プレゼン10分前

プレゼン10分前

気がついてしまった罠


「どうする?」

「どうするも、提案書は出したのだろう?」

「提出した」

 俺は、システム屋のプログラマをしている。
 社長にはしっかりと説明して、俺の肩書はプログラマになっている。人が少ない零細企業なので、プログラマでも仕様書も書けば、客先に提案を持っていく、それだけではなくメンテナンスからハードウェアの修理まで何でもこなす。

 今日は、以前から話が社長の所に話が来ていた、大規模システムのプレゼンを行う日だ。

「行くしか無いか」

「すまん。無駄な時間だな」

 俺のボヤキに社長は謝罪の言葉を口にする。

「いいですよ。俺しかわかる人間が居なかったのですから」

「負担ばかり増えてしまっているよな?」

「大丈夫です。これも仕事です」

「そうか」

「それよりも、社長。この仕事が取れたらどうします?馬鹿みたいな規模ですよ?」

「ハハハ。それこそ無理だろう。大手が持っていくだろう?おこぼれで十分だ」

「そうですね。でも、確かにこのメンツに入れただけでも大金星ですよ。どこを貰いましょう?」

「谷。それで、何人月の見積もりだ?」

「社長・・・。見てないのですか?」

「俺が見てわかると思うか?」

「そうですね。680人月です」

「は?」

「だから、680人月です。単価は、120で出してあります」

「ちょっと待て!谷。数字がおかしくないか?」

「いえ、おかしくないですよ」

「予備見積もりの時には、300人月だったよな?」

「えぇそうです。先方からの要望を入れた結果です。よくプレゼンに呼ばれましたよ。絶対に呼ばれないつもりで作った見積もりなのですけどね。これに、ハードウェアとソフトウェアのライセンスとサーバとメンテナンスを別枠で書いてありますが、概算です。保守も要望プラスアルファで積み上げてあります。保守は先方常駐で1割。待機で1割。予備で1割です」

「谷。金額ベースだといくらだ?」

「え?知りたいですか?」

「是非教えてくれ」

「81,600万です。概算部分は29,511万としています。数字合わせですけど、合計111,111万です。保守はハードウェアとソフトウェアとサーバを除いて、初年度は24,480万です」

「はぁ?お前。馬鹿だろう?どう考えても無理な金額だろう?」

「えぇそう思いますよ。受けたくなかったから出した見積もりだったのですけどね??なんでプレゼンに呼ばれたのでしょう?」

 巨大プロジェクト。
 従業員10名程度の会社が受けられる規模ではない。そんなこと、自分たちでわかっている。
 300人月の仕事だとしても、全員で取り掛かっても、30月かかる約3年だ。その間に他の仕事が出来ない。支払い条件に寄っては手弁当で3年間過ごさなければならない。社長には悪いが仕事が採れた瞬間に会社が潰れる未来しか見えてこない。だから、絶対に通りそうもない規模の見積もりを作成した。

 金額を裏付ける資料はしっかりと作った。
 プレゼンは真剣に行う。俺たちは、顧客に対するプレゼンではない。同じ土俵に上がった大手SIerに対するプレゼンなのだ。どこでもいいので、SIerが受注した後で値段交渉が行われるのだろう。そのときに、俺たちが出した高めの見積もりが意味を持つはずだ。
 SIer は1円でも高く受注した。顧客は1円でも安く発注した。その鬩ぎ合いが行われる。俺たちの出した見積もりをSIerは盾にも鉾にもするはずだ。そして、一部でも俺たちに仕事を回してくれる。このときに単価が生きてくる。120と出している。俺たちの規模の会社の単価ではない。直請けでも100か110が妥当だ。2次受けなら80でも高いと言われる可能性がある。120で出しているので、SIerは俺たちに出す仕事は顧客に見える場所では、120か130だと定義するはずだ。そして、俺たちに適正価格である80で出してくる。少しだけ粘れば90くらいにはなるだろう。それでも、SIerは30が何もしないで懐に入る計算になる。出す仕事の規模に寄るが、3人/月で2年間仕事を行えば2,160万の利益が見込める。バッファーを作ることができるのだ。
 俺たちの狙いは受注するSIerに技術力を示して、仕事を流してもらおうとする行為だ。

 プレゼンを行う会社に到着した。
 受付で社名を告げると、何度かやり取りをした主幹会社の責任者が現れた。

 大規模なシステム開発ではよく行われる話なのだが、顧客が自社内にシステム部門を持っていても、システム屋やSIerと全面的なやり取りができるわけではない。そのために、懇意にしているシステム屋に声をかける。
 声をかけられた会社は、顧客側に立って話を進めるのだ。アドバイザー的な役割を行う。メンテナンスや保守管理は、システム完成後に引き渡して主幹会社が業務と美味しいところを持っていくのが一般的だ。しかし、この主幹会社はすでに顧客とのコンサル契約を結んでいるために、保守やメンテナンスも全部含めたプレゼンを行う話になっている。

「谷さん。本日はよろしくお願いいたします。弊社も、御社に期待しているのですよ」

「すみません。緊張して早く来すぎましたか?」

「そうですね。時間まで30分ほどあります。準備をしていただいても構いませんが、谷さんの所はトリになっています」

「最後なのですか?」

「えぇそうですが?」

「事前連絡では、3番目となっていたので、少しびっくりしてしまいました」

「そうですね。今回は、顧客からの要望と他社さんの都合で順番が変わってしまいました」

「いえ、構いませんよ。今日は何社ですか?」

「5社です。お伝えした通り、プレゼンは60分程度でお願いします」

「承知しております」

「部屋は使えますので移動しましょう」

「わかりました。お願いします」

 会議室は思った以上に広かった。
 100名位は入られるだろう。前面にあるスクリーンと手元にあるタブレットが連動しているのだろう。

「そこを、お使いください」

 示された席には、俺の名前と社長の名前が書かれた札が置かれている。周りも同じように名札が置かれている。

 やられた!
 これは、出来レースだ。

 担当者が席を外した。広い会議室には、俺を社長だけになった。パソコンのセットアップをするフリをして周りを見る。カメラは存在しているが手元を撮影していない。これなら大丈夫だ。WIFIは使っても大丈夫だと言われたが、自前のテザリング回線を使う。

『社長。途中で帰ってください。それから、俺からのメッセだと知られないようにしてください』

『どうした?』

『出来レースです』

『そうなのか?』

『はい。名札を見てください。1つ以外は中小です。プレゼンと入札を行ったというアリバイを作りたいのかも知れません』

『それなら俺が居ても問題ないよな?』

『いえ、最後に大手は必ず全部の会社を巻き込もうとします。そのときに社長が居ると回答を求められます。俺たちの番になる前に会社から電話をさせて抜けてください』

『巻き込まれるのなら予定通りではないのか?』

『事情が違います。単価60や50で出している会社が居ると』

『そうか、工数でやり取りして、単価を安くして』

『規模の割に納期がキツめだった理由が分かりました。火付け案件です』

『どうする?』

『全力でプレゼンを行います。合流を求められたら”社長が居ないので即答できない”と返事します』

『わかった。できることはあるか?』

『社長にこの話を持ってきた人に連絡してください。できればすぐに俺に連絡するように言ってください』

『わかった。話を持ってきたのは、宮腰先生だぞ?お前も知っているよな?』

『はい。存じております。俺から連絡して問題ないですか?』

『ちょっと待て、まだ余裕はあるよな?』

『はい。大丈夫です』

『連絡する』

 社長は軽く肩を叩いて会議室から出た。
 思った通り担当は表で待機していた。社長は喫煙所の場所を聞いて移動した。先生に連絡をしてくれるのだろう。

 5分後に俺のスマホがなった。宮腰先生からだ。すぐに折り返すと伝えて、主幹会社の外に出た。プレゼン開始まで20分ある。事情を確認するには十分な時間だ。

「先生。谷です。お忙しい時間にもうしわけありません」

『いいよ。それで?松田君が怒っていたけど何があったの?』

 現状と俺の推測の上での考えを伝えた。先生は黙って俺の話を聞いてくれた。プレゼンなんかよりも緊張した。
 話が終わったときに、先生から5分だけ待つように言われて、電話が切れた。

 4分後、知らない番号から電話が入った。
 先生関係者なのは間違い無いだろう。電話に出て驚いた。

 すべての事情がわかった。
 最悪の予測が当たってしまった。

 本来なら、1年後に完成予定だったのだ。それを1年伸ばして、システム会社を飛ばして新しい技術を使って納期の短縮を行うと説明されていたようだ。
 主幹会社と大手SIerからの提案のようだ。今日のプレゼンでは、金額面は”受けるのなら”という前提がついていると説明されていたようだ。技術力を持っている会社を集めてシステムのプレゼンを行うと言われていたようだ。

 今更テーブルをひっくり返せない。
 説明を聞いて、こちらが聞いている情報を伝えた。プレゼンの開始を2時間遅くしても問題ないかと聞かれたので、問題ないと答えた。

 一旦電話が切られた。社長が走り寄ってきた。

「谷!」

「大事になりそうです」

「だな」

 プレゼン開始の10分前になってテーブルがひっくり返った。

 俺は、ハイヤーで到着した先生と一緒に顧客が待っている喫茶店に向かった。
 大どんでん返しだ。俺が顧客側の立場になってシステム全部の面倒を見なければならなくなった。いわゆる、主幹となった。当初からプロジェクトに関わっていた、SIerと大手システム屋は切られた。主幹会社も全部のシステムから手を引くことになった。

 そして2年後・・・。システムは無事に動き出した。
 しかし、俺はベッドの上だ。首を切られた主幹会社の担当者に刺されて入院している。

プレゼン10分前

プレゼン10分前

プレゼン10分前で気がついてしまった罠。そして・・・ 俺は、システム屋のプログラマをしている。 社長にはしっかりと説明して、俺の肩書はプログラマになっている。人が少ない零細企業なので、プログラマでも仕様書も書けば、客先に提案を持っていく、それだけではなくメンテナンスからハードウェアの修理まで何でもこなす。 今日は、以前から話が社長の所に話が来ていた、大規模システムのプレゼンを行う日だ。

  • 小説
  • 短編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-04-24

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