聞く楽しみ

 手の機能低下のために新聞をめくれないので去年の夏頃から妻に読んでもらっている。書物については読みたい本があると妻が図書館から借りて来て読んでくれる。本好きの妻は自分の本以外にも、私の為に幾らでも読んでくれるので有り難い。
 朗読は午前中の点滴の時間、午後のコーヒータイムの時間、夜の就寝前とだいたい決まっている。最近は若い頃には興味の無かった古典(現代語訳)に集中していて、先週は「歎異抄」、「更級日記」、今週は「土佐日記」、「堤中納言物語」だった。次の物も妻にリクエストしてある。
私は、昔書かれた本の中でその当時の人々の生活や気持に触れて、その時代と同じ空気を吸う。すると、忙しい今の世のスピードについていけずに置去りにされた寂しさが和らいで気持が楽になる。一冊読み終わると妻と感想を語り合うがこれがまた楽しくて、体の凝り、張りをほぐしてくれる。
 我々の様子を見て、孫娘までもが私のために朗読することになった。妻は年齢相応に「フランダースの犬」を孫に手渡した。すると孫は私の隣のソファーに座って、大きなハッキリした声で読み出した。私と妻はニコニコしながら聞き入る。この物語も長いから切りのいい所で中断し、次回まで栞をはさむことにした。私は孫の朗読も楽しみに待っている。
 ベッドと車椅子の生活をしているうちに私の「読み」、「書き」、「話す」ちからは春がすみの様に霞んでしまったが、「聞く」ちからは月影の様にまだはっきりしている。幸い二人の朗読のおかげで、人生をもう暫らく楽しめそうだ。ありがとう。  2019/2/24

聞く楽しみ