最後の蝶

問う。なんで僕らは幸福を望むのか。
答え。僕らに幸福なんて訪れないからだ。

それでも、生きねばならないからだ。

水蓮(すいれん)()いでいた
文月(ふみつき)の風を(つむ)いだ

世界が(かたむ)いて

僕は

(なな)めに。


終止(しゅうし)、これは一度目でも
僕と君は
たしかどこかで

あの街角(まちかど)
あの夕暮(ゆうぐれ)
あの歳月(さいげつ)
あの潮風(しおかぜ)
あの拍動(はくどう)
あの霊魂(れいこん)
あの感覚(かんかく)で。

あの悲しみで
あの悲しみの
そのなかで

出会っていたのかも
しれないね。

微笑(ほほえ)

そしてまた、終止。


時は移ろう
無常(むじょう)

(きわ)が来れば
また、花は咲くのさ

だから、終止。


円相(えんそう)
決して閉じずに
ゆえに
終わりなどない

その苦しみを
愛と呼ぶなら

僕らきっと
何度でも
何度でも

あの道の上で
きっと。

遡行(そこう)する
終止。


不思議(ふしぎ)な夢を見ていた
知らない世界を
めぐって、めぐって
宝物を探して

見つからなくて
不安になって

君は光だ
そうだった
いつだって
僕を照らす光だ。

一度きりの無限(むげん)
ここでまた、終止。


夜明け前
(きり)()れた
街灯(がいとう)

(くさ)った頬杖(ほおづえ)
煙草(たばこ)(ふた)
酒の(びん)

君のいない部屋
その(のこ)()

それを
それで
それに
それへ

そうやっていつも
照らす光だ。


散りゆくように

僕の身体は
まれに
くしゃくしゃになる
けれど

だからこそ
君がいなくちゃ
そんな言葉を
()いている。


そして始まりの、
終止。


(ちょう)になった
最後の蝶に

君を見ていた
君という
名前の
花を

君は花
僕は蝶になって

何度だって
何度だって

君のもとへ行くんだ

そして一緒に
夢をみようか


初めて会った
あの夏の日に
見た夢を


僕ら()けて
一つになった
あの夢を。


忘られぬ
(たましい)の夢を。

最後の蝶

愛しているなんて、そんなに空虚な言葉はないよね。だって君がそう言うんだから。僕はもう何もかもわからないけれど、
それでも、望んでいいのかい
世界の未来を。

君という、世界の未来を。

最後の蝶

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-31

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