入院

 先月胃瘻(いろう)造設術を受けてきた。これで一日に必要な栄養、カロリー、水分は十分とれるので安心。腹壁に開けた穴から直接入れるので味は分らないが、今までのように嚥下時に誤嚥したり、咀嚼時に舌や唇を噛んだりして苦痛だった食事は終わった。あとは間食に好みのものを口から少しだけ食べようと思う。
 胃瘻は腹壁側と胃側をボタンとバンパーの組み合わせとした。見た目もよく衣服の着脱や入浴の邪魔にならない。その上、半年に一度(チューブとバルーンの組み合わせでは 1,2ヶ月ごとだが)の交換でよく、内視鏡も使わないで出来るという。
手術は目が覚めたら終わっていて、術後の痛みも軽く、五日目に抜糸して間もなく退院となった。
妻は看護師から胃瘻の管理を習い、すぐに慣れて全然心配ない。胃瘻周囲の皮膚炎も無い。私は誤嚥性肺炎の危険が減って、少し延命できそうな気がする。胃瘻を作る、作らないは病状、年齢、人それぞれの考えを考慮して最終的に病人や家族が判断するのだが、私の場合は作って良かったと思っている。
 今回の入院は検査や内服薬調節もあったので約二週間となった。家の中に閉じこもっていたから、外の空気を吸うのは楽しみだった。しかし、病院は完全看護(基準看護のこと)と言っても、家でトイレ、食事、その他の時に妻がしてくれていた様にはいかない。ナースコールを押すこと、立つこと、寝返りすることさえ満足に出来ない私にはストレスだった。特に夜間は当番のスタッフによって、受ける快適性、安心感は大きく違い、入院三日目には早くも退院する事だけを願うようになった。
 入院した大学病院は建物も変わり、運動場も無くなって、かつての空き地はどこも駐車場となっていた。私が学生だった頃の懐かしい風景や雰囲気はすっかり消えていた。院内には顔見知りの看護師や医師は一人も居ない。若い頃は患者さんのベッドサイドに立った私も、今度は立場が逆転して、患者となってベッドに横たわった。人間誰しも通る道ではあるが、元気な学生の頃を思い出して言いようのない寂しさを覚えた。私の臨床実習のグループは五人のうち既に三人が他界したが、皆立派な医師であり友人だった。
 4年前に私がALSの確定診断を受けるために入院した時の教授は退職して、私の主治医が新しい教授となった。研究者として名が高く、人柄もいい。私はこの先生に命をあずけて七十余年の人生を閉じようと思う。 2019/1/24

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