青春に死ぬ

 ぽたぽたと、ミルクに溶けたスピルリナ色素が腕を伝って落ちていく。着地点は砂利ばかりが広がる畦道で、ヘンゼルとグレーテルが落としたパン屑のように雫が点々と続いていた。
 ハンカチもティッシュもなく、じりじりと焼け付く日差しの中で乾き始めるアイスの残骸は見るも無惨に腕に張り付き、べとりと一筋の線を残す。そこに舌を這わせたところで舌が腕を追うには限界があり、肉が一層盛り上がったところで舌は止まる。
 アイスは夏に不向きだ、カップは歩きながらでは食べづらいし、バーは溶けて落ちたらおわり。なのに何故人は真夏にアイスに焦がれるのだろう。恐らくアイスには夏限定で力を発揮する麻薬なのだ。砂糖も依存性が高いらしい。なら夏に生きる人類は皆が中毒者で異常で気狂いなのだ。そうだろう。

「汚ねえよ」

 自分の数歩後ろを、自分より少しだけ背の高い男子高生が諌める。カラカラと車輪が回る。銀色ボディの自転車は真夏の太陽が乱反射し、網膜を焼くには持って来いだったので、舌を出してやりながらとぼとぼと歩いた。
 汚いのはどちらなのだろう。自分は彼の手首の秘密を知っている。左手首? いいや綺麗なんだよ。だって彼は左利きなんだもの。期待した? がっかりした? 何にだろう、これは人間の悪い癖だ。
 人とは不思議なもので、手首にリストバンドが装着されていればスポーツをやっているのだろうと推測し、それがブレスレットであればお洒落だと顔も見ずに曖昧に判断するのだろう。しかし包帯だとどうだろう、思春期特有の不均衡な精神が自分を精神異常だと思い込み、筆箱に入った錆び付いたカッターで平行に赤い筋を切り刻みたくなる、そんな青い病を感じたくもなるのではないか。
 残念ながら推測は正しいもので、彼の右手首にはくっきりと、はっきりと躊躇い傷が残されている。しかも中々にえげつのない深さで。
 本人曰く「日本の情勢が良好な、今の内に死にたい」ということだったので、本人は躊躇いもなく刃物を突き立てているのだろうが、恐らく彼はリストカットで死ねる確率が五%にも満たないということに気付いていないのではないだろうか。生傷に致死量に至る毒か菌でも塗りたくれば話は変わるのだろうが。

「薄荷くんは本当に冷たいね。名前が薄荷なだけに」
「それってギャグなの? 全然面白くねえ」
「きみが面白さを期待するのがだめなんだよ。期待ってきみが嫌いな単語でしょ」

 次にアイスを買う時は別のものにしよう。木の棒だけになったそれを放り投げると、彼が間髪入れずに拾っては投げ付ける。砂埃まみれとなったそれを誰も拾おうとはしない。上手くいけば分解されて道の礎となるはずだ。ゴミのポイ捨てを自己肯定させながら、とぼとぼと畦道を歩く。
 背後ではカラカラと車輪が回る音と、自分と彼が砂利を踏む音だけが真夏の太陽に焼けていく。髪を染めていて良かった、校則には反するが自身の頭部を守るには適している。片や薄荷という少年は黒髪の貞操をしっかりと守っている。蒼白い肌もなかなか日に焼けない。脆弱さと不安定さを具現化した様な彼は時折包帯の上を指で掻いては後ろを着いていく。

「伶人、まだなのか」
「もう少しだよ。多分ね」
「またいい加減な記憶で俺を振り回さないでよ」

 向日葵畑に行きたいと言ったのは他ならぬ薄荷だった。彼は取り分け花を愛でることはなく、他に興味があるかと言えば何事にも無関心な方であるし、どちらかと言えば世界の終焉について思考を巡らせている時の方が生き生きとしており、時折表情をくるくると変えながらニンゲンらしく活動してみせた。
 世の中に絶望し、悲観し、激昴し、イエスの転生せし姿が己だと頭のネジを外しながら叫び、百均で買った剃刀を時に手首に当てて引く。噴水なら透明か青が良いなと嘆息し、リュックに入った頓服を彼に飲ませてやるのが自分の日課である。
 そんな彼が命を巡らせる花に興味を持つことに、僕という人間は興味が湧く。彼とは違い、好奇心に命を宿したような人間ゆえに彼という人間がとても面白いのだ。きっと彼を玩具か何かだと考えている節があるのだろうが、それは間違いではない。彼は事実、面白いのだ。

「見えてきたな」
「あっ、ほんとうだ。薄荷くんは流石だね」

 ゆらゆらと揺らめく陽炎を通り抜けると、遥か前方に鮮やかなイエローが広がり始めている。稲作を辞めた老人がそこに土を盛り、向日葵畑を作った。ちょうど稲作地帯の最奥に位置する畑は地元や近隣でささやかな評判を呼んでおり、写真撮影に来るものやデートスポットとして訪れる者もいる。しかしこの場所も辺境な田舎の辺境な田畑であったため、県外の人間にとっては知る者ぞ知る秘密の穴場だった。
 じとりとYシャツが背中に張り付いていく。光に透けて黄金色になる毛先からは汗が溜まり、軈て自重に耐えきれなくなって落ちていく。背後にいる彼は傷がむず痒いのか、包帯の上を頻りに引っ掻いている。

「止めたら良いのに」
「止められるか。生きる行為であると称されるからには試して成果を出したい。試して、それから死にたい」
「うーん…………そうなの」

 包帯の下はきっと汗で蒸れて、換気も悪いだろうからこれから化膿してじゅくじゅくの、腐りかけの西瓜のように溶け出すのかもしれない。オロナイン特有の軟膏の匂いと生傷が放つ錆臭い匂いが混ざって、夏の熱気に燻ることだろう。
 包帯の下を暴きたい。それが変態的思考であるのは明白であったし、自身も認めている。事実何度もこの手で解いたこともある、触れたことも。何より彼の体とて暴いてきた。一応は合意の上であったものの、果たして『生きる行為』であるイロゴトが彼にとってどう作用していたのか。下手したら嫌々受け入れていたのかもしれないし、面倒だからということで眠るように体を預けていたのかもしれない。それは薄荷という男の子次第になるわけだが。

(困ったな、触りたくなってきた)

 抱いている時の薄荷は気持ち良さそうで、自分はといえば快楽に浸る彼の手首を触るのが好きだった。傷は生乾きの時もあれば瘡蓋が張って硬くなっている時もある。何はどうあれ、彼の傷口を指の腹でなぞれば、声を上擦らせて真っ白な脚を腰に絡ませてくれる。時には傷に触れられて達する時もあった。
 それが面白かった。彼の傷は玩具か何かのようで、常に形を変えて楽しませてくれる。流石に見るに堪えない深い傷や噴水を目の当たりにするのは慣れないのだが。

(さわりたい)

 生きたいのか死にたいのか。そのあわいに揺蕩う白い体は海藻のようにふわふわと揺らめいて、何処に向かうのか。彼は線香の煙のようでもある。真夏に蒸し蒸しとした寺の中で嗅ぐ線香の香り。彼はそんな不安定な存在だ。そんな彼が好きだった。
 青臭い世界で生きる無機質な彼は誰よりも生々しい生の匂いを放っている。血腥い、熟れた肉と骨と皮で出来た彼。どんな彼でも好きであった。だからこそ、知らない彼すらまさぐって模索したいのだが、彼は簡単に心の内を開いてはくれない。

「伶人」

 好き。とても。だから一緒にいる。一緒にいたい。
しかし彼は一握ほども望んでくれてはいないだろう。

「れいと、なぁ、聞いてんのか。グズ」
「……うぇっ?」
「着いた」
「あ、ああ……うん」

 視界に飛び込んだ太陽の鮮やかなイエロー。あまりの眩さに一度ぎゅうと瞑目したが、そっと目を眇めてみせると、眼前には如何にも健康的な色彩が一面に広がっている。薄荷は道の側に自転車を置くと、自分なぞ居もしないかのようにすたすたと向日葵畑へと飛び込んでいく。
 彼もそこそこに身長はあるが(春の身体測定では一七八センチはあったらしい)背の高い向日葵の群集に紛れてしまえば、艶やかに青光りする黒髪の姿はない。慌てて薄い背中を追い掛けると、太い茎の狭間に真っ青な手がゆらりと彷徨っている。それを幽霊か何かだと勘違いした自分はぞくりと寒気を感じ、一瞬躊躇した。

「来いよ。嫌なの」
「いや、嫌じゃないけど」
「…………早く」

 薄荷の手は名の通り、薄荷水にでも浸したかのようにひんやりとしていた。包帯を通り抜けてうっすらと透ける青い血管。断ちたがる動脈。それでもあたたかな血液が巡って彼を生かしていることも知っていた。
 しっかりと手を繋ぎ、彼と向日葵の迷路を巡る。特に目的もなく、ただゴールもない道を歩くだけ。相手も暇を持て余していたらしく、黙々と歩いている。
 今踏みしめている土壌には様々な栄養が含まれていて、もしかしたら化学肥料かもしれないし、有機肥料かもしれない。この近くには小さな牧場を営んでいる人もいるので、堆肥も混ぜられた可能性がある。言わば生を育む気が満々の、やる気のある土だ。
 それに比べて思春期の僕達はと言えば、蝉の抜け殻のように空っぽであったし、そこには生も死も存在しない。割れた背に求める物は人それぞれだ。抜け出すも自由であるし、詰め込むのも自由。
 それならば薄荷はきっと楽園なんかを求めて翅を背に生やして飛んでいってしまうのかもしれないし、自分は薄い外殻に、名前も付けられないような痛々しい感情を詰め込んで、背中を縫い合わせてしまうかもしれない。
 どうやっても相容れないのだ、こうして手を繋いでいたところで。彼のあちこち破けたスラックスを睨み付けながら、豊かな土をスニーカーで踏み付けていく。

「どこに行くの、薄荷くん」
「宛はない。どうせ入口も出口もあったものじゃないし」

 ああ、それって人生みたいだね、とは言えなかった。上を見上げれば灼熱の太陽光線がじりじりと網膜を焼き付ける。汗は尽きることを知らず、シャツが背中に張り付いて気持ち悪いの何の。
 薄荷の腕もしっとりと湿り気を帯びている。しかし自分ほど汗を掻くことはなく、光の反射で肌が艷めくだけで、そこで互いの格差すら感じてしまった。
 彼は何でも持っていた。美しい面立ちも、容姿の程よい均衡も、頭の良さも、運動神経の良さも、死への理解も。生は、人よりは然程。
 光が乱反射する。彼の黒髪の輪郭が暈されて、溶かされて、青と黄の色彩に空中分解されるような遊色すら放っている。
 羨ましい。とても綺麗だ。

「どうしてそんなにしにたいの」
「色々と、面倒臭いから」
「いろいろね…………色々」

 彼の言葉を反復する。自分の左手を掴む右手は汗だくでぬるぬると滑っていたが、離れそうになる度に彼の方から掴み直してくれた。何時でも仏頂面であるが、彼は優しかった。昔は女子からも人気があったことを、知っている。
 彼のことなら何だって、知っているつもりだ。

「……ねぇ、君っていじめられてるでしょ」

 じり、と熱線がふたりを苛む。そこで初めて薄荷の足が止まり、視線だけをこちらへと向けた。よく氷の視線、と例えられるがまさにそれか、それ以上だった。絶対零度の視線に太陽すら怯んだのか、あれほど肌を焼いた熱は感じられない。それどころか繋がれた左手から熱を奪われて、血管の内側から凍てついていくようだった。

「そうだね、だから何」
「つらい?」

 薄荷は暫し天を仰ぐようにして悩む仕草をしてみせた。恐らく何も悩んではいない。それどころか何事もなかったかのように振り向き、再び彼は腕を強引に引っ張っては畑を右往左往していく。
 土がスニーカーの先を汚していく。学校指定の真っ白なスニーカーはすっかり汚れていたが、彼は汚れる気配なんてない。土が付着したくらいでは、手首を切ったくらいでは、クラスメイトがどれほど彼を虐め抜こうが……彼は純潔の肌を決して染めやしない。傷も痣も、彼本人からしたら洗って落ちるシミ程度でしかない、そんな風に背中が語っている。
 そこからつい、衝動的に、彼を後ろから突き飛ばした。細長い彼の身体は向日葵に正面からぶつかり、茎はみりみりと音を立てて真ん中から折れてしまった。しかし彼を守るようにとクッションになった向日葵達は葉が、花が彼の肩や腕を覆う。
 それがいけなかった。腸が煮え繰り返るのはきっと陽光のせいだ。そう言えば解ってくれる、などと下らぬ免罪符を掲げたがり、それは諸手に込められ、彼の細首目掛けて飛んだ。

「…………っう、うぐ」
「それ、ぼくが仕掛けたんだよ」
「れ、れい…………」
「悔しい? 悲しい? ねぇ、教えて」

 かく言う自分自身が後ろめたい感情に支配されている。悔しくて、悲しくて、苦しい。彼が酸素を供給されず、喉を圧迫されてその顔を真っ赤に染めているのがとても可愛くて、可愛くて、とても、虚しかった。
 彼は虐められている、そう、自分の差し金だ。彼はそれから腕を切るようになったことも知っていた。好きだから虐めるだとか、可愛子ぶった安っぽい理由ではない。そうすることで、少しだけ彼と繋がれた気がするのだ。
 彼の机がゴミだらけになることで、彼の傷が右手首に、腕に、順序良く並ぶことで、彼は隣で死ぬまで呼吸を繰り返してくれるものだと、そう信じていたのだ。
 だのに、幾ら手に力を込めても彼は息絶えない。否、自分の手が存外に震えていて、力を入れているようで何も起こってやいないのだ。彼の紅潮は次第に引いていき、かたかたと震える諸手を、自身の両手でそっと包む。
 相変わらずひんやりと冷たくて、容赦なくて、しかし自分よりはきっと、誰よりも優しいぬくもりでもあった。

「別に、ショックは受けないな。そんな気はしていたけど、お前が仕掛けようが仕掛けまいが、どの道そうなってたさ」
「そう、って、なに」
「……自傷行為、って言えば良いのか。色々だよ、色々」

 眼鏡の奥の瞳は妙に達観していて、少年らしい丸い幼さなど何処にも見当たりはしない。彼の白目は翳りのせいかミントブルーのように澄んでいて、真ん中に嵌め込まれた黒目を更に引き立てている。
 少しだけ、彼が口角を上げて見せる。笑いも泣きもしない彼が、自分に対してほのかに笑みを浮かべている。それをマリアと形容するにはあまりに大仰なのだろうが、そんな慈悲が手のひらの内側に込められていて、彼はそのままこちらの頭を自分へと引き寄せた。
 彼の胸は硬い、何も柔らかくない。しかしシャツの向こう側ではとくとくと、静かに生き永らえようと必死に足掻く音が反響している。とても力強く、しかし透き通っていて、そう、音楽のように心地好い音色を響かせている。

「薄荷くん。ぼくがね、きみを殺してあげられたらいいなって、思ったんだ」
「…………そう」
「ぼくが殺してあげるんじゃだめかなぁ」
「馬鹿言え、俺は自分で自分を殺したいんだ」

 長い指がさらりと髪を梳いていく。何度もブリーチしてカラーを入れた髪は傷みが進行していて、指を通される度に毛先が引っ掛かり、頭皮に小さな痛みが走る。それよりも彼の訥々と語る様がこんなに柔和であったことがあるだろうか。
 彼は土だ。生命の切れ端が、死の残滓が幾層にも折り重なり、生を与えて死を享受する。青臭く、泥臭い揺籃だなんてきっと彼には似合いはしないのだ。だが彼は今、自分をしっかりと見据えていた。突き飛ばすわけでもなく、自分を状態に乗せては頭を撫でている。
 彼は穢れはしない。今此処で犯して見せたって、彼が鞄の内ポケットに隠している剃刀で首を掻き切ってやったって、純然たる死を前にして、彼はこんなにも毅然として、凛々しくもあって。寧ろ死を目指して生きる彼ほど美しく、逞しく生きる者が居るのか。
 そう思えば自分という人間はあまりに矮小で卑劣で。薄荷に頬を拭われるまで自分が惨めに泣いていることすら気付けないほどには愚鈍でもあった。

「薄荷くんはつよいね」
「さぁ…………俺は気にしたことがない」
「ぼくはきみのことを何ひとつ知らなかったよ」
「知らないことは恥だろうけど、お前は俺のことを知ったんなら良いんじゃないの」

 指がそろりと耳裏を擦り、汗も涙も拭っていく。ああ、男らしいじゃないか……それは惚れるわけだと、彼に向かって肩を竦めて笑って見せると、彼もつられてちいさく一笑してみせる。
 首に付いた手形は些細はものであったのか、殆ど跡形もない。「気にするな」と彼は吐息のみで囁き、自身の首筋を撫でてみせた。
 赦されたところで罪はどうせ消えやしないのだ。詫びたところで現実が覆ることもないのだ。ならば出来ることと言えば、その白く美しい首筋に吸い付いて、きつく鬱血させることだけだった。う、と小さく上がった唸り声の方がどちらかと言えば好きだ。殺さなくて良かったと、自分の心が大泣きしている。その癖涙は乾いており、陰間を縫ってでも自身を痛め付けようと躍起になる光が絶え間なく蒸発させていった。

「俺はそういう風に生きるしかないから、お前もそれでいいんじゃないか。お前が何しても興味はない。これから死ぬのに執着しても仕方ないし……」
「ぼく、もう虐める気はないよ。あと、ぼくは……」
 
 ――やっぱり死んでほしくないし、それからそんな、きみが大好きだ。
 彼はそう、とだけ返してはまたこちらの頭を胸に押し付けた。しかも先程とはうってかわってひどく重力のあるような。力と鼓動の速さが比例していて、彼は珍しく汗を滝のように流していた。
 自分の言葉ひとつで己の理念を変えるほどに彼は愚かではない。その手首の傷が青い春の典型的な副作用なのか、はたまた彼ならではの性質なのか、こればかりは共に生きていくことでしか判明しないだろう。
 そして彼は死ぬ、何時か死ぬ。それは自死によるものか、寿命か、偶発的な事故か病か……。だから自分には加速する彼の死は止められやしない。
 しかし死ぬ時は自分をこっそりと招いて、例えばこの向日葵畑のように陰鬱さの欠片もない場所で鮮やかに死んで見せてほしい。その時はきみを弔いに蝉が合掌して隣で倒れて共に眠ることだろう。そうしたらよく眠れるように、きみの胸元にラベンダーの花束でも贈呈しよう。それからきみの隣で好きなチョコミントアイスを食べて、きみの死を悼んで泣いて、敬意を表したい。
 好きだからだ、きみのことが。彼はチョコミントアイスなんて好きでも何でもなくて、ぼくのことを好きかすら、怪しいものなのに。
 太陽はせせら笑って真天井へと姿を現した。これではへし折れた向日葵達では防ぎようがない。しかしどちらとも起き上がる気配など微塵も感じさせず、土の香ばしい香りを肺に満たしながら、時に互いの空気をも循環させ合った。

「帰りにアイスでも買うか」
「珍しいね、薄荷くん。アイスなんて食べないのに」
「ああ、チョコミントがいいな。ミントが強めの」
「はは、明日は地球が滅亡するかもしれないね」

 きみが生きている。その中で絶えず死んでいく。何が生きて死ぬのかすら解らないままに繋いだ手の内からは、何処となく甘い香りが放たれていた。

青春に死ぬ

青春に死ぬ

同級生とメンヘラの男友達のBL。 性行為を思わせる文章などが出てきます。青春と銘打ってますが爽やかさは恐らくないかと思います。

  • 小説
  • 短編
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-07-05

Copyrighted
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