暗黙の夏夜

蜆川無溟(仮名)

君のために。

陽炎(かげろう)の、燃え落ちた、夏の夜
(いかづち)も、稲妻も、不在の()
君はまだ、生きざれば、毒を吐く
心折る、焼ける舌、枯れゆく、涙よ
終われよ、夏の夜、ふたたびも、訪れることなかれ

新月の、焼け落ちた、夏の夜
さざ波も、引き潮も、不在の野に
君はまだ、死にたえず、痛み行く
傷つけり、病めるとき、溶けゆく、体よ
終われよ、夏の夜、ふたたびも、訪れることなかれ

独房の、冷めきった、夏の夜
過ぎし日も、(きた)る日も、不在の野に
我はまだ、知らざれば、ただ(うべな)
飲み()せり、洋酒(びん)、至らざる、明日よ
終われよ、夏の夜、ふたたびも、訪れることなかれ

煩悶(はんもん)の、消え残る、夏の夜
物質も、抽象も、不在の野に
我はまだ、愛を説く、君がため
信ずれば、神はあり、漏れざる、吐息よ
終われよ、夏の夜、ふたたびも、訪れることなかれ

陽炎の、焼け落ちた、夏の夜
雷も、稲妻も、不在の野に
君はまた、生きゆけり、(いばら)の道
暗黙よ、沈静よ、解き放て、その心を
終われよ、夏の夜、ふたたびも、訪れることなかれ

終われよ、君の夜、ふたたびも、訪れることなかれ
終われよ、君の闇、ふたたびも、君を、苦しめること、なかれ

救われよ、君の闇、ふたたびも、君を、苦しめること、なかれ。

暗黙の夏夜

エゴイズム。

暗黙の夏夜

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
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