――あの日からずっと考えている。僕は一体何者だろう、と。 高校三年の夏休み、店に持ち込まれたその案件は、僕の覚悟を遥かに上回るものだった。
エリン島。どこまでも連なる灌木の丘と、乳色の霧と、小王達が群雄割拠で並び立つ島。 “王になりたくない!”と泣いて言いながらリートム小王に就いたアーサフは今や、領地も臣下も親友も妻も、そして王座も、全てを失った。 彼から全てを奪うべく画策を完璧に実したのは、魔的なまでの力量と魅力を秘めるコソ泥・カラスのモリット。 今二人は、それぞれの思惑と感情を抱えながらエリン島の灌木の丘を歩き続けている。 その二人を取り巻く人々もまた、霧の中で変化を続けてゆく。 ……泣き続けることに倦んだ妻・イドル ……親友ディエジは生き延びて、新たな命運にさらされた ……アーサフを援救する事になった冷たい顔の女・リア ……コノ王はリートム掌握の為にさらなる陰謀を組む それでも、アーサフは霧を抜けて進み続ける。あれ程嫌がったリートム王位に再び復権する為に。
男が一人、シーソーの真ん中に背筋を伸ばして立っている。 短い作品。 「あなたはこのまま、何かまともなモノになれるとでも思ったの?」と右側の双子が言った。