Iの不在

 雨の夜はうるさくて
 人の気配の消えるのが寂しくて
 窓外に更けていく夜の密度は上ずる
 ぽつりぽつりと吐き出す声を
 投げ返してくれる無口な土壁も
 そばにいない誰かの代わりにはならず
 ただ何かが欲しいから
 ライブカメラを映した画面を背にしながら
 指先でバレエを演じる

 雨も声も音も
 心の空白を埋めることはできず
 そもそも心がどこにあるのかさえも知らないけれど
 情報の奔流の片隅に言葉を放流する

Iの不在

Iの不在

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-06-30

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