夏の和歌
高き日の木陰涼しき深大寺
若葉の裏に水面揺れつつ
野隠れの薔薇は咲きけり人のため
ならず己れの道に生くため
雨上がり木漏れ日見上げ薄く目を
閉じるまぶたに潜む葉脈
卯の花の風に揺られてこぼれ落つ
などてその手を離したまひし
大倉の尾根に咲く花人慣れで
岩に隠るる山躑躅かな
風吹かば梢鳴るなり秋川の
露天に憩ふこの山肌に
湯殿川駆ける子供の傍らの
陰より出づる蝶の三つ四つ
初夏の野もせに咲きし姫女菀
紋白蝶の羽によろめく
雨月夜ブルーサルビア露の中
月も灯りも一つ隠しつ
はや夏は真中に来たり六所宮
狛犬と聞く蝉の声かな
汗のなき身の羨まし向日葵の
こすれる肌の爽やかさかな
楽の音はあまたあれども天の下
君と聴きしはなどて忘れぬ
多摩川にかかる夕陽の山の端の
万葉人も見し青を見る
夏の夜の床には遠く夜鳴き蝉
友に聞こえぬ歌ぞ悲しき
夏の野もせにシナプスは連結し
ものを思はむ我は誰かと
白浜の浅き眠りの深き夜に
寄す波のごと星は歌へり
大岳の頂より湧く雲を染め
いま夏の日は沈みゆくかな
夏の和歌