婚約者の玲子から電話があった。会社の帰りに研究所に寄って欲しいと言う。イヤな予感がした。というより、イヤな予感しかしない。それでも、寄らない、という選択肢がないことは、自分でもよくわかっていた。ぼくは小さな出版社で、先端科学関係のライター...
有川は人当たりが良かった。いつも朗らかな表情をしているし、お客からの評判も悪くない。だが、社内での評価は低かった。会社というのは競争社会だから、有無を言わせないような手柄を立てるか、特定の上司に気に入られるかしない限り、大きな出世は望めない…
ひきこもり男子校生と病んでれ女子高生の物語。 …よく、有りそうな物語(?) 男子校生を“殻”から出そうとする“病んでれ”女子高生。 男子校生、家中引男は“殻”と言う名の「家」「過去」から出されるのだろうか? 女子高生、照闇穂花は彼を笑顔で“殻”から出せないだろうか? 家中は“やんでれ”に耐えられるか? 照闇は“やんでれ”で彼を落とせるか? 此れから「僕らの2大戦争」が“今”始まるーーー。
街並みがオフイスビルから住宅地へ移行する辺りの道路。その曲がり角に、清涼飲料水の自動販売機がポツンと一台あった。平日の昼間、そこに軽トラックが横付けし、作業服を着た三人の男が降りた。なぜか作業服には何のロゴもなく、微妙に服のサイズも合っていない...
読書好きの夫婦は仲がいいらしい。休日、互いに本を読んでいれば、どんなに傾向の違う作品を読んでいたとしても、楽しい時間を共有できるから。でも、夫とわたしは…「おい、またクラシックなんかかけてんのか。こんなの聞くと眠くなるんだよ…
この小説は最初の一行から最後の一行まで、死が怖くなり、死を考えるようになった主人公の死とは何かを捉えようとする独白である。他人の遺体を見るしかできず、自分では経験できない死を、捉えようとする滑稽だが真摯な主人公がいる。
メキッ、というイヤな音がした。車体の左後ろだ。原田はあわてて車を少しバックさせ、降りて見てみた。ちょうど後部車輪の前辺りのボディーが凹み、赤い塗料が付いている。見るのが怖かったが、相手の車のバンパーの右側にも、原田の車の白い塗料が薄く付いて...
明日葉いすみは誰より嘘を見抜くのが上手であった。眼は口ほどにものを言うというが彼女にとってそれは不適切である。明日葉いすみは眼どころか顔そのものが言葉のようであった。彼女は人の顔を顔としては認識できず、のっぺらぼうの白紙の上にたくさんの字が書いてある様に見える。おでこのところに名前があるのでそれを読んで個人を認識していた。嘘をつけば顔の真ん中に「嘘」という一文字が大きく浮かぶし、喜んでいるようであれば「喜」の文字が大きく浮かぶ。 そんな彼女が唯一顔を顔として認識する少年がいた。彼、槇正村は感情の起伏に乏しいため、たとえ喜怒哀楽の変化があってもそれは精々頬の片隅にちょこなんと現れるだけで、表情を邪魔立てするような横暴さはまるで見せない。その為顔が隠れることがなかった。 そんな二人が織りなす、一風変わった学園コメディ。
こんなにあっ気なく自分が死んでしまうなんて、東海林は思ってもみなかった。ましてや、道に落ちていたバナナの皮で滑って転んだのが死因だなんて。だが、目の前には、倒れたままピクリとも動かない自分がおり、一方では、フワフワ浮かびながらそれを見ている自分が…