現在の症状(3)

 これも面白い症状だ。すくみ足が出始まった頃に主治医はこんな話をしてくれた。パーキンソン患者が地面に描いた線をスッと跨げないとか、うまく歩けないのに自転車は乗りこなしたというエピソードを挙げて、これは意識の問題もあると言った。ALSの私にも絡んでいるようだ。
 我が家は私が病気になる前にリフォームして、すでにバリアフリーになっている。トイレ、浴室、キッチンなど各部屋の境目に敷居があるが高低差は殆ど無い。しかし、家の中を歩行器で歩いていると境目を意識し過ぎるためか、その手前で必ず足が止まる。主治医の言った通りである。
私はどうしたらこれを打破できるか、どうしたら境目を意識せずに通過できるか工夫した。そして最近ようやく良い方法を見つけたので試している。
ヒントは保育園から聞こえて来た。先生が「1,2,3,4」と掛声をかけると、園児達が一斉に元気な声で「5,6,7,8」と返す。広場を走り回る前の準備運動らしく、それを何回か繰り返す。その可愛い声を真似して私と妻も楽しんでいた。
ある日ふと、私は、「1,2,3,4」を普通の声で、「5,6,7,8」を少し強く言いながら自らに号令をかけ、それに歩調を合わせてみた。そしたら、寝室から廊下を通ってリビングに行くのに最低3回立ち止まっていたコースをノンストップで歩く事ができた。 ヤッタ! これは、脳が境目はストップの線と意識していたのをやめ、代りに規則正しいリズムを継続の指令と意識しなおし、歩き続けることを筋肉に命令したからだと思う。
私はこれに味を占めて、口に含んだコーヒーを「1、2、3」と頭で掛け声をかけながら、ゴクンとやってみた。途端に何時もの様に誤嚥してしまった。これは脳が飲むことを意識したにもかかわらず、運動神経と筋肉のミスマッチが起って失敗したのだと思う。或いはノドの筋肉の萎縮によるものか。
 このように、私の体は無意識に動かしたり(例えば、就寝中の寝返りなど)、反射的に動かしたり(例えば、咄嗟に身を守るなど)することが出来なくなった。体を動かす時は、動かそうとする意識と相当な努力が必要となり、疲れる。そのうえ、意識の仕方によっては効果が有ったり、無かったりする。
幸い今回のすくみ足歩行の改善は一時でも私の心を少し明るくした。これを契機にALS闘病生活のネガティブ思考をポジティブ思考に変えるには何を意識したらいいか考えてみたが、これが中々難しい。  2019/1/5

現在の症状(3)