「徳田さん、いよいよ今年、定年ですね。おめでとうございます」邦夫に声をかけてきたのは、大学の後輩にあたる庄野桜子だった。後輩といっても随分若く、まだ60歳そこそこのはずである。「ありがとう。なんとか会社が潰れる前に、定年にたどり着いたよ......
「ぼくのプリンセス、お目覚めの時間だよ」そう言って亜美を起こしに来たのは、アイドルの中越雄二だった。亜美は片目だけ開けて目覚まし時計を確認すると、不満げに口をとがらせた。「もー、今日は日曜日だよー。会社は、お休みー」中越雄二は人差し指を......
「すべては巨大なエイプリルフールだ」と彼女は言った。 「あらゆる全てに確証がなく、それらは歴史によって積み重ねられてきた妄信だ」と彼女は言った。 この世界が夢幻なのだとしたら。妄想の産物で出来ているのだとしたら。 生きようが死のうが、もうどうだっていいのだろうか。 「たくさん死んで、たくさん笑おう?」 彼女は最期にそう言った。
若い女性に先導され、小学校低学年ぐらいの少年少女三十名ほどが、その展示室に入って来た。「さあ、みなさん、静かにしてね。ここが『地球の石』のある部屋ですよ」少年の一人が手を挙げた。「先生、質問があります!」「なあに、ヨシユキくん?」「本当に......
孤独に暮らす少女セラの前に現れたのは、一人のアンドロイド。 彼はそのまま彼女の元に居座ると、ある日姉のことを話し始めた。
取引先の営業マンが抱っこヒモをして現れたのを見て、比良田は思わず苦笑した。「酒井くん、どうした。奥さんに逃げられたのか」酒井は顔を赤らめながらも、慌てて首を振った。「違いますよ、比良田部長。これを見てください」比良田が見やすいように......