、
安全通貨の円が大量に買われて極端な円高になっている。
そして円安に戻りそうな見込みは当分ない。
円高は、我々輸出系の企業にとって
『さっさと死ね』『不要な労働者を解雇しろ』
と言われてるのと同じなんだ……。

こんな生活を続けていたら、うつになる。

今後も日本で生活を続けて生活が楽になることがあるんだろうか。
一部の金持ちだけが富を独占し、貧乏人はどうやっても這い上がることができない。

僕のボロアパートは一応風呂トイレ付きだが、家賃が5万5千円と高い。
一年近く無職でいるため貯金は底をついてしまった。実家に帰るべきかと考える。
だが成人した男が実家に泣きつくのは自分に負けた気がする。
だからってまた正社員で働く気にはなれない。

先月分の家賃は滞納してしまった。このままではじり貧だ。

家賃の滞納が認められるのは三ヵ月までだ。
いつ大家に立ち退きを要求されるかもしれない恐怖におびえる日々。
日雇いのアルバイトで良いからするべきなのは分かっている。
だけど体が動いてくれないんだ。

求人広告を検索するだけで激しい頭痛に襲われる……!!
あぁ、そういえば先週の新聞の勧誘もしつこかった。
あいつらも売れもしない物を無理やり売ろうと
無駄な努力をしてる点では僕らディーラーと全く同じじゃないか。

精神安定剤は、飲んでない。というか精神科に行ってない。
出かける気力すならないのだ。精神安定剤が依存症があると知ってからは、
むしろ怖くなり精神科にかかる気にすらならない。さあ、どうすればいいのか。

最近はニュースを見るたびに、政治家の不祥事が目につく。

元法務大臣とその妻、前回の参院選で政党交付金を1億5千万横領……。

森友問題。近畿財務局の『決済文章の改ざん』を
政府側に強制された関係者が自殺。
自殺した人の奥さんが、事件の真相を知るため当時の財務局長を起訴……。

オレオレ詐欺の流行。ついには自宅まで押し寄せて老夫婦を暴行……。
犯人は現金を奪って逃走。

もうだめだこの国は。
自分の稼いだお金さえ、自分のお金として維持することすら困難だ。

国民の納税したお金は政府のお小遣いとして使われ…、
(森かけ問題、桜を見る会、秋元衆議院議員、河合夫妻その他……)

ドコモを始めとする電子決済サービスを利用すれば、ハッカーのお小遣いにされ…、
かんぽ生命に加入すれば、(郵貯と)かんぽ生命のお小遣いにされ…。
SBI証券で取引をすれば、携帯経由でハッカーのお小遣いにされ…

銀行口座に預金をしていれば、オレオレ詐欺のお小遣いにされ……
家に現金を置いておくと、強盗が入ってきてガムテープで縛られ……

コロナのせいで労働者は大量失業。
2017年から本格化した外人奴隷受け入れ拡充法案では、
外国人研修生は時給210円で一日12時間も働かせているだと……。

貿易量低下と円高の影響で、輸出に関連する全ての企業で
大量失業者が出るのは確実で……
ちなみに日経平均株価を構成する225銘柄は、
製造業の輸出銘柄が大半を占める。

単純に平均株価の暴落が、大量失業者がいることの
証左と考えて差し支えない。

政府が持続彼給付金を払うか、感染拡大を覚悟のうえで
ゴートゥキャンペーンを実施しなければ観光業界は壊滅必死で……
日本の内需を支える観光業は、インバウンド消費がないと
成り立たない。訪日外国人が来れない現状では、
内需の減少はリーマンショックをはるかに超える規模になるぞ……。

なのに……総務省が発表したコロナ関係の失業者がたったの6万人だと?
怒りに震えた拳で壁パンしたくなるが、ここは賃貸なので我慢する。


アベースキー首相 
「(*^▽^*)国民の税金はぁ、我々がぁ、お小遣いとして使わせていただきます!!
 法律を作るのも自民党!! 国会審議は衆参共に多数決で全部乗り切ります!!
 衆議院選挙をやっても自民党の圧勝!! 他党はいないも同然!!
 したがって実質的一党独裁政権の確立!! 国家予算も使いたい放題!! 
 これからはぁ、行政権だけでなくぅ、司法権までうちが握りますねwww」

首相は、人間のクズだ。

(森友学園の国有地売却に関する)近畿財務局の決済文章は改ざんされた。
改ざんの責任を佐川元長官をはじめとする関係者に全て押し付け、自分は素知らぬ顔。

自らが検察に起訴されないために、検察庁長官の任命権を行使。
もちろん内閣の人間が検察庁の人事権など握れるわけがなく、憲法違反だ。

アベーノミクシューの成果を誇張するが、実際は違う。

2008年リーマンショック、2011年の東日本大震災。
日本の景気が底の底を味わった後、今度は上昇基調に転じる。

2016年以降は世界経済が貿易量の増加により上昇傾向にあった。
その波に乗れたことが一番多く、その際に日銀と組んで円安株高
政策を薦め、主に輸出により大企業の利益を最大化したに過ぎない。

(日銀の異次元の金融緩和、長短金利にマイナスの
 利回りを適用したのもちょうどこの時期だった)

生活が潤ったのは、会社の経営者と金持ちの投資家だけ。

国民の生活はちっとも楽にならなかった。
理由は単純で、巨額の財政赤字による税支出を中心とした物価の
上昇に対し、賃金の上昇が追い付かなかったのだ。

厚労省が2018年に発表した、毎月勤労統計の不正が国会で発覚。
調査対象の500社を任意に入れ替え、数年間あたかも
国民の収入が増えたように錯覚させたのだ。

アベースキー政権では、嘘の統計の発表を平然と行う。
これは今の日本政府がどうやっても絶対にデフレを改善させることが
できないのだが、それを意地でも認めないことの証である。

アベースキー政権の最大の成果と言えるのは、失業者の減少だが、
考えようによってはその日暮らしの貧乏人が増えただけなのだ。
そう、俺のように。明日食べる物にすら困り、月末の家賃の支払いにおびえ、
かといって精神が止んでしまい、自殺を待つだけの日々を送るものが。

こうなってしまっては、やはり実家に泣きつくべきだと思うだろう。
もしくは世を悲観して自殺するか。
僕はそのどのどちらの道も選ばない。僕には最終手段が残されているからだ。

『栃木ソビエトは、悪の資本主義勢力を打倒する同士を募集しています』

これは、インターネットの裏サイト。会員ナンバーがなければアクセスできない。
僕は無職になってからたっぷりと時間があったので、県内で開かれる政治集会には
できるだけ参加するようにしていた。そこで普通の左翼政党とは一見違う、
不思議な政党と出会った。

白いカットシャツ、タイトスカートにヒールを履いた、
女優並みのルックスのお姉さんが党の勧誘をしていた。
隣にいるのは旦那だろうか?
中肉中世で無害そうな印象の男だ。眠そうな顔をしている。

「私たちは、生活に困った全ての労働者や農家の皆さんと
 一緒に、これからの国の有り方を考えてみたいと思っています。
 お金持ちだけが得をする、国民の99%が奴隷として過ごす。
 そんな社会を変えるきっかけを作りたいとは思いませんか?
 よろしかったらビラをご覧になってください」

染めたにしては、妙に綺麗な茶色の髪をした女性だった。
最初は興味本位にビラをもらって帰った。

このビラは、共産党の歴史をピックアップして書かれており、
世界史の復習をしている気分になる。
政党の活動内容はあえてぼかしている風だった。

ビラの裏に書かれていたHPのアドレスを開いてみると、
けっこう過激な内容が書かれていて驚いた。

辞書を一冊読破する気持ちで気合を入れないと
読み切れないほどの文章だ。
あいにく僕は無職で時間だけは売るほどある。

マルクス・レーニン主義の詳細が書かれている。
唯物弁証法を用いて、人類の歴史を階級闘争の過程だと説明。
マルクスはガチガチの理系人間で、天才だが物事の説明が
恐ろしく下手くそだったと知られるが、
このHPでは平坦な文章で開設されており、初心者でも理解しやすい。

ソビエト連邦の歴史についても、
これほど詳細に書かれているものはそうみつからないだろう。

アメリカやイギリスの専門家でさえ、秘密のベールに包まれた
ソ連の闇の歴史について学術的に信用できる資料が
ほとんど見つからないと言うのだから。

それから寝る間も惜しんで毎日HPを読み続けた。
気になるところはノートを取った。

そしてある日、僕は納得した。
この政党の真の目的は、完全なる『財の均等な分配』にある。
こんなのどこの国でも当たり前の発想だと思うだろうが、
その方法が既存政党とは全然違う。

今の自民党は日本経済連合団体を始めとした財閥が
最大のスポンサーになっていて、
そいつらの意向に沿って法案が作られていく。

大企業(資本家)は、資本主義の原理にのっとって生産手段を
独占し、利潤の最大化を図る。一方労働者(プロレタリアート)は、
自らが生産手段を持たないので、自らの労働時価を資本家に
提供する。すなわち賃金奴隷として生きる。

マルクスとレーニンが100年以上前に
人類に教えてくれたことは、資本主義は行きつくところまで行きつけば、
必ず致命的な貧富の格差を生み、やがては99%の賃金奴隷と、
1%の資本家の比率に発展し、この階級闘争から革命が生起する。

その革命は、少なくとも資本主義が未発達で日用品の生産すら
不十分だった当時のロシア帝国(1914年)ではまだ早く、
21世紀以降の産業基盤の整った資本主義諸国でこそ、
全世界同時革命として発生しうるものである。

ソビエトの目指す『富の均等の分配』
のための手段とは、主に次の二つだ。

・階級敵の抹殺(資本家の全財産の没収含む)
・生産手段の共有化

資本家とは、大企業の経営者や出資者、大土地所有者を
始めとする、要するに働かなくても食べていけるほどの大金持ちだ。
一人当たりの年収が平均で4400万を超える国会議員の連中も当然当てはまる。

まずこいつらは存在そのものが敵だ。
三親等以内の全ての親族を国外追放するか、
強制収容所に収容して奴隷にする。あるいは粛清する。

そのためには最低でも以下が必要になる。

①憲法、法律の改正(他党の解党。一党独裁政権の確立)
②軍隊、警察組織の掌握(秘密警察を組織)
③国内に無数の収容所の建設
 (最大収容人数は1200万人、国民の一割を想定)

ウレジーミル・レーニンは言った。
「軍隊と警察」の力なくして革命は維持できない。
フランス革命で稀代の天才と呼ばれたロベス・ピエール政権が
あっさりと崩壊した経験から学んだことだ。

ロベス・ピエールは、世界で最初の共産主義政治家とも呼ばれ、
フランス革命が生んだ稀代の天才、100年に一人の天才とも呼ばれている。
彼の行ったテロリズムが、ソビエトの建国に影響を与えたのだ。

話を戻すが、生産手段の共有化には…

・全ての民間企業を国営化し、国が計画生産を立てる。
・海外との貿易量を低下させ、自国内での経済圏を確立する

経済政策については、実現できる可能性が不可能に近いだろう。
確かに米、英、ブラジルなどで保護貿易が流行の兆しを見せているが、
それはあくまでグローバル資本主義の枠組みの中である。
せいぜいが特定の品目に対して関税を引き上げて輸入量を調整しているだけだ。

少しでも経済を学んだ人間なら、『経済の共産主義化』が
夢物語なのは分かる。現に中国も共産党一党独裁国家だが、
経済だけは資本主義を採用し、世界の工場と呼ばれるまでに発展した。

『政治の共産主義化』これはおそらく実現可能だ。
資本家階級が大手を振り、外国人労働者を時給150~210円で働かせ、
多くの国民も長時間労働による奴隷にし、多くの労働者が
残業代がなければ家計が赤字になるほどの貧困となっている。

その一方で、カルロス・ゴーンのように経営者の側は
会社の金を自由に使い、海外に別荘を7つも持っているなど、
地獄の貧困格差を是正するためには、政治の力に頼るしかない。

公務員と民間企業員との賃金格差も、すぐにどうにかなる問題だろう。
特に国家公務員は、誰が考えたって給料をもらいすぎだ。

栃木ソビエト共産党の話をする。

この組織では将来日本政府を国家転覆させるための戦力を募集している。
俺のように無職の者、年金生活が成り立たない老人、
子育てをするにも家計が破産している夫婦、
バツイチとなって貧困層になった女達、
親が貧困なため、生活費に困窮する子供達。

これら全ての日本の政治に強い不満を持つ者がその対象者となる。
今我々が貧しい生活をしているにもかかわらず、政治をする振りをして
遊んでいる与党の奴らに制裁を食らわせるのだ。

自己責任なんて言葉は聞きたくない。
俺達は、明日の生活費を得るために戦わなければならないのだ。

飛鳥アリサ。28歳。旅行代理店の退職を検討中に、とある思想に出会う。

※アリサ

正直、この業界に転職したことが運の尽きだったと思う。
私は占いとかオカルトを信じるタイプの人間だからなのか、
なんかヤバいと思ったら迷わず方向を変える。

うそ……私の職場、ブラック過ぎ!?

四年生の大学を出てから都内で富士通の下請けのSEをやった。
2年半しか勤まらなかった。

地獄の繁忙期。どんなに忙しくても納期は守らないといけないので
毎日深夜2時まで残業する。朝は7時前にはデスクに座っている。
この2年半で直属の上司で二人。同じ部署の先輩が一人。飛び降り自殺をして亡くなった。

労基に訴えても無駄。いちおう会社に対して是正勧告を出してくれるけど、
すぐに会社はそんなことを忘れて労働者を奴隷にしちゃう。
会社側の性根は腐っていて、自殺をした人は体調管理がなってないからだと言い張る。

……こんなのふざけてる。
男性上司たちは家庭を持っていたし、自殺をしたイケメンの先輩なんて私より
若くて(入社時期が私より早かったので先輩)26歳だったのに。
あの人にはこれからも楽しい人生が待っていたかもしれなかったのに。
おとなしい性格の人だったから、きっと誰にも相談しないで辞めていったんだと思う。

その後、私はSEを辞めてからすぐ旅行代理店に転職した。
週に二回は定時で帰らせてもらえるし、有給も使わせてもらえる。
私自身が海外両行が好きだから、いい仕事に巡り合えたと思っていた。

だけどコロナ渦でこの業界はね……。

「姉貴も会社辞めちゃうの?」

「うん。6月末で辞めることになった。
 有休が残ってるから、無理行って全部使わせてもらうことにした。
 先週の金曜が最終出勤日だったから、今は完全に暇だよ」

上の妹のナギサと話をしている。
ナギサは朝型人間。朝の6時半から朝食の支度をしている。

私は都内のマンション暮らしだったんだけど、引っ越しの手続きは
もう済ませてあるから、今日からは自宅で生活することにした。
独り暮らしを辞めちゃうと親に甘えてしまう。
昼過ぎまで寝ることもできたけど、それじゃ悪いので
せめて掃除でも手伝おうかと思って早起きしたのだけど……。

私とナギサの会話。

「ふーん。姉貴は辞めるって決めたらスパッと辞めるもんね。
 考えあってのことなんだろうから、好きにすればいいんじゃない。
 姉貴はルナみたいにはならないんだろうしさ」

「ルナがどうかしたの? まさかまた会社を辞めちゃったとか?」

「そのまさかだよ。これで何社目だろう。
 あいつ、まともに一か月以上働けたことないじゃん」

「そう……。うちに二人も無職がいるとはね……。
 実は実家で休みながらゆっくり仕事を
 探そうと思っていたんだけど、
 そんなことなら早めに転職したほうがよさそうね」

ナギサは難しい顔して黙り込んだ。
そしてわざとらしくため息を吐いてから、出来上がった料理をお皿に並べていく。
ごく普通の日本食だ。白いご飯に具だくさんの味噌汁。
豆腐に卵焼きにウインナー。レタスとトマト。

なんでもない料理のはずなんだけど、妙になつかしい……。
実家っていいなぁ。

「姉貴は高給取りだったから貯金がたくさんあるんだよね。
 家にはお金を入れてくれれば転職は急がなくても
 いいってママが言ってくれてるよ。それより問題なのは」

信じられないことを聞いた。両親が離婚寸前……?
玄関前の廊下に段ボールがたくさん積んであるから不自然だとは思っていた。
まさか父がこの家から出て行くとは。

私は父に反抗的なナギサと違って小さな頃からパパっこだった。
父が出て行く……? 急すぎて頭が付いて行かない。
ナギサも言っていたけど、うちは目立った夫婦げんかもなかった。
仕事で父の帰りが遅いから、家ではすれ違いの生活。

うちの両親は表面上な普通の夫婦を装っていただけで、
実は破局寸前だったのだろうか。二人とも実直な生活で
お金の管理はしっかりしていたから、末娘のルナが学校を出るまでは
離婚を我慢していたのかもしれない。

でも……それだとタイミングがおかしい。

ルナが学校を卒業してから3年以上も経過している。
家裁の裁判長の判断は、調停離婚前段階としての、当分の間の別居。
表向きの別居理由は、夫が愛人を作ったことらしいけど、
なんと愛人の存在が証明できないらしい。

母が探偵を使って父の動向を調べたが、愛人と密会してる様子がなかったのだ。
つまり浮気(不貞行為)を立証できないので
証拠不十分により、離婚相当事由に該当しないのだ。

もっとも母側が離婚を強く拒んでいるから話がもめているんだけど。

「パパはある日、ママにこう言ったそうだよ。 
 俺はお前に隠れて会社で愛人を作っていた。
 だから別れようって」

このコは芸術家肌の人間だからなのか、
話を盛ることが多いから話し半分に聞いておかないと。

「パパは裁判離婚じゃなくて協議離婚を望んでいた。
 離婚届に判だけ押して、ママが望むだけの慰謝料を
 払って終わりにしようと思ってたそうだよ」

「慰謝料って……浮気の場合は相当な額になるでしょうね」

「パパが提示した額は2000万」

「2000万!? 慰謝料だけでそんなに出せるの!?」

うちは比較的裕福な家庭だとは思っていた。
私達三姉妹にはそれぞれ部屋がある。
私と次女のナギサの大学の学費も出してくれた。
今まで両親はお金のことで喧嘩したことなかったけど、
まさかそんなに裕福だったとは。

詳しいことはお母さんに訊かないと。あれ、そういえば母は?

「ママならまだ寝てるよ。最近はずっとこんな感じ。たぶん夕方まで起きてこないよ。
 パパが出て行くと決まってから寝てばかりで家事もしなくなっちゃった」

「え? そうなんだ……。そんなにショックなんだね。
 心が落ち着くまで休む時間は必要だと思うけど、パートの仕事はどうしてるの」

「会社に無理言って一か月くらいの休みをもらったそうだよ。
 休みが取りやすい職場らしいから問題ないって本人は言ってるけど」

コロナ渦のこのご時世で、長期休暇が取れるって贅沢な身分ね。

「帰ったぞ」

泥棒でも入って来たのかと思った。
朝7時前に父が玄関を開けて帰って来たのだ。なんで朝帰り……。

「パパ。お帰りなさい。ご飯できてるから食べてから寝たら?」

「そうさせてもうか。ナギサにはいつも世話になる」

父の前では妙に愛想のよいナギサ。父はかったるそうに席に着くが、
手洗いうがいもしないで食べるのやめなさいと注意されて、
しぶしぶ洗面所に向かった。

父はこんなに子供っぽくてだらしない人じゃなかった。
ワックスで固めたオールバックの髪が、時間が経ったからなのか
形が崩れてボロボロになっている。前に会った時より白髪の量が増えた。

行儀悪くテーブルに肘をつき、棚から日本酒を取り出して飲み始める。
朝からお酒……。でもこの人にとっては朝帰りだから晩酌になるんだろうか。

「お父さん」

「ん……? おぉアリサか。おまえも朝飯の時間か? まあ座れ」

言われるがままに座る。なぜか隣に。うっお酒臭い……。

「おまえもナギサから聞かされたかもしれないが、
 父さんな。別居することになった」

「うん。聞いた。
 でもお父さんが愛人を作ったって所は作り話なんだよね?」

「ん? すまん。よく聞こえなかった。最近年のせいか耳が遠くてね。
 アリサは一人暮らしをしてるんじゃなかったか。いつ帰ったんだ」

私が退職の件をつたえると、父は「そうか」とだけ言い、すぐ食べ終わる。
もっと時間をかけて日本酒を飲むのかと思ったから意外だった。

そのまま皿を重ねて洗い場へ持っていこうとする。
私の追求から逃げているようで腹が立ってしまう。

「さっき私の質問に答えなかったじゃない!!
 こっちはまじめなんだからちゃんと話聞いてよ!!」

父の背中がびくっと震え、真面目な声色に変わった。

「聞いてるよ。俺は妻に隠れて愛人を作った。
 お前はどう思う? 最低の男と思うだろう? 
 軽蔑しただろう? だから別居する。それだけだ」

「お父さんは嘘ついてるよ!! 
 愛人の件は裁判では立証されなかったって聞いてるよ!! 
 本当に愛人がいるなら顔と名前を教えて!!」

「しつこいぞアリサ。娘の前で愛人の名前など、口にできるものではない……。
 話はそれだけなら俺はもう行く。寝る前に荷造りをしなきゃならないんだ」

私は後ろから父の肩をつかむが、振り払われてる。
父はトイレにこもって出てこなくなってしまった。

……意味が分からない。

さっき会話してる時も私と一度も目を合わせてくれなかった。
私を隣に座らせたのは、そのためだったの?

愛人の件は、父の話しぶりからして離婚の口実に違いない。
なら本当の目的は? 母や私たちを見捨てて、自分のお金で建てた
この家を捨ててまで出て行くのはなぜ?

「朝から騒がないでくれる? まじうっさい。
 姉貴の声高すぎて頭にガンガン響くんだよ」

「なによナギサ。あんたも娘なら父を止めるべきでしょ!!
 このまま本当に離婚しちゃったらどうするのよ!!」

「無駄なことはやめなよ。パパは姉貴と同じで一度決めたことは曲げない人だから。
 愛人がいたかどうかなんて追及して答えが返ってくると思うの?
 もういいじゃん。本当に愛人がいたってことで納得しちゃいなよ」

「はぁ!? 納得できるわけ…」

「姉貴ね。世の中には私たちの力じゃどうにもならい、
 大きな流れってのがあるんだよ。運命とも呼べると思う。
 お父さんが本気で離婚したいと願ってるなら、もう誰にも止められないんだよ。
 私たちの家族の物語を誰かが描いてるとしたら、そのシナリオはこれで終わり。
 はいバッドエンド。残念でしたってことで、納得しちゃった方が楽だよ」

妙に達観したことを言う。
ナギサは自分が年長者みたいな態度とるから腹が立つ。

こいつは口が達者で、私は小さい頃から口げんかで負けっぱなしだった。
こいつは本気で離婚を既成事実として認めてしまってるんだろう。
なんで簡単に諦められるんだろう。説得の機会を捨ててまで。

やっぱりナギサは変わり者だ。こんな変わり者、私の友達にはいない。
そうだ。私にはもう一人妹がいる。
下の妹にも聞いてみよう。

ルナの部屋を開けると、よだれを垂らしながら寝ていた。
さむっ。この部屋エアコン効きすぎ。
よくこんな寒い部屋で熟睡できるもんだわ。

しかも無職のくせにのんきに惰眠をむさぼるとか……。
いや逆か。無職は働いてないんだから好きなだけ寝られる。
本来得られるはずだった賃金と引き換えに。

「こらあんた。いつまで寝てんの。起きなさい」

妹の顔をぴしぴしと軽くビンタすると、
「うーん」と不快そうな顔をしながら寝がえりをうった。

「まだ朝の7時ぃ? ナギサ姉は真面目だなぁ。
 もう少し寝させてよ。昨日は朝の3時までネトゲ祭りだったの」

「私はアリサよ。お父さんのことであんたに相談しに来たんだけど」

「アリサお姉ちゃん?」

ルナは半身を起こした。

私はナイアガラの滝のような勢いで妹に質問責めを展開した。
寝起きの頭に私の早口がこたえたのかか、ルナは頭を抱えながらも
知ってることを全部教えてくれた。

この子は正直な性格だから、ナギサと違って嘘はつかない。
その中で一番気になった情報は……。

「朝まで喫茶店で時間をつぶしている?」

「パパは仕事を辞めたっぽくて、毎日昼過ぎまで寝てる。
 で、夜になるとふらふらと出かけちゃう。
 それでママが気になるから後を追って頂戴って私に頼んだのね。
 で、パパの後を付けたのね。駅前の商店街にある、
 看板にJAZZ喫茶って書いてあるお店に入って行ったよ。
 看板は写メしたから絶対に間違いない」

「JAZZ? お父さんはJAZZが好きだったの?」

「さあ。私は知らない。でもJAZZ喫茶に入ったのは本当だよ」

良いことを聞いた。仮に浮気相手に会ってるとしたら、
その店で間違いないなさそう。
父は土日も関係なくJAZZ喫茶に足を運ぶそうだから、
今夜も行くんだろう。よし。今夜にでも父の跡をつけて現場を押さえてやる。

飛鳥トオル 59歳。革命的思想を内に秘める男。離婚調停中。

※トオル

つけられてるな……。

電柱の影に潜む、あの長い髪はアリサか。
体形のせいで遠目からでも判別できる。
アリサよ。最近また太ったな。

身長は160以上あるが、あの見た目だと体重が60は超えているな。
ダイエットしろと言いたいところだが、若い娘に体型のことは口にできん。
小さい頃に食べすぎなのを指摘したら食事中に泣きだされてしまってな。ごほん。

俺は三人の娘のことは平等に愛したつもりだが、小さい頃から
私によくなついてくれたアリサは特別に思っている。
出来が悪くて泣き虫だったルナも愛おしくてたまらない。

妻のことも愛している。嘘ではない。
みんなとはいつまでも家族でいたかった。

だが、今はもうそんなことを言ってる場合ではないのだ。
俺は家族のことを捨ててまで、革命的情熱を燃やさないといけない。
子供も全員学校を出たことだし、そろそろ頃合いだろうとは思っていた。

「いらっしゃいませ。同志よ。合言葉をお願いします」

「こちらは百貨店「子供の世界」の隣の者だが」

「同士・飛鳥殿ですね。奥の席へご案内いたします」

私の居場所は、このジャズ喫茶だ。
喫茶なのは表向きで、実際はソビエト共産党の一支部として使用されている。
日中の時間帯は喫茶店として営業しているが、18時以降は政治サロンへと変わる。

ここには、あらゆる人種国籍の共産主義者が揃う。
ソビエト連邦を構成した、16の共和国の諸民族。
ロシア人やベラルーシ人を初め、モンゴル人から中国人、
ザ・カフカ―ス系のグルジア人やアゼルバイジャン人もいる。

我々は彼らと世界の行方について話し合う。
ただの話し合いではない。秘密の政治集会である。
やがてはこの日本で共産主義革命を起こすための準備を進めているのだ。

今はまだ小さなサロンに過ぎないが、水面下では着々と力をつけ続けている。
最近ではコロナ渦で無職となった男女を兵隊や工作員として募集し、
軍事訓練を始めている。

単純な軍事力では、日本の自衛隊と警察を倒すことなど到底不可能である。

そこで栃木ソビエトは、内部から日本国を破壊するため、
ソ連の「保安委員会」に準ずる組織を作った。

主な仕事内容は次の三つである。

①防諜
➁監視
③破壊工作


日本国は極東に位置する。
そのため極東の隣国と連絡を密にすることは重要だ。
ソ連、北朝鮮、韓国、中国にいるスパイと繋がり、
BC兵器(生物化学兵器。毒ガスや最近など)を取り寄せる。

日本国の内務省を初め、各省庁に潜入するスパイ。
政府要人とその家族を誘拐するための工作員。
金融機関へアクセスするサイバーテロリスト。
ネット、報道機関で暗躍する、ボリシェビキの記者。

まずはこれらの仕事に従事する工作員を時間をかけて要請する。
彼らに求められるのは高度な知性、経験、強靭な体力。
そして自らの生命と財産を投げ出せるほどの革命的情熱だ。

『暴力推奨。全ての権力をソビエトへ』
かつて、レーニン率いるメンシェビキ(共産党左派)が
選挙中に広めたスローガンである。

ちなみにこれらの活動を遂行する上で、大量の資金が必要になるが、
主に銀行強盗によって資金を調達する。

(革命が起きる前のスターリンは、5回も国営銀行を強盗した。
 その後ロシア帝国の秘密警察に捕まり、7回もシベリア送りになったが、
 そのたびに脱走してモスクワまで戻ってきた)

また資本家階級の子息を誘拐し、身代金を要求するなど、
金を得るためには手段を択ばない。金無くして政治活動などできないからだ。


「合言葉を忘れただと? 貴様は部外者に違いない!!」

喫茶の玄関口で、ぽっちゃりした若い女が捕らえられている。
うむ。認めたくはないが、長女のアリサである。

本来であれば部外者が、そうと知らずに入った場合も
地下室で取り調べをする決まりになっている。
私は身内なので見逃してもらえないかと同志
(同じ共産主義者のことを、階級にこだわらずこう呼ぶ)
に頼むと…

「同志・飛鳥殿よ。そちらの女性が、
 自らのご息女であると証明はできますかな?」

軍服に身を包んだ、中年男性の同志にそう言われる。
何事かと、若い女性兵らも集まって来た。
みな一応にソ連の軍服姿のため、
喫茶店内はまさに異国の雰囲気である。

俺はアリサに身分証明書を出すように言ったが、散歩程度の
軽い気持ちで私を尾行したため、何も持っていなかった。
黒いジャージのズボンに紺色のTシャツを着ているラフな格好だ。

「すまないのだが、証明できそうにない。
 私の娘は今日はたまたま身分証明書を持ってきていないのだ」

「ダクトゥーシュナ(わかりました) では地下室へどうぞ」

と女性兵に軽く言われてしまう。

この女は旧ソ連人なのか、長身で胸がでかい。
濃いまゆげ。黒い瞳。後ろで結った金髪。凹凸の激しい顔つき。
この顔立ちは……ロシヤ系ではない。
白人なのだが、山岳地帯特有の色素の濃い肌。カフカ―ス系だろう。

「待ってくれ。娘に拷問は困る」

「ニィエト(いいえ) あくまで尋問の形を取りますので」

「信用できるか!! 15分でかまわん。15分ほど時間をくれ。
 家に帰って娘の健康保険証でも持ってこさせ…」

そこで気づく。娘は会社を辞めたらしいから、
今現在は会社の保険証を失ったのかもしれない。
社保から国保の切り替えには市役所を通さないといかん。
市役所か……。地方自治体にて自民党行政の手先……。
国民から生命と財産を奪う、悪しき専制政治の象徴である!!

「イットシュド ビイ アサイレントプレイス。
 ワットハプンドヒア、アワコミニィスツ?
 (お静かに。何の騒ぎかしら同士たちよ)」

英国英語の発音である。
恐れ多くも高野ミウ閣下が登場したのだ。

地下室、地下室とやかましい部下どもから
事情を聴き、すぐに黙らせてしまう。

「話は分かりました同志飛鳥よ。
 つまらない騒ぎに巻き込まれてしまい、災難でしたわね?
 部下達を悪く思わないでください。みな党と同志レーニンに
 忠誠を誓った身ですから、鉄の規則を破ることは決してしませんもの」

「いえ、こちらこそ誤解させてしまい、申し訳ありません。
 まさか娘が私を尾行しているとは予想外でして……」

共産党・中央委員会に所属する同志高野は、実質的な
栃木ソビエトの最上位に君臨する女性だ。28と年齢は
お若いが、学生時代より圧倒的なカリスマを発揮したそうだ。

彼女の出身高校は、栃木県の中でも最上位の共産主義教育が
ほどこされた学校で「小ソビエト」とまで呼ばれていた。
学内では資本主義的思想をもった生徒が
存在するだけで地下に連行され拷問される。

学校の敷地の一部は強制収容所となっていて、収容所送りに
なった生徒の大半は、卒業まで収容所での生活を余儀なくされる。

高野ミウは生徒会の副会長だった。生徒会とは、学園ボリシェビキとして
生徒はもちろん教師まで監視し、監督する役割を担う学生組織だ。

ミウは学内の反対主義者をたびたび一網打尽にして功績をあげた。
彼女が在学中に作りあげた数々の校則は、
改正されずに今でも使われているというのだから驚きだ。

現在は学園の長として「学園」を支配し続ける。
彼女は高校生だった時から組織を率いて来た。

共産主義の徹底。マルクス・レーニンへの賞賛。
資本主義、民主主義の否定。
反対主義者の摘発、逮捕、収容所送り。

学内には生徒を逮捕し監視するための強大な組織があった。
保安委員部という、秘密警察に相当する生徒組織だ。
彼らには反対主義者を拷問をすることが許可されていた。

『国内を革命するには、まず教育の現場から資本主義的発想を
 根絶させないといけない。「学園」の存在は、戦後の左翼教育で腐りきった
 文部科学省と、不健全なグローバル資本主義に対するアンチテーゼとなる』

ミウ閣下の持論には私も大いに賛同している

高野ミウは、人を使う側でも使われる側でもない。
その一段上。「世界の秩序」を作る側の人間なのだ。

私は初めて彼女と会った時、レフ・トロツキーの生まれ変わりが
そこにいるのかと思った。私は本気で日本労農赤軍が近い将来に誕生し、
自らが陣頭指揮を執って戦う姿すら想像し、涙さえ流した。


「あなたが飛鳥アリサさんですね。お初にお目にかかります」

「は、はい。高野さんですね。
 先ほどは助けていただき、ありがとうございました」

娘は緊張と恐怖からか、頬が赤い。
同志高野の貫禄に圧倒されたのだろう。
高野ミウの美しさに見惚れているのかもしれない。

アリサは女だが、可愛い女を好む。
同性愛者というわけでは決してないのだろうが、高野ミウにように
美しい女を見ると写真にでも撮って飾っておきたいと言い出すのだ。

アリサの部屋には女の子の可愛らしいフィギュアが置いてあった。
テレビ漫画のキャラクターか? と聞くと怒られる。
今どきの若者は漫画をアニメと呼ぶらしい。

「同士閣下は、アリサのことを私の娘として認めていただけるのですね?」

「はい。同士トオル氏が今まで党のために忠誠を
 尽くしてくれたことを評価してのことです。つまり信用ですよ。
 うふふ。ボリシェビキにはふさわしくない言い回しかもしれませんね。
 こうして近くで見ていると分かります。アリサさんは
 目元がお父上にそっくりなものですから。私も今では
 一児の母ですから、親が子を思う気持ちは理解しているつもりです」

高野ミウは、大学時代に学生結婚をしたらしい。
旦那の名前は変わっていて、太盛(せまる)という。
旦那はめったに表舞台に出てこない。
家ではもっぱら専業主夫であり、イクメンであると伝えられている。
恐妻家だとの噂もある。確かに妻がこれほどの権力者ではな。

軽い夫婦喧嘩をしただけでも、部下を連れてきて拷問されかねない。
妻は旦那に対する執着がすごく、旦那に対する愛情は
結婚後10年経過した今でも衰えないらしい。

旦那は妻の束縛に耐え切れず体調を崩し、数年にわたる
植物人間と成ってしまうが、現在は奇跡的に回復したようだ。

植物人間だった時の旦那は、それはひどいものだったそうだ。
冗談のつもりでそのことをからかった
ウズベキスタン系の女性兵士連中がミウの怒りを買い、
眼球をバーナーで焼かれた後、四肢切断の罪になったという。

休憩所で何気なく話した内容が、盗聴器によって本部に知られたのだ。
ボリシェビキは常に味方の中にスパイがいないかに細心の注意を払う。
ソビエト域内は警察国家と化しているのだ。

俺はボリシェビキに入党して間もない頃は信用がなかったため、
スーパーの帰りでさえ、誰かにつけられてる感じがあった。
きっとスーパーの店員にもボリシェビキが混じり込んでいたのかもしれない。

家庭でも家族との会話には注意が必要だ。
だから俺は、資本主義者である妻や娘達とは一緒に暮らせない。
すでに家庭を構えている人間は、家族のために
命を張ることを躊躇する恐れがあるため、それ相応の覚悟が求められる。
だったらいっそ、俺は家族を捨てることで信用を得ようと思った。

ミウ閣下は世間話から初めて、アリサとの距離を近づけようとしている。
巧みな話術に緊張感が幾分和らいだのか、アリサの態度も柔らかくなる。
互いに同い年だと知ると、ますます話に花が咲きつつあった。

「本日アリサさんは共産党本部まで足を運んで頂いたわけですが、
 これも一つの縁だと思い、地下室を見学していきませんか?」

「地下室……? 共産党本部……?」

意味がわかないのだろう。
ミウはまず相手にフレンドリーに接してから、
急に仕事の話題を振る。私の時もそうであった。

「最近、オレオレ詐欺が流行しています。
 アリサちゃんもニュースで毎週聞くでしょ?
 実は地下室に犯人を捕まえているんですよ」

「え……?」

「しかもね。末端の構成員じゃないの。組織の中核に位置する人間を三人もよ。
 これは自民党の行政組織である、無能な警察では絶対に出来ないこと。
 もっとも奴らには初めから捕まえるつもりなんてないんだろうけどね。
 どうかなアリサちゃん。良い機会だし、犯人達の顔を見て行かない?」

地下室と聞くだけでいかにも怪しい。
娘はさすがに拒否しようとしたが、私が娘の肩を叩いて同行させることにした。
同志高野には命を救われているのだ。断れるわけがない。むっ? なるほど。
同志の目的が何となくわかったぞ。

喫茶店の地下は、地上の喫茶店のほぼ同じ広さだ。
地上とは違い、客がくつろげるような空間ではない。
地下は政治犯の自白を強要するために拷問をするための場所だ。


※ アリサ

罪人達は、鉄製の椅子に座らされていた。

中年の男。スラックスにYシャツ姿のバーコードハゲだ。
20代らしき金髪の男。真っ赤なアロハシャツに短パンとラフな格好。
30代半ばくらいの女。ストレートの茶髪。Tシャツにジーンズ姿。

後ろ手に手錠。足は、イスの足の部分に縄で縛られている。
自殺防止のためか、口には猿轡(さるぐつわ・ボールギャグ)がはめられている。

「こいつらが、オレオレ詐欺グループの中核とみられるメンバーです」

ミウさんが説明してくれる。
(本当は名字で呼ぶべきなんだけど、
 ファーストネイムで呼んでほしいと
 怖い顔で頼まれたからそう呼んでいる)

ミウさんが、テーブルの上に置いてある機材に手を触れる。
ブレイカーの電源を入れるように、レバー式のスイッチをしっかりと握り、
わずかに上へ押していく。

「ぶっ……ぶぶっ……んぐっ……」
「ぐぐうっ……」
「うぐっ………」

犯人達の体が小刻みに動き始める。痙攣してるみたいだけど……、
まさか電流でも流されてるんだろうか?
陸に打ち上げられた魚のような勢いで、どんどん震えが激しくなっていく。

中年の男は、ギャグの間からよだれかゲロだか分からない液体がこぼれていく。
女は髪を振り乱して、こちらに助けを求めるような必死な目で見てくる。

「これはね」

ミウさん……。どうしてそんなに冷たい顔を。

「死なない程度の微量の電流を流し続けているんだよ。
 電極はイスの後ろ側につなげられているの。
 電流を流されるのって辛いんだよ。
 体中の神経を焼かれるような痛みが走り続ける。
 呼吸もまともにできないし、一瞬で視界は真っ黒。
 だからほら、あんな風に無様にけいれんし続けないといけないの」

ミウさんは、掃除用具入れみたいなロッカーの中から電動工具を取り出した。
あれは……電動ドライバー?

ブウウウウウウウン

コンセントがいらないタイプみたいで、ミウさんがスイッチを押すと
鋭い音が鳴り響いた。犯人達は震え、泣き、金髪の男はギャグを
はめたまま、ゲボを吐く仕草を見せる。口にたまった液体をギャグのせいで
吐き出すことも出来ず、このままじゃ窒息死そうだった。

ミウさんは、メスを取り出して、そいつのギャグをつなげていた
バンド部分(後頭部)を乱暴に切り裂いた。

「いぎいぎいいいいぎぎ!?」

男は耳元にも裂傷を負ったみたいで、耳たぶが切れてしまった。
床に血液でべっとりとした耳たぶがある……。

私はこの時点で見てられなくて、気絶しそうになったんだけど、
「大丈夫か? 気を確かにして最後まで見なさい」と父に支えられる。

どうしてお父さんはこの惨状を冷静に見てられるの?

金髪の男は、体の自由が利かないためイスごと床に倒れ込み、
思う存分吐いた。腐臭にこちらも吐きそうになってしまう。
部屋には換気扇がいつくもついているけど、
全然効いてないんじゃないかってくらい匂う。

ミウさんはそいつの顔を蹴ってから、馬乗りになる。

「さーて。今度はあんたの耳の穴にドリルをつっこんじゃおうかな?」

「ひぃぃぃぃぃ!! いやだぁぁぁ!!」

「それとも眼球に穴をあける? 唇の方がおしゃれかな。
 穴が開いた部分にピアスでもつけてあげようか?」

「あばばっ……高野様……何でも言うことを聞きますっ……
 命だけは……どうか命だけはぁ!!」

ミウさんは、そいつの肩にドライバーで穴を空けた。
すっと入れてすぐに抜く。すると血がぷしゅーと飛び出て……。
ドライバーの先端部分には、血と生々しい肉片がこびりついてる……。

金髪は絶叫し、また吐いた。

私は耐え切れず両手を口で押えると、お父さんがバケツを
用意してくれたので、その中に吐いてしまう。
口だけじゃなくて鼻からも液体が出てしまった。
苦しい。気持ち悪い。もう死にたい。

茶髪の女は、失禁していた。
ジーンズ越しに、足元に黄色い液体が流れ込んでいく。
顔色は死人のように色を失ってしまい、口を開き白目をむいている。
気絶したのかもしれない。

この女の口を見てあることに気が付いた。
歯がないのだ。他の犯人達も同じ。
年老いた老人のように、歯が全て抜け落ちている。

ミウさんは、私の視線に気づいたのか、丁寧に説明してくれる。

「ああ、これ? 拷問の初日にたくさん殴ったからね。
 それで何本か抜けちゃったんだけど、どうせなら全部抜いたほうが
 さっぱりするかなって思って、ハンマーで口を叩いて歯を全部砕いてあげたんだよ」

「初日って……どれだけこの人たちは拷問されてるんですか?」

「んーそうだね。今日で6日目だよ」

この人達は……6日も拷問され続けているの?
捕らえられ、体の自由を奪われ、毎日この地下で好き放題いたぶられる。
想像しただけで私にはとても耐えられない。
私だったら舌を噛んで自殺するけど、ギャグが……。
その他にも自殺防止策とか徹底されてそう。

ミウさんは、電動ドライバーを私に差し出して、

「あなたもやってみる?」と言う。

金髪の耳の穴をねらえと言われたけど、
無理に決まってるじゃないですか。
ついさっき私が吐いたの見てなかったんですか?

「こいつらを捕えるまで、それはもう苦労したよ。
 まず組織の末端を捕まえて、それから半年以上かけて
 関連する人物を割り当ててから、こいつらの事務所を発見した。
 茨城県のひたちなか市にあったよ。海沿いの廃工場の地下に
 こいつらのアジトがあってね。こいつらの規則で3か月に一度だけ
 そこで会合をするそうなんだけど、そこを一網打尽にしたんだ」

「へ、へえ。それはすごい。色々大変だったんですね」

「うん。大変だった。日本の警察はどんなに頑張っても、
 オレオレ詐欺の末端構成員を捕まえるのがやっとでしょ?
 末端の奴らは臨時の雇われだよ。こいつらをいくら捕まえても意味がない。
 だって日本の行政は、本気で組織をつぶすつもりなんてないんだもん」

「それはどういう意味なんですか?」

「そこのバーコードハゲが教えてくれたよ。オレオレ詐欺の
 本当の親玉は、自民党の総務省と財務省なんだってさ」

信じられない情報だった。ミウさんが言うには、
国内で実に20年以上も横行しているオレオレ詐欺の真相は、国家によるテロ。

巨額の財政赤字を抱える日本国。国家歳入の半数にも及ぶ社会保障費の
支出をまかなうには、赤字国債の発行に頼って来た。
だけど時のアベースキー政権では、財政収支の改善を国民にアピールするために、
むしろオレオレ詐欺を政府主導で奨励した。

その結果、多くのお金持ちの老人から、総額で1,5兆円にも及ぶ資金を巻き上げた。
ニュースで報道されている額は、あくまで警察が表向きに知りえたとされる
金額で、正確ではなく過小。

オレオレ詐欺は不思議な詐欺事件だ。世界一の操作能力を持つと評判の日本の警察でも
本部の足すらつかめない。理由は簡単で本気で捜査してないからだ。
そもそも警察は行政組織の奴隷。行政が主導で詐欺をしていたら捕まるはずがない。

アベースキー首相は、検察長官の人物の任命権を握っていたりと、
実は独裁政治と全く同じことを平然と行っている。こちらの件は、
森かけ問題で自らが刑事起訴されないために行った措置で、明確な憲法違反だ。

行政手続きの簡素化と表向きの理由を付けて、マイナンバーを国内に普及させる。
そして政府は国民の預貯金状態を正確に知ることができた。
あとはその資産額を詐欺グループに知らせて「金持ちからピンポイント」
に電話をかけ、時に強盗に押し入り、お金を奪う。

日本ではここ30年で総額10兆円以上のお金が奪われながらも、
その行方は不明だ。使途不明金。これらがいずれかの
産業に流れれば、関係者達ならすぐ分かる。

おそらく盗んだお金は国家予算に計上され、
社会保障費の補填に回されたか、
あるいはアベースキーの好きな空母建設費に使われたのかもしれない。

「今日の拷問はこれまでにしようか。続きはまた明日ね」

ミウさんはそう言い、部下たちに何事かロシア語で伝えてから、
私とお父さんを開放してくれた。
お父さんはミウさんから預かった大切な資料をカバンにしまう。
帰ったら私もよく読むようにと言われた。

でもお父さん……。
私だって政府のことは大嫌いだけど、
人を拷問してまで世の中を正そうって気にはならないよ。
悪を正すために自分が悪になったら本末転倒だと思う。

自民党だって国民の過半の支持を得て第一党の地位についているわけだし、
自民党がした悪さは私たち国民が責任を負担するべきじゃないのかな。

う……今だって吐き気が止まらないのに、難しいことを
考えたら足元がふらつく。次の仕事が見つかるまで暇なので
明日にでも資料に目を通すけどね。

アツトは愛に別れてほしいと言われてしまった。

※アツト

朝起きたらラインのメールが届いていた。

『あなたがコミュニスト(共産主義者)になれないのでしたら、
 私達が一緒にいる意味はなくなりますね。そういうことですから、
 今日から赤の他人になりましょう。さようなら』

おかしいとは思っていたんだ。
環境のゼミに登録して、たまたまこいつと同じグループに
なったのがきっかけで一緒に食事とかするようになってよ。
気が付いたら体の関係まで持っちまって。自分で説明すると恥ずかしいなこれ。

愛は俺によくこんなことを言っていた。
日本の学校教育システムに疑問を持つ姿勢は素晴らしい。
俺はいつか、今の自分ではない、何者かに目覚めるかもしれねえってな。
いったい、なんのことやら。

社会主義だか共産主義だか知らねえが、
(ところで、この二つってどう違うんだ?)

俺はそんな賞味期限切れの宗教には興味ねえ。
高校の世界史の教師が、ソ連は失敗した実験国家だと言っていた。
現に冷戦で米に負けてソ連は崩壊しちまった。完全なる自滅っ……!!

本当に共産主義が正しいのなら、今頃はアメリカが衰退して
全世界で共産主義革命が起きてるはずなんじゃねえのか?
独逸や英国とか欧州の先進国の連中も民主主義と資本主義を採用している。
普通に考えて、こっちのほうが国民が幸せになれるって思うからだろ。

愛がまたメールを寄こした。

『ところで、あなたが帰り道に捨てた資料(ビラ)の件ですが、
 昨夜のうちに同志達に報告しておきましたから』

写真が添付してある。俺が道端に捨てたビラの証拠写真に違いねえ。
いったい誰が盗撮しやがったんだ……。愛に決まってるか……。

つーかこれってまずくねえか?
同志達って、あの喫茶にいた連中のことだよな?
てことは俺、まさかこのあと逮捕される流れなのか?

家の前が騒がしいんで、窓から下を見ると黒塗りの車が二台止まっていた。
車から軍服を着た男たちが降りてきて、玄関のチャイムを鳴らしてるだと……?

「やぁイエスチ、イズナィユ、アゴーイ!!
 ダバイ、ダバイ、ヤポンスキー!!」

英語じゃねえ外来語だが、あの巻き舌で
アクセントの母音を伸ばす発音は……ロシア語か……?

うちの財政学の教授が、なぜかロシア語に堪能でよぉ。
たまに講義を全部ロシア語ですることがあるから、なんとなく知ってるぜ。

英語も分からねえのにロシア語が聞き取れる学生がいるわけねーじゃん? 
そんな時はコンビニで買ってきた少年マガジンを読みながら過ごすんだ。
完全に授業料の無駄だな。この年になるとマジで親に申し訳なく思う。
もっともロシア語の講義は教授の責任なわけだが、
あの教授はなんでロシア語で講義するんだよ!!

さーて現実逃避はこれくらいにして俺の状況を説明するぜ。

俺は速やかに逮捕されてしまった。

例の喫茶店に連行されるのを覚悟したんだが、
ずいぶんと車を走らせて郊外へと移動する。おいおい。
まさか県外まで拉致されるのかと思ったら、
栃木インターチェンジの近くにある、とある高校の敷地へと案内された。

なんだこの広さは? 校門から先が全然見えねえぞ。校内が巨大な
バリケードに覆われていて、外からは中が見えねえようになってるんだ。

ここは学校じゃなくて軍事要塞なのか?
校門は検問所として機能しているらしく、
軍服姿の憲兵らしき奴らが、車の窓越しにチケットを切る。

校舎は上から見ると『コの字型』に作られていた。
『コ』の真ん中部分がグラウンドとなっている。
コの反対側は中庭になっているらしいが詳しくは知らん。

正面玄関の近くに車を止める。
玄関の近くに、校舎とは別にぽつんと立つ建物。
厚みのあるコンクリートで作られた建物だが、
大きさは1LDKのアパート並みだ。

その小屋から、若い男が出てきて俺に挨拶をした。

「やあ、君がアツト君かい? ミウから話は聞いているよ。
 狭いところだけど、中に入ってくれ」

拷問部屋に案内されるんじゃないかとビクビクしていたんだが、
ごく普通の部屋だった。大きめなシングルベッドの他に、
本棚、チェスト、化粧棚が並ぶ。床には高価そうなペルシア絨毯。
キッチン周りは小ぢんまりとしていて、マンションの一室って感じだ。

よく見るとここの家具、アンティーク調だ。
自信ねえけど、あの材質はオーク材か? 
どことなく19世紀の英国風のデザインじゃねえかと思う

「すごいな君は。家具マニアなのかい?」

「いや、適当に言っただけっすよ。昔家具にこだわっていた時期があって…」

俺が大塚家具のファンだってことは内緒にしておく。
ソビエトでは高価な品物を好む奴は粛清されそうなイメージがあるんだよな。

「自己紹介がまだだったね。俺の名前は高野太盛(せまる)ミウの夫だ」

「え? あのミウさんの?」

ミウさんの旦那だったのか。派手でミステリアスな雰囲気の妻と違って
旦那は平凡だ。少し小柄だが、少し長めの黒髪で黒い瞳をした、
どこにでもいる日本の若者だ。いかにも、もやしって感じでガタイが……
いや。むしろ筋肉質だな。まるでどこかで訓練で儲けたかのように、
服越しでもがっしりした体格をしてるのが分かる。特に胸の周りがハンパねえ。

「それで、今日は俺になんの用なんすか?」
「面談だよ」

面談……だと……? ざわざわ

「君と懇意にしていた女性、愛さんから大まかな話は聞いたよ。
 君はジャズ喫茶に行っても共産主義には全く興味を示さなかった」

「そりゃそうっすよ。恋人だったはずのあいつが、共産主義者だって
 知ったことにまず驚きました。それに共産主義ってマルクスやエンゲルス
 みたいなインテリの奴らが始めた思想なんでしょ? 
 俺みたいな無学の小僧には高尚過ぎて、正直ついていけねえっす」

「はっはっはっ。君は、はっきりものを言うんだね。
 このボリシェビキ本部でそこまで共産主義を否定するとは、
 本来なら尋問が必要になるんだけど、君は特別におまけしてあげるよ。
 高校生の時の自分を見てるみたいで楽しいなぁ」

太盛は、ずいぶんと楽しそうだった。
俺は自慢じゃないが愛想はゼロだ。そして学もない。
たぶんその辺にいる高校生の方が俺より学力高いと思うぞ。
こんなダメ大学生の俺のどこに興味を持ったのか知らねえが、
太盛は俺にべらべらと話しかけてくるんだ。

こいつは自分がボリシェビキになった経緯を説明してくれた。
悪いが全く興味ねえな。だいたいよぉ。ほとんどのろけ話じゃねえか。
高校時代にミウさんみたいな美人に追っかけまわされて、
仕方なく付き合い始めて大学卒業後に結婚。

卒業前にミウさんは身ごもっていたらしいから、でき婚ってわけか。

「愛さんは」

太盛はキラキラした瞳で続ける。

「同志達に君の身柄の拘束を命じていたそうなんだ。
 理由は君がビラを道端に捨てたからだ。ああいうの本当は良くないんだぞ? 
 共産主義者にとって情報の共有は命そのものだ。
 あのビラを作成するのに、どれだけ多くの人が苦労したと思う? 
 本当ならSNSで知らせるべき内容をわざわざ紙ベースにして手渡したんだ」

「あっそのっ、さーせん。おれバカなんで興味ないことは
 全然頭に入んないっつーか、その…」

「俺が特別に君を許してあげたんだよ。俺はボリシェビキでは
 人事を任される立場にある。もちろんミウの許可なしに勝手なことを
 するのはヤバいんだが、有望な人材を見つけた場合は俺の独断で
 保護しても良いと、法律ではそう決められている」

「あざっす……。俺、命拾いしたんすね。
 太盛さんにはマジ感謝してるっす」

「いやいや、別にお礼が聞きたかったわけじゃないんだ」

「いやでも……」

「君がボリシェビキの一員になると誓ってくれたら、それでチャラだ」

この男の目は、マジだった。

この男、よく見ると相当な美男子だ。
浅黒い肌に堀の深い顔だち。
真珠のような瞳が埋め込まれていて、
話すたびにコロコロと表情が変わり魅力的だ。
おそらくミウさんは学生時代から太盛の顔が好みだったんだろうな。

「……分かりましたよ。ここまで話が進んだら
 断れないじゃねえっすか。俺も組織の一員になりますよ」

「うむ。それでいいんだ」

太盛が握手を求めて来たんで、応じる。

ちょ、なんだこいつの手のぶ厚さは?
女っぽい顔にはとうてい似合わねえ、岩でも触ったかのような感触だ。
格闘技経験者なのか? 
さっきも言ったかもしれねえが、鉄のような胸板の厚みが特徴的だ。

「ボリシェビキ加入には面倒な事務手続きがあるが、あとで僕が全部やっておく。
 こちらは君の個人情報をすべて把握しているからね。
 君にはさっそく明日から訓練を受けてもらいたい」

「訓練すか?」

「ソ連軍で実施された歩兵の訓練だよ。ボリシェビキには諜報活動、工作活動、要人の
 拉致監禁から銀行強盗まで幅広い仕事に対応できる人材を募集中なんだ。
 どの部署を選ぶにしても、まずは歩兵としての体力作りが基本となる」

……そんなこんなで。

俺は次の日から、さっそく学校の訓練施設へ案内された。
自宅からここまで結構距離あるぞ。
バスを二本も乗り継いで40分もかかった。

今日雨じゃねえか。校庭はびしょ濡れだ。
いっそ座学でもしてくれた方がありがたいんだが。

「全員集まったか? 左の物から点呼を取るように」

ハートマン軍曹(フルメタ)にそっくりの教官が指示する。
俺らは体育館に揃った20名の男女だ。メンツは男女半々。女もこんなにいるとは。

年はバラバラだが、一番いってる奴で40代。まだ中学生にしか見えねえ少女もいる。

俺達は緊張しながら点呼を取り終え、ラジオ体操をやらされた。
第二体操までやるのか。第二の踊り方を知らねえから全員アホ面だ。
教官の動きをよく見ながら、ワンテンポ遅れで踊る。

そのあとは二人一組になり、筋トレ。
メニューは腕立て、腹筋、スクワットと基本的なものだ。

俺は10歳くらい年上の男と組まされた。
へい、年上のあんちゃん。顔が死んでるぜ?

「見ての通りうつ病なんだよ。俺は自発的にこの訓練に参加した。
 俺は長い間無職で他に働く場所も見つからなかったからね。
 ここなら住み込みで働けるから応募してみたんだ」

「この訓練って無理やりやらされてるんじゃねえんすか?」

「君は何を言ってるんだ? 求人広告のビラを見なかったのかい?
 我々はボリシェビキとなり国家転覆を狙うための教育を
 受けるためにここに集った同志だろう」

あのビラって、そんなことが書かれていたのかよ……。
確かに簡単に捨てたらヤバい内容だったのかもしれねえな。

俺と話してるこの男の名前は、水谷カイト。年は30過ぎか。
おっさんじゃねえか。

話を聞くとコロナのせいじゃなくて、
自分からブラックな職場を退職したそうだが、自分から
宗教団体に入るほど落ちぶれちまうとは気の毒なもんだ。

ボリシェビキの筋トレは変わっていて、
一度に多い回数をこなすんじゃなくて、
小さい数を何度かに分散して行う。

例えば腕立ては、1セットがたったの10回。
少し休んでから、もう一度1セット。
これを二人一組で交互に行う。
何もしてねえ方は、大きな声で数を数えてやる。

これを腕が限界になるまで行う。
たったの10回じゃ筋トレにならねえだろ。
3セットが終わったが、俺は楽勝だ。
水谷のおっさんも涼しげな顔をしてやがる。

こいつは背はそれほどではないが、
肩幅が広くて腕が丸太のように太い。
うつ病の割には自宅で筋トレしてたんだろうか。

この筋トレメニューは、40過ぎの奴にはきつかったみたいで、
額に汗をにじませてる野郎がいる。
運動不足なんだろうな。俺は自慢じゃないが、
高校時代から走り込みの練習は欠かしたことがねえ。
土日は夕方にその辺の河原を走ってるぜ。

腹筋も大したことなかったが、辛いのはスクワットだった。
俺と水谷は4セット目を超えるあたりから、息が切れるようになった。
スクワットって自重を使った筋トレで一番きついんだよな。

辛かったら途中でリタイアしても怒られないから不思議だ。
ソ連では筋トレとは筋肉の『連動と反動』を覚えるための
手段であって、動作を覚えることが最も重要。
筋肉を限界まで痛めつけるトレーニングではないそうだ。

これは別名GTGやサーキット・トレーニングと呼ばれていて、
持続力、持久力を鍛えるための訓練らしい。

アスリートのような瞬発力ではなく、持久力があることは、
歩兵にとっての最重要項目だと教わった。
歩兵の最大の仕事は目的地まで重い荷物を持って歩くこと。
銃を打つのは二の次なんだろうか。

筋トレ後は、実物としか思えない銃を渡された。
教官の話によると、球を抜かれた自動小銃らしい。
本物の鉄の感触はやべえ。ゾッとするほど冷たいし重いな……。
肩に担いだ方が楽かと思い、担いでみるが、ずっしりと肩に食い込みやがるぜ……。

「4列横隊を組め。各人の肩と肩がぶつからない程度の距離を保て。
 それでは前進を始める。私の後ろについてこい」

教官殿が、笛を鳴らすのでその音に合わせて左右の足を出し、
ゆっくり確実に前進をする。これが軍隊の歩行訓練か。
歩く速度は遅くて助かるんだが、右肩の上に乗せた銃の重さが地味にくる。

持ってるだけでも辛いのに、歩き出すと重が揺れる。
銃を肩にぴったりと付けて、揺れないようにするとマシになるが、
こんな重量物、普段から持ってねえんだよ。5分と歩くだけでも辛い。

外は雨だが、6月の湿度なので汗が一度出たら止まらない。
隣にいる水谷のおっさんは汗だくのくせに、
イキイキとしてて少し腹が立つぜ。
こんな茶番のどこに楽しむ要素があるんだ? マゾなのか?

教官が俺たちの歩くフォームについて指導する。
足を出すタイミングを左右の奴と合わせる、歩幅は小さく、
足の動きと腕の振りを連動させる。
カクカクと、ロボットみたいにリズムよく動けばいいんだな?
俺がそれなりにキビキビ動くと、教官にロシア語でハラショーと褒められた。

あそこにいる女子中学生の子なんて、腕が重さに耐え切れないのかプルプルしてやがる。
女子だと握力が足りねえだろ。重いものは握力を維持するのが大変なんだ。
かわいそうにな……。代わりに俺が銃を持ってあげたいくらいだが、
訓練中に余計なことをしたら鉄拳制裁されるのは確実……。ここは我慢だ。

銃を降ろした後は、体育館の端から端まで走り込みの練習。
全力で走れと言われたので従う。俺にとっては何でもない運動だ。
次はその場で10回ジャンプしてから、スキップで移動。
後ろ向きでダッシュ。危ねえなこれ。
高校の授業で習ったブラジル体操みたいな動きだ。

よほど運動不足なのか、ビール腹のおっさん二人が途中でぶっ倒れて
泣き言を言ってやがる。すぐ兵隊が寄ってきて、どこかへ運ばれていった。
あいつら、お仕置きされるんじゃねえのか?


訓練はその後1週間続いた。

この頃になると人数は半分に減っていた。
20代から30代の男連中ばかり残るのかと思っていたが、
意外なことにあの女子中学生も残ってやがる。

校庭での訓練は地獄だった。
トラックを永遠と走り続ける持久走。

アスレチックで不安定な足場になれる訓練。
縄のびっしり張った高台をよじ登ってから降りる練習。
15キロの荷物のザックを背負わされ、丸太ほどの幅の、
薄い板の足場をふらふらしながら歩く。足元は大きなビニールプール。
落ちたら全身がびしょぬれだ。ご丁寧なことに泥水ときたもんだ。

俺達はみんな途中で落っこちた。
泥水ってのはまずいね。一度落ちてみると嫌でも飲んじまいそうになる。
おまけに目も見えなくなるから最低の気分だ。
その日の晩飯まで泥の味がするんだからよ。

だが、どろ泥水なんてまだ可愛いもんだ……。

「はぁはぁ……もう腕が上がらない……腕が痛い……!!」

水谷カイトが膝を地面に付き、泣きごとを言ってるんだが無理もない。
4キロもある自動小銃を持ち、校庭の端から端まで全力疾走。
片道1セットを、10回。重量物を持ちながら走るってのは、腕もそうだが、
支えている下半身全体にも負担がかかる。
あの重さを味わった後、腕よりも足が筋肉痛になる。

重い物を運ぶ時は、腕の筋肉よりも下半身の方が大切なんだと知る。

俺達は、朝は筋肉痛と共に目覚める。
明日も明後日もこの訓練が続くのかと思うと、
胃痛になり支給された缶詰さえ喉を通らなくなっちまう。

俺はまだ学生で社会の恐ろしさを知らねえ身だ。
訓練のストレスで口内炎になってしまい、
訓練後に食料を口に入れると激痛で涙がボロボロ流れる。
ストレス性の口内炎だから、一度食べ始めてしまえば痛みはおさまるんだがな。

訓練開始後10日目から宿舎で寝ることは禁止された。
グラウンドにテントを張って寝るのだ。食料は上官から支給されるし、
軍服の洗濯はしてくれるそうだが、テント以外の場所で寝ることを禁止された。

おい、今日の夕方から雨になるんじゃなかったのか。
ふざけんな。だが俺らは文句を言える立場じゃなかった。
どんどん広がる雨雲を西の空に確認しながら、テントの設営を急ぐ。

テントの設営は16時から開始し、夕食が支給されるまでに速やかに
実施しなければならない。慣れてないと段取りが分からず時間がかかる。
テントの底には雨水除けのシートを張り、その上にテントをしき、
ペグ(でかいクギだ)をハンマーで打っていく。

テントに対し、八角形に広がるようにロープを張って地面に刺しておかないと
夜中に風で吹き飛ばされることになる。このロープの張り方にも
色々とコツがあって、綺麗にテンションをかけてやらないと使い物にならねえ。
中にベッド代わりのエアマットを膨らませて設置。
電池式のランタンも設置して、おおむね完了だ。

テントは一人に付きテント一つが支給される。
えーっと、ここまで残ってる連中の数だから……全部で八個のテントが張り終えた。
テントの作りはしっかりしてるんだが一人用なので狭い。
手荷物をぎりぎり置けるくらいのスペースなんで夜はザックを枕代わりにして寝る。

テントで寝泊まりとはね。キャンプ気分で最初は浮かれたもんだが、
アウトドア生活は思っていたより楽じゃねえわ。
仮にここが戦場だったら、いつ敵に襲われてもおかしくねえ。
ウカウカ寝てたら死んじまうなんて冗談じゃねえぞ。

家の中がどんだけ安全な場所だったことか。
あとで両親の結婚記念日にプレゼントでも送るか。
でも俺は金欠だ。あとで妹に借りるか。

上官が確認のためにテントの中を順番に覗いていく。
今日の設営は問題なかったようでおとがめなし。
整理体操(ソ連式労働終了体操)をしてから一同は解散になった。
17:30と早い時間だが、夕食が支給される。
なんとも味気ないレーションだが、貴重な食料に変わりねえ。

日が落ちるまで、夕食はキャンプ内なら好きな場所で食べれる。
上官からは、仲間内の親睦を深めるための時間にするようにと
言われている。俺は訓練でペアを組んだ水谷カイトの隣に座る。

「なあ水谷よ」

「僕の方が年上なのに呼び捨てかい?」

「はっはっはっ。いまさら細けえことは気にすんなよ。
 俺らはボリシェビキで同じ訓練を受けている仲間なんだからよ。
 資本主義者と違ってボリシェビキの間では年の差なんて気にしねえんだろ?」

「無論だ。ボリシェビキは階級闘争を憎むからね」

「この訓練に今日まで残ってるのは、体力に恵まれた男達だけだ。
 体力だけじゃなく根性もある『イキのいい奴ら』と言うべきかな。
 その中に明らかに若いお嬢さんが残ってるのには気づいたか?」

「若い女ってあの子のことか? アヤちゃんじゃないか」

「なに!? 知ってるのか!?」

「うち(アパート)の近所に住んでる娘だよ。
 不登校で問題ばかり起こすから有名人だよ。
 そのせいで警察にマークされていて、
 月イチくらいで補導されてるよ」

「警察に補導!? いったいどんなお嬢ちゃんなんだ!?」

水谷は詳しく教えてくれた。

川村アヤ(15歳)高校一年生(中学生じゃなかったのか)
身長は149センチで童顔。
肩の上で切り揃えられた黒髪、きりっとした顔立ち。
色白で目が大きいからロシア人によく間違えられるそうだ。

趣味は銀行強盗。

い、今のは……俺の聞き間違えじゃないんだよな……?
趣味が銀行強盗……だと……?

「彼女は中学二年の時に栃木ソビエトに加入した。
 防諜に配属になり電話対応をしていたそうだが、高校生になったから
 歩兵訓練も受けてみたいと、この訓練に自主参加したそうだよ」

「何が悲しくてこんな訓練に自分から参加するんだ。
 自衛官にでも目指したほうがよほど社会のためになるよ。
 今のところツッコミどころしかねえんだが、
 女なのによく訓練に耐えられるもんだな」

「体力的には相当厳しいんだろうが、最後は気合だろうね。
 一年以上ジムに通って体を鍛えてたらしいから、
 普通の女子高生よりはガッツがあると思うよ。
 たとえ肉体が限界に達したとしても、
 人間は強い精神力で乗り越えることができる」

気合……ね。

ボリシェビキの教官殿も似たようなことを言っていたな。

我らが祖国、ソビエト(祖国なのか…?)が、強大なるヒトラーのナチに
勝利した最大の要因は、全人民の勝利に対する強い意志であった。
兵隊、労働者、農民、鉄道輸送員にいたる、全てのソビエト連邦の
国民が最終的な勝利を得るために、諦めずに戦ったことである。

我々のドイツに対する勝利は、どれだけ誇ったとしても
誇り過ぎた、ということにはならない。

……と言われてもな。俺は生粋の日本人だから、
ソ連の歴史にまったく感情移入できねえよ。
戦争といったら太平洋戦争とか日中戦争のことしか知らねえよ。

日本がアジア太平洋でドンパチやってる間に、
ソ連は地球の反対側でドイツと4年間も戦っていたそうだ。
ドイツとソ連邦の間の戦争には様々な呼称がある。
西側諸国では欧州東部戦線、独ソ戦。
ソ連では大祖国戦争と呼んだそうだ。


あの教官は白人だったけど、やっぱりロシアの生まれだったのかね?

テントの前で寂しそうに缶詰の肉をスプーンですくっている、
川村アヤちゃんが視界に入る。こんなむさくるしいところに
女一人で寂しくねえのか。 

他の男達は一か所に集まって談笑してるぜ。
ここの男達は意外と気の良い奴らで、持久走の時とか、
何度もお互いを励まし合っていた。

アヤちゃんは顔つきも普通だし、ボリシェビキを目指してるような
悪党には見えねえな。訓練を始める前は俺に挨拶してくれる。
ズドラーストヴィーチェ(おはようございます)ってな。
余談だがロシア語の勉強にはNHKのラジオ第二放送がおすすめだ。

「あの嬢ちゃんに興味がわいた。ちょっくら挨拶してくるぜ」

「なっ……同士アツシよ。
 君はまさかあの娘に気があるんじゃないだろうね?」

「俺はロリコンじゃねえからよ。
 確かにここの生活で色々溜まっちゃいるがな、
 さすがの俺でも訓練中なのに女に手を出したりしねえよ」

「そういう意味じゃなくてだね……。
 彼女は男性恐怖症の噂あって男性が近くによると逃げてしまうんだ」

「男性恐怖症だぁ? ほんとかね。
 俺が確かめてやるから大人しくそこで見てな」

川村アヤ 15歳。中学生の時から共産主義に目覚めた。

※アヤ

チャラい感じの男が私に声をかけて来た。

「おう、嬢ちゃん。暇だったら俺と話でもしないか?」

なんなのこいつ?

伸ばしすぎた髪の毛はぼさぼさ。無精ひげ。
だらしない生活をしてる浪人生って感じの負のオーラ。
肌を見ると若いから大学生くらいの年齢なんだろうけど、
おっさんみたいなダミ声が、不快!!

私は近寄ってくるそいつから、1メートル以上の距離を取る。

「おいおい。別に取って食おうってわけじゃねえぞ?
 親交を深めようと思ってな。
 俺らは同じキャンプで訓練を受けてる同志じゃねえかよ」

気安く…

「あなたの」

「あん?」

「あなたの同志って言葉は、軽い」

「そいつはどういう意味だ?
 仲間のことは同志と呼ぶよう教育されたんで
 使ってみただけだが、気に触ったかい?」

「あなたの顔は、本当のボリシェビキじゃない。
 ボリシェビキは、気安く女の子に声を掛けたりしないはず」

「おっと。ナンパしたつもりはねえんだが。
 栃木ソビエトでは男性が
 女性に声をかけるのは禁止されてるのかい?」

「違う。そうじゃない。あなたは言動が軽い。
 ボリシェビキになる覚悟もないのに、軽い気持ちで
 訓練を受けて、それで良い気になってるだけの、資本主義者」

「そう言ってくれるなよ。俺だってちと事情があってここに来てるんだ。
 話すと長くなるからあえて説明はしねえが……まっ、とりあえずよ!!
 好きでここにいるわけじゃねえのは分かってほしいもんだね」

私は鼻で笑った。

「あんたみたいなエセボリシェビキが増えると、近い将来、内輪もめの原因になる。
 どうせボリシェビキの真の思想を知ったら怖くなって逃げだす臆病者のくせに。
 私はずっと前から、本当の志願者以外は入党させるべきじゃないって、
 ナツキ様にお願いしていたのに、それなのに全然聞いてくれなかった!!」

「ナツキ様って誰だよ。関ジャニの新メンバーの名前か?」

そんな低俗なアイドルなわけない!!
だいたい私はテレビ見ないし。

「高倉ナツキ様のお名前を知らないなんて、さすが俗物。
 栃木評議会(ソビエト)の中央委員会所属の委員。
 つまり我々の行政組織の閣僚に位置するお方なのに」

「そもそも栃木評議会ってなんだよ? うまいのか?
 きのこの山やたけのこの里と何が違うんだ?」

今の問いは、私を始め全ボリシェビキを侮辱した。
私は心に火がついてしまい、
ナツキ様を初め、栃木ソビエトのことをマシンガンの
ような勢いで説明してやった。

そしたらこの男、鳩が豆鉄砲を食らった感じになって、
途中からは興味なさそうな顔していたけど、
構わず10分くらいまくしたててやった!!

これがボリシェビキの革命的情熱なのよ!!

「あー、おめえがそのナツキって男に惚れてるのは良く分かった。
 話が長いんで途中でスマホいじりそうになったがな。
 おめーが男性恐怖症って噂は嘘だったんだな」

「男性恐怖症? 意味わかんない。 
 私は資本主義者の男が死ぬほど大嫌いなだけ。
 話をする価値もない。視界に入れる価値もない。
 そう。あんたと同じようにね」

男がふぅーとため息をついた。

「邪魔したな。気分が悪いんで自分のテントに戻って
 寝ることにするぜ。ガキの戯言には付き合ってられねえや」

だったら何で話しかけて来たの!!
むしゃくしゃする。日本の資本主義者たちは愚図ばかりだ。

夜8時すぎに大雨になる。勢いのある雨水がテントをバチバチと叩く。
ちゃんとペグを打ったか。ロープの張りは問題なかったかと不安になる。
グラウンドシートの一部が浸水してきて、パニックを起こしそうになった。
けど漏れ出したのは一部分だけで、マットを敷いた寝室部分は無事だった。

夜テントの中で一人ってのも、思っていたよりつらかった。
独りでいるのは、小学生の時から慣れていたはずなのに。
小6の時、同じクラスだったムカつく女子達の顔が浮かぶ。

雨は30分で止んだ。

テントから出て、空を見上げる。
くすんだ色の雲だ。大きな雲のすきまから、二等星が輝いている。
この星空を、かつてソビエトの同士達も眺めていたんだろうか。

全ては高倉ナツキさんと偶然出会ったことで始まった。
中学二年の夏休み、私は塾の夏期講習の帰り道を独りで歩いていた。
私は小学生の時から、女の子同士で上辺だけの仲良しごっこをするのが嫌いだったから、
中学に上がってから友達を作らなかった。クラスでは表面上はお話はするけど、
ただそれだけ。プライベートまでは関わらない。

どいつもこいつも、考えてることが幼稚すぎるのよ。
サッカー部でイケメンの男子のうわさ話とか、
○○ちゃんちのお父さんが会社を首になったとか、
女の先生が三十路で婚期を逃してるとか、そんな身近なことなんて興味ない。

私は家で勉強ばかりしていたから、成績は学校でも塾でもトップクラスだった。
それなりに裕福な家庭で両親に大切に育てられたから、
きっと自分も父と同じように立派な仕事につくんだと信じていた。

でも、全部間違っていた。

私が14歳の誕生日を迎える時、父が朝の通勤電車に飛び込んだ。
日本では一時期アベーノミクシューの効果で、大企業の利益が
過去最大化した時期があった。

その時、父は電機メーカーのエンジニアをしていたんだけど、
なぜか早期退職のメンバーに選ばれてしまった。
早期退職とは、会社の求めに応じて早めに職願すれば、
その時期の速さに応じて退職金を多く支給する
という腐った制度。つまり首だ。

私の家は父と母、私の三人家族だった。
父は東京の本社勤務で、栃木に住む私達母子に十分すぎる
仕送りをしてくれていた。父は仕事に専念するため、
私達家族と同居するのを拒んで都内の社宅に住んでいた。

父は解雇される理由が分からず、怒り狂った。
父は優秀なエンジニアで、本社勤務の人だった。
年収は750万を超えていたし、世間的にはエリートの部類だと思う。

母は父とこれからのことを相談するためといい、東京へ行った。
残された私には何もできなかった。
私は家事全般が苦手。勉強することだけが取り柄で、
家の仕事は全部お母さんに任せっきりだったから、
毎日コンビニご飯になってしまった。
買い物がめんどくさい時は、ピザの宅配サービスを利用した。

今は便利な世の中。お金さえあれば何でもできる。

「帰るのが遅くなるかもしれないから」と
お母さんが30万円も生活費を置いていってくれたから、
当分の間は母親なしでも生きていける。

でもお父さんは……。

父はその一か月後、自ら命を絶った。
母ともかなりの口論をしたらしい。
毎朝起きるたびに狭い部屋で怒声が飛び交う日々。

再就職先を探すために就職あっせん業者と何度も顔を合わせ、仕事を紹介される。

エリートの父は、相談窓口で声を荒げていたと母は証言した。
前職に比べて給料が半減。ひどいものでは、三分の一にまで減ってしまう。
40を過ぎた父の年齢では、満足する転職先を探すのは相当に難航した。

父は母に暴力までふるうようになり、朝からお酒を飲んで堕落した。そして……。

私の世界が全て真っ白になった。

私は葬式の最中、父の遺影の前で泣きながら、いったいこの恨みを
どこへぶつければいいのか、分からなかった。
心のモヤモヤを消してしまいたい。父が解雇された本当の理由が知りたいのだ。

父は優秀なエンジニアだったはずだ。
アベーノミクシューの成果で国は豊かになったと、あれほど
自民党が自信をもって宣伝していた。テレビで官房長官も毎日自画自賛している。
母も新聞を読みながら、私達は自民党のおかげで将来安泰だと、
これからも自民党を支持しようと、同じことを繰り返した。

私たち家族を苦しめた原因を作った人間がいたら、
もしそんな奴の正体を知ることができたら、
自分の人生の全てをかけてでも殺してやりたいと思った。


「君、ずっと橋の下を眺めているけど、どうしたの?」

ナツキさんに初めて声をかけてもらえたのは、
ちょうど私が橋の上でボーっとしていた時だ。

きっと落ち込んだ顔してるから自殺志願者だと思われたのか。
水面を眺めていると心が落ち着くから、ここにいるだけなんだけど。

「ここ、こうやってじっとしていると、たまにカワセミが飛んでくるの。
 ほら、あそこのヨシの上にね。お兄さんはカワセミって知ってる?」

「もちろん知っているよ。素敵な鳥だ。
 瑠璃色とオレンジの組み合わせが宝石みたいに綺麗だよね」

「本当に、綺麗です……。でも小さくて、
 ここからじゃ距離が合って、こめつぶにしか見えなくて」

「この写真を見てごらん」

「わあ綺麗。お兄さんが撮ったんですか?」

「あいにく僕には撮影の腕はなくてね。僕の部下がプレゼントしてくれたんだ。
 部下に野鳥観察の得意なソ連人がいてね……おっと、余計なことを言ってしまったかな」

私はナツキさんのスマホの写真のことよりも、
この人の話の内容が気になった。ソ連人……? 部下……?

この人は会社の偉い人なんだろうか。
背は高いし、瞳がすんでいて、とってもきれい。
紳士的な話し方をするから穏やかそうなイメージだけど、
どこかミステリアスで危なっかしい感じもする。

少なくとも私の身の回りにいる身近な大人
(学校の先生とか)にこんな雰囲気の人はいない。

他人に全く興味のない私でも引かれてしまう何かが、この男性にはあった。

「あの、ソ連は崩壊したって学校の授業で習いました。
 あなたはどうして今ソ連人って言い方をしたんですか?」

「あはは。まいったなぁ。
 聞き間違えってことにしてくれると助かるんだけど」

「失礼ですけど、会社員の方ですか?
 どこの会社に勤めてらっしゃるんですか?」

「会社というか……僕の場合は政治組織だからな」

「政治家の方なんですか!? すごく偉い人なんですね!!」

それから私は質問を繰り返したけど、ナツキさんは
愛想笑いをするだけで質問をかわしてしまう。
仕事があるからと、そそくさと帰ってしまう。

残念ね。もっと話がしたかった……。

私は次の日も彼に会えるかと思って、昨日と同じ弁天池にいった。
出流原町にあるこの弁天池は、栃木県の観光名所になるほど有名な場所。
私は気分が落ち込んだ時に寄って癒されている。
ちょうど塾の帰り道にあるから寄りやすい。

澄み切った池の中に色とりどりのコイが泳ぐ。
コイが泳いでいる。黄色のコイも……。泳いでる……。

その日は彼……来なかった。
初めて会った人なのに……胸がドキドキする。
来てほしかった……。けど伝える手段がないし。
こんな感覚、生まれて初めてだった。

同級生の女子がよく言っていた初恋って言葉を昔の私はバカにしていた。
でも今は初恋って本当にあるのだと知った。

次の日も来週も待った。
けど彼は来なかった。
彼と再会したのは、セブンだった。

私は母に買い物を頼まれて、本当はスーパーまで行こうかと思ったけど
距離が離れるので、なら近所のコンビニでいいやと思って寄った時だった。

クールビズのYシャツでびしっと決めたナツキさんが、
コピー機の前で真剣な顔をしていた。
不思議な感覚だった。それに怖かった。
ナツキさん、あんなに鋭い目つきをしている。

事務用紙みたいなのをどこかへ送信していたように見えた。
たかがFAXで送信するのにそんな顔する必要あるんだろうか。
たまたま機嫌が悪いだけ? それに今時電子メールじゃなくて
実物の紙で送信するなんてめずらしい。

「久しぶり。前に会ったことあるよね。覚えてるかな?」

また、あの時の優しい微笑みだった。
私は彼の顔が大好き。

私は正直に、ナツキさんに会えなくてさみしかったと伝えた。
女の方から告白してるみたいで耳まで真っ赤になったけど。

するとナツキさんは、少し照れくさそうに咳払いをしてから、
私をファミレスに誘ってくれた。
この人の雰囲気だと高級レストランの方が似合うけど、
私がお子様だからファミレスになってしまうのは仕方ない。

実はお腹は全然減ってなかったんだけど、彼と話ができればどこでも良かった。
そんな私の気分を察してか、ナツキさんはドリンクバーだけを注文してくれた。
そして初めてお互いの名前を知った。

「川村さんはこの近所に住んでるんだね。
 ご両親も一緒に住んでるの?」

「いえ。私の父は、一ヵ月前に亡くなりました」

「え」

冷静なナツキさんもさすがに固まった。
やば……。せっかく会えたのに空気が悪くなる。

「いえっ!! あのっ、私は全然気にしてませんから。
 父は、その、仕事は真面目だったんですけどっ。
 自民党がいい加減なこと言ってるから私たちは
 それに騙されちゃって。ママもいつもいつもっパパの会社は
 安泰だって…ってあれ? 私何言って…」

私はナツキさんの前だと言うのに、ふいに父のことを
思い出してしまったからか、涙が流れていた。
ナツキさんは空気を読んでお店の外に連れ出してハンカチを貸してくれた。

「最初に君に会った時、すごく心配しちゃったんだ。なんだか深刻な
 悩みを抱えているような気がしてさ。僕のカンは当たったようだね。
 さっきは無神経なこと聞いてしまってごめんね」

「いえっ、本当にいいですからっ。
 私なんかに頭を下げないでください」

この人は、人を思いやれる人なんだと思った。
こんな一度しか会ったことのない小娘なんかに謝ってくれるなんて。

私はすっかり気分が落ち着いたんだけど、
ナツキさんは今度は真剣な顔をして私にこう聞いてきた。

「川村さん。君は自民党が嫌いなのかい?」

「はい。大っ嫌いです」

「そうか。奇遇だね。僕も自民党が大っ嫌いなんだ」

「え?」

ナツキさんは、この時初めて自分の組織について語ってくれた。
栃木評議会。別名、栃木ソビエト共産党……。
ここは田舎だけど、そんな名前の政治組織があったのね。

資本主義の批判の部分は難しくて理解できなかったけど、
自民党のやってる経済政策が間違っていて、多くの人が
苦しんでいることってことは納得しておこう。

私の父の死因についても、ナツキさんがあとで
調べてくれると約束した。連絡先を交換してから別れた。

後日。
ナツキさんからLINEでメールが来た。

どうやら父の解雇理由は、『経営の合理化』によるものらしい。
ナツキさんの説明は、子供の私にも理解できるように
平坦な文章で書かれている。下手な参考書よりも丁寧な文章だった。

でも内容が高度な経営に関するものなので、全部を理解するには私はまだ幼過ぎる。
ナツキさんはそこまで見越したうえで、文章の最後に要点をまとめてあった。

・日本の大手企業は、2017年に一番お金がもうかった。
・もうかった後は、次の不景気に備えて準備が必要。
・だから、お給料をたくさんもらってる人が、邪魔になる時もある。

あれからボリシェビキとして勉強を続け、
高校生になった今の私なら、もっと複雑に説明できる。

日銀の規制緩和の加速により、円安を維持したまま貿易量が
増えた2016年以降に、電気、自動車メーカーを中心に利益が過去最大になった。

しかし、経営上の判断では、45歳から50歳以上で、年次昇給を重ね、満額の賞与を
得ている社員を長期の負債と定義し、整理解雇を断行した。

これは長期経営を考えるうえで重要なことだった。
まだまだバブルの名残の有る45歳以上の世代は、
今の学生たちと違い、デフレ前で物価も賃金も高かった。

その高すぎる(今と比べて)給料水準の彼らに人件費を払い続けるよりも、
彼らの半分の人件費ですむ若者の採用を積極的に行った結果がこれだ。

つまり金のかかるジジイの一部は切り捨て、低賃金が当たり前、
最悪賞与も昇給もない条件さえ飲んでくれる、不景気時代を生きる若者を
採用したほうが、経営上のメリットとなると判断したのだ。

過去最高益を得た状態ならば、若者に対する投資、すなわち
教育を行う資金的余裕が企業に生まれている。
企業は、今後100年の繁栄を得るために中高年の社員を切り捨てたのだ。

この年は特に早期退職(整理解雇)が多かった。
前述の製造業を初め、小売ではセブンイレブン、
低金利で苦しむメガバンク三行など。日経新聞の報道では
二年間の累計で14000人以上が解雇された計算になる。

これらは、脂の乗り切った「幹部クラス」も多数含まれており、
ただの末端作業員を大量解雇したのとは訳が違う。

ナツキさんは言った。

「アヤちゃんは父の敵として恨む者が欲しいと言ったね。
 恨むべきは資本家だ。資本家とは自民党でもあるけど、
 企業そのものといっていい。企業は利潤の最大化を目的として
 行動している。企業にとって従業員とは使い捨てのゴミだ。
 労働基準法も日本国憲法も国民を守ってくれない」

かつてソ連では、全ての企業は国営化されて、
一般の労働者は定時退社が当たり前。解雇もなかったという。
計画経済に基づいて働くので、毎日決められたノルマをこなせばそれで終わり。
世界の市場によって景気が左右されないので、突然解雇になる従業員はいない。

そもそも企業の経営権を握っているのは国である。
国家の中枢を担う共産党員が、企業を管理する。

日本人を初め、世界の資本主義国の国民は、企業の犬だ。
企業を操っているのは、経営者や出資者などの資本家。
やつらにいいように使われて、最後はごみとして捨てられる。

運が良い人は一生同じ会社で働き、最後は満額の退職金を
貰えるかもしれない。今の日本の公務員がそれに当てはまるのだろう。
だが、多くの国民は民間企業で働いている。奴隷として……。


私は月に一度、例のファミレスでナツキさんと会うようになった。
ナツキさんは組織の中枢の人だから、普段だったら時間なんて
取れないらしいけど、私の誘いはほとんど断らなかった。

ファミレスは私たちにとっての政治サロンだった。

「生産手段を資本家に独占させてはいけない。
 僕たちの力で取り戻すんだ。生産手段を、
 国民全員で管理する。それが共産主義の原理だ」

「ナツキさんの言ってることがすごく立派なのは分かります。
 でも本当にそんな社会を実現できるものなんですか?
 資本家の奴らは自分たちの権利を守ろうとするでしょう。
 それこそ命がけで。もし自民党から政権を奪えたとしても
 すぐ奪い返されちゃうかもしれない」

「資本家は国外追放。もしくは収容所送りだ」

「はい?……」

「我々の理想とする社会では資本家は抹殺されるべきだ。
 奴らを生かしておくわけにはいかない。アヤちゃんが
 言いたいのは反乱が起きるってことだと思うんだけど、
 そもそも反対主義者は全員抹殺するのが僕らの仕事なんだ」

下半身の力が一瞬で抜け、失禁してしまいそうになる。
今まで感じたことのない恐怖だった。

この人は、ただ優しいだけの男性じゃないんだ……。
この人の殺すって言葉は、重みがある。
冗談じゃなくて、この人は、過去に何人もの人を殺しているんだ。

でもそれは快楽殺人じゃない。信念に基づいた殺人。
それにこの人が直接手を下しているわけじゃなくて、この人は
テーブルに肘をついたまま部下に命令できる立場の人。
この人の指示一つで、反対主義者は粛清される……。

「怖がらせちゃったようだね。ごめんねアヤちゃん。
 ただ我々の党が、どういう政治をするのかを君に教えてあげたくてね。
 君は、僕から見て十分にボリシェビキになる素質がある。
 僕はこれでも人事をつかさどるポジションにいてね。
 人を見る目はある方だと自負しているよ」

共産主義者にとって、一番の敵は資本主義者や民主主義者など
自分達と反対の考えを持つ人達。人種国籍は関係ない。

同じ日本人でも、資本主義者は敵。
普通だったら同じ日本人を殺すことに抵抗があるかもしれない。
でも、この人たちには全くそれがない。

重要なのは『敵か味方か』

同じソビエトの理想を持つ者なら、モンゴル人でもグルジア人でも
私達の同士。共産主義はグローバルな思想。全世界の全ての人が
同時に革命を起こせば、世界は一つになれる。

私は帰り際にナツキさんにもらったビラを大切にとっておいた。
寝る前に読むのが日課だった。広告のチラシくらいの
大きさで裏表にびっしりと文字が書かれた、2、3枚の紙。

一度に手渡す量は少なくて、会うたびに新しい紙をくれる。

ボリシェビキは、電子メールより紙を好む。
電子上では内務省や警察からハックされる恐れがある。
今でもマイナンバーの活用によって全国民の預貯金残高は
全て政府に把握され、オレオレ詐欺に利用されている。

・コミンテルン。通称、第三インターナショナル。
 我々はかつて滅亡してしまった国際組織を復活させる。
 国際スパイ組織の歴史や詳細は、後日配布されるビラに掲載予定。

・足利市にある『学園』の入学案内。
 『学園』は特定の地名や法人役員の名前を有さない、世界で唯一の私立校である。
 『学園』では生徒の間に階級の上下はない。
 階級の敵をせん滅するための ボリシェビキを養成するための高等教育機関。

私が今年受験なのを知ってこのビラをくれたのね。
つまり私に学園に入れってことなんだろう。もちろん普通の学校なんて
絶対にごめんだから、ナツキさんのコネで推薦で淹れてもらうかしら。
なんて卑怯なことを考えていると。

「ナツキさんの隣で写真に写ってるこの女は誰……?」

校長は若い女だった。どう見ても日本人なんだけど
どこかエキゾチックというか、異国情緒あふれる女だった。
悔しいけど、ものすごく綺麗だ。
スーツ姿が良く似合ってるし、おだやかな微笑みと
後ろで結った髪型がすごく知的な印象を与える。

名前は高野ミウ……?
どこかで聞いたことがあるような。

それは学園の幹部5名による集合写真。
ナツキさんは今は学校関係者じゃないけど、
市議会の代表として出席したって解説に書いてある。

ミウという女が、ナツキさんと肩を並べてる姿がなんか怪しい。
仕事の関係にしては距離が近すぎる気がする。
苗字は違うから結婚してないんだろうけど、付き合ってるのかな?
女のカンだけど、この二人は普通の関係じゃないような気がする。

私は学生だからナツキさんとはたまにしか会えないけど。
この女は仕事の関係でよく会えるんだろうな。彼と。

胸の奥に何かが刺さる。
私はナツキさんに電話してみようかと思ったけど、

夜の8時過ぎ。
彼は多忙だから出てもらえるわけがない。
メールするのが無難だろう。

ナツキさんは、その日のメールは必ずその日のうちに返してくれる。
返事が来たのは11時過ぎだった。

『ミウと僕は同い年でね。
 学生時代に僕が生徒会長。ミウが副会長だったんだ。
 ミウは大学卒業後に結婚して子供もいるんだよ』

なんだ……既婚者だったのか。
だったら安心した。でも下の名前で呼ぶほどには親しいようだ。

それに高校生の時に二人で生徒会のトップをやっていたなんて。
私の知らないナツキさんをこの女は知っているのね。
ナツキさんはミウは少し怒りっぽい子だったけど、
組織をまとめる才能はすごかったって言っていた。

彼がそこまで褒めるんだったらどんな女か、この目で見てみたい。
私は学園のオープンキャンパス(学園案内)に参加することにした。

アヤは学園で高野ミウと会った。

※アヤ

田舎にしてもこの学園の敷地は広すぎる
校門からだと、どこまで先があるのか全然分からない。
巨大なバリケードで周囲が外から見えないようになってるし、
校舎もそびえたつような雰囲気。
校舎自体が軍事要塞みたいに頑丈に作らてるのは間違いない。

校門から昇降口へと続く歩道がアーチ状になっていて、
おしゃれなイングリッシュガーデンを横目に見ながら歩いた。

今回の学園案内に参加したのは。私を含めてたったの8名の男女。
先導役の先生は、「ナジェージダ・アリルーエワ」って名前の
30歳くらいの女。色気がすごくて、輝くような金髪をポニーテールにしている。
歩くたびにポニーが揺れる。胸もお尻も大きくて、私達日本人の体形とは全然違う。

私達はナジェージダの後ろを歩いた。

「ウフふふ。あなタ、キンチョウしているのネ?」
「い、いえっ、別に」

香水の香りが……した。
歩きながら私に振り返ったアリルーエワは、ナツキさんと似たような
きさくな感じで微笑み、私の隣を歩く。

彼女は自分の出自について、聞いてもないのにベラベラ話し始めた。
マスクヴァー(モスクワ)の郊外出身で共同アパートで生まれ育った。
モスクワでは珍しくウクライナ系の祖父を持つ。弟が二人いる。

中学の時に革命思想に出会い、当時の与党の「統一ロシア」の政策に不満を持つ。
たまたま『学園』がネットを通じてボリシェビキを全世界から募集していたのを知り、
日本の関東地方に興味を持ち、高校一年の秋に『学園』へ転入した。

「この学園ニ興味を持ってくレる人は、革命思想を持ってる。だいたい合格。
 半分の人はね。もう半分ハ、ダメ。遊び半分で来てる人ばっかり。
 でもあなたは、ダイジョウブ。目つきでワカル。ボリシェビキの顔をしている」

ロシア語のアクセントで日本語を話すものだから、
一部の音を歌うように伸ばしながら発音している。
声が腹の奥から出る感じで、女子にしてはかなり低い音程。
それに巻き舌が特徴的だ。

「あそこが校長室。マズはぁ、校長先生にあいさつするのヨ」

ナジェージダは、校長室を指さした。
校長室は電子ロックされているだけでなく、一種の要塞と化していた。
頑丈な二枚扉は鉄製で、扉前には有刺鉄線の鉄条網が張られていた。
さらに赤外線センサーと思われる装置が廊下の壁に取り付けてある。
ここまでする必要があるってことは……たぶんここは安全じゃないのだろう。

ナジェージダがトランシーバー?らしきもので通信すると、
何かもめていた。どうも校長先生は今日は不在らしい。
校長先生は高野ミウ。ミウは学園の校長だけでなく
市議会のメンバーにも選ばれているので、緊急の会議が
入ると、そちらへ出向かなければならない。

今日がたまたま、その日だったらしい。
正直すごく残念だった。
私は写真でしか見たことのない高野ミウをこの目で確かめたかったのに。

代わりに教頭先生が来てくれるから、廊下で待つように言われた。
廊下は異質だった。天井や壁のいたるところにスピーカーや
盗聴器、赤外線センサーと思われる装置がある。

学内での反乱分子を摘発するために用意されたのだろう。
ナツキ様は、学生の頃はこの学び舎で教育を受けたのね……。

「ごきげんよう。未来の同志達よ。そして初めまして」

凛とした声が響いた。見学者一同がそちらへ注目する。

そこにいたのは教頭先生を名乗る女だった。
若い女が教頭だってことにまずびっくり。
しかも清楚な美人。背も高い。

黒くて長い髪。ふわっとウェーブのかかったそれを
背中へ垂らしている。すごい髪のセットの仕方だ。
重力に逆らったかのようにふんわりと左右に広がっている。

でも目つきがすごく悪い。海賊を連想させる三白眼。
ほほ笑んでるつもりなんだろうけど、
表情が硬くてにらまれてるようにしか見えない。

「校長の高野が外出中ですので、
 本日は私がご案内させていただきます。私の名前は……」

高倉……ユウナ?
まさかとは思う。たまたま名字が同じだけだろう。
でも顔のパーツが彼に似てる。整った鼻筋とか。

気になる。気になる。……すごく気になる。

「みなさんも本校のオープンキャンパスに参加されたのですから、
 この学園が一般的な高校の学習内容とは一線を画していることは
 ご存じかと思います。まず普通科に該当する科はございません」

主に下の四つに分類される。

保安科
防諜科
外国語科
生物化学科

『保安科』は体育会系コース。
肉体訓練が主で、卒業後は警察や兵隊になるべき訓練を行う。
学内においては秘密警察として学内の反乱分子の
摘発、監禁、尋問、拷問を行う。

潜入、破壊工作の訓練。
学内の収容所の管理、運営。
収容所の囚人の管理。まさに刑務所の勤務に近い。

『防諜科』は文系でスパイを要請するコース。今一番力を入れてるのは
サイバーテロリストの要請。金融機関への不正アクセス。資金の強奪。
ネット回線のジャック。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、ステマ、
あらゆるメディアを通じての共産主義の宣伝。ビラの作成。
資本主義の批判。共産主義への勧誘。

PC関連のスキルは必須。
文才があって演説がうまいなど、
言葉を通じて人を先導するのが主なお仕事。
全校生徒のラインなどSNSの内容も把握しているそうね。

『外国語科』はガチの文系コース。
名前の通り外国語を実践可能なレベルまで習得するのが目的。

実践可能なレベルとは「外国語で外国人と喧嘩が可能なレベル」
「外国語で新聞が読める」「外国語で国営放送の内容が80%理解できる」
を指す。英語は基本として、ロシア語、ドイツ語、フランス語、中国語、
朝鮮語の中から好きな外国語を選択して三年間学ぶ。
三年時よりアラビア語も選択可能になる。
同時に学べるのは三か国語までだが、学園は二か国語までを推奨している。
三年間では一度に覚えきれないからだ。

100年以上の共産主義の歴史がある仏の『パリ・コミューン』
旧ソビエト共産主義諸国(15か国、ロシア語で応答可能)、
カール・マルクスの母国ドイツ、現共産主義国の中国、
北朝鮮と連絡をするのが目的。

外国語科には高度な政治、経済、軍事のレベルをまず日本語で
理解する必要がある。実は生徒から最も人気がないが、
やりがいのある名誉なコースだとユウナさんから教わった。


『生物化学科』理系コース。
爆弾、生物兵器、細菌兵器などを作るのが目的。
PCウイルスの作成も行っている。世界のテロリストが使用している
便利な武器や爆弾を直接輸入し、分解して製造したりもする。

この学園に必要な軍事力の基礎を作るコースで、
振り分け試験の成績優秀者で選抜されたエリートコース。
全学年でたったの3クラスしかない。つまり各学年に1クラス。

授業らしい授業はなく、基礎講習が終わったら三学年合同で
研究室や屋外実験場を自由に使ってよい。茨城ソビエトの人たちと
昔から交流があって、夏の間は山の中にこもって爆弾を製造する合同合宿がある。

「パンフレットのビラを渡しておきましょう」

ユウナさんから渡されたビラを読むと、
ますます頭が痛くなってきた。

学園の沿革とか、卒業生の人達の功績が書かれてるんだけど、
これがすごいのよ。写真からして偉人の集まりって感じがする。

当時のミウ、ナツキさん、ごついロシア人のおっさん?(高校生って書いてる)
がいる、生徒会メンバーの集合写真。ミウが在学中の時の写真は
今から10年も前になるけど、写真からも威圧感を感じるほど。

かつてミウは副会長として学園中を恐怖で支配し、
あらゆる反対主義者と、そう思われる人まで強制収容所送りにした。
生徒会内部であっても職務怠慢な者は
革命的情熱が足りないとして処罰の対象にさえなった。

一番すごかったのが、当時の秘密警察であった保安委員部に対してだ。
強制収容所7号室の囚人の集団脱走を許してしまった時、
保安委員部のメンバー70名にスパイがいると断定し、
全員の監禁と尋問(拷問)を実施しようとしたことだ。

会長のナツキさん他の説得があって、最終的には
ボリシェビキ宣誓書に署名する程度の再教育で済んだという話だ。

「それで……わが校の生徒達の活動内容なのですが、
 参考程度に見ていただけますか?」

ユウナさんが別のビラを渡してくれた。
各コースの活動の実績や内容が書かれている。

なんか、理系コースの人が書いた爆弾の設計図らしい。
複雑すぎて何が書いてあるのかさっぱり分からない。
高校生で理解できる人いるの? しかも実際に爆弾を製造して
中東地域へ輸出もしてるそうだけど。

次は文系コースの外国語科。パリ・コミューンの主要な幹部の写真と経歴が
書かれている。しかも全部フランス語で書かれているから
何が書いてあるかさっぱり。英語ですらわからないのに。

あとフランス語の歌? 民謡の歌詞がフランス語で書いてある。
音楽の時間に使うのかと思ったら、発声練習のため?

「語学は発声練習が基本。フランス語の基本会話(構文)を
 一日2時間。累計500時間。リスニングはラジオやテレビをその倍の時間
 続けてもらうわ。辞書丸一冊分の構文を丸暗記。覚えるまで音読を続けます」

言語って口に出さないと絶対にマスターできないんだ……。
しかも会話する以前に、まず独り言から覚えるのがコツか。
ベルギー、オランダなど多言語話者の国の学習法を参考にしているんだって。

防諜では各種新聞を読むことが義務化されていた。
普通の新聞から経済新聞まで全部。つまりそれらの
内容を理解するために幅広い知識が必要とされる。

自然と政治、経済、外交、軍事、化学、医療に詳しくなる。
定期テスト時には、宣伝に必要な文章表現力で強烈に資本主義を
批判しないと、革命的情熱が足りないとして処罰されることもある。

なんていうか、住む世界が違う。
思想とかそういう次元じゃなくて、
学校はそもそも勉強のできない馬鹿を求めてない。

「ビラは各自持ち帰ってもらって結構です。
 大切に保管していただけると嬉しいですわ」

ビラをその辺に捨てるか、資本主義者に渡したら処罰されそう……。

「機密保持のため教室内を見学することはできません。
 ですが私の口からでよければ、疑問質問に答えさせていただきます。
 さて未来の同志諸君。質問はございますか?
 気になったことは何でも構いません」

私達は思わず委縮した。
校長室で校長用のイスに腰掛けるユウナさん。
私達見学者は来客用のソファーに座っている。

下手なことを訊いたら粛清されるに違いない。
緊張で空気が重くなるけど、勇気のあるメガネ男子が
ユウナさんの学生時代の専攻を訊いた。

ユウナさんは外国語科だったらしい。
試しにとフランス語とロシア語で自己紹介を披露される。
ペラペラすぎてネイティブにしか思えなかった。

「あの、高倉先生はお兄さんとかいますか?」

見学者の視線が私に集中したのがわかった。
何言ってるんだこいつ、みたいな。軽蔑の視線。
でも気になったんだから我慢して

ユウナさんは一瞬だけ目を見開いた後、

「兄がいますよ。一歳年上の」
「その人ってこの学校の卒業生ですか?」
「ええ」
「このビラの写真に写っている人ですよね?」
「よくご存じね。兄にあったことがあるの?」
「はい。ありますっ」

その数分後、解散となった。

私はユウナさんに呼び止められ、ナツキさんとの関係を詳しく聞かれた。
警察の尋問みたいに同じことを何度も聞かれてストレスがたまる。
不思議なことにユウナさんは私とナツキさんがファミレスで
会っていたことに嫉妬してる……? 説明会の時とは別人の顔だ。

「図に乗らないでね。お兄様はね、誰にでも良い顔をする人なのよ。
 ちょっと優しくされると、あなたみたいな勘違いする女が現れる。
 いつものことよ。そういうの、みっともないから止めた方がいいわよ。
 あと必要もないのに連絡をするのもやめて。兄は忙しいのよ。
 あなたみたいなお子様には分からないでしょうけど」

今時自分の兄をお兄様なんて呼ぶ人いたんだ。
こいつブラコンじゃん。自分の年齢考えろよオバサン。

ああ無理。やっぱりこの学園は私には合わない。
別に私がここでプロのスパイにならなくても、これだけ
多くの同志がいてくれるなら、いつか革命が起こせるでしょ。

今日はいろいろなことが分かって収穫の多い日だった。
私は家から一番近い高校に入学しよう。
どうせ資本主義社会の教育プログラムなんて社畜を生み出すための訓練。
まじめに勉強したって将来社畜にされて人生おしまいなんだから。

高倉ユウナ。学園の教頭。訓練兵の孤島への移送を計画する。

ユウナの一人称。

『お誕生日おめでとう。熱烈なるボリシェビキにて
 同志レーニンの忠実なる後継者、わが親愛なる妹、ユウナへ』

私はお兄様から送られたラインメールを見つめていた。
もしここに友達がいたら「ユウナったら乙女の顔をしてる」と
からわかれても不思議ではないだろう。

今日は私の27回目の誕生日。
狭い団地の中で家族と一緒にささやかなパーティを開いていた。
テーブルにいるのは両親と私と妹のアユミだけ。兄さんの姿はここにない。

時計の針がむなしく時を刻み、8時をさした
テーブルには冷めきったチキンやパスタが並んでいる。
シャンペンやワインを入れるためのグラスは空のまま。

「ナツキ兄さんは、今日は仕事が立て込んでいるので
 来れないそうです。お祝いのメッセージだけはいただきました」

「だったらこれ以上待つ必要ないよね。
 一時間もこの状態で待たされたからお腹すいた」

アユミはいただきますも言わずに、チキンを食べ始める。
父はまだ食べるべきか迷っているみたいだ。
私に気を使いながらこう言った。

「ナツキの奴もなぁ、自分の妹の誕生日の日くらい、
 予定を開けとけったんだ」

「お父さんも食べていいよ」

父は「そうかい」と言い、パスタに手を付ける。
母も申し訳なさそうな顔をしながら食事を始める。

この家では、私が実質的な家長となっている。
この家でお金を稼いでいるのは私だけだからだ。
私は学園の幹部として働いている。

学園には市から大量の助成金が入るためか、
幹部クラスの給料は日本の平均的な労働者と比べても高額な部類に入る。

兄さんはお金を定期的に送金してくれるから、
私と兄の収入だけで家族全員を余裕で養えてしまう。

4歳年下の妹のアユミは、大学を出てから就職もせずに家事手伝いをしている。
この子はナツキ兄さんを慕っていて、将来は兄さんと同居して家事に専念するから、
就職先を見つける必要はないとか、幼稚なことを言っている。

我が愚妹には今までさんざん説教したけど
効果がなかったのでもう諦めている。

両親は無職だ。母は長年勤めていたパート(運送会社の事務)をやめて専業主婦をしている。
父は家でお酒ばかり飲んでいる。たまに思い出したかのように派遣会社に登録して
働きに出るけど、3週間もすれば無職に戻る。

父はかつてエリート商社マン。
日本で名のある総合商社でエネルギー資源担当に部署に所属していた。
重要な契約を結ぶために頻繁に東京と中東を行き来しては時差ボケに悩まされる。
出張先のイスラエルで、交渉相手の政府高官と会うため
片道1000キロを車で走ったこともあったらしい。
中東は危険地帯なので別の会社の商社マンが銃撃されたこともあった。
父は激務のせいで30を過ぎた時から急激に老け込んでしまう。

エジプトのトレーディングルームで勤務していた時、
原油先物で500億以上の損失を出して会社を退職。
父が無気力になり定職につかなくなって10年以上経過した。

そのせいで私たちは住んでいたマンションを売り払い、
この団地へと引っ越してきたのだ。
資本主義的な価値観では貧乏な暮らしと映るのだろう。
ボリシェビキは逆で、質素な生活を送ることが美徳なのだ。

もちろん「全労働者」が同じレベルの生活を送ることが、だけど。
私と高給取りになってもこの団地から引っ越すことはしない。
兄は職場近くのマンションを借りているから、この家に
帰ってくることはめったになく残念だ。

「姉ちゃん」

「なにアユミ。食べながら話すのはみっともないわよ。
 飲み込んでから話しなさい」

「ナツキ兄さんがラインで教えてくれたんだけど、
 孤島の秘密基地の計画ってなに?」

「……あんたの口から孤島の話が出るなんて、
 兄さんたらおしゃべりね。孤島計画はボリシェビキの
 トップシークレットよ。食事時に話すようなことじゃないわ」

「あっそ」

妹はむっとして、チキンをむしゃむしゃ食べてる。
働いてないのによく食べるわね。

「ユウナ。また物騒な話になってるわね。
 孤島に収容所でも作るつもりなの?」

「収容所とは違うかな……。いくらお母さんでも詳細は話せないの。
 今回は2週間ほど出張になるよ」

「今回の出張は長いわね。ユウナは指示する側の人間になれたんだから、
 くれぐれも あなたが危険な目には合わないようにしなさいね」

母は、良い意味でも悪い意味でも常識人だった。
両親は決してボリシェビキではなく、ごく一般的な日本人だ。
資本主義社会の矛盾に気づかず、なんとなく毎日を送っている人だ。

「へっ。俺は世の中のことなんて興味ねえ。
 赤の他人が収容所送りになろうが、共産主義に
 歯向かったのが悪いんだろうが。知ったことかよ」

父は飲んだくれだ。赤ワインを水のように飲み干してしまい、
あとはベラベラとつまらないことを口にする。
私はだらしなくて品性に欠ける父を反面教師にして育った。
この人がかつてエリートだったなんて信じられない。

私は学園の教頭。かつて幼くて愚かな私をよく
叱ってくれた両親も今は50過ぎ。今では両親が
すごく小さな存在に感じる。時にむなしさを覚えることもある。

今の私は家族だけでなく、学園の生徒、囚人、訓練兵たちの
生殺与奪の権利さえ握っているのだから。

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※寺沢アツト

訓練が始まって2週間後、それは突然告げられた。

『長崎県の沖合にある孤島へと訓練場所が移動する』

俺たちは衝撃で尻もちをつきそうになった。
いきなり長崎県に移動だと……!! しかも孤島!?
強制収容所を作るのにベストな環境じゃねえか。

     うわっ……俺たち、孤島送りになる……?
        説明を少し聞いただけで、懲罰なのが分かってしまう。
 
 ☆今なら無料5分で診断可能★ 反革命容疑者、判断テスト!!!
      無事に有罪となったら、すぐに収容所送りになると有名だ。
          収容者は17万人を突破!! 
 
「お集まりの訓練兵のみなさん。お久しぶりです。
 教頭の高倉です。本日は私の方から皆さんに
 孤島移住計画の概要について説明させていただきます」

教頭とはとても思えないアイドルみてえな美女が、淡々と告げる。
髪を後ろでハーフアップにしてるのが素敵すぎるぜ!!

・訓練兵8名(これしか残らなかった)は、
 本日中に荷物をまとめて午後には孤島へ出発する。

・訓練は住み込みである。

・衣食住に必要なものは学園側が支給するため、
 金銭や携帯を含む私物の持ち込みを認めない。

逆に許可されるのは、最低限の下着と身分証明書だけか。
もうこれ収容所行きと判断すべきじゃね?

「うろたえるな君」

と、後ろから肩を叩かれる。
ずいぶんと老けたおっさんだ。俺のオヤジくらいだ。

名前はアスカ・トオル? 歌手みてえな名前だな。

「ユウナ閣下のお言葉をちゃんと最後まで聞いたのかね。
 我々は来るべき自民党破壊作戦のために、特殊作戦部隊として
 選ばれたのだよ。このビラを読みたまえ」

配られたビラには細かい字がびっしり書いてあってある。
どうも孤島には、俺たちには知らされてねえ秘密がたくさんあるみたいだ。
ボリシェビキが日本国の軍事力を破壊するために用意していた、
秘密兵器が眠っているとか。

まるでアニメだな。ガンダムでも眠ってるんだろうか。
俺はガンダムは初代が最高だと思っているぜ。

そんなこんなで時は流れ、
俺たち8人の勇者たちは、船に揺られて孤島へと向かった。

電車や新幹線を乗り継いで福岡まで行くのは手間だったぜ。
(どうでもいいが、関門海峡って維持費がすげえかかってるそうだ)

今俺たちが乗っているのは漁船を改造した輸送船なんだが、
内陸育ちの人間じゃ船酔いになるのは必至だ。
俺はバケツの上に三回も吐いた。他の野郎も似たようなもんだ。
アヤって女の子も、干からびた魚みてえな顔してるぜ。

アリサとかいう小太りの娘もいるようだ。
彼女は父親のトオルと親子で参戦している猛者だ。
アリサは酔わなかったみたいで、
ゲロを吐いている父の背中をさすっている。

水谷のおっさんも酔ってないみたいだ。
海面を飛ぶカモメをのんきな顔で観察してやがる。

「あれはウミウ。俺はカワウしか見たことがないから新鮮だ。
 やはり内陸部にいる鳥とは全然違うなぁ」

何が楽しいのか、メモ帳にウミウの姿を描いてやがる。
スマホの所持が許可されてねえから、スケッチしてんのか。
写真が撮れないってのは不便だね。もっともおっさんから
言わせたら、鳥の観察ってのは英国から生まれた趣味で、
大昔から鳥の絵を描く伝統があるとか。

「おう。嬢ちゃん」

「話しかけないで。今気分悪いから」

アヤはまだ干からびているようだが、ある程度吐いたから
楽になったのか。話をする余裕がないわけではなさそうだ。

「今しか話せねえかもしれねえから、
 ちょいと質問したいことがあるんだ」

「話しかけないでって言ってるでしょ」

「おまえさんは今回の移送の件をどう思ってんだ。
 俺たちが収容所送りになるって可能性もあるわけだが」

アヤは青白い顔をしながらも鼻で笑う。

「そんなわけない。私たちは来るべき特殊作戦を
 発動させるために選ばれた精鋭部隊なのだから」

「ただの訓練兵の集まりにすぎねえのに、部隊なんて呼べるもんかね。
 おまえさんみたいに他の訓練兵の連中も気楽に考えてるようだが。
 俺はボリシェビキの奴らを信用できねえんだよな」

「私はナツキさんから直接お話を聞いたから確実よ」

「お偉いさんのナツキさんと、どうやって話をしたんだよ」

「電話で教えてもらったのよ」

誇らしげな顔をしてやがる。小娘の分際で権力者と電話ができるとは。
こいつはナツキの愛人の類なんだろうか。下手に詮索すると
悪い噂が広がり粛清されそうなんで黙っておいたほうがよさそうだ。

そろそろ乗船しているメンバーの紹介をさせてもらうぜ。
さっきも言ったが、全部で8人だ。

まず俺。
水谷カイト(30過ぎのおっさん)
飛鳥トオル(59歳)
飛鳥アリサ(28歳)
川村アヤ(15歳)

あ……? 5人しかいねえ。
言っておくが数え間違いじゃねえぞ。
どういうわけか他のメンバーの姿が見えねえんだ。
便所にでも行っているのか?

「船から脱走しようとした2名が射殺された。
 そこに浮いてる男性がそうだ」

カイトが海面を指さした。背中から鉛球を食らったやつらが
波に揺られていた。海面が真っ赤な血で染まっている地獄絵図だ。

「どうやら彼らは自分たちが収容所送りになると
 考えて絶望し、泳いで逃亡を図ったものとみられる」

それにしても銃声なんかしなかった気がするがね。
いつのまに撃たれてたんだよ。だがおかしいな。
泳いでる奴らも含めて7人しか確認できねえぞ。
この幸運な船旅に選ばれた、最後の隠しキャラはどいつだ?

「あのぉ……」

後ろから声がかけられたので、身の危険を感じて飛びのいた。

おいおい。俺のすぐ後ろにいたのかよ!!
ついに女の幽霊(美人を希望)でも出たのかと思ったら、
若いお嬢ちゃんがそこにいた。

「えと……お話しするのは初めてですよね……。すみません。
 私ちょっと人見知りする方で自分からは声かけられないんです」

「そうなのかい。内気な娘さんだな。俺に対して人見知りする必要は全くないぜ。
 君みたいに可愛い女の子ならいつでもウェルカムだ。俺の名前は寺沢アツトだ」

「私は飛鳥ルナです……」

なんと、飛鳥家の三女(22歳)だったのか。
どんだけ参加率高いんだよ飛鳥ファミリィ。

この娘ときたら、俺が話しやすい人だとわかると、どんどんしゃべり始めた。
聞いてもないのに高校を出てからの職歴から始まり、女優を目指して
オーディションを受けようとしたこと、好きな韓流ドラマのタイトルから
歌手の名前まで。俺が真剣に聞いてるもんだからいつまでも話し続けやがる。

ルナちゃんは俺に敬語を使い続けてる。
実は俺の方が年下なんだが、言わなきゃばれねえよな?

「アツトさんは本当に明るい人なんですね。
 家でもそんなキャラなんですか?
 話ができる人がいてよかったです」

「俺もルナちゃんと出会えてうれしいぜ。
 この船には君のお姉さんもいるようだが、話はしねえのかい?」

するとルナは、むっとした顔になって

「姉とは三日前に喧嘩しちゃって、それ以来話をしていないんです」

喧嘩するほど訓練兵同士の関わりってなさそうだけどな。
しかし考えてみると、お姉ちゃんはいつだって自分のオヤジにべったりだな。
別にファザコンってわけじゃねえと思うが、還暦前の父のことが心配なんだろうよ。

親孝行は親が生きてるうちにやっとかねえとな。
大学の教授がそう言ってからよ。

島が見えてきた。

安っぽいテレビ番組に出てきそうな孤島だ。
確かに周囲に他の島はない。森全体を森が覆っている。
背の低い山が一つあるが、他は平地だ。
あの地形だと建物を建てるスペースが限られちまうな。
やはり収容所島と考えるのが妥当かもしれん。

俺らは下船した後、宿舎の前に集合した。
刑務所の外観を覚悟していた俺らの目に飛び込んできたのは、
ログハウスにしか見えねえ、平凡で清潔感のある建物だった。

「ここが本日より諸君らが寝泊まりする宿舎です
 まず女性から、次に男性の部屋を案内します」

女性陣がぞろぞろと歩いていく。先導をするのは、
なんと高倉ユウナ閣下だ。上のセリフをしゃべっていたのもこの人だ。
学園の教頭なのに孤島までやってきて俺たちを教育するつもりなのか?

「説明は以上です。今夜はゆっくり寝て休んでください。
 夕食の時間までに、各自部屋を掃除するなど
 最低限の身支度は済ませておくように」

運動部の合宿みたいなノリだ。
しばらく使われてなかったのか、宿舎の部屋はほこりで
真っ白にデコレーションされていて、天井と窓に張り巡らされた
蜘蛛の巣がアクセントになっている。鳥肌が立つほど美しい部屋じゃねえか。

最低限の身支度ではなく大掃除となった。
俺は支給品のマスクをしっかりと装着し、ぞうきんを絞り、
ほうきで掃き、モップを握る。へへ……。

俺様の掃除スキルがいかんなく発揮される。
これでも掃除は得意でな。
掃除の効率の良さで俺にかなう奴はいねえ。

中学時代のあだ名は「ほうきを持った天使(ピクシー)」
とまで女子から呼ばれていたんだぜ。もちろん冗談半分だが。

ざっと一時間もやると床にキスできるくらいにピカピカになった。
ベッドの隅から、蛍光灯回りもバッチリだぜ。
この合宿上は掃除用具が豊富なんで他の奴らと奪い合いに
ならずにすんだのは幸運だった。とっくに正午を過ぎているが、
まだ日があるので、布団も干しておいた。

他の部屋ものぞいてみると、カイトや飛鳥のおっさんも
掃除を済ませたのか、椅子の上でのんびりしてやがる。

おっと、言い忘れるところだったぜ。
俺らは贅沢にも十分な広さの個室が与えられている。
想像していた収容所とはえらい違いだぜ。

(実際は参加人数が諸事情により激減したため、
 部屋が余っただけらしい。泣けるぜ)

こうなると知っていたら、船からダイブしたやっこさんたちを
止めてやりたかったもんだね。別に友達だったわけじゃねえが、
あいつらの死は一生忘れねえからな。

夕食はロシア風だった。黒パンと肉と野菜のスープ、ふかし芋、
ニシンの缶詰。飲み物はお茶だ。牛乳も用意してあるので、
暖かくして飲みたい奴はレンジまで使ってよいとのこと。

食堂は結構広くて、一度に30人くらいは座れるんじゃねえのか?
椅子もテーブルも木製だ。まさにログハウス。古臭くはなく
今風のデザインで気に入った。木のぬくもりを感じるぜ。

この合宿所って広いよな。一階部分に男子の宿舎、二階に女子の宿舎がある。
三階はどうだか知らねえが、おそらくユウナさんや護衛でついてきた
兵隊さん(兵隊なのか?)たちが使うもんだろうな。

俺たち訓練兵は、一つのテーブルにまとめて座っている。
ユウナさんたち上級者はすぐ隣のテーブルだ。
下手なことを聞かれたら粛清されかねないので、終始無言で食事が進んでいく。

食事の後片付けは炊事係の兵隊がやってくれるらしいので、遠慮なく甘える。

風呂はどうするのかと思ったら、地下に大浴場が用意されていた。
まさか地下にあるとはね。実はここって修学旅行で使う宿舎なんじゃねえのか。

入浴後、歯磨きも済ませて寝るだけとなった。
入浴等に必要なものはすべて学園側が用意してくれる気前の良さだ。
まったく信じられねえぜ。

俺はクソ(トイレ)を済ませ、あとは寝るだけだと廊下をのんきに歩いていた。

「そこのあなた」

振り返るとそこにはユウナさんがいた。
まさか俺を呼び止めたのかと思いキョロキョロしたが、
残念なことに廊下には俺しかいなかった。

「怖がらせてしまったら、ごめんなさいね。
 あなたが私の近くを通りかかったから声をかけてみたの」

「は、はぁ……そうなんしゅか……。お疲れ様っす」

俺の心臓は風船みたいに、はちきれそうになっていた。
ユウナさんは普通に話してるつもりなんだろうが、
全身から発する権力者のオーラがやばい。
直ちにロレツに影響が出るレベルだ。

「うふふ。あなたは寺沢アツト君ね。さっきね、飛鳥家の
 ルナちゃんとお風呂でお話しさせてもらったの。
 アツト君は冗談がうまくて面白人らしいわね」

「は……はは……光栄っすね。俺はバカなんで
 人を笑わせるくらいしか能がないっつーか」

「ふふ。ガチガチに緊張しててかわいいわね。
 私はあなたを取って食べたりはしないわ」

    (; ・`д・´) なんで俺に話しかけてきた……?
        何が目的だ……? ざわざわ……。
             会話には細心の注意を……!! いな……!!
       駆け引きなど考えるだけ無駄……!!

俺は思ったことは何でも口にする勇者だと高校では定評があった。
その実力を見せてやるぜ!!

「き、緊張するなって方が無理っすよ……高倉閣下は学園の教頭先生です……。
 俺みたいな底辺の人間が……お話しできる方じゃない……」

「共産主義では全人民が平等。階級の差なんかないのよ。お忘れかしら?
 ましてここは孤島の訓練場。資本主義の古臭い風習は存在しない。
 私の名前は同志ユウナと呼んでくれてけっこうよ」

同志閣下は、俺にこの後時間はあるかと訊いた。
もちろんあるに決まっている。なんという愚問……!!

「少しお話しをしましょうか。部下にコーヒーを淹れさせるわ」

三階のテラスに案内される。7月の海風は心地良い……!!
海面が月光に照らされている。寄せては返す波の音が素晴らしい。
俺は内陸育ちなので海を見ることは奇跡であり感動だ。
潮風をたくさん吸い込んで深呼吸した。

椅子に腰かけた同志ユウナは、
マグカップを手に持ちながら話を始めた。

「私はね。あなた達がどんな人なのかを知っておきたいと思っているの。
 さっきはルナちゃんと長湯してたくさんおしゃべりしたわ。
 屈託がなくて良い子だった。共産主義者は純粋で正義感に
 あふれる人が向いているから、あの子はぴったりね」

「確かにあの子は、良い子っすよね。
 初対面なのに話してると安心するっていうか」

「あなたは本心では共産主義なんてどうでもいいって考えてる?」

「なっ……」

やべえ。いきなり本心を突かれた。実は最近では訓練して体を鍛えること自体は
悪くねえと思っていたんだが、ボリシェビキの思想にまで洗脳されてわけじゃねえ。
そもそも俺がこの合宿に参加する原因と言えば、ボリシェビキと知らずに
愛と付き合っていたことだしな。ビラも破いて捨てちまった。

「……粛清されるのを覚悟で言わせてもらいますね。
 ぶっちゃけボリシェビキってどういう思想なのかよくわかってないっす。
 なんとなく資本主義が悪だってのは分かるんすけど、俺バカな大学生なんで
 あんまり政治経済のことはくわしくないっつーか。気に障ったらすみません」

俺は土下座する勢いで頭を下げていた。拷問される未来を想像しながら。

「ふふ」

ユウナさんは機嫌がいいのか、風に揺れる髪をなでている。
まるで孫をいとおしむバアさんのような余裕のある態度だ。
怒ってねえ……のか……?

「太盛さんの評価は正しいわね。アツト君は正直者。
 うん。私もあなたのこと気に入った」

「え……」

俺とルナには共通点があるらしい。それは正直なこと。
「共産主義の思想を理解した」なんて奴はむしろ信用できないらしい。
一年勉強したところで理解できるものではない。
そんな単純な話ではない。重要なのは資本主義に疑問を持ち、
革命を成功させるための努力を続けられるかどうか。

少なくとも2週間の訓練を経て、船から脱走もしなかった
俺たちはそれだけでユウナさんのお気に入りになっているらしい。
彼女が自らこの合宿?に参加したのもそのためだ。

「話はこれで終わりね。アツト君、蚊に腕を刺されているわよ。
 この薬を塗って頂戴。返す必要はないわ。記念にあげる。
 さ、明日も早いから、寝てしまいましょう。おやすみなさい」

ユウナさんはまくしたてるように言い、去っていった。
俺も自室へ戻ってベッドに寝転ぶ。緊張がまだ解けなくて
寝れそうにねえ。

そして次の日に、ユウナさんからの重大発表があるのだった。

鉄人28号で審議中の国会議事堂を襲撃する。

※ルナ

以上が、ユウナさんから説明された作戦の内容だった。

朝から宿舎の前で整列させられた私たちは、
あまりにも突拍子もない作戦に呆然とする。

鉄人28号……? 国会を襲撃……?

「同志諸君!! 少し長くなりますが、
 これから私の話すことをしっかりと耳に入れてください!!」

ユウナのさんの声は女性にしては少し低いけど、
温かみのある声で素敵。楽器で例えるとオルガンのように
きれいに響き渡る。昨日までのクールキャラと全然違って
身振り手振りをくわえて演説している。
もしかしたらユウナさんは熱血タイプの女性なのかもしれません。

お話の内容は本当に長かったので、私は頑張ってメモを取った。
その内容をまとめると

・この孤島には鉄人28号というロボットが地下に眠っている。
・自民党政権に制裁を食らわせるために、まもなく攻撃を開始する。
・28号は背中のジェット装置を使って東京まで15分で到着できる。
・同志諸君らは、ボリシェビキによる正義の鉄槌をここで見守ること。

見守るだけでいいんですか……?
それって意味あるんですか……?

他の訓練兵もざわざわ不可避の状況。

           (; ・`д・´) 28号ってなんだ……。
       日本にロボット兵器が存在したのか……? (;'∀')
            ( ゚Д゚) 同志閣下は戦争を始めるつもりなのよ……。 
        国会には野党も大勢いるはずだが……。(;^ω^)

   ※鉄人28号。
    同タイトルは、鉄腕アトムと並ぶ『日本最古のロボットアニメ』として
    世界中に根強いファンが存在する。「鉄人28号、バンダイ」でググると
    超合金フィギュアがヒットする。いかにもずんぐりとした体形に
    力強さを感じると同時に愛くるしくもある。
    筆者の手元には、鉄人28号の超合金が置いてある。これを参考に本文を書く。


「なお鉄人28号は、人が搭乗して動かすタイプのロボではありません。
 遠隔操作によって動きます!! 操作にはリモコンが必要となります!!
 ソ連製の鉄人28号を動かせることができるのは、選ばれた人間だけです!!」
 今日はその選ばれた人間を皆さんに紹介しましょう!!
 アユミ、出てきなさい!!」

「はーい」

なんか、やる気のなさそうな女の子が出てきた。
日本人形みたいに切りそろえられた黒髪のおかっぱ頭。
身長が低くて、目つきが悪い。でも色が白くて美形だ。
目元がユウナさんに似てると思ったら、なんと妹さんだった。

「新しい同志諸君に!! 自己紹介をしなさい!!」

「高倉アユミでーす。姉に命令されたんで
 嫌なんだけど我慢してこんな辺境の地までやってきました。
 見ての通りやる気はありません。おなしゃーす」

アユミさんは衆目の中、お姉さんに頭をひっぱたかれて、
説教されていた。私は思わず笑ってしまった。
だってそうでしょう。これから鉄人28号で国会議事堂を襲撃することに
なっているのに、ホームドラマを見せられてるんだから。

私たちは地下のコントロールルームに案内された。
「マジンガーゼットに出てくる光子力研究所」で
検索してみてください。あんな感じです。

そこではモニター越しに島を俯瞰してみることができる。
監視衛星からの映像らしいです。

アユミさんが大きなリモコンを両手で持ち、
顔を真っ赤にしながら「ロボ!! 発進よ!!」
というと、なんと森の中から鉄人28号が起き上がった。
地下には格納庫があって、そこの扉が左右に開いて出撃したのだ。

日本に巨大ロボット兵器が本当にあったとは!!
私のお父さんと、アツトさんたちは抱き合いながら感動しています。
これで自民党は終わりだと喝采する。

私たちボリシェビキは、普通選挙(衆議院総選挙)を何度やっても
自民党の一党独裁が終わらないので、最後の手段として
鉄人28号の力を借りることになったのです。

「これより28号作戦を開始する!!」

ユウナさんが檄を飛ばす。
28号の背中のジェットが噴射し、飛行するポーズ
(両腕いっぱいに背伸びする)で飛んでいきます。


さて。舞台が変わりますが、東京の国会議事堂前です。
この章では私の一人称となっているので、
議事堂の様子も私が中継させてもらいますね。

国会では今日も与野党に分かれて無意味なおしゃべりをしています。
7月というと、通常国会は先月で閉幕しているはずですね。
しかしコロナ対策の緊急予算について話し合うために
臨時国会が開かれているようです。

野党の批判が飛びます。
緊急事態宣言の発動の遅さとか、農林水産大臣が
鶏卵業者から500万のお小遣いをもらった件(史実)を追求しました。

アベースキー首相は、適当な言葉を並べて相手の
質問時間を消費させ、追及をかわします。
いつもの卑怯技であり、これ自体が税金の無駄遣いです。

そこへ、鉄人28号が突っ込みました。

衆議院の予算委員会に割り込んだ28号が腕を振り回して暴れます。

『グリコ。グリコ。ぐーりこー♪
 ぎゅーっと飛んでく鉄人♪ にじゅうはーちごう!!』

この鉄人のモデルになったのは、バンダイから発売されている
超合金フィギュアです。おもちゃをボリシェビキの科学力で
巨大化に成功したためか、戦闘中に内部スピーカーから
歌が聞こえることがあります。

鉄人が腕を振るう。
国会議事堂の屋根が吹き飛び、自民党を中心に議員が宙を舞う。

鉄人が足を前へ延ばす。長テーブルがぺしゃんこになり、
やはり自民党議員が下敷きになっています。
なぜか他党の人には被害がありません。

「う、うわあああ、くるなあぁぁぁあ」

鉄人は、特に年収の高そうな自民党議員をつかみ上げました。
大きく開けた口の中へと運び、そのまま食べてしまいます。

残ったのは、議員の腰から下だけ。そこから上は食いちぎられ、
ボタボタと流れる大量の血液が、赤いじゅうたんをさらに赤黒く染めていきます。

(フィギュアを見ると鉄人の口元は甲冑?で覆われているけど……。
 口ってあるのかな?)

『うがああああああああああ』
『ころされるううううううううう』

議員たちが逃げまといますが、全員が出入口へと集中したため、
混乱しています。卑怯な議員は、他の議員を殴ってまで
我先に逃げようとします。国民の代議士を名乗る連中なんてこんなものです。

鉄人は、また自民党議員をつかみ上げます。
必死に抵抗する中年の男性ですが、鉄人によって
手と足を引きちぎられ、切断面からの大量出血によって
そのままの状態でショック死しました。

阿鼻叫喚の地獄と化す国会。
警備員の人たちは真っ先に逃げてしまいました。
やっぱ議員の命なんてどうでもいいんですね。

さらに鉄人はみんなが逃げられないように、出入り口付近に
パンチを食らわせてがれきの山を作り上げる。
これで議員たちは、議事堂の審議室の中に閉じ込められました。

中には頭の良い野党議員がいて、この中国の秘密兵器であろうロボットは、
自民党議員だけをターゲットにしていることに気づきました。
そこで彼は、自民党議員を鉄人の前へ蹴飛ばし、鉄人のエサにしてしまいます。

鉄人は両手で持った議員四人を、うまい棒でも咀嚼するように
むしゃむしゃと食べます。首、肩、腕と味わうように
バキバキと引きちぎりながら食べるので、鉄人の口が真っ赤に染まっていきます。

次に鉄人は、最近悪さをした農林水産大臣の男の子(56歳児)を発見しました。
この男の子は、コロナ化による特別支出(事業者支援など)で国家財政が苦しい中、
鶏卵業者からお金をもらっていたのですが、そのお金の源泉となったのが
国民の税金であることが明らかになったのです。

(縦割りの行政を打破するといったスガ政権ですが、彼の任命により
 初入閣したこの男の子も、お金を私物化するクソ野郎なのです)

鉄人は、悪さをした議員を特に念入りに殺すように
プログラムされています。
56歳児の足にチョップを食らわせます。

「あぎいぃいぃぃぃ!!」

56歳の男の子は、右足を平らにされました。
粉砕骨折でしょう。患部から血がぴゅーと吹き出て、
足から木の枝のように骨がはみ出ていてグロいです。
ぎゅっと絞ったぞうきんのようです。

それでもこの議員は意識がはっきりしているのだから、只者ではありません。
鉄人は男の子の痛んでいる右足をつまんで、宙づりにします。

「もうころしてくれれえええええええええええええええ」

ぷらーんと、足からつるされる男の子。
鉄人は、彼が死ぬまで振り子運動を続けることにしました。

「く、くりゅなぁああああああ。ぼぼぼb、ぼくは美味しくナイぞおお」

次のターゲットにされたのは、アベースキー首相閣下です。
こんな時でも活舌が悪いのはさすがです。

鉄人は首相閣下をやさしく握りしめます。首相が恐怖のあまり
漏らして鉄人の手のひらを黄色く染めていきます。
鉄人は何を思ったのか、首相を持ったままジェットを噴射。

ちょうど15分で私たちの基地へ帰ってきました。
大変なのはここからです。

自民党を代表する悪党、首相を捕虜にした。

※ 高倉アユミ

作戦終了後、姉のユウナにさんざん叩かれた。
なんで首相を捕虜にしたのかとか、国会を完全に破壊してない、
死んだのより逃げた議員の数の方が多いとか。

暴力姉。私はあんたのストレス解消の人間じゃないんだから、
頭をペットボトルでポコスカ殴るのやめろよ。
あんたみたいに頭悪くなる。

「この馬鹿!! 大馬鹿ニート!! あんないいところで鉄人を引き返させるなんて
 何考えてるの? あんた脳みそ入ってないの? その頭はピーマンみたいに空っぽ?
 一生で一度の大チャンスだったんだから、霞が関一体まで破壊しないとダメでしょうが!!」

「うるさーい!!」

私も言い返した。

「途中から操作できなくなって、鉄人が勝手に動いてたんだよ!!
 首相を捕虜にするのも私の指示じゃないし!!」

「うそつくんじゃないよ!!」

「ほんとだよ!! 文句があるなら姉ちゃんが自分でやれよ!!」

私たちが言い争うのを、不安そうに見つめる瞳があった。
捕虜にした首相だ。この還暦前のおじさんは、両手と両足首に
手錠をされて床に寝かされている。

私たちは宿舎の食堂に一堂に会し、今後の作戦を練っていたのだ。

~ふーまれーたーはーなーの、なーまえーもしーらーずぅに~

「姉ちゃん。電話鳴ってる」
「あんたに言われなくても分かってる!!」

姉はイライラしながら電話に出た。
私の方が百倍むかついてるけど。

「あっ、兄さんだったんですか。ごめんなさい。
 私今ちょっと立て込んでて……え? あ、はい。
 確かに私の指示でやりましたけど。え……? え。そんな。
 それは仕方ないの。兄さんが私の相談には全然乗ってくれないから……。
 え? こっちに向かってるんですか……?」

姉の痴態(ぶりっ子)を食堂にいる全員が
カイジみたいにアゴがとんがった顔で見守っていた。
シリアスすぎて笑えるwwww

姉は超ブラコン。ナツキお兄ちゃんの前ではいつもこう。
妹の私を怒鳴ってストレス解消して、電話中は猫なで声。

私の鳥肌やばい。気持ち悪いなんてレベルを超えてる。
そんなだから兄さんに飽きられてるのに。

「ごほん。みなさん、お見苦しいところをお見せしました」

姉がまじめな顔をして言う。死ねブス。

「ほんとに見苦しかったです」

いや……、私じゃないよ?
姉に文句を言った勇者はいったい誰なのか。
一人の女子が挙手していた。

「……なにか言ったかしら? 同志川村アヤ?」
「……なにも。話の途中なのにお邪魔してすみません」

この間、たったの10秒。
ガラスの二枚や三枚は割れたんじゃないかと思うほどの
空気の圧迫感だった。

男子の同志たちは、ピンチになったカイジの顔をしてる。
他の女子たちはオロオロして見守っていた。

「話を戻します!! 私の兄である同志ナツキが、
 今この訓練所へ向かっているようです!!」

「勝手な作戦を発動した姉さんに説教しに来るとか?」

「残念ながら、そうなのよ」

スーツでびしっと固めた兄さんが到着してから、
本当に姉が説教されていた。
しかもみんなが見てる前で。姉からしたら屈辱の極みのはず。
二重の極み、あああああああああああああああああああ!!

だけど姉は、正座して説教されているはずのに、頬を赤く染めている。
なんなのこいつ……バカなの死ぬの? マゾなの怒られて気持ちいの?

「まじめだったはずのお前が、僕ら市議会の許可もなく
 秘密兵器を勝手に使ってしまうとは思わなかった。
 だいたい、この訓練兵たちはなんだ!! 
 僕は孤島に訓練兵を連れてくるなんて話は聞いてないぞ」

「ごめんなさい、兄さん」

「どれだけ多くの人に迷惑をかけたと思ってるんだ!!
 お前にはあとで二人きりで話をする必要がある!!
 首相も捕虜にしたと報告を受けているんだが!?
 首相はどこにいるんだ? 
 彼の身柄をすぐに市議会に引き渡してもらうぞ!!」

「はいっ。直ちに引き渡しますわ!!」

姉があせる。私もあせる。
だっていないんだもん。首相が。
あれー? おかしーな? ついさっきまで床で転んでたよね?
おしっこを漏らした後はあるけど。自力で逃げた?
まさか。芋虫じゃあるまいし、どうやって逃げるの。

「うんこ漏らしてて臭いんで、海に捨ててきました」

女勇者が発言した。さっき姉に歯向かった子だ。アイちゃんだっけ?

「き、君はアヤちゃん。君がやったのか……なんてことを……!!」
「私は父を首相に殺されたようなんだから我慢できなくて、つい」

つい、ゴミをポイ捨てした。そんな軽いノリだった。
アヤちゃんはかわいい女の子で、そんな子が目に一杯の
涙をためて言うものだから、兄さんは逆に慌てた。

「あっ……いや、いいんだよ。どうせ生かしておいても
 しょうがない人間だ。森かけ問題も最後まであやふやにして、
 さくらの会の問題も含めて国民の税金を15億円以上使い込んだ男だ」

「許してくださるんですか?」

「今回だけは……特別だよ」

ナツキさんは後頭部をかき、照れてる感じだった。
運動部のイケメンが女子に
突然チョコを渡されたシーンを見てるかのよう。

「ありがとうございます。ナツキ様」
「あっ……アヤちゃん。だめだよ。みんなが見てるのに」

この二人はできてる?
私も兄が好きな妹の一人だから、人前で堂々と抱擁されると
胸がズキンとしてしまう。でもお兄ちゃん……。
30手前の社会人なのに女子高生と付き合うとか……。

「あっ、手が滑った」
「ごはぁ!!」

アヤがぶっ飛ばされていた。私の姉に。

「こらユウナ!! いきなり何を!!」
「いきなり暴力です!!」

いきなりステーキ!! 
コロナ前から出店計画を誤り、最終赤字、絶賛増量中!!

  うわっ……!! 私の赤字……増えすぎ!?
  決算短信をチラ見するだけで、事業計画の破綻が分かってしまう。
  今なら5分で無料診断。短期的な資金繰りの可否。将来の見通し。


アヤはふらふらと、KO寸前の
ボクサーのように立ち上がり、ユウナを指さした。

「ナツキ様!! この女は私をぶったのです!!
 ナツキ様の恋人であるこの私を!!
 さあ直ちに制裁をしてください!!」

「ユウナは実の妹だ。僕が妹に手を挙げる人間に見えるかい?」

それなら私がと、代わりに姉を殴った。
ブスが、くるくると回転して宙を舞った。

「おーい、死んだのかー? 豚ちゃーん。
 ここ数年運動不足だからスカートの
 ウエストきつくなってるでしょ?」

姉は私にお尻を蹴られても、ピクリとも動かない。
お尻を上に突き出した恥ずかしい恰好で倒れてて笑えるwww

姉は、がばっと起き上がり、

「どえりゃーことしてくれたでね、おみゃーさん、
 ぶちくらわすぞ、ごらあああ!!」

犬夜叉のような顔をして両手を振り上げ、襲い掛かって来た。
妹に殴られたのがそんなに許せなかったのか。
頭に血が上りすぎて標準語にまで影響出ちゃってる。

私はウルトラマンがスペシウム光線を放つ構えをして、
迎え撃つことにした。ウルトラマンに興味を持ったきかっけは、
兄さんの部屋にウルトラマンのソフビ(バンダイ)が置いてあったから。

私は姉ともみあいになり、床の上を転がって互いの髪を引っ張り合った。
こいつ……私と同じシャンプーの香りがする!!
なぜなら家族だからだ!! ブスにはもったいないくらいの高級品だ!!
だからこそ許せないこともある!!

「ああ、ナツキ様……こんな絶海の孤島で会えるなんて」
「アヤちゃん。気持ちは分かるけど、訓練兵のみんなが見てるからね」
「でも私うれしくて!! 気持ちが抑えきれないんです!!」
「わかったわかった。仕事が終わってから二人きりになろう」

彼らのラブコメを、訓練兵たちはシリアスな顔で見守っていた。
こいつら……まじやべえ。訓練する場所間違えたか……って顔だ。

今気づいた。誰も私たち姉妹の喧嘩に関心がない!!
兄さんが仲裁に入ってくるまで、私と姉は殴り合いを
続けてしまうのだった。ブスのせいで髪が三本も抜けてしまった。
私の貴重なDNAが!!

「喧嘩は両成敗だ。アユミ、お姉ちゃんに謝りなさい。
 そのあとはユウナもだ。言うことを聞かないと本気で怒るぞ」

私は平坦な声で謝罪した。姉は兄さんの前だからか、ぶりっこして
泣き顔をしていた。なにその顔。乙女の顔? 超きもいんだよ!!

「泣くことないだろユウナ。おまえは小さい頃から泣き虫だったな。
 どうして今回は鉄人を発進させたりしたんだ。おまえのせいで
 日本政府からボリシェビキが狙われることになったんだぞ」

そう。これはシャレにならない。今頃政府の中枢では
赤狩り(共産主義者一層キャンペーン☆)が計画されていると
考えて間違いない。私らの住んでる栃木県足利市は、たぶん両手で
抱えきれないほどのミサイル攻撃をプレゼントされる。

「兄さんが、私の誕生日なのに家に帰ってきてくれないから、やりました」

バカが何か言ってる。

「私は、兄さんがいてくれたら。それだけでよかったのに!!
 兄さん、どうして町中のマンションで一人暮らししてるのよ!!
 私は兄さんと一緒に夕飯を食べたいと思ってた!!
 兄さんのために料理の勉強もしたわ!! なんで嫌そうな顔するの!?
 私たちは家族なんだから一緒にいるべきよね、そうでしょう!!」

兄さんは辛抱強くこいつの恥ずかしいポエムを聞いていた。

我が姉の愚かしさは、兄にうざがられてることを本当は
分かっているくせに認めないことだ。調子に乗ると兄のベッドに
夜這いをかけるほどのフットワークの軽さが売り。しかも風呂上りに全裸で。

この世に変態のドラフト会議があったとしたら、
全球団から一巡目指名されてもおかしくないレベル。

兄さんだって若い男なんだから、万が一過ちが起きて
妊娠したらどうなるとか考えないのかな。

二次元で近親相関とか定番のネタだけど、あれは創作だから
面白いわけで……。リアルでやろうとするなよ!! 
こんな奴が身内にいるのが耐えられない!!

「訓練兵たちがあきれているよ。
 僕の胸に顔をうずめてないで周りを見てみなさい」

「そうやっていつも逃げるじゃない!!
 私は兄さんが一緒に住んでくれるって言うまで
 このまま離れないわ!!」

「僕は……ユウナのことをかわいいと思ってる。
 でもそれは妹としてだ。それ以上の関係を
 僕に求めるつもりなら、それは無理な相談だ」

「どうしてそんなこと言うんですか!!
 そこのガキと付き合ってるからですか!?
 高校生なんてクソガキですよ!!」

勇者アヤちゃんをガキ呼ばわりかい。20代後半のおばさんよ。

「いや、僕は他に付き合ってる人がいるんだ」
「え……誰ですか!! 私の知ってる女ですか!!」
「男だよ。寺沢アツト君」

ユウナは衝撃で大きくのけぞった。

「ごめん。嘘なんだ」
「はいぃい!?」

兄さんはいよいよ気がふれたのか、
ユウナ姉さんと……キスを……した。おえっ。だめだ吐きそう。

「ユウナ。僕はこのくらい君のことを大切に思ってるんだ」
「あう……」

ユウナはオホーツク海に生息するクラカケアザラシの
顔をして甘えてる。うぜえし、うっさいからキスで黙らせたのね。

「訓練所に集まった同志諸君に告ぐ!!
 僕は今夜この宿舎に泊まることにする!!
 妹のユウナが取り乱して迷惑をかけてすまなかった!!
 僕はこれからユウナと二人で作戦を練る。
 諸君らは夕食の時間まで好きに過ごしてよろしい!!」

えっと……? 話はそれだけ……?

トオルは男の訓練兵たちと脱走しようか考えた。

~飛鳥トオルの一人称~

俺は個室に閉じこもり、頭を抱えていた。
はっきり言って所属する組織を間違えたのかもしれん。
先ほど見せられた茶番は夢だったのだと信じたい。

俺の記憶が確かならば、高倉ユウナ氏は間違いなく
『学園』の教頭の地位にあるはずのお方だ。
そんな彼女はどういうわけか兄上殿に恋をしているようだ。

ユウナ氏はアリサと同い年だと聞いた。
娘しか持ったことがないので知らないが、
今どきの兄妹は恋愛感情を持つものなのだろうか。
俺は6人兄弟で妹が二人いるが、そんな感情を抱いたことはない。

そもそも、今回の鉄人28号作戦とはなんだ……?
無計画にしてもほどがある。
まさかユウナ氏が、たまたま思いついた作戦とは……。

訓練所で支給されたスマホでラジオをかけっぱなしにしてある。

『自民党は生き残った議員を集めて新内閣を結成。
 直ちに全国の自衛隊と警察を動員して赤狩り実施を決定』

ああ、やはりこうなってしまった……!!

栃木県は真っ先に攻撃の対象になる……。
あそこには自分の残してきた家族が、妻と二番目の娘がいるんだぞ!!

敵を確実に殲滅しなければ攻撃は逆効果だ。攻撃するべきは
国会議事堂などではなく、武力を行使してくる自衛隊だろうに。

くそう……くそう……!!
この訓練所が秘密工作を仕掛けるスパイを教育する場所だとばかり
思い込んでいた……!! 悔やんでも悔やみきれない……!!

「おう、まだ寝てねえようだな」

な……!? 心臓が口から飛び出るかと思った。
無精ひげと、寝ぐせのついた髪が特徴の彼の名前は……
寺沢アツト君だったか!! 

「驚かして悪かったな。俺だけじゃねえぜ?
 水谷もいる。邪魔して悪いが、ちと相談があるんだ」

紳士的な水谷君もいるとは、よほど深刻な悩みなのだろう。
なんとなく想像がついてしまうのが悲しいが。

「僕は先ほどの腐ったラブコメを見せられて、
 半裸で走り出したいほどの衝撃を受けました。
 つまりですね。もう真面目に訓練する気になれないんです」

うむ。水谷君に同意する。

「ユウナさんにはガッカリさせられたぜ……。
 あんな清楚な美人さんの残念な姿を見せられちまったもんだから、
 いきり立った俺様の弾道ミサイルも、すっかり萎えちまったw」

くだらぬ下ネタはよしたまえ。品性を疑われるぞ寺沢君。

「でよぉ、飛鳥のおっさんはどう思ってんのかと思ってな」
「君の倍以上も生きている人間をおっさん呼ばわりかね……。」
「怖い顔すんなって。俺たちは同志だから年齢の差は関係ない」
「確かにそうだが、まあいい」

俺はストレスが溜まっていることもあり、ユウナ氏の破廉恥さを
とことん批判してやった。俺が最も気に入らないのは、
彼女が衆人環視の中、堂々とブラザーコンプレックスを発動したことだ!!
それに妹のアユミ氏をペットボトルで殴るなど、実によくない!!

「気になるところはそこですか!?
 どちらかというと、ユウナさんが私情でロボットを
 動かしたことを問題にするべきかと」

「水谷君の意見はもっともだ」

「では脱走しましょう」

「なにぃ!?」

若者らしい、浅はかな意見だ。
我々はボリシェビキとして党とレーニンに忠誠を誓った身である。
それが訓練中に脱走するなど、ありえない。

「おっさんだって茶番を見てあきれてたじゃねえか」
「それとこれとは話が別だ。脱走の手段はどうするのかね?」
「脱走が無理なら、あとでユウナさんに辞表でも出すとかどうだ」
「辞表だって!? ばかばかしい!! ここは会社じゃないんだぞ!!」

そんなことをしたらスパイ容疑がかかり、
死ぬより恐ろしい拷問をされるにきまってる!!
多少のギャグシーンがあっても
ユウナ氏がボリシェビキの一員なのを忘れてしまっては困る!!

まったく、これだから令和の若者はお気楽世代だと嘲笑されるんだぞ!!

「はははwwwマジになるなよ。おっさん。
 辞表は俺様流のジョークだっつのwww」

「な、なんだ冗談だったのかね。真顔で言わないでくれたまえよ」

この寺沢アツトという人物は、
ふざけているようでなかなか愉快な男だった。
俺はユウナ氏の件で本気で悩んでいたのだが、この男と
話していると笑みがこぼれるのだから不思議だ。

「一流の共産主義者を目指すなら、共産圏のジョークを
 知らねえといけねえぜwww俺様が今から
 とっておきのジョークを披露してやる!!」

久々に腹を抱えて笑った。
やはり人間は笑わないとダメなのだな。
副交感神経を活発にすると、がん細胞まで殺してくれる。
初めは紳士的な水谷君を好ましく思ったものだが、
アツト君の楽しさを知ると、平凡な男は退屈に感じられてしまう。

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※ ☆高倉ナツキの一人称☆

僕は高校生の時に高野ミウと付き合っていた時期があった。
付き合っていたといっても、たったのひと月だけだ。
ミウは僕では物足りなくて、すぐ太盛君へと愛が移ったのだ。

その時のユウナのヒステリーはすごかった。
僕の携帯からミウの連絡先を消し、僕が復活させ、
またユウナが消すのを5回繰り返した。
僕はしびれを切らしてミウと連絡するためのに
仕事用の携帯を使うことにしたほどだ。

ユウナは家族の食卓でミウの悪口を言いまくり、
僕を怒らせた。学校までミウの様子を見に来ては欠点を探していた。
僕とミウのメールの内容はなぜかユウナの携帯に漏れており、
ユウナの部屋で全文が印刷され、チェックされる。

ありがたいことに僕らの電子文通の添削(てんさく)でもしてるのかと
訊いたら、ミウの欠点を見つけるための参考にしていると聞いた。
僕はいい加減腹が立ったので、ユウナの顔をひっぱたいてやった。

そしたらユウナは、きっと僕を怖い顔でにらんだが、
すぐに頬を赤く染め、目がとろんとした。
気でも触れたかと心配になるが、関係ないミウの悪口を
また言い出したので、ついカッとなってまたビンタしてしまった。

こんな感じで。

「あうっ!!」

ユウナは大げさに床に倒れこむ。
ぶたれた頬を押さえて女の子座りをしてる。

僕は三階のユウナの部屋にいる。
ドアに鍵をかけたので邪魔は入らないはずだ。

早く服を着なさいと言っても、上半身はキャミソール、
下はショーツだけだ。どう考えても僕を誘ってるんだろうが、
あいにく一つ下の妹の体を見て感じるものは何もない。

「少し距離を取ったらこのざまか。やっぱりユウナは
 僕がしっかりと管理しないとダメだな。おまえと
 離れ離れで暮らすのは失敗だったと自己批判させてもらう」

「うふふふ。うふふふふ」

「な、何がそんなに楽しい? 
 おまえのせいで栃木県本部は壊滅するかもしれなんだぞ」

「だって今はお兄様が私のことだけを見てくれてる。
 私に話しかけてくれてる」

「お前ってやつは、27になっても高校生の時から
 少しも成長してないんだな。教頭にまで昇進しても
 それは外面だけで、内面は子供のままか」

「ええそうよ。私は乙女の心を今で持ち続けてる。
 どこまでも純粋で初心な女の子なのよおお!!」

そう言いながら僕に飛びかかって来た。まさか逆レイプでもするつもりなのかと、
腰を抜かしながらも逃げ回った。か、鍵が開かない……。
かけたのは僕のはずなのに、どうやってもロックが解除できないぞっ……!!

「ナツキ様!! ドタバタと音がしてるけど、大丈夫ですか!!」

アヤちゃんが扉を開けてくれたおかげで、廊下へ出られた。
アヤちゃんは近くにあった花瓶でユウナの頭を殴る。
「うぴー」ユウナは気を失った。死んではいまい。

「ああ、ナツキさまぁ。無事でよかった」
「た、助かったよ」

アヤちゃんは僕に気があるようだ。
そこまで正面からぴったりくっつかれてもな……。
さりげなくこの子は僕を彼氏扱いしていたけど、とんでもない誤解だ。

僕は彼女を若く伸びしろのあるボリシェビキの一員として認め、
優遇していたにすぎない。僕はひいきする性格だから
アヤちゃんを特別扱いしてるだけで、恋愛感情はない。
28歳の僕からしたら15歳のアヤちゃんは幼すぎる。

僕はこれ以上彼女を誤解させるのは逆に酷だと思い、
はっきりと伝えてあげた。わざと冷たくして。
どのくらい冷たいかって? コンビニの冷えたおにぎりくらいにさ。

「何言ってるんですか」

そしたらビンタされた。

今何が起きたんだ……?
僕はボリシェビキの市議会のメンバーなんだぞ。
栃木県は足利市が主導となってボリシェビキを形成している。
その中心となる組織にいるんだ。その僕をビンタ……だと。

「もうすぐ世界が滅びようとしています。今私たちが
 こうしている間にも、栃木県の本部は自衛隊に
 空襲されてるかもしれません。だから、今ここで言います。
 私はナツキさんが好きです」

そしてビンタされた。

二度もぶった……!!
オヤジにもぶたれたこともないのに……!!
もう知らないからな!!
もう二度とガンダムになんて乗ってやるかよ!!

そんな時、部屋のテレビジョンが中継を映していた。

『ご覧ください。悪の根拠地とされている、足利市の学園の前では
 全身黒塗りのロボットが大暴れし、弾道ミサイルを素手で叩き落とし、
 戦闘機にはビームを食らわせて撃墜していきます』

やはりミウは禁断の兵器を使わざるを得なかったようだね。
映像に映るロボットは、チャーミングな猫耳が特徴の

        「ブラックオックス」

   ※ 鉄人28号のライバルとして登場したロボット。
    当時日本のアニメでライバルロボットが登場したのは、
      このブラックオックスが初とされている。
    鉄人を凌駕する戦闘力を持ち、最終的には鉄人と共闘して悪と戦うことになった。

戦闘はその後、3時間に及んだ。
ブラックオックスも鉄人と同じくリモコンで操作するのだが、
操作する人がうまいためか、学園側の被害が皆無だ。
完全に包囲されてミサイルを撃ち込まれている割には
全てを防いでいる。NBAで即戦力になるほどのディフェンスの名手だった。

自衛隊は勝てないことを悟り、撤退した。
最終的に自衛隊の損害は……。

戦闘機       128
爆撃機       20
攻撃用ヘリコプター 43 
戦車        163
その他、車両    200

先進国の軍隊が一つ壊滅するほどの被害だった。人的被害は不明だ。
我々資本主義先進国は、大戦時と違い、質を重視して少数精鋭の
戦力をそろえる。西側諸国の戦闘機を200も破壊すれば、
その国の制空権は奪えるとまで言われている。

自衛隊戦力の被害総額を試算すると、およそ3兆5千億となった。
これは、アジアの小国ミャンマーのGDPを凌駕する。

「ところで君はどうして僕をビンタしたの?」
「答える義務はございません」
「おい」
「ですから、そのような質問に答える義務は、全くございません!!」

どうやらアヤちゃんは、次の首相になる人の
モノマネをしてるようだった。

テレビ画面を見る。記者会見の場で内閣の連中が記者にボコられていた。
直ちに新内閣を組閣して新たな対応をするべきだと怒声が飛ぶ。

ならばいっそと……。マイクを握った立件民主党の党首が、
今この場で政権を乗っ取る意思を表明した。
エダノシュキーと呼ばれる、切れ者で有名な衆議院議員だ。

「我々立件民主党は、先般の鉄人襲撃事件の際、ほとんど人的被害を受けておらず、
 また過去に国民に恨まれるようなことをしておりません!!
 今こそ、草の根を大切にする政治を発動するべきです!!」

エダノシュキーは、外務省に対してある指示を出した。
グアム島を拠点している米国の第七艦隊に出動を依頼したのだ。

これはまずいぞ。第七艦隊は戦艦を中心とした部隊だ。
栃木県は内陸部だが、第七艦隊の射程なら余裕で攻撃できる。
自衛隊より優れた戦力を持つ米国艦隊の攻撃を受ければ、
今度こそ栃木ボリシェビキはオワコンになってしまう。

アリサもカイジの顔になって悩んだ。

※飛鳥アリサ

私の名前をイニシャルにするとAA。
これをドイツ語のアルファべートで発音するとアーアー。
カラスの鳴き声は? カーカー。
00年代にブラジル代表で有名だった選手の名前は? カカ。

こんなつまんない冗談を言うほど、私はまいってしまっている。
私は家族の安否が気になって夜も眠れないのだ。

栃木県では自衛隊の攻撃をブラックオックスが
防いだと報道されたけど、実際の被害状況が分からない。
ナギサは? 母は? 果たして生きているのだろうか。
私たちはボリシェビキの管理下に置かれているので携帯電話を
島に持ち込めなかった。宿舎には固定電話があるけど使用は許可されてない。

それから一週間が経過した。
私たちは次の作戦が決まるまで宿舎での待機を命じられた。
正式には訓練所と呼ぶらしいけど、ただの別荘じゃない?

訓練兵は、娯楽らしい娯楽もなく、暇を持て余している。
庭で体操をしたり筋トレをするのは自由となっているけど
日中は日差しが強すぎる。そのため夕方のわずかな
時間を見つけてジョギングをすることにした。

私は自分が太っているのでジムとか人の多い場所で
運動をするのは恥ずかしい。その点この島は最適だ。
私たちの宿舎は海岸沿いにあるので
カニやヤドカリなんて珍しい生き物が足元を歩いていたりする。

脱走を疑われるといけないから、
宿舎から離れないように、周りをぐるぐると回るだけなんだけどね。

宿舎の裏側へ回った。
そしたら顔面に弾頭ミサイルの直撃を受けたのかと思うくらい。
衝撃的な場面に出会ってしまった。

「お兄ちゃん、こんなところじゃダメだよ」
「アユミ……最近仕事で溜まってて、もう我慢できないんだ」
「夜まで待てないの?」
「すぐ終わるからおとなしくしててくれ」

なにこれ? 職場の浮気現場?

同志高倉ナツキ閣下が、妹のアユミちゃんを押し倒してキスしていた。
かろうじて二人ともまだ服を着ているけど、誰かが
邪魔しないと服を脱いでしまいそうな流れになっていた。

「そこにいるのは誰だ!!」

やばっ。私はヤシの実の陰に隠れる。
……長野県の沖合にヤシの木ってあるんだろうか?

「隠れてないで出てきなさい!!
 ユウナじゃないとしたら、訓練兵の誰かだろう!!
 三秒以内に姿を現さなかったら処罰の対象とするぞ!!」

なんで私が悪いみたいになってんの。
妹を押し倒してたあんたの方が犯罪者だよね?

「すみません……夕方の涼しい時間に
 近くをジョギングをしていたもので」

「正直に答えなさい。君は見ていたんだね?」

「見ていたとは……」

「いいから答えなさい!! 君は何を見ていたんだ!!
 嘘偽りなく、君の二つの瞳で見ていた内容を答えなさい」

仕方ないので正直に伝える。

「そうか……。で、君はどう思ったんだ?
 僕はこれでも栃木ソビエトの代表の一人だ。
 僕が実はアユミを愛していたことが世間にばれたらどうなる?」

「それは……。まあ色々とまずいかと」

「そうだ。まずい」

「はい」

「僕を軽蔑したか?」

「軽蔑するというか、まだそこまで閣下のことを詳しく知りませんので
 なんとも。それに同志閣下のご家庭の事情でしたら、それこそ私には
 関係のないことです。どうぞご自由にと言いたいところですが……。
 これ以上は自重させてもらいます」

「続きが気になるぞ。言いたいことはすべて言いなさい」

「仮にですよ。同志閣下がアユミさんを押し倒すほどに
 愛してるのでしたら、ユウナさんの気持ちはどうなるのかなーと。
 ユウナさん、また切れて鉄人とか出撃させちゃうかもしれませんよ」

「僕はユウナのことは苦手だ!!」

「でしょうね。全力で避けようとしてましたものね。
 あの茶番劇無駄に長いし、しかも聞いてるこっちは
 気まずいのでみんな迷惑してますよ」

「僕だって好きでやってるわけじゃない!!
 ユウナはしつこくて困ってるんだ。
 僕がアユミのことを愛してるって
 伝えられたらどれだけ楽になることか!!」

押し倒されているアユミちゃんが、兄をどけて起き上がった。

「話が長くなりそうだから、私はこれで」
「お、おい。どこ行くんだ?」
「大人たちの話し合いには興味ないので散歩にでも」
「あゆみ!! 待ってくれ、あゆみ~」

高倉家では近親相関がブームなんだろうか。

こういうのって見せられる側はすごく不愉快なんだよね。
そもそも私たちは訓練を受けに来たはずなのに、
なんで高倉家のラブコメを見せられないといけないの。

私は腹いせに、ユウナさんにばらしてしまった。
しかもみんなが集まる夕食の席で。

「なにそれ、どういうこと!!」
「ナツキ様……? またまたご冗談を……」

ユウナに続いてアヤも切れてる。
食堂はまたしても……ざわざわ……。ざわざわ……。
と逆境無頼カイジの背景が再現された。
特に寺沢アツト君のひきつった顔が笑えるwww

個人的にこの背景は大好きだったりする。
私は中学生の時に漫画を全巻集めていた。
そんでルミに全部借りパクされた上にブックオフに売られた。

ナツキが狼狽しながら、
「同志アリサ。君は収容所送りだ!!」とか言ってるけど、
「いいえ。あなたはソ連邦英雄よ!!」とユウナさんが擁護する。

ユウナさんは兄上殿の胸ぐらをつかみながら、
きゃんきゃん吠えている。

「私にはちっとも構ってくれなかったのに、陰でアユミと
 会っていたのね!! アユミが妙にお小遣いを持ってるから
 おかしいとは思っていたわ!! アユミ相手に
 家庭内援助交際をしていたってことなんでしょ!!」

家庭内援助交際って初めて聞く単語だ。さすがボリシェビキは発想が違う。
私が見た感じだとアユミさんはそんなに嫌がってる風じゃなかったけど、
家族間でも援助交際って成立するんだろうか。

「愛する妹にお小遣いを上げるのはボリシェビキなら当然だ。
 アユミに比べたらおまえなんか、そうだな。ゴマフアザラシみたいなもんだ。
 ペットのように愛らしくはあるが、恋愛感情はない」

「ゴマフアザラシですって!? 言っていいことと悪いことがあるわ!!
 兄さんはド変態のくせに!! 5歳も年下の妹に欲情するなんてロリコンよ!!」

「アユミが中学生の時なら適当なセリフだが、今のアユミは24歳だぞ。立派な大人だ」

「アユミが中学生の時からお風呂をのぞいたりしてたじゃない!! 
 あと脱いだ下着の匂いを嗅いでたりしてたわ!!」

「バ、バカなことを言うな。あれはアユミの成長具合を確認するためにだね……」

私はお腹がすいたので、ユウナさんの分の
カレーライスを食べてしまった。
修羅場ってるのでばれなかった。ラッキー。

「うわぁあぁぁぁ?」

ちょうどそのころ、アユミちゃんが飛んできて、
テーブルの上に落下。大往生した。
まき散らされた料理と皿がすごいことに……。

「ごめん。ちょっと醤油を取ろうとしたら手が滑りました」
「ここの食堂は日本食は出ないから醤油などない……。いてて……」

アユミちゃんをぶっ飛ばしたのは、川村アヤだった。
この娘もハイレベルの変わり者。
訓練時代に私が何度話しかけても不愛想。無反応。
返事を一言だけして黙るので会話が1分以上続いたことがない。

この子はこんなんで社会でやっていけるんだろうかと
心配になるけど、私たちは率先して
その社会をぶち壊すために訓練を受けていることに気づく。

「ちょ……ストップ。まじ腰打ったっぽい。
 部屋で休ませてよ。ね? いいでしょ」

アユミは腰を痛めた割には元気いっぱいに駆けていった。
怒る相手がいなくなったので困ったアヤは、
ナツキさんの尋問に加わることにした。

ナツキさんの右の腕をユウナが、左の腕をアヤが持ち、
耳元できゃんきゃんわめく。

可愛い女二人に奪い合いをされるなんて
モテるねえ同志ナツキ。両手に花。ハーレムじゃん。

「もうナツキ様の浮気には我慢できませんわ!!
 私はここで聞いた事実を党の本部に報告させていただきます!!」

「私は家に帰ってから両親に話してやるわ!!
 お父さんたち、どんな顔するだろうね。兄さんが孤島で
 アユミの体を好きなようにして遊んでいたなんて知ったら!!」

「待て待て。僕は聖徳太子じゃないんだ。そんな一度に言われても困る!!」

他の訓練兵の反応が笑える。
やっぱりやべえ……こんな島。来るんじゃなかった……。
って感じで、キョロキョロして冷や汗をかいてる。

「同志アリサ!! 君も笑ってないで説明をしなさい!!
 このままじゃ、僕は本部に戻る前に聖徳太子になってしまうよ!!」

※ 聖徳太子の本名は、
  厩戸皇子(うまやどのみこ、うまやどのおうじ)である。
  余談であった。

あっそうですか。そんなに助けてもらいたいのね。
せっかく発言権を得られたのだから、遠慮なく話させてもらう。

「すみません。私もナツキ閣下にお聞きしたいのですが、
 アユミさんとはいつからそんな関係になっていたのですか?」

「いつからだと……。そうだな。たぶん僕が高3の夏休みだ」

「どっちから誘ったんですか?」

「僕はドライヤーでアユミの髪を乾かしていたんだ。
 アユミのうなじを見ていたらムラムラしてしまってね。
 家族が寝静まったころを見計らってアユミのベッドに忍び寄ったんだ。
 アユミは怖がって抵抗したが、そんなのお構いなしだ。ああ。最高だったさ」

「もう10年近くのただれた関係ってことですか」

「そうなるね。ちなみに風呂もよく一緒に入ったぞ。
 洗濯機を回すふりをして風呂場のドアを開け、
 入浴中のアユミのところへダイブするんだ。
 そしたらアユミがだね……」

「ちょっと黙ってもらっていいですか。私の質問にだけ答えてくれればいいので。
 しかもなんで私には秘密をベラベラしゃべるんですか。
 私は閣下がアユミさんを愛してる事実に激しく疑問を感じるのです」

「というと?」

「ユウナさんには欲情しないのに、どうしてアユミさんにはするんですか?
 二人とも美人ですし、姉妹だから顔つきはそっくりですよ」

「理屈じゃないんだよ。考えるな……感じろ」

うっざ。この男うっざ。見た目はインテリ風のイケメンだけど、中身が残念過ぎる。
初めて犯した時のアユミさんの年を計算すると中学生くらいだったはず。
中学生を犯すだけでもアウトなのに身内とか……。

こんな奴がボリシェビキの幹部なんだと説明されて納得できるわけがない。
こいつらと国家転覆を目指すのは誰が考えても無理っぽい。

おい……まじやべえぞ……所属する組織、間違えたか……?
って感じで訓練兵一同、ざわつき不可避だから。

「話はこれで終わりだろう? それじゃあ失礼する!!」

ナツキは窓ガラスをぶち破って逃亡した。
あの野郎。逃げ癖がついてるのか動きに無駄がない。
ユウナさんが短距離ランナーの姿勢でスタートを切り、猛追する。

今頃日本政府がどんどん動き出してると思うのに、
いつまでホームドラマを続けるつもりなんだろう。

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※高倉ナツキ

僕は海岸でユウナにつかまった。
宿舎から距離にして30メートルしか離れてないだろう。

初めから逃げることなんてできないのだ。
だがこれでいい。これ以上自分の痴態を訓練兵たちに
見せるわけにはいかないからね。

「はぁはぁ……追いかけっこはもう終わりなのね……」

体力がないくせに、たったこれだけの距離を全力疾走しただけで
こんなにも息を切らすとは。

ユウナは美しい。なぜならアユミのお姉ちゃんで顔が似てるからだ。
問題は体形だ……。僕はむっちりした体の女性は好みじゃない。
ユウナは食べ過ぎなのか、運動不足からなのか、20を過ぎてから
ムチムチし始めた。身長は164と大柄なのだが、二の腕や太ももが
太いぞ。色白だからか、余計に柔らかそうな脂肪が気になってしまう。

その胸だが……。

つん。

「きゃあ!? なにすんの!!」

感触が硬かった。スポーツブラをしてるのだろう。

「逃げたと思ったら今度はセクハラ?」
「ユウナ。ちょっと真面目な話があるんだ。聞いてくれ」
「何よ、いきなり真剣な顔になって」
「お前の名前の由来についてだ」

ファイナルファンタジーシリーズの10作目に
優菜という名のヒロインがいる。ユウナの名前の由来は
そこから来ていると、父から聞かされたことがある。

僕はそれだけをユウナに伝えてから、再びダッシュで逃げた。
優菜がすぐに追ってこれないように、「まきびし」を足元に
巻いておくのも忘れなかった。

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※ 飛鳥トオル

これ以上高倉家のホームドラマに付き合うのは我慢ならん。
しかも内容が詰まらん。栃木に残した俺の家族の安否を
確認するために、ついに脱出を強行することにした。

ここ数日、夜のうちに宿舎から出て、脱走の手段がないか探していた。

島の深い森を抜けて海岸沿いに出ると、やはりあったか。
おそらくボリシェビキの監督者らが管理しているのであろう、
モーター式のボートがあった。動くことは確認してある。
仲間もそろえた。俺の家族(娘二人)だ。

本当はカイト君とアツト君も誘ってやりたかったが、
脱走するなら人数は少ない方がいい。
彼らのことは仲間だとは思っているが、いざ脱走を強行したときに
心に迷いがあった場合に足手まといになる。何より家族が一番大切だ。

俺は、家族を捨てるつもりでボリシェビキになったつもりだったが、
所詮は甘い人間だったということだ。だが奴らもたいがいだ。
高倉ナツキやユウナの言動を見て私は悟った。ボリシェビキは
変わり者の集まりにしても、奴らは変わりすぎてる。しかも破廉恥だ。

真面目に国家を転覆させるつもりがないのだろう。
お兄ちゃんがどうだの、妹がどうだの、我々訓練兵にはまるで関係のないことだ。
しかも鉄人28号作戦が失敗に終わった今、
この島にもいつ自民党の反撃を受けるかもわからず、不安ばかりが募る。

「お父さん。私はやっぱり島に残るよ」

何を言ってるんだルナ!! ボートはすぐそこにあるんだぞ。

「本土に戻ったって、つまらない日常が待ってるだけだよ。
 資本主義の奴隷になって生きるのは、もう嫌だ」

「ここにいて何かが変わると本気で思っているのか?」

「私もルナに賛成。ここにいたら命までは取られないわけだし、
 まだ希望はあるよ。だって私たちには鉄人28号があるんだから」

あろうことか、アリサまでルナと似たようなことを言い出し、
二人だけでも宿舎に戻ると言い出す始末。
バカな……。俺はお前たちの父親だぞ。
俺だけ孤島から脱走しろというのか?

おまえたち、脱走を計画した時はあれだけノリノリだったじゃないか!!


「貴様ら、そこから動くな!!」

な……。我々は森の茂みから現れた人物にライトで照らされてしまった。
なんと我々を脱走の罪でこの場で銃殺するという。
しまった……。尾行には細心の注意を払ったつもりだったが。

「き、君は……!!」
「動くなと言っている」

15歳の若きボリシェビキ、川村アヤだった。
バカな……。なぜこの娘は銃を構えているのだ。
重火器の所持は、訓練中以外は固く禁じられているはずなのに。
(そもそも孤島に来てから訓練など一度もしてないが)

「私は逃げたナツキ様を追って森をさまよっていた。
 そしたら偶然貴様らが逃亡している姿を見つけた」

「ふ……。君は高校一年生だったな。
 君に我々を打つ勇気があるのかね?
 訓練兵同士なのに態度がでかいんじゃないのかね?」

その次の瞬間だった。私は腹を撃ち抜かれてしまい、
5日にわたり、生死の境をさまようのだった。

日本国政府は、赤狩りを実行した。

※高倉アユミ

初めて兄を好きになったのは、小学生の時だった。
いいえ、もっと前から兄のことが好きだった。
人を好きになるのに理由なんているのだろうか。

私は兄と手を組みながら街を歩いてた。
そしたら偶然出会った同級生の女の子がいて、
私と兄が仲が良すぎて変だとバカにしました。

翌日から学校では私のあだ名がブラコンちゃん、お兄ちゃん大好き女になった。
男子たちからも、後ろ指をさされて笑われた。何がそんなにおかしいのか。
兄と妹が手を繋いで歩いていたら、そんなにおかしいのか。

私はむしゃくしゃしたので、うわさを流した娘に後ろから
襲い掛かり、ボコボコにして排水溝の中に流してやった。
子供の大きさだと排水溝の溝にはまるだけで、
なかなか流れてくれない。汚いゴミだ。

その1週間後、私は学校で校長先生に説教された。
しばらく自宅謹慎ということで、1週間は自宅で
自主学習することになった。これを高校では停学と呼ぶ。


「脱走兵が出たことは非常に残念だ……」

「ナツキ兄さま。彼女たちを許してあげて。
 飛鳥家の姉妹は将来性のあるボリシェビキじゃない」

ここは宿舎の3階の司令部。私の兄と姉が話をしています。

「しかし他の訓練兵への示しもある。
処罰なしというわけにはいかない」

「1週間の独房入りで済ませましょうよ」

「ふむ……。本来なら銃殺刑のところを、少し軽すぎないか?」

「きっと私のせいなのよ!!
 私がお兄様と聖徳太子ごっこを披露しちゃったから
 きっとボリシェビキの将来に絶望してしまったのよ!!」

「父上のトオルさんはどうしてるんだ?」

「衛生兵が治療は済ませてるから、
 あとは回復を待つのみとなっているわ。
 ちょっとアユミ。トオルさんの様子を見てきなさい」

はいはい。私は一階の医務室へ足を運んだ。

「ぐかー」

トオルさんは気持ちよさそうに寝ていた。
死にそうな感じじゃない。弾はお腹を綺麗に貫通した。
その後の処置が的確だったので大事には至ってない。
でもこういうのって普通は死ぬんじゃないの。
銃弾が貫通したってことは、内臓とかやばそうだけど。

「また来ますね。お大事に」

私はそう告げて、司令部へ戻る。

司令部では兄が姉とイチャイチャしていた。
というか姉が兄さんに一方的に抱き着いてキスしているんだけど。

私はイラっとしたけど我慢して、邪魔しちゃ悪いですねと
だけ伝えて、部屋を出ようとした。

ズドオオオオオオオオオオオオオン

建物が、揺れた。
部屋の花瓶が床に叩きつけられ、破裂する。
窓ガラスに亀裂が走る。私はバランスを崩して尻餅をついた。

「自民党の反撃が始まったぞ!!」

私たち一同は宿舎から飛び出て森の中へ逃げた。
今何時だろうと、軍服の胸元から懐中時計を出す。
夜の8時過ぎだ。夕食後にほっこりしていたところを狙われたのか。
ちなみに私たちは全員軍服を着用している。
孤島では軍服で生活するのがマナーなのだ。

チュドオオオオオン
バッコオオオオオオオオオン

ミサイルが雨のように降ってくる。
島の形が変わるのではないかと
思うほど激しい揺れに襲われる。

耳を塞いでも鼓膜が破れるほどの爆音で体が縮こまってしまう。
訓練兵たちは地面にはいつくばって一歩も動けない。
宗教は禁止されてるのに神の名前を口にした女もいる。
こんな状況では無理もないと思うけど。

「もう終わりよ!! 兄さん!! 
 私たちはここで皆殺しにされるんだわ!!」

「うろたえるなユウナ。ボリシェビキは
 どんな時も鉄の意志で乗り切るんだ!!」

私たちは森の中を這うように移動して秘密の地下実験場へ。
ここには鉄人28号の格納庫もある。
核シェルターとしての機能も有してる一種の要塞だ。
以前にも説明したと思うけど、マジンガーゼットに出てくる
光子力研究所でググればここの描写を省ける。

「兄さん!! 鉄人で反撃をするべきよ」
「その前に困った話を聞いてくれ」
「なに!?」
「リモコンを宿舎に置いてきてしまったんだ」
「なんですって!?」
「あとトオルさんも病室に置いてきてしまった」

そういえばトオルさんを忘れてた。
私が森から観測した結果、大砲の砲弾が少なくとも
20発は宿舎に直撃していたから、死んだと考えるべきだろう。
骨が残っているかどうかも怪しい。

私の姉はついにパニックを起こし、意味もなく服を脱ぎ始めて
下着姿になった。醜い素肌をさらすなよ。男たちが吐いたらどうするんだ。

「反撃する手段がないんじゃ、皆殺しにされるだけだよ!!」

「落ち着きなさいユウナ。ここは孤島だがソ連の一部だ。
 自動報復システムを起動させよう」

兄さんが『赤いスイッチ』をぽちっと押した。
コントロールルームから「ウイーン」とアラームが鳴り響く。

『自動報復システム発動まで、あと1分。
 対ショックに備え、各員はベルト着用のこと。繰り返す』

私はベルトがどこにあるのかとキョロキョロする。
訓練兵たちもキョロるけど、見つからない。

「敵にミサイルを撃ち込むだけだから、ベルトは必要ないんだ。
 ベルトの件は宇宙戦艦ヤマトから拝借したネタだ。意味はない」

ナツキお兄ちゃんは緊急事態でもジョークのセンスを忘れない、
本物のソ連人だ。ソ連の先人たちは世界最強の
ナチスを倒したことを忘れてはいけない。

約束の1分が過ぎ、地表から轟音が響いた。
森のいたるところにミサイルの発射基地があるみたいで、
そこからミサイルの一斉射が始まった。その数40。
監視衛星からの映像とレーダーで、ミサイルの行方を追う。

ヒユー。チュドーン

残念ながら、ミサイルは大気圏から降下する途中でほとんどが迎撃された。
そもそも私たちはどこへ向けて撃ったのか。

ナツキ兄さんが、電話でボリシェビキ本部と連絡をしている。
そして衝撃の事実が明らかになった。
長崎県の周囲の海域に、海上自衛隊の主力艦隊が集結している。
艦隊の主力となるのは、イージス艦を中心とした護衛艦隊。
海上からの攻撃なら鉄人の反撃を受けないと考えてのことらしい。

ちなみに敵の指令はアベースキー首相。
アヤちゃんが海に捨てたはずなんだけど、
色々がんばって東京まで奇跡の生還を果たして、
立件民主党を撃破。直ちに政権を取り戻して現在に至る。

我々孤島ボリシェビキは、ミサイルを打ち尽くしてしまった。
先ほどの40発は、いやがらせ程度の迎撃装置に過ぎない。
実は全弾発射できたわけではなく、整備不良その他の
理由で半分しか発射できなかった。実戦なんてこんなもんか。

あくまで主力兵器は鉄人28号。でもリモコンどうしよう……。

「諸君!! これより決死隊を募る!! 
 勇気のあるものは、宿舎まで鉄人のリモコンを取りに行くんだ!!」

兄さんの呼びかけに一同は静まる。
画面越しに外の様子を見ると、空一面を埋め尽くすほどの
ミサイルが降ってきている。本日の天気は晴れ時々ミサイルです。
外出時には厚手のコートを忘れないようにしてください。

概算ですでに160発以上のミサイルがぶちこまれている。
自民党の作った自衛隊ってこんなにミサイルを持っていたのね。

「私が行きます」

「おお……行ってくれ……って、なんで君が!?」

自殺志願者として手を挙げたのが川村アヤだったのだ。

「もはや鉄人の力を借りることでしか状況を打破することは不可能。
 また同志飛鳥が生きてる可能性を考え、救出しなければなりません」

なんという献身的精神。
この子は15歳でそどうしてこまで……。
ユウナがガッツポーズしてるのが腹立つ。

「け、決死隊は男性の仕事だ!! 
 男性諸君、誰か勇気のあるものは挙手しなさい!!」

「ボリシェビキは男女平等に義務を負う社会です!!
 かつてソ連の同志はそうでした。帝都ベルリンに一番乗りした
 兵に女性もおりました!! ソ連では女子だけで結成された
 女子飛行連隊も存在しました!! 私は党の名誉のために死にます!!」

そしてあなたの命令で死にますとまで言った。

想いが重い。うちの兄にこんな時まで色目を使ったつもりなんだろうか。
この子が外に出て自殺したとしたら兄は一生負い目を感じることになる。
漫画とかでよくあるパターンで、私は一生あなたの心の中に生き続けるって?
この子、小6病かもしれない。

「同志閣下!! 若い娘を死地に駆り立てるくらいなら僕が代わりに!!」
「そうか水谷君!! なら頼む!!」
「はい……と言いたいところですが、足がすくんで動けません!!」

今も上空では自衛隊の戦闘機の編隊がぐるぐる回って高性能爆弾を落としていく。
森に火災が発生し、瞬く間に周囲に炎が広がっていく。
このままでは、孤島の面積の大半を占める森が全部焼かれてしまう。

「同志閣下!! 俺からも言いたいことがある!!」

今度は寺沢アツトさんだ。

「我々の指揮官は、旅のパンフレットにはユウナさんだと書いてある!! 
 だがユウナさんの現状を見てくれ!! 
 子猫みたいに脅えちまって、兄であるあんたの腕にしがみついてる!! 
 なんで下着姿なのかはこの際不問にするが、つまりだ。
 指揮官のそんな姿を見せられて誰が決死隊になんかに参加できるかってんだ!!」

「ぐぬぬ……」

上官に敬語を使わない時点で、スパイ容疑がかかるんだけど。
アツトさんは本当に思ったことは何でも口にできる人なんだね。
兄もたぶんここまで面と向かって歯向かってくる人は初めて見たと思う。

「同志閣下!! 意見具申させていただきます!!
 いっそのこと降伏するべきでは!?」

とアリサさんが挙手ながら発言する。

「我々は海上自衛隊の圧倒的な戦力に包囲されており、
 また鉄人が出撃不能の状態が続き、もはや白兵戦しか戦う手段は
 ないのかと思われます。このまま攻撃を受け続けては……」

「降伏したら僕たちは拷問されてから裁判にかけられ、
 絞首刑にされるが、それでもいいかね?」

「う……」

資本主義国では、国家の転覆を狙うアカ(我々のこと)には容赦しない。
逆さ貼り付けの十字架でも生ぬるいくらいの拷問は覚悟するべきだろう。
アベースキー首相は一度捕虜になっているから、
私たちへの恨みはすさまじい。女は間違いなくレイプされる。

「落ち着き給え諸君。この地下の防御力は諸君らの想像以上のものだ。
 核でも撃ち込まれない限りビクともしない。ここは籠城戦だ。
 敵の弾だって無限ではない。さらに30日分の水と食料が
 備蓄されている上に、上下水道も整備され……」

「同志ナツキ閣下!! 水道管が破裂しました!!」

部下からの報告が飛ぶ。描写してなかったけど、訓練兵の他に
姉が連れてきた部下の兵隊が10名もいるよ。衛生兵とか通信兵の人。
彼らはオペレーターの席に座って、絶望的な状況を教えてくれる。

「停電対策に用意していた予備のバッテリーが、
 もう持ちそうにありません!!
 あと20分以内にここの電源は落ちてしまいます!!」

「自衛隊のヘリが、毒ガス弾と思われるものを投下。
 島周辺の空気が汚染されていきます!!」

「爆撃機が、チャフ(電子妨害装置)を撒布!!
 こちら側のレーダーが機能しません!!」

ずどん、ずどんと、天井が揺れ続け、ついに停電。
姉の悲鳴がうるさい。早く声枯れろよ。
兄さんがろうそくにマッチで火をつけて、なんとか明るさを保つ。
こんな時でも、ゆらゆらした炎をみてると心が落ち着くものだ。

私は全部諦めてる。人生なんてこんなもんでしょ。
死ぬときは死ぬんだから、姉みたいにわめいてもしょうがない。
私は兄さんのことが好きだから、兄さんと同じ場所で
死ねることだけが幸運かな。
だからアヤの言ってたことも理解できてしまう。

「お、お兄ちゃん……。これで最後だから、どうか
 ユウナのことを抱いてください。もう人目なんて
 どうでもいいわ。最後はあなたの腕の中で死なせてください」

姉はついに下着まで脱いで、白豚に変身していた。お腹はやっぱり出ていた。
こんなメス豚の肌を見て男性陣がズボンにテントを張ってるのが不思議。
この女のどこに性的な魅力があるんだろう。

「なあルナちゃん。俺と手を握ってくれないか?」

「はい……」

「ありがとな。俺は口下手だから、うまく伝えられるか不安なんだ。
 だが俺たちはここで死んじまう運命だ。だからよ、正直に伝えるぜ。
 俺は君のことが好きだったんだ。君といると楽しかった」

「アツトさん……。私もアツトさんとお話しするの
 楽しみにして生きてました」

アツトさんとルナちゃんもラブコメを始めた。
人間は死期を悟ると生殖活動を始めたりするんだよね。
危機的状況で結ばれる男女、俗にいう「吊り橋効果」も期待できる。
少女漫画もミサイルが撃ち込まれてる状況で物語が始まれば、
すぐに結ばれるね。その代わりすぐ別れるだろうけど。

「あのぉ。ちょっとすみません」

私がオペレーターの背中に声をかける。
自殺用の拳銃をもらおうと思ったんだけど、
息がない。すでに自分の頭を打った後のようだ。

ユウナは最大の過ちに気づいた。

※ユウナ

私は今ここで徹底的な自己批判をします。
私は実戦で全く役に立たないどころか、
みんなの足手まといになってしまいました。

私は最低の女です。学園では教頭面して偉そうにしていながらも、
しょせんはゆとり世代の、根性なしのゴミだったのです。
私は誰よりも自分自身に絶望しました。
私は今日、この孤島の基地で死ぬのでしょう。

『ユウナ。今度の出張先は危険じゃないの?
 あなたは人を指示できる立場の人なんだから、
 あなたが危険な目に合うことはないのよ』

優しかった母の言葉を思い出し、涙があふれてくる。
思えば孤島での鉄人作戦を思いついた時から、
私の運命は決まっていたのだろう。

「ユウナ、ユウナっ」
「あんっ。兄さんっ……兄さんっ……そんなに吸ったら……」

ナツキ兄さんは、愚かな私に同情してくれたのか、
初めて私の肌に触れてくれた。胸を乱暴に揉み、乳首にキスをする。
私のピンと張った乳首に赤ちゃんのように吸い付いてくるから、
全身から力が抜けちゃう。私が膝立ちになると彼が支えてくれて、
今度は熱いキスをプレゼントしてくれた。

舌の先が絡み合う。溶けちゃいそうな熱い口づけだった。
兄さんはズボンを脱ぎ、いきり立ったものを見せつけてくる。
私に丁寧に舐めろというので、やったことなくて不安だったけど、
同人誌とかで見たのを真似して口にはさんでみた。
歯でかまないように気を付けながら舌で舐めてあげると、
兄さんは気持ちよさそうな顔をするのだった。


※アユミ

「あーあ。お兄ちゃんが取られちゃったなー」

「何よアユミ、邪魔しないでくれる?
 あんたはいつもナツキを独り占めしてたんでしょうが」

「姉さんみたいにフェラはしたことないよ。
 私はいっつもお兄ちゃんに一方的に愛撫されるだけで
 私からは何もしたことないもん。てゆーかさせてくれない」

だから妊娠したこともない。実は兄さんもその辺は
考慮してるのか、挿入されたことは一度もない。
変態さんなのに肝心なところで理性的なのは、さすがボリシェビキ。

「アユミ。お前もこっちに来なさい」

言われたとおりにすると、お兄ちゃんは私の唇を奪ってきた。
軍服の上着を脱がせて、胸をあらわにされる。
パンツの中に手を侵入させ、あそこの毛をなでてくる。

「んっ」
私は簡単に濡れてしまい、兄さんの指がすっぽりと挿入されてしまう。
いつもこんな感じで、あとは私がイクまで兄さんの指が出し入れされる。
両足を肩幅に開き、パンツは膝の位置まで脱がされていて、秘所は丸見えになっている。

「あっ、あっ。だめっ……。こんな……とこでっ……
 みんなみてるっ……のにっ……きもちっ……」

ぴちゃぴちゃと音を立てて、愛液がこぼれていく。
私は成すすべもなく脱力して兄さんの肩につかまったままの状態でイッてしまった。

兄さんはびっしょりと濡れた自分の手を愛おしそうに舐めた。
一度では足りなかったのか、また兄さんが私の中に
指を突っ込んできたので、今度は床に力なくしゃがんでしまう。

「アユミ……。僕がどれだけお前のことを愛してるか、分かるか?」
「あぅ……さっき……イッた……ばかりなのにっ……ああっ……」
「本当ならお前を妊娠させてやりたいくらいに好きなんだ」
「そんなっ……ああっ……はげしっ……そんなにしたらっ……またっ……」

Gスポットをぐりぐりとされながら、私はあえぐしかなかった。
はしたないとわかっていながらも、大きすぎる声を漏らしてしまう。

「ああああ!! もうイッってるからっ!!
 お兄ちゃんっ……もうやめてっ……!!」

体全体をびくびくと震わせながら、愛液が吹き出していく。
兄は意地悪なのでイッてる最中も愛撫を止めてくれなかったのだ。
余韻でぐったりしている私に兄はのしかかり、
私の口の周りについた唾液を舐めとっている。
手はしっかりと私の胸のふくらみを触りながら。

ユウナは、自分もしてほしそうな顔でナツキの腰にしがみついている。

「ナツキお兄ちゃん。わたしね、ナツキお兄ちゃんの子供が欲しいの……。
 私ならどれだけ乱暴にしてくれてもいいよっ……。
 だから、ね? 私を妊娠させて……」

兄はユウナには遠慮がないからなのか、
股を大きく開かせて男性器を挿入してしまった。

「あああっ!! 痛いっ……でも兄さんのだからっ……我慢できるっ……」

初めてだったんだろうね。ふとももが血が汚れてるに笑顔なのがすごい。
兄さんはボロボロと涙を流しながらピストン運動をしていた。
さすがに実の妹にやりすぎかと、ためらう表情に汗がにじむ。

「やめちゃだめええ!! せっかく兄さんとつながったのよ!!
 お願いよぉおお!! 最後までして!!」

ユウナは豚のくせにすごく色っぽい顔で兄さんの手首をつかんだ。
そして自分の胸へと誘導して、好きに触らせた。
こいつはデブだからか、無駄に胸が大きい。

兄さんは手のひらに収まりきらないほどの胸に感動したのか、
目つきが狂暴になり鼻息が荒くなる。
激しい挿入を再開した兄さんは、あっという間に絶頂に達してしまう。
ユウナのぴったりと閉じたあそこから白い液体が垂れるのだった。

「痛かっただろうユウナ?」
「うん。でも兄さんだから怖くなかったよ」

二人は手の平を重ね合い、熱烈なキスをした。
優菜は胸やふとももを夏樹に押し付けるようにしながら
しがみついており、もはや夫婦とも愛人とも表現できぬ、
未知のカップルが完成していた。

ところで他の訓練兵たちは、カイジの顔をして固まるいつもの
流れになっている。たぶん私も見てる側だったらそうなる自信ある。

ぱぁんと
銃声がして誰かが倒れた。兵隊が自殺でもしたのか。
もう確認する気にすらならない。私はティッシュで股を念入りに拭いた。

「あんなの見せつけられて、こっちは生殺しじゃないか。
 運命を呪ってやる!! 僕だってどうせ死ぬなら、
 かわいい女の子とキスしてから死にたかったぞ!!」

と言って水谷さんは外へ出て、爆弾の破片が首に刺さって即死した。
戦死判定確実のトオルさんに続いて二人目の死者だ。

アヤが妙におとなしいと思ってたら、なんとすでに自殺していた。
さっきの銃声はこの子のだったんだ。
銃口を口の中に差し込んで発射したみたいで即死だった。

アヤは早熟な子だけど高校生に過ぎない。
うちの兄の痴態をあれほど見せられたら無理もないか。

ルナちゃんとアツトさんは、隣通しで体育座りしながら
幼稚園時代の思い出話をしていた。(二人とも全裸で)
アリサさんは、力なく床に座り込んで、ただぼーっとしている。

今も地上では爆音がうるさくて天井が揺れている。
ろうそくの明かりがなくなれば、
いよいよ視界が奪われ絶望するしかない。

アヤの死体を見て、ふと死ぬのが怖くなった。

ユウナは、兄にしがみついて自分の不幸を呪っている。
お兄ちゃんも閉じた瞳から涙がこぼれてる。
私には大人になった兄が泣いている姿を始めてみた。
胸がきゅんとした。男の人もやっぱり泣くんだね。

私も最後は兄にしがみついて死のうと、
兄さんの背中から抱き着いてみる。
正面から抱き着いているユウナの指先が邪魔で
蹴飛ばしてやりたいけど、今日が人生の最後の日なんだから我慢。

私は目を閉じて、ろうそくの灯が消えるのを待っていた。

ここで不思議なことが起きるのだった。
どこからか大きな男性の笑い声が聞こえてきた。

護衛の兵隊はみんな自殺してる。
アツトさんは静かにラブコメ中だし、兄さんは泣いてるし、
これほどの修羅場で笑える勇者はいったい……。

「ふはははは。ボリシェビキの同志諸君。
 諸君らのような未来ある若者が、これしきのことで
 絶望するようではボリシェビキの理想は貫けなんなぁ。
 実に……実に……実に嘆かわしいぞ。諸君!!
 そこにいる娘よ。お主は私の名前を知っているだろうか」

そこにいるのは、かつてのソ連邦建国の英雄にして
初代人民委員会議の議長、
革命家のウラジーミル・イリイチ・レーニンの幽霊だった。

レーニンはろうそくの灯の中にいた。
ろうそくがレーニンなのか。
レーニンがろうそくになったのか。
こたえは分からない。

レーニンのサイズは、その辺のスーパーで売られている、
ワンピースの食玩のフィギュアと同じくらい。
なんというミニチュアサイズの同志よ。
幽霊なのにフィギュアサイズとはさすがボリシェビキ。

「娘よ。問いに答えよ」
「はっ。お初にお目にかかります。同志レーニン」

かつてスペインの画家、サルバドール・ダリは、
ピアノの演奏中にレーニンの幽霊を見たことがあるという。
『ピアノに出現したレーニンの幻影』というタイトルの名画である。
私の目の前で発生した謎の現象は、同絵画が元ネタになっている。

私はとりあえず兄に脱がされた服を元通りにしてから
レーニンと会話することにした。

「同志レーニン閣下。状況は絶望的です」

「ヤパニッシュ・ソルビコム(日本政府)
 の軍隊に包囲されているのだろう」

「そうです。我々は反撃の手段がありません」

「それが間違いなのだ」

「はっ?」

「今ここに何人の人間がいる?」

「生きている人間でしたら、私と兄と姉、
 アツトさんとルナちゃん。それとアリサさん。
 以上の六名です。他は戦死しました」

「ふはははっ。六人もいれば上等なものよの」

「私には……少なすぎる戦力に思えますが」

「重要なのは人数ではない。意志の力だ。
 君はボリシェビキの一員か? 日本が起点となり
 世界で同時に革命を起こし、産業資本家の奴隷として
 生かされている全ての民を開放するために、
 自らの生命を財産を犠牲にする覚悟があるかね?」

正直言って、そんな覚悟はなかった。
私は兄の影響で小六の時から共産主義の勉強を始めて、
中二の時にドはまりしたけど、結局飽きてしまった。

中学の社会の先生が言ってた。
資本主義が悪なのはみんな知っているけど、社会の必要悪として
認知されている。結局人類がどれだけ頑張って社会を作っても、
資本主義以上に合理的な世の中は作れなかったから仕方ないと。

私は大学を出て二年経つ。資本家の奴隷として働きたくないので
就職はせず、兄と姉のお給料で食べさせてもらっている。
今は共産主義について考えるよりも、プレステ5で遊んでいた方が楽しい。

「意志の力と言われましても……」

「ソ連建国時に比べたら、この程度の数的劣勢などあってなしのごとしだ」

ソ連建国時の1914年。第一次大戦でドイツに敗戦したソ連は、
領土、人口のおよそ30パーセント、鉱物資源のおよそ60パーセントを奪われた。
その後は内乱が発生。コルチャーク、デニーキンらの反乱軍と戦いながら
国内の反対主義者を粛正し、西部国境から攻めてくるポーランド軍を
迎え撃った。そしてシベリアには日本軍が上陸し(シベリア出兵)、
さらに北方ソ連にも列強国の軍隊が上陸して共産主義革命を防ごうとした。

あの当時、世界は西洋列強によって支配されていた。
世界の秩序は帝国主義諸国が作りあげ、
資本家の利潤を追求するために植民地支配が行われていた。

ソビエトは、地球人類を悪の支配から救うために立ち上がった。
生まれたばかりのソビエト社会主義共和国連邦は、
地球上の全兵力を敵に回しながらも、最後まで屈することなく、
革命を守るために戦ったのだ。

「我々ボリシェビキの歴史の中で、内戦時より辛いことはなかった。
 そして何よりドイツが恐ろしかった。私は今までの人生で
 ドイツより恐ろしい敵に出会ったことはない」

二度の世界大戦があった。いずれもドイツ軍によってソ連は
国家滅亡の一歩手前まで追い詰められたのだ。
ソ連軍が存続したことは、歴史上の奇跡であるといっていい。

レーニンはそう熱弁するけど、私たち孤島に追い詰められた
ボリシェビキもソ連に負けてないくらいの絶望的状況だよ。

「トロツキーが組織したばかりの頃の赤軍は、
 農民と工場労働者ばかりでな。
 素人の兵隊の寄せ集めで戦ったのだ。
 それに比べて諸君らは恵まれているぞ」

「私たちも素人なのですが」

「鉄人28号があるではないか」

「あれはリモコンがないと動きませんよ」

「安心しなさい。私がリモコンだ」

レーニンは、管弦楽団の指揮者がもつ指揮棒を手にして
激しく振り始めた。すると鉄人が格納庫から
「ごおおお」とか言いながら出撃を始める。

『グリコ、グリコ、グーーリーーコーーー♪』←鉄人のテーマソング。

背中に積んだジェットエンジンの噴射で森の樹木が葉を散らす。
鉄人は島を飛び越え、沿岸にいる敵の艦隊に向けて突撃をかけた。
しかし、敵の数があまりにも多かった。
潜水艦も含めて40隻を超える大艦隊だった。
どうやら海上自衛隊の全戦力が展開されているようだ。

鉄人の背中のエンジンをめがけて敵のミサイル攻撃が集中した。
ジェットエンジンが破壊され、浮力を失った鉄人は海の中に突っ込んだのだった。

鉄人は重いので海中から自力で上がることはできない。
そこへ追い打ちをかけるように、潜水艦の魚雷が発射された。
にごった爆発音の後、閃光と共に海面が盛り上がるのだった。

      ~~私たちの抵抗~~
      
         終わり (^^)/ 著作:制作 ボリシェビキ

さて。そろそろ自殺の準備をしないと。

「同志レーニン閣下。閣下は現状をどうご覧になりますか?」

「まだ戦いに負けたわけではない。
 なぜなら我々は降伏をしていないからだ」

戦争は、最後は歩兵部隊が拠点を制圧するまで終わらない。
あるいはこちらが空爆で戦意を失い、
降伏してしまえばそれまでだが、我々にはまだ戦う意思がある。
(レーニンだけ)

「若き女性同志よ。君ならどうやって戦う?」
「……敵が地下室に入ってきたところを銃で迎え撃つ?」
「それ以前に敗北する。出入り口付近にガス弾を発射されて終わりだ」
「じゃあ、どうして私たちを戦わせようとするんですか」
「君たちにはまだ最後の武器が残っているからだ」
「最後の……武器……?」
「我々がボリシェビキであることだ」

うん……。それって気持ちの持ちようだよね?
こんな危機的状況で精神論を言われてもな。
これだからオールドボリシェビキ世代の人は困るよ。

「心に念じるのだ。我々の革命は、こんなところで終わるべきではない。
 私はレーニンである。社会主義国の父として、後世にまで名前が刻まれた。
 私がなぜ不可能を可能にしたかわかるかね?
 それはもはや人知の及ぶことではない!! 私はボリシェビキであり
 今後もボリシェビキであること、そしてソ連に住む全人民が
 ボリシェビキの党のために、生命と財産を投げうつことを期待したからだ!!」

海が荒れた。
鉄人が落ちたあたりで大きな渦を巻き、
海中から何かが現れようとしていた。
この流れだとゴジラを期待したい。

「私もボリシェビキの未来を信じる!!」

アリサさんだ。指導者レーニンの前で祈るポーズをしている。

「私は死ぬのが怖い。軍隊が怖い!! 拷問や粛清も怖い!!
 死ぬまで資本主義の奴隷として生きるのも怖い!!
 でも今私にとって一番幸せなことがある!!
 それは、生きていること!! 今私の心臓が鼓動してる。
 言いたいことを自由に発言できる!! それだけで私は
 幸せなんだって、今はじめて気づいた!!」

「俺様も同感だぁ!!」

アツトさんだ。うっとりした顔のルナをはべらせている。
ちなみに二人とも全裸です。

「俺なんてボリシェビキですらねえぞ!!
 自分がなんで孤島に来てるのかもよくわかってねえ!!
 アリサっちは今良いこと言ったぜ!! 
 俺たちは生きているだけで幸せを感じられる生き物なんだ!! 
 俺は生きたい!! 生きて明日を迎えたい!! 
 また明日から大学のくだらねえ講義が始まってもいい!! 
 だって日常は最高の宝なんだからよ!!」

「そうだそうだ!! 私たちの日常を守れぇ!!」

とルナちゃんも両手を天へ掲げて言葉を続ける。

「私も言いたいことたくさんあるけど、頭の中で
 整理したらほとんどアツトさんとかぶっちゃうので、
 あえて省略します!! 何が言いたいかというと、
 私も生きて明日を迎えたいです!!」

さてさて。続いての演説は……。
私の大好きな、ちょっぴり変態さんの兄上です。

「僕は同志レーニンの忠実なる下僕です。
 閣下が抵抗を望まれるならばそのように致しましょう。
 ああ、同志閣下。なんと神々しいお姿なのか」

「私は閣下の下僕であると同時に、兄の下僕です」

まだ裸だ。服着ろよバカ姉。

「同志レーニンの前で自己批判をさせてください。
 私は訓練兵たちの指揮官でありながら、先ほどまで
 戦意を失い、場を混乱させ、訓練兵を三人も失ってしまいました」

移動中の船で死んだ人も含めると五人なんだけどね。

「私はボリシェビキ。高倉ユウナ!! 逃げずに戦います!! 
 私は鉄人28号が今にも海の底から出てきて、
 自衛隊の奴らを全滅させると信じています。
 信じる根拠があります。だってソ連最強の鉄人、
 レーニン閣下がそう信じておられるのですから!!!」

海が、大きく荒れた。波浪に耐えきれず、
比較的小柄な駆逐艦の艦隊が、波に揺られて戦闘力を失う。
上空に雷が発生し、大雨が降り始めて戦闘機部隊の視界を奪う。

大きく割れた海の中から、一体のロボットが浮かんできた。
それは我々が期待した鉄人28号ではなかった。
孤島にいるボリシェビキの祈りを受け、鉄人28号は
グレードアップしたロボットへと変わっていた。

それは、日本のアニメの歴史が生み出した
究極のスーパーロボットと呼ばれる
        『ジャイアントロボ』だった。

  ※ジャイアントロボ
鉄人28号の作者である、天才漫画家『横山光輝(よこやまみつる)』が
最後にデザインしたロボ。顔がファラオ。手足はプロレスラーのように太い。
見るからに強そうだ。肩、胸、腹にミサイル、下腹部にバルカン砲を格納している。
肩に担ぐバズーカ砲もある。鉄人より100倍くらい戦闘力が高そうだ。

「かつてソ連が目指していたミサイル飽和攻撃を」

レーニンが指揮棒を振るう。

「このジャイアントロボ1機で実現できるのだよ。
 その天と地を揺るがすほどの壊滅的な攻撃力は、
 まさにソビエトのために用意されたようなもの」

※Wikiより 

『ソ連海軍のミサイル飽和攻撃』
冷戦時代のソビエトは、米空母部隊への対抗手段として、
敵のミサイル迎撃能力を超える大量のミサイルを
放つことによって艦船を撃沈するという戦術を立てていた。

(一方アメリカは、これに対抗するためにより
 多数の目標に対処できるイージスシステムを開発することとなる)。

ちなみに太平洋戦争で米海軍に日本海軍が壊滅させられた経験から、
ソ連海軍では飛行機を使用してのまともな空中戦闘では
到底勝ち目がないことが分かったので、ミサイル戦術を考案した。

日本帝国海軍の敗北後、ソ連海軍ではアメリカとの
第二次太平洋戦争を想定した図上演習を繰り返した。
その結果、ソ連が崩壊するまで
西太平洋の海域でソ連海軍が全滅するという結果は変わらなかった。

※筆者の意見

圧倒的な攻撃力と練度を誇る日本海軍を壊滅させた
アメリカ海軍は、その三年半で蓄積したノウハウから
現在までに世界最強の艦隊運用、防空システムを構築している。
仮に全世界の海軍が手を組んでも半年以内に米海軍に
壊滅させられると恐れられている。


「ゆけ!! ロボよ!! ミサイル全弾発射だ!!」 ←レーニンのセリフ

しかし、ロボは言うことをを聞きませんでした。
ジェットエンジンで日本艦隊(自衛隊だけど)の周囲を自由に飛び回り、
気まぐれに護衛空母の甲板にワンパンを食らわせたり、
目からビームを放って駆逐艦を燃やしたりと遊んでる。

「指揮の仕方を間違えた!!」

レーニンは指揮棒を振り直します。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!」ロボが吠える。

ジャイアントロボに向けて、日本海軍の全戦力が迎撃ミサイルと
対空射撃を食らわせるが、ジャイアントロボはすごく強いので
びくともしないぜ!!

ロボは、うで、かた、こしの痛みにバンテリ…、
じゃなくてミサイルハッチを開いて全弾発射した。
その数は100を超える。

ミサイルは超大型。ソ連製の長距離対艦ミサイルP-700。
愛称「グラニート(御影石)」 対米艦隊向けの決戦兵器。

ひゅーん ひゅーん  ←ミサイルが飛んでゆく音。

ちょうどイージス艦の旗艦には、アベースキー首相が乗っていた。
  「ば……ばかな、イージスよ。なぜ迎撃できんのだ!!
   は、早くあのミサイルを打ち落とせ!!」

ミサイルの一発は爆発せずに、イージス艦の艦橋部に突き刺さった。
「ぐぅぅぅおお!?」 アベースキーは、ミサイルと壁に挟まれて吐血した。

プルプル震える腕で、ミサイルの先端をどんどん叩く。
せめてもの抵抗なのだろう。彼の体にはガラスの破片が突き刺さり、
オールバックの髪が崩れて血と汗がにじむ。
肋骨は完全に折れてしまい、背骨や脊髄にまで影響を及ぼしている。

「ごはぁぁ」また血を吐いた。「おのれぇ。共産主義者どもめぇ」

ブリッジ内には、水兵の千切れた手や足が転がる。
胴体だけの死体もあった。
一面の床が真っ赤な血で染まっており、少し歩こうとすると滑るほどだ。
アベースキーは、自分のお気に入りの帽子がないかとあたりを見渡す。
そこで絶望した。「俺の……右足の先がないだと……」

ミサイルが突っ込んできた際、破壊された鉄の破片が飛んできて、
彼の太ももから先を切り裂いていたのだ。ちなみに千切れた部分は、
ブリッジの隅に転がっているが、彼からは見えない位置だった。
ふとももの切断面から骨がはみ出ていて、レモンを絞ったように
血が流れ続けている。あるはずのない足首が痛むのだから不思議だ。

「ごはぁ」三度目の吐血だ。今度はコップ一杯が満タンになるほどの
血の量だった。アベースキーは、いよいよ死期を悟る。

イージス艦の艦長は仰向けに倒れている。
一見無傷のように見えるが、首の後ろにガラス片が刺さって死んでいる。
総舵手(そうだしゅ)は悲惨だ。舵(かじ)を面舵(おもかじ)に切った状態で
死後硬直している。しかしイージスは自動航行装置がついている。

イージス艦は、まるで意志を持ったかのようにジャイアントロボに
突っ込んできた。体当たりをするつもりなのだろう。

海上に浮かぶのは、黒煙をまき散らす無残な艦艇の姿ばかり。
戦闘行動ができるのは、この指揮官が乗るイージス艦だけで、
潜水艦を含む、すべての日本海軍の船が原型をとどめず
炎上するか、沈没している最中だった。

「悪の資本主義帝国の帝王め。これで終わりにしてやる」

なんと、イージス艦の前方に浮遊するレーニンの幽霊が現れた。
日本国の海軍力の象徴。自民党の手先である、悪のイージス艦に対し、
身長160センチのレーニンが拳を構える。

「いっくぞおお。ボリシェビキ、ぱーーんち!!」

「うわあああああああああああああああああああ!?」 ←首相

チュドーン

こうして孤島は救われた。

高倉アユミは小雨の中、傘をさして立っていた。

※アユミちゃん。

こんにちわ。地上に存在する全ボリシェビキのアイドル。
アユミちゃんです。

「クロネコヤマトでーす。
こちらは高倉アユミさんのご自宅で間違いないですか?」

「はいそうです」

「ではお品物をどうぞ。代金は支払い済みですので、
 ハンコだけお願いします。サインでも構いませんよ」

ついに届いたのだ。バンダイから発売されている、
ジャイアントロボの超合金フィギュアが。
ジャイアントロボのフィギュアは過去にいくつも発売されていて、
種類によって武装が違うのだけど、
私のはミサイル全弾発射Verとなっている。

これを買った理由は、孤島決戦の時にレーニンが
操っていたのロボがカッコよかったからだ。
私はこの年になるまでフィギュアを買ったことがなかった。
だからこれが良い品かどうかも分からない。

外見は、いかにもオモチャみたいな色合いだけど、
手にしてみるとずっしりしていて満足感は高い。
ちなみにお金はお兄ちゃんが出してくれた。

私がアマゾンで買い物をする時は、
兄のアカウントを使わせてもらっているので
料金は兄の口座から自動で引き落とされるのだ。

「あんた、おもちゃなんて買ってんの?
 男の子みたいな趣味してるのね。
 あと20分で出発だから着替え始めなさい」

「はいはい」

ユウナに急かされたので私はクローゼットを開き、
礼服が乗せられたハンガーを手に取る。

姉はすでにバッチリ決めていた。
髪を後ろでアップにして、目立たない色の口紅を塗って。
顔は念入りにお化粧をしていた。下半身デブのくせに、
フォーマルな服を着ているとスラっとして、まあ美女に見えなくもない。

「ネックレスをつけてあげるから後ろを向きなさい」

私は姉に言われたとおりにおめかしをして、玄関を出た。
小雨の予報だった。雲が多くて空気は湿っている。
まだ降り出してはいないけど、なんだか本当に
葬式の日にはぴったりの空模様って感じでますます陰鬱な気分になる。

「水谷と申します。生前の息子がお世話になったそうで」

年配の女性に頭を下げられる。この人も喪服に身を包んでいる。
今日は孤島での戦闘で戦死した人の葬式なのだ。

ボリシェビキは命をかけて戦った死者は丁重に扱う。
上で私たちに挨拶をしてくれた人は、水谷カイトさんのお母さまだ。
隣にお父様とお姉さまもいる。アパートで独り暮らしをしていたはずの
息子が、長崎県の孤島で死んだことを聞いてどう思っただろうか。

「カイトさんは、最後まで立派に戦い抜きました。
 ええ、それはもう。彼はボリシェビキの鏡でした」

姉が嘘八百を並べる。実際はこいつの無茶な作戦の犠牲になったのだ。
せめてもの償いとして、お母さまの首に勲章のメダルを下げてあげた。
これは、ソ連軍では敢闘した人に与えられるメダルだ。

「なあルナちゃん。君のお父さんは、立派な人だったな」
「うん……お父さんの遺体は粉々になっちゃったけど、
 遺影を見てると涙が止まらなくなるんだ」

あれ以来カップルになったアツトさんとルナちゃんが肩を寄せ合っている。
後ろにいるアリサさん、そして二番目の妹のナギサさんも
ハンカチを目元に当て、鼻をすすっている。

あの戦いで生き残った人全員に、勲章が授与された。
そしてご遺族の方全員にも、記念のメダルが与えられる。

もっとも彼らはメダルをもらえるようなことは何もしてない。
飛鳥家三人は孤島基地から脱走を図ったわけだが、不問にされ、
父上のトオルさんは戦死扱い。カイトさんは実際に戦場に飛び出て
破片に当たって死んだ。川村アヤは拳銃自殺。

ぜんぶ姉のせいだ。姉が訓練所でラブコメを繰り広げたせいで
訓練兵たちのやる気がそがれてしまったのだ。そのため、この事実は
関係者の間で隠蔽された。口外したものは粛清されることになっている。

我々はボリシェビキ内で『孤島組』と呼ばれ、英雄扱いをされた。
孤島で行われた、悪の自民党が指揮する日本海軍との激戦。
その結果、日本海軍は9割の戦力を失った。

海軍の再建には兵の訓練も含めて3年以上はかかるとのこと。
今回の被害の総額は、航空戦力も含めると13兆4千億円。
その再建には、さらに倍の費用が掛かると試算されている。

日本政府は、栃木ソビエトを恐れた。
我々にはジャイアントロボ、ブラックオックスという
強大なロボットが健在だ。今までは日本側が攻める側だったが、
逆に報復される恐れがあるとして国会はパニックになっているらしい。

自衛隊壊滅の責任を取って内閣は総辞職。
(首相が死んだので当然だ)
またしても立件民主党のエダノシュキーが首相となる。
そして臨時の閣議の結果、栃木ソビエトを承認した。

栃木ソビエト共和国は日本の領内で独立を許可され、
今後日本政府の一切の干渉を受けないとされた。
とはいっても栃木一国だけでは生活に必要な物資を自給できない。
そのため、資本主義日本と栃木ソビエトとの貿易は継続される。

なお、この件に関して、米、露、中、韓国、北朝鮮を
はじめとする極東の軍事強国は、資本主義日本に対し、
内政不干渉の姿勢を示している。つまり何もしてこないのだ。

実際は栃ソ(略称)の秘密兵器の力を恐れて口をはさめないのだが。


式場には必要最低限の遺族の参列者が集まっている。
会場に選ばれたのは、民間の(まもなく国営化される)葬儀場だ。
礼服からわざわざ軍服に着替えた姉が、壇上でマイクを握る。

「多くの悲しみを乗り越え、我々ボリシェビキの国家は、
 また一歩前進し、人類の新たな歴史を作ろうとしているのです。
 今次作戦で犠牲になった人たちは、栃木ソビエトの英雄として
 永遠に語り継がれていくことでしょう」

あんたの痴態も語り継いでやりたかったよ。
私も人のこと言えないかもしれないけどね。

そもそも鉄人作戦ってあんたがお兄ちゃんに
相手にされないからムシャクシャしてやったんだよね。
仕事に私情を持ち込みすぎて草生えるんだけど。

「以上です」姉が壇上を降りる。神妙な顔してると
クールな女に見える。なんか腹立つな。

事件が起きたのは、その次の瞬間だった。


ちゅどおおおおおおおん

「おい何事だ!?」 「すごい音がしたぞ!!」
「煙で何も見えないぞ」 「同志ユウナ、同志閣下ぁ!!」

ずばり暗殺だった。

これはあとでわかったことだけど、壇上の床に
時限式の爆弾が仕掛けられていたのだ。

犯人を捜そうとキョロキョロすると、すぐ見つかった。
その女は姉にとどめを刺そうと
拳銃をぷるぷる震えながら構えている。
血走った目と荒い息を吐きながらこう言う。

「絶対に殺してやる。高倉ユウナ。あんたは悪魔よ……。
 私の弟を私的な事情で死に追いやっておいて、
 何がソビエトの未来よおおお!!」

暴走したエヴァ零号機の姿勢で、壇上へつっこんできた。
会場一帯が煙でモクモクてて、よく見えない。
これじゃ助けに行くこともできない。
あちゃー。ユウナ死んだかな?

お兄ちゃんの「やめんかー」という声が聞こえた。
タックルされたのであろう犯人が、床に降って来た。
誰だろうと思って顔を確認すると、

「あ、さっきの人ですか」
「どうも。私は水谷カイトの姉です」

カイトさんのお姉さまは、どうやって調べたのか知らないけど、
弟さんが犬死した事実を知っていた。
弟さんの死の間際のセリフまで知っていたのだから驚きだ。

たぶんセリフはこんなだった。
『あんなの見せつけられて、こっちは生殺しじゃないか。
 運命を呪ってやる!! 僕だってどうせ死ぬなら、
 かわいい女の子とキスしてから死にたかったぞ!!』

ひどすぎる……。それにしても、どうして機密情報が洩れ…

「私は高倉家を憎んでいます。
 ついでにあなたも死んでください」

パァン

私は撃たれてしまった。

    うそっ 私の人生っ……短すぎ?
    葬儀に参加しただけで、即暗殺されてしまう……。

    今なら最短五分で審査可能……。
    遺族にどんだけ恨まれてるか……。
    私の姉もたぶん死にました……。

お腹によく熱したヤリが刺さったのかと思った。
顔面ごと床に倒れたまでは覚えてる。
次に私が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。


※高倉ナツキ

暗殺未遂事件からひと月が経過した。
我々栃木ソビエトは、孤島での事実を知ってしまった
水谷アキナ(水谷君の姉)を逮捕して収容所へ送った。

彼女が怒るのも当然だし気の毒だとは思うが、
党と国家の存続のためには仕方のない犠牲だ。
我々は自民党と日本海軍を撃破した。
彼らがいずれ力を取り戻せば必ず戦争となるだろう。

今後の栃ソの発展のためにも反乱分子の粛清は急務といえる。
しかしながら、水谷アキナの件についてユウナが
減刑を懇願した結果、群馬県北部の訓練所へ幽閉されることが決定した。

群馬の訓練所は、日本全国からボリシェビキ志望者が
集まるところで我々の重要拠点の一つだ。我が栃木ソビエトは、日本海軍を
撃破したことで知名度が上がり、群馬県の山岳部や茨城県の日立を
中心とした沿岸部、埼玉県北部の平野部がソビエトとの合併を望んだ。

それらは栃木と地続きではない地域も含まれていたが、
行政区画として日本国から独立させることは可能なため、
北関東ブロックとして新たなソビエト連邦を構成した。
この案は国会で審議されるまでもなく、
立件民主党の閣議で全会一致で認められた。

「こんにちわユウナ。体の具合はどうだ?」
「お兄様っ。今日も来てくれたのね。大好きっ」

僕はユウナの病室を毎日訪れるようにしている。
ユウナは奇跡的に無傷で済んだ。

床が爆発する直前、動物的なカンを発揮したユウナは、
猫のように飛びのいて床に伏せた。
その結果、四散した破片に巻き込まれたのは
ユウナの後ろ髪の毛先だけだったのだ。

足利市の総合病院では念のために検査入院することになり、
一週間で無事退院となったのだが、
「兄さんがお見舞いに来てくれる」
という理由でユウナは入院生活を続けている。

「胸、また大きくなったんじゃないか?」
「あんっ、気持ちいっ……もっと触って」
「パンツの中も湿ってるぞ。エッチなこと考えてたんだろ」
「うんっ……だってお兄様がっ…… この時間に来るってわかってたから」

時刻は21時。この時間は消灯時間で、院内は静寂に包まれている。
当然面会時間は終わっているのだが、僕はボリシェビキ幹部のため特別扱いだ。
ユウナの病室も徹底的に他の患者から隔離された個室だ。
よって誰の邪魔も入らないので、僕はお見舞いするたびに
ユウナを犯すことにしている。

「今日は電動バイブを持って来たんだ。
 これをユウナのあそこに入れたらどうなるかな?」

「あああああっ!! いやあぁあああああああっ!!」
「抵抗できないように手は押さえておくからな」
「ああああああんっ……そんなに強くしちゃダメええええ!!」
「もうイキそうなのか? 夜はまだまだこれからだぞ」

ベッドの上ではげしく乱れるユウナ。
僕はユウナの前開きの病人服をはだけさせ、ブラ越しに
大きな胸を好きなように触る。ユウナの胸はやわらかくて、
ぎゅっと握ると手の平の中で自在に形を変える。

「あっ……!! だ……めぇ……」

秘所を隠すように手を股の近くに持ってくると、
挿入されたままのバイブと膣の間から、ユウナの液体が
こぼれてくる。どうやらイッたようなのでバイブを抜いてやる。

白い肌。むっちりした肉。以前は全然興味のなかった
この子の体に今ではこんなにも興奮するようになった。
乱れた呼吸を整えるユウナが愛しいので熱烈にキスをした。

「ユウナが学園に復帰しないからミウが忙しくて大変なんだぞ。
 ユウナがやるはずだった校務をミウがやってくれてるんだ。
 専業主夫の太盛君にも手伝ってもらってるんだぞ」

「ごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい。ユウナは悪い子です」

「そうだ。悪い子だ。だからユウナはここで僕の奴隷になるんだ」

「はい……私はお兄様の奴隷です……きょ、今日は
 大丈夫な日ですから、最後までやってくださいっ」

「足を開くんだ」

「んっ……ああああっ!! つよいっ……あああっ!!」

今夜もユウナの嬌声が病室に響く。
ゴムはつけてるから妊娠の心配はないと信じたい。
先週は生理でやれなかったから僕は余計に性欲が溜まっていた。
ユウナは生理中でも僕にフェラをしてくれるが、やはり
挿入の気持ちよさとは全然違う。

「奥まで入れるぞー」
「んああああっ!! お兄ちゃんっ……っ!! もっと強くしてっ!!」
「ほらほら。どうだ?」
「ああっ……いいっ……すごく奥までっ……はいってるからっ……!!」
「もっと強くしていいか?」
「あっあっあっ……あっあっあっ……きもちっ……あっあっ……」

ベッドシーツを激しく乱しながらユウナの体が揺れる。
ふわりとした髪の毛が汗ばんで肌に張り付いてる。
僕はユウナの胸を両手でしっかりつかみながら、
気が済むまでピストン運動を繰り返した。

「うっ……」
「あうぅぅ!?」

ユウナの膣の中に男の液体がドロドロと流れ込んでいく。
ユウナは感じすぎたのか、びくびくと小刻みに震えている。
ユウナが足を閉じようとするので、しっかりと開かせてやった。
割れ目を強引に押し開いてやると、つーっと白濁液がこぼれていく。

「いやん。みちゃだめえ」

恥ずかしいのか、顔を両手で覆っている。
そんな姿がたまらなく愛おしいので、また胸をもみながら押し倒してしまう。
息継ぎができないくらい長いキスをすると、ユウナは苦しそうに顔を
真っ赤にしながらも僕の腰に足を一生懸命絡めてくる。

僕はこの子の太ももの感触が大好きなので、またアソコが元気になってしまう。
ユウナの腰を乱暴につかみ、こっちに引き寄せてやった。遠慮なしに挿入する。

「あんっあんっ、あんっあんっ!! あ……ちょ……だめっ……もうっ……」

ユウナは腰を浮かせたかと思うと潮を吹いた。
しまった……そういえばゴムを忘れていた……。
だがもういい。今はユウナをもっと気持ちよくさせてやりたい。

「ま、まだやるのっ!? ちょ……あああんっ……だめだってっ……!!」
「君のイク姿がもっとみたいだ。頑張ってくれ」
「あっあっ……やめようよっ……あああっ……あんあんっ……」
「ほらほら。どうだ? もっと強くするぞ」
「ああっ……あああああんっ……もうだめええっ……またイッっちゃううぅ……」

二度目の潮吹きで僕の体とシーツを盛大に濡らしてしまった。
顔が火照るユウナは、ぐったりとして休んでいた。
僕は一度しかイけなかったから不満だが、これ以上はかわいそうか。
僕も一緒にベッドに横になり、二人で静かに見つめ合う。

ユウナの部屋を出るころには、夜の10時を過ぎていた。

流れでアユミの病室にも寄らないとといけない。
正直気乗りはしないが、行かないと後でうるさく言われるからな。

「ナツキ。今夜は遅かったね。またあの女のところに行ってたの?」

きつい目でにらまれる。この子は本当にアユミなんだろかと不安になる。
アユミの傷は急所を外していたから、一か月で歩けるレベルまで回復した。
内臓には後遺症が残るようだが、日常生活を送るのには支障がないという。

変わったのは、彼女の内面だ。

「ユウナが先で、私はあとなんだね。いつもそう。
 ナツキは私を愛してるはずなのに、ユウナを特別扱いしてるんだ。
 私のことなんてどうでもいいもんね。はっきり言ってよ!!
 私なんてめんどくさいし、どうでもいいって思ってるんでしょ!!」

こんな感じで病んでしまっていた。
ヤンデレ? 今までは僕の方が一方的に愛していたはずなのだが、
今ではアユミの愛が深くなりすぎて困っている。
妹に初めて下の名前で呼ばれた時は、嫌われたのかと勘違いした。

「アユミ……そんなつもりはないんだよ」

「ちょっと!! 汚い手で触らないでよ!! 
 さっきまでユウナとしてたんでしょ!?」

「ちゃんと洗ったよ……。いい加減にしなさいアユミ。
 僕だって妹二人に愛されてとまどってるんだ。
 一度に二人を愛することはできないって理解してくれよ!!」

「そんなのダメ!! 
 ナツキは私のものなんだから、私だけを見てよ!!」

「……それより傷の直りはどうなんだ?
 ドクターからはなんて言われてるんだ?」

「私の傷の話はしてないじゃん!!」

「いいから答えなさい!! 
 これでも僕はお見舞いに来てるんだぞ!!」

パシン

思わずビンタしてしまった。
血の気が引いてしまう。病人に何をしてるんだ僕は。

「ふん」

アユミは赤くなった頬を押さえながら、そっぽを向く。
それから何を話しても無視されてしまった。
後ろ手に扉を閉める。
くそっ……。今日も会話にならなかったか。
最近はアユミとキスどころか、手にすら触れてない。

僕がユウナとただれた関係になる一方でアユミとの
関係は悪化するだけだ。アユミは思春期の中学生の
ように気難しくなってしまった。24にしては
幼い方だとは思っていたが、それにしても異常だ。

そういえばアユミは働いた経験がないんだったな。
僕が小遣いをあげたのがいけないのか、
アユミは学生時代にアルバイトすらしなかった。

僕はアユミにかまってもらえないさみしさから、
ついユウナを求めてしまうのだ。ユウナは孤島から帰ってから
従順な女になり、今では妹というよりペットに近い存在となった。

エレベーターの前で立ち止まる。僕はまた明日から仕事だ。
こんな気持ちで仕事をする気にならないじゃないか。
いっそユウナの病室へ戻って愚痴でも聞いてもらうか。
いやダメだ。ユウナの前でアユミの話は禁句だ。
逆のパターンはもっとやばい。

自民党を政権交代させることには成功したが、
僕の戦いはまだ続いてる。家族内恋愛で三角関係に
なってしまった、僕ら三人の兄弟の物語だ。

高倉ナツキは裏切り者の正体を知った。

※ナツキ

今日は久しぶりに学園を視察することにした。
僕は以前は宇都宮市のマンションに住んでいたが、
妹たちのお見舞いのためもあり、足利市の実家に引っ越してきたのだ。

ソビエト議会の本部があるのは宇都宮だったが、
日本に狙われる恐れが高いとして移転を決定。

移転先は那須高原が検討されたが、高原地帯は
空爆でインフラ設備を破壊された場合に不安が残るとして破棄。
日本有数の観光地を敵の攻撃目標にすることはためらわれる
というのも理由の一つだ。

最終的には広大な平野部に本部を作ることにした。
板倉町にある日本で有数の貯水池(遊水地)だ。
利根川、渡良瀬川、思川が交差する地点で、都心部(荒川)へ
水を供給する。特に湿地帯の面積は本州で最大規模で
総面積は東京ドーム100個分を優に超える。

高原地帯と違い、断水の心配がない。
またここは埼玉県、群馬県、茨城県とも県境なので補給が容易だ。

湿地帯を開拓してモスクワのクレムリンに酷似した建物を作り、
広大な地下施設を作る。強力な防衛力を持つ軍事要塞とした。
長崎県沖に沈められた鉄人28号も回収し、この基地に眠らせてある。
現在は修理中だ。

「本当に久しぶりだね。ナツキ君」
「ミウも元気そうで安心したよ」

学園の校長先生であるミウと握手する。
お互いに30手前だが、ミウは若さと美しさは女優も顔負けだ。
一児の母となり、余裕すら感じらえるその笑みは、
僕を虜にするのに十分すぎた。

僕は学園の地下に眠る「ブラックオックス」を視察させてもらった。
鉄人のライバルだけあって色といい、デザインといい、
申し分ないほどの素晴らしいロボットだった。
超合金のフィギュアが発売されているらしいので
あとでアマゾンで注文しておこう。

「粗茶です」

校長室では太盛君がお茶を淹れてくれた。
彼はミウと結婚後は主夫となった。そのためか
テーブルに湯呑を置く動作が様になっている。

「では、僕はこれで」
「待ってくれ。今日は君にも聞いてほしい話があるんだ」
「そうだよ太盛君。せっかくこうして同級生三人が揃ったんだからさ」

ミウも僕に賛同してくれた。
ミウはニコニコしていて、天使のように美しかった。
こんな美人な奥さんがいる彼を呪ってしまいたくなる。

今日は私的な相談をしに来たんだと伝えると
彼の顔色が曇るのだった。

「相談というと、妹のユウナちゃんのことかい?」
「ああ、その通りだ」
「だったら逆にこっちら伝えたいことがあるんだ」

と太盛君は言い、一枚の手紙をふところから出した。

「ユウナちゃん宛の手紙なんだよ」
「なんだって。誰からだ?」
「孤島にいた訓練兵の男を覚えてるか?
 名前は寺沢アツト」

もちろん覚えてる。粗暴でめんどくさがりで、
自分の身なりに気を使わない男だった。
だがジョークが好きで人と打ち解けるのがうまく不思議な魅力がある。
あんなに個性の強い人物を二人と見たことがない。

「本当はユウナちゃんに渡そうと思ったんだが、
 ナツキさん。あなたが代わりに呼んでくれないか?」

渡された手紙の内容はこうだ。

『拝啓。前略、中略、後略、さようなら……なんてな!!
 へいユウナさん。お兄さんとよろしくヤってるかい?
 おっと、あんたら共産主義者にとっては殺ってるかい、
 と訊いたほうが適切かもしれねえなww』

続きが紙面いっぱいに書かれていた。

まず、戦死者の葬儀の時にユウナを襲った犯人は、
水谷カイトの姉だったのは説明するまでもないことだが、
彼の姉に孤島作戦の詳細(弟の死にざま)を教えた人物がいた。

それが寺沢アツトだった。
孤島からの帰還後、アツトは水谷姉から弟の死の真実を
聞かせて欲しいと何度もお願いされたそうだ。ナイフまで
持ち出して鬼気迫る様子だったという。

そんな彼女を気の毒に思ったアツトは、全てを打ち明けた。

『ちなみにタダってわけじゃねえぜwww?
 水谷の姉ちゃんがよぉ。なんでも株で儲かってるってんで、
 俺にお小遣いをくれたんだ。額は200万!!
 すげー金額だぜ。俺もよぉ、これからルナと一緒に
 暮らのに金が必要だったんで助かったぜwww』

彼は自らの悪事を隠すつもりが全くないのか。
君のせいで……僕の大切な妹たちはケガしたんだぞ!!

『けどよぉ、俺だって鬼じゃねえんだwwまさか水谷の姉ちゃんが
 暴走してユウナさんが暗殺されるとは思わなかったぜwww
 俺はあの事件の後すぐにモンゴルへ逃げたから確認してねえけど、
 さすがに死んだか? だったら誰がこの手紙を読むんだって話になるんだが、
 俺のカンでは、あんたはまだ生きてると思ってるよ』

『俺がユウナさんを全く恨んでねえかと言ったら、嘘になるな。
 鉄人28号作戦のせいでカイトは死んだ。それと飛鳥の
 おっさんに、川村アヤちゃんもだ。今頃あいつらは
 天国でシャンパンでも飲んでるんじゃねえの?
 俺の隣にいるルナもよ、おめえらとは
 もう関わりたくねえって言ってるぜwww』

『それよりモンゴルは最高だなww
 ここでは紙幣より家畜の方が価値がある遊牧民の生活だ。
 資本主義も共産主義も関係ねえwwその日暮らしだからよww
 どこか人の少ない場所へ逃げようと思ってウランバートル
 空港へ飛んだんだが、モンゴルも悪くねえなww』

『だらだら書くのもつかれたんで、そろそろ終わりにするぜ。
 じゃあな。ボリシェビキの手先よ。顔は極上の美人だったのに
 あんたのブラコンぶりを知ったせいで幻滅しちまったもんだ。
 ボリシェビキの訓練時代はそれなりに楽しめたぜ。今度こそあばよ』

高野夫妻にも見せてあげた。ミウは手紙を握りしめる。

「なんてハレンチな内容!! ボリシェビキの中枢へこんな手紙を
 送ってくるなんてソ連一の蛮勇として褒めてあげたいくらいだよ。
 ナツキ君、彼から全ての名誉をはく奪しよう。
 直ちにモンゴルに秘密警察を送るべきだと思う!!」

「僕もそう思うが、妹が……。ユウナがきっと認めないさ」

「暗殺未遂にあった本人が認めないの? 
 それってどいういうこと!?」

「ユウナはね、孤島に招集した訓練兵たちのことを
 家族のように大切に思っていたのさ。彼らは日本資本主義に絶望し、
 自らボリシェビキを志望して訓練を受けた人達だ。この学園の生徒のように、
 無理やり思想を押し付けられた人たちとは違うんだよ」

「その説明は無理があるんじゃないの?
 この寺沢って男、自分がボリシェビキの思想に
 これっぽっちも共感してなかったって手紙に書いてあるけど」

「それでもユウナにとっては大切な仲間だったんだよ。
 思い出を大切にしたいのかもしれないね。ユウナは、
 水谷君のお姉さんでさえ強制収容所には送らなかった。
 そんな優しい子なんだよ。あの子は」

太盛君が、不快そうな顔をして窓の外を眺めている。
確かに、ボリシェビキのルールでは甘い。
まず国外逃亡した時点で寺沢アツトと飛鳥ルナには
逮捕状が出されてしかるべきだ。拷問のあと裁判にかけられ、
収容所で最低20年以上の強制労働を命じられるだろう。

僕はミウにくしゃくしゃにされた手紙を綺麗に折りたたみ、
夫妻と別れを告げた。君たちは美男美女のカップルで絵になっているぞ。

---------

その日の夜、総合病院の四階にエレベーターが付いた。
運動不足解消のために階段を使うべきなんだろうが、
本部移転の件で職場は大忙しとなっているんだ。

ああ、今日もストレスがたまった。
憂さ晴らしには妹のムチムチした体を触るのが一番だ。
僕はいつものように、
アユミの病室を通り過ぎてユウナの部屋に向かおうとした。

「ちょっと。どこ行こうとしてるの」

「アユミ……。歩いて大丈夫なのか?」

「壁に寄りかかれば平気。それよりなんで
 あいつの部屋に行こうとしてるの」

さすがに立ってるのが辛そうだったので肩を貸してやる。
アユミの額に汗がにじむ。やはり無理をしていたのだ。
前開きの病人服の中に包帯が巻かれている。

「どうしてかって? それは単純な理由だよ。
 ユウナのことを好きになってしまったんだ」

「じゃあ私はどうでもいいってこと?」

重い沈黙が流れた。僕の言葉に嘘はない。
アユミを捨てるとか、そういう意味で言ったわけではないんだが、
ユウナを愛おしく思っていることは本当だ。

「またそうやって女の子の気持ちから逃げちゃうんだ。
 兄さんはもう人をひとり殺してるんだよ」

「誰をだよ?」

「川村アヤちゃん」

忘れていたわけじゃない。
ただ、仕事で忙しくてそれどころじゃなかったけだ。
彼女の葬儀は暗殺未遂事件が起きたせいでうやむやになってしまったが、
僕はきちんと川村家の母親にも挨拶をした。
あの子の家は、気の毒なことに母子家庭だったな。

「私も自殺しようかな」
「なに言ってるんだ」
「ナツキも一緒に死のうよ」
「……廊下は冷えるぞ。病室に戻ろう」

9月も末になれば夜はひんやりするものだ。
もっとも院内は全域が一定の温度に保たれているのだが。

「今日は私を抱いていいよ」

僕らは唇をやさしく重ねた。
アユミの体をまさぐる。お尻は引き締まっていて、
脂肪がない。少し前まではこのお尻が好みだったのに、
今では物足りなく感じてしまう。

「ナツキのここ、大きくならないね」
「今日はちょっと、そんな気分になれないんだよ」
「うそ。本当はユウナのこと考えてるくせに」

図星だった。女のカンは鋭い。

「ほらほら。今日はナツキのを私が舐めてあげるから」
「あ、あゆみっ……」

ペロペロと先端を舐められて、さすがにムクムクと
元気になっていく僕の分身。アユミは、はっきり言って下手くそだ。
だが上目遣いのうるんだ瞳で見つめられると、たまらなくなってしまう。
アユミの小さな口の中をどんどん汚してしまいたくなってしまう。

僕は短い黒髪をそっとなでた。
アユミはそんなに欲求不満だったのか、僕のモノを愛おしそうに口に含んでいる。
こ……この子にされるのはユウナとは違うな。やはり5歳も年下だからか。
背徳感のせいで余計に感じてしまう。アユミの甘い吐息をそこに感じる度に
ギンギンにいきり立ち、いよいよ発射してもよい頃になった。

「お兄ちゃんの、私が飲んであげるから口の中に出していいよ」
「でも……アユミは病人だろ……」
「いいから。出して」
「ほ、ほんとに出すぞ?」
「いいって言ってんじゃん」

アユミは小さくて細い指で握り、忙しく上下に動かす。
ユウナにされた時とは感触が全然違う。僕はついに限界となった。
アユミの頭をつかみ、喉の奥へ向けてついに射精してしまう。

「うっ……にがっ……けほけほ」
「ほらテッシュで拭きなさい。まずかったら吐き出してもいいんだぞ」
「ありがと。でも大丈夫……少しだけ飲めたから」

唇から、だ液と精液の混じったものがこぼれている。
ティッシュを手にし、何気ない顔で顔の周りを綺麗にするアユミを見て
また僕は暴走してしまった。

アユミをベッドの上に座らせて、後ろから抱きしめる。
僕が枕を背にに座っている状態だ。平らな胸に乳首が張っている。
そこを指でいじめながら、もう片方の手でパンツの中を調べた。

太ももまでびっしょり濡れていた。こうなってしまっては
パンツを取り替えないといけないくらいに。割れ目の形をなぞるように
指でそーっとなでてやると、クリトリスにたどり着く。
割れ目を指で開いてから、むき出しになったクリトリスに人差し指が振れる。

「あっ……」

アユミはびくっと体を震わせる。

「んっ。お兄ちゃんっ……」
「前はよくここを触ってあげたよな?」
「もっと……優しく触ってっ……」
「アユミはじっくり感じたいんだったな。わかったよ」

ズボンと一緒にパンツを太ももの位置までずらしてあげた。
しっかりとアユミの体を抱きしめながら弱い刺激を与え続ける。

「んっ……んっ……」
「どんどん濡れていくぞ。アユミのここ、テカテカしてる」
「やだっ……んんっ……」
「本当はすっとしてほしかったんだよな?」
「んっ……んっ……」
「どうなんだ? 答えなさい」
「ずっとっ……してほしかったです……」

アユミは足を大胆に開いた状態で、僕に背中を預けている。
妹の心地よい体重を感じながらも指の動きは止めない。
うなじから髪にかけて甘ったるい匂いが充満するので耳たぶを甘噛みしてあげた。

「はぅうう!? くすぐったい!!」
「耳、弱かったのか?」
「だめええっ!!」
「こら動くな」

軽く暴れだしたアユミの手首をつかみ、耳の穴を念入りに舐めてあげると

「んっ!! ふぅーふぅー。んんん……」

アユミはバイブのように全身を震わせ続け、刺激に耐えていた。
やがて刺激に慣れてくると反応しなくなってくる。
だが僕の指はまだクリを優しく愛撫し続けている。

「はぁーはぁー。はぁー。あああん……そろそろぉ……」

口を大きく開けて、舌を出している。だらしなく垂れているよだれは
肩から顔を出し舐めてあげた。アユミは手首を握られていると
安心するそうなので、僕の遊んでる方の手ではしっかり手首を握ってあげている。

「んんんんっ……んんんんっ……おにいちゃああんっ……」
「よし今度は乱暴に触ってあげよう。これでどうだ?」
「あああっ!! きもちいっ!!」
「ほらほら」
「あうっ!! ああんっ!! はぁああっ!!」

本気で感じてるときは声がでかい。
アユミの甲高い声はきっと廊下にまで響いてることだろう。

日本の指を膣の奥まで一気に入れたところ、「あ……」
ドクドクと中からエッチな液体が流れ込んできた。
指を一気に引き抜くと、アユミの股の周りに水たまりができる。

試しにと、アユミの割れ目をいっぱいまで開いておくと、ピンク色の
壁の内側が露になり「いや……」アユミは顔を背けて真っ赤になる。
アユミは股を手のひらで隠した。

「ううう……お兄ちゃんのエッチ。こんなとこ見ないで」
「でもアユミが可愛いから」
「お兄ちゃんは昔からすごくエッチな人」
「ああそうだよ。アユミが好きだからこんなことしたくなるんだ」

アユミは振り返り、女の子すわりをして僕の膝の上にまたがった。
僕の首に両手を回して鼻先がぶつかるくらいの距離になる。

「本当に私のこと愛してくれる?」
「ああ……」
「ユウナには入れたんでしょ? 私にも入れて」
「それは……」
「入れていもいいよ。けどこれからは私だけを見て」

歩美の真剣な瞳は、本来なら恋人に向けるべきものなんだろう。
だが困ったことに、その恋人役は兄の僕なのだ。
仮に僕に妹が二人もいなければ、こんなに迷うことは
なかったのかもしれない。僕は今、二人の間で揺れている。

「そこで何をしてるんですか!!」ガラッ

壊れんばかりの勢いで引き戸を開いたのは、ユウナだった。

「何してんの!! 早く離れなさいよ!!」
「うっさいデブ!! なんで入ってきたんだ。空気読めよ!!」

妹たちはつかみ合いの喧嘩になった。
やれやれ。これじゃアダルトな雰囲気が台無しだ。

僕はズボンをはき、スツールの上に置いていたカバンを手に取る。
二人の喧嘩が落ち着いたころを見計らい、寺沢アツトの手紙を
差し出した。まず読んだのはユウナ。
少しは怒るかと思ったが「そんな……」と言い涙ぐんでいた。

次にアユミが一読し、眉間に深いしわが寄る。
40過ぎの主婦のような迫力だ。僕を横目で見ながら問う。

「で、兄さんはこいつらをどうするつもりなの?」

「僕はなんとも。彼らの司令官だったのはユウナだ。
 ユウナに決めてもらうべきだろうな」

ユウナは逆に僕に決めて欲しいと言うが、それは無理な相談だ。
どうせお前は粛清するつもりがないんだろう?

「そうよ」

ユウナは、チベットのラマ僧のような複雑な表情をしていた。

ユウナが病室のカーテンを開く。妙に外が明るい。満月のようだ。
月明かりに照らされた病院の駐車場を見下ろしながらさみしげに言う。

「アツト君とルナさん、結婚したんだね」
「そのようだな」
「うふふ。幸せそうでうらやましい。少し嫉妬しちゃうな」
「どうして嫉妬するんだ?」
「兄さんがそれを聞くの? 私はこの年でまだ独身なのよ」

妹とガチの結婚フラグを立てられても困るぞ?

「それより粛清したくない理由を教えてくれないか」

「理由は……。彼らはモンゴルで遊牧民の生活をしているからよ。
 遊牧民なら資本主義も共産主義も関係ないでしょ」

「本当にそれでいいのか? こちらが指示すればウランバートルに
 いる秘密警察が出動し、2週間以内に彼らの身柄を引き渡してもらえるんだぞ。
 それにミウは怒っていたぞ。おまえがボリシェビキのルールをしっかり
 守ってくれないと、あとで僕がミウに小言を言われてしまうじゃないか」

「ミウさん……か」

ユウナは窓を開いて自然の風を入れた。
やはりチベットのラマ僧の顔をして、空気を灰に吸い込んでいる。
両手の指をブラトップの前で組み、鼻から吸って腹から出す。
ユウナはチベット体操でもしたいんだろうか。

「ねえ兄さん。私と結婚して」

時が……止まったような気がした。

アユミを見る。怒りで額に青筋が立っている。

断るべきだろう。
兄が実の妹と結婚するなど、ソ連国内であっても禁忌である。
近親婚は世界のあらゆる地域と宗教によって否定されている。

ユウナは僕の方を振り返り、その衝動で後ろ髪がふわっと浮いた。

「私は本気よ。今度からは兄さんのことをナツキって呼ぶんだから」

その瞳は、うるんでいた。僕に告白するために深呼吸していたのか。
すでに何度も肌を重ね合っている身で今さらという感じもするが、
ユウナなりに勇気を出しての告白だったのだろう。

「お兄ちゃんってデブ専だったの?」

アユミの低い声はスルーせざるを得なかった。

「今の僕たちは、恋人みたいな関係だ。
 それだけじゃ満足できなかったか?」

「ちゃんと夫婦にならないと、いつも一緒にいられないでしょ。
 ナツキ兄さんはモテるんだから、職場でも女の人からの
 誘惑とかあって不安になっちゃうじゃない」

なぜだ。ユウナ。なぜ君は僕との婚姻を望むようになったんだ。
裏切り者のアツト君の手紙がきっかけなのか。それともアユミが原因か。

「はいはい。そこまでそこまで。二人とも距離近いよ」

そのアユミが、仲裁役になる。
ボクシングのレフェリーのように僕らを引き離した。

「おいユウナ」
「なによ……。姉を呼び捨て?」
「寝言は寝てから言えよ!!」

その怒鳴りは、質量を持っているかのようだった。
アユミの怒りによって院内の壁という壁に亀裂が走り、
足利市内の山さえ震わしかねない勢いだった。

ユウナは静かに切れていて、握った拳を震わせている。

「ごはぁ!?」

お姉ちゃんに腹パンされたアユミが、床を転がった。

「兄さんからの返事、ずっと待ってるからね」

乙女走りをして去っていくユウナ。
アユミがケガ人だってこと分かってるんだろうな?
傷口が開いてなければいいのだが。

日本が栃木を攻撃しようとしている。

※ナツキ

最近僕の一人称が増えた気がする。
立件民主党が主導する日本政府は、最初のうちは
僕らの軍事力を恐れて優遇策をしてきた。
例えば助成金だ。僕らの栃木は内陸県で山岳部と平野部に分かれる。

ここを北関東ソビエト連邦の交通の拠点とするためには、
道路網のさらなる整備が必須となるのだが、公共事業費の財源のとなる
地方交付税交付金を立件民主党が出してくれた。
正確にはソ連が発行する国債を買い取ってくれたわけだ。
今では国が異なるのに、まるで地方自治体に対する措置である。

そして日本全国に存在する潜在的ボリシェビキを、ソ連まで
列車輸送もしてくれた。我が国の人口は一日で100人以上増えている計算だ。
日本にはこれほど資本主義に疑問と怒りを感じている人がいたというのだ。
もっとも日本からすれば、不穏分子を国内に置いておきたくないのが
一番の理由なんだろうが。

その一方、茨城県の太平洋側の沿岸部に、壊滅したはずの
日本艦隊が集結中との報も受けている。孤島作戦から三か月が経過し
年末が近づいているというのに。たった三か月で日本がどうやって
大艦隊を再建したのかは知らない。

そしてこれは後でわかったことなのだが、栃木ソビエト内の
道路網を普及させた一番の理由は、日本陸軍の戦車部隊の移動を
容易にするためだったという。立件民主党の主要な幹部は
カクマル派、チュウカク派だと聞いているが、ずいぶんとソ連に対し好戦的だ。

※ ↑革命的マルクスレーニン主義者たちのこと。日本の左翼組織。

「仮に鉄人28号の戦闘力を、戦車大隊10個分と算定すると、
 敵が我が方に陸側から進行するメリットはありませんな」

「ヘリコプターや爆撃機からの攻撃に関しましては、
 ブラックオックスのビーム攻撃が極めて有効。
 これは以前の学園防衛線でも証明されましたな」

「日本中の失業者を軍人に転用するとしても、
 人件費がかさみますな。財源となるのは税収が、
 ソ連一国で賄うのは厳しい状況ですな」

上は栃木ソビエト本部の中央委員会での話し合いの様子だ。
我々がやるべきことは山ほどある。中央委員は憲法や法律、
軍事、化学、研究開発の分野の専門家が多い。
最も難しいのが経済政策だった。
ソ連ではかつて計画経済が敷かれたが、やがては破綻した。

労働者の奴隷化を防ぐためには企業の国営化、政府の市場介入が必須だが、
これはかつてどの人類も成しえなかった神の手に等しい。
歴史を見ると共産主義国の大半の国民が資本主義国よりはるかに貧しいのだ。

国家の基礎が構築されるまでの当面の間は、
中国を参考に経済のみ資本主義制度を導入するべきとの意見も多い。
それは起業家の利潤追求の考えを容認したに等しく、
結果的に中国共産党は国内に多くの賃金奴隷を抱えながら発展した。

企業の経営はともかく、金融政策の方が急務だ。
新国家は大量の国債を発行して財源をまかなっているため、
金利の低下とインフレ率の上昇がさけられない。
栃木ソビエトの中枢に金融に明るいものは少なく、政策が難航していた。

中央委員会の会議で金融関係のことになると、
みなの発言数が激減することから、
いかに金融問題が複雑なのかが分かる。

「では日本の金融庁の大臣の妻と子供を誘拐。
 そして身代金の要求と同時に大臣の住居を爆破。
 混乱に乗じて大臣を拉致。
 監禁して洗脳する流れでよろしいかな?」

人民委員会議の議長の発言に対し、
円卓に並んだエリートボリシェビキたちが拍手する。

我々は国家の運営経験がゼロだ。それは立件民主党も同じようなもので、
ソビエトと日本の両方の政治と経済が混乱している。
そこで我々は自民党時代の金融の専門家を拉致して
無理やり職務につかせることで全会一致したのだ。

まず大臣の子供を誘拐するために、子供の通学路を衛星データから割り出し、
訓練を受けたスパイを潜入させることにした。
子供は学園の地下に送り、見せしめに拷問するシーンをオンラインで大臣に公開する。
非道だと思われるかもしれないが、資本主義国に対して情けは無用なのだ。

「本日はこれにて閉幕する」

議長の言葉に合わせて一同が席を立ち、会議室は閑散とする。
僕は席に座ったまま残っていた。スーツのポケットに入れていた
私用のスマホの電源を入れると、きてるきてる。
アユミからのラインメールが。

『今日は病院に来ないの?』

実はアユミからも告白された。しかもユウナから告白された翌日に。

それから僕は返事を引き延ばすために病院に通わなくなった。
そのためかユウナはついに退院を決意し、学園での教頭職を再開するのだった。

ユウナは別人のように明るい性格になってイキイキと職務をこなしている。
教頭の仕事は、学内の見回り(強制収容所含む)、備品の発注、
コミンテルン(ソ連の国際スパイ組織)との連絡、
職員や生徒の悩み相談など多岐にわたる。

僕はユウナにも返事をしてないが、実のところユウナを愛していた。
僕は紅茶を飲み、会議で疲れた頭をクールダウンさせているのだが、
頭にふと浮かぶのはユウナのムチムチした身体だった。

ユウナの体は一言でいうと最高だ。
今までどうしてあの体を味わなかったのだろうと後悔するくらいに。
寝る前までにユウナの大きなおっぱいを触っておかないと、
頭がもやもやしてベッドの上でバタ足をしてしまうくらいだ。

ユウナは決して仕事人間というわけではなく、家では家事をよくやる。
家事をやらないのはニートのアユミの方だ。
あの子は口では専業主婦希望と言っておきながら、
母さんに甘えてばかりで、起きるのはいつも昼過ぎだ。
ユウナは朝は六時前に起きる。ミウと同じだ。


※堀太盛(ほりせまる) (学園生活シリーズの主人公)

すでに紹介があったと思うが、俺は高野ミウの旦那だ。
午前中の家事を終えたので、コーヒーブレイクしながら
「プラウダ」に目を通す。

プラウダはロシア語で真実・正義を意味する。
百年以上の歴史を持つソ連の機関誌である。
他に日刊紙のイズベチア(ニュース)もある。

いずれも栃木ソビエト内で流通している新聞だ。
俺は電子画面で読むのは好まないため紙面を読む。
読み終わった新聞は何かと再利用できるので便利だ。

「ほう。今日の見出しは一段とすごいな」

新聞にはカラーページや写真が満載されており
読みごたえは満載だった。今日は一面にまもなく
布告されるソビエト憲法の条文が乗せられていた。
また現閣僚の写真付きの経歴書まで乗せられている。

新国家の閣僚だけに本物のエリートばかりで、
学歴や職歴は申し分ない。全員が海外留学や勤務の経験者だ。

自民党のようにコネで選ばれる愚図とは根本が違う。
顔写真から指導者としての貫禄を感じさせる。
防衛関係の大臣補佐にはロシア人やカフカース地方の人も含まれていた。

ブブブ……と俺のスマホが振動した。
ラインかツイッターかと、手に取るとラインだった。
送り主はこの学園の教頭、高倉ユウナちゃんだった。

『ご無沙汰しております。同志太盛よ。
 学園のことで、ちょっと相談したいことがありまして。
 お暇でしたらお昼休みに副校長室までいらしてください』

今は九時過ぎだ。こんな朝っぱらからメールをくれるとは……
内容からして校長のミウや兄上のナツキには言いにくいことか。
しかしなぜ俺に? といぶかしむが。どうせ近くだから構わん。

俺の住んでいる場所は、学内にある小さな宿泊施設。
通称「ミウの小屋」だ。平屋の小さな一軒家が学内に
建てられていて、俺とミウはここで暮らしている。
中はワンルームマンション程度の広さだ。
俺もミウも質素な生活を好むからこの広さで成れたものだ。

子供の名前は男の子の太盛ジュニア。
最近は俺が教頭の仕事を代理で行っており多忙だったので、
実家のお義母さん(ミウの母親)のマンションに預けている。

12月に入ってから立件民主党の軍隊の動きが活発になっており、
また学園を標的にされるかもしれないので
ジュニアをここに置いておくのは危険との判断もある。

12時ちょうどになった。
「よし」俺はスーツに着替えてから学園の玄関に入った。
副校長室の前でユウナちゃんが待っていてくれた。

「やあ。急に呼び出してどうしたんだい?」
「詳しくは中で……」

俺は客向けのソファに座って彼女と向かい合った。

「太盛さんは幽霊を信じますか?」
「さあね。見た人の話は聞いたことあるけど」
「私はその見える人だったんですよ」

学内で幽霊の目撃証言が多発しているそうだ。
若い娘の幽霊で、年頃はちょうど中学生か高校生くらい。
足元は透けていて浮遊している。
なんだか漫画に出てきそうな典型的な幽霊だな。

「実は幽霊の正体を知ってるんです」

ユウナは太ももの上で両手をきつく組んだ。

「川村アヤ。15歳の女で孤島組の一人でした……」

「新聞で読んだから名前は覚えているよ。
 壮絶な戦死だったようだね。その子が君の枕元に出るのか?」

「場所は関係ないんです。お風呂に入っているときとか、
 トイレとか、寝る前とか、いつでもどこでも私の
 あとをついてきます。学校の廊下にいたこともあります」

アヤの幽霊は、ふとした時に壁の隅に立っていたりするらしい。
何かしてくるわけではない。ただユウナを恨めしそうに
にらんでいる。幽霊なので口は利いてくれない。
彼女は死んだ時の軍服をまだ着ていて、死んだ後も
孤島作戦のことを根に持っているのは疑いようもない。

「実は私……兄さんに求婚したんです」

「なんだって!!」

「自分でも狂ってるとは思いますけど、どうしても
 兄のことが好きなんです。私も太盛さんやミウさんのように
 夫婦になってみたいなーとずっと前から思っていたんです。 
 私を軽蔑しますか?」

「……君はボリシェビキの幹部だ。君の恋路について、
 ただの主夫をやってる俺が口を出せるものかよ。
 で、そのことが幽霊と何の関係が?」

「アヤは、兄さんを慕っていたんです」

「えっと……つまり君たちはナツキ君を奪い合っていると」

「そうなりますね。あの子は死んでいるんですけど、
 まだ諦めていないみたいです」

「モテるなぁナツキ。君みたいな美人さんに惚れられるだけでも
 幸せ者なのに、さらに中学生からもか。はは。ナツキ君は
 選びたい放題ってわけか。冥界からもラブコールをもらえるとは」

ユウナにきっとにらまれた。

「っと、冗談はこれくらいにしようか。
 幽霊を見始めたのはいつからなんだ?」

「私が兄に告白した次の日からです。
 急に病室に現れるようになったから
 怖くなって退院することにしたんです」

「なるほどね。そういえば、君の妹さんはどうなんだ?
 妹さんも兄上を慕っていたはずだ。あの子のところには
 幽霊は現れなかったのか?」

「電話で聞いたら、見てないそうです。
 嘘をつく子じゃないから本当だと思います」

「ナツキ君は?」

「……兄にこのことを話すのは気まずくて」

「それもそうか。あの人の性格なら、きっと気負いして
 永遠に君とは結婚してくれないだろうね。
 なるほど。君の言いたいことは分かったよ。
 兄上に内緒で幽霊の件を解決してほしいってことだね」

「その通りです!! さすが太盛さん、聡明ですね!!」

「はは。褒めても何も出ないぜ。といっても、
 除霊の方法なんて急には思いつかないんだがね。 
 しかし……あてがないわけでもないか」

家に帰ってからじっくり考えると伝えた。
ユウナは深くお辞儀してから俺を見送ってくれた。
昼休みはとっくに終わっていて、13時半になっている。
こんなに話し込んでたのかよ。それにしても楽しかったな。

実は俺には下心があって、ユウナの顔はすごく好みだった。
結婚してからミウに束縛され続けて、たまには別の女を見たいという
欲がある。もちろんミウにばれたら罰として本当に拷問されるのだが。

俺は憂いを秘めたユウナの瞳を思い出し、
ニヤニヤしながら実家の堀家に電話をかけた。


--------------
※ユウナ

上司のミウさんの旦那さんだから、あんまりジロジロ見たら
悪いとは思うけど、やっぱり太盛さんはイケメンだった。
兄さんより少しだけワイルドで、日に焼けた肌の色が素敵。

身長が少しだけ足りない感じだけど、
他の部分が素敵なのであんまり気にならない。
私とひとつしか年が違わないのに、
穏やかさと優しさを感じさせる瞳が印象的だった。
今日は相談しつつも目の保養にさせてもらった。

「本当は兄さん以外の人を好きにならないと
 いけないって、分かっているんだけどね」

私はこれからも兄さん以外の人を愛することができないのだ。
太盛さんも確かに素敵なんだけど、私にとっては
兄さんほどじゃない。なぜだろう。理由なんてきっとない。
だって気が付いたら好きになっていたんだから。

私はアヤの幽霊に打ち勝つ。そして兄さんの返事を聞く。
もし兄さんに振られたら私は一生独身なのかもしれない。
返事を聞くのが怖い。でも前に進むって決めた。
アユミだって兄さんを獲物のように狙っているんだもの。

私にとって一番胃が痛くなるのは、兄さんが私以外の
女と結婚してしまうことだ。本当にそんなことになったら
私もアヤと同じように拳銃自殺してしまう自信がある。

アユミの病院へ爆弾が降ってきた。

※アユミ

昼下がりに病院のテレビを観てもすぐ飽きる。
ソビエト政権ではコマーシャルを極力入れない
国営放送を中心に番組を作っている。

どれも政治経済や軍事の報道番組ばかりで娯楽がない。
新生国家にメディアの質を期待する方が間違っているのか。
こういう時はにスマホでニコ生でも観ようか。
画面にはたくさんの字幕が流れてくる。

           まもなく……攻撃が開始されるww
   うはwww立件民主党まじぱねえ
                 ↑おめえらwwwデマおつwww
         俺も栃木ソ連に移住したいお

こんな感じの煽り?が毎日繰り返されてる。
日本が攻撃するする詐欺ってやつで、
いつまでたってもソ連を攻撃してこない。

ソビエト側では、太平洋の沿岸部に集結中の敵艦隊を
先制奇襲攻撃する案もあるそうだけど、どうなることやら。

そんなことより兄さんと半月も会話をしてないんだけど。
電話には出てくれないし、
メールの返事は次の日にならないと帰ってこない。

  うわっ 私……避けられてる!?
  SNSの返信の遅さで、告白を断られたのが分かってしまう!!
  今なら5分で無料診断!! 登録者は70万人を突破!!

冗談はこの辺にして、まさか本当に振られるとは。
兄さんが私を振るってことは、ユウナを選んだことになる。
だって病院で兄さんがユウナを見る目が前と変わっていたし、
なんか「妹」じゃなくて「一人の女」として見ていた。

おめでとうお姉ちゃん。と言いたいところだけど、
あのぽっちゃり体形の色白豚に負けたことが許せない。
きっと兄の気の迷いなんだと信じたい。

私は兄の肌のぬくもりに飢えていた。
私から求めなくてもあっちから近づいてきた。
兄はいつだって、私が嫌と言っても服を脱がせてきて、
こうしてパンツをずりおろして、割れ目をまさぐって……。

「んっ……」

ふわふわの枕に顔を押し付けながら、オナニーを始めた。
お昼を食べたばかりだ。どうせこの時間は誰も来ない。
仮に看護士が来ても、布団をかけているので寝ているふりができる。

「お兄ちゃん……ああんっ……だめだよぉっ……」

お尻を上へ突き出し、うつぶせのまま股の間を触る。
あの電動バイブの感触を思い出す。気持ちよかったので
またしてほしかった。

スマホにお兄ちゃんの写真を写して、枕元に置いた。
ああん……かっこいい。スーツ姿が似合いすぎている。
このきりっとした顔、背筋が伸びてて足も長い。

「んっ……んっ……ああ……もうイッちゃうよぉ……」

「やあアユミ」

「いいよっ……もっと奥までいれてぇ……って、え?」

「僕だよ。ナツキだ。偽物じゃないぞ。
 全くダメじゃないか、こんな昼間から一人で始めるなて」

私は兄さんが突然お見舞いに来てくれたことと、
痴態を見られたことで混乱してしまう。
兄さんは私の腕を持ってベッドに押し倒し、ディープなキスをしてきた。
私の口の中にある唾液が全部吸いだされてしまいそうだ

「本当はおまえとは……もうしないつもりだったんだけどなっ。
 かわいいアユミの姿を見てると……興奮しちゃったよ!!

「あんっ!! あんっ!! あんっ!! そこはだめっ!!」

「どうだアユミ? 僕にいれて欲しかったんだろ? 気持ちいか?」

「いたいっ……初めてだから痛いよっ!! あうっ…やめっ……いたいっ!!」

事後、ベッドシーツが赤く染まる。
ナツキお兄ちゃんは、この世の終わりのような顔をして
私に頭を下げてきた。ゴムもなしで挿入されたのだ。
レイプされたのとそんなに変わらない状況だったよ。

「用件に伝えるぞ。スパイの情報によると、
 まもなく栃木ソ連は空爆される。敵は無差別爆撃を狙っていて、
 この病院は格好のターゲットだ。今からシェルターに避難するんだ」

私は太ももに力を入れるとあそこが痛むので、
自力で起き上がれない。お兄ちゃんにおぶってもらった。
男の人の肩幅って広い。筋肉のついたゴツゴツした背中。
兄の背中は……暖かかった。

『空襲警報 空襲警報 患者と従業員は、
 ただちに地下のシェルターへ避難を介してください』

兄は一階の廊下を走っていた。私は窓の外をふと見上げる。
空にある雲が全部……飛行機で埋め尽くされている?
嘘みたいな現実だった。

真っ黒な色をした爆撃機の大編隊だった。
その次の瞬間、建物がぐらぐらと揺れて私の意識が飛んだ。


あれから何時間経過したのか。
私は兄にひざ枕されていた。
ここは病院の地下シェルターのようだ。

空爆された時に兄が転倒し、そのはずみで私が投げ出され、
頭を柱に強く打ってしまったようだ。
頭に包帯が巻かれていて、そっと手で触れると血がにじんでいる。
ついでに私の病人服のズボンも処女の血で濡れている。
不潔だし女として最低の状況だ。

「目を覚ましたのか。重症じゃなくてよかったな」
「そうでもないよ。頭がふらふらしてる」
「会話ができるなら十分元気な方だ」

私は包帯だらけの体だ。銃で撃たれた部分も完治してないのに
兄にレイプまがいのことをされて、さらに空爆。
私が今までニートをやっていた罰なんだろうか。

シェルターの中は広大だった。あちこちで非難した患者や
看護師さんたちの姿が見える。男性の医師たちが忙しく
みんなを見回っている。もっとも重傷者もたくさん
いたんだろうから、避難できたのはごく一部だと思う。

病院を狙ってくるなんて資本主義者は血も涙もない奴らだよ。
入院していた人に何の恨みがあるんだろう。

「悪魔の資本主義者、死ね!!」

「僕も同感だ。さて状況は……と。ふむふむ」

お兄ちゃんはスマホで本部と連絡をしていた。
今はスマホで戦闘の様子までわかってしまうから便利だ。

「茨城県の沿岸を攻撃すると思われていた、日本艦隊は
 おとりだったようだね。艦隊の9割は漁船を改造したダミー。
 本命は栃木本部を徹底的に空爆して叩く作戦だ。
 爆撃機の編隊は2000機を超えるようだが、
 敵がどうやって数をそろえたのかは不明とされている」

敵は地上部隊を一切出してきてない。
鉄人やブラックオックスを恐れてのことだろう。
それにしても敵の数が多すぎる。いくらロボットが強くても
陸戦兵器として開発されたものだから、一度に倒す敵の数は
限られてしまう。町は相当な被害を受けることになる。

「ソビエト本部もかなりの被害を受けているようだ。
 あっちは広大な平野部だから爆弾を落としやすいだろうね。
 対空迎撃装置の半分は壊滅したそうだ。
 敵は栃木県を丸ごと飲み込むように空爆を続けている。
 日光市の司令部予備まで攻撃を加えているらしい」

栃木県最大の都市部である宇都宮市には、ミサイルの飽和攻撃が
行われている。民間人の被害が多数発生しているようだ。

「鉄人やブラックオックスの他にも、
 ジャイアントロボがいるんだよね?」

「ジャイアントロボはとっくに出撃していて、
 対空ミサイルを打ち尽くしたよ。
 弾はたったの100発しかないんだ。
 あとはバルカン砲でちまちま倒すしかない。
 まもなく茨城の日立製作所から援軍が到着するそうだ」

「援軍て?」

「空中戦を想定して開発されたゲッターロボだよ。
 ゲッターワン」

栃木ソビエトの脅威の科学力は、ついにゲッターロボの開発に
成功したのだった。ゲッターロボは空中を自在に飛び回り、
ゲッタービームやゲッタートマホークにより、爆撃機を溶かしたり、粉砕していく。

この巨大兵器の出現に爆撃機隊は完全に戦意を失い、撤退を開始する。
敵の本部からはもっと攻めるように指示が出されたが、
やっぱり自分の命が惜しい。あとは消化試合となった。

我が方も、これで済ますつもりはなく、報復として
ゲッターロボを東京まで急行させ、国会議事堂に
ゲッタービーーーム!! を放って粉々にしてやった。

国会にはちょうど衆参両院の議員が集まっていたので、
議員のほぼ全員が熱線により溶けてしまった。

これは大問題だった。議事堂には政府の閣僚もいて、
調子に乗って戦闘指揮をしていたのだ。立件民主党院の
大半が溶けてしまい、もはや国家の指導者がいない状態となった。

これでは、戦闘の停止を指示するともできず、
一方的に北関東ソ連の攻撃を受け続けることになる。
いわゆる停戦交渉する政府がいない状態というわけだ。

これでは国が滅ぶということで、東京都知事を始めとする、
自治体の幹部が停戦交渉をすることになった。

ソビエト側は、外務人民委員と国防人民委員が代表として出席した。
日本側はまたしても戦力が壊滅したため、
どんな過酷な条件でも飲む姿勢を見せた。
ソビエトが示した条件は賠償金の支払いとなった。

・日本政府は、北関東ソビエト連邦共和国に対し、
 以下の賠償金の支払いをする。

・1600兆円。

・期限は10年以内。

・支払いの遅滞が発生した場合、京都府の工業地帯、
 神戸市の港施設をソビエト側に引き渡すこと。

交渉締結後、東京都知事は心労で入院することになった。
その数日後、心臓の発作で死んでしまった。
臨終の言葉は「あんな恐ろしい書類のサインをするために
       私は生まれてきたのか」だった。
 
コロナ化でもオリンピックを
無理やり推し進めようとしたバチが当たったのだろう。


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※ ユウナ

あれから時は過ぎて梅の花が咲く時期になった。
バードウォッチングがお好きな太盛さんから、
木の枝にいるメジロの写真が送られてきて微笑ましくなった。

すぐに私とラインをしていることが奥さんであるミウさんに
ばれてしまい、太盛さんは罰を受けることになった。
樽の中に裸で詰め込まれて、丘の上から蹴飛ばされたのだ。

拷問のショックで入院した彼をお見舞いするべきか悩むが、
奥さんの愛が強すぎるので止めておいた。

「うちの旦那に色目使うのやめてくれる?」

職場では校長のミウさんと気まずくなってしまう。
私が兄一筋だと力説しても信じてもらえなかった。

日本は国際条約に関して誠実な国なのか、あれから
三か月にわたって賠償金を払い続けてくれる。
賠償金は10年で割って月ごとに支払う決まりになっている。

我が国は税制面の不安が大幅に緩和され、
人民へ共同アパートでの入居を薦められるようになった。
ソビエトのアパートは日本では団地と呼ばれる。
家賃は国家が補助するため無料だ。
更新料や管理費などの無駄な支払いも存在しない。

資本主義国家では、住居費こそが家計の最大の支出だった。
ソ連ではそもそも住居費が存在しないのだ。

その代わりと言ってはなんだけど、ソ連内では
食料品以外のお買い物をした時の消費税は、なんと7割も取られる。
その代わり、医療費や学費に関する支出はタダ。
携帯の契約料金も無料。市場を独占して暴利をむさぼる
資本家連中は国外追放してあるからだ。

難民を中心に食料品を買うのに困窮する層に対しては、
自治体ごとに「食糧配給所」を設けてある。
ここではソビエト人民であることを証明すれば
無料でカレーライスやシチューを食べられる。
紅茶もティーパックで淹れてもらえる。
数には限りがあるけどね。

この夢のような制度のおかげで、日本から北関東ソ連内へ
脱走する人が続出。人口が減れば税収が減り、賠償金が払えなくなる。
追い詰めれた日本は、国境から逃げる国民を後ろから銃で撃つことにした。
これが国民の反感を買い、日本からの脱走に拍車をかけるのだった。

私の勤める学園の近所にも、食糧配給所がある。
傷が治り退院したアユミは、ここで国家公務員として働いている。
配給所の仕事は福祉国家のソ連では重要な仕事だ。

旧JA、現全国農業ソビエトから余剰穀物を取り寄せて、
配給所へ送るのだ。配給所では女性を中心に炊事班の人が
料理を続ける。配給所で提供するのは夕食のみだ。

自民党の悪党どものは、貧しい国民に無料で少量を
提供したら勤労意欲が失せるとして絶対に実施しなかった。
実際は逆で国民はソビエト政府に感謝した。
憲法で定められた国民の8時間労働の義務に従い、
多くのソビエト人民が労働に汗を流している。

「おっすアユミ。様子を見に来たよ」
「あっそ。見ても面白いことなんか何もないよ」

赤地にカマとハンマーの旗が、供給所の屋根になびく。
このマークは、人民の腹を満たす正義の象徴と知られている。
同じマークの腕章をし、三角頭巾にエプロン姿のアユミは、
手慣れた様子でジャガイモの皮をむいていく。

「姉さんこそ、そっちの方は順調なの?」
「最近は校内で反乱も起きないし、楽なもんよ」
「そっちじゃないよ。兄さんのことだよ」

私は兄と結婚した。

周囲の戸惑いと非難の視線に耐えながらも、
兄は私を選んでくれたのだ。実の兄と妹では世間体が悪いので、
腹違いの兄妹として世間に公表することで落着した。

私たちの関係について詮索する奴らは粛清することにしているので安心だ。

ミウさんも私を笑顔で祝福してくれた。
本音は自分の旦那を誘惑する奴が減ったと思っているわけで、
そっちの方がうれしいんだろうけどね。
同じ女から見てもミウさんの嫉妬深さは異常だと思う。

むしろバカなんじゃないかと思う。
学生の恋愛じゃないんだから、
いついかなる時も旦那は奥さんのことを愛していて、
どんな時でも笑顔で奥さんを出迎えてくれて、
絶対に他の女のことを見てはいけないなんて幼稚な恋愛観だと思う。

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※高野ミウ (学生生活シリーズの主人公兼メインヒロイン)

太盛君は立ち直りが早い方なので入院してから
三日で家事ができるようになった。私はてっきり
彼がまた失語症になってしまうのかと心配した。
私は昔から短気なのが欠点だった。

高倉ユウナがあまりにも美人なので嫉妬してしまったのだ。

学園行事のたびに校長と副校長(正確には教頭)の二人で
壇上であいさつするんだけど、どう見ても私の方が
ブスなので恥にすら思っている。太盛君は私が綺麗だと
褒めてくれるけど、私は学生時代からずっと自分の顔や
スタイルの悪さがコンプレックスだった。

どれだけお化粧を頑張ってもユウナみたいにきれいな
肌にはなれないし、ウェーブのかかったオシャレな
髪形を真似できない。太盛君が私に内緒であの女と
メールしてるって聞いた時は、もう心がぐしゃぐしゃに
かき乱されてしまって、太盛君を本気で殺してやろうかと思っちゃった。

「私のパーティドレスはどうかな? 似合ってる?」
「目の覚めるような素敵な赤だ。君にピッタリだよミウ」

今日はユウナちゃんの結婚式。
式場は茨城県の鹿島市に建設されたソビエト文化会館。
結婚式場を使うのは資本主義的だとの判断で却下されている。
だって資本主義国の結婚式って無駄にお金がかかるでしょ?

茨城県の沿岸部の地域は軒並みソビエト連邦に加入した。
正式名称は、茨城ソビエト連邦の鹿島市となる。
ここは鹿島臨海工業地帯として製鉄業や化学が盛んな地域で、
現在は水陸両用型のゲッター3の開発に成功した。
今日の結婚式は、ゲッター3のお披露目会も兼ねている。

鹿島と目と鼻の先にある千葉県の銚子(ちょうし)市は、
ソビエト鹿嶋からの侵略を恐れて急いで軍事要塞を作っている。
銚子は千葉でも特に田舎で治安が良い。
子供からお年寄りまで郷土愛が以上に強いためか、
ソ連内へ逃げる人が全然いない。

彼らは生まれた故郷を守るために全滅覚悟の徹底抗戦の構えを見せる。
別に銚子の人らがソ連に逆らったわけでもないし、
私達には攻撃する予定なんてないんだけどね。
ちなみにこういう人たちを屈服させるとしたら、
本当に割に合わない損害を出すパターンが多い。

それにしてもここ最近は行事ばかりで疲れている。

先週は第一回の全日本ソビエト大会が行われた。
板倉町の遊水地を改造して作られたソビエト本部には、
全国各地から共産主義者が集まり、今後の社会主義の未来への
意見交換が行われた。私は学園の代表として出席した。

出席者の総数は、18万人を超えた。
行政の幹部クラスの人を中心とし、労働者階級の若者、大学生も含まれる。
敵国の日本からの参加者が全体の三割を占めたのには驚いた。
出席者たちのマルクス・レーニン主義的教養の深さにも驚かされた。
今回の大会では、甲信越地方、東北の一部地域もソ連に参加するべきと
いうことで意見がまとまった。会場の拍手で耳が割れそうだった。

学園でも年末恒例行事となっている学内ソビエト大会が開かれた。
学業の優秀なソビエト学生が集まり、討論会を行うのだ。
校長である私を始めとした学園の幹部が立ち合いのもと
大講堂で3時間にかけて行う。

そして冬休み前は強制収容所の視察がある。
学内の収容所はもちろんのこと、栃木中にある
収容所を見回ることになっているのだ。

専用列車を乗り継ぐから時間がかかる。憂鬱だ。
私はソビエト教育の中核である学園の支配者なので、
各自治体の長との挨拶や忘年会も兼ねている。

新たに領土に加わった埼玉や群馬にも次々に
強制収容所が建設されているから、この調子でいくと
日本中の収容所に挨拶をしに行かなければならなくなる。
できれば副校長のユウナに代わってもらいたいけど、
彼女は学内の管理がメイン。

校長の私は外務の仕事を優先しないといけないのだ……
だから出張ということで家に帰れない日ができてしまう。
愛する太盛君の作ってくれるシチューや回鍋肉を
食べるのが楽しみで毎日頑張ってるのに憂鬱だ。

『まもなく、一番線ホームに列車が参ります』

私は愛する夫の太盛君と仲良く手を繋ぎながら、
臨海線のホームで列車を待っていた。雪が降りそうなくらいに
寒いけど、彼と一緒にいると寒さなんて忘れてしまう。

その気になればリムジンで移動もできるけど、
余計な税金を使いたくないのでいつも断っている。

「太盛君は私のこと。好き?」
「好きだよ。どうしてそんなことを聞くんだ?」
「ううん。なんとなくね」

ソビエト内ではダイヤを一新した。国の生産力を上げるため
貨物列車を優先して通常の列車の本数を少なくした。

全労働者は原則生まれた地域の中で労働をするか、
あるいは勤務先近くの共同アパートで生活することになっている。
つまり通勤ラッシュを減らす努力をしたのだ。
ソビエトでは都市部に出向いての知的労働よりも
地元での生産活動やサービス業への従事を推奨した。

そのため一次産業と二次産業に占める割合が極端に多く、
産業構造をグラフにして表すと、あたかも北関東ソ連が
自給自足の生活を目指しているように見えると思う。
もちろんそれを目指してるんだけどね。

ソ連の目指す社会は、文明的な発展よりも現在の生活の維持にあるから、
貿易(外需)で儲けるよりも最低限の内需を維持して、
国民が飢えないことを重視する。だから貿易収支は常に赤字になる。
そもそも貿易で儲けられるような製品を生産してないのだ。
敵国日本は貿易を絶対重視して外貨を稼ぐ。

それは無理な大口受注を最低人数の労働者で、
しかも最低賃金で働かせることを意味するから
過労自殺やうつ病患者が後を絶たない。

私たちは違う。

ソ連では自殺する人がいない。これは悪の自民党の
ように不正統計をしてるわけじゃなくて、秘密警察が
ソ連内をくまなく探しても自殺者が発見できなかったことによるもの。

もちろん収容所は政治犯が収容されるところだから自殺のメッカなんだけど、
一般の労働者の人は真面目に働いて生活を維持できて心から満足してる。
みんなが定時まで働いて、みんなが同じ家に住んで、みんなが最低限の食事を食べる。

スーパーに行けば毎日同じ商品しか並んでいない。
しかも品物は最低限か生産しないのでお昼過ぎに棚が空になったら補充しない。
家具や家電も同じで一度売切れたら次の商品が全然入荷しない。
だから中古市場が活発になり、敵国日本から売れ残った中古品が流れ込んでくる。

テレビ番組は国営放送と娯楽放送、スポーツ中継の三番組しかない。
書籍はソビエト政府が検閲するので、新書がぜんぜん発売されない。
雑誌も極端に少なく、ネット検索でヒットするページ数も激減した。

これでは進歩がないとバカにされそうだけど、コロナで生活に困ったり、
過労で自殺者が出る悪の自民党の政治より百倍ましだと思う。

ちなみに栃木ソビエト内の、平気的な男性の収入は
『手取りで11万円』物価は敵国日本と大差ない。
日本だったら家計が破綻すると思うんだけど、ソビエトでは
この収入でも、妻と共働きなら子供を三人まで育てられる。

税金が高くて手取りが少ない分、育児の費用が無料。
育児証明書を市役所に届ければ、哺乳瓶、紙おむつ、ベビーカー
その他の諸費用を国が払い戻してくれるのだ。
そもそも結婚して出産した時点で、一時金として100万円が支給される。

このように生活コストが安いので、余裕で子供が育てられる。
将来の養育費を悲観して子供を作るのを断念する必要がない。

ちなみに11万円には根拠があって、現実世界のフランス共和国の
平均的な月収を日本円で換算した結果、この数字になった。
フランスでは実際に社会保障が充実しているので
11万の手取りで子供を育てて、大学にまで出してる家庭もある。

「うちの国は無駄な衆議院総選挙がないから税金が浮くな」
「一党独裁国家だからね」
「日本国では選挙のたびに国民負担で360億円の税金が使われるそうだよ」
「そして選挙で選ばれた国会議員が悪さをすると」
「そうそう。前の法務大臣の夫婦なんてひどかったな」

アベーシュキー政権で法務大臣を務めたカワイ・カチユスキーと
妻のヘンリーのことだ。ヘンリーの参議院選挙で不正なお金が使われたのだ。
選挙区の住民に総額で一億五千万のお小遣いをプレゼントした。
お小遣いの源泉となったのは「自民党の政党交付金」つまり国民の税金だ。

「法務大臣」という法律の守護者たる存在が「自ら憲法違反」の行為に加担する。
ちなみにヘンリーの参院選の筆頭支持者だったのがアベーシュキーと
シュガー官房長官であり、応援に駆け付ける姿がテレビに何度も映っている。

「俺は前から思っていたんだけどな。
 一番問題なのは、敵国日本ではカチユスキーみたいな人間のクズが
 コネで大臣に任命されていることだ。こんなバカがわずかな時間でも
 人の上に立っていたと寒気がするね。国家としてはもう完全に末期だぞ」

「私もそう思うんだよね。戦後70年間も民主主義と資本主義を
 継続した日本の政治は腐敗しきっている。あとは腐りきって滅びるのを
 待つだけだよ。腐った果物が枝から転げ落ちるように」

列車が走る。
窓の外からゆったりと景色が流れていく。
日本のどこにである、美しくも素朴な田園風景だ。
私の生まれた足利市と同じような景色だ。

列車は鹿島市へと続く臨海線を走っている。
電車でなく列車だ。敵国日本の空爆に備えて貨物列車を
改装した、政府専用の装甲列車なのだ。
そのため電車と違い、信じられないくらい鈍足になってしまった。

揺れが心地よかったので、夫の肩に頭を乗せて寝てしまう。

「駅に着いたぞ」

時間にして一分しか立ってない感覚だけど、もう着いたのか。
一瞬で別の場所にワープしたみたい。口の中が渇いてしまったので
ペットボトルのミルクティーを自販機で買って飲んだ。

「ミウ。文化会館に行く前に少し話をさせてくれ」
「いいけど……太盛君、顔が怖いよ?」

駅の改札を降りて、噴水広場のベンチに腰かける。
ううっ、じっとしてると寒風が。
寒くて風邪ひいちゃうから早くして!!

「君には黙っていて済まなかったと思っているんだが、
 ユウナちゃんのことでどうしても話しておきたいことがあるんだ」

「ユウナ……のことで?」

私が目を細めると彼は縮こまった。
いけない。話を全部聞くまでは押さえないと。

「あの子の結婚は、たぶん失敗する」

「……へ?」

「俺には占い師の知り合いがいてね。
 そいつが言ってたんだよ。
 ユウナちゃんの結婚は失敗するって」

「……子作りのことを言ってるのかな? 
 あの子だって兄の子を生むほど馬鹿じゃないよ。
 養子をもらうから大丈夫だって言ってた」

「ユウナの幸せは、多くの人の犠牲の上に成り立っている。
 彼女を幸せにさせたくないって思っている存在が
 この世にいるとしたらどうする?」

「ボリシェビキだから人に恨まれるのは慣れてるはずだよ。
 むしろ山ほど多くの人に恨まれてるはずだけど」

そうじゃない、と言いたげに太盛君はため息をついた。
なによ。早く結論を言ってよ。ちょっとムカつくんだけど!!

「ミウは俺とユウナちゃんのメールを見て怒っていたよな。
 狭い樽の中に押し込められた時は離婚しようかと思ったぞ。
 で、あのメールの内容を覚えているか?」

「だってムカついたんだからしょうがないじゃん。
 えっとメールの内容は……最近忙しくて細かいことは忘れちゃうんだよね。
 幽霊がどうとか……わけわかんないこと書いてあったような」

「そう。幽霊なんだ」

「その幽霊がどうしたの?」

風が吹いた。葉の枯れ落ちた木の枝が揺れる。
駅前の広場はあまりにも閑散としていて、私たち以外の
人がこの世から消えてしまったかのように感じられた。

太盛君が私の肩を抱いて寄せてくれる。
私は恋に夢見る高校生のように胸がドキドキしてしまい、
彼の言うことを何でも聞きたくなってしまう。

「孤島組で戦死した少女、川村アヤの霊が、ユウナを呪っているんだ。
 あの子はユウナと同じくらいにナツキ君を慕っていた」

アヤの霊は、三か月の前の大空襲の後、すっかり現れなくなった。
当時はユウナも安心していて、今では幽霊のことを意識せずに生活をしている。
だけど太盛君は用心して、その後もアヤの霊について調べていた。

太盛君の実家は足利市にある古い家で、系譜をたどると神社にたどり着く。
その神社には占いができる不思議な人物がいる。
その人物にユウナの未来を占ってもらったという。
神社!? 占い!? 私は非科学的なことを否定する現実主義者のボリシェビキ。
だけど愛する旦那がうっとりするほど真面目な顔で話してくれるので否定はしない。

「ふーん。じゃあ、その幽霊の女の子を除霊しないとダメだね」
「真剣に聞いてないだろ」
「真剣だよ」
「嘘つけ」
「ぶっちゃけ幽霊ってみたことないし」
「証拠でも見せれば納得するか?」
「うん。もしあれば、だけどね」

私はからかうように笑った。だってこんなバカな話を
するために私と肩をぴったりと寄せているんだから。

「ちょっとこっちまで来て」

太盛君は、私の手を引いて公衆トイレの裏側に行った。
確かにここなら人目がないけど……。
太盛君は、着替えの入った大きな旅行カバンの中から何かを取り出した。

「これを見ろ」
「アンティークな手鏡だね」 
「そのままじっとして、よく見つめてみてくれ」

私は腰が抜けそうになった。
手鏡の中には、女の子が映りこんでいる。
えっ……合成写真や動画じゃなくて、本当に鏡の中に
人間が存在してる……? しかもこの子が太盛君の説明によると
川島アヤなのだという。軍服を着ていて幽霊なのに足もちゃんとついてる。

「この鏡は御神鏡。この世に存在しないものを映し出すものだ。
 俺たちの見てる世界は実のところ現実じゃない。
 この鏡は、そんなものいるはずない、という先入観を
 押し殺して真実だけを見せてくれるんだ」

「うそ……じゃあ本当にアヤは」

「鏡に映ってるってことは、今そこにいるんだろうな。
 俺たちの目には見えないだけで」

私は背中がゾッとして振り返った。
なにもいない。

「俺が副校長(教頭)室を調べた時に、この鏡を使ったら
 確かにアヤは映っていたよ。地縛霊になって住み着いてたんだろう。
 それがどうしてか、今回は俺たち夫婦の後を着けて
 このソビエト鹿嶋市まで来ちまったわけだが」

「ど、どうしよう太盛君!! 今すぐ栃木に帰るべきかな。
 私たちも呪い殺されちゃうよ!!」

「霊はここまで来てしまっているんだ。
 俺たちが帰ったところで、ユウナが呪い殺されるのを待つだけだぞ」

それから太盛君は、一言もしゃべらなくなりました。
あの……? 私の声聞こえてないのかな? おーい。

気のせいだと思いたいけど、白目をむいてない?
意識があるのか不安になったので眼前で手を振るけど反応なし。
話しながら気絶する人って初めて見た。

いよいよやばいと思ったら、「あっ」と言って彼は元に戻った。

「悪い。ちょっと寝てた」
「そ、そう。疲れてるんじゃない?」

もう幽霊の話をするのはやめておいた。彼の方からも
話題を振ってこないし。またきつく手を繋いで歩いた。

ここまで来て引きかえしたらメンツが立たないから
結婚式には参加するしかない。どうなっても私が
殺されるようなことにはならないと信じてるし。
さあ、気合を入れていこう。

高倉ユウナは結婚式当日を迎えた。

※三人称

文化会館で結婚式か、とユウナは少し思った。
資本主義的な発想をする人物には地味で花がないと
思われるかもしれない。北関東ソ連では質素こそが美徳であり、
営利目的の式場こそが悪に映るものだ。

このソビエト鹿嶋市の文化会館には一階に大ホールが存在する。
かつて資本主義世界ではアイドルや歌手を呼んで騒いだりしたものだが、
ソビエトでは冠婚葬祭や式典を主な用途としており、
その雰囲気は厳かなものである。

「お集りの同志諸君よ。本日の式典は我々ボリシェビキの
 歴史に刻まれるべき、盛大なるものとなる」

司会者のだみ声が、マイクにのって館内によく響いた。
この式典は二部構成となっていて、結婚披露宴を第一部とし、
第二部は、新婚夫婦の立会いの下、
鹿島の工業力によって誕生したゲッター3のお披露目となる。
ゲッター3は文化会館前の広場に待機させてある。
整備は万全であり、仮に敵の襲撃があろうと直ちに応戦可能である。

ところでこのゲッター3だが、実にユニークな形をしている。
足はキャタピラ付きの車輪で駆動するのだが、その車輪の間は
戦闘機となっており、戦闘機の突起部分が、前方に突き出す。

言ってみれば平べったい戦車の上に、ロボットの上半身が
乗っている。そしてロボットの手は異様に長く、首は短く、
肩にはミサイルを搭載。そのアンバランスさが実に愛らしいのだ。

当作品で登場するのは初代ゲッター3である。
新ゲッター以降の過度に装飾されたデザインは好まない。
筆者はこれの超合金を買おうと通販サイトで調べたら、
中古でも7千円と高価だったのでいったん断念した。

会場は満員だった。
ナツキは若年のため大臣の地位にはないが、
中央委員であるから参列者は上級ボリシェビキが中心となる。
そしてユウナは学校の教頭の地位だ。学園関係者も
大勢集まった。ユウナを慕う学生の代表団もいた。

新郎新婦の入場となり、会場の視線が集まる。

「兄さん。私は今日、兄さんのお嫁さんになるんだよ」

ハイウエストの純白のウエディングドレスは、それはもう
ユウナに似合っていた。ユウナは、ぽっちゃり体形でお尻が
大きいのだが、パニエを入れてスカート部分をふっくらさせているので
目立つことはない。いわゆるプレインセス・ラインであり、
お姫様のような雰囲気のユウナにこれほど似合うドレスはなかった。

「君は世界一綺麗だ。ユウナ」

ナツキはヴィンテージデザインの白いタキシード姿に身を包んでいた。
彼も妹と同じ血を引いてるため絶世の美男子であり、
手足の長さとびしっと伸びた背筋。彫刻のように整った目鼻立ち。
妹が月だとしたら、彼はその月を照らす太陽のように美しかった。

ナツキは学園で生徒会長を一年間務めた。会長だった時の彼は人気の絶頂期にあり、
学内のボリシェビキ女子の三人に一人は彼のファンとまで言われていた。

新郎新婦が、ソ連の国旗でデコレートされたウエディングケーキを切る。
会場は暖かい祝福の拍手に包まれる。ナイフとフォークの食事が始まる頃には、
人々は雑談に興じて新郎新婦への関心が薄まっていた。

学園側代表の円卓にいるミウは、すぐ隣の旦那へ耳打ちした。

「何も起きないじゃない」
「……なんのことだ?」
「何言ってるの。太盛君が言い出したことじゃない」
「だから、なんのことなんだよ?」

突発性の記憶障害かと、ミウは思った。
まともな判断力のある人間なら、ミウが幽霊の話を
していると分かるはずなのだが。

その時、建物を揺れが襲った。遠くから爆発の音がしたのだ。
またしても暗殺未遂かとミウが構える。
一同が悲鳴を上げそうになるのをこらえていると、
司会者の男性がマイクを握った。

「同志諸君!! ご安心ください!! ただいまの振動は、
 日本の戦闘機がゲッター3に対し攻撃を仕掛けたものです!!
 ですが、ゲッターのミサイルによって直ちに撃退しました!!」

ういいん、と巨大なモニターが天井から降りてきた。
外の様子をモニター越しに見せてくれるのだ。
黒煙を吐いたジェット戦闘機が、太平洋の海へと、農家の畑へと墜落していった。
敵はたったの2機。結婚式に対しいやがらせをしてきたのだろう。

これは、停戦条約に反する行為である。
仮にパイロットの独断専行で行われたにせよ、
日本国側への懲罰は避けられない。ボリシェビキ幹部たちは、
日本側にさらなる領土の割譲を要求するつもりだった。

「いっそ空爆されて死ねばよかったのに」

というのは高倉家の末娘であるアユミである。
一度は諦めたつもりだったが、花嫁姿で着飾った姉をみて悔しさに震えていた。
披露する側はいい。だが見せられる側は、どこまでもみじめなものだ。
ナツキに選んでもらえなかったのだからなおさらだ。

「こら。お姉さんの式なのに無礼なことを言わないの」
「はーい」

ミウに叱られた。
スレンダーなパーティドレスに身を包んだアユミも、
姉ほどではないにしても十分に会場の花だった。
テーブルクロスの下で足をふらふらさせ、
ハイヒールを脱いでしまっている。

「そんな顔するなよ。アユミちゃんにもすぐ良い人が見るかるよ」
「そうですね……」

太盛は、愛想のない子だなと思った。姉のユウナは多弁で
太盛になんでも相談してくれるのだが、
この妹とは今日まで一度も打ち解けたことがなかった。

太盛は、ナツキ以外の男性を極端に避けようとするアユミが苦手だった。
世界はもっと楽しいことがたくさんあるのに、二年近くも
家に引きこもっていたのも、もったいないと思っていた。

いよいよ式が終わろうとした時だった。
ユウナは壇上の椅子から立ち上がろうとして体が動かないことに
気が付いた。指先の一本も自由が利かない。体だけではない。
息もできないのだ。頑張って吸おうとしても、肺にはなにも入ってこない。

「どうかされましたか?」

と司会者が心配して声をかけるが返事がない。
ただ事ではないと思った新郎のナツキも、妹の肩を揺さぶる。
ユウナは青い顔をしているだけで瞳を閉じることさえしない。

「早く医者を呼べ!!」ナツキの鬼気迫る怒号に、会場は騒然となった。

式の関係者たちが壇上を右往左往する中、ユウナだけは
時間が止まってみえた。ユウナは確かに見た。
目の前に孤島で散っていった訓練兵の霊がいるのだ。

川村アヤだけではない。水谷カイト。飛鳥トオル。
みなあの日と変わらず軍服に身を包んでいる。
足もある。笑わず、語らず、主張せず、ただ壇上に立ち、
花嫁姿のユウナを見下ろしていた。

「か……は……」

ユウナは呼吸困難にこれ以上耐えきれそうになかった。
血流が止まりつつあるせいで、体中の筋肉が弛緩して失禁してしまう。
この人生一度の大舞台で、冗談じゃなかった。涙がこぼれる。
兄が彼女の体をタンカに乗せようとするが、鉛のように体が重く、動かない。
椅子と体がくっついたようだった。

一方、高野ミウも壇上の光景に血の気が引いていた。
旦那の言っていた呪いは本当だったのだ。
彼女は旦那から借りた鏡でこっそりのぞくと、いるいる。
壇上の幽霊は三人だけではなく、その倍はいた。
いずれもミウと面識のない者たちだ。

「せまるく…」
「わかってる。ここで待ってろ」

太盛は妻の肩に手をしっかりと置いてから、壇上へと駆けた。

「お前たちの居場所はここじゃない!!」

会場が静まり返る。

「お前たちは過去の存在だ!! 
 未来を創るのは死んだお前たちじゃない!!
 生き残ったユウナなんだ!! 
 ボリシェビキの未来はユウナに託されているんだ!! 
 だから、お前たちはもう去るべきなんじゃないのか!!」

太盛は虚空に向けて叫んでいるようにしか見えず、
出席者たちは唖然として様子を見守っていた。

「俺は絶対にこの結婚式を不幸な結果に終わらせたりはしない!!
 どうだおまえら!! 俺の言葉が分かるか!!
 分かるなら俺を呪い殺してみろよ!! できるもんならな!!」

その三秒後、彼は頭から壇上の階段へ転げ落ちた。
彼はユウナと同じように呼吸が止まり、体の自由を奪われていた。
「せまるくーん」とミウが悲痛な叫びをあげながら太盛の体を介抱する。

太盛は蝋人形のように固まっている。ミウはこれを見るのは
初めてではなかった。駅前の広場でも同じ現象にあった。
だから彼女は今自分がどうするべきなのかを知っていた。

「歴史は勝者が作るんだよ!!
 私たちは悪の日本政府と戦い、革命を勝ち取った!!
 資本主義の連中に共産主義を認めさせた!!
 私たちには明日を生きる権利がある!!
 私たちは素晴らしい日々を生きているんだよ!!
 だから、私たちの邪魔をしないでええええええ!!
 私の大好きな夫を奪わないでえええええ!!」

ミウの魂のこもった叫びは、太平洋沿岸部に波浪を発生させるほどだった。
文化会館の窓という窓は割れてしまい、
出席者たちは尻餅をついて起き上がることができずにいた。

『ミウの叫び』は人知を超えた。ナツキは確かに見た。
彼女の背中にソ連建国の英雄レフ・トロツキーの霊がいたのを。

トロツキーの幽霊は優しく微笑み、ミウの肩をポンと叩いた。
そして太盛とユウナにも同じようにした。太盛とユウナは金縛りが溶けて
自由になった。赤いトロツキー。この英雄は夢半ばで死んでも尚、
ボリシェビキの正しき理想を継ぐ若者たちを救ってくれたのだ。

その後、幽霊はいなくなった。
優菜や太盛の前に現れることもなくなった。
きっと成仏したのだとみんながそう思った。

人の気持ち「愛」は時に世界の法則さえ揺るがすほどの力を持つ。
愛なくして人の世に文化はなく、愛なくして子孫は増えず、
愛無くして人生の幸せもなし。

新国家の建設にかける情熱もまた、
多くの国民を救いたいと思う「愛」ゆえであった。

こうして世界に平和が戻ったのだった。
                   
                     
                     終わり

                 著作:制作 栃木県ボリシェビキ委員会

令和の大不況。無職になった若者たちの行く末は…

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令和のコロナ不況の中、栃木県のとある町から共産主義革命が起きます。 最初は小さな革命でしたが、やがて革命は関東全域へと浸透していきます。 共産主義とは分かりやすく言うと、お金持ちを全員ぶち殺して 貧乏人による、貧乏人のための国を作ろうキャンペーンなのであります。 政治家、経営者、出資者などは資本家階級なので全員ぶち殺す対象となります。 これは、かつてソビエト連邦が70余年の歴史で実施してきた『反対主義者の粛清』 『資本家の国外追放、収容所送り』などの『マルクス・レーニン主義的政治』を 現在の日本で無理やり発生させる、最恐クラスのコメディ作品なのであります。

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更新日
登録日 2020-09-26

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